逆行者+突破者

 

 

 

 

 名も知らぬ国の、

 名も知らぬ町の、

 名も知らぬ墓の前で、

 

 

 僕は人を待っていた。

 

 

 

 

 果てし無い空を見ながら思い出す。

 あのナデシコでの日々を。

 人として幸せすぎた、あの刹那の時を。

 

 

 

「人は、失ってみて初めて、その本当の価値を知る……ですか?」

 

 唐突に投げかけられた声で、僕は我に帰る。

 目の前にはさっきの僕と同じく、空を見上げている待ち人がいた。

 

「こんにちは、蒼夜さん」

 

「はいこんにちは、アヤトくん」

 

 絶対忘却の魔法使いはこっちを向いてニッコリ笑った。

 

 

 

 

「皆さんにお別れは言ってきましたか?」

 

「いいえ、言う必要は無いでしょう」

 

 僕の言葉に、蒼夜さんは眉を顰める。

 

「だめですよ、けじめとかそういう物はちゃんとしなくては」

 

「別に………本来はいなかった人物が、また消えるだけ。

 それに、アキトさん以外は結局知り合い止まりですから、

 アキトさんがいなくなった今は、お別れを言う人はいませんよ」

 

 

 そう、アキトさんが遺跡に取り込まれジャンプをして消えた今、

 もうナデシコに、僕が存在する必要は無い。

 

「………ねえ、遺跡に取り込まれたアキトさんはどこにジャンプしたんですか?

 蒼夜さんなら、知ってるんでしょ?」

 

「ええ、知ってますよ。

 聞きたいですか?」

 

「………いや、やっぱり止めときます。

 それこそどうでもいいことですから」

 

 

 あの時、アキトさんが遺跡に取り込まれようとした時、

 僕は自分の意志で助けようとしなかった。

 あの少女のことで機嫌が悪かった事もあるが、

 既にこの世界を出ると決めていた僕が助けるのは、

 アキトさんにとって悪い事だと思ったから。

 

「そういえば、彼女達は?

 ほら、君に惚れてた子達」

 

「ああ………ちゃんと2日前にふっときました。

 結構面倒だったんですよ」

 

「はあ、結局ふっちゃったんだ。

 別に本当に君の事が好きだったら連れて行ってもよかったのに」

 

「僕が迷惑です。

 人の好意に律儀に付き合う義理はありませんし」

 

 僕が好きってだけでついてこられちゃ、

 絶対に足手まといですからね。

 

 

 

「………それで、君はそうまでして何を望む?」

 

 

「――――――永遠に、生き続ける事を」

 

 

 

 一陣の風が、僕と蒼夜さんの間を薙いだ。

 

「『永遠に生き続けている』蒼夜さんに聞きたいんですけど、

 永遠ってそんなに嫌なものですか?」

 

「………永遠っていうのはね。

 その意味も、そこから起こりうる絶望も、

 全てを知り尽くした人がそれでも自ら進んで飛び込む、

 なんていうのかな……究極の自業自得なんだよ」

 

 穏やかな声でそう諭す。

 

「遺跡の少女は、偽りの永遠でも耐え切れなかった。

 そりゃそうだよね、彼女は永遠なんて望んでなかったんだから。

 そして君に、永遠の意味とその絶望を教えてくれた。

 それでも君は、それを望むかい?」

 

 

「………僕は、絶対に死にたくないですから」

 

 そう絶対に、死ぬのは嫌だから。

 

 

 

 

「じゃあ、そろそろ出発の時間だ。

 遣り残した事は無いかい?」

 

 その言葉に、僕はある事を思い出し一枚のディスクを取り出す。

 

「それは?」

 

「僕が唯一、この世界で創った奴です。

 こいつにだけは包み隠さず全て話してね、その上で選ばしたんです。

 僕とともに永遠に生きるか、僕を忘れてここで生きるかって。

 そしたら、『忘れるのも嫌だけど永遠に生き続けるのもまっぴらごめん、だから…』」

 

 その時の口調を思い出し、苦笑しながらディスクを持ち上げ、

 

 バギンッッ!!!

 

 ……叩き割った。

 

「『…いっそのこと、殺してくれ』って」

 

「………そういうことやってると、本当に友達無くすよ」

 

「覚悟の上です。

 さあ、ちゃっちゃと行きましょう」

 

「はいはい」

 

 そういって、蒼夜さんは前に向かって手をかざす。

 

 

「出でよ、ど○でも○アDX(デラックス)!!」

 

 

 ふざけた掛け声とは裏腹に、

 重厚で荘厳とした扉が目の前に現れる。

 

「あらゆる時、あらゆる空間、あらゆる次元、

 そこに漂う無数の世界全てと繋がっている魔法の扉。

 僕の持ってる中では唯一便利な魔法です」

 

「流石魔法使い、ネーミング以外は本当に凄いですよね」

 

「………うう、誉められた気がしない。

 まあいいや……それで、君は何処へ行きたいですか?」

 

 

 伊達眼鏡をかけ、置いてあったジュラルミンケースをもって扉の前に立つ。

 

 行き先は、決まっている。

 

 

「ここではない、どこかへ」

 

 

 扉が開く。

 先に見えるは無数の暗黒。

 

 

 僕は躊躇せずに、一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 アヤトくんが扉に入ったのを見届け、

 僕は最後の仕上げの為に空を見上げた。

 

 ―――『自身』への自動発動になっている『忘却』を制御―――

 

「存在名『ツバキ アヤト』に干渉、

 範囲、第120世界全域、

 効果、『ツバキ アヤト』の完全忘却」

 

 

 この世界のアヤトくんの記憶、記録、痕跡が全て忘却していく。

 そして世界が矛盾しないように改編していく。

 忘れた事すら忘れる、ある意味死より重い絶対忘却。

 

 

「まっ、弟分の頼みだからね。

 発つ鳥、後を残さず、っと。

 じゃあ頑張ってくださいね、アヤトくん」

 

 ―――制御下の『忘却』を『自身』への自動発動に変更―――

 

 自分の存在が希薄になったのを感じ、

 僕も扉の中に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 ………一つの物語がありました。

 それは時を遡った復讐者の物語。

 しかし、神の気紛れか悪魔の悪戯か、

 その物語に『鬼』の物語が交差してしまう。

 二つの物語は僅かに干渉し、小さな差異を作るも、

 お互いのあるべき道筋をひたすらに進む。

 そして、今この瞬間に交差していた物語は別離する。

 ここからは『突破者』と『逆行者』が出会う事はもう無い。

 奇妙でおかしな混ざり物の物語もこれで終わり。

 

 最後に、遥か彼方の別世界で見ていらした皆様方に、

 この刹那の出会いが忘れ去られるまで憶えてくださる事を願いつつ………。

 ―――――それでは、さようなら

 

 

 

 

 

 エピローグ Aルート「ナデシコ−アヤト」

 

 BAD END  ……But  TRUTH END

 

 

 

 

後書き

初めまして、もしくはこんばんは。

この変なSSを書いていた無識です。

ほぼ自分の書きたい事だけで作ったSSなので、

謎なのが謎のままだったり色々おかしなところがあったと思います。

それでも最後まで読んでいただいた皆様、ありがとうございます。

そしてこのSSを書くきっかけになったBenさんと鋼の城さん。

本当にどうもありがとうございました。

それでは、また会える事を願って、さようなら。

 

 

 

代理人の感想

物語を読んでいると色々と不思議な事がありますが、

同じ「明かされない謎」でも作品によって「欲求不満」になるのと「心地良い余韻」になってしまうのは

その最たる物のひとつですね。

 

やはり物語には「明かすべき謎」と「明かすべきでない、明かさなくてもよい謎」の二つがあるのでしょう。

前者が明かされないまま終わればそれは不満を呼び起こしますが、

後者は明かされないままに終わってもそれはなんら悪影響を呼び起こさず

むしろ心地良い仄かな芳香…余韻のフレーバーのようなものを香らせるのであると思います。

 

え、この作品はどうなのかって?

それは、言うまでもないでしょう。(微笑)

 

それでは・・・完結にお祝いを述べて結びに代えさせていただきたいと思います。

本当に、お疲れ様でした。