――――――ふと気がついたら、私は知らない草原に横たわっていた。






 「………アキト?」


 私はゆっくりと起き上がって、一面の青い野原を見渡しながらそう呟く。

 風の音が聞こえる。
 そしてそれに応えるように草木が揺れているけど、アキトの姿は何処にも見えない。






 ――――誰も、いない。

 アキトも、エリナも。イネスもゴートも月臣も。



 そんな一人ぼっちの私の横を、風が掠めて飛んでゆく。






 (……どこだろ?ここ)



 乱れる髪を右手で押さえながら、不安で揺れる心を押さえながら。
 私はゆっくりと当てもなく歩き出した。









 〜不思議の国のラピス〜













 1.

 …草原はとんでもなく広かった。
 あまりに広すぎて、このまま世界の果てまで続いているんじゃないかって思ってしまったほど。
 まるで私の不安をそのまま示しているように、それを煽るように、その果ては何処にも見つからない。


 ――――そうしてしばらくの間、その限りない草原を歩いていると。
 不意に後ろのほうから誰かの走ってくる足音が聞こえてきた。




 「ああ〜〜〜〜っ!!!どうしよどうしよ!早くしないとお茶会に遅れちゃうよう!」



 「……??」

 ちょっとだけ驚きながら振り向いてみると、そこには私の『知っている』人がいた。

 ――――ミスマル・ユリカ、アキトの大切な人だ。


 何故かうさぎのつけ耳(?)つけたユリカは、羽織っている白くてふわふわしてそうなコートを揺らしながら、こっちに向かって駆けてくる。
 ……でも、どうも見た感じではとっても慌てているみたいで、私のことなんか目に入ってないみたい。
 腕につけているコミュニケみたいので、誰かと話をしているんだけど……

 『―――まだ着かないんスかぁ?もうあと15分もないんですけど?』
 「うーん、そうは言っても、ちょっと今からだと間に合いそうにないかなぁ……なんとかしたいんだけど、これじゃ、しょうがないし…」

 なにやら困ったような顔をしながらしゃべっているユリカ。どうも話し相手になんか催促されてるみたい。
 『いいから早く来てくださいよ。例のアレ、使えばすぐに来れるでしょう?』
 「あ、そっか。そう言えばアレがあったっけ」


 と、不意に立ち止まったユリカは、私がじっと見つめているのにも気がつかないまま、手にした懐中時計の形をしたハンドバッグをまさぐり始める。
 そしてその中から小さな青い石を取り出して、それを大きく頭上に掲げた。
 そのわけのわからない行動を、黙って見ている私。


 「じゃじゃーーーーん!!困ったときの『ちゅーりっぷ・くりすたるぅ』ーーーーーー!!!
 ……では、さっそく私を帽子屋さんのお家まで連れてってくださーい!」

 「!!?」



 途端にユリカの体が淡い光で包まれていった。そう、それはまるでボソン・ジャンプそのもの。
 それを見た私は思わずユリカのほうに駆け出していく。






 ……だって、一人ぼっちは嫌だから。

 このままここでずっと彷徨ってなんか、いたくない。もう一人ではいたくない。




 ――――そう。私はアキトを見つけて、アキトと一緒に帰るんだ。







 「――――待って!」
 「へ?……うわきゃっ?!!!」

 私の声に振り向いたユリカが、驚いた顔で悲鳴(?)をあげる。
 そしてそのまま私は彼女に飛びついて、一緒に光の中に包まれて。そのまま二人でどこか、別のどこかへとジャンプしていった。











 2.

 「ふぎゃっ!!…………あ〜〜〜、いたたたたた……」
 「………痛い……」


 ――――で、見事に着地に失敗した私とユリカは、重なるようにして倒れて頭を打ち付けていたりする。
 幸い地面が草で覆われてたこともあって、特に目立った怪我はしなかったみたいだけど…それでもやっぱり痛いものは痛い。


 「…って、ねぇ。君は大丈夫?」

 と、私の下に仰向けになって倒れているユリカは、その目にうっすらと涙を浮かべながらもそう訊いてきた。

 「うん…何とか。――――――ごめんなさい、今…どくから」
 そう言って私は急いでユリカの体の上から身を引いて、服と髪についた草と泥を払い落とす。
 続いてユリカも、お尻についた泥を払い落としながらゆっくりと立ち上がった。
 そしてそのまま私の方を見て言ってくる。

 「それで、一体いきなりどうしたのかな?もしかして……君、迷子なの?」
 「――――――たぶん……。気がついたら、アキトがいなくて一人だったの。あんなところで一人でいるのは不安だったから……」
 ユリカのその問いに私がそう言いよどんでいると、ユリカはちょっとだけ何かを考えるような仕草をしてから、にっこりと笑って言ってきた。
 「そっかあ。――――じゃあ、私と一緒にくる?
 用事が終わってからだったら……君の探している人、一緒に探してあげるよ?」


 「……ホント?」
 そう言われて、ユリカの顔を見上げる私。
 「うん!ホント!」
 それに応えるように、笑顔で応えてくれるユリカ。
 「じゃあ……お願いしても、いい?」
 「もっちろん!それじゃ、よろしくね。―――――私は『ユリカうさぎ』っていうんだよ」



 「………ユリカ、うさぎ?」



 …そしてそのよくわからない自己紹介に、私は思わず聞き返す。

 「そうだけど?どうかしたの??」
 でも目の前のユリカ、もとい『ユリカうさぎ』は、それがなんでもないことのように訊き返してきた。
 確かになんかうさぎの耳がついてるし、コートもワンピースもブーツも白とかベージュで統一してるし、おまけにふわふわの尻尾までお尻についてはいるけど……

 「ユリカ、じゃなくて、『ユリカうさぎ』???」
 「そうだよ?これでも私はうさぎさんなのだ!えっへん!」
 終いにはそう言い放って、その大きな胸をそらせる『ユリカうさぎ』。



 ――――私の知っているユリカって人とは、違うのかもしれない。

 そう思った私は、なんていうかまだ混乱してる頭を振り払いつつ、改めて自己紹介をすることにした。
 「……私は、ラピス。ラピスラズリ=テンカワ。――――ラピスって呼んでくれればいいから」


 「そっかあ、ラピスちゃんだね?ではラピスちゃんも一緒にお茶会に行きましょー!!」
 「??…………わ!」
 するとユリカうさぎは私の手を引っ張って、すぐそこにあるちょっと大きめの家に向かって歩いていく。
 小さなかわいい門とよく手入れのされた庭を通り抜けて、呼び鈴を軽く『ちりりん』と鳴らすと中からどこかしっかりした感じの男の人の声。
 「はーい、開いてるっスよー!」
 「おっじゃま、っしまーす!!」

 ……で、そんなこんなでとおされたリビングでは、二人の男性が待ちわびたような顔をしてテーブルについていた。








 3.

 「いやぁ、やっと来ましたか―――――って、そちらのお嬢さんはお友達で?」
 その頭に被った山高帽を軽く上げて私に会釈しながら、隣にいるユリカうさぎにそう訊いてくる金髪の男の人。
 …なんか、どこかで見たことあるような顔をしている。
 「うん。そんなところかな?……ほら、ラピスちゃん」
 「……ラピスラズリ=テンカワ。ラピスって呼んでください」
 そしてユリカうさぎに言われて、その金髪でタキシード姿の男の人と、隣で眠そうな顔をしている白いフード(これまた何故か、動物の耳がついている)つきのハーフコートを着た男の子に私は挨拶をする。
 「これはご丁寧に、どうも。―――――私は『帽子屋のサブ』、気軽にサブって呼んでくれて構いませんよ?」
 「…ん〜〜……えーとぉ、ボクは『ハーリーねずみぃ』………」
 そして私に返ってきたのは、なんだか『エレガント』って感じのサブさんの挨拶と、ぽーっとした感じの『ハーリーねずみ』の自己紹介みたいなの。
 そのとにかく対照的な二人の挨拶に続くように、ユリカうさぎが席に座りながら、サブさんに不思議そうな顔をして尋ねる。
 「……あれ?サブさん、ルリルリちゃんはどうしたの?」



 ――――――ルリルリ??


 そのちょっと聞き覚えのあるような単語を疑問に思っていると、サブさんが背もたれに寄りかかりながら言ってくる。
 「ああ。『ルリルリお姉さん』なら、急な用事ができたとかで今日はキャンセルですよ」
 「えー?そうなの??」
 驚いたような残念なような声を上げるユリカうさぎ。サブさんの横ではハーリーねずみが心なしかがっくりしてるみたい。
 「ま、しょうがないんじゃないっすか?なんでも『先生』から仕事を頼まれたそうですから。………じゃ、新しいお客さんも来たことですし、そろそろ始めましょうか」
 「ん〜〜〜、そうだね。ほら、ラピスちゃんも席に着いて着いて!」
 「あ……うん」
 そして言われるままに私はユリカうさぎの横、つまりはハーリーねずみの前の席に腰掛ける。
 サブさんとユリカうさぎがお茶の葉がどうのといった話をしている間に、給仕さんらしき女の人が4人分のお茶とお菓子を持ってきて、みんなの前に置いていった。


 「あ!これおいしい!!このケーキ、サブさんのお家で作ったの?」
 こんがりと小麦色に焼けたそのケーキを頬張りながら、サブさんに尋ねるユリカうさぎ。
 「いやぁ、家の子が最近凝りだしてね。これなんかは中々いけるけど、たまに実験台にされるんすよ」
 そしてそれに苦笑いしながら応えるサブさん。
 「甘いもの、そんなに好きじゃないの?」
 私が思わず横から訊いてみると、サブさんは困ったようなその顔にやっぱり笑みを浮かべながら言ってきた。
 「いやいや、そんなことはないけどね。さすがに一日に5個も6個も食べさせられると、ちょっとキツイものがあるかなーって……」
 「えー?私は大歓迎だけどなぁ。…ああ……色とりどりのケーキに囲まれるなんて、もう幸せ〜――――」
 そしてサブさんの発言を聞いて、なんだかトリップした様子のユリカうさぎ。
 そんな彼女はとりあえず置いといて、さっきの会話に出てきた気になる名前をサブさんに聞いてみることにした。

 「………ねぇサブさん。『ルリルリお姉さん』って、どんな人?」
 「―――――??」
 と、それまでただボオーッとしていただけだったハーリーねずみの頭がピクリと動いた。
 その様子を見てなんだかちょっとだけニヤついたサブさんは、口にしていたカップを静かに置くと私のほうを見て話し始める。
 「この先のおっきなお屋敷に住んでいる、学者さんさ。
 …今そこであっちの世界にいっちゃってるユリカうさぎさんとは知らない仲じゃないんだけど――――」

 「…ていっ」
 「うわきゃ?!!」
 と、いきなりユリカうさぎの後ろから声がして、彼女の頭にシルバートレイが振り下ろされた。
 見るといつの間に立っていたのか、さっきの給仕さんが済ました顔で佇んでいる。

 「…ああ、ルリルリちゃん?私の家族みたいなものだよ。ちょーっと変わっているところもあるけど、とってもかわいい子なの!うん!!」
 涙目で頭をさすりつつ、そう言うユリカうさぎ。続いてサブさんがニヤついた顔で言ってくる。
 「――――で、ハーリーねずみの意中の人って訳だな」
 「……んな?!!!いきなり何言い出すんですかサブさんは!!!」
 こちらもいきなり、はっきりと目が覚めたような声で叫びだすハーリーねずみ。
 「いや、だってそうだろ?」
 意外そうな顔をして切り返すサブさん。ユリカうさぎと一緒になって、ちょっとだけ意地の悪そうな笑みを浮かべてたりする。
 「そうなんだよーラピスちゃん。ハーリーねずみ君ってば、あの子にもうラブラブッ!!って感じでねー」
 「……らぶらぶ??」
 「ユ!ユユユユユユ、ユリカうさぎさん?!!!!」
 冗談なんだか楽しんでるだけなんだか、それとも本気なのかわからないような笑顔で言ってくるユリカうさぎと、さっきにも増して慌てているハーリーねずみ。
 「そうっ!!!もう端から見てるとホント可愛いんだもん、ハーリーねずみ君。こう、『恋する男の子』って感じでね〜」
 「――――カワイイ、てーか……ガキなんだよな。お前の場合」
 なんだか小動物を見るような目でハーリーねずみのことを見ているユリカうさぎと、ちょっと呆れたような顔をしているサブさん。
 いっぽうのハーリーねずみはさっきからなんだか、その場でせわしなく動き回っている。特に顔の表情が。



 「………旦那様。ちょっとハーリーねずみ様を苛めすぎじゃないですか?」
 「ん?そーか??しょうがないじゃん、楽しいんだから」
 「まぁ、構いませんが…程々にしてくださいね?」

 ハーリーねずみが尚もユリカうさぎにからかわれている中、小声でそんな会話をしているサブさんと黒髪の給仕さん。
 それを横目でなーんとなく見てる私。
 と、いきなり何かを思いついたように、サブさんが声を張り上げた。

 「じゃ!!ここらでちょっと予定を変更して、『ハーリーねずみのための恋愛講座』といきますか!
 ―――――あ、イツキ君。次のお菓子、持ってきてくれない?」
 「はいはーい!!まずは私から!ハーリーねずみ君は思い切ってアタックしてみたほうがいいと思いまーす!」
 「ユ〜〜リ〜〜カ〜〜う〜〜さ〜〜ぎ〜〜さぁぁぁぁぁぁぁぁん………」
 給仕さんが呆れた様子で長い黒髪を揺らしながら引っ込んでいく中、どんどんテンションの高くなっていくユリカうさぎと、ついには涙声っぽくなってきたハーリーねずみ。
 それを見ながら、サブさんが不意に真剣な表情になって言ってくる。

 「――――いや、ユリカうさぎさん。俺はその前にコイツを一人前の『男』に教育するべきだと思うんだが。今のガキのこいつがあたっても、まず勝算はないでしょ?」
 「え?うーーん、私は今のハーリーねずみ君もかわいいと思うんだけどな〜」
 紅茶をそっとすすりつつ、サブさんの提案に対してそんなことを言ってくるユリカうさぎ。
 それを聞いたサブさんがやれやれといった感じで首を僅かに横に振ってみせた。
 「それじゃ駄目なんすよ。こいつには女性に異性として好感をもたれるための振舞い方って奴を、みっちりレクチャーしてやらないと」
 「でも私、今のハーリーねずみ君も好きだよ?」
 「……へ?」
 ユリカうさぎの何気ない一言に、なんだかちょっとびっくりした様子のハーリーねずみ。そしてサブさんが、小さくため息をつきながら言う。
 「だからそれが駄目なんですって。ユリカうさぎさんのそれって、『可愛い』とかそう言う意味の『好き』でしょ?」
 「うん」
 サブさんの言葉にあっさりと頷くユリカうさぎ。そしてサブさんがちょっとだけ真剣な表情になって。
 「そうじゃなくて、男性としてみてどうか?って話ですから」
 「あ、成る程ー」
 その言葉に『納得いきました』って顔でサブさんのほうを見るユリカうさぎと、遂にはテーブルの上に突っ伏してしまうハーリーねずみ。
 そんなハーリーねずみには構わずさらに話を続けるサブさん。

 「女性に異性として好感を持たれるためには色々とあるでしょう?さりげない気配りができるとか、それなりのファッションセンスを持っているとか……」
 「うんうん、やっぱりセンスは重要ですよね〜。あとは場合にもよるけど、例えばちゃんとこっちをリードしてくれる人だと嬉しいし」
 「そう。そして一番重要なのが、相手の気持ちをどの程度理解できるか?ってことでしょ?なんたって男って生き物は、そういうことに疎いことが多いからね」
 「確かにそうですよね。男の人ってそういうこっちのサインに気がつかないこと、多いですから。
 あれって時々すごく腹が立つこともあるんですよ!こっちが不快な思いしてるのに全然気がつかなかったりとか!」
 「そう、その通り!そしてそれに付け加えるなら、その逆もまた真なように本当にイイ男というのは『女心』って奴をほんのこのくらいだけわかってやれるものなのだよ!」
 「うううううううううううううう……そんな一辺に言わないでくださいよぉ」

 二人の畳み掛けるようなレクチャーに頭がパンクしたのか、なにやら唸り声を上げるハーリーねずみ。
 それに構うことはなく、サブさんとユリカうさぎは尚も話を進めていく。




 ……そんな3人の様子にちょっとだけ呆れていた私がふと窓の外を見てみると。
 庭の近くの木の上で、私のよく知っている人が腰を下ろしてくつろいでいるのが目に入った。



 「―――――――アキト?!!!」



 黒いコートに黒がかった髪。そのやや大柄の人は木の幹の上で欠伸なんかをしている。
 私は急いで席を立つと、そのまま外へ、その木の元へと走っていった。

 ……なんだか白熱している3人をその場に残して。




 「――――いいかハーリーねずみ!!!男にとって金は重要じゃないが重要なのだ!
 昔から母親というのは自分の娘に言ってきたのだよ、『金のために結婚するべきではない。でも、結婚するなら金のある男にしな』ってな!!!」
 「ええ〜〜〜〜〜っ??!!!」
 「ちょっとサブさん!それはどうかと思います!!―――――――あ、でも。第3印象としてはやっぱり重要な条件ですよね?」
 「そんなぁ〜〜〜〜〜〜〜!!!」














 4.

 「アキト!!!」

 「……………??
 お嬢ちゃん、もしかして僕のことを呼んでるのかい?」

 私が必死になって木の下から呼びかけると、どう見てもアキトにしか見えないその人は笑顔を見せながらそう言ってきた。そしてその黒いコートを翻すと、音もなく木の上から飛び降りてくる。
 微かな衣服のすれる音だけを残して、大地を踏みしめるその人。
 ……よく見てみると、ユリカうさぎみたい(?)に猫の耳が本来耳が在るべきところについているし、おまけに虎ジマの尻尾までついているみたい。


 「えっと……アキト?」
 ちょっとだけ自信がなくなりながら、目の前のアキト(?)にそう問い掛ける私。
 「いや……僕はチェシャ・アキト。由緒あるA級チェシャ猫族の一人だよ」

 ―――でも、やっぱり彼の返事はわけのわからないものだった。なぜかニヤニヤ笑いを浮かべながら、そうチェシャ・アキトは言ってくる。

 「A級?」
 「そうさ。チェシャ猫族の最高峰。ニヤニヤ笑いを残しながら生体ボソン・ジャンプすることのできるチェシャ猫だけに与えられる、称号みたいなものだね」
 今度は打って変わって、普通に笑いかけながらチェシャ・アキトが教えてくれた。それにあわせるように彼の耳がピクピク動く。
 「そう……――――――ごめんなさい、人違いでした」
 そんなチェシャ・アキトの笑顔を見ながら、私は少しだけがっかりしながら謝った。するとチェシャ・アキトは、首をかしげて不思議そうに聞いてくる。
 「人違い?お嬢ちゃんは誰かを探しているのかい?」
 「うん、アキトっていうの。チェシャ・アキトさんにそっくりな人」
 そしてそう私が言うと、チェシャ・アキトは目をまん丸くして驚いた。
 「僕にそっくり?」
 「うん、そっくり」
 視線を宙にやって、何かを考え込むチェシャ・アキト。やっぱり耳がピクピク動いてる。
 「…ふーん、僕にそっくりなヒトねぇ……なんなら探してあげようか?ちょっと気になるし」
 「本当?………あ、でも。ユリカうさぎも探してくれるって言ってくれたし―――――」

 「――――何?君はユリカうさぎを知っているのか?!!!」


 と、なんだか物凄くびっくりした様子でチェシャ・アキトはそう言ってきた。
 続いて横目で、あたりの様子をなんだか用心深く探り始める。髪の毛をちょっとだけ逆立てながら。
 そんなチェシャ・アキトの様子を不思議に思いつつ私が言う。
 「知ってるっていうより………ユリカうさぎなら、そのお家の中にいるよ?」
 「げ」
 と、チェシャ・アキトは凄く面食らったような顔をしながらそんな呻きをもらした。
 「………『げ』?」
 そのチェシャ・アキトの言動をそのまま聞き返すと、チェシャ・アキトはバツの悪そうな顔をしながら言ってくる。
 「あ、――――――いやね、別に彼女のことが嫌いとかそういうんじゃないんだよ。
 ただ、彼女と僕が一緒にいると絶対に最悪のことが起こるというか、一緒にいるところを『女王様』に見つかったら首が飛びかねないとか、とにかくいろいろあってね……」
 「ふぅん………なんだかアキトとユリカみたい」


 「ユリカ?――――そのヒトも、探してるヒトなのかい?」

 と、なんだか興味のありそうな顔でチェシャ・アキトが訊いてくる。
 それに私はゆっくりと首を横に振って応えると、少しだけ考えてから二人のことを話し始めた。
 「ユリカはアキトの好きな人。ユリカもアキトのことが好き。……でもアキトはユリカのところには帰らないで、私と二人で暮らしてるの。
 『今の自分は本当にあいつと一緒に暮らすことができるのか?昔とは変わってしまった俺は、本当にそんなことが出来るのか??』って――――いつもアキトは言ってる。……いつもアキトは悩んでる………」



 「…――――そう、なんだ……」
 「……??」


 不意に、チェシャ・アキトは私の頭の上にポンとそのあったかそうな手を置くと、ちょっとだけ寂しそうな顔をして笑いかけてきた。
 そして私のことをやさしく撫でてくれる。

 「――――君は、その『アキトさん』のことをどう思っているのかな?」
 唐突にそう、困ったような笑顔を浮かべながら訊いてくるチェシャ・アキト。
 私は彼の瞳をちらりと見ると、俯きながら戸惑うようにしてそのチェシャ・アキトの問いに答えた。

 「……私には、よくわからない。……よく、わからないけれど――――――
 ――――アキトは、嘘ついてると思う。自分に嘘ついてるんじゃないかなって思う。…だって、そういう事を考えてるときのアキトって―――いつも哀しそうで、苦しそうだから……」

 いったん言葉を区切って、私は少しだけ胸の奥に沸いてきたその感情を懸命にこらえた。アキトが教えてくれたその感情を。

 「アキトとかエリナが、私に『嬉しい』とか、『楽しい』っていう感情を教えてくれて―――――
 それから『哀しい』とか、『辛い』っていう感情も思い出させてくれて……
 ―――だから、今のアキトは『辛い』んだっていうのが、今の私にはわかるから……だから、やっぱりアキトはユリカのところに戻ってあげるのが一番だと思う。
 私はもう、『辛い』アキトは見たくない。アキトやユリカやルリと一緒に、ずっと『楽しく』いたいから――――」



 …そこまで言って、私は口をつぐむ。そしてなぜか黙ってしまって、やっぱり寂しそうな表情をしているチェシャ・アキト。
 そう、まるでアキトみたいな表情をしている―――――――ふと私はそう思った。






 「………ここから向こうに行ったところに」
 と、不意に右手でその方向を指しながら、チェシャ・アキトは言ってくる。

 「…そこに大きな屋敷がある。そこに住んでいる『ルリルリお姉さん』ならきっと、君の探している人を見つけてくれると思うよ。
 ――――ごめんね、お嬢ちゃん。僕は君の力にはなれない。力にはなれないけれど―――――」




 「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!チェシャ・アキトーーー!!!!」
 「??」
 「…?!!」


 ……突然サブさんのお家の玄関から聞こえてきた大声に、思わずそっちを振り向くチェシャ・アキトと私。
 さらにその先を見たチェシャ・アキトは露骨に物凄くマズそうな顔をするし。

 ―――そして言うまでもなく、その視線の先にはなんだかとても嬉しそうな顔をして走ってくるユリカうさぎの姿があったわけで。





 「チェシャ・アキト!チェシャ・アキト!チェシャ・アキト!チェシェ…\!@%!?&!!?!!」



 ………あ、舌かんだ。


 「――――というわけで、お嬢ちゃん!!残念だけどお別れだ。ここで彼女につかまるわけには行かないからね!」
 そう言ったチェシャ・アキトはあせった顔をしながらも、何故かニヤニヤ笑いながらゆっくりと体を消していく。
 「あ!まってよーー!!!」
 続いて涙目のユリカうさぎも、例の懐中時計の形をしたバッグから『ちゅーりっぷ・くりすたる』(たぶんCCだと思うんだけど…)を取り出して、光と一緒に消えていった。

 …残ったのはここに突っ立っている私と、チェシャ・アキトがこの場に残していったニヤニヤ笑いだけ。



 ――――――肝心のユリカうさぎまでどこかに行ってしまったけど…とりあえずチェシャ・アキトの言う通り、私は『ルリルリお姉さん』を尋ねてみることにした。















 5.

 屋敷の門には変な張り紙があった。


 『――――この門をくぐる汝、決して『説明』という語句を発するべからず』

 「……???」
 さらにその下のほうを見ると、付け加えたように手書きの文字で何か書いてある。

 『…それと、『小さい』とか『まっ平』とかもね』
 『――――――さらに付け加えるなら、『おばさん』もです』


 「…………」

 なんだかちょっとだけ不安になりながら、力いっぱい門を開けて私は中へと入っていく。
 サブさんのお家とは比べ物にならないくらい広い庭を歩いていったあと、とにかく立派な玄関の前に立って、呼び鈴を鳴らしてみた。

 「――――――開いてますよ。御用の方はどうぞお進みください」
 程なくして、扉の奥からどこか遠い声が聞こえてくる。
 言われるままに扉を開けて入ってみると、誰もいないホールにはホワイトボードがちょこんと置いてあった。

 『―――――多用につき、伝言にて失礼します。御用の方は右奥の部屋へどうぞ』

 …言われるままに、私はその部屋へと進む。
 窓辺から日の光が差し込む廊下を、白を基調としたその豪奢な廊下を一直線に歩いていって……突き当たりの大きな扉のまえで立ち止まって、念のためにノックをしてみる。
 「どうぞ?」
 そして扉を開けた先の、小さな図書館みたいな部屋では、なんていうか私の予想通りの顔をした人が読んでいた本から顔を上げて私のほうを見ていた。




 「ようこそいらっしゃいました。どなたの紹介ですか?」
 そのルリにそっくりな人――――たぶんこの人が『ルリルリお姉さん』なんだろう――――は、その顔にかけた小さな丸眼鏡をくいっと右手で軽く押し上げながら訊いてくる。
 やけに背の高い椅子に座っている彼女はまるで中世の人みたいな白地に金の装飾のついたローブを着ていて、確かに学者さんっていう感じの雰囲気に見える。さらにその周りには大量の本が積まれていたりするから、なおさらだ。
 「…ラピスラズリ=テンカワ。チェシャ・アキトの紹介できました。……あなたが、『ルリルリお姉さん』?」
 そして私がそう言うと、ルリルリお姉さんはちょっとだけ驚いたような表情を浮かべてから微笑んで言ってくる。
 「ええ、そうですよ。それで、どのようなご相談でしょうか?」
 「……えっと…私、人を探してるの。『テンカワ・アキト』っていう人」
 「はぁ。――――テンカワさん宅のアキトさん、ですか」
 どこか困ったような顔をして言ってくるルリルリお姉さん。
 続いて彼女はどこからともなく羽でできたペンを取り出すと、それを使って何もない空中に四角い窓を描きだした。
 「……??」
 その不思議な光景を黙ってみている私。
 ルリルリお姉さんはその窓の中に何かを書き込むと、
 「オモイカネ、至急検索してください」
 そう言ってまたどこかにペンを仕舞う。程なくしてその描かれた窓がすうっと宙に消えていって……

 ――――ポンッ!!

 っていう小気味いい音とともに、窓のあった場所に丁寧に折りたたまれた古い紙切れが現れた。

 「―――はい、どうぞ。その中に『テンカワ・アキト』さんの居場所が書かれてますよ?」
 その紙切れを手にとると、微笑みながら私に差し出してくるルリルリお姉さん。
 それをおずおずと受け取った私は、ちょっと気になったそのことをルリルリお姉さんに訊いてみることにした。
 「??どうかしましたか?」
 私のもじもじした態度を見て、訝しげに訊ねてくるルリルリお姉さん。
 「……えっと、その…あなたとチェシャ・アキトって、どういう関係なの?」
 そして私がそう遠慮がちに尋ねると……ルリルリお姉さんはきょとんとした表情をしてから、すごく嬉しそうな顔をして言ってきた。

 「――――チェシャ・アキトさんはユリカうさぎさんと一緒に、身寄りのなかった私を引き取って育ててくれたんです。
 一緒にいたのはホントに短い間でしたけれど……その間に私は、あの人たちから家族のぬくもりとか、愛情とかいったことを教えてもらいました。
 ……言ってみれば私にとって、チェシャ・アキトさんは『お父さん』であり『お兄さん』であって…それでいてちょっとだけ、『憧れの人』なんですよ」


 「…憧れの、ヒト……?」
 「はい、そうです」
 その言葉をただ繰り返した私に、ルリルリお姉さんはちょっとだけ恥ずかしそうな顔をしながらそう言葉を返してくる。
 その言葉の響きに何故かドキドキしながら、心に『不安』を覚えながら…私はルリルリお姉さんに渡された紙をゆっくりと開いてみた。

 そしてそこに書いてあったその言葉が、私の心をはっきりと止める。




 ――――――『彼は貴方にとってどんな人ですか?その答えを見つけたとき、貴方はこの世界で本当の『アキト』に会えるでしょう』










 「………わからない。わからないよ」


 「―――ラピス、さん?」
 ルリルリお姉さんが戸惑ったように問いかけてくる。
 私はどうしようもなく混乱しながら、握り締めたその紙切れをお姉さんに手渡した。
 「アキトは私の全て。アキトがいるから私がいる。――――前はただ、そう思ってた。
 …でも、いまはわからないの。
 アキトが私にとってどういう人なのか、私が抱いているこの『気持ち』が…エリナに対するものとも違う気がする、よくわからないこの『気持ち』がなんなのかが――――」




 「……ラピスさん」


 不意にルリルリお姉さんは軽く微笑んで。
 その遠い窓の外、キラキラした陽光に包まれた丘を眺めながら静かに言ってくる。



 「今はわからなくても。でも、貴方はそれが何なのか自分で気がつく日がきっときます。――――それは、自分で気がつかなきゃ意味がないんです。
 だからあせらずに、ゆっくりと一歩一歩を歩んでいってください。
 絶対、大丈夫です。………だって、かつての私も貴方と同じでしたから――――――」














 6.

 …正直、不安な気持ちとガックリきた気持ちと。その他にも色々などんよりした気分と一緒に、私はルリルリお姉さんの館を出た。
 くるりとあたりを見回して。
 とりあえずサブさんのお家へ戻ってみようと思う。


 肝心のユリカうさぎはまだ戻ってきてないかもしれないけれど、なんだか彼女は頼りない感じだけど。
 きっと彼女と一緒なら、アキトを見つけられるんじゃないかって私には思えるから。



 ――――――――そして小さなため息をついた私が、そろそろアキトと離れ離れな今がどうしようもなく寂しくなってきた私がゆっくりと歩き出したその時。





 「…………――――――ん?んななななななぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ?!!!!!」

 「…!!?」




 いきなり『何か』に後ろから思いっきり飛びつかれて。


 そのまま空と地面がごちゃ混ぜになった私は、夢の世界へと飛んでいく羽目になった。















 7.

 「――――――あ!気がつきましたか?!」




 ……なんだか、すごく眩しい。

 薄目を開けて見てみると、空に浮かんだ真っ白な太陽と私を覗き込んでくる誰かの影。




 ――――――その誰かさんは、長い黒髪に黒のドレス、それでもって私よりももっと白い、ホントに雪のような肌をした女の子。


 その私と同じくらいの年の女の子。どこか私に似ているような気もする…ルビーのように紅い瞳をした女の子が、私に飛びついてきた犯人らしかった。






 「……うん。ちょっと…ううん、かなりびっくりしたけれど、もう大丈夫だよ」
 道端のふんわりとした草むらに寝かされていた私は、そう言いながら身体を起き上がらせる。
 ちょうど私の頭の後ろから私を覗き込むようにして座り込んでいたその子は、それを聞いて安心したように微笑んだ。

 「そうですか、よかったです。…ついつい前をよく見ずに飛んでいたものですから、もしものことがあったらどうしようかと思ってしまいました」
 「――――飛んでた?」


 …そしてその女の子の発した、ちょっと意味のわからない言葉。

 「…って、ああ!そう言えば博士から『街道では飛行禁止!』って言われてたのに、すっかり忘れてました!!」
 続いてその子は頭を抱えつつ、そう言って困ったような顔をしてくる。正直私もとても困りつつ、とりあえず挨拶をすることにして。
 「えっと………こんにちは」

 ――――――――ちょっと、ぼけぼけだったかもしれないけれど。

 「あ、はい。こんにちは!」
 でも目の前の女の子は特になんとも思わなかったみたいで、そう元気いっぱいに挨拶を返してくる。
 「それと、はじめましてですね。申し遅れましたけれど、私の名前はサレナといいます。錬金術師のウリバタケさんに創られた、王子様のための自動人形なんですよ」
 「……私はラピス。ラピスラズリ=テンカワっていうの」
 そしてわたしも自己紹介をして――――って、あれ??
 「――――サレナ?」
 その単語に思わず目の前の彼女に訊きかえす私。自動人形だとかどうとかいうことよりも、その意味深い単語が気になって。
 「はい、そうです。通称・『黒い鉄のサレナ』。黒の王子様の身の回りのお世話をするべく創られた、世界で一体きりの自動人形が私なんです」
 そのサレナの言葉は私にとって、本当に思いがけないものだった。

 「―――黒の……王子様…………」


 その言葉をゆっくりと呟く私。彼女―――サレナは私の目の前で困ったように笑う。
 「あはは………王子様のことは結構有名ですもんね。『今を変えたくてお城の奥深くにある過去の部屋に何度も足を運ぶんだけど、それでも今を変えることのできない哀れな王子様』って――――――町のみなさんは、誰でもそう言ってますから」
 「そう……なの?」
 「はい。…って、もしかしてラピスさん、王子様のことをご存知ないんですか??」
 続いて彼女はきょとんとした顔をしながら私にそう訊いてきて。それに私がこくんと小さく頷くと、サレナは途端に満面の笑顔を浮かべて私の手をぎゅって握ってきた。

 「あ!!じゃあじゃあ!これからお時間がありましたら、ぜひ王子様に会ってくれませんか?!きっとあの方も喜んでくれると思うんです!!」
 「え………あ、えっと――――」
 そしてそう言いつつも、サレナはすでに私の手をしっかりと握って歩き始めている。
 ……なんだか、何が何でも私を連れて行きたいみたい。でも私もその『黒の王子様』のことが気になって、もしかしたら今度こそアキトに会えるんじゃないかって思って。

 だから嬉しそうに微笑んで私の顔を覗き込んでくるサレナにこくりと私が肯くと……
 「――――??」
 サレナは不意に私の身体をぎゅって抱きしめると、ユリカみたいに満面の笑顔をして言ってきた。
 「ではラピスさん、しっかりと私に抱きついていてくださいね!」

 そして静かに目を閉じるサレナ。
 口元に優しそうな微笑みを浮かべた彼女の背中から、突然1対の黒い翼が光とともに現れて。


 「………………………わ?!!」





 ――――次の瞬間、私とサレナは真っ青でキレイな空の中に飛び込んでいた。






 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜??!!!!」

 思いっきり目を回す私。くるくると遠くへ流れていく景色。
 いっぽうちょっとだけ焦ったような笑顔で言ってくるサレナ。
 「えーと……超特急でお城まで案内しますので、少しだけガマンしていてくださいねラピスさん!」
 「!!!?!?!!?!?!!」

 (そ………そんなこといわれても――――)


 そしてしばらく、なんだかぐるぐると上から下まで目まぐるしくアタマが回っていくなか。
 なんだかサレナの慌てたような声がよくわかんない方向から聞こえてきて、だんだん頭がぼうっとしていくような気がして。
 視界の隅を掠めていく鳥さんも、山の隙間から湧き出ている大きな雲も、光の中に吸い込まれていきそうになった時に……不意に私の身体を吹き抜けていく風が緩やかになっていく。

 「あ…………」

 すぐ目の前に見えている、とっても大きくて豪華なお城、ルリルリお姉さんの居たお屋敷の何十倍も綺麗なそのお城を見て私の口から声が漏れる。
 そしてなんだか安心したように口を開くサレナ。
 「はい、ラピスさん。ようやく到着しました。―――あれが私達の国の王様と女王様と、そして黒の王子様がいらっしゃる、『空の上の火と地のなかにあるお城』です」
 「……???」
 で、そのわけのわからない上に矛盾だらけな気がする説明と一緒に…サレナはそのお城の一角にあるやっぱり大きな庭の中へと降りていった。
 そして私がそのキレイなお庭を見回したその時。

 「――――あ!!王子様〜〜〜!」
 突然ぱたぱたと駆け出すサレナ。彼女のドレスの裾がふわりと風に揺れていく。
 「…?!」
 彼女が走り寄っていった先、その木陰の塀に寄りかかって休憩していたらしい『ヒト』を目にして…私の胸が一瞬止まりそうになる。




 …見慣れたその黒いコート。
 その隙間からのぞく、黒一色に包まれた腕。
 間違いなく、私の心に焼き付いているのと同じその悲しそうな横顔。その顔はやっぱり、どう見たって間違いなんかじゃなくて――――

 「アキト!!」
 「――――?」
 「れ、ラピスさん??」
 駆け出す私。ゆっくりと顔を上げる『黒の王子様』。不思議そうな顔をして振り向いてくるサレナ。
 そして……




 「…………なんだ、お前は」

 「え――――」



 とても、底冷えのする声。

 私はその冷たく切りつけてくるような声を浴びて、足を止める。
 『黒の王子様』はそんな私とサレナを交互に見やって口元にそっと手をあてると、つまらなそうな表情をして口を開いた。
 「…サレナ、『アレ』はお前の親類か?」
 (!―――…)

 「そ、そうじゃなくて王子様ー!大切なお客様です、王子様の。是非とも王子様にお会いしたいって――――」
 「勝手に俺のいないところでそんな事を決めるな、サレナ」
 「……王子様」
 私のほうを見ながら慌てるようにそう言ってきたサレナの言葉を途中で冷たく遮ると、その王子様は口元にうっすらとした笑みを浮かべて私のほうへと歩いてくる。
 私はそんな王子様の冷たい、アキトが私に接してくれる時とはまったく違う印象に戸惑って……どうしたらいいのかわからないままに王子様の顔を見上げる。

 (―――違う、気がする。この人は…『黒の王子様』は……)


 「…しかし、本当によく似ている」
 「え?」
 と、私に向かって言ってきた王子様の最初の一言は、それだけだった。
 サレナがすぐにとことこと王子様の側に走り寄ってくる。それをまるでうっとうしそうに横目で見た王子様は、何が可笑しいのか冷たい笑い声を上げた。
 「よく出来た人形だろう?サレナは。
 こいつはウリバタケの最高傑作だそうでな、俺の愛用していた黒い鎧に、俺が拾ってきた『瑠璃色の妖精』の心を埋め込んで創られたシロモノなんだ。彼が言うには『俺を守護するために存在し、いつだって俺を慕うために存在している、妖精の心を持ち全ての願望と希望とを一つに凝縮した存在』――――」
 不意に顔を曇らせる王子様。
 「――――ようは結局、体のいいお守り兼監視役なのさ。建前なんかどうでもいい、俺が『あそこ』に行ってまた何かをしでかされるのはたまらないから、あの口うるさい女王がウリバタケの奴に創らせたんだ。忌々しい」
 そしてその黒いグラスの奥で、とても怖い表情をしながらお城の奥のほう―――高く突き出た塔の一つをにらむ王子様に…私は勇気を振り絞って、ありったけの勇気で質問を投げかけた。
 「……『過去の部屋』って、なんなの?」
 「――――」

 …途端に無表情になって、サレナのほうを向く王子様。

 「ご、ごめんなさい王子様!!でも私、この人なら、私と同じ感じのしたこの人なら王子様の事わかってくれると思って―――私…王子様にはいつかきっと、笑顔で……だから私――――」
 その王子様のコートにしがみついて、ちょっとだけ涙を流しながら…キラキラと光って空中に消えていくその宝石みたいな涙を流しながら言ってくるサレナ。
 そんな彼女の透きとおるような、キレイな黒髪を仕方なさそうに無造作にひと撫でした王子様は、その無表情な顔のまま静かに……ゆっくりとその、王子様自身の話をし始めた。


 「『過去の部屋』というのは……この城の一番奥深くにある、本来なら限られた人間しか入ることの出来ない禁断の扉だ。
 そのなかにはたくさんの彫刻や、絵画や、本なんかが山のように眠っていてな。そいつらの一つ一つが過去にあった出来事や人の心を表しているんだ。そして一番大事なのは――――」

 ふと王子様の口元が、静かに歪む。

 「―――そいつらを故意に壊したり、傷つけたり、書き換えたりすると……それが『過去の変化』としてこの現在に反映されるっていうことなのさ。『運命』ってやつをつかさどる部屋なんだ、そこは。
 ……でもこれが傑作で、俺がいくらその部屋に入ってそこら中のものを弄くっても、俺が望んでいたはずの結果なんか一度も出たためしがないんだ。
 最初の変化は何だったか―――そう、衛兵のダイゴウジの奴のもみあげが5センチ伸びたんだった。次の時は確か近衛隊長の月臣に許婚が出来ていて、癪に触ったからそれは元に戻して、一度は4年前の戦で負けたことになってしまっていたんだが……次から次に起こる変化も、どれもたいした事のない期待ハズレなものばかり。―――いつまでたってもその繰り返しだったんだよ」

 「………………」



 ―――その話をただ、黙って聞いていた私。
 冷たい笑みを浮かべて話す王子様を、黙って見ていた私。
 そして…………気がつく。


 そう。ふと気がついてみれば、王子様のその笑みは…冷たい笑みではあったけれど、それは誰に対しての笑みでもでなくて、王子様自身に向けられている…自分を哀しんでいる笑みだったんだ。

 …王子様は多分、もうそれがこれ以上続けても仕方のない行為なんだってわかっているんだと思う。でも、それでも…王子様には、それを続けていかなくちゃいけない、何かの理由があるのかもしれない。
 そう。
 『今が自分にとってはどうしようもない絶望の淵にあるもので、だからといってそれを変えていこうとすることの出来る力が、自分にあるかどうかはわからなくって』―――――



 「……ねぇ」
 「――――なんだ」


 多分、これが最後の会話になるんだって思った。
 王子様は私の探している人とは違う人で、でもやっぱりどこかが似ていて。



 「王子様は……どうして、そこまでして――――そこまでして変えたかった『モノ』って、どんなものなの?」


 「……さあ、な。
 もう随分とあの部屋に入っていったから、あの部屋に囚われてしまったから、俺はもうそんなものは忘れてしまった。ただ―――
 ――――――愛しい誰かをずっと守っていたかった。彼女の微笑みをもう一度取り戻したかった……そんなあやふやな想いだけは、今でも覚えている気がする……」





 ―――そうして私は最後に深くお辞儀をすると、穏やかな光が降りそそいでいるその庭を後にした。

















 8.

 そして一人、私は小さな小さなため息を漏らす。


 …黒の王子様はアキトじゃなかった。違うと思う。チェシャ・アキトもどこか違う気がする。
 でもだったらアキトは誰なんだろう?この世界にはまだアキトみたいな人がたくさんいるんだろうか??

 ――――そしてなにより、私には……私にとってアキトがどんな人なのかが、まだよくわからない。



 ルリルリお姉さんはいろいろ言ってた。
 サレナも…私によく似た顔のあの子も、いろいろ言ってた。
 みんなの話を聞いてきて、それでもやっぱり私にはよくわからなくて――――――でも、本当はなんとなくだけれど…私にとってアキトが、どういう『大切な人』なのか、少しずつだけどわかってきたような気もして……




 そんなあやふやなような、あやふやではないような気持ちの中…私はゆっくりとその先へと―――きっと見えているはずの、やっと見えてきたはずの希望へと歩いていって。

 そして。

















 9.

 …………目の前の光景に、私は目を丸くした。



 「ほーーっほっほっほ!!!いい加減に大人しく観念しなさいチェシャ・アキト!!」
 「だから女王様ってば俺はコイツと一緒にいたわけじゃあ……って、なんでもうギロチンなんか用意してるんですか!」
 「ふふふふふ。それは勿論、愛しい貴方のためにいつもここに――」
 「チェチャ・アキトー!!早く逃げてぇっ!!」
 「…………お前との追っかけっこのせいで『ちゅーりっぷ・くりすたる』が切れた」
 「そ、そんな?!!私のために犠牲に……ああ、チェシャ・アキト。こんな悲しい場面でも貴方の愛を感じる…」
 「―――いや、なんか微妙にそれは違うぞ、ユリカうさぎ。その―――愛してないわけじゃないんだけど―――」
 「…って何私を無視してそんなうさぎと話し込んでるのよおっ!!!」

 広い広いその庭園の出口、繰り広げられているのはなんとも言い難い『ぽっぷ』な修羅場。
 これ以上ないってくらいに似合っている気がする派手派手な赤と金と黒の衣装、そして頭の上には冠を身につけて喚き散らすエリナ―――女王様らしい―――と、鉄の檻の中に閉じ込められているチェシャ・アキト。そしてその側で泣きながら檻にしがみついているユリカうさぎと周りを取り囲む衛兵さん達。

 「ほらほらハニー?そんなにカッカとしてないでさ」
 「貴方は少し黙っててちょうだい!!」
 と、その『女王様』のすぐ隣でこれまた派手な衣装に冠をつけた、長髪の見覚えのあるような……というかアカツキさん似の男性を一喝して、女王様は怖いくらいに引きつった笑みを浮かべながらゆっくりと檻のほうへと歩み寄っていく。
 「あの……女王様?その様子だと俺の話は―――」
 「さて、可愛い可愛いチェシャ・アキト君?貴方は私の言い渡した罰を破ったから、これからその愛しい胴体とは永遠におさらばするのよ……」
 「―――やっぱ聞いてくれないみたいですね」
 そしてなんだかうっとりとした表情を見せながら、青い顔になっているチェシャ・アキトの顔を撫でる女王様。
 大きな重いため息を、長く長く吐き出すチェシャ・アキト。
 ……この場でどういう行動を取ればいいのか、その異様な雰囲気に包まれた出口を見てさっぱりわからなくなる私。



 でも、よりにもよって。


 「あれ?ラピスちゃん!!どうしてこんなところにいるの?!」
 「…なに?なんなのよ??」
 「あれぇ、あの子は――――」

 不意に私のことに気がついたユリカうさぎが、そうそこにいる皆にも聞こえる大声で呼びかけてくる。
 訝しげな顔をして振り向いてくる女王様。顎に手を当てながら、なんだか興味深そうな顔を向けてくる王様(多分)。
 そしてユリカうさぎはとんとんと軽快な足取りで私の下まで走ってきて。

 「ほら、ラピスちゃん。あの猫さんチェシャ・アキトって言うんだけど…ラピスちゃんの探していた『アキト』ってヒトじゃないのかな??」
 「…………ううん、多分違うと思う。だいいちアキトはチェシャ猫じゃないよ」
 私の手を引っ張ってチェシャ・アキトの下に戻ろうとするユリカうさぎに、彼女のコートにもう片方の手を伸ばしながらそう言う私。
 訝しげだった女王様の瞳が、だんだんとつり上がって行くのが見える。ユリカうさぎの女王様そっちのけな行動に怒ってる。
 「う〜〜〜〜ん…でもこの国で『アキト』って名前がつく人って、チェシャ・アキトだけだし―――」
 でもそんな私の言葉や女王様にもかまわずに、首を捻りながらユリカうさぎは言う。

 …爆発するまでもう時間が余りなさそうな女王様。ちゃっかり衛兵の陰に避難している王様(多分)。
 衛兵たちは皆そろって緊張した顔をしていて、チェシャ・アキトは困った顔をしてユリカうさぎと私のほうを見てきて―――

 そして不意に、優しい表情を見せてくるユリカうさぎ。



 「…それにね、ラピスちゃん」
 「それに…?」



 ――――そして、そう。彼女はその顔に満面の笑みを浮かべながら……









 「……例え耳がついて尻尾が生えて猫さんになって、どんなに変わってしまっていても―――やっぱりアキトはアキトだよ!」





 「「ユリカ…………??」」







 (――――――――……!)













 10.

 「……ここでいきなり夢が終わるのは、ありなんだろうか?」


 目が覚めてみればいつもの俺の部屋。
 薄暗いその小ぢんまりとした部屋の中で一人、ゆっくりと布団から起き上がって。
 ―――まだ少し、いつもよりは早い時間だったようだ。手元に確認できるカーテンにそっと隙間を作り、久しぶりの地球の朝焼けを遠くに見る。

 (それにしても、妙な夢だった…)

 そして僅かに眠気の残る頭で、曖昧な感覚のまま顔に手を当てながらそう考える俺。
 …あの夢の中で自分の意識はラピスと共にあったように感じられる。自分自身がラピスとなっていたわけではないが、ずっと彼女と一緒に世界を見、そして行動していた。
 そしてそんな夢の中で出会ってきた…ちょっとした知り合い、世話になっている友人、何よりも大切だった人達――――――まぁ、中には結構…ひどい扱いの奴らもいた気はするが。

 「……ふっ、ふふふっ」

 …そんな今夜の夢を思い出して、思わず口から小さな笑みが漏れる。
 以前ならきっと、想像も出来なかったことかもしれない。特に、あの頃―――復讐を終えてまもない頃の、空っぽに近かった自分には。


 ……でも、少なくとも今の自分は空っぽではない。
 自分はまだまだ生きなければならない。未だにこの身を強く焦がす絶望の残片にも、耐え切るだけの強さを身に付けていかなければならない。
 彼女たちの―――ユリカのもとへと帰れる日がくるのかどうか、今の自分にはまだわからなかったが……


 それでも、少なくともここにもう一人。





 「―――アキト」
 「…ラピス?すまなかったな、起こしてしまったみたいで」


 すぐ隣の布団の中、僅かに顔を動かしながら眠たそうな瞳で声を上げるラピス。
 俺が彼女に微笑みかけ、そっとその額を撫でてあげると……ラピスはふと天井のほうを見つめながら、静かに言ってきた。

 「アキト。私……夢を見た」
 「ん?」
 「夢の中で…ユリカに会ったの、ルリにも。エリナもアカツキも、それにアキトもいた。いないと思ってたけれど……本当はいた。
 皆ヘンな衣装を着てて、ユリカはうさぎの耳をつけてて――――」
 「……って」


 それって、もしかしなくても…………



 「ユリカは、すごく優しいヒトだった。ちょっと頼りなさそうで、けっこうぼけぼけしてて…………やっぱりすごく優しいヒト。
 ――――アキト。今は無理でも、いつか会える…?
 会えるようになるなら、私も頑張るから。精一杯努力するから。だから――――」










 「……ああ、ラピス。いつかきっと、二人でユリカに―――ルリちゃんに、会いに行こうな」



 「――――うん」














 そうして今日もゆっくりと、朝日は昇っていく。
 この世界に住まう全ての人々を、その暖かな光で余すことなく照らしつづけるために。

 そして遠く離れたどこかでも、ユリカとルリちゃんはそれぞれの朝日を見ているのだろう。





 …ふと、そんな感傷の中で寂しく、俺は思う。






 ――――今は……まだ。

 そう。まだ、今の俺には…………でも、それでも――――――





 …それでも、その遠い朝焼けが、今日の俺にはほんの少しだけ……
 きっとラピスのおかげだろう―――本当に少しだけ、近いものに感じることが出来つつあった。










 後書き

 おそらくタイトルと出だしを読まれた時点で殆どの方が想像されただろうとおりのラストになったとは思いつつ、前回に続きましての「ナデシコ迷作劇場」その2、『不思議の国のラピス』でしたが……
 一応位置付けとしましては『日々、平穏』と同系列のお話になるのですが(『ルリは無慈悲〜』だけは少し違います…でも一部同系列かも)、ラストのラストまでひたすら夢の中でファンタジーな世界を歩き回っている、微妙な話になってしまっていますね。かなり好みの分かれる話かもしれません。
 ちなみにこの話、発想のきっかけは言うまでもなく「ユリカうさぎ」でした。そこに帽子屋と、眠りねずみならぬハーリーねずみを加えて。女王様は必然的に(?)エリナさんになって、それもあってかアキトは何故かチェシャ猫になって。
 エリナとアカツキは、当初の予定よりも出番が大幅に減ってしまいましたけど…『ルリは無慈悲〜』のほうでいろいろやってますので「これでいいかな?」と思ったり。
 で、ここでこの話の中で何よりも触れておかなければならない『黒の王子様』と『過去の部屋』について少し。
 これは解釈がすっごく困るのですが……逆行否定と言うほど強いもののつもりではないです。でも、「そんなに簡単に過去って変えられるものなの?」という疑問が入っているものだと思っていただければ。(その点では管理人様の「時ナデ」はうまいなぁと思います。歴史の流れを曲げたら他の部分で変化が出てしまうという)
 王子様はどちらかと言えば、『過去に固執して前に進めない人』という感じですね。いじけた黒アキトみたいな(苦笑)
 (※尚、補足として。この話に出てきました『サレナ』は「メビウスの欠片」のサレナ・クロサキとは一切何の関連もありませんのであしからず)

 それでは、本作を読んでくださった皆様。どうもありがとうございました。






代理人の感想

うむ、おなか一杯。

ごちそう様でした(^人^)

 

 

これだけじゃ寂しいので行稼ぎをしますと、本筋とは全く関係ないしある意味どうでもいい事なんですが、

人間関係ってのは本来安易に定義づけできるものじゃないですよね。

血の繋がった「父」とか「兄」とかならともかく、「父のような人」にしろ「憧れの人」にしろ、

その内容はそれぞれの具体的な人と人との関係によって千差万別なわけです。

(さらに言えばこの場合、血縁の父とか兄とかは血縁を定義するものではあっても、必ずしも人間関係を定義するものではありません。

 端的に言えば兄弟や親子でも「敵」にはなりうると、そう言うことです)

「友人」であっても「遊び仲間」だったり「同志」だったり「知り合い」だったり「先輩後輩」だったり、

珍しいほうでは「ライバル」とか「戦友」とか「衆道仲間(おい)」とか。

さらに言えば、ある程度深い付き合いがある場合、言葉一つだけの単純な関係であることはまずありません。

作中のアキトに対するルリルリお姉さんのように

「『お父さん』であり『お兄さん』であって…それでいてちょっとだけ、『憧れの人』」

・・・・と言ったような、幾つもの言葉を連ねなければ表現できないものであり、

さらに複雑なニュアンスを含んだ何かであるものです。

ただ、それをいちいち言葉にすることは不可能ですし、通常はその必要もないので

普段は「友人」とか「恋人」とか、そういった類型で分類し、無理矢理定義づけして済ませる訳ですね。

そもそも、そう言う言葉は人間関係の理解を助けるべく、

複雑な心理の絡み合いを単純化するために生まれた側面もあったりします。

が、実際はやはりそうそう単純なものではないわけでして・・・・・・

アキト達によって人間らしさを与えられたルリや、

アキトと一心同体のラピスとかのような特殊な関係でなくても

やはりその複雑さは幾つもの物語を書けるだけの物があると思います。

今回の話では定義づけを待つことなく問いかけはうたかたに消えた訳ですが、

いずれ、ある程度はそれを断定しなくてはならなくなる時がくるでしょう。

そのときのラピスも見てみたい気はしますね。

 

余談ですが、アキトに対するルリの感情はやっぱりエレクトラ・コンプレックスの変形かな?

と個人的には思います。

その感情が成長に伴って別の何かへと発展していった可能性も大きいでしょうが、

やはり根本にあるのはそれかなと。

 

・・・そーか、だからアキト×ルリものでは母親(ユリカ)が大抵殺されるのか(爆)。