Distraction Days
SOMEDAY4
ゲームセンターで北斗と再会した俺は、
ガイの教訓を生かしてその場で住所を聞いてみた。
「それなら一度来てみるといい」
北斗はそう言って案内までしてくれた。
着いた所は街の中心。
街の人が行き交い、物が流通する場所。
もちろん俺も幾度となく来た事がある。
そこは商店街という名の通り。
だがそこに、
北斗の家があるとは知らなかった。
「これでも結構有名な店なんだがな」
良く来る商店街だとはいえ、隅々まで知っているわけではない。
しかし、それらしい店があったかな?
「ほら、そこに看板が立っているだろう?」
北斗が指差した方を見る。
その先には…………、
ケーキ屋『北辰』
「…………あの………『北辰』って、家の人の名前?」
「いや、先祖代々伝わる由緒ある名前だそうだ」
涙で視界がかすんだ。
北辰よ、いくら外道とはいえ存在まで抹消されたか。
ちなみに、隣りは『ヤマサキパン屋』だった………。
「すると北斗はケーキ職人になるのか?」
俺達は近くの公園に移動してきた。
一応ケーキを買おうか迷ったが、結局買わなかった。
………味がわからないのに食べても、空しくなるだけだからな。
「うーーん、俺はそんなつもりはないのだが………、
枝織の奴はそうさせたがってるからなぁ……」
はあ、と溜め息をこぼす。
「……その枝織ちゃんってのは妹さん?」
「いや、双子の姉だ………不本意だが」
姉………という事は枝織ちゃんは大きくなっているのか。
………あかん、想像したら負けだ、俺。
「………しかし、アキトはやけに俺と親しげに接するな」
………ギクッ
「そ、そうかな?」
「ああ、普通の奴は怖がってあまり近づいてこないからな」
………この世界でもそういう立場なのか。
「そんな怖いって感じはしないよ……それに………」
どこか違っても、やっぱり北斗だからな。
「………まあ、別に悪い気はしないが………」
そっぽを向きながら呟く北斗。
あれ…………ちょっと顔が赤いな。
「大丈夫か北斗、熱でもあるのか?」
「べ、別になんでもない!
………気にするな」
心配して近づこうとしたが、
北斗は慌てて背中を向けた。
「……俺はそろそろ帰るから、風邪引くなよ」
「そっちこそ、次会う時はもう少し強くなってるんだな」
そう言いあって、お互いに帰ろうとして………ふいに、
「…………………北斗」
「………ん?」
「…………今…………幸せか?」
自分でも、何故言い出したかわからない問いに、北斗は、
「…………なにいってるんだ?」
呆れたような表情でいって去っていった。
北斗と別れ、あてもない道をふらふらと歩く。
すぐに家に帰るつもりは無かった。
………ああ、そういえばコースケ達から逃げてきたんだっけ。
イヤなタイミングでイヤな事を思い出す。
…………そうだな、とりあえず謝れば何とかなるだろう。
そう思い直して、道を引き帰そうとする。
ふと気が付くと、町外れの病院まで来ていたようだった。
その時、
「……曇り時々晴れ、降水確率20%、
ここ一週間は冬晴れの天気が続きます。
…………そしてあなたは、テンカワさん」
突然、真後ろから呼ばれて慌てて振り向く。
そこには………、
能面のような無表情な顔で、
濡れ烏のような黒い髪と、
真っ青なまでに白い肌をさらしている、
赤い着物を着た女の子がいた。
…………いや、それは女の子というよりも、むしろ……。
「失礼ですね、初対面の人を幽霊みたいだ、なんて」
!?……心を………読まれた?
「まあいいです…………焼き芋、食べます?」
…………へ?
彼女は着物の袖からまだ湯気の出ている焼き芋を差し出してきた。
「い、いや………別にいいよ」
「……味がわからないから遠慮してるんですか?」
!??………また!
「味がわからなくても、見えなくても、香りがわからなくても、
おいしい物はおいしいですよ、それは絶対の真理です」
「はあ…………」
なし崩し的に焼き芋を渡されてしまった。
しょうがないので食べ始める。
道端で、女の子と向かい合わせで焼き芋を食べる。
………なんだろう、このシュールな絵は………。
「ねえ、君はいったい何者……なんだい?」
意を決した風に俺は質問する。
「はい、私はカンザキ カズミの妹、
略してカンザキ妹です」
!!……そうか、確かにそれなら俺の事を知っていてもおかしくないな。
「いつも兄がお世話になったりなられたりだそうで、
ありがとうAND感謝しろ、と言いたかったんです」
………まあ、ちょっと電波系な女の子なのだろう。
カズミも大変なんだな………。
「ふう、やはり焼き芋は冬の食べ物でもエンペラーですね」
見るともう彼女は食べ終わったようだ。
こっちはまだ半分は残っているのに。
「それでは、私は病院に戻りますので」
悪い子じゃないのだが、マイペースな子だな〜。
さっさと帰っていく後姿を見ていると、ふいに振り返ってきた。
「アキトさん………私は今、とっても幸せです。
これが幸せじゃなきゃ何が幸せなんだってぐらい幸せです」
…………なにを言って?
そして、今までずっと無表情だったのが、初めて変わった。
悪戯をするような、意地の悪い笑みに。
「あなたは……………………今、幸せですか?」
その質問に…………息が止まった。
頭が真っ白になる。
今……今、俺は………幸せ?…………不幸せ?……。
答えを出せずにいると、また彼女の表情が変わる。
「あなたは幸せになれますよ、アキトさん……」
――凍てつくような鋭い、『冷笑』に。
「あなたがそう……………望みさえすれば」
突然、木枯らしがふきよせ、木の葉が舞い上がる。
思わず視界を閉じてしまい、目を開いた時には、
目の前には、誰もいなくなっていた。
まるで、それが当たり前だったように。
そして、気づく。
食べかけの焼き芋は、
跡形も無く消えていた。
家に着くと、すでにコースケとカズミが待ち構えていた。
「おっ、やっと帰ってきたかアキやんっ!」
「いったい、何をしていたんだ?
こんな夕方近くまで……」
「えっ、いやその………偶然カズミの妹にあったからさ」
ピクッとカズミが片眉を上げた。
「…………あいつに会ったのか」
「おーー、あのランダムチューニングラジオ娘か。
なんや、もしかして怪しい関係にでもなったんか?」
いやな目つきでからかってくるコースケ。
「ば、ばか!何言ってるんだよっ!!」
やばっ、カズミがなんていってくるか………(汗)
だが予想に反して、カズミはいたって冷静だった。
「安心しろアキト、あいつはもう売約済みだからな」
「うっそ、そうだったんか?誰々、見舞い客かなんかか?」
「あいつの見舞いなんて俺しか行ってないよ」
………え?………と、いうことは………。
「じゃあ、若い青年医師とかか?」
「あのボロ病院にそんな奴いないよ」
「えーーー!それじゃあ誰やっちゅうねん!!」
「もしもし……カズミさん……あのー、もしかして」
こっちを向いて真顔で答えるカズミ。
「多分、アキトが思っている奴で正解だ」
「えっと……あのでもー、確か血は繋がって……」
「あのな、アキト……」
真顔+真剣な目つきで答える。
「誰かが誰かを愛するのは、
法律だって止められやしないよ」
「まあええか、それよりアキト。
これから第二段を決行するで!!」
ギランッと怪しく光るコースケの瞳。
「はあっ!?な、なにしようってんだよコースケ!」
「何って………もちろんナデ校潜入作戦パート2や!!」
夕日に向かって吼えるコースケ。
「名づけて、『ときめき!!スクールライフ』作戦やっ!!!」
………Phantom Lovers………END
…………To Next Day…………
後書き
日本の幽霊といえば着物美人。
赤、白、黒とコントラストもばっちり。
電波送受信機能で天気予報も聞けちゃえます。
惜しむらくは妹属性ゆえのそのスレンダーすぎるボディか……。
代理人の感想
ふつー日本の幽霊と言えば白装束のような気もしないではありませんがそれはさておき(笑)。
「ヤマサキパン」に座布団一枚(爆笑)。
>妹属性=スレンダー
・・・・・・そうなんですか(爆)?