「ふ〜ん、新しい人が来るんだ〜。」
朝早く、他に誰もいない道を一組の男女が歩いていた。
一人はモデルでも食べて行けそうなほど綺麗な少女だ。彼女の長い黒髪の先は赤いリボンで留められている。
この少女が千鳥かなめだ。
「肯定だ。名前はテンカワアキト。俺と同年だそうだ。経歴は俺と同じ傭兵上がり。実力はミスリルでもトップクラスのはずだ。」
もう一人、相良宗介はアキトのことをスラスラとかなめに説明した。
「へ〜、トップクラスってことはソースケよりも強いの?」
かなめがそう質問する。
「む・・格闘戦なら俺に勝ち目は無いな。資料によるとアキトは格闘戦なら訓練キャンプで負け無しだったそうだ。」
ソースケにはそれが信じられなかった。訓練キャンプでは同じ訓練生を十人、ぶっ続けで戦闘をするという訓練があるのだ。
これはある意味記念行事みたいなもので『何人倒せたか』でクリアーが決まる。ちなみに三人でクリアーだ。
それをまともに十人倒してクリアーしたのはアキトが初めてだった。
ソースケは真面目にやらなかったが、もし真面目にやっていたとしても五人も倒せなかっただろう。
それだけ訓練生のレベルは高い。
「そんなに強いの?」
「肯定だ。」
「そんなに優秀な人をこっちに来てもらってもいいのかなあ。」
実は宗介もそう思っていた。宗介がココに居るのも保険なのだ。それを更にもう一人増やすということは考えられない。
しかも一般の隊員ならまだしも入隊したてとはいえSRT要員が来るのだ。
宗介の脳裏からは(自分を帰還させてその代わりにアキトを任命したのではないか)という考えが離れなかった。
「俺にもわからないが、何か考えがあるのだろう。」
「ま、いいや。で、今晩のことなん・・・・・・」
ピリリ、ピリリ、ピリリ・・・・・・
かなめの言葉を遮るように宗介の携帯が鳴る。
宗介は胸ポケットから携帯を出す。
「こちらウルズ7。・・・・・・わかった。・・・・・・○九三五時、RVはポイントE。了解。すぐに向かう。」
と小声で応じた後、宗介は踵を返して自宅に向かう。
「ちょ、ちょっとアンタどこに行くのよ?」
「急用だ。申し訳ないが生徒会の仕事は君に任せる。それでは」
そう言うと宗介は走り始めた。
「アンタ、今晩の約束覚えてんの!?・・・・・・ああっ、もうっ!!」
と言って両手で頭をかきむしった。そのためかなめの髪型はめちゃくちゃになってしまった。
「ここら辺・・・・・・かな?」
その頃アキトは転入手続きの最終チェックの関係で陣代高校に向かっていた。
しかし、彼はいま自分がどこに居るのかわからなかった。ぶっちゃけた話、アキトは道に迷っていた。
「う〜ん、道だけじゃなくて店とか特徴のある家とか書いといてくれればいいのにな。」
と、ぼやきながら地図と周りを見比べる。
「仕方ない、人に聞こうか・・・・・・」
「With Mithril」
〜第二話〜
「あ〜、むかつく〜・・何であたしがアイツの分の仕事をしなくちゃ行けないのよ。」
かなめは機嫌の悪さ120%で歩いていた。
「大体、仕事で忙しいなら生徒会なんかやらなきゃいいのに。」
宗介が生徒会に属している理由がかなめを守るためだというのは知っていたがかなめは愚痴らずには居られなかった。
「あ〜〜〜、くそ〜〜〜・・・・・・ん?」
目の前を一人の少年が地図を持ってうろうろしている。
自分と同じくらいの年だろうか、ザンバラの黒髪の頭が左右をきょろきょろ見回している。
その少年をしばらく観察していると、少年がこっちを向いた。
瞬間、目が合ってしまった。慌てて逸らすが少年はこっちに向かってくる。
「すいません。陣代高校にはどうやって行けばいいですか?」
と、聞いてきた。
それを聞いてかなめはその少年が例の『テンカワアキト』かと思ったが、すぐにその考えを打ち消した。
その少年の持っている雰囲気は『戦争』というものを感じさせなかったからだ。
そして、もちろんマッチョでもない。
「あ〜、それ、あたしの通ってる高校ですよ。何なら一緒に行きましょうか?」
「ありがとう。お願いします。」
そう言って少年は微笑む。かなめが今まで見た中で最高の笑顔だったと言って差し障り無いだろう。
それぐらいの人を安心させる笑顔だった。
「あ・・・・・・こっちです。」
そう言ってかなめはアキトに背を向けて歩き出した。
その笑顔に見とれることになぜか罪悪感を感じて・・・・・・
それから五分ほど歩いた所に陣代高校があった。
その間アキトとかなめは口を利かなかった。
アキトは護衛の対象者に自分のことを話してよいものか考えあぐねいていた。
かなめは話すタイミングを最初のときにつかみ損ねてしまったため話が切り出せなかったのだ。
「えっと・・・・・・ここが陣代高校よ。」
「ありがとう。・・・ええと・・・・・・」
「あ、あたしはかなめ。」
アキトは自分が護衛だということを知らせないことにした。
知ってしまったことで任務がやりにくくなるかもしれないからだ。
「ありがとう、かなめちゃん。」
そう、満面の笑みでアキトはお礼を言った。
その笑みに思わずかなめの頬は赤く染まる。
「う、うん。それじゃ。」
と言って、かなめは走り去っていった。
「なんか用事があったみたいだし、悪いことしちゃったかなぁ。」
アキトは頭をかきながら、かなめの走り去っていった校舎に足を向けた。
「はい、ここにサインして。」
「はい。」
女性教諭に差し出された書類にアキトはサインする。
女性教諭は書類を確認して、
「はい、これでおしまい。登校は明日からね。」
「明日ですか?」
アキトはてっきり今日からだと思い、飛行場から直行してきたのだ。
そのため、迷子になってしまったのだ。
「ええそうよ。手続きに一日かかるの。」
「どうしたのかね、千鳥君?
まだ会議が始まる二十分も前だと言うのに走ってくるとは・・・」
かなめが生徒会室に着いたときにはすでに人が居た。
髪はオールバックで真鍮フレームの眼鏡をかけており、その細い両目には知的な輝きがある。
林水敦信、陣代高校生徒会会長である。
「はあ、はあ・・・・・・な、なんでもないです。」
かなめは息を切らしながら答える。
「ふむ、まあいい。それよりも相良君はどうしたのだね?
君と一緒に来ると思ったのだが。」
林水が目の前にある資料を見ながら尋ねる。
その仕草・態度はどこか、カリーニンに繋がるところがあった。
「あいつは今日は休みだそうです。」
席に着いて、少し落ち着いてからかなめは答えた。
「そうですか、外れでしたか。」
マオの報告にテッサが眉を少しゆがませる。しかしその瞳に落胆の色は少なかった。
テッサは今回の宗介たちの任務の結果報告を聞いていた。
宗介たちの任務はあるテロリスト養成キャンプから『A21』というテロ組織の構成員を捕らえてくることだった。
テッサがいるのは強襲揚陸潜水艦<トゥアハー・デ・ダナン>の中央発令所――通称『ブリッジ』――だった。
艦と戦隊の総指揮を取るそこは広く、ナデシコのブリッジよりも大きかった。
《イエス・マム。『A21』というテロ屋の影も形もありませんでした。》
無線越しにマオが報告を続ける。
《キャンプの指導者を締め上げた所、似たような日本人のグループが二週間ほど前に見学に来たそうです。
その後、マニラからゴールドコーストに向かうと聞いていたそうですが、まず、ガセでしょうね。
あの男は何も知りませんよ。》
「キャンプに行くと見せかけて姿をくらませましたか・・・・・・やられましたね。
ごめんなさい、無駄骨を折らせましたね。」
《あなたのせいじゃないわ、テッサ。》
マオは優しい声で言う。
《・・・・・・では、これからRVポイントに向かいます。よろし?》
「ええ、予定どうり帰還してください。待っています。」
《了解、交信終わり》
目の前にあるスクリーンの右隅にある『URUZ 2』の表示が消える。
テッサはため息をつく。
その横に立っていた、マデューカスがわかりきっていたことを言うかのように、
「やはり、あの訓練キャンプは外れでしたか。」
「はい、メリッサたちには悪いことをしました。」
実は、あの訓練キャンプに『A21』が潜伏している可能性はかなり低かったのだ。
何故ならそのキャンプに行っているはずの一人が十日前、日本で既に捕まっていたからだ。
「艦長が気にすることではありません。それに『可能性がない』のではなく『可能性が低かった』のです。」
しかし、自分にはこれだけの人材と設備が与えられているのだ。これぐらいのことは事前にわかっているべきなのだ。
この部隊には全能に限りなく近付いて欲しかったし、自分がそうさせるべきだとテッサは常々考えていた。
そこに、艦のマザーAIが通信を表すアラームを鳴らす。
「誰からですか?」
<ウルズ9、ヤン・ジュンギュ伍長。回線G1>
「つないで。」
<アイ・マム>
ほんの少しの時間の後、若い男の声が聞こえる。
《こちら、ウルズ9です。》
「はい、ヤンさん。何かあったんですか?」
《やはり日本政府は『A21』の構成員の引渡しには応じませんでした。》
「そうですか。」
これは予想どうりの出来事だった。日本政府がこちらの引渡しに応じる理由はないのだから。
《実はカリーニン少佐から伝言を預かっているのですが・・・・・・》
そこにマデューカスが口を挟む。
「ヤン伍長。カリーニン少佐はどうしたのかね?」
ヤンはカリーニンの仕事のサポート(使いッ走り)兼護衛として日本に行っていたのだ。
カリーニンの仕事とは十日前に捕まった『A21』の構成員の調査である。
《それが構成員が捕らえられている施設の磁場の影響か何かで電波関係が使えず外部との連絡は有線でなくては取れません。
そのため、自分がその施設を抜け出して影響のないところで通信をしています。》
カリーニンは交渉の関係でここに来るわけには行かなかったのだ。
《それで伝言ですが、その構成員にはある種の薬物反応があり、艦長にご足労願いたいとのことです。》
テッサはその言葉に眉根にしわを寄せる。テッサの知っている中で薬物関連で自分が必要となるのはウィスパードのことともう一つ。
ラムダ・ドライバのことしか思い当たらなかった。
更に構成員が空港での暴行が原因で捕まったことから想像すると、後者の可能性が高かった。
何故なら、後者の場合に使用する薬物には凶暴性の発露という副作用があるからだ。
「わかりました。手筈は・・・・・・」
打ち合わせをしながら、テッサは暗澹たる気持ちだった。
まただ・・・また、あの脅威が来る。しかも、今回は・・・・・・
朝の陽光が清清しい。小鳥のさえずりが耳に心地よく感じる。
「ん〜、朝か〜。」
アキトは両手を上に組んで体をめいいっぱい伸ばす。
もちろん気配を完全に絶つのを忘れない。隣の部屋には宗介が寝ているのだ。
昨日の深夜、宗介は死にそうな顔をして帰ってきた。
話を聞くとかなめとの約束を忘れて、任務に行っていたらしい。
ちなみにアキトにはまだASが配備されてないため、その任務には参加しなかったのだ。
アキトは体の動きを五分ほどかけて丹念にチェックし、キッチンに向かう。
そして、冷蔵庫の扉を開けた瞬間、今まで流れるように動いていたアキトの動きが初めて止まる。
中に入っていたのは、トマト二個、ハム五枚、卵四個・・・・・・これだけだった。
それ以外はミネラルウォーターが一本しかない。キッチンを見渡す。
調味料は塩、砂糖、胡椒だけ。油は少し古いサラダ油が残りわずかにある。
主食となりそうなものは、冷蔵庫の上にのっけてある食パンとジャガイモだけで、米はない。
思わず、アキトの口からため息が漏れる。
昨日はこの地域の観察のため八時ごろまで出歩いていた。
そのため、昼も夜も外食で済ませたので、キッチンを使うは今朝が初めてだったのだが、ここまで何もないとは思っても見なかった。
この状態で作れそうなものを考えるが、ハムとトマトを添えた目玉焼きぐらいしか思いつかなかった。
(今日のやることはまず、買出しだな。)
五分ほどして宗介が起きてくる。
「おはよう、ソースケ。」
「ああ、おはよう。」
そう言った後、宗介の視線は食卓の上にある食事に注がれる。
「それは・・・・・・」
「ああ、朝ごはん作っておいたぞ。それにしてもここの冷蔵庫何もないんだな。ソースケは外食ばかりしてるのか?」
「いや、外食はあまりしないが、それにしても豪華な朝食だな。」
宗介は驚きの表情を見せる。
宗介はアキトと面会を済ませてから少ししか滞在せず、東京に帰っていったためアキトが料理できると言うことは知らなかったのだ。
「そんなに豪華ではないと思うんだけど。」
「いや、どちらかと言うとこれは豪華すぎる。
食事は最低限の栄養さえ取れればそれでいい。戦場ではそれすらも出来ないことがあるんだ。」
宗介は身も蓋もないことを平然と言う。
「その上、現在、俺の貯金は激減している。これ以上の出費は出来るだけ避けたいのだが。」
これは切実な悩みだ。最近投資に失敗したあるボディ・スーツ、日常的に払わなくてはならない器物の弁償。
「ミスリルの給料はかなりいいはずだろ?」
「ああ、しかしそれでも間に合わないかもしれない。」
少し肩を落として宗介が答える。
「なら食費は俺持ちでいいよ。これは俺の趣味みたいなものだから。」
「そうか、すまない。」
「いいよ、それに俺たちは仮だといっても従兄弟じゃないか。さあ、食べよう。」
アキトは食卓に着く。宗介もそれに促されて食卓に着いた。
「それでアキト、相談なんだが。」
食事もあらかた終わり、宗介とアキトは学校に行くまでのひと時をすごしていた。
「ん、何?」
「カナメのことなんだが、どうしたらいいと思う?」
「かなめちゃんね、彼女には少し会っただけだし、まともに話も出来なかったからなあ。」
「むう。とりあえず、これを渡そうと思うんだが。」
宗介が取り出したのは赤く可愛らしい花だった。
宗介のぶっきらぼうな性格を考えると花を贈るなどという行為はかなり意外である。
「いいんじゃないか。
俺は女の子と付き合ったことは無いけど、昔の戦友の話ではこういうときは贈り物で機嫌をとるのが一番だって聞いたし。」
嘘ではない。
メグミとの関係は一時いい雰囲気となったが、あれは付き合っているという感じではなかったし、
ユリカとはそのままなし崩しに結婚してしまったし、エリナとは付き合うという関係じゃなかったし、
リョーコともそういうのはなかった。
「そうか、ならこれをカナメに渡そう。相談はこれだけだ。すまなかった。」
「そんなにかしこまらなくていいよ。さっきも言ったけど俺たちは仮の関係だけど従兄弟じゃないか。」
「そうだな。」
「じゃあ、俺は職員室に行くから。」
「ああ、教室で会おう。」
宗介とアキトは昇降口で別れた。
宗介の顔には今から勝ち目のない戦いに赴く兵隊の顔だった。
それとは打って変わってアキトの顔は期待に満ちた表情だった。
もう自分が通うことなどないと思っていた学校に任務とはいえ再び通うことが出来るのである。
しかもアキトは幼い頃両親が死んだので中学校までしか通っていなかったのだ。
「ええと、私が担任の神楽坂恵理です。よろしくね。」
そう言った女性教諭は昨日、手続きをしてくれた人だった。
「はい、こちらこそよろしくお願いします。」
アキトはお辞儀をする。
「あなたの教室はこっちよ。ついてきて。」
アキトは職員室を出る神楽坂の後ろについていった。
「あなたは相良君の従兄弟だったわよね?」
「はい、そうです。」
「なら、あなたも海外の紛争地帯をいろいろ回ってきたの?」
神楽坂が恐る恐るたずねる。
「はい、基本的に中近東辺りを回りました。それがどうかしたんですか?」
その返事に神楽坂の肩がビクッと震える。
「先生?」
「いえ、気にしないでください。何でもありません。」
神楽坂はなんでもないというが、その顔には冷や汗が浮かんでいた。
(神よ、これは試練ですか?)
などという言葉が神楽坂の頭の中を渦巻いているだろう。
少し目が虚ろだった。
神楽坂に続いてアキトが教室に入ったとき、教室中の生徒が騒ぎ出す。
男子の一部は頭を抱えて絶叫してるし、女子はきゃいのきゃいのと周りの女子と会話を始める。
どうやら転校生の噂は聞いていたらしいが、その性別までは知らなかったらしい。
アキトは宗介とかなめの姿を確認した
宗介はまだかなめに謝っていないのか、宗介は難しい顔をしていおり、
かなめは機嫌が悪そうな顔をして、机の一点のみを見つめている。そのため、こちらにはまだ気づいていない。
「はい、みんな静かにして!転校生の紹介をするから。」
神楽坂がそう言ってからしばらくしてやっと教室が静けさを取り戻す。
かなめもそうなって初めてアキトに気づいたらしい、目をまん丸にして口をあんぐりと開けていた。
「天河君、自己紹介をして。」
「はい、アメリカから来た天河明人です。このクラスにいる相良宗介の従兄弟にあたります。よろしくお願いします。」
言い終わった後、アキトは微笑む。
アキトが微笑んだ瞬間、その場に居た女子のほぼ全員が頬を赤く染め、それを見た男子が殺気立った。
「?」
アキトはいきなり生まれる殺気に疑問を感じていた。
(なにか、俺は彼らを蔑むようなことをしたかな?)
悩むアキトをよそに、恵理は生徒達のほうを向き、
「誰か質問は?」
「は、はい!!天河君には恋人はいるんですか!!?」
女生徒が目を輝かせ質問する。その瞬間、クラス中の視線がアキトに集まった。
「えっと、俺には・・・」
アキトが声を出した瞬間、教室はしんっと静まり返った。
「彼女はいません。」
アキトがそう言った後、ほぼ全員の女子が胸を撫で下ろし、クラス中の男子の殺気が一段と厳しくなった。
(どういうことなんだ、どんどん殺気が強くなっていく。一体、俺が何をしたんだろう?)
「はいっ、趣味はありますか?」
違う女生徒から質問が上がる。
「料理です。」
「どんな料理が得意ですか?」
更に同じ生徒が質問をする。
「和洋中、どれでもいけます。それと行ったことのある地域の料理なら作れます。」
「どこに住んでるの?」
今度は男子だった。
「ソースケのアパートにお世話になってます。」
キーン、コーン、カーン、コーン
授業の開始のチャイムが鳴るが、教室の中は騒がしかった。恵理は余りにも尽きない質問に、
「私は職員室に戻るから、後は勝手に質問してね。」
と、教室を五分ほど前に出て行った。
そうゆう事でアキトは徹底的に質問攻めにあっていた。
「彼女がいないって言うんならやっぱり相良が彼氏なんじゃないのか?」
と言う馬鹿な質問をした男子生徒は女子生徒の手によってボロボロにされたことは言うまでもない。
その日の一限は生物だった。
生命の誕生について生物担当の教諭が長々と話している。
「え〜、ですから、地球が太陽系第三惑星として誕生したときには・・・・・・それから・・・・・・隕石などの衝突により・・・・・・
そして、約四十六億年ほど前に原始的な生・・・・・・ですが・・・・・・だから、彼らはこのような・・・・・・」
しかし、その話をしてる最中でも女子のアキトに対する質問は後を絶たなかった。
このとき、アキトの席から離れた所に男子が円陣を組んでいた。
生物担当の教諭はそんな中でも淡々と授業を続けていった。
二限は体育だった。
その日の男子の授業は本来サッカーだったのだが、男子の大多数の意見でラグビーに変わった。
男子は赤と白の二チームに分かれる。アキトと宗介は白だ。
白チームはすぐにコートに出るが、赤チームはコートの外で円陣を組んでいる。
「いいか、我々の目的は仇敵、天河明人の女子に対する人気の撲滅だ。
このままでは陣高の女子の貞操が危ない。それを防ぐ手段は問わない。そこで今回の作戦だ。
内容は単純だ。天河明人に徹底的に狙い撃ちをし、女子に天河明人=運動オンチのイメージを与えるのだ。」
リーダー格の男子が言う。
「いくぞ!みんな!!」
「「「「「「「「「「「「「「おう!!!」」」」」」」」」」」」」」
2−4ではすでに天河明人撲滅協会が出来上がっていた。
ピーーーーッ
試合開始の直後、スクラムから飛び出したボールを、小野寺がすかさずアキトに回す。
そこに赤組のフォワードが殺気だってタックルを仕掛けてくる。
しかし、ギリギリまで引き付けて宗介にパスし、自分は寸でのところでかわす。
それが決定的だった。
「「「「「「「「きゃ〜〜〜〜〜〜ッ」」」」」」」」
隣でソフトボールをしていた女生徒の目がアキトに釘付けになる。
「くそっ!天河め!!」
先ほどのリーダー格の少年が忌々しげにはき捨てる。
「どうする、小山?あいつ、かなり運動神経いいぞ。」
赤組の一人が悔しげに聞く。
「ぶうたれるのはまだ早い。こちらにはラグビー部の石原がいる。アイツはすでに相良の手によって訓練されている。
しかも、広末似として名高い松田が天河に惚れているのを教えてやった。今のアイツは無敵だ。」
「そうだな。まだ文句を言うときではなかったな。」
しかし、小山の予想は完全に外れ、逆にアキトの人気を上げてしまった。
昼休みになったが、結局これまでの間、宗介とかなめは口を利くことがなかった。
宗介がかなめに声をかけようとすると、かなめが他の女子に声をかけて宗介との会話を避ける。
終始このような感じだった。
今、宗介とアキトは生徒会室に向かっていた。アキトを生徒会に入れるためだった。
アキトは嫌がったが、護衛のために生徒会に入ったほうがいいという宗介の意見に反対する理由が見つからなかったのだ。
「しかし、どうしたものか。」
宗介が眉間にしわを寄せる。
「かなめちゃんがあの調子じゃあね。せめて話してくれればいいんだけど。」
「むう。」
宗介がうなる。しかし、アキトにしてやれることはない。
宗介は四階の生徒会室の前で立ち止まり、軽くノックをした後、扉を開ける。
生徒会室には正面の机に一人いるだけで他に人はいなかった。ただ一人居た男子生徒がこちらに声をかける。
「相良君か、そちらは誰だね。」
「はっ、彼は天河明人。自分の従兄弟です。」
「ふむ、君が天河君か。私は生徒会会長の林水敦信だ。よろしく。」
「はい、こちらこそよろしくお願いします。」
林水にはどこか威厳があった。
そのためか、アキトはかすかに緊張しているように感じられる。
林水の視線が宗介に戻る。
「それで、相良君。ここに来たということは何か用件があったのだろう。何かね?」
「はっ。実は会長閣下に折り入って頼みがあるのですが。」
「なんだね。言ってみたまえ。」
机にひじを立て両の手を組んだまま林水は促す。
「天河明人を生徒会役員に任命していただきたいのです。」
林水の視線がアキトに向けられる。
「君からは何かあるかね?」
顔に出る表情全てを見逃さないような視線だ。
「はい、任命されたらその職務のまっとうに全力を注ぎます。」
「相良君、彼の得意分野は何かね?第三者としての意見が聞きたい。」
林水の問いに宗介が律儀に隠すことなく答える。
「アキトの格闘技は俺の域をはるかに越えています。それと料理に関してもかなりの腕を持っています。
他の能力は知りませんが少なくとも、この二つに関しては俺が保障します。」
「そうか。・・・・・・天河君。」
「は、はい。」
林水の声に、アキトが過敏に反応する。
「君を『災害処理担当・生徒会長補佐官』に任命する。
手短に説明するとすれば、君には何らかの人体に影響がある問題が発生したときに処理をしてもらうということだ。
がんばりたまえ。」
「災害・・・・・・ですか?」
「そうだ。君の表情から察するに、君は自分の職務に関してあまり理解してないようだね。」
そう言って林水が立ち、窓の外に目を向ける。
「今学期になってからなぜか生徒の怪我が増えてきている。それを君には出来る限り被害の少ないうちに処理してもらいたいのだよ。」
「そういうことですか。わかりました。全力を持って任務にあたります。」
言い終わるとアキトは一礼をした。
そこに扉が開く。入ってきたのはかなめだった。
「む・・・・・・。」
それを見た宗介は固まってしまう。
「こんにちは、センパイ。」
かなめは何もいないかのように林水に挨拶をする。
「千鳥君か、ちょうど良かった。君にも紹介しておこう。
現在を持って天河君を『災害処理担当・生徒会長補佐官』に任命した。仲良くやりたまえ。」
「天河君もとうとうこの馬鹿と同列扱いかぁ。
それはいいんですけど、センパイ。お蓮さんが探してましたよ。」
「ふむ、そうか。それでは私はこれで失礼するよ。」
林水が生徒会室から去って行ったため、生徒会室には宗介とアキトとかなめの三人だけになった。
「さて、センパイにも伝えたしあたしも戻ろうかな。」
そう言ってかなめはアキトたちに背を向ける。
「千鳥。」
その背中に宗介が声をかける。
「何?」
うまく逃げる手が思いつかなかったのだろう、かなめが嫌そうな口調で応じてくる。
「・・・・・・・・」
宗介は何を言ってよいのか混乱していた。いきなり物を渡すのも少し問題があるかもしれない。
アキトはアキトでどうしてよいかわからず右往左往していた。
「用がないんならあたしは行くわよ。」
かなめが棘棘しい口調で言う。
その口調を聞いて時間がないことを悟ったのか肩にかけていたバックパックを下ろし中から赤い6輪の花を取り出す。
「これが俺の謝罪だ。受け取ってもらいたい。」
と言って花を差し出す。
「あ・・・・・・ありがとう。」
古今東西、好意を持っている異性に花を貰って喜ばない者はいないだろう。
それが普通の花ならだが・・・・・・
「これの加工の仕方なのだが。」
なにやら怪しげな話が混じってくる。
かなめも後ろで聞いていたアキトも『加工』の言葉に疑問を感じた。
「「加工?」」
「そうだ。ケシの花のことは君も知っているだろう。
この花の未熟な果実に傷を着け出てくる白色の乳液を放置しておくと黒褐色に変化する。
それを乾燥し粉末にしたものがアヘン末だ。」
その言葉を聞いていたかなめの顔が凍りつく。宗介の後ろではアキトが頭を抱えてうずくまっている。
考えてみればこのバカは『花より団子』という男である。つまり、見た目よりも実用度を重視する男なのだ。
「・・・・・・あんた、こんなものどこから手に入れたのよ?」
「昨日、フィリピンでこの六本を拝借してきた。」
それを聞いたかなめは生徒会室の扉から首を出し、辺りに人がいないのを確認してから扉を閉める。
「あんた、もしかして昨日の朝のってミスリルの仕事だったの?」
「そうだ、緊急呼集がかかってな、フィリピンからとんぼ返りだ。」
「だけど、天河君も宗介と同じ部署に所属しているんでしょ?」
かなめはアキトに話を振る。
「ああ、そうだけど。」
「それならおかしいじゃない。なんで天河君が行ってないのよ。」
宗介がかなめとわかれた直後にかなめとアキトは会っていたのだ。
「それはアキトがまだミスリルのASに乗るための訓練をしてなかったからだ。」
第三世代のASであるM9は従来のASとは桁違いの運動性を持っている。
そのため、十分に訓練されていない状態ではM9に乗るミッションに参加することはない。
「そういうことなんだ。だけど、行くなら一言言っといてよ。」
「すまない、急いでいたんだ。」
「それなら仕方ないけど。」
「そういうわけで君との約束を守れなかった。それは悪かったと思っている。
だからこのケシで手を打ってはくれないだろうか?」
目の前の馬鹿に対してかなめはあまり怒りを感じてなかった。
(実際、ソースケは謝っているし、麻薬も良かれと思ってしたんだろうしなぁ。
だけど、ここでこいつを許すのはつまら・・コホン、今後禍根を残すおそれがあるわね。)
「たぶん、これを全て捌けば、」
瞬時にしてかなめの頭の中で様々な攻撃手段がリストアップされる。
・ハリセンでのつっこみ
・上履きによるビンタ
・アッパー、フックなどの拳打
・回し蹴り、踵落しなどの足技
・スリーパーホールドなどの絞め技 などなど
ほんの少し考えた結果、スリーパーホールドに決定した。
「日本円にして・・・・・・」
決定した瞬間、馬鹿なことを言い続ける宗介に向かってかなめは踊りかかる。
「む。」
油断していた宗介はあっさりかなめの餌食になった。
(あ〜、やっぱり絞め技はいいわ〜。逃げようともがくソースケの可愛いことといったら。
更に少し胸を押し付けたり息をかけたりすると宗介の顔が少し赤くなるのも可愛いさ倍増ね。)
などと考えながらも、目に前で顔に手をやって呆れているアキトを気にして、顔は怒った表情である。
一分後、かなめは宗介を解放した。
「ごほっごほっ・・・・・・かなめ、何をする。」
「うるさいっ。どうっして、あんたはいつもそうなのよ!?謝罪の気持ちが麻薬だ!?
あんたの謝罪はそんなに腐ってんの!?非常識にも程があるわよ!!」
それを聞くと宗介は神妙な顔をして考え込む。
(・・・・・・少し言い過ぎたかな?だけどこうやってちょっと落ち込んだようなソースケも可愛いわね。
これがもし犬だったら耳を下げて尻尾を下ろしてお座りして下を見つめて・・・・・・可愛い!!
帰ったらぬいぐるみを作ろう!!)
しばらくして宗介は考えるのをやめ、かなめの方を向く。
「つまり、こういうことだろう。麻薬は人に危害を加えるから良くない、それなら自分を守れる銃器の方が良いと。」
考えるまでもなく、かなめは宗介の頭に踵落しを決めてその場を去った。
「か〜な〜ちゃん、どうしたの?一段と機嫌悪そうだけど。」
かなめの親友である常盤恭子がかなめに話しかける。
今は六時間目が終わり、放課後だった。
「ん〜、あたしは何であんな馬鹿に振り回されているんだろうな〜。って、虚しくなっちゃって。」
「あはは、それは大変だね。」
かなめがこうなるのはしょっちゅうのことである。
「笑いごとじゃないって、あたしの残りの高校生活はあいつに振り回されて終わるのかと思うと虚しくてさぁ。」
かなめは天を見上げるかのように天井を見上げる。
「はぁ、天河君が来て少しはおとなしくなると思ったんだけどなぁ。」
「そういえばカナちゃんって天河君の知り合いなの?」
「ちょっと道を教えただけよ。」
「その割には天河君、カナちゃんのことじ〜っと見てたよ。」
「気のせいじゃないよ。カナちゃんは綺麗だからな〜。相良君も来たばっかりの頃はカナちゃんをいつも見てたし。」
少し嫉妬の混じった視線をかなめに投げかける。
しかし、かなめはそれに気づかなかった。自分の使命を思い出したからだった。
「ごめん、恭子。あたし急用があったの。また明日ね。」
と言って、素早い身のこなしでかなめは教室を出て行った。
後書き
作:はぁ〜。何とか書き上がっっ
バキッ
マ:アンタね〜、どれだけ間、開けたと思ってんの!?
作:い、いやぁ〜。それはテストのせいで。
マ:ふ〜ん、それなのにゲームやってたんだ〜?
作:う・・・・・・
マ:その上、他のサイトのSS巡りしてたのにテストねぇ。
作:く・・・・・・
か:そんなことよりも問題なのは今回の内容ですよ。
作:今度はかなめか・・・・・・
か:うるさい、黙れ。
作:・・・・・・
マ:それにしても今回の内容は問題大有りよね〜。
か:そうですよ、あたしの性格が全然おかしいじゃない!!
マ:あたしも出てこないしね〜。
作:マオが出てこないのは原作通りだし・・・・・・
か:ならあたしの性格はどういうこと?
作:い、いや、こうしないと、かなめまでアキトに落とされるから・・・・・・
か:それでもあれはやりすぎよ!!あれじゃあ、あたしがSはいってるみたいじゃない!!
マ:さすがにあれはねぇ。
作:よし、なら読者様にお聞きしようじゃないか。
読者様の、反対意見が多かったら戻すということで。
か:聞くまでもないと思うけど。それよりも誰も送ってこない可能性のほうが高いかも。
作:誰も送ってこなかったらこのままということで。
か:それが一番可能性が高いじゃない!!こんだけ間を開けたんだから!!
マ:それでも反対多数に決まったら、この話はどうするの?
作:むう。書き直したのを希望者にあげるか、修正するかします。
か:はぁ、みなさん、私をまともにしてくれるようにお願いします。
作:このままのほうがいいのに・・・・・・
ドスッ ガコッ
か:それではまた〜〜
マ:感想お待ちしてま〜す。それと、かなめに対する意見はこの話の公開後一週間以内でお願いしま〜す。ではまた〜〜。
代理人の感想
かなめの性格・・・・・・・何か問題が?(爆)