逆行者+突破者

第十一話「戦場+選見」

 

 

 アキトと共に訪れた西欧の最前線。

 第一印象は最悪といっても良かった。

 

「よお……お前らが新入りのエステバリスライダーか?

 しかし、漆黒と紅白のエステバリスとはね。

 しかも新型かよ。

 どこぞのお坊ちゃんか、お前さんたち?」

 

 張り詰めた緊張と、新入りに対する嘲りと、

 様々な思いがその場所に渦巻いていた。

 

「………あれは餞別で貰ったものだ」

 

「おい………」

 

 アキトの言い方が気に食わなかったのだろう。

 部隊長の人が後ろのいた大柄な人に合図を送る。

 

「………坊主、上官に対しては絶対服従が軍隊の掟だぞ!!」

 

 あーあ、アキトの禁句を言いやがった。

 その人はアキトに殴りかかろうとして、

 あっさり返り討ちにあった。

 

「一応報告してやる。

 俺達は連合軍の軍人じゃない、一般企業からの出向社員だ。

 だから軍の階級制度は俺達には関係無い。

 俺達に命令出来るのは会社の上司と連合軍の人事部だけだ。

 俺達に命令をしたかったら人事部に許可を申請しろ。

 それと、俺の名前はテンカワ アキトだ」

 

 そう言ってアキトは自分のエステバリスの元に歩いていく。

 やれやれ……

 

 カコンッ!!

 

 エンタイトルツーベース君でアキトの頭を軽く小突いた。

 

「いたっ!何するんだよ、ツバキ?」

 

 涙ぐみながら反論してくる。

 

「お前ね、何を初っ端からシリアスモードになっとるんだ。

 人間、愛想良くするのは大切なことだぞ。

 俺が手本を見せてやるから見とけよ」

 

 そういって呆然としている部隊長の方に振り返る。

 

「初めまして♪

 ツバキ アヤトです♪

 二重人格っぽい性格をしています♪

 皆さん仲良くしてください(ハート)」

 

 

 白い空気が、辺り一帯を支配した……

 

 

 

 あれから三日が経つ。

 アキトの衝撃的な自己紹介も俺のフォローによって、

 相殺されたと思っていたのだが、

 なぜかみんな話し掛けてこない。

 例年になく愛想を振りまいたのに、何故だろう?

 

 そうこうしているうちにチューリップの襲撃が来た。

 作戦はチューリップの偵察、というより街の住民の救助だった。

 俺はこの人の印象を改めた。

 どうもアキトの話を聞いてから俺にも軍への偏見が生まれていたようだ。

 作戦は志願制だったが約六十人が参加し、

 

「民間人の救助なら俺も手伝おう。」

 

「右に同じ」

 

 もちろん俺たちも参加した。

 

 

 

 街は阿鼻叫喚の様だった。

 先行部隊も既に撤退していた。

 ……やはり軍の情報網だとこれが限界か。

 怨嗟の声を聞きながら作業をしていると、

 

「隊長!!前方にチューリップ4つ確認!!

 無人兵器はその数800を数えます!!

 指示をお願いします!!」

 

 そんな報告が聞こえてきた。

 さて、そろそろ俺たちの出番かな。

 そう思いアキトの方を見てみると、

 ……アキトの肩に掴まって歩く金髪の女の人が見えた。

 ……さすがはアキトだ。この状況下でも落とすとは。

 

「おーい、非常に恐縮だがそろそろ行くぞ」

 

 隊長と話していたアキトに呼びかける。

 

「おい、お前達何を考えているんだ?」

 

「先程言ったでしょう。

 誰も死にはしないと。

 それに隊長……

 貴方は俺の知る軍人の中でも、上位に位置するまともな人物だ。

 ここで死ぬのは惜しい人材だと判断した。

 俺は救助に邪魔なモノを排除するまでだ」

 

 そういってアキトは自分のエステバリスに向かう。

 

「雑魚は俺に任せろ。

 チューリップはお前に任せるから」

 

「ああ、了解したよ」

 

 そういって俺たちは飛び立った。

 

 

 アキトは豪快にチューリップを切り刻んでいく。

 まっ、ここいらで実力を見せ付けとくのも悪くない。

 逆に俺はちまちまバッタを倒していく。

 俺には紙一重でかわすような芸当はまだ出来ないから、

 接近戦でのみDFSを使って倒す。

 やっぱ、早く新しい機体が欲しいよな。

 

 

 そして無傷で帰ってきたアキトには、

 漆黒の戦鬼という二つ名がついた。

 

 俺の意見では鬼というのに引っ掛かりを感じるがな。

 

 

 

 そして俺は今、ある郊外で待ち合わせをしている。

 今回のことで軍の情報網では頼りないと思ったからだ。

 そして思い当たったのが、

 

 ジャリッ!

 

 背後の足音で振り返る。

 

「初めまして、『両刃』君」

 

「初めまして、『千里眼』さん」

 

 組織に援軍を頼むということだった。

 

 

「正直な話、驚いたよ。

 噂だと君は何でも自分でやるみたいだったから」

 

 黒く長い髪と白いコートをはためかせながら、

 そんな事を言ってくる。

 

「自分一人で出来る事に限りがあるのを自覚してますから、

 なら信用できる人に協力を求めるのは当然でしょう?」

 

「そのわりにはよく無茶をしているよね」

 

 そう言って苦笑する。

 なるほど、すでに『見て』きたのか。

 

「それで私に連絡が来たのか。

 で、何を依頼したいの?」

 

「西欧にいる間の敵情視察と謀殺の類を調べてほしい。

 あっ、『透見』でなく『選見』でかまいませんから」

 

「いいの?別に私はかまわないけど」

 

「元々この世界にいないあなたを呼んでもらったんだ。

 それ以上を望むのは俺が納得できないからな。

 それで、受けてもらえますか?」

 

「その前に一つ質問するよ。

 もし……、アキトくんが君の前に立ちふさがったらどうする?」

 

 俺は間髪いれず答えた。

 

「殺すよ。俺が俺である為に」

 

 しばしの静寂が流れる……

 

「ふう、ほんとに君、我が強いね。

 まっ、私は嫌いじゃないからね。

 協力しようじゃないか」

 

 そう、笑って答えた。

 

「ありがとうございます」

 

「いいよ、私もやりたい事があるからね」

 

「?なんですか、やりたい事って」

 

「実は世界を渡って探してるものがあってね」

 

 満面の笑みで答える。

 

「人生の伴侶♪」

 

 ……俺はどう答えていいか迷った。

 

 

 何はともあれ、組織一の情報屋。

 ファル クレア ヴァイアンスさんが仲間になった。

 

 

 

 

 戦場は戦鬼を得て………

 全ては加速的に回る………

 千里眼は全てを見通せるのか………

 ……それともその先すら『見透す』ことができるのか………

 

 

 

 

後書き

無識:新キャラ登場!!

   ファル クレア ヴァイアンス!!

   長いぞ、名前!!!

ファル:自分でつけたんでしょうが、自分で。

無:とりあえずはテツヤに対する切り札ですね。

フ:私はもうちょい活躍したいんだけど?

無:わからんなー。けどナオさんみたいな例があるし、

  がんばれ!応援してるぞ!!

フ:あんたが書くんでしょうがっ!!

無:ちなみに『両刃』、『千里眼』は、

  二人の組織内での綽名です。

ツバキ:ところで俺の機体カラー、紅白になったんだな。

無:正確には白地に赤いラインがいっぱいってデザインだな。

  調べてみたらツバキの花が白地に赤だったから。

ツ:紅白って聞くとおめでたく感じるな。

無:イメージだと白い花が血に染まる、見たいな感じ。

ツ:………なかなか悪趣味だな。

 

 

代理人の感想

 

新キャラ・・・・実にわかりやすいネーミングですな(笑)

(「クレアヴォイアンス」:意味は「千里眼」、「透視」)

「組織」がなんのことやらさっぱり、という人は同時にアップされた設定をどうぞ。

 

ちなみに一つ突っ込んでおくと椿には赤も白もあります。

詳しくは黒澤監督のチャンバラ映画「椿三十郎」を見ること(笑)。