逆行者+突破者
第九話「信念=刃」
今回のナデシコの任務はクルスク工業地帯にある
木星蜥蜴の新兵器、通称ナナフシの破壊である。
…まあ、たぶんグラビティブラストの遠距離射撃で片が付くだろう。
そう思い俺は格納庫に向かった。
格納庫ではセイヤさんが作業をしていた。
「こんちは、セイヤさん。俺の分のDFSできました?」
「おう、もうすぐ出来るぜ。それにしてもアキトといいお前といいよくこんな物扱えるよな」
そうなのだ。DFSが出て来た後みんなで起動実験をしたが、
リョーコさんたちは刃を出しながら機動戦は出来なかった。それはアイツも例外で無い。
だが俺は刃を出しながら扱えることが出来た。理由は俺にもわからん。
アキトが言うにはイメージが大事らしいが理屈にはあまり興味は無かった。
有能だから使う。それもアイツが使えないならなおさらだ。
まあ、今回は使わないと思うがな。
そう思っていた時……
ドギャァァァァァァァンンン……
「どぉあぁぁぁぁあ!!」
「何が起こったぁぁぁぁ?!!」
………どうやら今回も、一筋縄で行きそうに無いな。
ナナフシのマイクロブラックホールで撃墜されたナデシコは動けず、
地上から接近して破壊しようにも周囲を戦車に囲まれているため脱出できない。
そのためアキトが考えた策。
アキトともう一人が補助バッテリーを持ってナナフシを撃破という策が採用されたのだが。
「「「どーして、パートナーがリョーコさんなんですか!!」」」
予想どうりと言うか、ブリッジの主に女性クルーに反対された。
「単純な戦力差ならツバキさんの方が適任ではないですか?」
「ああ、それは無理。俺はナデシコの守備に入るから。
アキト一人でも破壊できるならこっちにもDFSがあった方がいいだろ」
と、俺とアカツキさんの説得により渋々ながらパートナーはリョーコさんに決まった。
そして部屋に戻る途中、アカツキさんが、
「いや〜、助かったよツバキ君。これで作戦Bも実行できるよ」
「まっ、報酬は期待してますよ」
実はこんな裏取引があったりするのであった。
はてさて、周囲3Kmの戦車隊をアキトはどう突破するのかな?
そう思っているとアキトはバースト・モードを発動させ、
ディストーション・フィールドを収束し始めた。
白い刃は真紅にそして……漆黒に染まった。
『咆えろ!!我が内なる竜よ!!
秘剣!!咆竜斬!!!』
アキトの声とともに解き放たれた漆黒の竜が全てを喰らい消えていき、
そして、通った道には何も残されていなかった。
皆が呆然としている間、リョーコさんがバースト・モードを発動させて走っていき、
アキトさんもそれに続き二人は森に消えていった。
……いや、まいった。まさかエステであんな芸当をするとは。
あの技、はたして俺に出来るだろうか………
それから俺は戦車隊の掃討に出たり、
セイヤさんがリョーコさんのエステに取り付けた隠しマイクの音声を、
某組織の隠れアジトで聞いてたりしていた。
「そういえばツバキ君。はい、約束の品だ」
「………なあ、ツバキ。お前十八だから酒は……」
「ストップ!セイヤさん。硬いことはいいっこなしです」
そう、俺は取り引きの品に酒を頼んだのだ。
俺では酒は売ってくれんからな。プロスさん厳しいから。
しかしさすがアカツキさん。銘酒「無月散水」を持っているとは。
そうやって俺はアキト達がナナフシに着くまでを過ごした。
……いや、実は一人でトレーニングルームにも行ってたりもしていた。
なんとなく、そうなんとなくだが嫌な予感がしたから。
そして、再びナデシコは緊張し出した。
今、アキトはナナフシに進撃しているがDFSは壊れて使えない。
おまけにナナフシはもう弾の生成をし始めている。
俺はまさかに備えてエステに乗って待機していた。
アキトは真紅の炎を纏った右拳で突撃する。
『全てを!!噛み砕け!!
必殺!!虎牙弾!!』
真紅の右拳がナナフシの中心部を抉り抜く!!
だが!!ナナフシは最後の力でマイクロブラックホールを撃ち出した!!!
凍りついたナデシコ。
俺はDFS片手に飛び出した。
「なっ!?ツバキ、何する気だ!!」
「決まっているでしょう、そんなこと」
そう、そんなことはすでに決まっている。
「バースト・モード、発動!!」
俺は意識を集中させDFSに漆黒の刃を創り出し、
目の前から迫るマイクロブラックホールを見据える。
……シビアだが、出来ないことじゃない。
そう割り切って俺は刃を振り上げた。
「刻みつけろ!!
マグナムエッジ!!!」
撃ち出された漆黒の刃は、
迫り来る漆黒の弾丸と紙一重で交わらず通り過ぎ、
お互いの余波で軌道を変え、
その結果、弾丸はナデシコの上を通り過ぎた。
ついでに俺の刃もうまく空に吸い込まれていった。
それを見届けて、俺は意識を失った。
気が付くと俺は医務室に寝かされていた。
横を見ると何故かアキトがいた。
「あっ!気が付いた?大丈夫?!」
「ん………ああ、別に異常は無いよ」
「そうか、よかった。本当に……よかった」
何故かアキトは今にも泣きそうな顔でそうつぶやいている。
「俺、自分ひとりでナデシコを守れるなんてバカな事を考えていた。
それでこんな事になって、ツバキにも危険な目にあわせて……」
なんだ。そんな事を謝りに来たのか。
「俺は立ちふさがるものを壊しただけだ、アキトが気にすることじゃない。
それにお前はお前しか出来ないことをやったんだ。そっちも正当に評価しろ。
まっ、出来る事に限りがあるのは俺も認めるよ、たとえ人外だとしてもな」
俺はそう答えて再び意識を沈ませていった。
全てを守ることはとても難しい………
人ならばおよそ不可能だろう………
だが大切なものを失いたくないのならもっと簡単な方法がある………
……そんなものを作らなければいい………
後書き
無識:今回、ついに必殺技が炸裂!!!
ツバキ:正確には炸裂しなかったがな。
無:さすがに真正面から当たると勝てそうに無いからな〜。
それにブラックホール同士が当たるとどうなるかわからないから、
余波で軌道をそらすのが妥当な所だと思ったのだ。
あっ、ちなみにツバキの技はアキトの咆竜斬のパクリです。
二人とも剣術は門外漢なので剣技については似たような技しか出来ません。
ツ:しかし、アキトが思いっきり落ちこんどるな。
無:今のうちに挫折させとかんとお前を頼らないからな。
ツ:なるほど。
無:ところでお前、お仕置きされなかったのか?某同盟に。
ツ:ああ、そこら辺は抜かりない。
あの後、某同盟との取引で某組織の隠しアジトを教えることで片はついた。
俺は基本的に中立だからどこの取り引きにも応じるんだ。
無:……………こいつ悪魔や。
ツ:失礼だな、約束は守る方だぞ、比較的。
ちなみに取り引き次第ならアキトにも味方するぞ。
無:その時の為に対夜叉調停装置を考えとくか。
代理人の感想
・・・なるほど、本編の方ではメティちゃんの命と引き換えに自覚したことを
こう言う手段で自覚させたわけですか。
いや、お見事です。
仲間の大切さ、組織力の重要性などをこうやって着々と学習していく、
ということは遅くとも西欧編あたりから物語にかなりの変化が見られる、
と期待してよろしいんでしょうか?
それともツバキに頼らせることで話を変えていくおつもりなのでしょうか?