逆行者+突破者

 

 

 

 ……静かな、休める場所を探して、

 僕とチハヤさんは寄り添って歩いていた。

 

 

 

 

 いや、深い意味は無いですよ。

 ただ単に………、

 

「うええ、気持ち悪い………」

 

 飲みすぎてしまったチハヤさんに肩を貸してるだけですから。

 

 

 あっ、ちょうど自販機の隣りにベンチを発見。

 

「はい、大丈夫ですかチハヤさん?

 無理して僕に付き合うからですよ」

 

「……うるさいわね。

 大体アンタが酒、強すぎなのよ」

 

 据わった目つきでチハヤさんが睨んでくる。

 酒が入っているので、いつもより少々怖い。

 

「僕はこれでも鍛えてますからね」

 

 チハヤさんをベンチに座らしてから、

 自販機で缶ビールを買う。

 

 チャリチャリチャリン!

 ピッ!

 …ガコンッ!

 ジャララッ!

 

「………………まだ飲む気?」

 

「ビールなんて水みたいなものですよ」

 

 最近はビールくらいで酔った事無いですからね。

 

 チハヤさんの隣に座り、静かに飲み始める。

 

 

 微かな雑音が響く、ゆるい静寂。

 騒がしいナデシコの中で、台風の目にでも入った気分。

 

 ぼんやりと飲んでいる僕の横顔に、

 時々チハヤさんの視線を感じていた。

 なんとなく根負けしたような感じで、僕から話を切り出す。

 

「そういえば、ナデシコにはもう慣れました?」

 

「えっ…、うん。

 まあ、それなりには…ね」

 

 酒で頬を赤くしているチハヤさんが呟く。

 

「まあ、別にナデシコにこだわる事は無いですよ。

 居心地が悪ければ他の場所に行けばいい。

 住みやすい所なんて探せばどこにでもあるんですから」

 

「……いえ、多分ここよりも住みやすい所なんて無いと思う」

 

 微かに微笑むように、チハヤさんは言った。

 

 

「……その理由に、僕の存在は入れないでくださいね」

 

「………えっ!?」

 

 戸惑いの声を上げる。

 

「僕は………僕自身はナデシコの一部には、なっていない。

 外側を取り繕う処世術は、うまくなりましたが、

 僕は『ナデシコ』としてはいてもいなくてもいい存在ですから」

 

「それは…………アヤトが決める事じゃないわ」

 

「いいえ、僕がそう決めたんです。

 ………誰にも、口出しはさせません」

 

 はっきりと、静かに断言して、

 チハヤさんは返す言葉を失った………。

 

 

 

「だからね、チハヤさん。

 僕への恋心なんかで人生、棒に振っちゃ駄目ですよ」

 

「………っ!?……なっ!…だっ!?……えっ??!」

 

 突然の事で、驚いて僕の顔を見つめるチハヤさん。

 

「誰が誰を好きかくらい、わからないほど鈍感じゃないですよ。

 まあ、いままでは気づかない振りをしていました。

 さっきも言ったでしょ?

 外側を取り繕う処世術はうまいって」

 

 チハヤさんはまだ、驚いた顔で僕を見ている。

 その頬が赤い理由が、酒だけじゃない事も知っていた。

 

 恋とか愛とかいった感情は、

 人間の感情の中ではありふれた物です。

 それに、時として精神的に大きな変動力を持つ事も、

 その感情には大きく関わっている。

 心理戦なんかでは、知っていて損は無い。

 誰が自分に好意を持っているかなんて、序の口だろう。

 

「僕の事を好きでいる事は嬉しいです。

 でも、僕からしたら酷く優先順位の低い事です。

 『好き』だとか、『幸せ』になるなんて、

 『実存』に比べたら取るに足らないことですよ。

 ………そんな僕の事で、チハヤさんが損をするのはおかしいでしょ?」

 

 チハヤさんはなぜか、肩を落としてうつむいていた。

 

「…………なんで、今更になってそんな事を言い出したの?」

 

 感情を押さえ込んだ声で、そう問いてくる。

 

「……もしかしたら、もう話せないかもしれないでしょ」

 

 努めて明るく言った僕の言葉に、ビクッと肩を震わす。

 

「…………まさか、………死ぬ気じゃ……ないでしょうねっ!!」

 

 絞り出すような声で、弱々しく叫ぶ。

 うつむいているため、表情は見えない。

 

「……これでも鬼になったときは、結構悩んだんです。

 ………ヒトである事が、僕の絶対条件でしたから。

 それでも、今は前向きに考えています。

 ……『ヒト』であり続ける為に『ニンゲン』をやめたんだって………」

 

 静かに話し終えた後、笑って続ける。

 

「そういう頑固な僕ですから、

 死ぬつもりなんてこれっぽっちもありませんよ」

 

 いつのまにか服の裾を掴んでいるチハヤさんを、

 ポンポンッと肩を叩きながら、

 

「………生きて帰ってくるって、約束しますよ」

 

 そう、笑って言った。

 

 

 

 

 我ながら…………遺言みたいな会話でしたね。

 

 

 

 

 

 

「どうも、こんにちは」

 

「………」

 

「ああ、別に返事はしなくて結構ですよ。

 独り言を聞いているとでも思ってください」

 

「……………………」

 

「それにしても、あなたも大変ですよね。

 ツバキさん達のお守りをしてるようなものですもんね。

 あの人達、あれで結構な無茶しーですから」

 

「…」

 

「あの人達を言葉で止めるのは難しいですよ。

 『言葉の力』ではよっぽど強力でないと無理ですから。

 ですから、もっと『単純な力』であの人達を止めてください」

 

「………………………………」

 

「ああ、なんで敵に塩を送るようなするのかって?

 ふふっ、もちろん僕の利益の為ですよ」

 

「…………」

 

「つまり、あなたにがんばってもらいたいんですよ。

 まっ、利害の一致だとでも思っといてください」

 

「……………………………………………」

 

 

 

 

「おい、こんな所でなにやってるんだ」

 

「あっ、ウリバタケさん、でしたよね。

 すいません、道に迷ってしまったもので」

 

「まあいいが、早く行かないとメシなくなっちまうぞ、深雪」

 

「うわっ、それは大変ですね、すぐに行かなくちゃ!」

 

 そうして僕は、人のいない格納庫から出て行った。

 

 

 

 

 

 

「こらー、起きろーー!!今日は和平会談の日でしょっ!!」

 

 ダンッ!!ダンッ!!ダンッ!!!

 

 声と共に部屋のドアが叩かれる。

 

「うるせーー!!とっくに俺は起きてるわっ!!」

 

 叩く音がピタッとやむ。

 

「………あれっ?すっごく意外。

 絶対、二日酔いで寝過ごしてると思ってた」

 

「そんなやわな鍛え方はしてねえよ」

 

 低血圧で、朝は弱いがな。

 

「……………」

 

「言っとくが勝手に入ろうとするなよ。

 今、着替え中なんだからな」

 

「………あはは、そんな事するわけないじゃない」

 

 言い終わらないうちに、部屋のドアが開く。

 

「あれっ!?もう着替え終わっちゃったの?」

 

「たった今、終わった所だよ、まったく」

 

「………………チッ」

 

 キャラ変わってるぞ、メティス。

 

「それにしても………やっぱりその格好なのね」

 

「あたりまえだろう、和平会談という一大イベントなんだからな。

 それ相応の格好をしなければ失礼だろう」

 

「………確かに今なら、その黒スーツにサングラスも似合うね。

 なんか、不本意だけど」

 

「ふっふっふっ、やっとお前もこのセンスが認められるようになったか。

 まっ、メティスも大人になってきたわけだな」

 

「…………どう見ても女SPやっちゅうねんっ!!!」

 

「なんか言ったか?」

 

「別に、何も言ってないよ」

 

 なんかすさまじく嫌な事を言われたような……………電波か?

 

「それにしても、相変わらず片付け過ぎというか、

 おもいっきり生活感無いね、この部屋」

 

 まあ、基本的に私物は武器製作の工具と材料だけだし、

 それも、一目では見えないように隠している。

 例外は、ゴミ箱に溢れた酒瓶くらいかな。

 

「他の物、必要ないからな」

 

 一緒に部屋を出て、ふいにメティスが話してくる。

 

「ちゃんと……帰ってくるよね?」

 

「あたりまえだろ、帰ってくるさ」

 

「それ………約束だからね」

 

 不安そうにしているメティスの頭を乱暴になでる。

 

「こう見えても、俺のささやかな誇りは、

 これまで一度も嘘をついたことがないということだからな。

 そのプライドにかけて誓うよ」

 

 そう言って、俺はメティスと別れた。

 

 

 

 

 

 

 裏の裏は表なのか………

 夢の夢は現実なのか………

 矛盾の矛盾は正論なのか………

 ……嘘の嘘は真実なのか………

 

 

 

 

 

 

後書き

無識:はい皆さん、これでわかったでしょう。

   ツバキ達は鈍感でも朴念仁でもありませんっ!

   こいつらは確信犯の鬼畜やろ……

 

 ドキュゥズザシュゥゥゥッッ!!

 

トール:……衛星軌道上から鉄バットで串刺し………。

ファル:脳天からだから………、再生まで5時間くらいかな?

深雪:それにしてもファルさん、知っててチハヤさん達を焚き付けてたでしょ?

   ひどい事しますね、まったく。

フ:バカね、そんなこと関係ないでしょうが。

  逃げる獲物を追う、それが狩ってものよっ!くっくっくっくっ………。

深:………ゾクッ(さっ、寒気が……)

ト:……では次回「すれ違い×死闘」をどうぞ………。

  ……やっと私、再登場……長かった………(ホロリ)

 

 

代理人の感想

う゛・・・・マニアックだったんかい。←毎回録画してる人

しかし、

空から巨大な鉄バットが降って来る

のを期待してたんですが・・・残念(爆)。

 

 

>ファル

なんかこ〜、ますます持ってマジックガンナーな感じ(謎爆)