Distraction Days

 SOMEDAY3

 

 

 

 何故、という戸惑いと、

 そうか、という確信が同時に浮かんだ。

 

 学校とは、色々なものから切り離された閉鎖空間。

 いうなれば、世界に内在する独立したもう一つの世界。

 矛盾などを嫌う世界ならば、

 余計な不確定要素を全て、そこに叩き込もうとするだろう。

 

 

 

 そう、このナデシコ高校に…………。

 

 

 

 

「アキやん?いつまで現実逃避してんねん」

 

 裏門で見回りをしていた教師らしき人を、

 背中から奇襲して昏倒させたコースケが聞いてくる。

 

「………すまん、もうちょっとさせといてくれ………」

 

 慣れない制服を着ている俺は静かに頭を抱えた。

 

 

 なんで、こんな状況になっちゃったんだろう………。

 

 

 

 

 ゲーセンでコースケからナデシコ高校について聞いた時、

 

「なんや、ナデ校の生徒さんとなんかあるんか?」

 

「ああ………探していた人がいるかもしれないんだ」

 

 正確には、探していた人達だが。

 

「ほほー、そーかそーか!!」

 

 この時、コースケの瞳が怪しく光るのに気づいていたら………。

 

「よっしゃっ!!わいが一肌ぬいだるわっ!!」

 

「へ?………い、いや、いいよ!俺が今度自分で調べるから」

 

「そんな水臭い事言うなや、もう作戦名もきまっとる!!

 名づけて、『サスペンス!!メタルギアスクール』作戦や!!!」

 

 ………なんだよ、そのネーミングセンス。

 

 

 

 そして翌日、いきなり制服に着替えさせられてここに連れて来られたのだ。

 

「それにしても、どこからこの制服持ってきたんだ?」

 

 しかも、俺のサイズにぴったりだし。

 

「そりゃお前、蛇の道はマムシとかキングコブラな所や」

 

 裏門の鍵をピッキングしながら答えてくるコースケ。

 ………つまり、普通のところじゃないんだね。

 その鮮やかなピッキング捌きを見ながら何を言っても無駄なのを悟る俺。

 

「…これを……回して………よっしゃ、開いたで!!

 今の時間ならちょうど昼休みや、アキトが紛れ込んでも、

 誰も怪しまん、安心して探して大丈夫や!」

 

「そ、そうか………俺はもっと穏便な手でよかったんだがな」

 

 無駄だとわかっていても、愚痴がこぼれる。

 

「なにいってんねん、男なら当たって砕けて即復活やっ!!」

 

 

 そんなわけで、件のナデシコ高校に潜入する事になった俺だった………。

 

 

 

 

 実際、俺はこの学校の存在その物を知らなかった。

 ナデシコに関する事なら火星を問わず、地球や木星まで調べたのに。

 灯台下暗しなんてレベルじゃない、あたりまえにあった高校を、

 俺だけが知らないなんて現象、起こるはずがない。

 

 そんな、到底答えの出そうにない考え事をしながら、廊下を歩いている。

 やはり昼休みだからだろうか、廊下にも多くの生徒がいる。

 別に、どこにでもありそうな高校の風景。

 でも確かに、その人達の中には見覚えのある人がいる。

 多分、ナデシコのクルーだった人たちだろう。

 みんな、高校生に若返っているという事だろうか?

 

 そんな事を考えながら、誰かとすれ違ったのに気づいた。

 

 色素の薄い髪、明らかに高校生に見えない小さい体。

 

 

 ――――――ルリちゃんだ。

 

 

 俺はとっさに呼び止めようとした。

 

「……ちょ、ちょっと待ったっ!!」

 

「はい?」

 

 振り返ってくる少女。

 ………間違いない。

 

「あの……なにか御用でしょうか?」

 

 や、やばっ。

 思わず呼び止めちゃったけど、どうすればいいのやら。

 この様子だと、俺の事は憶えて無さそうだし。

 

「あ、あのさ、ちょっと聞きたい事があって……(汗)」

 

「そうなんですか〜、あっ!なら食事しながらでいいですか?

 今から私、中庭で食べようと思ってた所なんですよ〜♪」

 

 そう言って微笑んでくる………、

 

 

 

 

 …………あれ?………………この子、誰だっけ?…………

 

 

 

 

「あ………それとも急ぎの御用ですか?」

 

「………………………………はっ!

 ああ、いや食べながらで、いいよ………」

 

 なぜか、びくびくした声で応えてしまう俺。

 

「そうですか、じゃあ早速行きましょ!」

 

 そういってなぜか手を引っ張られながら、中庭まで案内された。

 

 

 

 ………あれあれ?……確か俺は、ルリちゃんと話していたような……

 

 

 

 もはやこの時点で、俺は知らない世界へと足を突っ込んでいたのだ。

 

 

 

 

 

 中庭には、それなりに人が集まっていた。

 ………大多数が男女のカップルらしき人達だった。

 俺の隣りにはルリちゃん?が座っているから、

 傍目から見たら、俺達もそう見えるのだろうか………、

 

 …………ちがうっ!今考えるのはそういう事じゃない!

 

 

「どうしたんですか?いきなり立ち上がったりして」

 

「あ…………い、いやその………気にしないで……はははは」

 

 乾いた笑い声を上げながら再び座る。

 

「そうですか、わかりました〜。

 えへへ〜♪今日のお弁当はサンドイッチです〜」

 

 そう言って楽しそうに弁当をあけるルリちゃん。

 

 

 

 

 ……………………はっ!止まるな、俺っ!!

 

 

 

 

 そ、そうだ、ある意味予想出来た状況じゃないか。

 昨日会ったガイが微妙におかしかったんだ。

 他の人達だって、どこかおかしくなってると思ったじゃないか。

 ル、ルリちゃんの場合、ちょっと方向がずれてたけど。

 

 

「………あの〜、何か食べないんですか?」

 

 いつのまにか、ルリちゃんがこっちを覗き込んでいた。

 

「う、うん、今日は別に腹へってないし。

 それよりさ、名前まだ言ってなかったよね、俺はテンカワ アキト」

 

「あっ、私はホシノ ルリといいます」

 

 やっぱり本物のルリちゃんか………。

 

「あのー、ルリちゃんは高校生じゃないよね?」

 

 身体はどう見ても最初にナデシコに乗った時の姿だ。

 

「違います〜、ちゃんとした高校生ですよ〜。

 小学校から飛び級で入ったんです」

 

 ……………なるほど、ち○ちゃんみたいなものか。

 

「それで、何を聞きたいんですか、おにーさん?」

 

 

 

 

 ………………………負けるな、俺。

 

 

「あの……この学校ってどういう所?」

 

「どうと言っても………そうですね、変な所ですよ。

 入学基準も『何かしら能力は一流』ですから。

 技術室は良く爆発するし、図書室は無いし」

 

 技術室…………ウリバタケさんか。

 という事はやはり、みんなここに居るという事か。

 

「でも楽しいですよ、皆さんいい人ですし。

 退屈なんてする暇ないぐらい、毎日何か起こりますけど」

 

 そう、笑顔で言ってくるルリちゃん。

 

 

 …………駄目だ、どうにも違和感を感じる。

 そうだ、有名なあの言葉………考えるな、感じるんだ………

 

 

 

 サンドイッチをおいしそうに食べているルリちゃん。

 

 

 

 ………………………可愛いな…………………はっ!

 

 違うっ!そうじゃない、負けるんじゃない、俺っ!

 

 

 

「あれ〜、ルリちゃん、どうしたの〜?」

 

 頭を抱えて苦しんでいた時、聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「あっ、ミスマル先輩!」

 

 ……………………ユリカっ!?

 

「めずらしいね〜。

 ルリちゃんが男の子と一緒にご飯食べるなんて〜」

 

「そ、そうですか、えへへ〜」

 

 ちょっと照れたようにはにかむルリちゃん。

 

 なんか……ユリカにも微妙な違和感を感じる………。

 いつもより声のイントネーションが間延びしていると言うか……、

 

「………うに?……うにゅにゅにゅにゅにゅ?」

 

 な………なんだ……?

 いきなり奇声を発しながらこっちをじろじろ見てくるユリカ。

 

 まさか…………俺の事を憶えているのか!

 

「…………ユリ…!」

 

「駄目だよキミ〜〜!他校生が入ってきたりしちゃ〜」

 

 人差し指を立てて、めっ!のポーズをする。

 …………はは………そっちの方か………。

 

「副生徒会長のユリカは騙されませんよ〜」

 

 あまり怒っている感じは受けない。

 

 ………なるほど、天真爛漫からボケボケ天然キャラになったのか………。

 

 

「ユリカー、なにやってるのー?会議まだあるんだよー!」

 

 ユリカが来た方向から呼びかける声が聞こえてきた。

 

 この声は…………ジュンだな。

 

「あ〜〜ごめんね、ジュンくん〜。

 それじゃあキミ?ちゃんと帰ってくださいね〜!」

 

 そう言い残して、ユリカはジュンの所に戻っていった。

 

 ………どうやらジュンはさほど変わってはいないようだな。

 あいかわらずユリカに苦労しているみたいだし。

 

「まったく、副会長だからって会議サボっちゃ駄目なんだからね!」

 

「う〜〜ん、ごめんね、生徒会長」

 

 全然反省の色が無いユリカ……。

 

 

 

 ………………ん?……………。

 

 

 

「あの………ルリちゃん?」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「副生徒会長は……ユリカなんだよね?」

 

「はい、ミスマル先輩ですけど」

 

「じゃあ……生徒会長って、もしかしてさっきの………」

 

「ええ、アオイ先輩ですけど」

 

 

 

 聞いた瞬間、視界が真っ白に濁った。

 

 

「ああっ!!大丈夫ですか、いきなり倒れたりしてっ!」

 

「………はは………ちょっとした立ち眩みだよ……」

 

 ………今までの中で、一番ショッキングだったかもしれませぬ……。

 

「じゃあ………保健室にでも案内しましょうか?」

 

 保健室………イネスさん……………っ!!

 やばいっ!!これ以上の衝撃は命に関わるぞっ!!

 

「ははは、大丈夫だよ!ほら、こんなに元気!!」

 

 ラジオ体操第二を踊り必要以上に健康をアピール。

 

「そうですか〜、あっ!じゃあ膝枕でもしましょうか♪」

 

 ルリちゃんがいたずらっぽく微笑んだので思わず身構える。

 

 

 …………あれ………寒気も殺気も感じないぞ………。

 

 

「………遠慮しておきます」

 

 なぜか物凄く勿体無い気もしたが辞退させてもらった。

 

 

 

 

 

 昼休みも終わりに近づき、脱出の為の裏門に向かっていた。

 なぜかルリちゃんも付き添ってきていた。

 

「………いつ頃から気づいていたの?」

 

「最初っから気づいてましたよ〜。

 態度は余所余所しいですし、質問も変でしたし。

 何より、うちの生徒にしては妙に雰囲気が暗かったですから」

 

 ………ふっ………俺も短い間にすっかり枯れてしまったわけか。

 

「でもでも、いい人なのはすぐにわかりました。

 だからその………友達になりたかったです」

 

 あはは、と照れ笑いでごまかす。

 

「………また会ったら、お話ししましょうね!」

 

「………うん、また会ったら……ね……」

 

 酷く曖昧な口調で答えてしまう。

 

 キーンコーンカーンコーン!!

 

「……それじゃ、さよーならーーー!!!」

 

 チャイムの鐘と同時に別れを告げて元気に走っていく。

 

 

 開いたままの裏門をくぐり、ふと振り返る。

 

 白い校舎と……走り去る小さな背中………。

 

 

 

 ――――ふいに………景色が滲んだ。

 

 

 

 

 ――――――泣いている?

 

 

 

 

 

 ―――何故?

 

 

 

 

 

 ………………嬉しかったから…………。

 

 

 

 

 たとえ、記憶と違っていても………、

 『皆』が『生きて』いて、『楽しそう』に『笑って』いた。

 

 

 

 

 ただそれだけが…………とても嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

「おっ!アキや〜〜ん、もう終わったんかーーー!!」

 

「……意外と似合うじゃん、制服」

 

 

 はっ、として振り向くと、

 道の先から、コースケとカズミが歩いて来ていた。

 

 

 それも見た瞬間、俺は完全に無意識な状態で、

 

 

 

 

 ――――――逆方向に走っていた。

 

 

 

 

「あっ!?アキやん、何、逃げてるんやっ!!」

 

 

 

 

 走る――――――ろくに運動していない身体で必死に逃げる。

 

 

 

 

「まてーい、ル○ーン!!

 逃げると射殺するぞーー!!」

 

「ネタを混ぜるなよ!!」

 

 

 

 ――――――何故、俺は逃げている?

 

 

 

 ―――――泣いているのを見られたくないからか?

 

 

 

 

「なんで三○ツッコミやねんっ!!

 この場合は『なんでやねんっ!!』が正しいやろがっ!!」

 

「俺は元祖東京風ツッコミの方が好きだ」

 

 

 

 

 ―――違う、涙を見られる羞恥じゃない!

 

 

 

 

 ――――これは、この感情は………、

 

 

 

 

 

 ―――――――――恐怖―――――

 

 

 

 

 

 …………気が付いたら、いつものゲーセンに来ていた。

 

 ……ははっ、俺って守備範囲狭いよな。

 こんなんじゃ、すぐ捕まってしまいそうだな。

 諦め気味に笑ったその時、

 

 ワァァァァァァァ!!!

 

 店内で歓声が上がった。

 

 なんだろう………?

 

 なんとなく店内に入ってみる。

 ………どうやら誰かがバーチャ・エステで新記録を出したみたいだ。

 

「おっ、テンカワ、良い所に来たなっ!!」

 

「おっしゃ、行けっ!うちの最後の砦っ!!

 悔しいが俺達の仇を取ってきてくれっ!!」

 

「敵は赤いサレナ使いだ、十分注意しろよっ!!」

 

「ええっ!?あっ!ちょっとっ!??」

 

 半ば強引に席に座らされた。

 とほほ、こんな事やれる精神状態じゃないのに。

 

 心の中で黄昏ていると相手が機体を選択………っ!?

 違う、サレナじゃないっ!!

 

 ガシャキシャーン!! DAHLIA!!!

 

 その瞬間、鈍感と呼ばれ続けた俺としては、

 驚くべきほどのひらめきが浮かんだ。

 

 そして久しく使っていなかった元々の持ち機体、

 ブローディアを選択した。

 

 READY………GO!!!

 

 

 

 試合は…………相手の圧勝だった。

 全盛期からすれば明らかに俺の腕は落ちており、

 久しぶりすぎてほとんどぶっつけ本番状態のブローディアで、

 勝たしてくれるほど敵は甘くは無かった。

 なにより………相手はあの頃と何ら変わらない強さを見せていた。

 

 

「お前が、噂に聞くテンカワ アキトか……」

 

 前から現れたそいつは、

 

 

 あの頃と変わらない、北斗だった。

 

 

「………俺の名は北斗という」

 

 俺を見上げながら、手を差し出してくる。

 

「あ………どうも、テンカワ アキト……です」

 

 北斗を見下ろしながら、握手をした。

 

 

 そう…………若干小さくなっていたが。

 

 

 

 ………はっはっはっ………もう驚かないぞ、俺は………。

 

 

 

 

 

 

 ………Sweetish Nightmare………END

 

 …………To Next Day…………

 

 

 

 

 

後書き

ニッコリ笑うルリとぽけぽけほわほわのユリカ。

やってやれない事は無いので頑張って想像してみてください。

そして北斗、小さくなっていたと表記してありますが、

決して、幼くなっていたり二頭身になっている訳ではありません!!

単に背が低くなっただけですっ!!!

どれくらいかと言うと………、

………抱き締めてすっぽり身体に収まるくらい。

あああ!!すみません、すみません、すみませんっ!!!

 

 

 

代理人の感想

・・・・・・・・・・・・・・何か言いたいことがあるならゆってみ、ん?(笑)

 

 

 

しかし、ますます謎ですねぇ。

アキトじゃありませんが妙な違和感を感じます。

恐怖ってなんの恐怖?

ひょっとして、この世界もなにもかも作り物だとでも言うのでしょうか?