ここは北ちゃんの私室。彼女はベッドで横になっている。
今は本来のシフトであれば睡眠の時間だ。
だが機械ではないのだから、時には何かを思い煩い、眠れない者もいる。

彼女は何を想うのか・・・


「テンカワ・アキト・・・」

「・・・あいつは敵なんだ」

「なのにあのヒトの事を考えると暖かい気持ちになってしまう・・・」

「私は敵を好きになってしまったのか」

「・・・・」

「あのヒトは今何をしているんだろう・・・」

「私の事を少しは考えたりしてくれてるのかな?・・・」

「でも14歳の私の事なんか相手にしてくれないか・・・」

「・・・アキトさん・・・」

「私はアナタの事を考えると・・・」

「ああ、いけない・・・いけないの・・・こんな事しちゃ・・・」

「手が・・・私の手が・・・また私は悪い子になっちゃうよ・・・」

「あ・・・いや・・・ダメ・・・気持ちいいのぉ・・・」

「アキトさん・・・わたし・・・もう子供じゃ・・・」














「・・・舞歌殿、枕元で妙な事を口走らないでくれないか」








「異聞^2 いぶんいぶん


〜 アナザーという名の異世界体験 〜

第二話









朝、つまり北ちゃん達メインクルーへのシフトの朝である。

「まったく舞歌殿は何を考えておられるのか・・・」

北ちゃんは寝不足だ。

「『気にしないで寝てて』とはどういうつもりなのだ」

そういえばここ一週間ほど舞歌殿はいつも眠そうだったな。

「・・・深く考えないでおこう」



まだ眠いがそろそろ着替えて部屋を出ないとまずいな・・・



ピンポーン

部屋の呼び鈴が鳴る。

「おはようございます。舞歌です。昨日は良く眠れましたか?」

「おかげ様でな」

「北斗殿の戦闘スーツとパイロットスーツが完成したので試用して頂きたいのですが」

「わかった、ドアを開ける」

昨晩、舞歌を追い出してからドアのつっかえにしていた荷物をどける北ちゃん。

ドアが開くなりどやどやと入ってくる優華部隊。

「なっなんだお前ら。ここに全員そろったらブリッジは空じゃないか」

「ですが舞歌様は連日の激務でお疲れのようですし・・・」

「それ絶対違うと思うぞ」

「ままま、とりあえず持ってきたパイロットスーツを着てみてよ」

隊長の千沙殿がとりなしながら、持ってきたケースを開ける。

「ところでどうして私にはこう試作品だのが届くんだ?」

「それはもちろん北斗殿が一番過酷な戦闘をなさるからですわ」

ちょっと違う。設計者や製作者に届く発注は一般用だ。

しかし出来上がった試作品はなぜか北ちゃんにしか使えないサイズになっている。

そして北ちゃんは木連軍人の中で一番背が小さかったりする。

これは個人の意思ではない。木連全体の意思なのだ!!



何か腑に落ちないものを感じながら、パイロットスーツを着てみる北ちゃん。



「北ちゃん・・・かっこいい・・・」

「おい」

「すごいよ、こんなに似合うなんて」

「まて」

「これほどとは・・・」

「あの機体の衝撃から身体を守る為に鎧のようになってるのはわかる」

「まさに匠の技ですね」

「でもどうしてヘソが見えてるんだ?」

北ちゃんのパイロットスーツはお腹のあたりの素肌が全部露出していた!!

「肩とかは鎧が覆っているが・・・前から見たらビキニの横に出っ張りがついてるだけじゃないか」

なんとそれ以外のところも露出していた!!

「こんなのきっと地球のコミスケでも見れないよ」

「あっカメラカメラ!!」

「ヒトの話を聞かんか!!」

「地球の昔の戦闘データを参考にして作成したそうよ、素肌のそこは時空歪曲場が形成されるの。コレで鎧のかみ合わせが無くなるから軽量化と皮膚の保護が図れるわけ」

飛厘(ふぇいりん)殿が説明する。なんだか説明するのが嬉しそうなのは気のせいか?

「にしてももう少し形が・・・」

「視覚心理戦も考慮したそうよ」

「なんですか・・・それは」

「色仕掛け」

「着替えます!!」

「設計者がせっかくドリームハンターレム(麗夢)と幻夢戦記レダを参考にした傑作なのに・・・」



だが北ちゃんのクローゼットからは服が消えていた。

昨晩誰が何をしたのか、余りにも明白なこの事態に北ちゃんはその場に膝を屈した。

「今日からは出張任務ですから、あらかじめ服は洗濯に回しましたよ」

ほがらかにのたまう舞歌殿。



「まままま、ともかく、こっちの戦闘スーツは着てよね。今回の任務用なんだから」

またも隊長の千沙殿がとりなしながら、二つ目のケースを開ける。

「こっちはパーティドレス仕様なんだからワガママ言っちゃダメよ」

「・・・しかたない、任務だからな」

北ちゃんはケースの中にあるピンクの塊を見ていた。何故か少し頬が赤い。

「手伝ってあげるね」

そういいながらドレスを持つ零夜。



舞歌は座布団にちょこんと座って穏やかに見守っている。

暖かい日差しの中、妹のおめかしを微笑ましく見ているかのように。

その慈愛に満ちた神々しさはまるで・・・寝ているようだ。



「すそが長いな・・・本当に戦闘用なのか?」

スカートはゆったりしていて、そのすそは床から数センチという長さだ。

説明書にはこう書いてあった。

“足など戦闘に必要ありません。上の連中にはそれがわからんのです”

「この設計者は辞めさせたほうがいいと思うぞ」

「でもこのヒトいなくなったら残りはみんなミニスカ派よ?」

・・・この戦争、きっと負けるな。



いかん、気を取り直してこのドレスの着付けの続きをしよう。この状態は嫌だ。

今の北ちゃんは上半身は裸なのだ。やはり一人だけ半裸だと恥ずかしい。

・・・って思ってもさすがにさっぱりわからん。ここはレイちゃん頼みだな。

「え〜っとぉ、スカートの背中から出ているゆったりした二本の帯をそれぞれ左右から前に持ってきて・・・胸の上を通して胸骨で交差させて首の後ろで蝶々結びっと」



北ちゃんのそれは“おねに〜さまぁ(はぁと)”とか言い出しそうな格好であった。

「これは・・・なんとも」

「すごく似合ってるよ!!」

「うん、これなら天下を取れる」



落ち着け、平常心だ・・・



「で、上から羽織る上着は?」

「ありませ〜ん」

楽しそうに零夜がケースを逆さに振るがほこりしか出ない。

本当に楽しそうだ。



くっ我慢だ、我慢・・・



「北ちゃんはどこにいるの〜」

零夜はケースをそのまま頭にかぶってフラフラ歩いてる。



無視だ、無視!!



「ところでその包帯はどうしたのですか?ドレスですから外して頂きたいのですが」

「うむ、零夜に聞いてな、左手首に名前を書いて三日間だれにも見られなかったらそいつとフェアな状態で戦えるとの事だ。もう外せるな」

「・・・それって好きな人と両思いになれるおまじないですよ?」

「なに!?」

「確かに片思いより両思いのほうがフェアですから間違ってませんが・・・」

放心している北ちゃんの包帯をいそいそと解く零夜。

“テンカワ・アキト”

手首にはしっかりとその文字があった。

はっと我に返る北ちゃん。

「ちょっと待て!じゃあもしかして消しゴムにヤツの名前を書いて隠して使い切るのは!?」


「同じ意味です」

「玉葱の皮を燃やして煙が出ている間にヤツの名前を20回となえるのも!?」

「片思いの相手に自分の気持ちを伝えます」

「ヤツの髪と自分の髪を“ベスタラベト・コルムブティトヴィレエラ・エイウス・ムリエリス”と唱えながら何度も結んで紙の人形(ヒトガタ)に入れてエウロパの海に後ろを向いて投げ入れたのもか!?」

「良くご存知ですね」

「なら寝室の北側に「南無観世音菩薩」と書いたお札を貼ったのもそうなのだな・・・」

北ちゃんは力尽きたようにがっくりとうなだれた。

「あら、それだけは違いますね」

「そ、そうか!」

「それは早く可愛い子供に恵まれますようにという子宝の・・・」

「レイちゃんのばかぁ〜〜〜!!!」

北ちゃんは泣きながら部屋を飛び出していった。



「・・・零夜さん」

舞歌が呼びかける。

いつもと違うその雰囲気にあわてて姿勢をただす優華部隊。



「グッドですよ」(^_^)b グッ



返事に言葉は要らない・・・心は一つだ。



 d(^_^)b グッ! d(^_^)b グッ! d(^_^)b グッ!
 d(^_^)b グッ! d(^_^)b グッ! d(^_^)b グッ! d(^_^)b グッ!



ブーッ!ブーッ!ブーッ!・・・・・

突如艦内にエマージェンシーが流れると同時に舞歌に緊急コールが入る。

「舞歌殿!ご無事でしたか!!」

「何が起こったのですか!?」

「現在、北斗殿の部屋を起点に艦首へ向かって何かが移動しています!!目撃者は全て呼吸過多や意識混濁、脈拍激増などの危篤症状となって医療室がパニックになっています!!」


「・・・あー、それは大丈夫、北ちゃんだから」

「ほ、北斗殿でありますか?」

「クルーには念のために北斗殿には近づかないように放送してくれませんか?」

「り、了解しました。エマージェンシーを停止します」



「・・・視覚心理戦の効果は抜群だね」

「艦首には格納庫・・・またダリアでおこもりかな?」

「ウチのクルーにはパイロットスーツなんか見せられないね」



なんとものんびり優華部隊である。



因みにこのとき舞歌は判断を誤った。

原因が北斗である事を言ってはいけなかったのだ・・・

結局、放送が宣伝になってしまい、被害はさらに増えてしまう。



やはり舞歌は寝ていたのか!?






その後、おこもり北ちゃんを二時間かけて説得、ダリアから降ろすことに成功する。

ぐしゅぐしゅ泣きべそかいて右手で涙を拭きながら左手で舞歌におててつないで部屋まで帰る北ちゃん。

そのさまは通路ですれ違ったクルー達の人生を狂わせた。






◆□□◆ 医療室突撃インタビュー 北斗殿ってどんな人? ◆□□◆

−もう最高っす!!あの子がいればご飯におかずは要らないって言うか・・・
−え?男に興味があるのかって?バカ言っちゃいけねえ!北ちゃんは女の子だよ!!
−顔とか隠しててもわかりますよ!ちっちゃいし、華奢だし、柔らかいし。
−なんだと貴様!!俺の北ちゃんに何をしたぁ!!
−でもまあ俺たち男だらけだからすぐわかりますよ?骨格とか違うし。
−それにナチュラルに女子トイレに入りますし・・・男にゃアレは無理です。
−最近は顔隠すの忘れてますしね。
−あっ俺たちにバレてるのは内緒っすよ!北ちゃん泣いちゃうから。
−北ちゃんの幸せの為に、俺たちゃ何も見てないんです。今日の事とかもね!
−録画はしましたけど〜
−先に言わんかバカ者!!後で皆にダビングだ!!
−ま、まあ事を荒立てるより、自然に北ちゃんが慣れてくれればと・・・
−確かまだ14歳だったよな?歳の近い幼馴染の零夜殿でも16歳だし。
−まだ小さいんだしねぇ・・・俺たちが守らんでどうするよ!ってなもんです。
−舞歌殿や優華の人たちも気持ちは同じだと思いますよ。
−もっとも、可愛くてからかいまくってるみたいですけど・・・
−え?どこがそんなに可愛いかって?
−だってむさい格納庫でちっちゃいのがてくてく歩いて来るんですよ?
−背伸びして「んしょ」っていいながらダリアのコックピットに入るし。
−俺たち作業員の説明も一生懸命に聞いてくれますし。
−背が頭一つ違うから作業員同士が北ちゃんの頭越しにそのまま喋ったら「むー」って怒るし
−俺は説明書覚えるのに目をつぶって声に出して暗記してるの見たぞ。
−徹夜で修理してた時におむすび作って差し入れしてくれたのは泣いたなぁ・・・
−俺だってすごいぞ、おれはなぁ・・・・

この後“俺の北ちゃん自慢”は一時間後に舞歌に怒られるまで続いた。



一方、北ちゃんは何とか普段の状態に戻っていた。舞歌につれられて戻ったら

私室に残っていた千沙達が、ドレスの上着用に小さいローブを縫い上げていたのだ。

ここらへんの気配り上手はさすが隊長。お姉さん達の面目躍如である。



ただし裏地の“売約済:テンカワ・アキト様”は秘密だ。



さて、そんなこんなでやっと地球近傍までたどり着く。

ここまでに今日はイレギュラーな事件が二つ起こったが問題ない。

最初っから三時間は余裕を見て作戦行動している。旅行の基本だ。

・・・本当に軍隊なのだろうか?



主要なメンバーは、用意されていた偽装船に乗り換え更に目的地を目指す。

その中で北斗は今回の作戦の概要、および注意点の説明を受ける。



「本日、L1コロニーのオトタチバナでナデシコを歓待するパーティーが催されます」

「またパーティーか・・・のんきな事だ」

「主催は“漆黒の戦神ファンクラブ”ですから、北斗殿も十分参加資格がありますね」

「どういう意味だ!!」

「ですが一般参加ではターゲットに近づく事も容易ではないため、招待客として参加します」

「それでこのドレスか」

「今回は架空の小国、ヴァルナ王国のミル王女として参加していただきます」

「バレないのか?架空の国のお姫様の名をかたるなんて」

「大丈夫です」

「ならいいが・・・」

ふいに飛厘はどこかを見てつぶやく。

「・・・いいのか?その名前」

まずいかもしれない。



「あっそうそう、北ちゃん、はいコレ」

唐突に話の腰を折って突撃してくる零夜。

「なんだ、そのテンカワ・アキトの写真は」

「アキトさまの写真が痛んできた頃だと思いまして」

「確かにいつも恨みとかの感情をぶつけるからな」

「だめだよぉ〜北ちゃんには観賞用と保存用とえっち用に三枚ないと」

「ヘンな言い方するな!!!」

ひとり上手もほどほどにね〜」

「してませんっ!!!」



でもついうっかりトイレに写真を持ち込んでしまうのはひみつのないしょだ。

−ど、どんなときでもひるまないための訓練だ!!


北ちゃんはイケない階段を着実に進んでいた!!





一通りのブリーフィングも済み、優華の面々は偽装船での仮の業務につく。

そのころ北斗は別室で舞歌に厳しい立ち振る舞いの特訓を受けていた。



「いいですか?感情表現の基本は“うきゅう”です。

 これに変化をつけて“うっきゅう!!”とか“うきゅ?”と多彩に表現します。出来ますね?」

「出来るかぁっ!!!」



厳しい特訓は続く。





そして厳しい検問も難とか通り過ぎ、パーティー会場に潜入する北ちゃん。

ここからは北ちゃん一人だ。



「潜入はうまく行ったようだな・・・」

皆北ちゃんに挨拶ととりとめのない会話を交わしていく。

なんと言っても招待客達は体裁も責任もある重要人物ばかりだ。

彼らには「聴いたこともない国だ」などといえるはずもない。

相手が悪ければいきなり全面戦争である。

もっとも北ちゃんと会話をした人々はそろって目尻が下がっていたりするが。

元気な孫娘を見る思いだろうか。

二階の招待客会場はなんだか北ちゃんを中心に萌え指数が急上昇である。



因みにこの北ちゃん、不思議と女性のフリが自然である。

フリというより、逆に肩肘張らずに力を抜いた自然な姿にも見える。



階下の公園広場からは、アキトがナデシコの女性クルーに囲まれてさらにその外から

一般のファンが集まっている嬌声が聞こえる。

その黄色い声にまぶしいものを感じながら、作戦のことを思い出す。



問題ない、あの声を避けて移動すればテンカワに会わずに任務遂行できる・・・



雑念を振り払うと、北ちゃんは再度、パーティーの雑談に紛れ込んでゆく。



「あの、申し訳ありません、西欧方面のグラシス将軍はどちらに居られるかご存知の方はおられますでしょうか?まだご挨拶が出来ておりませんので・・・」

「ああ、彼らなら向こうのエントランスホールに移動していたよ」

「ありがとうございます。では皆さん、申し訳ありませんがご挨拶にいきたいと思いますので・・・」

軽く会釈をすると北ちゃんはその場を後にした。

ターゲットはエントランスか・・・あんな大物がエントランスに移動とは・・・

下品にならないようと気を取られていて、途中で小柄で恰幅のいい老人とぶつかる。

どんっ

「きゃんっ!」

「おっと、お怪我はありませんかな?お嬢さん」

「ご、ごめんなさい、余所見をしてしまって・・・失礼を・・・」

「いやいや、この歳になりますと若いご婦人とはなかなか縁がありませんからな」

くすくす・・・それでしたら、お詫びのしるしに後でダンスのお相手をして差し上げますわ」

「これは望外の喜びでございます、お嬢さま」

おどけて慇懃に礼のしぐさをする老人。二人で笑いあった後、北斗はその場を辞する。

「今のが例の娘ですか。どうでした、会長?」

「うむ、なんともすかすがしい・・・いいだ」

「会長?」

「実に可愛い胸だ。小さいくせに立派に存在を自己主張しとる」

「おい、誰か呼んで来い!!会長が壊れたぞ!!



北斗は強い。知らないおじいさんも秒殺だ。




そうこうしてやっとエントランスホールのグラシス将軍を見つけた。

誰かの救急車のサイレンも遠くなって聞こえない。

北ちゃんは息を整えてから・・・声をかける。

「もし?・・そちらに居られるのはグラシス将軍でございますか?」

将軍は、資料とは違う温和な表情でこちらを見ようと振り向いた。

そして・・・



テンカワ・アキト!!



何故ヤツが!!



いきなり辺りの気配が変わる。

アキトについてきたナデシコのクルーたちもこっちに気づく。



くそっ失敗か!!



北ちゃんはその場から逃走した。背後から混乱した怒号が聞こえる。



ダリアだ・・・ダリアに・・・!!



行きの船とは別に搬入したダリアのある宙港へと急ぐ。






何とかダリアに乗り込み、宇宙へ脱出する北ちゃん。

パーティーで一般人が大量に居たのが幸いしたらしい。

ことごとくが宇宙船へ避難したため、その混乱から戦艦が抜け出せないのだ。

その中をやすやすと通り抜ける北ちゃん。

この騒ぎなら、舞歌殿達も逃げ出せたな・・・

しかし安堵もつかの間、目の前にはブローディア・・・ナデシコのエステバリス達が居た。

楽には抜けさせてくれないか・・・

気分が高揚するのを抑えながら、北ちゃんはダリアをその中に突入させていった。



しかし戦闘も長丁場になると疲れからパターンが出来て逆に戦闘に余裕が出てくる。



「・・・なあ、北斗、一つ聞いていいか?」

「なんだ!!くっ!」

「なんでピンクで半裸のひらひらドレスのままなんだ?」

「・・・・」

「パイロットスーツは無いのか?」

北斗の背後には甲冑らしきものが見えていた。

「うるさい!!」

女の子には言えない訳もあるのだ。

「いや、目のやり場に・・・」

着替えたらもっと困ると思うぞ。



「なら通信を切れ!!」

あまりの剣幕に慌てて通信切断するアキト。



その後数十分にわたって、壮絶な戦闘が繰り広げられた。



ダリアは戦う。


「ええいっくそっ!!どうしてテンカワにあたらない!!」

「北斗殿?」

「戦闘中に話し掛けるな!!」

「目をつぶったら当たらないと思いますけど・・・」

「し、心眼だ!!」

「・・・テンカワ殿の時だけですか?」



ブローディアも戦う。


「アキトさん!なにやってんですか!!」

「いや、とりあえず中破くらいはなってあげようかと・・・」

ドカン!!

「アカツキさんまで!!!」

「僕は違うん」

「知りません!!そのまま酸素が切れるまで反省しててください!!」

「はは・・・死んでこいって事だね・・・」




ダリアとブローディア、二つの機体には他に無い大きな特徴が有る。

無限にエネルギーを供給するエンジンのおかげでいくらでも戦えるのだ。

だがそのせいで二人の戦いはナデシコのエネルギーフィールドを超えて

はるか虚空での二人だけの戦いとなっていった。



これから二人だけの孤独な戦いが始まる。

・・・その内容は誰も知らない。

・・・私も知らない。











「気が付いたか」

「ここは・・・」

見慣れたコックピット、だが妙に違和感を覚える。

北ちゃんはコックピットに座り、アキトがその傍らにいる。

その表情にはホッとした安堵の色が見える。

「俺のブローディアの中だ」

「私を助けたのか」

アキトの機影が点にも見えないところまで吹き飛ばされた筈だった。

アサルトピットの気密が破れ、意識が消失したところで記憶が途切れていた。

「私は負けたのだな・・・」

不意を・・・不意を突いたつもりだった。

確かに不意は突いた。

その見返りに北ちゃんはアキトの本能の条件反射を見た。

意識の抑制を離れた、アキトの本当の実力。

完敗だった。

あの時とどめの2射を撃てば北ちゃんは消し飛んでいたはずだった。

「何故助けた」

「さあな」

あの後アキトはダリアを追い、そして見つけた。

だが近接戦闘距離に入っても全く反応しないダリアに有線接続をしたところ、

即座にコックピットの情報がなだれ込んできたのだ。

炉心の緊急停止、蓄熱異常、全力で生成する酸素にもかかわらず低下していく

気圧と酸素濃度。そして気を失って浮遊する北ちゃん・・・



アキトは躊躇した。

いま助けていつか再戦しても、彼女はもうアキトに勝てないだろう。

ここで助けるのは、結局彼女の命と争闘心を自分がもてあそんでいる事になる。



映像の中では空気の流れでドレスのすそがゆらゆらとたなびく。

その手前にはどこかを怪我したらしい血の水滴が宙を舞っている。

そして血の水滴が・・・数秒で沸騰、蒸発し、氷結した。

その映像が、その惨状が、彼の迷いを吹き飛ばす。



ばかやろう!!彼女はまだ生きてるんじゃないか!!



もう一刻の猶予も無い。



数秒後には内圧で肺が、全身の体液が沸騰して体中が、破裂する。



ブローディアをダリアに取り付かせると、アキトはCCを握り締め、

ダリアのコックピットにジャンプした。

極寒のなか彼女を抱きかかえると、遠隔指示でブローディアの

コックピットを開け、非常用備蓄酸素を全て放出させる。

そしてダリアのコックピットを開け、アキトはブローディアに向かって飛び上がる。

そこにあるはずの酸素の道、はかない命綱を手繰って。



助けたかったから助けた。簡単に言えばそういうことだ。



言う必要も無い。

いまさら悪びれるのも無駄だ。

北ちゃんは気密など問題外のドレス姿なのだ。

それなのに今はブローディアの中にいる。

北ちゃんを助けるためにアキトが何をしたのか容易に想像できる。

アキトは自分の命をチップにして北ちゃんを助ける賭けをしたのだ。

失敗してコックピットに戻っても、そこには酸素が残っていないかもしれない。

それは損得勘定で出来ることではなかった。



「なぜコックピットに座らせた」

「怪我の手当てをしたかったから」

見てみると右手の甲を打ち付けたときの傷が手当てされていた。

・・・たいした怪我ではないのに・・・

「このまま私の味方の艦に向かうかもしれないぞ」

「酸素を再充填させた時に炉心の制御装置が壊れた。今は生命維持モードだな」

「お前をここで倒すかもしれないぞ」

「こんな状態で戦闘したら二人ともお陀仏さ」

「こっちの味方が先に到着するかもしれない」

「ここは地球の制空圏だし軌道修正でダリアを投げ飛ばした。単体のブローディアに木連は寄ってこないよ」

「ならもし私が・・・」



会話がだんだん取り留めの無いものになっていく。

私の口調が妙に上ずっているのをこいつは気がついているだろうか・・・

気づいていたら・・・ちょっと恥ずかしいな。

それを隠したくて意味の無い会話を続けてしまう。



途中、北ちゃんが「戦場に出た女が負けるとどういう目に会うのかは知っている。覚悟は出来ている。お前は私を自由にする権利がある」と言ったらアキトが狼狽した。

その姿に、なんだか負けた気持ちもどうでもいいことに思えてきた。

そのあと「やはり私には魅力はないか・・・」と呟いてみると今度はアキトが必死に取り繕う。

私を打ち負かした相手なのに、なんだかかわいいと思ってしまう。

とうとう私はこらえきれずに笑い出してしまった。



そして数時間が過ぎ、自分の今後の処遇から、二人の戦闘のクセ、ナデシコクルーの性格、果てはアキトの家族構成まで話が及び、話せることはほとんど話し尽くした二人の間には、穏やかな沈黙が流れていた。



不意に北ちゃんが言い放つ。

「アキト、向こうを向いてくれ」

「えっなんで?」

「いいから向け!!」

北ちゃんはアキトの頭を両手でつかんで無理やりねじる。

おかげでアキトの目には側面の計器が良く見えた。鼻が痛いが。

背後でモゾモゾと不信な気配がする。北ちゃんを見ようと・・・

「こっち見るな!!」

「はいぃ!!」

その口調に生命の危機を感じたアキトは再び計器の確認にいそしむ。



「おしっこ」

・・・・・・はい?

「おしっこ」

「あ、あの北・・・」

「うるさい!!」

「で、でも」

「しょうがないだろ!今日は戦闘する予定じゃなかったんだ!慣れないこんな格好じゃお腹も冷えるし・・・」


アキトは気配に敏感である。

背後では真っ赤になっている北ちゃんの気配がビンビンだ!!



北ちゃんはなんとか気持ちを落ち着かせる。

・・・大丈夫だ、こういうときのために毎日訓練してきたんだ!!


そうなのか!?







「・・・おしっこ!」






「あの・・・俺が言わないと音声入力は効かないんだけど・・・ブローディアだし」













「そういうことは先にいえ!!」



「・・・ゴメン」

女性の正義に理屈は通用しない。



改めてコンソールのマイクにアキトが冷静を装いつつ音声入力する。

「おしっこ」



するとシートが移動して準備が整う。

一瞬、北ちゃんの膝になにやら縮れた三角形の・・・俺は見てないぞ!!

「絶対に見るなよ?」

・・・ゴメン、もう遅いとは言えない。

「ん、と・・・・・・」

がしゅううぅんんん・・・・

いきなり機内がブラックアウトし、闇に包まれるブローディア。

「な・・・に?どうしたの?」

慌てて復旧するアキト。

「ダメだ・・・今のバキュームの始動で一気に備蓄エネルギーが枯渇した」

重力制御も切れ、灯りと酸素生成のみに切り替える。

「そ、そんな!だってこっちはもう準備が!」

「でも無重力なんだよ?空気循環器やコンソールがショートしたら二人とも死んでしまう!!」

「だめだよ、も・・もう我慢が・・・」

「・・・仕方が無い」

思いつめた表情で北ちゃんになにやら耳打ちするアキト。

「え!?だってそんな??」

「仕方ないじゃないか」

「だっダメ!ダメだよぉ・・・」

暫らく二人はもめるが声が小さすぎて聞き取れない。

少しして二人はなにやら謎の体勢をとった。

何かが切迫していて抵抗できない北ちゃんにアキトが強引に行動したようだ。


おいこらアキト!貴様北ちゃんに何をしている!?


肝心のアキトは、スカートのすそに隠れてここからでは良く見えない。

フットペダルにあった北ちゃんの両足は何故か空中に投げ出されていた。

それは何かを必死に耐えるように逃げるようにゆらゆらとさまよう。

「こんなのダ・・・・・・ぁ・・ぁぁ・・・」

ついに何かに耐えられなくなったのか、暫らくすると両足をふるふると小さく震わせた。

その後ナデシコに救助されるまで、その場にはただ気まずい沈黙だけが流れていた。

何が起こったのか全く謎である。



ナデシコでは、北ちゃんが乗っているこの事態に、格納庫は騒然となったが、
北ちゃんのあまりのおとなしさに皆拍子抜けしていた。

特にブローディアからアキトに抱きかかえられて降りてくるさまは、
弱弱しいお姫様のようでもあったという。

アキトの態度から危険は無いと判断したクルーは、
とりあえず彼女を軟禁するために格納庫からの移動を促した。



するとそれまでアキトにつかず離れず微妙な位置にいた北ちゃんはうつむく。

驚いたミナトは彼女を慰めようとする。

彼女は胸中の決意を小さくつぶやいた。


「・・・もう戻れない・・・」





予告
またしても強制的に秘密の大人の階段を登ってしまった北ちゃんの運命は!?
このままとんでもない世界に行ってしまうのか!?
今度はヤマ無しオチ無しほんわかシナリオって正気か!?



次回「同棲時代」

光学迷彩文章 後書きの後に読んでね

この話の副題は◆ホットの“冷たい方程式”◆でした・・・オチとネタがバレバレ(^^;

北ちゃん14歳      
前回の話を考えてたときに考えた設定。当時の結論はこうである。
・・・よし、14歳なら飲めるぞ!(なにがだ)    
13歳の案も心惹かれたけど恋愛が可能なギリギリという意味でも14歳です。
そんなわけで舞歌や優華はみんなお姉さんなんです。18歳くらいかな?
レイちゃんは16歳。幼馴染が4歳離れてたら口で勝てないから。

おまじないのこと
この前TVで特集やってたけどアレより前に考えて、資料集めも先にしてます。
出し抜かれたみたいでなんか悔しいの・・・(^^;  
全部ホンモノ。呪文を唱えるヤツは三つのおまじないを合成してます。
でもこれはゾッとしました。彼の髪の毛と蝶々結びとかなら可愛いと思いますが
暗闇で一人で何度も何度も何度も結びつける・・・その意思というか怨念というか・・・すっごくコワい。
“おまじない”=“お呪い”を実感しました。

☆血液が蒸発して氷結。
ソコまで気圧が落ちたら北ちゃん死んでる、とか深く考えちゃいけません。
☆極寒の中
極低温の筈だがその寒さを体感できるかは知らない。どうなんでしょ?


後書き
またか?またなのか!?
アレだけ前フリしてオチはまたこれか!?
ママン、僕もう疲れたよ・・・

それはともかく。

北ちゃんがどんな格好してたのかよくわからない人は是非Infoseekとかで探してください。
ミル・ヴァルナ王女様の出自は“MAZE爆熱時空 (C)あかほりさとる”です。念のため。
確認できたら、コレ書いたヤツの壊れッぷりが良くわかると思います(笑)

因みに参考にしたのは“レム”であって“麗夢”ではないです。
ここらへんのこだわりにニヤリとしたアナタは終わってると思ふ。

今度も続きませんからね(^^;

これで北ちゃん票が下がったらどうしよう(^^;;;

こんなのにでも感想メールとか“続きを書け馬鹿者!”メールとか
くださるありがたいヒトは性別・年齢(地球換算)も書いてくださいね。
未成年は嘘書いたらダメですよぉ。いや特に意味は無いです。はい。

うう、やっとほかの人のSSとか録画とか見れる。
影響受けまくるから情報遮断してたの。3週間以上(T_T)
ネタかぶりしてたらゴメンなさいです。

なぜなに“いぶんいぶん”

☆戦闘スーツってなんだったの?
意味はあるんだ!でも説明部分をグラシスじいさんのセリフごと削っちゃいました。

☆舞歌達とナデシコ陣営って敵対してるの?
そんな小さなことは考えてはいけない。
でないと次回で舞歌とグラシスがダンス踊ってたらついていけないぞ。
コレはそういう話だ。

みんな!
小さいお友達は小さいことなんか気にしちゃダメだ!
大人は優しい見守る目を持たなきゃいけないぞ!

 

 

 

管理人の感想

 

 

もものきの犬さんから投稿第三弾です!!

ははは、壊れてるよ皆な(笑)

しかし、アキト・・・お前余裕だな(苦笑)

まあ、相手は14歳で美少女だね〜

しかも、売約済みだし(爆)

絶対に遊んでるよ、優華部隊の面々(笑)

 

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