逆行者+突破者
第二十八話「裏切り+選択肢」
過去に跳び、
未来を変えて、
現在にいたる。
それは一人の男の物語。
幸せと不幸せの螺旋夢想。
話を聞き、火星を夢見ながらまどろむ。
――――『裏切り』の準備は整った。
「………起きてますか、アキトさん?」
「………アヤト?」
アキトさんのベットの近くに座りながら確認する。
「ずいぶん重傷ですね、深雪やトールさんごときに」
「……そっちこそ、北斗を相手にしたとは思えない元気っぷりだな」
「まっ、辛勝でしたけどね」
さりげなく、肩をすくめる。
殺しきれなかった分、詰めが甘いというか………。
「まあ、そんな訳でお互いに慣れない役を交代しようって事でして」
「わかってる、俺もあいつとの決着をつけなくちゃならないしな」
アキトさんの答えに満足して立ち上がる。
「頑張ってくださいね、アキトさんも北斗さんも。
僕としては二人とも死んで欲しくありませんから」
そのまま出て行こうとして、アキトさんに呼び止られる。
「なあ、アヤト………前に聞いたけどさ、
お前が俺に協力してくれるのは、自分の為だって言ってたよな。
でも、それってアヤトの本当の目的じゃないんだろ?」
「………………まあ、そうですけど」
ちょっと、アキトさんから視線をそらす。
「………本当の、ナデシコに乗った本当の目的ってなんなんだ?」
「…………そんな大層なもんじゃ無いですよ。
隠すような事でもないんですけど、まあ、簡潔に言うなら……」
苦笑して、一言だけ遺して僕は出て行った。
「『ネコ』と『声』……って所ですかね」
そして、無事火星にたどり着き、
無人兵器達との前座も終了して、
今、『真紅の羅刹』と『漆黒の戦神』の闘いが始まる………。
『しかし、意外だね』
アカツキさんからの通信。
「何がですか?」
アヤトさんが問う。
『君は一度勝ってるんだろ?
なら、テンカワ君よりも君が戦った方がいいんじゃないかい?』
アヤトさんは溜め息をつく。
少しの悲しみと、多大な諦めを込めて。
「……殺さず説得するのは、僕には向いていませんからね」
そして、赤と黒の闘いは決着を迎える。
―――残るは、色亡き者達の戦いが………。
敵が立ち塞がる。
アキトさんの居ない僕達の前に、八機の機動兵器が現れる。
北辰の駆る夜天光、それに従う六機の六連………そして、
『……機動戦では、お久しぶりですね』
相変わらず、未完成な六連(仮)を駆る深雪がいた。
「そんなポンコツで戦場に来るとは、随分余裕だね。
深雪なら、夜天光だって扱えるでしょうに」
『はは、趣味で殺戮兵器を選んじゃいけませんか?』
そう答えて、二本の刀を振るいながら攻めてきた。
「くっ!!」
右手の爪で受け流しながらかわす。
夜天光をアカツキさんが、他の皆も六連を引き受けている。
なるほど、うまい事お膳立ては出来ていたって事ですか。
それなら…………期待に応えてやりますか。
「ヒース、スケアクロウの制御の方、任せたからね」
『了解』
爪に真紅の輝きが灯る。
同時に、深雪の刀が真上から襲い掛かってきた。
爪で受け止めるが、それを予期していたように、
もう一方の刀が横から迫る。
ザシュッ!!
左手を犠牲にして飛び退る。
………やはり、思う通りに動かせない。
逡巡する間もなく、深雪の嵐のような斬撃が襲ってきた。
『やっぱり、今のアヤトさんに機動戦は向いちゃいませんね』
余裕綽々といって態度で話してくる、深雪。
こっちはボロボロもいいところ。
全身の装甲は切り崩され、右手の爪も使い物にならない。
『エステバリスは所詮、人間を模した物。
もはやヒトでないアヤトさんにはさぞかし動かしづらいでしょう。
どんな達人だって、きぐるみを着たら実力を半分も出せませんからね』
………確かにその通りですね、今のままで勝てるほど、敵は甘くない。
――――――なら、
「ヒース、いままでありがとうございました」
『っ!?』
脇の隠しパネルを開き、設定を変える。
「やはり秘密兵器を秘密のままで終わらすのは心苦しいですからね」
『却下!!』
セミオートからマニュアルに切り替え、リミッターもカット。
『却下、却下、却下っ!!!』
「………反対する事は簡単です、けれど……」
AI『ヒース』の介入を強制排除。
パシンッ!
「実行するなら、力ずくでやりなさい」
ハッキング、スタート。
「『ヒース』フルバースト」
背に白い翼が生まれ、
「……アンド、オーバードライブ」
白い羽が漆黒に染まり、
弾けて、消えた。
「鬼に翼は似合わないですし、
さあ、人外の力を見せてあげますっ!」
…………………7
『なっ!?』
深雪が驚愕の表情を作る。
それはそうだろう、目の前の敵が消えたのだから。
だが、僕はそこにいる。
ボシュッ!!!
深雪の六連(仮)の右腕が刀ごと消え去る。
僕が体当たりしたのだ。
………………6
ヒースの周りに展開されている、極小の粒。
ディストーションフィールドを極限まで圧縮した死神の粉。
これがあらゆる可視光線を屈折させて僕を透明化させ、
同時に触れた物を瞬時に消し去る武器になる。
この為に翼として放出している過剰エネルギーも利用したのだ。
「……といっても、機械に頼れないから結構しんどいけど……」
独り言を言いながら、セカンドアタックの為に急旋回をした。
……………5
ボシュッ!!!
とっさに上に逃げられた為、足を消したに過ぎなかった。
制御に必死で動きは大雑把になりがちだ。
………だが、何もかも消してしまえば関係ない。
こちらも追いかけられる為に上空へと飛ぶ。
…………4
下から迫って来る僕に向けて、深雪が左手の刀を突き出してくる。
足を消した所から推測したのだろう。
………しかし、
バシュッ!!
刀はバラバラに消し飛ぶ。
このフィールドを纏っている限り、こちらを傷つける事は出来ない。
一気に深雪の上空まで上昇し、
そこから深雪に向けて急降下を開始する。
もはや深雪に避ける術は無い。
………3
これで………終わりだっ!!
…………停止プログラム、発動。
「なっっ!??」
ドガシャァァァァァァンンン!!!