勝利の凱歌を高らかに

 

 

 

 

格納庫は集まった男達の熱気で蒸し暑いほどだった。

 

「諸君!」

 

壇上に立った会長が眼下の男達に呼びかける。

 

「我が組織の情報部長が入手した情報によると、

 明日、テンカワアキトがアリサ嬢と二人きりでデートに出かけることが判明した。」

 

おぉ〜〜〜〜〜。

 

会長の宣言に地鳴りのような雄叫びで答える男達。

うんうん、その気持ちは僕も同じだ。

 

「我が旗の下に集いし、勇者諸君!

 我々は、明日、テンカワアキトのばら色の日々を終わらせるために出撃する!」

 

うおぉ〜〜〜〜〜。

 

テンカワアキト。

漆黒の戦神と呼ばれる連合宇宙軍最強のエステバリスライダー。

希代の女たらし。

そして、ユリカが好きな男...

僕の、いや僕たちの敵!

 

「目的は二つ。

 一つ目はデートの妨害だ。諸君!あの男一人にいい目を見させてよいのだろうか?」

 

否!

 否ぁぁぁ!!

  否ぁぁぁぁぁ!!!

 

「その通り!

 だが、諸君。おそらくは我々の敵対組織が周辺をガードしているはずだ。

 もし、そのガードを突破できれば、当初の目的通りデートを妨害する。」

 

「しかし、もし、ガードが強力で突破できなかった場合、2つ目の目的に切り換える。」

 

「2つ目の目的は、陽動作戦によりガードをテンカワアキトから引き離すことだ。」

 

ざわざわざわ...

 

男達は戸惑ったようにお互いの顔を見合わせる。

 

「諸君!

 2つ目の真の目的は、テンカワアキトとアリサ嬢の仲を進展させることにある。

 そうすることでこれ以上の女性がテンカワアキトに好意を持つことを抑止し、

 可能であれば現在テンカワアキトに好意を持っている女性の離反を狙うのだぁぁぁ!!」

 

おぉ〜〜〜〜〜。

 

会長の演説に納得がいったのか、男達は再び雄叫びを上げる。

 

「勇者諸君!

 明日、我々は勝利する!!

 そして、春を、光を取り戻すのだぁぁぁ!!!」

 

拳を突き上げて絶叫する会長。

 

春を!

 光を!

  春を!!

   光を!!

 

会長の絶叫にこちらも拳を突き上げて応える男達。

 

僕の計画通り、組織を構成する組合員の士気はこれまでになく高まった。

後は詳細な情報及びグループ割りをそれぞれのコミュニケに送付するだけだ。

これまではコミュニケを利用すると、ことごとく敵対組織に察知されてしまっていたが、

今回はこちらにも切り札がある。

コードネーム:不幸な玩具(笑)ことハーリー君だ。

彼の加入により、圧倒的に不利だった電子戦が戦いようによっては五分に近いところまで引き戻せる。

ふっふっふ、テンカワアキト、今度こそお前に思い知らせてやるぅぅぅ!

 

 

そして翌日、月面シティにおけるTA同盟とテンカワアキト抹殺組合の死闘が始まった...

 

テンカワアキト抹殺組合本部、コールサイン:ムーンベース。

作戦開始より十数分後。

月面シティの地図が表示されたウィンドウに目標発見のマークが点灯する。

 

「ルーク04よりムーンベース。

 目標TAを発見。

 TAはS8と共にA通りをX12Y26地点に向けて移動中。」

 

「ムーンベース了解。追跡を続行されたし。」

 

「ルーク04了解。追跡を続行する。」

 

偵察部隊に追跡続行の指示を出すと、ビショップに全部隊への戦闘開始を指示する。

 

「ムーンベースより全部隊へ。

 TAはA通りをX12Y26地点に向けて移動中。

 各自展開を急がれたし。」

 

ビショップの伝達によりウィンドウ上のチェス駒が速度を上げて動き始める。

と、突然ポーンのひとつが赤く発光する。

 

エマージェンシーか!

 

「ポーン02よりムーンベース!

 敵[赤い獅子]と遭遇!

 現在戦闘中!至急応援求む!?」

 

まずい。いきなり、TA同盟でも最強クラスの駒と遭遇戦になるとは。

すぐに増援を投入しないとやられる!

 

「こちらムーンベース。

 了解。直ちにポーン08とポーン12を回す。

 今しばらく持ちこたえてくれ!」

 

「だめだ、相手が強すぎる!

 早く応援を、応援をピッ、ガッ....」

 

プ−−−−−

 

「ポーン02!ポーン02!

 どうしたっ!?

 こちらムーンベース、ポーン02、応答しろ!?」

 

だが、ポーン02から応答はなく代わりに付近の偵察部隊から連絡が入った。

 

「ムーンベース。

 こちらルーク07。

 ポーン02は敵[赤い獅子]により殲滅された。

 繰り返す、ポーン02は敵[赤い獅子]により殲滅された。

 直ちに別部隊の当該地域への投入を検討されたし。」

 

「・・・こちらムーンベース。了解。」

 

ばかな...これほど戦闘能力に差があるなんて...

当初の推測では、もう少し持ちこたえることが可能だったはず。

どこで計算違いをしたんだろう?

首をひねるが答えはでない。

...済んだことをいつまでも考えている余裕はないか...

そう、自分の心に折り合いをつけ、気持ちを入れ替えると電子戦を行っているビショップに声をかける。

 

「ビショップ、ネットワークの掌握状況は?」

 

「敵掌握エリアは3割弱で押さえています。

 まともにルリさんとラピスに戦いを挑んだら、瞬殺されることは確実なので、撹乱と妨害に全力を注いでいます。

 もっともそのせいで、こちらの掌握エリアは1割に満たないんですけど。」

 

最後の方は情けなさそうにいうビショップに対し、僕は肩を叩くことで応える。

 

「ビショップはよくやってくれている。だから、自信を持って作業を進めてくれ。」

 

「はい!」

 

喜びを露にするビショップに、僕も微笑みを返す。

その直後、新たな凶報が入った。

 

「ルーク09よりムーンベース!

 クイーンが敵に発見されました!!」

 

「何!?」

 

ウィンドウ上でクイーンにTA同盟の駒がみるみる近づいていく。

 

「敵[赤い獅子]、クイーンに急速接近中!」

 

「ばかな、クイーンはもうひとつ先の通りにいるはずだ!?」

 

「どうやら、クイーンはルートを間違えたようです!」

 

ガンッ!

 

テーブルを殴り付ける。まだ序盤戦だというのに、こんな初歩的なミスを犯すとは...

 

「・・・付近に回せる部隊はあるか?」

 

「だめです、付近に存在するどの友軍よりもはやく[赤い獅子]がクイーンに到達します。」

 

「そうか...」

 

「どうします、ナイト?」

 

「だめだ、クイーンを救う術がない...

 ここはクイーンを尊い犠牲として目的の完遂を目指すべきだろう。

 ・・・クイーン自身もそれを望むはずだ。」

 

本部内を一瞬沈黙が覆うが、それしか方法がないことは全員分かっていた。

 

「「「「「「わかりました!」」」」」」

 

数分後、ウィンドウ上からクイーンの駒が消えた。

そして、さらに凶報は続いた。

 

「ルーク01よりムーンベース!

 エマージェンシー!

 エマージェンシー!!

 敵部隊がムーンベースに接近しています。至急待避して下さい!」

 

「何だと!?」

 

咄嗟にウィンドウを見上げると、たしかにTA同盟の駒がムーンベースに接近しつつあった。

いけない、このままではムーンベースを発見される恐れがある。

 

どうすればいい?

 

と、ウィンドウを凝視する僕の目の前に、突然キングの駒が現れた。

 

「ビショップよりナイト!

 キングより入電。

 我、囮となりて敵を陽動す。作戦目的を乙に変更されたし。

 以上です。」

 

くっ、ここまで追いつめられるなんて...

ビショップの加入を過大評価したのだろうか?

 

・・・いや、違う!

 

今回のTA同盟の戦闘能力が今までにないほど強力だったのが原因だ。

だが、なぜこれほどまでに戦闘能力が向上しているんだ?

その時、僕の脳裏に天啓が閃いた!

 

嫉妬か!!

 

彼女達の戦闘能力を格段に向上させているのは嫉妬だ。

それが、ここまでの計算違いを引き起こしたんだ。

まさか、女性の嫉妬がこれほどの力を生むものだったなんて...

だが、今更そんなことをいってももう遅い。

キングが自ら囮を買って出た以上、これ以上作戦甲を実行するのは難しい。

 

やむを得ない...か。

 

「ビショップ、全部隊に伝達。

 作戦目的を甲から乙に変更。各自所定の行動に移られたし。

 以上だ。」

 

「了解!

 こちらムーンベース。

 全部隊に通達。全部隊に通達。

 作戦目的を甲から乙に変更。各自所定の行動に移られたし。

 繰り返す、作戦目的を甲から乙に変更。各自所定の行動に移られたし。」

 

ポーンXX了解。

ルークXX了解。

 

残存部隊から作戦目的変更を了承した連絡が次々入電する。

TA同盟との戦闘ににより、かなりの数の部隊が沈黙しているが、作戦乙を実行するだけの部隊は

十分生き残っている。

 

そうだ、まだ勝負は終わっていないんだ!

 

それから、月面シティ各所で絶妙な駆け引きが展開された。

TAとS8に接近しつつも微妙にコースをかえるテンカワアキト抹殺組合部隊。

テンカワアキト抹殺組合部隊を殲滅しようとするTA同盟部隊。

キングとクイーンを失ったテンカワアキト抹殺組合本部ことムーンベースで懸命に指示を下すナイト。

しかし、時間の経過と共にテンカワアキト抹殺組合部隊を意味するチェス駒は次々と殲滅され

モニターから消えていった・・・

TA同盟指揮官とナイトの間には隔絶した指揮能力の差があった。

本来ならばそのままテンカワアキト抹殺組合部隊は壊滅したであろう。

 

だが!

 

今回ばかりは絶望的な状況で懸命に指揮しつづけるナイトに憐憫の情を覚えたのか、

幸運の女神がほんの少し彼を振り向いたらしい。

ナイトは、最後の最後で、壊滅しつつある自部隊の大半を囮にするという非情の決断を下すことによって、

決定的な瞬間をものにすることに成功したのである。

 

「ムーンベース!ムーンベース!

 こちらルーク12。

 S8がTAに抱きついています。

 あっ、今度は腕を組みましたぁぁぁ!」

 

何ぃぃぃ、TAがS8と抱き合っただとぉぉぉ!

しかも、現在腕を組んでいるだとぉぉぉ!!

こっ、こっ、これはすばらしい得点だぁぁぁぁぁ!

 

TAとS8の仲を進展させる作戦乙は7割方成功をおさめたとみていいだろうぅぅぅぅぅ!!

 

「ムーンベースよりルーク12。

 直ちに映像を本部に送られたし。」

 

「了解。映像を送ります。」

 

そして、ルーク12から送られてきた映像の中では確かに腕を組んで歩くTAとS8が写っていた。

 

「・・・・・」

 

「どうしました、ナイト?」

 

「いや、これほどの勝利を収められるとは途中から思っていなかったんだ。」

 

言葉に詰まりそうになりながらもどうにか返事をする。

そう、ユリカを相手にここまでやれるとは思わなかった。

そう思いつつも、僕の指先は送信先を全部隊に合わせて放送の準備を行う。

そして、最後の演説を行う時がきた。

 

「ムーンベースより全部隊、ムーンベースより全部隊!

 諸君、作戦は終了だ。

 我々は勝利した!

 繰り返す、我々は勝利したのだ!!」

 

万感の想いを込めて僕は全部隊に勝利を告げる。

 

「キング、クイーン、散って行った多くの同胞達よ...

 貴方達の犠牲は無駄にはならなかった...

 今ここに、テンカワアキト抹殺組合は

 月面シティにおける勝利を宣言する!!!」

 

 

うううううおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜。

 

 

月面シティのあちこちで男達の叫び声がこだまする...

 

 

 

こうして、月面シティにおけるTA同盟とテンカワアキト抹殺組合の死闘はテンカワアキト抹殺組合の

戦術的勝利によって幕を閉じたのであった。

 

...ただ、後日のTA同盟による報復処置は苛烈を極めたという...南無。

 

 

 

独り言

 

満を持して、ユダことアオイジュン登場(笑)すごいぞ!

ユリカを相手に作戦目的を達成するなんて!!

これまでの影の薄さが嘘のような八面六臂の活躍ぶりじゃないか(爆)

・・・・・でも、これでこの先、当分の間は出番はないな(苦笑)

他のSS作家さんでジュンが主役のものってあまり見かけないし(笑)

ハーリーのはあるけどね(^^;

 

えー、後半部分はちと読みにくかったかもしれません。

 

TA=テンカワアキト

S8=アリサ

キング=アカツキ

クイーン=ウリバタケ

ナイト=ジュン

ビショップ=ハーリー

 

と読み替えて頂ければすこしはわかりやすいかな?

にしても、ジュンとハーリーが活躍するSSってある意味すごいSSかもしれない(爆笑)

 

 

 

 

管理人の感想

 

 

鳥井南斗さんから16回目の投稿です!!

ジュン・・・

お前、こんなところで実力を発揮してどうするよ(苦笑)

そんな事だから、一番肝心なところで目立たないんだよ(爆)

しかし、見事なコンビネーションだったな〜

・・・その十分の一でもいいから、仕事に取り組めよ(苦笑)

 

でも、良くユリカと対等に渡り合えたよな〜、ジュンの奴(笑)

 

それでは、鳥井南斗さん投稿有難うございました!!

 

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