黒百合姫

第二話 さて、そろそろ「準備」は良いかな?

 

 

 

 目の前に人が倒れている。

 白い大人達を壊した人。

 怖い人。

 大人達を壊して、その赤色の液体に濡れた姿は、ただ、綺麗だった。

 

 

 ―――本当に恐ろしいモノは、凄く綺麗なんだと思った。

 

 

 私も壊されると思った。

 でも、壊されなかった。

 名前をつけてくれた。

 私だけの名前。

 食ベ物を作ってくれた。

 私に近づかないように気を使ってくれる。

 

 

 ―――変なの。

 

 

 いっしょに食事をしている時、変な顔で私を見る。

 今まで誰もしなかった顔。

 あとで調べたら『笑顔』とかいうものらしい。

 よくわからない。

 何であんな顔するのかわからない。

 

 

 他にもいろんな事を教えてくれる。

 服の着方、箸の使い方、温かい食べ物。

 『キノウ』だけではだめだって言う。

 白い大人達と反対のことを言う。

 大人は『キノウ』が一番大事って言う。

 どっちがホント?

 ・・・・・・わからない。

 

 

 今日、気が付いたら一人だった。

 いつもそばにあの人がいたのに。

 ココロが冷たくて冷たくて、目から液体が出てきた。

 声も出てたみたい。何でだろう?・・・・・・わからない。

 そうしたら体を引っ張られて、明るい所に出された。

 白くない大人が3人いた。

 なんだかよくわからないけど、もっとココロが冷たくなった。

 冷たくて冷たくて、もう何も考えたくない。

 

 

 そしたらあの綺麗な人が居て。

 すごく綺麗な『笑顔』で笑って。

 でも急に動かなくなって。

 怖かった。

 すごくすごく怖かった。

 この綺麗な人がもう動かないことが、すごく怖くて。

 この綺麗な人がもう『笑顔』にならないことが、すごくすごく怖くて。

 私も壊れてしまいそうだった。

 

 

 そうしたら扉が開いて。

 白くない大人達が倒れていて。

 さっきまでいなかった眼鏡の大人が立っていた。

 眼鏡の大人がすっと動いて綺麗な人に触ろうとする。

 それはすごく嫌だったから、私は綺麗な人を抱きしめて。

 その身体は温かくて。

 ココロが冷たくなくなった。

 眼鏡の大人が近づいてきて、私の頭をすっと撫でる。

 思わず見上げた私に向かって、眼鏡の大人は『笑顔』で言った。

「貴女方を助けに来ました。そちらの方の手当てもいたしましょう」

 

 

 

 

 

 

 

「ええ。どうやら証拠を隠滅しようとしていた部隊と鉢合わせましたが、処理しました。その際に実験体の少女を2名保護しました。

 そのうち一人が両肩を脱臼と、こちらは処置してありましたが右指の骨折がありました。

 もう一人の方は特に外傷は無いようですが、どうにも離れたがらないので、二人とも病院に搬送します」

「ああ,良いよ良いよ。どうせ非合法の実験体だったんだろ?どのみち一度詳しく検査をしないといけないからね。ちょうどいい」

 通信機からそんな軽い声が響く。

 会長らしいな。プロスペクターはそう思った。

 その内容と言い方、どちらも。

 言い方は悪ぶってはいるものの、大企業の会長らしくない甘さ、いや人間らしさと言おうか。

 少女達を保護したと聞いて、きっと心配をしていたのだろう。

 が、それを表に出すのは恥ずかしいし、照れくさい。

 そんな所が若いな、と既に己が無くしてしまった美点を持つ彼が微笑ましく、プロスにしては珍しく、本心からの笑みを浮かべた。

 ―――しかし、あの部隊は二流とはいえ、それなりに訓練された者達でした。

 少なくとも同数の素人などには絶対敗北などしないレベルにあったというのに。

 それを一人でほぼ壊滅させるとは、この少女は一体・・・・・・

 プロスの心に小さな疑念を残しながらも、秘匿研究所の制圧作戦は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・ここは・・・」

 辺りを見回すと、白い部屋に清潔そうなベッド。どうやら病室のようだ。

 もっと実験室っぽい所に連れて行かれると思っていたアルトには意外だった。

 両肩も治療がされているようで、動かすと微かに痛むが我慢できない程ではない。

 隣からは子供らしい少し高めの体温を感じる。

 彼女のベッドに潜り込んでいるラピスの温もり。

 それはますますアルトの疑念を深める。

 ―――研究者が私とラピスを一緒に寝かせておくなんて。

 意外を通り越して既に異常だ。

 どうも自分の想像を越えた事態が発生している。

「まあ良いわ。ここにいれば、私たちをここに運んだ誰かがやって来るだろうし」

 もう覚悟は決まっている。今更ジタバタしても仕方ないと判断し、開き直ってもう一度寝直す事にした。

 隣から伝わってくるラピスの体温が心地良いと思いながら再びアルトは眠りについた。

 

 

 

 

 

「おやおや、気が付いたと連絡されたのにお姫さまはまたお休みか。かなり良い度胸してるよね。そう思わないかい?エリナ君」

「状況が分かっていなかったんでしょ?満足に教育なんてされてなかったみたいだし」

「おや?エリナ君、随分と庇うじゃないか。ひょっとして母性愛にでも目覚めたかい?」

 口を挟んだエリナに底意地の悪い笑みを浮かべながら問うアカツキ。

「な、なななな何言ってるのアンタ、じゃ無かった会長!私は別に・・・」

「まあまあお二方ともお静かに。ここは一応病院の中なんですから」

 即座に双方を宥めにかかるプロス。宥められた二人も今居る場所が病院だと思い出し、少しバツの悪い顔。

 アルトは三人が入って来る前、彼らがこの部屋に近づいてきた時から目覚めていたが、不足している情報を少しでも得ようと寝たふりをしていた。

 が、聞こえてきた声が聞き慣れたものだったので、寝たふりをやめて起きる事にした。

 ベッドの上に上体を起こし、騒々しい来客に目を向ける。

「どうやら目を覚まされたようですね。初めまして。我々は貴女達を保護したものです」

「・・・・・・ネルガルね。でも遅かったわね。十日も待たされるとは思わなかったわ」

「十日?それに待たせるって・・・」

「―――?メール送ったでしょ?覚えてないの?」

 怪訝そうなエリナの表情に、さらに怪訝そうにアルトが問い返す。

「メール?・・・・・・う〜ん、覚えが無いな・・・」

「私は知らないわよ。何の話?」

 全く覚えていない様子のアカツキ。

 話についていけずエリナは疑問符を浮かべるばかり。

 プロスも心当たりがないか考え込んでいる。

 そんな彼らを呆れた目で見ていたアルトだが、埒があかないと思ったのか、口を開いた。

「じゃあ最初から話して。何故私たちを保護したの?」

「そりゃウチの非合法な実験の生き証人な訳だから、世間に吹聴されちゃったりすると困った事になるんだよね、これが」

「あそこの研究所はかなり巧妙に隠蔽されていたでしょう?どうやって調べたの?」

「え〜と・・・どうやって調べたんだっけ、プロス君?」

「会長、あなたが調査するように言われたのでしょう。・・・・・・あの時の、メールですな」

 プロスはようやく少女の言ったメールについてほぼ正確な推論を得ていたが、それを受け取った当の本人の態度に呆れてしまった。

「もしやアルト・ルージュというのは・・・」

「私の事よ。ようやく思い出してもらえた様で、嬉しいわ」

 言葉の内容とは裏腹に少女の視線は刃のように鋭く、声音もまた極寒の冷気を纏っていた。

 プロスの言葉でようやくメールについて思い出したアカツキは、アルトの冷たい怒りに身を震わせる。

 自業自得とはいえあまりにも情けないその姿に、彼の部下二人は無様な会長を見捨てようか内心で検討中。

「とりあえず自己紹介して貰えるかしら?私だけ知らないのは不公平だから」

 勿論アルトは彼らの事は充分すぎるほど知っているが、疑念を抱かれないうちに聞いておく事にした。

「ごめんなさい。私は会長秘書のエリナ・キンジョウ・ウォンよ」

「私、プロスペクターと申します」

「・・・ちょっといい?それ本名?」

 プロスの自己紹介にツッコミを入れておく。

「いえいえ、まあペンネームみたいな物でして・・・」

「本名は?」

「・・・・・・はっはっはっは」

 昔からの疑問を口にしたが、今回も笑って誤魔化された。

 そして一人黙っているアカツキに目を向け、次はオマエだと目で訴える。

 その視線に負けたのか、しぶしぶ口を開くアカツキ。

「・・・・・・ネルガル会長アカツキ・ナガレ」

「・・・ふ〜ん、あなたが人の出したメールを忘れてたネルガルの会長なんだ」

 スッと目が細められ、再び冷たい視線がアカツキを襲う。

「いや、はは、・・・ま、まあその・・・・・・ごめん」

 アカツキは何かうまい言い訳を捜していたようだが、結局見つからなかったようで素直に謝った。

 アルトの方もこれ以上アカツキをいじめていても話が進まないので、この辺で許す事にした。

「・・・まあいいわ、結果は同じだったから。で、私たちを如何したいの?」

「できれば我が社で働いていただけたら・・・・・・」

「実験じゃないなら私は構わない。この子にはもう少し時間をくれる?まだ自分では決められないだろうから」

「そうですか。では詳細の方は改めて文書を用意しましょう」

 なんだかトントン拍子に決まってしまい、会長や秘書の出る幕がない。

 そんな時、隣から微かな声と身じろぎが伝わってきた。

「・・・・・・ん・・・」

 そして寝ぼけた顔のラピスがむくりと起き上がった。

 しばらく眠そうに目を擦っていたが、傍らにアルトの姿を認めた瞬間目を見開き、抱きついて来る。

 突然ラピスに抱きしめられて一瞬驚きの表情を浮かべるアルト。

「・・・ううぅ・・・・・・ぐすっ・・・・・・うっうっ・・・ああぁ・・・」

 聞こえてくる小さな嗚咽からラピスが泣いている事に気付き、優しく抱きしめてあやし始めた。

「ラピス、大丈夫、もう大丈夫だから、ね。安心して」

「・・・・・・・・・本当?」

 上目遣いで見上げてくるラピス。もちろん意図してやっている訳ではないが、頼りなげなその姿はアルトの保護欲を擽る。

「ええ、本当よ。だから泣かないで、ね?」

 優しく頭を撫でながら微笑みかける。

 柔らかなその微笑みは、先程まで殆ど表情を変える事無く大人達と交渉していた冷徹な少女とは別人のようだった。

 アルトの笑みに思わず見惚れるアカツキ達。

 そのまま暫く抱きしめられてようやく安心したのか、泣くのをやめたラピス。だが今度はアルトに抱きついたまま離れようとしない。

 これにはアルトも苦笑するしかなかった。

「ふむ、どうも我々はお邪魔のようです。アルトさん、とりあえず契約の詳しい内容についてはまた後日お話しましょう」

 そんな二人の少女達の様子に、今日はこれ以上突っ込んだ話は出来ないと判断し、辞去の意を伝える。

「分かったわ。それじゃまた」

「それじゃ僕らは失礼するよ。行こうか、エリナ君、プロス君」

 

 

 

 

「プロス君、君は彼女についてどう思った?」

「判断力、決断力ともにとても優れています。

 あのメールに書かれていた情報の収集には、おそらくハッキングを用いたのでしょうが、その技量は世界でもトップクラスの実力と思われます。

 例の計画のオペレーターとして充分な能力を持っていると私は判断します」

「ふぅん。まあホシノ・ルリ一人じゃ不安だったし、丁度良かったかもね。

 でも僕はそれよりも、僕らに対する態度と、ラピス・ラズリだっけ?に対する態度の違いの方が興味深かったね。

 なんだか雛を護ろうとする親鳥のようで、見ていて微笑ましいね。エリナ君は?」

「そうね。初めは能面のように殆ど表情を変えない子だと思ったけれど、その後を見るとね。

 でもあの子、かなり高度な教育を受けていると思うわ」

「へぇ、そりゃまたどうして?」

「妥協できることと、決して譲れないもの。それを最初から決めておいて交渉しているって思ったのよ。

 そんな交渉術なんて、実際に訓練していないと分からないでしょう?」

「そうかもね。どうやら僕らはとんでもないジョーカーを手にしたみたいだね。

 はたして彼女、アルト・ルージュはネルガルに幸福と災厄、どちらを齎してくれるのやら」

 

 

 

 

 

 

 

 退院したアルトはネルガル本社のアカツキの執務室に呼び出されていた。

 退院以来自分にべったりで離れようとしないラピスを部屋に寝かしつけてから、会長室に向かう。

 彼女らに宛がわれた部屋は本社地下にあるので、ものの数分で辿り着いた。

 一応ノックしてから部屋に入る。

「で、話ってなに?アカツキ」

「ああ、契約の件でね。とりあえずこちら側が提示する物としては、君達二人の戸籍と、これからの警護かな。

 分かってるとは思うけど、科学者って人種から見ると君達はとても貴重な『サンプル』らしいからね。

 ガードでも付いてないと迂闊に外を出歩く事もできないよ」

「で、そちらの要求は?」

 大体提示してくる物が分かっていたアルトは、すぐにその条件について尋ねた。

「アルト君にこの機動戦艦ナデシコにオペレーターとして乗って貰いたい。これがネルガルの出す条件だよ」

「私だけ?ラピスは?」

「流石に彼女はまだ幼すぎるよ。君に比べると経験不足だしね」

「それについては良いわ。ただ、ラピスにはあなたから話してね。私はあの子に泣かれるのは嫌だから」

 アルトの言葉に思わず渋面になるアカツキ。それがどれだけ困難な事か既に知っているからだ。

「・・・・・・ま、まあ何とかなるだろう。で、OKかい?」

「そのナデシコの詳しいデータを見せて。無駄死にはしたくないから」

「ああ良いよ。じゃ、これ」

 といってディスクを渡すアカツキ。

 ディスクだけ渡されてもそれを見る為にはコンピュータが無いと話にならない。

 アルトの困惑を見てとったか、アカツキが更に一枚のカードを渡す

「君がいた研究所のシステムに、ナデシコに積むオモイカネと別コンセプトのコンピュータがあってね。

 君達の部屋の一つ下の階に運び込まれたから、それを使うといい。このカードキーでその部屋に入れるから」

 

 

 

 言われた通りの部屋のコンピュータにアクセスしてみて、驚いた。

 オモイカネのように自意識があるのだ。

 それぞれ異なる三つの自意識を持ちながら、一つのシステムを形成している。

「貴方達、名前は?」

<我々に固有の名称はありません>

<私たちを別個の知性と認識したのはあなたが初めてよ>

「じゃあ貴方達の名前、私が付けても良い?」

<勿論だよ。格好良いのが良いな>

「じゃあ・・・・・・ノルン。北欧神話の運命の三女神。・・・・・・どうかな?気に入らない?」

<いいえ。そんな事はありません>

<私たちの名前はノルンで良いけれど、私自身の名前も付けて欲しいな>

<僕も。自分だけの名前って欲しい>

「ちょっと待ってね。う〜ん・・・・・・じゃあ、最初に話した子がウルド。私って言っている子がベルダンディー、最後の子がスクルド。

 女神だから全員女の子の名前だけど」

<問題ありません。今より我の呼称はウルドと登録します>

<私はベルダンディーですね。よろしくお願いします>

<僕はスクルドですか。了解です>

「・・・自分で付けておいてなんだけどスクルド、自分の事を僕って言っているくらいだから男の子の人格だと思ってた。

 だから女の子の名前は嫌がると思っていたわ」

<でも僕らは実際どちらでもないし。別に構わないよ>

「ならいいけれど」

<男性人格と女性人格の明確な差異のデータは我々の中に存在しません。入力して貰えませんか?>

<それってやっぱりホルモンの分泌がどうとか、そういう話なんじゃない?>

「そうだね。やっぱり肉体に依存するものなのかな?よく分からないけれど。

 というか誰にも分からないんじゃない?結局は自分が自分をどう定義するかの問題だと私は思うわ」

 

 

 

 

 それからノルンとしばらく話した後、アルトは以前から気になっていた事を確かめる事にした。

 病院のシステムに侵入して自分の精密検査のデータを捜す。

 発見したデータと、自分の記憶にあるジャンパー適合因子とを比較する。

 ・・・・・・結果、やはりジャンパーになっている。

 遺跡の影響を受けた火星のナノマシンでさえ人をジャンパーに変える力があるのだ。

 遺跡から直接採取したナノマシンを投与されているアルトがジャンパーでない方がおかしいだろう。

 とりあえずそれは置いておいて、ディスクの中身を確かめる事にする。

 ざっと見てみたが、自分の知っているナデシコと性能面の違いは無かった。

 勿論欠点も相変わらず。これでは火星から無事に戻る事は難しい。

「さて、どうしようか・・・・・・」

 幾つか考えておいたナデシコ強化案を思い浮かべながら、アルトは一人呟いた。

 

 

 

 

 

 

 数日後、ネルガル会長室。

「いくつか条件があるけれど、それが飲めるなら乗っても良いわ」

「そりゃありがたい。で、条件って?」

 仕事の手を止め、アルトへと目を向けて問うアカツキ。

「ナデシコの強化。あの艦一隻で火星まで往復するんでしょ?設計段階の性能では帰還は難しいわ」

「そうかい?性能面では蜥蜴の兵器を圧倒的に凌駕してると思うけどね」

「性能は問題ないと思うわ。というか、設計の段階でのミスなんだけれどね」

「どういう事だい?」

 少女の予想外の言葉に身を乗り出して話に聞き入る。

「まず、主砲のグラビティブラストが正面にしか撃てない。

 実際に戦艦を設計した事なんてない科学者らしいミスだけど、敵が前だけにいるとは限らない。

 艦隊を組んで役割を分担しているならそれでも良いかもしれないけれど、単艦で火星までしょう?

 伏兵とか挟撃にあったらすぐ沈むわね」

 言われてみれば至極尤もな話。

 正面からでは勝てない相手への背後から挟撃や、伏兵による奇襲や攪乱は戦術として基本中の基本だろう。

 思わず頭を抱えてしまったアカツキだが、一応反論を口にする

「その為にエステバリスを積んでいるんだよ。主砲範囲外の敵はそれで大丈夫さ」

「そうかしら?エステバリスの積載数にも限りはあるし、一流のパイロットだって人間でしょう?ミスもすれば休息も必要のはず。

 圧倒的多数の敵に包囲されたら守りきれないし、無人兵器で消耗戦をかけて来たらどうするの?」

 アルトの厳しすぎる指摘にもはやぐうの音も出ない。アカツキは机に突っ伏してしまった。

「対策はあるわ」

 その言葉を聞いた途端、アカツキはガバッと音がする程の勢いで起き上がると、縋るような目でアルトを見つめる。

・・・・・・馬鹿。側面から後方までカバーする副砲と、私がオペレートする無人兵器の搭載。

 これがナデシコ搭乗に出す私の条件よ」

「副砲といっても相転移エンジンの出力が足りないよ。それに無人兵器だって奴らの物を超えるのは難しい」

「無人兵器の方は簡単よ。武装は無くても良いわ。ナデシコからコントロールするから人工知能なんて必要ないし。

 重力波ウェーブの受信機とディストーションフィールドだけで充分」

「それなら出来るかもしれないけれど、それでどうやって敵を倒すんだい?」

「体当たりよ。フィールドを纏っていれば本体にダメージは無い。それに質量って最も単純だけれど、結構強力な武器なのよ」

「それは了解した。でも副砲は・・・・・・」

「出力の限界から難しい、でしょ?その問題を解決する画期的アイディアがあるけれど」

 相手の反応を見る為に一旦言葉を切る。

 ポーカーフェイスを保ちながらアカツキの顔を見ると、案の定乗ってきた。

 その様子を内心ほくそ笑みながら、懐からディスクを取り出す。

 そして悪戯っぽく笑うと

「いくら出す?」

 

 

 その笑顔は悪魔の微笑だったと、後にアカツキは語った。

 

 

 


 あとがき

 Mythril「ようやく出航への下準備も終わり、次からはいよいよTVの話です」

 ???「何で私の出番が少ないの?」

 Mythril「おお、今回はラピスか」

 ラピス「それにネルガルにいるのに何で置き去り?・・・納得できない」

 Mythril「ラピスって劇場版でもほとんど台詞ないし、設定集とか持っていない私には殆どオリキャラでしょう?」

 ラピス「それがどうかした?」

 Mythril「自分で作っておきながらアルトの性格もまだ把握出来ていない私の手には余ると判断したんだ」

 ラピス「・・・・・・見通しが甘い」

 Mythril「それはそうなんだけど、最初の予想より随分と難しい子になってしまって」

 ラピス「例えばどんなふうに?」

 Mythril「最初の構想では、搭乗時、アルトには大切なものは無い筈だったのだが、予定外の前回の戦闘の所為で、ね」

 ラピス「それも自業自得。自縄自縛かも。それとも自爆?」

 Mythril「・・・(無視)さらに先の方も次々新しい妄想が湧いてきて、ラストが決まらないから伏線も張れないし。難しいですねぇ物書きって。

  はっきりと決めてある事は、アルトを機動兵器には乗せないという事、逆行物によくある単純な最強主義にはしない事、くらいかな。

 ラピス「何で?Mythrilが捻くれ者だから?」

 Mythril「それもある。でもブラックサレナを乗り回すなら、わざわざ女の子にした意味が無いし。

  確かにアルトは最強です。でもそれは本人が強者だからではありません。その為に二話もかかりましたが」

 ラピス「そんな先の事はいい。次は?」

 Mythril「なるべく早く書くよう努力します(泣)」

 ラピス「世の中努力より結果」

 Mythril「うぐぅ。で、では次回もお楽しみに〜」

 ラピス「・・・・・・読んでくれる人、いるの?」

 Mythril「うわぁぁぁぁぁぁぁあああ〜〜〜〜ん(ダッシュ)」

 ラピス「見苦しいものをお見せしました(ぺこり)」

 

 

 

 

代理人の感想

・・・・ラピスも後書きでは情動豊かだな(笑)。

 

それはさておき。

 

実はラストが決まらなくても伏線は張れます。

ごくごくさりげなく張っておいて、使わなかったら忘れる。

これ最強。(笑)

まぁ、あまりにさりげなさ過ぎると伏線としての意味を半ば失ったりしますから難しいんですが。

 

 

しかし・・・・アルトと志貴の戦闘パターンが重なって見えるのは私だけでしょうか(苦笑)?