逆行者+突破者

 

 

 

 

 バチンッッ!!バリバリバリッ!!!

 

 蒼銀と電撃が絡み合い、両者の間に激しい火花が散る。

 

 状況はゆっくりと、しかし確実に進んでいた。

 

 

 

 トールさんとアキトさんの戦いは、なかなかの物だった。

 トールさんは徹底してアキトさんの足止めに専念している。

 しかも狭い空間戦闘の為、球電と金属の壁は確実にアキトさんを阻んだ。

 『昂氣』とはいえ、直撃したらしびれて決定的な隙を作りかねないから。

 

 さらにアキトさんは心情的にも枷がある。

 トールさんは、見た目は小さな女の子だし、

 どう見ても、自分の意志ではなく命令を聞いて行動している、

 ………ように見えているのだろう、アキトさんには。

 その為、なるべく傷つけないで逃げようとしているのですが、

 それが出来るほど甘い相手でもないですから。

 

 不思議だったのは、移動スピードですら互角でいた事。

 しかし、その謎も見ていてタネがわかった。

 時々、トールさんの手足から走る電流……、

 おそらく筋繊維に直接電流を流して驚異的な瞬発力を出しているのだろう。

 

 

 そんな膠着状態がしばらく続き………、

 

 

 

 アキトさんが…………気配を一変させた。

 

 

 やっと殺す覚悟で、トールさんと戦う気になったのだ。

 

 残像すら残すような速さで、駆け出す。

 いままでのように脇を通り抜けようとするのではなく、

 トールさんに向かってまっすぐに。

 本気を出したアキトさんには、トールさんでは荷が重い。

 おそらく、一瞬で殺されてしまうだろう。

 

 

 

 ―――そして――今こそが僕が狙っていた瞬間だ。

 

 

 

 トールさんを『殺す』のに集中しているアキトさんは、

 必要以上に視野狭窄を起こしている、暗殺者としては失格だね。

 

 隠れていた物陰から音もなく、影のようにアキトさんに忍び寄る。

 

 

「……っ!、なっ!??」

 

 トールさんを殺そうとした瞬間、

 とっさの危険に反応したか、それとも第六感だろうか、

 アキトさんは僕の接近に気が付く。

 まだ僕は、射程距離には入っていない。

 

 

 だが、僕の方に悪魔は微笑んだ。

 

 

 殺されかけた事も、僕の突然の出現も一切無視して、

 トールさんがアキトさんに向かって電撃を放った。

 それは、さながら柔軟性に欠けた機械のごとく。

 

 僕に注意を向けていたアキトさんは、かわせない。

 

 ドシャァァァァァバリバリバリッッッ!!!!

 

「ぐぁぁぁぁっ!!」

 

 直撃。

 

 いくら人間ばなれしているとはいえ、

 電撃を食らえば神経系統が乱され、動きが止まる。

 

 

 そして、距離が埋まる。

 

 

 

                          つむじ  おろし
 木連式弐刀術 外式   旋風颪

 

 ザン
 
斬ッ!!

 

  ザン
 
散ッ!!!

 

  ザン
 
惨ッ!!!!

 

  ザン
 
嶄ッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 ガランッ!ガラガラガラ!!

 

 俺の放った一撃は辺りを壊滅的なまでに破壊した。

 『力』も霧散した為、『世界』も通常通りに戻る。

 

「………ぐ、ぐぁっ!!」

 

 メキョッ!ブシャァァァァ!!!

 

 左腕から軋み、血が勢い良く吹き出て、

 

 ……シュルルルルッ!!

 

 すぐにビデオの逆再生のように血が戻り、再生する。

 

 ……制御が少し甘かったか。

 限界ぎりぎりのつもりが、わずかに許容量を超えていたようだ。

 肉体や精神に傷はなくても、もはや『存在』としては瀕死寸前だ。

 

 前を見る。

 

 

 吹き飛ばされ倒れ込んでいる北斗が目に映る。

 

 

 これほどまでボロボロになりながら、北斗を殺しきれなかった。

 

 血塗れで、気を失ってはいるが………死んじゃいない。

 

 釣り上がった口から苦笑がこぼれる。

 ここまで強いとはな………呆れを通り越して笑うしかない。

 まったく、本当に人って奴は理不尽でデタラメだ。

 際限が無いこいつら人間こそが、『世界一の化物』じゃないか。

 

 ひとしきり笑い、ようやく落ち着く。

 

 

 

 …………さて、殺しとかないとな。

 

 止めを刺す為に、北斗に近づこうとし、

 

 

 

 針のような殺気を感じ、とっさに飛び退る。

 

 ガキンッ!!

 

 俺と北斗の間に飛来してきたのは………短刀っ!?

 

「うわっ、マジで北斗さんを倒しちゃったんですか〜」

 

 ふざけた口調をした声の方に目を向けるとそこには、

 

 

 満身創痍の、深雪がいた。

 

「………アキトはどうした?」

 

「ははっ、まんまと逃げられちゃいました」

 

 自嘲気味に苦笑する。

 

「………罠も張った、不意も突いた、運ですら味方につけた。

 これだけやっても勝つ事は出来ませんでした。

 二人がかりで痛み分けでは、話になりませんよね」

 

 言いながら歩き、短刀を拾い上げると、

 北斗さんを守るように立ちふさがった。

 

「…………引いてください、ツバキさん。

 今、北斗さんを殺させるわけには行きません。

 アキトさんを殺し損ねたので、まだ利用価値はありますからね」

 

 

「…………このドバカ」

 

 ポケットからアキトに貰った物……CCを取り出す。

 

 使いたくなかったんだけど………しょーがない。

 ……じゃ、がんばって運んでくれや、バカ遺跡。

 

 虹色の空間に包まれて、ナデシコへとジャンプした。

 

 

 

 

 

 

「……はぁぁぁぁぁ………」

 

 ツバキさんが消えたのを確認して息を吐く。

 疲れでその場に座り込んでしまう。

 

 

 

 そして、内心でガッツポーズをした。

 

 

 ほんと、うまい具合に状況は転がっている。

 アキトさんに瀕死の重傷を負わせ、

 北斗さんとツバキさんも思った通りの結果になった。

 唯一の誤算は………トールさんを殺す事が出来なかった事。

 うまい事、逃げられてしまった………まあ、些細な事か。

 

 さてと、しばしの休息かな………。

 

 

 

 

 

 ………ボスッ!

 

 寸分違わず、ナデシコの自室のベットにジャンプアウトする。

 

 ……ダメージは………時間でしか治らないからな。

 

 

「おかえり」

 

 

 ………………いやみか、ファルさん。

 つっこむ事すら出来ず、深い眠りについてしまった。

 

 

 

 

 

 

 些細なすれ違い………

 死を賭した戦い………

 たとえ個人に大きな意味を刻み込もうとも………

 ……歴史には一片の雫ほどの意味も無し………

 

 

 

 

 

後書き

無識:ついにツバキの真の能力が出てきました………がっ!

ファル:相変わらず恐ろしくわけわからない能力ね。

無:ついていけんっ!と言う方、すみません。

  基本的に私がこういう設定をネチネチ作るのが好きなもので。

  ナデキャラの双璧、北斗を倒すにはこれぐらいしないと駄目かな〜と。

深雪:でもいいですよね〜、僕は真空刃すら出せませんし〜。

トール:あたしは電磁力とか、プラズマも出せないし。

深・ト:ずるい〜、僕・あたしにもなんかないの〜〜〜?

ツバキ:うっさいっ!お前らは仮にも人間だろうがっ!!

無:二人の見せ場もこの後ありますし。では次回予告に行ってみよう!

???:はい、全ての糸はついに火星へと紡がれる。

    それぞれの矛盾した夢、正義、信念に決着をつける為に。

    ………そしてツバキとアヤトは、道を別つ………

    次回「裏切り+選択肢」をどうぞお待ちください。

フ:………誰?………新キャラ?

無:違う、既存のオリキャラだぞ。

 

 

 オリジナル設定&用語の補足説明

 注意 説明でもわかりにくいかもしれません(謝)

 

 ツバキの能力

 

 正式特異能力名称『略奪権利』

 『世界』……つまり色んな物から『力』を奪い、

 自分の望む『力』に変換して使いこなせる能力。

 (この場合の『力』とは何かをどうにかする為に必要なもの、

  まあ、『○○力』とかを総称した呼び方とおもってください)

 なので、本当なら火力でも重力でも霊力でも破壊力にでも換えられるのだが、

 ツバキは好んで『腕力』に変換します。

 あくまでも無理矢理奪うので悪役っぽいですね(もちろん抵抗できます)

 ちなみに他力本願と言うなかれ。

 『権利』である以上、相応の『義務』も果たしていますから。

 

 

 根源的ダメージもとい根源的生命力とは?

 

 RPGゲームのHP(ヒットポイント)だと思ってください。

 RPGではHP1でも攻撃力、防御力に変化がありません。

 現実ならHP1は瀕死、ボロボロで戦うどころじゃないのに。

 つまり、瀕死でもいつも通りに動けるが、

 雑魚の一撃でも食らったら死にますよって状態です。

 

 

 『異界』とは?

 

 『略奪権利』によって副次的に現れた普通とは違う法則の世界。

 正式には力量絶対支配領域『死界』

 『力』を失っても『世界』は生きようとします。

 では実際問題として、なんの力も無くなってしまったら、

 どうやって生きていくのか?

 一つの結論として『擬死』……つまり死んだフリをするのです。

 その為一時的にあらゆる物理法則等の基盤が失われ、

 結果として『力』の総量のみが全てを支配する世界が出来るのです。

 

 

 ………まあ、総合して物凄い力持ちだなツバキと思えば、9割方合ってますから。

 

 

 

代理人の感想

うむ、最後の一行が一番わかりやすい(笑)。

 

それはともかく、私はあらゆる「存在」そのものから「存在の力」を奪うようなものと理解しましたが、

そんな所であってますか?

 

しかし、深雪も何を企んでいるんだか。

ひょっとしてコイツも草壁の隠し子だったりは・・・しないか(笑)。