逆行者+突破者

第十七話「宿敵÷イレギュラー」

 

 

 今日も僕に任務が下る。

 

 

 『凍月』と『凍花』を手に携え、

 編み笠なんて時代錯誤な物をかぶる。

 似たような人達と一緒に戦艦に忍び込み、

 目標と戦闘。

 しばしの足止めの後、離脱。

 

 そして任務が終わった僕は、ある人と会っていた。

 

「情報の奪取は達成しましたが、

 マシンチャイルドの誘拐は成功しませんでしたね、北辰さん」

 

「ふっ、外道では修羅には勝てんからな」

 

「そんなもんですかね」

 

 僕の任務は『鬼』の足止めでしたから、関係ないですけど。

 

「だが、助太刀ご苦労だった。天狼」

 

「いえいえ、何かありましたらまたどうぞ」

 

 そういって、僕は北辰さんに背を向ける。

 

「天狼よ、『鬼』はどうだった?」

 

 試すような北辰さんの問いに僕は振り向いて、

 

「さあ?僕は別に」

 

 笑って、そう答えた。

 そして、僕が去る途中に、

 

「…………傀儡、か」

 

 ………その呟きは、かろうじて聞こえた。

 

 

 

 

 

 ………僕が目を覚ますと、

 目の前に二人の顔が見えた。

 イネスさんと……メティスか。

 

「目が覚めたようね」

 

「……大丈夫?」

 

 とりあえず起き上がってみる。

 ………いろんな所が痛い。

 

「ええ、痛いだけで特に異常は無いです」

 

「そう。それで寝起きで悪いんだけど、ちょっと聞いていい?」

 

 硬い表情でイネスさんが言ってくる。

 

「はい、なんですか?」

 

「隣のファルさんのことなんだけど……」

 

 そういわれて隣のベッドを見るとファルが眠っていた。

 死んだように寝ているファルを見て渋い顔をしながら答える。

 

「ずっと寝てるって事でしょ?

 しばらく寝かしておいてください。

 あっ、別に肉体的な疲労じゃなくて

 脳味噌的な疲労ですから心配しなくていいですよ」

 

 そういってベッドから降りる。

 やっぱり痛いな……。

 面倒なので痛覚カット。

 

「ちょっと、そんな身体で何処行くの!?」

 

 メティスが泣きそうな声で引き止めてくる。

 

「ちょっと行く所があってね。

 メティスはファルさんを見張っていてください。

 途中で起きださないように」

 

 なるべく口調が怖くならないように気をつけながら告げる。

 

「寝ないとファルさん、死んじゃいますから」

 

 メティスが驚いている隙に医療室を抜け出した。

 

 

 

 

 ひなぎくの入り口でアキトさんに出会った。

 

「やっ、ひさしぶり、アキトさん」

 

「アヤト!大丈夫なのか」

 

「ええ、全然問題ありません」

 

 大げさに身体を動かす。

 ほんとは痛いんだろ〜な〜。

 

「月に行くんでしょ?僕も一緒に行きますよ」

 

 

 

 

 ひなぎくには僕とアキトさんの他にメグミさんにラピスちゃん、

 セイヤさんも乗り込んでいた。

 

 まあ、ラピスちゃんはアキトさんから離れないし、

 メグミさんもアキトさんの方に行くから、

 自然と僕はセイヤさんと話すことになった。

 

「しかしな〜、アキトもお前も本当に謎が多いよな」

 

「そうですかね?」

 

「おう、特にブリッジでのお前の戦いは驚いたぞ」

 

「……………………」

 

 あいつ……、深雪。

 アキトさんの情報だと北辰の部下は全部で六人……、

 つまり、深雪はイレギュラーって事だ。

 そのイレギュラーを発生させた原因は……多分、僕だ。

 

 いいさ、自分が原因ならば、自分で終わらせるまでだ。

 

 

 

 

 そして、ひなぎくは月に到着し、

 出迎えたアカツキさんはアキトさんとなにやら話しをした後、

 セイヤさんと一緒に何処かに消えていった。

 う〜ん、僕は事務的な事は本当にノータッチですからね〜。

 まあ、餅は餅屋。悪巧みはアキトさんに任せます。

 そういえばまだかな?僕の専用機体。

 

 

 

 それから、僕の事アウト・オブ・眼中ないちゃいちゃぶりを発揮する、

 ラピスちゃんとメグミさんだった。

 まっ、いいんですけどね(嘆息)

 それで、少し離れてアキトさん達について行くと、

 一人の女の子が現れた。

 

 

「テツヤ………この名前、覚えてられます?」

 

 

 

 テツヤの妹らしい、チハヤという女の子。

 兄を憎み、兄に復讐する事だけを目標に生きてきた子。

 そして、今度は目標を奪ったアキトさんに復讐すると決めた人。

 それともう一人、

 ライザっていう女の人が出てきた。

 

 

「貴方の弱点ですものね〜、絶対に貴方はチハヤを殺せない。

 そして、そこの可愛い彼女の前でも、ね」

 

 バカだね、この人。

 挑発する相手の力量もわからないなんて。

 

「本当に………俺がその子を殺せないと思うのか?」

 

 アキトさんが危ない気を放ち始めたので、

 僕が前に出てアキトさんを制す。

 

「アヤトっ?」

 

「あっ、どもども初めまして、ツバキ アヤトって言います」

 

 二人は怪訝な表情になる。

 

「何?関係ない奴は引っ込んで……」

 

「あれ、知りません?

 アキトさんとテツヤの対決をお膳立てしたの、僕ですよ」

 

「「っ!?」」

 

 二人の表情が驚愕に歪む。

 

「一応、僕も関係者だってことはわかりました?

 今、アキトさんに死なれると困るんですよね〜。

 ついでに言うと、アキトさんが誰かを殺すのもね」

 

 さりげなくポケットに右手を入れる。

 

「まっ、つまり何を言いたいかというと…」

 

 右手を一閃する。

 

 ヒュッ……カッ!!

 

 二人の背後に、黒いナイフが刺さる。

 

「…僕があなた達を殺しますって事です」

 

 敵意も出さず、ただ殺気のみを込めた僕の言葉に、

 圧倒される彼女達。

 

「くっ!!

 ………この施設を、私とチハヤが時間内に無事に出なければ、

 仲間が仕掛けた爆弾で、ココを爆破する様に命令してるのよ!!」

 

 ……なんかブラフっぽいけど、

 別に本気で殺す気は無かったしね。

 

「じゃっ、素直に引き下がりますか」

 

「……私は絶対に貴方を後悔させてやる!!

 あの人を殺した貴方を!!」

 

 そう、アキトさんに向かって言い放ち、ライザさんは去っていく。

 

「……私の生きる道は、貴方を憎む事だけです」

 

「馬鹿な事を……とは、言わない。

 ただ、少し周りを見廻す余裕を作れればいい。

 運命なんて都合の良い事は言わん。

 ……その感情を抑える事が出来るのは、それを超える感情だけだ」

 

「……あの〜、少しは僕の事も憎んでくださいね。

 じゃないと非常に寂しいので」

 

「……………………」

 

 なんか凄い形相をしながらチハヤも去っていった。

 

 

「アヤト………何であんな事言ったんだ?」

 

「まっ、案山子って所ですかね。

 僕の方が神経図太いですから」

 

 笑ってアキトさんの問いに答えた。

 

 

 

 

 ……アキトさんはネルガルのお偉方と会議中。

 僕はお外で見張り番、っと。

 

 さっきの出来事を回想する。

 アキトさんはあの子を殺せると言ったけど、

 それはいわゆる最終手段。

 出来るなら殺すよりも救う方を選ぶだろう。

 だから僕が案山子役。

 僕なら、牙を剥いた時点で殺すことが出来る。

 まっ、不穏分子ってだけでは殺せないから、

 あちらさんと比べたら、僕なんかまだまだなんだけどね。

 

 でも、こんな殺伐とした自分の考え、

 なんか本当………嫌になる………。

 

 

 

 

 ナデシコに戻ってしばらくすると、

 アキトさんの声で艦内放送が始まった。

 

「皆、これから話す事は全てが真実なんだ。…………

 

 

 

 さて、皆さんは真実をどう受け止めるのか?

 そして、この戦争にどう決着をつけるのか?

 まもなく、アキトさんの荒療治が始まる………。

 

 

 

 

 賭けは成功した。

 ナデシコの皆はしっかり決断し、

 その和平の意思は木連に伝えられた。

 だがその時、緊急通信が入ってきた。

 内容は、地球連合の艦隊を襲う、一機の機動兵器。

 

 

 

 

 現場についた僕達が見たのは………、

 神業に等しい動きで戦いあう、

 漆黒と真紅のブラックサレナ。

 お互いの攻撃はエスカレートし、ついにはDFSまで使い始めた。

 ここまで行くとマジでアキトさん並。

 僕ではさすがに対応しきれないね……。

 

 そして、戦いは痛み分けで終わり、

 木連はこの戦いの隙にシャクヤクを手に入れた。

 

 

 真紅のサレナを操っていた北斗。

 北辰の息子だと言う彼。

 

 深雪が、僕に対するイレギュラーならば、

 彼は………アキトに対するイレギュラーか………。

 

 

 

 ほんと、殺したくなるよ…………神様って奴を。

 

 

 

 

 

 これは神の皮肉か………

 それとも世界の修正能力か………

 だがこれが舞台ならば妥当だと言える………

 ……観客はワンサイドゲームを好まないのだから………

 

 

 

 

 

後書き

無識:北斗登場!!!しかし、目立たず!!(泣)

深雪:いろんな所から刺されるね〜。真紅とかNATTOとか。

ツバキ:ついでに俺も刺す。ザクッと。

無:グワッ!やめぃ、これから出番は増えていく!!

  大丈夫だ!!なんたって一番好きなキャラだから!!!

ツ:いまいち信用ならんな。

深:まあ期待しないで待ってるとして、ちょっと解説。

  初めの方で出てきた『凍月』と『凍花』とは僕の刀の銘です。

  刀が『凍月』、短刀が『凍花』です。

無:シリアス二連続は疲れるの〜。

 

 

 

真紅の羅刹党首を兼ねる代理人の感想

 

 

斬!

 

 

 

 

 

まぁ、それはさておき。

 

天狼深雪くん、私の中で某剣客譚の宗次郎くんとすこし重なりました。

(誰だかわからない? ほら、炎のミイラ男の一の部下だった笑顔の魔少年ですよ)

 

さて、その笑顔の下に彼は何を隠しているのでしょうかね。