逆行者+突破者 外伝 空中交差点
それは、今から三年ほど昔の事………
俺は、自分というものを良く理解していなかった。
あの人達と会い、自分の正体も、遠い世界の事も知ったが、
『自分』という最も知りたい事だけは知る事が出来ないでいた。
そんな時、あの人がある人を紹介してくれた。
「一度あって話してみるといい。
多分、君とは話が合うと思うよ」
そう言われて、待ち合わせ場所の公園に来てみたのだが、
「ちょっと………遅いよな」
12時待ち合わせなのに、もう12時20分。
もう帰っちゃおうかな。
そう思っていた、その時!
ズガシャッッ!!
後頭部に激しい衝撃が走った。
「いやー、ごめんごめん。
ちょっと遅れちゃって。
これでも急いで走ってきたんだけどねー」
倒れている俺の前で、ジージャンに黒いスカートの女が、
何事も無かったかのように話し掛けてくる。
「………初対面の相手に飛び蹴りは無いだろうがっ!!」
がばっ、と起き上がって怒りをぶちまける。
「はっはっはっ、ちょっとした挨拶だよ」
そういって、彼女は取り合ってもくれなかった。
「さて、それじゃあ自己紹介でもしましょうか。
ツバキ アヤト君」
「…………そうですね。
トキトウ イサミさん」
とりあえず僕達は腹ごしらえをする事にした。
近くにあったファミレスに入る。
「すいませーん!
チョコパフェとクリームソーダくださーい!」
「…って、なんで腹ごしらえでパフェなんだっ!
もっと身になる物頼めよっ!」
「別に、僕、甘いもの好きだし」
「…………もういい。
すいません、Aランチください」
なんだ、食べたいものがあったんだ。
頼んだものも来たし、僕はツバキに話し掛けてみた。
「ツバキはさ、鬼なんだよね、心だけ」
「そうだよ。身体はイサミと同じ人間だ」
「じゃあ、弱いんだ」
僕がそう言った瞬間、ツバキの瞳が凶悪な光を放つ。
鬼の象徴である、その赤い瞳に。
「人間に弱いって言われる筋合いは無い」
怒りを剥き出しにして、だが静かに答える。
なるほど、これが『両刃』たる所以か。
己が心の刃を常にさらけ出し、
近づくものは全てを傷つける。
そして、その刃は己すらも傷つける。
話し合えるのは、傷つかない者と傷つけられない者。
理解し合えるのは………刃をもってのみ、か。
チョコパフェとクリームソーダを食べ終え、僕は席を立つ。
「じゃっ、そろそろ行こうか」
「はっ!?
ちょっと待てっ!まだ俺は食べ終わってない!」
「時間が惜しいよ、会計は僕持ちだからいいでしょ」
「そういう問題じゃないっ!
残しておいたイチゴムースがーーー!!」
なんか騒いでいたけど、強引に引っ張って行った。
なんなんだよ、まったく。
連れられてきた所は最初に会った公園。
「理解し会える手っ取り早い方法を見つけてね。
青春ドラマよろしく、ガチンコで戦うの」
本気か、こいつ?
怒りを通り越して呆れてくる。
「細工をしたから、一般人は入って来れないよ。
それとも………恐れをなして逃げる?」
あからさまな誘い、陳腐な挑発。
………だが、逃げるつもりは無い!
構えを取り、相手の様子を見る。
イサミは、俺の行動に満足したように微笑む。
「昂氣っ!!」
なんだ?
イサミの身体が薄っすらと白く光り始める。
「脚部集中っ!!」
次の瞬間、白い光が一斉に足に集まり、瞬く間に白いブーツを形作る。
「さてと………行くよっ!!」
ドシュッッ!!
消えたっ!?
いや、そう思う間も無く、右からハイキックが飛んできた。
ガスッ!!
「くっ!!」
即座に体勢を立て直す。
「なんだよ、そのでたらめな力はっ!
非常識だろうがっ!」
「常識ってのは破るためにあるんだよ」
声は、背後からかっ!!
すぐさま回し蹴りを放つ、
っが、あっさりと捕まえられた。
そのまま投げ飛ばされる。
「弱いね〜、あなたの力はこんな物?」
くっっ!!なら一撃で片をつけてやるっ!!
俺はイサミに向かって飛び込み、身体を目一杯捻る。
全身のばねと重力加速度の一撃。
これなら、あのへんな光もぶっ壊せる!!
ドガァァッッ!!
手応え………無し、土を抉っただけ。
イサミは跳んで逃げたか。
なら、もう一度っ!!
「………教えてあげるよ。
必殺技ってのはね……」
光が手の方に集まる。
ちょっと待て、そこまででたらめかっ!?
現れたのは、
「かわせないから必殺技なんだよっ!!」
直径十メートルはある白い金槌!!
そして、呆れかえっていた俺に、それは振り下ろされた。
ドヴァガァァァァァァァァァンンンン!!!
………俺が気がついた時、辺りはすでに闇に包まれていた。
どうやらベンチで寝かされていたらしい。
「大丈夫?一応手加減したんだけど」
「………大丈夫だが、結局何がしたかったんだ?」
いまいち、こいつの行動というものには規則性が無い。
こんな事をして、いったいなんになるってんだ?
イサミは意味ありげな笑みを浮かべる。
「あのね、昔、僕には一人の親友いたんだ」
また話が飛ぶ。一体こいつは何が言いたいんだ?
「その人はね、僕に自分は傷ついてもいいから、
周りの大切な人達を幸せにしたいって言ってきたんだ。
僕は親友の頼みだから、その人の願いを全力で叶えようと思った。
結果として、その人の大切な人達は幸せになったよ。
その人自身は傷つきすぎて死んじゃったけど」
………悲しみの影すら浮かべず、穏やかに笑って話している。
「……それで本当に良かったのか?
そいつは、お前の親友だったんだろ」
「親友だから、死すらいとわず願いを叶えようと思った。
その人が傷つかなければ、願いが叶えられないから、
僕は迷わず、傷ついていくのを見守ると選んだ。
………他の人はわがままだと言った。
その人が生きていくのを望んだ人もいたのだと。
けれどね………僕はわがままに生きるよ」
力強い、微笑と言葉。
「僕はわがままに生きるためなら、一切の妥協も容赦もしない。
他人の正論も、世界の常識も、………自分の理性も聞き入れない。
………長生きできない生き方だって、よく言われるけど、
僕はまだ生きている………なら、
この身が朽ち果てるまで、僕はこの生き方を貫き通す!」
いつのまにか、またイサミの身体は白く光っていた。
月の光も無い、闇の中で、
幽かに、だが確かに存在する、朧げに白を纏う彼女。
その姿に、忘れていた彼女の綽名を思い出す。
………幻の『影姫』………
初めて、なにかを綺麗だと思ってしまった。
「………僕にできる事は、ツバキに僕というものを伝えるだけ。
この事を見習うも良し、反面教師にするも良し。
相談にものってあげる、支えにもなるよ。
でも………道だけは、自分で決めるんだよ」
「長々とつき合わせて悪かったね。
はい!これはそのお詫び」
手渡されたのは、ワンカップのお酒。
「…って、未成年に酒を渡すなよ!」
「あはは、今度あった時は酒に強くなっといてね。
僕、結構酒豪だから」
………なんとなく、イサミと別れたくなかった。
何考えてんだ俺は、らしくない事を。
「まっ、お酒は冗談として、
今度は一緒に銭湯でも入りに行こうか。
男同士、裸の付き合いってね」
「ふん、男同士で入っても嬉しくも何ともない」
「あはは、確かに。ごもっともな意見だね!」
・・・・・・・・・・あれ?
「……………………なあ、つかぬ事を聞くが、
イサミって、女だよな?」
心なしか、震えた声で俺が問う。
「違うよ、僕は男」
イサミはあっさりと現実を突きつける。
「………………じゃあ、なんでスカートなんかはいてるんだよ」
あからさまにイサミが不機嫌そうな顔を作る。
「僕の趣味。男がスカートはいたっていいでしょ。
似合ってるんだから」
「…………………………」
「どしたの、ツバキ?なんか顔色悪いけど」
俺は無言で酒のふたを取り、
一気に飲み干す!
「あっ!ちょっとなにしてんの!?」
瞬く間に、俺の意識は現実逃避した。
…………俺のバカやろう(泣)
「……とまあ、これがツバキの初恋秘話」
「へー………」
メティちゃんが複雑な返事をする。
「でも、なんだかんだいって今でもツバキとイサミは仲いいし、
確かに、初恋とはちょっと違うかな」
実際、ツバキにとっては恋愛対象以上の存在だろうね。
「………あの」
「ん、何か質問?」
「男が好きって事じゃ、ないんですよね?」
「ああ、それは大丈夫。
だからがんばんなね!」
「うっ、うん!!」
そんなメティちゃんを微笑ましく見ながらちょっと考える。
女が好きとも………かぎらないけどね。
所で、私の恋はいずこ?(滝泣)
後書き
無識:はい、今回は意外な秘密が明らかになった………、
イサミ:は〜い、僕の補足などをします。
無:正真正銘男で、女の子が好きです。
そのくせ、姫とか呼ばれるのも結構気に入っている。
イ:ちなみにスカートの中はちゃんと半ズボンをはいています。
無:一時はアキトすら篭絡されかけました(爆)
代理人の感想
・・・なんかこ〜。
救いようがない
と思ってしまったのって私だけ(核爆)?
途中までは「先生」(月姫)だったのに、最後でいきなり「茜大介」(GPM)になってもぉたような。