Distraction Days

 SOMEDAY2

 

 

 

 こたつは暖かい。

 時代遅れとか、よく言われるが、

 そんな事を言う奴らはこの良さをわかろうとしないだけだ。

 身体というものは、足が暖かくなれば全体が暖かくなる。

 しかもそれがテーブルの形をしている。

 なんてすばらしい発明だろうか。

 

 そのこたつに入って俺は………、

 

「いっっけぇぇぇぇ!!ハイパー錫杖アタックっ!!」

 

 コースケとゲームをしていたりするのだった。

 

 

 

 火星を舞台に俺のブラックサレナとコースケの夜天光が駆け回っている。

 しかし………俺も現金なものだな。

 カラーリングが赤から黒に変わっただけで、

 北辰の夜天光とは別物に見えて、平静でいられる。

 それとも………あの頃の恨みも……薄れてしまったのかな。

 

「……二人とも、メシ出来たぞ」

 

 キッチンからこの部屋の主が話し掛けてくる。

 

「へーい」

 

 コースケが返事をしてゲームの電源を切る。

 ちなみに勝率は6対4で俺の勝ち越し。

 そして部屋の主……カズミが湯気の上がっているメシを持ってくる。

 

「ほら、カップラーメン、カップうどん、カップそば。

 どれでも好きなのを選べ」

 

「あっ!わい、きつねな〜」

 

「ほいっ、アキトはいつも通り中華だな」

 

「ああ」

 

 そういってカズミはカップラーメンを渡してくる。

 

「いただきまーす……って、なんでお揚げがそばに入ってんねんっ!」

 

 箸を割り、麺を食べ始める。

 

「ああ、こっそり具を入れ替えておいた。

 でもいいだろ?それはきつねそばなんだから」

 

 味が無い………この感覚にもすっかり慣れてしまったな。

 

「なにいってるんやっ!関西ではうどんにお揚げできつねうどんっ!

 そばにお揚げでたぬきそばやっちゅうねんっ!」

 

 しかし、味を気にしなければカップ製品って便利なんだな。

 

「……おまえ、関西出身じゃないだろうが」

 

 まあ、炭水化物だけでは生きていけないけど。

 

「そんなもん、今は些細な問題やっ!!」

 

 

 

「二人とも……麺のびるよ」

 

 

 

 

 よく俺とコースケはカズミの家に遊びに来る。

 今の寒い時期に、こたつがあるのはカズミの家だけだし、

 なにより……一人では何もする事が無いしな。

 この頃はバイトで忙しかったみたいだから遠慮していたけど、

 偶然カズミを見つけた時が休みだったので、

 二人で上がりこんでしまったのだ。

 

「しっかし大変だよね、カズやんはバイトバイトで、

 ………妹さんの入院費やっけ」

 

 ………そう。

 両親のいないカズミは一人で、

 病にかかっている妹の入院費を稼いでいる。

 詳しくは知らないけど、本当に大切な妹なのだろう。

 ……少し、ルリちゃんやラピスを思い出すな。

 

 けれどカズミは………、

 

「……まあ、辛いなんて思った事は無いよ。

 ………迷惑かけてくれる内が華だからな」

 

 妹の話しをしている時はいつも、

 悲しいような嬉しいような表情をする………。

 

 

「……ありゃ?もう八時か……。

 ほんじゃ、わいはそろそろ帰るわ」

 

 そういってコースケは、持ってきたゲーム機をリュックに入れ始める。

 

 コースケも、親を大切にしている。

 門限は必ず守るし、将来も親の後を継ぐみたいだ。

 そしてコースケも………、

 

「門限九時って……コースケも大変だね」

 

「う〜ん、まあ、親孝行も出来る時にやっとかな、しゃあないしな」

 

 親の話をすると、

 悲しいような嬉しいような表情をする。

 

 

 まるで二人とも………壊れ物を扱うように。

 

 

 

 

「………よし、邪魔者はいなくなったな」

 

 そう言うとカズミは、煙草を取り出して吸い始める。

 コースケが煙草が嫌いだから、律儀に我慢していたのだ。

 

「……なんだよアキト?いきなりニヤニヤして」

 

「えっ……あっ、ああ、カズミは煙草好きだなって」

 

 別に嘘ではない、俺が煙草を吸い始めたのもカズミが原因だし。

 

「………アキト、俺の嫌いな物……知ってるだろ?」

 

「ああ、確か………毒にも薬にもならない物、だっけ」

 

「そうだ……煙草はな、

 ………毒だから吸ってるのさ」

 

 そういって、にやりと笑った。

 

 

「俺も、アキトに聞きたい事があるよ」

 

「……なに?」

 

「お前は………いったい何に悩んでいるんだ?」

 

 カズミは、いつに無く真剣な目で、俺を見つめている。

 

「ゲーセンで最初に会ったときから気になっていたんだ。

 お前が四六時中悩んでるように見えてな。

 ……多分コースケも気になってるぞ。

 性格的に、あいつは自分からは言い出さないがな」

 

「……別に、悩んでなんかいないよ」

 

 そう、ただ…………絶望しているだけ。

 

 カズミは溜め息をつく。

 

「カラ元気も元気という………せめて、嘘で笑え」

 

「そうかな?……自分では結構笑っていると思うけど」

 

 文字通り、仮面みたいな笑みだけど。

 

「いいや、俺はいつも、

 ………心からの悲しい笑みしか見た事ないよ」

 

 

 

「……今日はやけにつっかかってくるね、どうしたの?」

 

「………俺達は友達だろ。

 心配するのは当然の事だ。

 それに………蛇の道は蛇って、よく言うだろ」

 

 

 それが、今日の俺とカズミの最後の会話だった。

 静かな沈黙の後、無言で俺はカズミの部屋を出て行った。

 友達なんて言葉は………今の俺には重すぎた。

 みんなを裏切ってしまった………俺には………。

 

 

 

 

 

 翌日、俺はほとんど惰性で、ゲームセンターに来ていた。

 まだ、コースケも来ていない。

 ……もしカズミが来たら、なんて顔で会えば良いんだろう。

 そんな事を思いながら俺は、初めてみる学生さん達を相手にしていた。

 知らない制服……もっとも、もう行ってない、

 自分の高校の制服しか、俺は知らないが。

 そうこうしている内に、四人抜きを果たす。

 

「ぐわーっ!パーフェクトで負けたー!」

 

「やっぱサイトウじゃだめだったか……、

 しょうがねぇ、大将、頼んだぞっ!」

 

「おうっ!!」

 

 そういって相手が機体を選択してくる。

 ん?………隠し機体のゲキガンガーじゃないか。

 隠しといっても、性能は最弱。

 実際に使ってくる奴を見たのは初めてだ。

 

 READY………GO!!!

 

 

 

 ………強い。

 さっきまでの奴らの比じゃない。

 うまく小技でこっちの進路を限定させて、

 ここぞという所で大技を放ってくる。

 良くゲキガンガーでここまでやるもんだ。

 実際、さっきはよけきれなくて片腕を一本犠牲にしてしまった。

 

 YOU WIN!!

 

 もっとも、負けるようなへまはしなかったがね。

 それにしても、どんな奴なんだろう?

 

「だーーー!ヤマダでもだめだったかっ!」

 

 ………………ヤマダ?

 

「ジロウもエステバリスとか使えば良いのによ〜」

 

 …………………ジロウ?

 

「うっせー!ゲキガンガーで勝つのが俺のポリシーだっ!!」

 

 ……………………この声っ?!!

 

 慌てて、対面のゲーム機の相手を見る。

 

 まさか………まさか、まさか、まさかっ!

 

 そこには………、

 

「おっ!お前が噂のテンカワか」

 

 そこには、記憶通りの暑苦しい顔の、ガイが……!

 

「いいか……このヤマダ ジロウ、腕を磨いてまた挑戦するからなっ!!」

 

 

 …………………………………え?

 

 

 そう言うと、ガイは同じ制服を着た四人と帰ろうとした。

 

「………ちょっ、ちょっと待ったっ!!」

 

 思わず呼び止めてしまう。

 

「ん?」

 

 怪訝そうな顔で振り向く。

 

「…………名前…………………ガイじゃないのか?」

 

「…………誰だそりゃ?」

 

 そう言って、ガイ達は帰っていった………。

 

 

 

 ……………なぜ?

 ガイだろ?

 制服は着ていたけど、どっからどう見てもガイじゃないか。

 そりゃ確かに本名はヤマダ ジロウさ。

 でも………自分でダイゴウジ ガイって言ってたじゃないか。

 

「おっ!アキやん、早いな〜」

 

 後の方になったら、改名までして、

 ダイゴウジ ガイ セカンとか言ってたじゃないか。

 

「……あり?アキやん、アキやんっ!」

 

 でも………そうだよ、こんな変な世界じゃないか。

 

「もう、聞こえへんのかな〜、アキやんってばっ!!」

 

 ガイがこの世界でも生きていた事には変わりない……。

 そうだ、別に呼び方なんて些細な事じゃないか。

 いつもどおり、熱血だったし。

 ガイが生きている……その事には喜ばなくちゃ………。

 

「アキ………………………アキやん………?」

 

 今度会ったら、どこに住んでいるか聞いてみよう……。

 

「アキやんっ!!!」

 

「うわっ!!コ、コースケかっ!?」

 

 隣で、コースケが肩で息をしている。

 

「コースケか?……やないっ!

 まったく、全然反応せえへんし、それに………」

 

 珍しくコースケが口篭もる。

 

「アキやんの顔……なんか悲しいような嬉しいような表情やったで。

 ……ほら、カズやんが妹さんの話しをする時みたいな」

 

 ………俺が?

 

「しっかし、アキやんがあそこの生徒さんと訳ありやったとは……」

 

 …………え?

 

「コ、コースケっ!知ってるのかっ!?」

 

「はい?さっきアキやんが戦ってた生徒さんやろ?

 なんや、知らへんのか?」

 

「あ、ああ、どこの高校かは知らないんだ」

 

 

 心臓が早鐘を打つ。

 

 

 

 

「あの制服………ナデシコ高校のやん」

 

 

 

 

 俺の思考は、完全に凍ってしまった。

 

 

 

 

 

 ………Miniature Garden………END

 

 …………To Next Day…………

 

 

 

 

 

後書き

普通にヤマダ ジロウと名乗るガイ。

なんか、意外とやった人は少ないのでは?

まったく壊さないガイ………それともこれも一種の壊れか?

 

 

代理人の感想

壊れてるキャラを壊さないのは壊れでしょう。

やはり、違和感があります。

・・・例えば壊れてないルリとか(爆)。