これは・・・サイドストーリー(笑)

 

「イネスのひととき」

 

 

「さて、今日はどの薬を試そうかしら。」

 

なんとも物騒なことをおっしゃっているのはこの部屋の主、イネス・フレサンジュである。

そして、イネスの視線の先には、手書きのラベルがついた薬ビンとおぼしきものが3本並ん

でいる。そのうちのどれを使用するか思案中らしい。

 

「すみません。イネスさん、いますか?」

 

そう声をかけて医務室に入ってきたのはテンカワアキトである。

 

「あら、いらっしゃいアキト君。今日はどうしたの?」

 

イネスはドアの方に振り返り、アキトをみとめると微笑みを浮かべて尋ねた。

 

「どうも胃腸の具合が良くなくて。何かよい胃腸薬はありませんか?」

 

「ふーん。まあちょっと座ってくれる。」

 

そうイネスは答えるとアキトを椅子に座らせた。そして、おもむろに聴診器を取り出す。

 

「じゃあ、お腹を出してくれる?」

 

と聴診器を構えながらアキトに服を脱ぐよう指示する。

 

「そんな。別に痛むわけじゃないんですから、薬をもらえれば大丈夫ですよ。」

 

「だめよ、そんな素人判断をしては。もし違っていたら大変なことになるんだから。

 おとなしく服を脱ぎなさい。」

 

頬を少し赤らめつつも毅然と言う。

 

「はあ。わかりました。」

 

アキトは別に言い争いをするほどのことでもないと思い、承諾すると上半身の服を脱ぎ始めた。

 

「脱いだ服はこのかごにいれるといいわ。」

 

そういってイネスはかごを渡す。

 

「ありがとうございます。」

 

アキトは礼をいうと脱いだ服をそのかごの中にきれいにたたんでいれ、改めてイネスの前

に座り直した。

 

「それじゃ、ちょっと動かないでね。」

 

先ほどよりも更に頬を赤くしつつもイネスは聴診器をアキトの身体にあてる。

その目は真剣だ。さらに、あちこちに手をあてると軽く押して確かめる。

 

ちなみにこの映像をブリッジで見ていて機嫌を悪くしているオペレーター達がいたのは

完全な余談である。

 

「ルリルリ、ラピスちゃん、どうしたの?」

 

「「・・・何でもありません(怒)」」

 

そんなことには関わりなく診察は続いていた。

 

「ちょっと後ろを向いて。」

 

「はい。」

 

今度は、背中に聴診器をあて異常がないか耳をすます。

 

「前を向いて口を開けてくれる?」

 

「はい。」

 

アキトはイネスに向かって大きく口を開けてみせる。

イネスは注意深く口の中の様子を確かめると、唾液を少し採取して分析器にほうり込む。

 

数秒後、分析結果が表示される。

 

「ふーん。やっぱりね。」

 

「あの、どうでしょう?」

 

少し心配そうにアキトが尋ねる。

 

「ああ。心配しなくても大丈夫。軽い神経性の胃炎よ。多分ストレスによるものね。」

 

「そうですか。」

 

ほっとした様子を見せるアキト。

そんなアキトをイネスはたしなめる。

 

「こら、たいしたことがないからといって甘く見てはだめよ。ほうっておけば間違いな

 く悪化するわ。」

 

そういいながら薬棚から手書きのラベル付きの錠剤入りのビンを取り出す。

そして一回分づつのパッケージに手早く小分けし、3日分の分量を作成すると薬袋にいれる。

 

「じゃあ、この薬を1日3回食後に服用するようにしてね。」

 

注意事項と共にイネスが薬袋を渡す。しかし、もともとの薬の出所を見ていたアキトは確

認せずにはいられなかった。

 

「イネスさん、これってひょっとしてイネスさん自身が調合した薬じゃ...」

 

「あら、信用ないわね。」

 

苦笑しながら、アキトを軽くたたく。

 

「すみません。でも...」

 

それでもなお躊躇するアキト。まあ、当然かもしれない。

 

「大丈夫。その薬は、そうねぇ、こう言えば納得してくれるかしら。

 その薬は、コンバットプローブンよ。」

 

「コンバットプローブン!?戦闘証明済ですか!?」

 

アキトが驚いた顔でイネスに問い返す。

 

「そういうこと。つまり人体での試験はもう行ったということよ。」

 

イネスが誇らしげに答える。

だが、アキトは怪訝な顔で質問を重ねる。

 

「人体での試験は行ったって、一体いつ、誰に...アッ!?」

 

質問の途中でアキトは絶句した。

そう、アキトは思い出したのである。

ここには一人の男がいることを。

艦内で医療室の主と呼ばれている男がいることを。

 

アキトの頬を一筋の汗が伝う。

 

「あの、イネスさん?もしかして...」

 

「その通りよ。」

 

アキトの視線が医療室の奥の方に移るのをみて、イネスが肯定する。

 

「彼って、本当に丈夫なのよねぇ。どんな薬を使用しても短期間で回復するから、

 とっても助かるわ。まさに医術のために生まれてきたような人間ね。」

 

イネスが何の罪悪感もない顔で、心底嬉しそうに言葉を重ねる。

しかし、それを聞くアキトの方は徐々に顔色が悪くなっていく。

アイちゃん.....それは違うと思うよ.....

思わず、そう心の中でつぶやいてしまうアキト。

どうやらナオのように達観するまでにはいたっていないようだ。

この辺がアキトのアキトたる所以であろうか。

 

「あら、アキト君、顔色も悪いわね?」

 

アキトの視線を追って医療室の奥を見ていたイネスが、アキトに視線を戻した途端、

驚いたように尋ねる。

 

「あっ、いえ、気にしないでください。それじゃ、ありがたくこの薬は頂いていきます。

 それでは失礼します。」

 

アキトはその場で即時撤退を決断した。

このままこの場所に居続けることは、ただいたずらに損害を増やすだけであると、黒い王子

としての常に冷静な精神の一部が判断したのだ。

 

すまん、ガイ。

俺にはお前を救うことはできない。

 

そう、心の中で詫びると木連式柔の歩法のひとつ「旋風駆(つむじがけ)」で医務室から

脱出するアキト。

 

「あっ、アキト君!」

 

イネスからすればアキトが突然、目の前から消えたようにしか見えなかった。

それほどの高速移動だったのだ。

 

「もう、せっかちなんだから。」

 

かわいらしく頬を膨らませてイネスが拗ねてみせる。

だが、そのままいつもまでも拗ねているわけにもいかない。

ひとつため息をついて気持ちを切り換えると、イネスはアキトが医療室を訪れる前に行っ

ていた作業に戻ることにした。

 

「そうそう、どれにしようか迷っていたのよねぇ。」

 

改めて3本の薬ビンを手に取り、頬に指を当てて考え込む。

 

「こっちの薬も試したいけど、こちらも捨て難いわ。」

 

イネスとしては珍しく決断を下せないでいると、急に医療室の奥のベッドがガタガタと揺

れだした。さらに、くぐもった唸り声らしきものも聞こえるようになる。

 

「あらあら。予想よりずいぶん早いわね。

 ひょっとして麻酔に対する耐久力が増しているのかしら?」

 

ちょっと驚いたようにつぶやくとイネスは薬ビンを持ったままそのベッドに近づいていく。

そこでは、さるぐつわを噛まされ、身体中をがんじがらめに縛られたダイゴウジガイこと

ヤマダジロウが暴れていた。   #逆か?

 

「フガー、フガー!」(ほどけー、ほどけー)

 

「こらこら、そんなに暴れないの。」

 

イネスはそうヤマダにいうが、ヤマダからしてみれば聞きいれるつもりがないのは一目瞭然だ。

 

「フガー、フガフガフガー!」(出せー、俺をここから出せー)

 

さらに力の限り暴れるヤマダジロウ。しかし、イネス特製の拘禁用ロープはびくともしなかった。

イネスは、ヤマダの暴れっぷりをしばらくあきれた様子で眺めていたが、ふと良いことを

思い付いたといわんばかりにポンと手を叩いた。そして、手に持っていた薬ビンを机の上

に置くと、机の引き出しの中からおもむろにサイコロをひとつ取り出した。

 

「説明しましょう!

 現在、私はどの薬を被験者に使用するか迷っています。

 その理由は、どの薬も観察にある程度の時間がかかること。

 そして、それぞれの実験優先度がほとんど変わらないということに尽きます。」

 

いつのまにか大学のベレー帽のようなものを頭にのせ、説明用のポインター棒を持った

イネスは誰に対するとも分からぬ説明を始めた。

 

「しかし、被験者を見ているうちにあることを思い付きました。

 迷った時は初心に帰るべし。

 迷いがあるのなら単純に確立論に任せることもひとつの解決の手段であると。

 そこで私は、アキト君のお仕置き内容をカードで決めているように、使用する薬を

 サイコロで決めるという至極単純かつシンプルな方法を選択することを決定しました。」

 

説明を続けながらサイコロを構えるイネス。

 

「現在、3本の実験予定の薬があります。そこで1・2がでれば右の薬を、3・4がで

 れば真ん中の薬を、5・6がでれば左の薬を使用することにします。

 では、サイコロを振るとしましょう。」

 

イネスの説明が始まると同時に、なぜかおとなしくなっていたヤマダは説明が終わるや否

や、これまでの暴れようがまるでそよ風だったかのように激烈に暴れ始めた。

 

「フガー!」(いやだー!)

「フガフガフガー!」(俺はまだ死にたくな〜い!)

「フガガー!フンガガガフンガー!」(アキト!親友のピンチだー!)

「フンガガガフンガー!」(助けてくれー!)

 

だが、...ヤマダジロウに助けの訪れる気配はなかった。

そんな暴れるヤマダをよそに、イネスは無造作にサイコロを振るった。

 

 コンッ

          コロコロコロコロコロ...コロン。

 

サイコロの出目は3だった。

 

「3が出たので被験者に使用する薬は真ん中に決まりました。」

 

そういって、イネスは真ん中の薬ビンをとる。そして、中身をアンプルに移し替えると

無針注射器にアンプルをセットした。

その後、注射器を手に持ったままヤマダの横たわるベッドの隣に立つ。

そして、今度はヤマダに説明を始めた。

それは、ひょっとすると、イネスにとっての良心の現われ、インフォームドコンセプトだった

のかもしれない。

 

「説明しましょう!

 20世紀後半から、笑うことが人間に良い影響を及ぼすことが研究の結果判明してきま

 した。特に、ボケ老人に対し漫才を定期的に開催した場合、症状が改善することがよ

 く知られています。しかし、本当に良い影響しかないのか?それを調べた研究者はま

 だいません。

 そこで、今回のコンセプトは人間が極めて長期間にわたり笑いつづけた場合の影響を

 調べるというものです。

 この注射器には私が調合した、一言で言うならば、笑い薬がセットされています。

 この笑い薬を注射された人間は、中和剤を注射されるかまたは薬の効力が切れるまで

 笑いつづけます。効力は計算では1週間程度続くと予想されます。」

 

再びイネスの説明の間なぜか静かにしていたヤマダは、説明が終わった途端、死にもの狂

いで暴れ始めた。その表情は、まさに虎を前に逃げることができない草食動物といった感

じだったが、唯一違う点があったとすれば、虎ならぬイネスの口元にうっすらと笑みが浮

かんでいたことだろう。

 

徐々に近づいて行く注射器。

 

ますます暴れるヤマダ。

 

だが、とうとう注射器はヤマダの首もとの頚動脈にあてられた。

限界まで見開かれるヤマダの目。

 

・・・プシュー・・・

 

しばしの静寂...そして...

 

 

 

...その後の調査によれば、その日から1週間、医療室から不気味な声が絶え間なく響

きつづけたという。

また、イネスの実験結果レポートは現時点では公開されていない。

 

 

 

独り言

 

私は医学、薬学の知識がないので粗探しはしないでください(爆)

23世紀でも聴診器を使っているの?という質問も却下です(核爆)

ただ、イネスがイネスらしくないところが多い。

イネスのマッドサイエンティストの度合いが低い。

といった点を残念に思っています。

特に本編?14話其の二でBenさんがイネスのかなりのマッドぶりを披露さ

れているのであれを超えるものを目指したんですが...

無理でした(笑)

当初の予定では縦横無尽のマッドぶりのはずだったんだが。

まあ、私の文章力や知識ではここらが限界ということでしょう。

それにしても...哀れガイ(笑)

「戦いの果てに」の時のかっこいいガイはどこへいったのだろう(苦笑)

迷わず成仏してくれ...といっても「時の流れに」のガイの不死身ぶ

りなら問題ないでしょう(笑)

 

汝は偉大なり。汝の名は...ガイ(爆)

 

 

 

 

 

管理人の感想

 

 

鳥井南斗さんから5回目の投稿です!!

ははは、結構怖いですよ、このイネスさん(笑)

Benの書くイネスさんが明るいノリのマッドなら。

鳥井さんの書くイネスは真性マッド・・・(爆)

しかし、一日中笑のは拷問ですぜ(苦笑)

ガイの奴、腹筋が切れてれんじゃ・・・

それに寝れない無いしな(汗)

 

・・・まあ、ガイだから大丈夫だろう!! 

それに後輩の彼も、もう直ぐ医療室に入るし(爆)

 

それでは、鳥井南斗さん投稿有難うございました!!

 

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