「たとえばこんな最終回 承前」
[ルリ、アキトが外部に連絡を取ったよ。]
オモイカネからの連絡です。
普段なら私かラピスに連絡は一任しているのに自分で連絡を取ったということは、予想していた通りの行動
を起こすつもりですね、アキトさん。
「オモイカネ、アキトさんの連絡先をサーチ。分かり次第、詳細を教えて。」
[分かった。ちょっと待ってて。]
オモイカネが探査に入ると私は次の指示をもう一人のオペレーターに出すことにしました。
「ラピス。」
「何?」
「TA同盟メンバーに緊急招集。今から10分後にいつもの部屋に集まるよう伝達して。」
「アキトが動いたの?」
ネットワーク上に監視システムを構築するのを手伝ってもらったので、私の言葉の意味を即座に理解したよう
です。
それにしても、どうやら、アキトさんはラピスにも心を隠したまま行動しているみたいですね。
ラピスはかなり怒っているようです。
「そう。だから例の計画を発動します。エリナさんには例の書類を持ってくるよう伝えて下さい。」
「分かった。」
そう返事をするとサブオペレーター席に向かってIFSをかざします。
同時にオモイカネからの探査終了の連絡がありました。
では、いつもの部屋に移動するとしましょうか。
10分後 ナデシコ艦内某所 秘密の部屋
「ルリちゃん、今回の緊急招集は何なの?」
「そうよ、今の時間は食堂もけっこう忙しいのよ。」
「私にも予定というものがあるんですけど。」
緊急招集されたメンバーがぶつぶつ文句をいっています。
でも、かまいません。この情報を聞けば誰も文句は言わないはずですから。
「では、状況を順を追って説明します。」
ピッ
モニターにナデシコを中心とした地図が表示される。
「先ほど、アキトさんが外部に連絡を取ったことを確認しました。」
私の声に合わせて、地図上の一部が点滅する。
「オモイカネにトレースしてもらった結果、判明した連絡した先はここです。」
地図上の点滅個所を中心にモニターがズームする。
「でも、アキトさんが外部に連絡したのがどうかしたの?」
状況をまだ理解していないらしく、メグミさんが怪訝そうな顔で聞いてきます。
しょうがないですね、もう少し詳しく説明しましょう。
「これまで、外部との連絡は主に私かラピスに一任されていました。」
そういってラピスの方を向く。
ラピスは同意のうなずきを返す。
「もちろん、アキトさんが直接外部と連絡を取ったことが全くなかったわけではありません。
しかし、その時はそれなりの理由が存在していました。」
そこで一息いれる。
「しかし、木連との和平が成立しようとしている現在、アキトさんが外部との連絡を取る必要性はありません。
そう、たったひとつのことを除けば。」
私の言葉に不穏な気配を感じ取ったのか、メンバーの一部が落ち着かなげにざわざわしています。
「オモイカネ、アキトさんが連絡したところの情報を出して。」
[分かった。]
オモイカネの返事と共に、それまで地図が写されていたモニターに別の情報が表示されます。
「アキトさんが連絡したのはロー○バス○ーと呼ばれる、業界屈指の運び屋です。」
私の説明に、簡略化された情報ウィンドウがいくつか開きます。
「そして、運ぶ荷物には人間も含まれます。」
さらに開く情報ウィンドウ。
「人間を運ぶ場合、彼はこう呼ばれています。史上最高の逃し屋と...」
「史上最高の逃し屋...」
だんだんと状況を理解していったのか、皆さんの顔色が悪くなっていきます。
「なぜ、アキトさんが○ード○スターと呼ばれる運び屋と連絡する必要があったのか。
アキトさんに運ぶ必要のある物はありません。とすれば、荷物はアキトさん自身ということになります。」
結論が分かったのでしょう。幾人かからは血の気が引いています。でも、結論は出さなくてはなりません。
「つまり、アキトさんは私達の前から姿を消すつもりです。」
私がその一言を放つと部屋は重苦しい沈黙に包まれました。
それも当然ですね。
結局、私達はアキトさんを過去の苦しみから解き放つことができなかったのですから。
「・・・やだ。」
沈黙の中、誰かの声がぽつりと響きます。
「アキトが私の前からいなくなるなんて...
そんなの...そんなの...絶対やだ!!」
不意にユリカさんが顔を上げ、大声で叫びました。
「そうだ、そうなのぜってぇ認めねぇぞ!!」
「アキト、どうして!どうしてなの!」
ユリカさんの叫びに触発されたのか次々の悲痛な叫びがあがります。
皆さん、その気持ちは良く分かりますよ。
だって、私も同じなんですから...
叫び声を上げていたうちの幾人かがそのまま部屋を出て行こうとします。
「オモイカネ、ドアをロックして。」
[了解。]
悲しみに包まれながらもそうなることを予想していた私は、慌てることなくオモイカネに命じました。
カチッ
ドアにロックのかかる音がします。
それからしばらくユリカさん達がドアと格闘していましたが、どうやっても開かないと悟ったのか、私の方
をにらみました。
「ルリちゃん。ここを開けて。」
その声は、覚悟をしていた私をも揺らがせるほどの想いが込められていました。
さすがですね、ユリカさん。でも、ここでユリカさんの思う通りに行動されては困るんです。
「落ち着いて下さい、ユリカさん。」
「落ち着いてなんていられないよ。早くしないとアキトが、アキトが!」
「大丈夫です。アキトさんがこの艦を降りるのは3日後です。
それに、こうなることを予想していたのに私が何の準備もしていないと思っているんですか!」
語気を強めてそういうと、ユリカさんはとまどった表情でパチクリと瞬きしました。
「えーと、それは私の前からアキトがいなくなったりしないってこと?」
「そういうことです。」
「良かった〜。」
ユリカさんがぺたんと床に座り込みます。他のメンバーもそれぞれほっと一息ついています。
そんな中、動揺していないのはラピス、イネスさん、エリナさんの私を含めて4人です。
まあ、これからの方法を知っていますからね。当然ですか。
「エリナさん、例の書類を出してください。」
「分かったわ。」
そう返事をするとエリナさんはバッグの中からラピスは一通の書類を取り出します。
おやおや、中身を知らないメンバーが興味津々でエリナさんの手元を覗こうとしていますね。
まあ、これでこそナデシコといえるのでしょうけど。
「ほらほら、慌てなくてもちゃんと説明してあげるわよ。」
イネスさんが嬉々として前に出ます。
そうですね、ここは説明おばさんに任せましょう。
「ルリちゃん。今、失礼なことを考えなかった?」
「いえ、考えていませんけど。」
「そう、ならいいわ。」
なぜ、分かったんでしょう?
相変わらず底知れない科学者ですね。
と、そんなことをいっているうちに説明が始まりました。
「ここにある一通の書類。これはある超法規的措置を認める許可証よ。」
「「「「「「「「「「「超法規的措置を認める許可証?」」」」」」」」」」」
「そうよ。」
うれしそうですね、イネスさん。
そういえば、最近説明を必要とする出来事がなかったから...まあ、それはともかく。
「この書類はテンカワアキトにある権利を認める許可証なの。」
「はーい。質問があります。ある権利ってなんですか?」
ユリカさんの質問に得たりとイネスさんが笑っています。
...本当にうれしそうですね。そんなに溜まっていたんですか?
「いい質問ね、艦長。」
居ずまいを正すイネスさん。
「これはテンカワアキトに重婚の権利を認めたもの、いわば重婚許可証よ。」
「「「「「「「「「「「重婚許可証!?」」」」」」」」」」」
このことを知らなかったメンバーから再び悲鳴があがる。
無理もないことですけどね。
「そう、この許可証は[テンカワアキト共有化計画]にどうしても必要だったの。」
「「「「「「「「「「「テンカワアキト共有化計画!?」」」」」」」」」」」
再びあがる悲鳴。でも、イネスさんはそんなことにかまわず説明を続けています。
さすがですね。
「そう、結局私達の誰もがアキトくんの心を癒すことはできなかった。」
「でも、この中の誰一人としてこの先の人生をアキトくんなしで生きていくことなんて考えられない。」
「そして、アキトくんは私達の前から姿を消そうとしている。」
「ならば、どうすべきか。」
「答えはひとつ。アキトくんの心が癒えるまでずっと側に捕まえておけばいい。」
「ただ、同盟メンバー個人個人ではアキトくんを捕まえておくことができない。」
「それに、アキトくんが誰か一人のものになるなんて私達のうち誰も耐えられない。」
「では、どうするか。」
「一人では捕まえておくことは無理でも、全員でかかれば可能。」
「であれば、テンカワアキトをTA同盟全員のものにしてしまえばいい。それがこの
[テンカワアキト共有化計画]の骨子よ。」
イネスさんの説明が終わった。
久しぶりに長時間説明をしたせいか、すごく満足そうな顔をしていますね。
もっとも、この計画を知らされていなかったメンバーはまだ呆然としていますが。
でも、徐々に理解できたのでしょう。
顔が赤くなってきています。
そう、この計画を実行することでアキトさんを失う心配を永久にしなくて済むようになるということを。
まあ、独占もできなくなりますが...アキトさんを失うことに比べたら些細なことです。
「質問!」
「はい、レイナさんどうぞ。」
イネスさんの返事で視線がレイナさんに集まります。
「重婚許可証なんてそう簡単にとれると思えないんですけど、どうやってとったんですか?」
レイナさんの質問に何人かがうなずいています。
やれやれ、そんなに知りたいですか?
イネスさんが私の方を見ていますね。確かにここは私が答えるべきでしょう。
「それは私がお答えします。」
そう私が発言するとイネスさんの方に向いていた視線が私に集まります。
「私、ラピス、ハーリー君はアキトさんの指示でネルガルの筆頭株主になっています。」
レイナさん達が「えっ」と驚いた顔をしていますね。
「私達はそれ以外にもいろいろな会社の筆頭株主になっているんです。
そして、全ての会社の資金をある特定の運用をすると3日で太陽系の経済が崩壊します。」
私のとんでもない発言に、ぎょっとした顔をする皆さん。
まあ、いきなりそんなこといわれれば驚きますよね。でも、詳しく説明するのもなんですから。
「そのことを政府のお偉方達に実演してみせたんですけど...
詳しく知りたいですか?」
ニッコリと笑う私とラピス。
冷汗を浮かべながら顔を横に振るレイナさん達。賢明ですね。
さて、ではそろそろ良さそうですね。
周りを見回した後で、今後の行動を指示することにしました。
「では、私の方でロ○ドバスタ○にキャンセルの連絡を入れておきます。」
私の言葉に皆さんうなずいています。
そう、これだけはきちんとしておかないと万が一ということもありますから。
「イネスさん、拘束用の鎖付き首輪と鉄球付き足枷のウリバタケさんへの制作依頼はお願いします。
くれぐれもアキトさんに気づかれないように。それと、気付け薬の方もお願いします。」
「任せておいて。」
イネスさんは自信ありげに応えます。
「エリナさん、式場の方はお願いしてもいいですか?」
「いわれなくてもやるわよ。それにピックアップの方はもう済んでいるしね。」
頬をわずかに染めながらエリナさんも承知してくれます。
でも、式場のピックアップがもう済んでいるってどういうことですか(怒)
はっ、いけない、ここはがまんがまん...
「それと...全員分のウェディングドレスの準備もお願いします(ポッ)」
ウェディングドレスの一言を聞いた全員がほうっとため息をつきます。
アキトさんのためのウェディングドレス...
この時をどれほど夢見たことか...私一人でないのが残念ですけど...
このまま婚礼の日まで幸せに浸っていたいところですが、やはり、その前にやるべきことはやっておかな
いといけませんね。
「同盟メンバー全員の身体データは後でエリナさんのコミュニケに転送しておきます。
それとウェディングドレスに対する要望は個別に確認して下さい。」
「分かったわ。ネルガルの全ての権力を使ってでも最高のウェディングドレスを仕上げてみせるわ。」
エリナさんの背後に炎のオーラが見えますね。
この様子ならお任せして大丈夫でしょう。
「サラさん、アリサさん、ラピス。関係各所への連絡をお願いします。
こちらもくれぐれもアキトさんに気づかれないよう注意して下さい。」
「「「分かった(わ)」」」
「それと最後にユリカさん、メグミさん、リョーコさんにお願いがあります。」
私は最後の詰めに必要なものを手に入れるために3人に声をかけます。
「「「何(かな)(だよ)、ルリ(ちゃん)?」」」
「アキトさんが艦を降りようとする日に紅茶を作ってほしいんです。」
「「「紅茶?」」」」
3人そろって不可解な顔をしています。
自分達が作る食物がどれだけの威力を備えているか知らないんですか(汗)
ま、まあ、ここは念のためもう一言添えておきましょうか。
「はい。愛情をたっぷりと込めた紅茶をお願いします。
それが、アキトさんを引き止める切り札になるはずですから。」
「「「本当!大丈夫、任せて!!」」」
3人とも胸を叩いて断言してくれました。
この3人の作ったものを口にしなければいけないとは...
死なないでくださいね、アキトさん...
でも、私達を置いて行こうとしたんですから、これはお仕置きです!
そうして、各々がD−Dayに向けて準備を始めました。
でも、私達の心の中にはただ一つの想いしかありません。
決して逃しませんよ、アキトさん。
貴方は永遠に私達のものです。
そして、私達も永遠に貴方のものです。
影竜さんの部屋 たとえばこんな最終回に続く...
管理人の感想
鳥井南斗さんから11回目の投稿です!!
逃げられないのな、アキト(苦笑)
まあ、半分は自業自得だし。
どうせ、戦争が終ったら暇を持て余す人生・・・楽しく生きてくれ(爆)
でもまあ、「自由」とい二文字はもはや得る事は無いだろう(ニヤリ)
と言うか、地球上にも火星にも木星にも逃げ場は無いだろう。
人類の生存圏内で、ルリちゃんラピスから逃げる事は不可能だろうし(笑)
まあ、結果は影竜さんの「たとえばこんな最終回」をご覧下さい!!
それでは、鳥井南斗さん投稿有難うございました!!
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