夢視ぬ星々の創世
SESSION 14 イネスの打算
やっと火星の人達を救出して、私の仕事が終わって、アキトの所に行こうとしたのに……
「あら艦長、手が止まってるわよ、まだ沢山の人達が居るんだからテキパキと動いて」
「なんで私がイネスさんのお手伝いをしなくちゃいけないんですかぁ〜〜〜っ!」
せっせとイネスさんのお手伝いをしている私は何?
ううっ、酷いよ、私艦長なのに…………
「仕方がないでしょう、他の子達は持ち場を離れるわけには行かないんだから。
それに全員の登録をしておけば何かと便利でしょう」
「メグミちゃんがいるじゃないですかっ!」
「あの子は看護婦の資格を持っているから身体検査を頼んだわ。
したがって貴女しかいないと言うわけ」
何で他に誰もいないの?
う〜ん、他に誰か…………あっ、そうだっ!
「いるじゃないですか、ヤマダさんがっ!
はいっ、これで私はやらずにすみますねっ、それじゃあ!」
一気にそこまで捲し立てて出口へゴー!
こういう場合は即決断、即実行っ!
「待ちなさい!」
ゴキッ!
「ふやぁっ!!」
「私はその人を知らないから、この仕事を任せられるかどうかわからないから却下よ。
さぁ、さっさと終わらせるわよ…………って、どうしたの?」
ううっ、どうしたのじゃないですよっ!!
いきなり髪の毛を掴まないでください!スッゴク痛かったんですから!
あまりの痛さに声が出ないので涙目でイネスさんを睨む。
むち打ちになったらどうしよう。
「そんな事してないでさっさと自分の持ち場に着きなさい」
イネスさんはそのまま何事もなかったのようにスタスタと歩いて行っちゃった。
横暴ですっ!
残忍ですっ!
鬼!
悪魔!!
ううっ、後で湿布貰おう…………
あっ、でも私が怪我をしたことをアキトが知ったら…………
……………………
ダメッ、アキトまだ速すぎるよッ!!
こういったことはちゃんと順番に…………
スパコ〜〜〜ンッ!!
「そこで身悶えでないでさっさと働きなさいっ!」
「…………イダイ……」
今度はクリップボードですかっ!
お馬鹿になっちゃったらどう責任取ってくれるんですかッ!!
うぅ、たんこぶができちゃったよぉ〜〜っ。
「イネスさん!!」
「さぁ、さっさとやらないと休憩無しよ」
綺麗に無視ですかっ!
……本当に私艦長なのかな、はぁ。
歩く。
私は歩く。
何もない、何処を見回しても、360度暗闇の中を、私は歩く。
墨を辺り一面に垂らしたような黒、そして闇。
だけど暗いんじゃない、何もないからここは黒いだけ。
だって、現に私の手、私の足はこの目にハッキリと映っているから。
何故私がこんな所を歩いているか、なんて疑問は浮かばなかった。
何故私が何もない、目印もないこんな所を歩けるか、なんて疑問は浮かばなかった。
だって、ここを歩けるのは当たり前だから。
だって、私が歩く先が、私が向かうべき所だから。
暫く歩くと、光が見え始めた。
私はそこに向かって歩く。
光はその輝きを一歩毎に増していく。
そこが私の向かうべき場所。
私はその光に一つの黒点を見つけた。
小さな小さなその点は、一歩毎にその形をハッキリとさせる。
長い髪を無造作に流して、うずくまっている人の姿
そして、私はその人の目の前に立つ。
〈こんな所で何をして居るんですか?〉
膝を抱え、そこに顔を埋めている『それ』に私は声をかける。
しかし、いくら待っても私の問いにその口は答えることはなかった。
ただ、沈黙だけがすぎていく。
〈貴女は何をしたいのですか?〉
返ってこないとわかっている問いを私は言い続ける。
事務的に、そして無感情で。
〈ここにいて楽しいですか?〉
〈暇なのですか?〉
〈寒いのですか?〉
一体どれほどの問いを投げかけたのかわからないほど、私は問い続けた。
そしてその全てに対して答えが返ってくることは無かった。
〈…………貴女は、卑怯です〉
私は問いかけを止めて、自分が思っていることを口にした。
今までで一番の、自分からの言葉を紡ぎ出す。
自分が心に溜めている、私の本音。
それでも……『それ』は反応することがなかった。
〈…………バカ〉
それだけを言い残して、私は光へ向かって歩き始めた。
後ろを振り返ることなく私は歩く。
後ろを振り向いても同じだから。
『それ』はずっとここにいるだろう、そんな確信がある。
だって…………私がここにいることが何よりの証だから。
光は、そんな私を受け入れるかのようにその光を強める。
だけど、私にはその光は強すぎる。
そう、強すぎる…………。
『いいこと、私達が未来から来たなんて言っても誰も信じないわ。
それだけならまだしも、最悪な場合この船での信用を失う、それだけはこれからの事を考えると誉められたものじゃないわ』
わかってらぁ、いくらなんでもそこまで頭が回らない俺じゃねぇよ。
……結構変な行動を起こしちまっているかもしれないがな。
『アキト君、ルリちゃんの事は私に任せてちょうだい。
こちらで色々と調べてみるわ』
そうだな、この件はイネスに任せた方が良いな。
俺だと余計にややこしくなっちまうからな。
『あと、私は火星の人達を一人一人ナデシコに登録する作業をするから、暫くは連絡は控えてちょうだい。
えっ、登録する理由?
そんなのジャンパー実験の被害から救うためよ。
今のうちに記録しておけば何かと便利だから』
まぁ今のご時世、DNAさえわかればそいつの住所なんてアッという間にわかっちまうもんな。
『それと最後に、ナデシコをこの場にできるだけ留めておくわ。
理由は適当にこっちの方でつくっておくわ。
過去と同じように、あれだけの勢力の違いを見せつけられれば逃げるという手をみんなが思いつくでしょう』
そうだな、今から火星を脱出することも無理だろうし、まして勝てる見込みはなんて無いしな。
それに、過去と同じようにすれば、俺達が怪しまれるのを承知で話さなくてもいいしな。
こう考えてみると、やっぱり仲間がいた方が何かと助かるな。
一人ではできないことは、仲間に手伝ってもらった方が断然早い。
「はぁ…………」
俺は座っていたベットに仰向けに倒れる。
こうして振り返ってみても未だに信じられねぇ。
『過去』に来ちまったなんて。
だけど、これは現実なんだ。
今俺はナデシコにいて、火星に来ているんだ。
今の俺は統合軍のパイロットじゃねぇ、このナデシコのパイロットなんだ。
そして、これから起こる事もすべて現実なんだ。
そういやぁヒカルに借りた漫画には、主人公が過去に戻ってもう一度やり直すってやつがあったなぁ。
未来を知っている主人公がひょんな事から過去に戻って、これから起こる出来事を変えていこうってやつだったっけかな?。
主人公は未来で恋人を事故でなくして、落ち込んでいたときに過去へと……どうやってか忘れたが、過去へと跳んだ。
んでもって最後は主人公と恋人が二人仲良くハッピーエンドってやつだったっけな?
ただ、漫画の中で主人公は未来を知っていたがために、色々な危険を乗り切って前よりも良い方向へと進めたのだけは覚えている。
だけど、今の俺はそれとはかけ離れている、漫画と現実は全然違うというのがわかるな。
大体この世界が本当に過去なのかが怪しいしな。
『これはあくまで仮説の話なんだけど、この世界は可能性で成り立っているわ。
たとえば、今私がここからアキト君に通信を入れるとする、それだけでこの世界には幾つもの可能性が生まれる。
アキト君に通信を入れる、逆に入れない、もしかしたらアキト君じゃなくて違う人に通信を入れるかもしれない、と言う可能性が生まれる。
そして、違う人に繋ぐのにも色々と理由があるかもしれない、たとえば繋ぐ人を間違える、通信をしようとしたところで急用を思い出しそちらを優先して通信をするかもしれない。
これだけの可能性は常に私達と表裏一体にあるわ、わかりやすく説明するとコインと一緒ね。
表は自分で選んだ、自らの意志で決めたこの世界。
裏は選ばなかった、数多くの無限に広がる可能性の世界。
そしてこの世界は…………どうしたの、話がわからない?
はぁ、まぁいいわ、結局の所この世界はその裏側、可能性の世界なのかもしれないって所よ』
イネスの話を聞いてて思ったんだが、なんでアイツはそう説明したがるんだ?
俺なんかに話しても全っ然わかんねぇのによ。
結局の所、この世界が俺達の居た世界じゃ無いかもしれないって事だろ?
そんでもって、この世界の事が全然わかんねぇって事だ。
それだけ言やぁ俺にだって簡単にわかるってのによぉ……まっ、今に始まった事じゃねぇししょうがないか。
とにかく、今の俺にできる事はこのナデシコを無事に守り抜くことだ、イネスがアキト達の事を全て調べ終わるまで。
アキト…………か、そういやぁ俺は――――
「俺は、アキトのことをどう思っているんだろうな…………」
一度は諦めた恋心、それが吹っ切れたかと問われたら俺は、どう答えるんだ?
口に出して自問自答してもその答えは出てこない。
いや、そうじゃない、俺は多分……答えを出すのを恐れている。
もう一度、その答えを出したら俺は、自分を止められる自信がないから。
覚えている、アイツと一緒に過ごしたあの時間。
焼き付いている、アイツが苦悩して、それでも前進しようとするその姿。
だけど、俺は答えを出すことができない。
揺れ動く俺の心。
俺は、いったいどうすれば良いんだ?
俺は…………
ベットで寝ながら考えていたせいか、俺はしだいに眠りについた。
最後に思い浮かべていたのは、泣きそうな顔をしたアキトだった……
艦内に衝撃が走る。
敵からの攻撃、それ自体は今まで、この火星に来るまでに幾度と無く受けてきた。
だけど、今受けている攻撃に私達は一瞬反応が遅れた。
「ラピスちゃん、フィールド展開急いでっ!」
急いでフィールドが展開される。
そうしなきゃ私達ヤバイもんねぇ。
「ハルカさん、後どれぐらいで発進できますかっ!?」
「あともうちょい!」
一度地上に降ろすと再発進に時間がかかるのが難点よねぇ。
だけど、シェルターに居た人達を全員救出できたから良かったわ。
この攻撃がもう少し早かったら危なかったかな。
っと、発進準備完了っと。
「発進オッケーよ!」
「急いでこの中域から離脱します!!」
私達は初めて敵から逃げる。
それは私達にとって初めての敗北の瞬間だった。
このブリッジ内にも痛い沈黙が流れる。
「これでわかったでしょう、敵も日々進化している、このままじゃこの火星を無事に逃げ出すことはできないわよ」
凛と響く声がその沈黙を破る。
それは、この船を造ったっていう人の言葉なだけに私達に重くのしかかる。
「それでは我々はどうすればよいと言うのだね、ミスフレサンジュ」
「そうね、先ずはネルガルの研究施設に行きましょう、このナデシコを修理した方が良いんじゃなくて?」
「はい、その通りですねぇ」
「うむ、そうだなミスター…………ミスターッ!!?」
私達が振り向いた先、ブリッジのドアの所にプロスさんが立っている。
あっ、なんだか久しぶりにプロスさんの顔見たような気がする。
「ど、どうやってここまで来たんだ!?」
「いやはや困りましたよ、目が覚めたら両手両足が縛られていたんですから。
まぁその辺は関節を外して抜け出しましたが…………一体誰がやったんでしょう?」
首を傾けながら心底不思議そうな顔をするプロスさん。
う〜ん、この間の記憶がないのかなぁ?
そのついでに壊れていた間の記憶も無くなっていたら良いんだけど。
「それはそこの……「ラ、ラピスちゃん、お姉さんと一緒のジュース飲みに行かない!?」」
メグミちゃんナイスフォロー!
「まぁこの際その件は良いでしょう、問題なのはこれからですなぁ」
本当は良くないんです、って出そうになるのを何とか堪える。
「先程の話の通り私達は研究施設に向かうことにしましょう。
あそこでしたらナデシコの修理は可能でしょう」
その最後の一押しで私達はそこへ向かう事になった。
そこに待ち受けている運命を知らずに…………
あとがき
310万HITです、おめでとうございます。
さぁこのまま少しずつ書くスピードが速くなるのか?
それともActionのカウンタに引き離されるのか?
全てはカウンタのみが知るのみ…………(注意 シャレになってません、いやマジで(笑))
代理人の感想
さてさて、ルリ(大)はいまだに引きこもり中の様子。
ネルガルの研究施設に向かった一行ですが・・・・コミック版の如くヤマトユニットでも見つけたりして(笑)。