目覚めると、そこは熱かった。
…………無茶苦茶汗をかいている。
物凄くだるい身体を無理矢理起こす。
………原因はつけっぱなしのコタツで眠っていた事だった。
しかも何故か、両隣ではコタツに入ってゲームをしている輩がいた。
「どっから入ってきた、おまえら?」
「どっからって玄関からに決まってるやないか。
それにしてもアキやん、もう夕方やでいつまで寝てたんや?」
そういえば、窓から夕日が………。
「お、やっと起きたか寝ぼすけめ。
そろそろ小腹が減ったからラーメンでも作ってくれ」
「………なんで俺が」
起き抜けにラーメン作ってくれって、普通なら切れるぞ。
「いや、俺は小猿を倒すので精一杯だから」
「だぁぁぁれが、小猿やぁぁぁぁ!!」
そう叫ぶと、コントローラーのボタンを鬼のように連打する。
「喰らえっ!!必殺、錫杖地獄突きEX!!!」
「……隙有り過ぎ、カウンターでアイアンクローっと」
ゲームの中で、錫杖をぶん回していた夜天光が、
アルストロメリアに頭を砕かれた。
「ああああああ!!
なんやその地味な技はっ!!
やるならもっと超必でも使えやボケェェェ!!!」
「知るか、戦いは隙を見せずにこつこつとがモットーだ。
少しは学習しろ、このマイクロ猿」
…………マイクロって、そこまで言うか。
「うがぁぁぁぁぁぁ!!
もうゆるさんわ、リアルで勝負つけたるはボケェェェ!!!」
「ふむ、まあたまには健康の為に身体を動かしておくか」
コースケとカズミがリアルファイトをしている間、
俺はキッチンでラーメンを作る事にした。
「真空プラズマ竜巻チョップッ!!!」
「ボディ、ボディ、ローキック、ボディ」
ドスッ、バキッ、ズダンッ、ズブシュッ!!
…………いや、巻き込まれるのやだし。
「おーい、出来たぞ特製テンカワラーメン」
「おう、こっちもちょうど終わった所だ」
「ぁぁぁぁ、首がぁぁぁ、顎がぁぁぁぁ」
めいっぱい散らかった部屋の隅で、コースケが悶えていた。
「はあ、後でちゃんと片付けてくれよ。
…………で、結果は?」
「ボディとローキックでダウンした所をキャメルクラッチで勝利」
「またしても、地味な技使いやがってぇぇぇぇ」
地獄から湧き出るような声を上げるコースケ。
「……とりあえずラーメン食べてくれ、のびるから」
「ん、アキトのラーメンも久しぶりだしな」
「うす、いただきやす」
ラーメンも食べ終わり、一息ついた時、
唐突にコースケが口を開いた。
「なあ、アキやん……」
「……ん?」
「なんで…………現実に戻ってきたんや?」
「そーだな、俺も疑問に思っている。
あのまま夢の中にいたとしても、不都合は何もないだろう?」
カズミも同じように聞いてくる。
…………そういえば、
「そういえばなんで、カズミもコースケも、
俺の夢の中に入ってこれたんだ?」
そうだ………カズミも、コースケも、
元々はこっちで出来た最後の友達だったはずだ。
「それはほら、『図書館』の『あいつ』のおかげや」
「コースケ達も『彼』にあった事があるのか?」
「っていうか、元々な、これ」
そういってコースケは一枚のカードを取り出す。
それはあの時、図書館に入る前に手にした図書カード。
………そうだ、本当はその図書カードを返す為に図書室に入ったんだ。
「これ本当はわいのなんや。
図書館に入るためのフリーパスって奴でな。
まあ、わい自体は『あいつ』とは知り合いの知り合いって感じやな」
「………コースケって本当に変な人脈持ってるよな」
なるほど、『彼』ならそういう非常識な事も出来そうだな。
「けど無茶するなよな、もし俺が夢を選んでいたら、
お前らも永遠に夢の中を生きる事になってたかもしれないんだぞ」
「言っただろ?俺たちだってこの世で一番大切な人を無くしてるって。
別に友情だけで無謀な事をしたわけじゃないんだ。
もしかしたら俺たちも、亡くしたものをつかめるんじゃないかって」
「せやせや、夢でも幸せを見れただけ結構嬉しかったで。
わいらとしてはずっとあそこにいてもいいと思うとったのに」
理解に苦しむといった感じで、二人とも肩を竦める。
………まあ、『俺』が幸せになるんならそれが良かったんだろうけど。
「………強迫観念ってやつかな」
「「はっ?!」」
「ほら、幸せすぎると人間って不安になるだろ。
人って不憫だから、不幸を感じなければ幸せすらわからない。
あの夢の中だって例外じゃない………不幸がなくちゃ幸せは成り立たない。
だから俺が不幸を被る、そうすれば少なくとも俺の周りは幸せでいられる。
結局俺は、幸せを享受出来ない人間なんだ」
「そんならなにか、自分は幸せにならなくていいっちゅうんかっ!?
んなアホな!!自己犠牲も大概にせいやっ!!」
コースケは呆れ、怒り、理解不能といった感じで首を振っている。
「別に幸せじゃなければ生きていけないって訳じゃない。
それよりも周りが不幸になる事のほうが嫌なだけさ。
それこそ死にたくなるほどに、ね」
「周りが幸せにならなければ自分も幸せになれない。
だが、自分まで幸せになってしまったら周りが幸せを認識できなくなる。
だから自分はあえて不幸でいることでバランスを保とうとする。
………凄まじく病んでるな、しかもかなり捻じ曲がって。
どう考えても狂ってるし間違ってるだろう?」
まあ、そこらへんは俺も理解しているし。
それでも俺が『生きる』為には、その道しかなかったから。
「まっ、つまりアキやんが満足するには、
とりあえずわいらがそれなりに幸せになる事で…」
「そして俺たちが死んだら別の友達を幸せにするっと。
なんか御伽話の『魔法使い』みたいだな」
そーだな、俺もなんでこんな奴になっちゃったんだろう。
他人の事ばっかり考えて、
それもそうしなければ自分が保てないからで、
日々はいつしか破綻し、
引き伸ばされた物語はやがて酷く面白くないものに変わってしまった。
だから、気晴らしにありえない夢を見ていたのかもしれない。
だが、それももう醒めてしまった。
これからはまた面白くない物語を綴るとしよう。
そう、終われない御伽話を…………
………Incomplete Error………ENDLESS
………………Distraction Days Dream………END
後書き
これにて完結しました、ディストラクション デイズ(ドリーム)、自称3D。
なんかアキトくんの性格とかおかしいかもしれないですけど、
案外、時ナデのアキトを極端にするとこんな感じじゃないかなーと。
ちなみにカズミの大切な人は妹、コースケは両親。
図書館とかは次元間ボソンジャンプの座標認識に使うとか変な裏設定があったです。
元々はキャラが寿命で死んだらやだなっていう鬱な考えから生まれました。
キャラクターを生きていると称するからには責任持って死なせよう。
………でも好きなキャラはいつまでも生きていて欲しいジレンマ。
そんな私の精神状態がこんなSSを生みました。
本文でそんな雰囲気が1%でも伝わってれば本望です。
それでは、読んでいただきありがとうございました。
代理人の感想
・・・・・いや、お見事。(ふうっ)
最初逆行物、次に夢オチと見せかけておいて、
実は「ハッピーエンドのその後」と言う、ある意味物語の構造自体をネタにした作品だった訳ですね。
(普通の後日譚と違うのは「物語の外」からの視点でそれを見ている点です)
物語は(例えハッピーエンドでなくても)必ずエンドマークがついて終わります。
始まりがあって、終わりがあって、そこで初めて一つの「物語」として成立する訳です。
キャラクターでもそれは同じ事で、
「始まったからには終わらなければならない」
「生きたからには死ななければならない」
「でも好きなキャラには生きていて欲しい」
「面白い物語には終わらないでいて欲しい」
この話ではそういった無識さんのジレンマが表現されていたのをしっかりと感じる事ができました。
以下余談。
「ああ、いい人生だった!」とか、「我が生涯に一片の悔いなし!」とか、
そういうセリフを吐いて死ねるなら、例え天寿を全うする事が出来なくともその人(キャラ)は幸せでしょう。
(作中でも「納得のいく死に方」と表現されていますよね)
ただ、個人的には葛飾北斎みたいに「後十年、いや五年生きる事が出来たならば・・・・」という、
ある意味貪欲なまでの求道も「納得のいく死に方」では多分ないにせよ嫌いではありません。
(尤も対象が求道でも財産でも命自体であっても、『執着』である事に変わりはないんですが)
ずっと上を(あるいは現在の維持を)追い求め、満たされない執着を抱き続けるのと
自分の境遇に満足を覚えるのと。
さて、どちらが幸せなんでしょうかね。