「なぁ、お前は何故そんなに憎むんだ?」

 

「貴様の知ったことではない」

 

「そりゃそうだな」

 

「………………………………」

 

「…………なぁ」

 

「なんだ?」

 

「どうして戦いは続くんだろうなぁ」

 

「そんなのは決まっている」

 

「ん?」

 

「……人は、誰かを憎まずにはいられないからだ」

 

「そうか…………」

 

「………………………………」

 

「………………悲しいな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時の流れに  第零章

 

 

 

 

時の流れに翻弄されし者

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前……これからどうする気だ?」

 

仲間。

そうだな俺達は仲間と呼べる間柄なのかも知れないな。

彼方さんはそうは思っていないだろうがな。

 

「今まで通りここでやっていくさ

 ……ここが一番やりやすいからな」

 

「そうか…………」

 

こいつは自分がやりたい事以外では、余り関心が無いのかも知れない。

 

「俺は……どうするかな」

 

「………………………………」

 

「まっ、暫く考えるか」

 

「………………………………」

 

「………………………………」

 

沈黙。

俺達がこうしてお互いに喋らないのは今に始まったことではない。

こいつと出会ってからは毎回こんな感じだ。

それが俺達の言葉。

沈黙という名の言葉。

 

「…………今度の相手は誰なんだ?」

 

「…………アフリカにある先進途上国に『善意の寄付』なんかをやっている政治家だ」

 

「ああ、『義腕の富豪』と呼ばれている奴か」

 

「そうだ」

 

暗闇の中あいつは笑っていた。

それは今、自分が最も充実感を与えてくれる時間だからだろう。

或いは、獲物を仕留めるときの高揚感のせいなのかも知れない。

どちらにせよ、俺の前にいる人物は今心の底から楽しいのだ。

それだけはわかる。

 

「…………そろそろ俺は行くぞ」

 

「……ああ」

 

俺達はは短い返事だけを交わしてお喋りを終えた。

これからあいつは自分の戦場に向かうのだろう。

いや、それは絶対だ。

あいつはどんなことをしようと自分のしたいことをやり遂げる。

今までがそうだった。

だからこれからも。

 

…………カタオカ テツヤとはそんな奴だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の名はアサビシ ワタル。

 

俺は今クリムゾンの諜報部に所属している。

そして今俺は迷っている。

さっきのテツヤとの会話にも出ていたが、あいつの方は即決めたようだったな。

 

俺は……正直言って迷っている。

このことは最初、只の冗談か何かだと思っていた。

誰がいきなり『我々クリムゾンは木星人と共同関係を組むこととなった』と言われてはい、そうですかと言えるもんか。

まぁ、共同関係というとちょっと違うが、概ねそれであっているだろう。

だから俺も最初は内心何言っているんだ、と思った。

 

だが、実際にその者達と会ってしまっては認めざるを得ない。

しかもその木星人は俺達と同じ人間ときている。

 

だがここでおかしな事になる。

俺達には、何故人類が木星に行ってるのかは知らされなかった。

そんな事を教える必要が無かったんだろう。

しかし、今現在の人類は火星より外へは進出していない。

それなのに木星から来たという奴がいる。

 

ここで矛盾が生じる。

人は木星に行っていないのに、木星から来た人類がいる。

これは歴史の裏に埋もれた真実なのだろう。

 

そして、その歴史の裏が密かにクリムゾンに接触してきた。

それが意味するものは想像に容易い。

 

 

『戦争』

 

 

そんな単語が俺の頭を駆け抜けた。

そしてそれと同時に俺の頭の中にはもう一つの言葉が駆け抜ける。

 

 

『俺はどうしたい?』

 

 

そう、俺は迷っている。

このままクリムゾンに残って木星人と一緒に戦うか。

それともクリムゾンを辞め、普通に暮らすか。

 

そんな心の葛藤を抱えながら幾日が経ったある日、一本の電話がかかって来た。

突然に…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、今お前はこうしていると」

 

「…………そう言うことになるな」

 

ここはモロッコにあるとあるホテルの一室。

今ここでは俺とテツヤの二人しかいない。

そして俺を呼んだのもテツヤだ。

 

「しかし、お前でも失敗するんだなぁ」

 

俺の目の前には左腕を吊っているテツヤが座っている。

その顔はいくらか厳しい表情をしている。

……もしかしてこれは珍しい光景なのか?

 

「失敗ではない、腕に一発もらっただけだ。

 仕事の方はちゃんとこなした」

 

「で、仕事の結果がこれか」

 

俺はテツヤの前に今日の朝刊を投げた。

そこには――――

 

 

『昨夜未明、『義腕の富豪』ことザイラック=G=ラジュード(65)の別荘に男が進入、そこに居合わせた孫の、シルファーナ=G=ラジュード(11)を殺害、逃走した』

 

 

――――と書かれていた。

 

「そうだ」

 

テツヤは何の表情も出さずにそう言いのけた。

 

「ふざけるな!!

 何故お前は殺したんだ!!」

 

俺はため込んでいた怒りを一気に放った!!

確かにテツヤは人を殺すことに何かしらの感情がこもっていたのは知っている。

だが、今回の仕事は殺しが目的じゃない。

『義腕の富豪』の裏の情報の収集が目的だ。

それなのにこいつは今子供を殺したと言った!

それだけは許せる事じゃない!!

 

「何故だ!!?」

 

「………………………………」

 

テツヤは無言で何も答えない。

俺は多分凄い表情になっているのがわかるぐらいの表情でテツヤを睨み続けた。

 

「………………………………」

 

「………………………………」

 

1分、2分、5分と沈黙の部屋の中、お互いの視線がぶつかり合った。

そして、ふっとテツヤが視線を下におろしながら言葉を紡ぎ始めた。

それは、とても小さく、そして弱々しい物だった。

 

「……殺していなかったら、俺が殺されていた」

 

最初俺は自分の耳を疑った。

 

殺される?

 

誰に?

 

俺もテツヤも単独での行動を許されている程の実力を持っている。

そんなテツヤが子供に殺される?

 

俺が放心している間もテツヤの語りは続いていた。

 

「俺は昨夜、何時もの様に別荘に忍び込んだ。

 そして目的の書類を見つけた時…………後ろに奴がいた」

 

「………………………………」

 

「俺は舌打ちしながらあいつを気絶させようと近づき、手刀を首にたたき込んだ。

 実際そいつはそれで沈んだ。

 そう、沈んだんだ、俺の手刀で」

 

その時の様子を思い出しているのか、手を握る力が強まり、声も大きくなってきた。

 

「そして俺は引き上げようと背を向けて歩き出した時、後ろで気配がしたんだ。

 俺の後ろには気絶させた子供しかいないはずなのに…………俺の手刀を食らった子供しか。

 だが!あいつは起きあがったんだ、俺の手刀をモロに食らって!!

 たかが10歳位の子供がだ!!」

 

声を上げて叫ぶようにして喋るテツヤ。

俺は今までこんなテツヤを見たことはなかった。

そしてその原因が11歳の子供だと言うこと。

 

「嘘、だろ…………」

 

俺は思わず口からその言葉が漏れた。

 

「嘘なもんか!全て現実に起こった出来事だ!!」

 

しかしその漏れた言葉にテツヤは否定した。

そう、それは現実に起こった出来事なのだろう。

しかし、いくら何でもそれだけでここまで取り乱す物なのか?

だが、この話には続きがあった。

…………それこそ悪夢のような出来事が。

 

「その後俺はもう一度眠らせようと近づこうとした瞬間、あいつは俺の懐にいた。

 わかるか?俺はその動きが見えなかったんだ」

 

「なっ!!」

 

俺は心底驚いた。

あのテツヤが子供の動きを見切れなかった!

その事が俺を完全に凍らせた。

 

「俺はとっさにそこから退いた。

 そしてコンマのタイミングで俺がいた場所にあいつの腕があった。

 床を突き抜ける腕が」

 

「………………………………」

 

「俺は瞬間的に逃げれないと思い、そいつと戦った。

 ……本当はこの腕は一発貰ったんじゃ無いんだ。

 左腕を犠牲にしてやっと勝ったんだ」

 

それはもう俺が考えていた範疇を越えていた。

左腕を犠牲にして勝った?

子供に?

そんな話を真面目に言っている。

現にテツヤは左腕を負傷している。

それならこれは本当なのか?

こんな話が?

 

「そうして俺は何とかあいつを倒すことが出来たんだ。

 だが…………」

 

テツヤはそこで話すのを止めた。

そこに来て俺は初めてテツヤが震えているのに気が付いた。

その姿はいつものテツヤの姿ではなく、弱々しい姿だった。

 

「あいつは……あいつはまた起きあがってきたんだ!!

 虚ろな瞳を俺に向けながら!!

 何事もなかったかのように!!」

 

身体中から叫ぶようにして声を出した。

全てを忘れ去るかのようにして……叫んだ。

 

「何なんだよ、何なんだよあれは!!

 あれは人間なんかじゃない!!化け物だ!!」

 

テツヤはそのまま何度も叫びながらやがて崩れ落ちた。

俺が急いで駆け寄ると、テツヤは眠っていた。

もしかしたら昨日から眠っていなかったのかも知れない。

それだけこいつが受けた精神的ショックが大きいのだろう。

 

俺はテツヤをベットまで運ぶと、ふと目に付く物が置いてあることに気が付いた。

それを手に取ってみてみると、テツヤが盗んできたのであろう書類が入っている。

中を一通り見て元に戻そうとした時、ある単語が目に入ってきた。

俺はその書類を取り出すと、書類と一緒に一枚のディスクが出てきた。

ディスクの表面の方には何も書かれてはいなかったが、書類には10数行書かれている。

 

 

『BMP S−0001 〜 S−0057』

 

 

と見出しには書かれていた。

その下にはこの書類は極秘だとか何とか書かれていたのでパスだ。

それ以上書かれていないのでディスクの方を見てみるか。

俺は自分のノートを持ってきてディスクを入れて立ち上げると――――

 

『パスワードを入力してください』

 

――――と表示された。

 

「困ったなぁ、どうするか?」

 

暫く考えているとあることに気が付いた。

 

「そういえばこれ、パスワード解析が出来るソフトが入っていたな、確か。」

 

我ながら、自分が使っている物の事を全然知らないと痛感できた出来事だったな。

 

そして、俺はソフトを立ち上げ、パスワードを解析した。

パスワードを解いて中を見たとき俺は戦慄した。

そこに書かれていたのは…………

 

 

――――悪魔の所業だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………行くぞ、いいか?」

 

「ああ」

 

俺達は今、ザイラックが所有している別荘に奇襲をかけることとなった。

奇襲というのはおかしいか。

そうだな……家捜しと言った方が適しているかな。

その理由は至って簡単。

テツヤが盗んできた資料では足りなかったのだ。

そこでテツヤは左腕を負傷しているので、俺に手伝いを要求してきたのだ。

 

…………後でちゃんと手伝い料は貰うが。

 

「俺は上を調べる、テツヤは下を頼む」

 

「わかった」

 

俺達が進入を試みるのは別荘としては普通の二階建ての家だった。

俺が二階を調べ、テツヤが一階を調べる。

ここに来るまでにいたザイラックのSP達は全部沈めてある。

後は屋敷にいる者達だけだ。

 

俺は別荘に一番近くにある木を伝って二階に上がった。

運良くそこは書斎らしく、手っ取り早いと俺は内心喜んだ。

 

「さて、さっさと終わらせて帰りますか」

 

机の中や本棚などを調べ、それらしいのを片っ端から盗っていく。

俺はその後、戻ってから必要なのだけを調べるのだ。

…………断じてめんどくさいからではないぞ。

それに1つ盗まれようと10盗まれようと一緒だ。

それならどれだけ持っていこうと一緒のはず。

うん、そうだ。

 

俺は自分の中で自己完結をしながらあさっていると、下から何か物音が聞こえた。

 

「テツヤの奴、見つかったか?」

 

仕方がない、今のテツヤだと色々と心配だからな、手伝いに行くか。

俺は必要な物をバックにしまい込むと下へ向かった。

 

俺が一階へ行くとそこは――――

 

 

――――一面赤い水たまりだった。

 

 

「な!!」

 

俺はこの光景に頭が追いつかなかった。

しかしそれも鼻につく臭いが、これが現実なのだと認識させた。

 

「なんで…………」

 

リビングらしき所には、少し前には人間だったモノが少なくとも10数人は倒れていた。

しかもそのどれもが首と胴体が切り離されていた。

その中には―――ここのメイドか何かだろうか―――女性の姿もあった。

 

「…………!っ、テツヤ!!」

 

そうだ!こんな事をする人間はテツヤしかいない!

現にテツヤの姿はどこを探しても見つからない!

 

俺は一階を隈無く探した。

他の部屋にもリビングと同じ光景が目に入ってきた。

その光景に顔を歪ませながら俺は全てを見て回った。

 

「ん?これは…………」

 

この家の中でも死角となるような所の壁に、おかしな模様があるのに気が付いた。

気になって調べようと近づくとその正体がわかった。

 

それは………血痕だった。

 

「こんな所に血痕だと?」

 

そしてその血痕はある所を境に途切れていた。

――――隠し扉か。

 

俺が隠し扉に向かって蹴りを入れると、それはあっけなく壊れ、地下に続く階段が現れた。

その階段にそって降りていくと、そこにテツヤがいた。

 

 

そう、壊れたテツヤが――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『BMP S−0001

 
 今回私達は記念すべき日を迎えた。

 我らの前に一つの被験者がいる。

 これほど喜ばしい日は他にはない。

 やっと我らの実験ができる最良の日なのだから。

 だが、それに喜んでいては実験はできはしない。

 さて、そろそろ取りかかろう。

 今回は薬物投与だけを重点的にするとしよう。

 これからの実験に耐えてもらわなくてはいけないからね』

 

 

 

 

そこには異様な光景が広がっていた。

 

泣き叫ぶ女性。

 

高笑いをする老人。

 

そして――――

 

 

身体中から血を流している少女とテツヤが戦っていた。

 

 

 

 

『BMP S−0008

 
今回はそろそろ左足に取りかかろうか。

 今までの結果、被験者は痛覚という物が無くなっているはず。

 そこで今回は麻酔無しでの切断作業に取りかかろう。

 まぁ、痛覚があったら困るから常に麻酔を打てるように待機はさせておくけどね。

 

 結果、見事被験者は痛覚を無くしていた。

 これは喜ばしい結果だ。

 これでまた一段と成功に近づいた』

 

 

 

 

「ふははははははっ!!どうだ、私の孫は!!」

 

老人が高笑いしながらテツヤに喋っている様だ。

…………孫だと?

俺は急いでテツヤと戦っている少女を見た。

その顔は――――

 

新聞で見たシルファーナ=G=ラジュードだった。

 

 

 

 

『BMP S−00025

 

 今までの無理が祟ってきたのか、被験者は徐々に人格が崩壊している様だ。

 これは由々しき事態だ。

 我々の目的はいかに忠実な『兵器』を作るかにかかっているのだ。

 このままでは不味い』

 

 

 

 

「お爺様!!止めさせてください!!

 こんなのって酷すぎます!!」

 

老人の隣では涙を流しながら叫んでいる女がいる。

お爺様と言うからには孫なんだろう。

だが、肝心の老人は高笑いを続けている。

 

 

その光景は、酷く、俺の目に焼き付いた。

 

 

 

 

『BMP S−0054

 

 これまでの研究の結果、我々は一つの『兵器』を作り出すことに成功した。

 まず両腕、両足を機械にし、痛覚を無くす所までは上手くいっていた。

 だがそこで、人格が崩壊すると言ったアクシデントに見舞われた。

 我々は考えた。

 そこで我々は人格を完全に消し、ある者だけの言うことを聞くマリオネットを作ることにした。

 それは成功し、当初から投与していた薬物と合わせて驚異的な『兵器』を作ることに成功した。

 

 ここで我々は一応のBMP S、『ブーステッド・マシン・プロジェクト シルファーナ』の第一段階を終了とする』

 

 

 

戦いはずっと膠着状態だった。

テツヤと少女の力は均等なのだろう。

どちらも疲労していた。

 

少女、シルファーナが何故生きているか、そんな事はとっくに頭の中にはなかった。

どうせ裏で色々とやったに違いない。

 

俺は二人の戦いを見ていることしかできなかった。

 

最初にテツヤが動き出した。

手に持ったナイフを水平に薙ぎ払った。

少女は後ろに飛びそれをかわす。

しかしその時、少女の足が火花を上げた!

機械の足が今までの動きについてこれなくなったのだろう。

その絶好の機会を逃すテツヤでは無かった。

そのまま相手に詰め込んで少女の心臓にナイフを突き刺した。

ナイフは少女の身体を貫通していた。

少女はそのまま崩れ落ちていった。

 

「ばっ、馬鹿な!!」

 

「いっ、いやああああああぁぁぁぁぁ!!」

 

 

後に残ったのは老人の驚愕した顔と、女性の叫び声だった。

 

「………………………………」

 

テツヤは身体中傷だらけで、左腕の包帯には血が滲み出ていた。

 

「こんなことが……儂の、儂の…………」

 

老人が放心したみたいに呟いている。

そこへテツヤが歩み寄っていった。

 

「儂の……儂の………………」

 

「………………………………」

 

テツヤは老人、ザイラックの前にまで歩み寄った。

 

…………まさか!!

 

「止めろ!!テツヤ!!」

 

俺が叫びながら走り出したが既に遅かった!

テツヤはザイラックの眉間に――――ナイフを突き刺した!!

 

「おっ、お爺様!!」

 

女性がザイラックに駆け寄る。

 

「お爺様!!お爺様!!

 …………人殺し!!

 よくもシルとお爺様を!!人殺し!!」

 

女性が涙を流しながらテツヤに向かって叫ぶ。

 

馬鹿!今のテツヤを刺激するな!!

 

テツヤはそのままナイフを女性に向かって振りかぶった!

 

まずい!!

 

俺は咄嗟に女性を庇いながら跳んだ!

その際ナイフが左腕を掠ったが何とか助けることが出来た

 

「…………何故、邪魔をする」

 

その声はいつものテツヤの声ではなく、ゾッとするような声だった。

 

「こいつらは生きている価値など無い屑だ」

 

「この子は関係ないだろう!!」

 

「いや、同じだ。

 そいつの血族と言うだけで同罪だ」

 

「それは違う!!」

 

俺とテツヤはお互いの主張が会わず平行線を辿った。

 

「………………………………」

 

「………………………………」

 

長い沈黙。

俺はこの時ほど沈黙が痛いと思ったことはない。

それほどの沈黙をテツヤが破った。

 

「……所詮、英雄などと呼ばれている奴はこんな奴だ」

 

その声はやけに俺の中に響いた。

 

「親父だってそうだった。

 この世の中、騒がれている奴らほど裏ではこんな事をやっているのさ」

 

「………………………………」

 

俺は言い返せなかった。

否定しようにも、俺もそんな奴らを見てきたのだから

 

「こんな奴らなど必要無いんだよ。

 だから殺す。

 そう、殺すんだ」

 

その時のテツヤの表情は、自分の生きがいを見つけた時のような憂いを帯びていた。

それは……酷く恐ろしい表情だった。

 

テツヤはそのまま何も言わずに俺達に背を向けて歩いていった。

俺はその後ろ姿に声が出そうになった。

だが、その言葉は結局は出なかった。

 

――――俺は、何をあいつに言いたかったんだ。

 

 

「人殺し!!シルとお爺様を返して!!」

 

俺の腕の中ではさっきの女性が俺に向かって泣き叫んでいる。

 

「返して!!返してよ!!」

 

「……………………すまん。」

 

俺はそうとしか言えなかった。

それ以外の言葉が出ても自分が言い訳しているみたいだったから。

 

「返してよ!!かえし、て………………う、うあああああぁぁぁぁぁぁ!!」

 

その女性の叫び声は、何時までもやむことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

どうも瑞白です。

今回いかがだったでしょうか?

これは読んで頂いてわかったと思いますがテツヤの過去の話です。

 

テツヤが何故英雄を憎む様になったのか?

 

確かに外伝ではテツヤが言っていましたがそれだけじゃ足りないかな、っと思って自分で考えて出来たのがこれです。

これはテツヤがクリムゾンに入ってからワタルに出会って一時は英雄を憎むことが薄れましたが、今回の事件で前以上に英雄という存在を憎み貶める事に生きがいを見付けました。

そしてこの後、テツヤは死にます。

しかしそのテツヤの死がワタルにも影響を与えます。

その話も書けたらいいなぁ。

 

……無理だろうなぁ。

 

って言うかこの続きも書きたいしなぁ。

 

……ダメダメじゃん(爆)

 

あと、これ軽く書いてみたのですがダークでしょうか?

一応ダークでは無いつもりで書いてみたのですが。

お教えいただけると嬉しいです。

 

さぁってこれからどうするかな。

えっ、他のSSはだって?

 

………………頑張ります、はい

 

あ、あとこの小説はBenさんの誕生日記念と言うことで。

何故かって?

キャラクター紹介を読めばわかります(爆笑)

 

 

 

代理人の感想

 

な・・・・なんてぴったりの誕生日プレゼントだっ(爆)!

 

まぁ、それはそれとして。

 

やっぱりダークでしょうねぇ、これは。

ダークだからどうこうというのではありませんが

シルフィーナの悲劇、そして外伝のテツヤに繋がると言う意味でも

ダークと呼ばざるを得ないでしょう。

 

しかし、これを見るとテツヤと言うキャラクターの悲劇性がより増幅されるようにも思えます。

後に実際にブーステッドマンを活用することになるのがクリムゾンであったというのが特に。

(あるいは、ザイラックはクリムゾンの指示ないし後援を受けて

 ブーステッドマンの研究をしていたのかもしれません)