「そ、そんな……」

 テッサが信じられないものを見たかのように呟いた。その前方には<ベヘモス>と呼ばれているASが海に立っていた。

 いや、アレをASと言えるのだろうか?そう問いただしたくなるほどソレは大きすぎた。

 下半身が海に浸かっているにもかかわらず海水面から出ている部分だけでも30メートルを越えており、全幅は50メートルに達している。

 左肩には50メートルあまりの長大な直刀が備え付けられ、右肩には巨大なバズーカーが装備されている。

 長い両腕とのっぺりとした装甲が禍々しさを際立たせており、海水を滴らせるその姿は血にまみれた悪魔のも見えた。

 『アハハハハハハハハハ。姉さん、居たよ。あいつだ。姉さんを殺したあいつだよ。

 殺してやる殺してやる殺してやる!!!!

 アハハハハハハハハハハハハ!!!!!』

 壊れた笑い声がASの頭部のスピーカーから響く。

 そのASの頭部がテッサたちに向けられると、ベヘモスはゆっくりと埠頭に足をのせた。

 地面が崩れるかと思われたが、アスファルトに幾筋かのひびが入っただけだった。

 「テッサちゃん!!」

 アキトが呆然と立ちすくむテッサの手を取って走り出す。

 『アキト!!あたしが引き付けるから早く逃げなさい!!』

 マオのM9がインクが染み出るように浮かび上がった。

 ECS不可視モード、ホログラフによって肉眼では見えないようにする画期的な装置である。

 しかし、オゾン臭が消せなかったこととセンサーが発展したため費用の割に戦果が上げられず、何時しか使われなくなった技術である。

 「メリッサ!無理です!!逃げて!!」

 テッサがマオのM9に向かって手を伸ばし走り出そうとするが、アキトによって抱え上げられてしまう。

 「テンカワさん!!お願いです!!メリッサを止めてください!!」

 テッサは半狂乱になっておりアキトの肩の上で暴れるが、それでもアキトはバランスを取って走っている。

 「ダメだ、テッサちゃん。それにマオさんなら大丈夫。こんなとこでやられはしないよ。」

 アキトは敢えて冷静にゆっくりとなだめるように話す。

 「それよりも俺たちが早くここから逃げてマオさんの負担を減らさないと。」

 そう言ったアキトの目の前にタイミングを見計らったかのようにヤンの操るスカイラインが滑り込むように止まった。

 アキトは押し込むようにテッサを後部座席に乗せるとそれに続いて乗り込んだ。

 ヤンはアキトが乗り込むか否かでアクセルを目一杯踏み込んだ。

 『そうだ。せいぜい這いつくばって逃げ出せ。どうせ逃げ切れることはないんだから。』

 タクマは彼らを嘲るように笑いながらゆっくりとした足取りで追いかける。

 唐突にその右腕に衝撃が走った。右腕の装甲の一部が傷ついている。咄嗟のことに反応できなかったのだ。

 『な!?』

 『あいつらを追いかけるなら私を相手にすることね。』

 静かで凛とした声がタクマの耳に届いた。タクマがその声に反応して振り向くと、その先にはM9が銃を構えていた。

 M9の空いていた左手の人差し指がクイッと手招きし、挑発してくる。

 (アレに乗っているのは馬鹿だ。それもかなり不愉快な。こいつは僕を馬鹿にしてるんだ。許せいないよ。)

  カシュッ

 スッとベヘモスの腕がM9に向けられると腕から三列に並んだグレネード・ランチャーが現れた。

 『消えろ。』

  ドゥゥゥンドゥゥゥンドゥゥゥン

 タクマの不機嫌な声音と共に三発のグレネードがマオに向かって発射された。

 しかし、その動きは機敏でなくマオにやすやすと回避される。

 『鬼さんこちら〜。』

 マオは囮になるため馬鹿にしたようにトントンとステップを踏みながらベヘモスにライフルを撃っていく。

 しかし、その次の瞬間信じられないことが起きた。マオの放ったライフル弾のことごとくが虹色の壁に当たって四散したのだ。

 『え?』

 現在、バリアーのようなものは存在していない。工学にも精通しているマオにとってそのようなことは常識だった。

 しかし、実際それが目の前にある。壁をECSで隠していたわけではない。

 はっきり言って意味ないし、何よりもさっきその空間を銃弾が素通りしたのである。

 マオの動きが驚きのあまり止まってしまった。

 これが決定的だった。その棒立ちになった一瞬。その瞬間にマオは下から突き上げられる波動を喰らった。

 その衝撃で軽くM9が宙に浮いた。ベヘモスにはそれだけで十分だったのだ。

 『え?』

 メインカメラを下に向けるがそこには何もなかった。

 ただ前方にいるベヘモスが右手を上げているだけだった。しかしそれも届いていない。

 『うざいんだよ!!死ね!!』

 ベヘモスは鋭く踏み込む。その踏み込んでくる間にもマオはがむしゃらにライフルを打ち続けるが全て四散してしまう。

 ベヘモスの足が地面についた瞬間、右の裏拳が空中で静止したM9の体に命中し、M9は後方――貨物船のすぐ近くにまで飛ばされた。

 『アハハハハハハハハ、僕に逆らうからそうなるんだ。』

 そう言って水柱のたった海面を見て初勝利に酔いしれると次の獲物――アキトを探すためにセンサーをフル稼働させた。

 高度のお陰か、センサーの優秀さのお陰か、二十秒足らずのうちに熱源を三つ探知した。

 高速で移動している。しかしベヘモスなら追いつける速度だ。

 そう判断すると、タクマはアキトたちに向けて足を踏み出した。









「With Mythril」

〜第八話〜









 テッサは必死に考えていた。その顔は先程まであった幼さや焦りを感じさせる表情ではなく理知的な雰囲気を漂わせていた。

 マオが命がけで稼いでくれた時間を混乱することで無駄に使うわけにはいかないのだ。

 しかしあのASの形状と異常な重量から彼女が理解したことは『絶望』の二文字だった。

 宗介に連絡を入れたのだが三十分ほどかかるとのことだった。

 もし仮にARX−7があったとしても勝率は三分にも満たないだろう。

 そう思いながらもテッサは最後の希望を託して衛星回線を開いた。

 『艦長〜〜!!!ご無事ですか!!!?』

 無線機から大声と共に鼻をすする音が聞こえる。

 「はい、大丈夫です。それよりも今、艦は何所にいますか?」

 『それはよかった!!ええ、今は紀伊半島の南120キロの地点です。』

 テッサは『絶望』の二文字を噛み締めた。もう手はない。

 ヘリでは二時間もかかるし、ミサイルに乗せてくるにしても準備してなければ間に合わない。

 『もちろん、いつでも例の物はそちらに送れるようにミサイルに積んであります。』

 「え?」

 『ですから、例の物は何時でもそちらに打ち上げられます。』

 「もしかして輸送中のアレですか?」

 あの堅物のマデューカスが本部からインド洋戦隊に輸送中の物資を使用するとは、テッサには信じられなかった。

 しかもアレは一度使ったらそれまでの代物である。

 『はい。処罰の覚悟はできております。』

 「いえ、責任は私が持ちます。すぐに射出をお願いします。」

 『何所に射出したらよろしいですか?』

 テッサは窓から見える光景に素早く目を走らせた。降下中に見つかりにくく、搭乗者が乗るまでの時間を稼いでくれる入り組んだ場所。

 一通り目を走らせると、テッサは隣にいるアキトの袖を引っ張って尋ねた。

 「あれはなんですか?」

 「……たしか、東京ビッグサイトだったはず。」

 アキトは自信なさげに答えるが、そんなことには構わずテッサは無線機に東京ビッグサイトと答えた。




 目を開けると眼前に星空が広がっていた。と言っても満天の星空ではなく、どこか濁った星のほとんど見ることのできない悲しく淋しい

星空だった。そこにはただ月が浮かんでいた。その強い輝きは汚れた星空で独り孤独である事を隠そうとしているように見えた。

 腹部に重みを感じ視線を下げる。そこには栗毛の頭髪が組まれた腕の上に確認できた。うつぶせになって自分の腹部に顔を伏せている。

 正体はすぐに分かった。自分の知り合いの中で栗毛をした白い戦闘服に身を包んだ女性はセイナ一人しかいない。

 何故かその頭を撫でたくなったが出血のせいか体がまともに動かずその頭に手を置いただけであった。

 それで目を覚ましたのか自分が起きたのに気づいたのか、顔をゆっくりと上げた。

 「また君に助けられたな。」

 カリーニンは呟くように話しかけた。その声には驚きといった感情は含まれていない。

 「……驚かないのね。」

 「なんとなくだが、予想できた。」

 「卑怯な人ね。……私のこと馬鹿な女だと思ってる?」

 「いや……」

 「……私は自分が馬鹿な女だと思うわ。」

 この返答をカリーニンは予想していた。

 セイナは体を起こしカリーニンの横に仰向けに寝転ぶと、空を眺めた。腕を目の所に持ち上げ顔を隠す。

 「私は自分を姉と慕ってくれている少年を騙した。成し遂げたのは自分の尊敬していた人の敵討ち、それも本人は望んでいない。

 そして、何故か味方を助けずに敵であるあなたを助けている。ここまで滑稽な人を他に私は知らないわ。

 タクマには酷い事をしたと思っているわ。彼は私を姉のように慕っていてくれたのに……」

 自嘲気味にセイナが呟く。その表情は腕に隠れて見えないが眦から流れ落ちる涙で想像することはできた。

 「あの子は脳波が普通の人のより強かったの。だから訓練したわ。ラムダ・ドライバを使いこなせるように。

 薬だろうが洗脳だろうが何でもした。あの子は昔から私の事を慕ってくれていたから……」

 昔といっても施設に入ってからだろう。セイナの話は何時の間にか昔話から懺悔へと変わっていた。

 「ただ、薬のせいで記憶が混乱して私の事を姉とダブらせるようになってきて、それを良いことに私たちは彼の洗脳を始めたわ。

 だけど、私はダメね、冷酷になりきれなかった。情が移っちゃって、いつの間にか私も彼を弟のように扱うようになってきたわ。

 それでも訓練を止めることは出来なかった。動き出した計画を崩すことは私にはできなかった。

 私の中で二つの感情が対立していたわ。」

 そこまで話したら遠くで爆発音が聞こえた。セイナは腕で涙を拭うとムクリと起き上がった。

 「……ベヘモスは起動したようね。」

 「ああ。」

 「あのベヘモスは止められることは出来ないわ。体内に内蔵された火器だけでも両手だけでは足りないわ。

 それに加えてラムダ・ドライバ。そしてあの巨体。止まるのは燃料切れする40時間もしくはタクマが持つまで。

 ……タクマはこのままだと運がよくて廃人、悪かったら死ぬわ。彼に投与した薬は脳波を強くする代わりに脳に多大な負荷をかける。

 記憶の喪失及び混乱、精神の分裂などの副作用はそのせいね。あの機体はあなたが言ったとおり悪魔よ。

 人の精神を喰らう悪魔。無理やり彼の脳波を強くする増幅装置が内蔵されているの。

 結果的にあの子を殺した、彼が生きていたら失望するでしょうね……」

 セイナは顔を伏せると肩を震わせた。『彼』とは武知征爾のことなのだろう。

 「……君がそう考えたらそうなのだろうな。」

 カリーニンも空を眺めながらセイナに聞こえるか聞こえないかぐらいの小声で呟いた。

 「え?」

 セイナは涙に濡れて顔のままでカリーニンのほうを向いた。

 カリーニンは空を眺めたまま続けた。

 「君の中にいる武知征爾が微笑んでいるのならそれで良い。もし微笑んでいないようだったら微笑むように行動すれば良い。

 彼を止められるのはおそらく君しかいないだろう。」

 そのときタイミングを合わせたかのように水柱が立ち、海中から巨人が現れた。マオの操るM9である。

 『カリーニン少佐。無事ですか?』

 頭部のスピーカーから、マオの声が二人にかかる。

 カリーニンは体を横たわったまま視線をM9の頭部に向けて、

 「私は無事だ。メリッサ曹長、彼女にM9を貸与しろ。」

 その声音は静かにそれでいて否定する事を許さない声だった。

 一瞬、周囲に沈黙の空気が流れた。多分その言葉の意図が理解できなかったのだろう。

 「え?」

 セイナが問い返す。当たり前のことだ。目の前にあるASは初めて見る型なのだ。

 ということは試験機か何かなのだろう。試験機=需要機密。これは当たり前のことである。

 そんな機体に敵対勢力の人間を乗せるなど常識では考えられないことだ。

 「上官命令だ。責任は私が取る。」

 カリーニンが再度命令を下す。

 『わかりました。』

 マオはその命令を待っていたかのようにあっさりと了解した。

 カリーニンはその答えに軽く頷くとセイナに振り返って、

 「彼を止めてきたいのなら使うと良い。コックピットでQ−2459といえば起動する。」

 Q−2459―――これは少佐以上の階位を持つ者にだけ教えられている非常時特別起動パスワードである。

 この番号を知っていれば誰であろうとASを起動することができる。ただし、この番号は一月ごとに変わる。

 その番号は部外秘であり、カリーニンがそれを口にした瞬間、マオが驚きに目を見開いた。

 セイナは少し思案した後、セイナは一礼し、

 「……感謝するわ。」

 セイナはなれない装甲にも関わらず、スルスルと上ってコックピットハッチに辿り着く。

 その動きからASに乗りなれていることは容易に想像できた。

 そしてコックピットに入り込み番号を告げると、そのまま全速力で駆け出した。

 大量の水しぶきがカリーニンとマオに降り注いだ。

 「何時から聞いていた?」

 歩み寄ってきたマオにカリーニンは聞いた。

 「あ、ばれてました?それよりもあのまま行かせてよかったんですか?」

 マオは悪びれた様子もなく話題を変える。

 「彼女の協力なしではあのASを止めることは出来はしない。戦った君が一番よく分かっているはずだ。

 何にせよ、あのASをこのまま放っておくわけにはいかん。」

 「私もそう思います。あの正体不明の壁。あれは何なのですか?」

                                オーバーテクノロジー
 「君に知る資格はない。だが、近い将来君も知ることになるだろう。あのありえない技術の事を……」

 カリーニンは空を見上げた。そこにある月は徐々に移動し数少ない星の一つに近付いていった。




  ドガガガガガッ

 アキトたちの乗るスカイラインの右側のすぐ側にベヘモスの頭部機関銃が掃射される。

 ガードレールは一瞬で原型が残らないところまで破壊され、アスファルトは粉々に砕かれていた。

 「くそっ!!」

 そう言うとヤンは横道に逃げ込もうとするが、それをテッサが抑止する。

 「ダメです!アレを引き付けてください!」

 「しかし、それは……」

 「無理でもやってください!あなたの運転技術に全てをかけます!」

 「わかりました!!このヤンに任せてください!!!うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 ヤンが曲がるために緩めていたアクセルを力いっぱい踏みこんだ。

 「きゃぁ!!」

 前のめりのテッサの体が後ろに倒れるがそれをアキトが支えた。

 「大丈夫?」

 「はい、ありがとうございます。

 テンカワさん、あなたには別行動をしてください。この車から降りてさっきの東京ビッグサイトに行って下さい。

 そこに<トゥアハー・デ・ダナン>からASが送られてきます。それに乗ってアレに応戦してください。」

 「わかった。できるだけ時間を稼ぐよ。」

 ベヘモスを撃破するなどということはアキトの頭には浮かばなかった。体格差というのはそれだけ脅威なのである。

 それにアキトはM9を見たことがあるが乗ったことはまだない。彼の頭の中でASというのはサベージかM6である。

 それらはM9とは性能が桁違いに低い。

 もし仮にあの機体にラムダ・ドライバのような装置がついていなくてもM6一機では倒すことは不可能だろう。

 集中攻撃をされて避けきれずそれで終わりだ。頭部の機関銃だけで事が足りるだろう。

 アキトがM9に乗っていないのは日程の関係とまだ信用が置かれていないことにある。

 M9はミスリルのトップシークレットの一つである。まだ入隊、一月も経っていないアキトがM9に乗ったことは一度もなかった。

 そんなアキトにとってM9は多機能型M6としか映っていなかったのである。

 アキトがM9に乗ったことがあったならこのような弱気な事を言わなかっただろう。

 しかし、それでも撃破できる確立は1%にも満たないだろうが………

 「いえ、アレを撃破してください。」

 しかし、テッサがあっさり言ったのはアキトの考えとはまったく逆の内容だった。

 「今から来るASにはそれだけの力が秘められています。

 本来ならあなたには知る資格はないのですが非常事態ですから仕方ありません。

 今から来るASにはラムダ・ドライバという名の装置が組み込まれています。

 それはあなたの精神エネルギーを物理エネルギーとして発生させるという物です。」

 「な!?」

 アキトはそれ以上言葉をつなげることができなかった。

 最初それが冗談だと思ったのだが真剣なテッサの表情からそれは違うと悟った。

 ありえない―――それが彼の思考のほとんどを占めていた。

 (俺はは未来を知っている。だからこそ、そんなものが存在するなんて事はありえない。

 そんな装置があるなら未来にも利用されているはずだ。もし何らかの欠点があってもデータだけは残っているはずである。

 しかし、未来では利用されてないどころかデータすら残っていない。もしココが過去ならそんなことはありえないはずだ。

 もしかしてこの世界は俺が来たことによって変わってしまったのではないのだろうか?

 いや、俺一人来たことで歴史が変わることなんてあるのか?それは断じてありえない。

 技術とは長い年月を持って発展するものだ。発見されてから実用化まではそれぐらいの時間が必要なのだ。

 二年やそこらで開発され、実用化されているというのは考えにくい。

 ということはココは過去ではなく別世界?いや、パラレルワールドか?それを言うなら………)

 アキトは完全に混乱していた。

 「信じられないかもしれませんが現実としてあるのです。今からそれの使い方を説明しますから落ち着いて聞いてください。」

 そんなアキトに十秒ほど間を空けてテッサは説明していく。これ以上時間を浪費するわけには行かないのだ。

 「ラムダ・ドライバには三つの使い方が現在分かっています。重力緩和と力場発生と不可視の衝撃波です。

 全てはイメージで行えます。盾をイメージすればバリアができると思ってくれれば良いです。

 細かな所は分かっていません。ただ、イメージが具現化できる装置と考えてください。

 また、それで作ったバリアを打ち破れるのはそれの力場を纏った武器だけです。ただの武器では傷一つつけられません。

 あのASにもそれが付いています。今、あのASを撃破できるのは私たちだけなんです。」

 アキトはただ呆然とするしか出来なかった。先程も言ったがそんな技術は絶対に自分のいた『世界』には存在しない。

 当時の唯一のバリアであるディストーション・フィールドですら物理的ダメージには弱かった。

 しかも実弾武器であるのなら自分のいた『世界』とこの『世界』では余り破壊力の差はない。

 ということはテッサが語った装置はそのディストーションフィールドを遥かに上回った装置ということになる。

 何せ同じフィールドを纏った武器でしかダメージを与えられないのだから。

 実際使って見ると欠点も幾つかあるだろうが、それでも魅力的な装置に聞こえる。

 アキトはこのときこの『世界』が自分のいた『世界』とは違う世界だというのを悟った。

 「……そこの高架橋の下に回ったときに飛び降りて。その後、東京ビッグサイトに向かってください。」

 テッサはアキトの混乱が落ち着くのを待って指示を出した。

 平然とテッサは言うが今は直線を走っており時速150キロを記録している。

 こんな状態で飛び降りたら無事ではすまないだろう。

 「……」

 アキトはしばし逡巡するが、後方に迫るベヘモスを見上げると、胸の中で十字を切り体を丸め道路に身を躍らせた。

 アキトの体は路上に落ちるとゴロゴロと回転する。その回転が止まるとアキトはムクリと起き上がり走り出した。

 (よかった。)

 テッサはホッと息を吐くと、

 「私たちは囮に徹します。相手に見失わせないように注意しながら逃げてください。それと東京ビッグサイトから離れて。」

 無理な注文だというのは分かっていた。その命令はほとんど『死』を意味している。

 アキトが少しでも早く着くように東京ビッグサイトに向かっていたのだ、東京ビッグサイトから離れるにはUターンしてベヘモスの足元

を通るしかない。

 「わかりました!!このヤンにお任せを!!!大佐はしっかりとつかまっていてください!!!」

 ヤンは急ブレーキをかけて一気にハンドルを切るとスピンを利用して反転し、そのままアクセルを踏みなおし先程、通り過ぎた高架橋に

もぐりこんだ。

 高架橋からくぐり抜けたときはベヘモスが高架橋またいだ直後だった。高架橋をうまく目くらましに使ったのだ。

 それにしても特筆すべきはヤンの運転テクニックだろう。

 ヤンは一気にトップスピードまで上げる。その通り過ぎたあとをベヘモスの頭部機関銃の掃射が迫ってくる。

 それを左にかわしてスカイラインは更に距離を稼いでいった。

 テッサが背後を窺うとベヘモスはその巨体のせいで振り返るのに少し苦戦していた。




 『あはははは、楽に死なせはしないよ。逃げ惑えよ。這いつくばってさぁ!!』

 ベヘモスからタクマの狂った笑い声が響く。

 タクマはわざと当たらないように機関銃を撃ち放っていた。

 『苦しめ!!怯えろ!!泣き叫べぇぇ!!!』

 スカイラインの前方数十メートルに機関銃をぶっ放す。アスファルトがめくれ上がってスカイラインが飛び跳ねる。

 その無様な逃げ方を見ているとタクマの胸はスッとしてくる。

 自分はなんでもできるような気がしてきた。

 そうだ。あの車を破壊して一人ずつ殺していこう。

 そのときはテンカワ・アキトという男を一番最初にしてテスタロッサさんを最後にしよう。

 テスタロッサさんがすがるように謝罪してくるような惨い殺し方をしよう。

 指でゆっくりと磨り潰していくのはどうだろうか?

 きっとその断末魔の声に姉さんは喜ぶだろう。その惨たらしい死に方に微笑を浮かべるだろう。

 そう考えると素晴らしいことのような気がしてきた。泣きついてきたテスタロッサさんもゆっくりと踏み潰すことにしよう。

 彼女も姉さんを殺した一味の一人なんだから。

 少し惨い気がしたけど気にする必要はない。あいつらは僕の最も大切なものを奪ったんだ。

 躊躇う必要は何所にもない。

 『コワレロォォォォォォ!!!』

 ベヘモスの頭上に振り上げられる。それと同時に不可視の衝撃波がスカイラインを地面から空中に打ち上げ、ひっくり返した。

 ラムダドライバの応用の一つである。

 腕に纏わせた不可視の力場を相手の足元から打ち上げて、空中にいる相手の動きを空中に留めるという使い方をするのだが、今のように

相手の動きが予想できるときはその予測ポイントに仕掛けることができる。

 欠点としてはピンポイント攻撃しかできないため相手の移動が予測できるときでないと使えないことと地面に障害物があった場合、使え

ないことそして破壊力が皆無に等しいことである。その欠点を考えると道路のような平坦で逃げ場のない地形で足止めに使うのには絶好の

技である。特に動きの予測しやすい車なら尚更であった。
 
 ひっくり返ったスカイラインから這い出るようにテッサとヤンが出てきた。しかし、そこにアキトの姿はなかった。

 『……どこだ?』

 テンカワ・アキトがいなくては意味がない。あいつが姉さんを殺した張本人なのだから。

 アイツが無様に逃げ惑う姿を見なければ、あいつの惨めな死に様を見なければ何も意味がない。

 『テンカワ・アキトはどこだぁぁぁぁ!!!』

 タクマは怒りの余り殺害計画を無視してベヘモスの虹色に輝かせた右拳を叩きつけようとしたがその腕は右にはじかれた。その拳と同じ

虹色に輝くAS用投擲ダガーによって。
 

 




 後書き……今回の御題は『ベヘモスについて』

 作:どうも、nelioです。上にも書いたように今回の御題はベヘモスです。

   私のべへ……

  ドグゴッ

 作:ぐほっ

 か:私が言いたい事は分かってるわね?

 作:あれ?あんた誰?

 か:作者が存在を忘れるな〜〜〜!!!!

  ゴキャッ

 作:ゴグッ

 か:な・ん・で・あ・た・し・が・で・て・な・い・の・よ!!!!

  ドガッ ゴキッ ドスッ ボキッ ゴスッ ドゴッ

 作:ぎゃぁぁぁぁ

 マ:まあまあ。あたしも出てるけど、ほとんどただのヤラレ役だしネ!!!

  ドゴッ グリグリグリグリ

 作:いだだだだだだだ

 マ:さて、作者もいたぶったし。後書き始めましょうか?

 作:なんか毎回殴られるのが当たり前なのでせうか?

 か:あんたがちゃんと私たちの事を書かないのが悪いのよ。

 作:しくしくしく、ということは一生殴られ続けるのか……

 か&マ:あたし(私)たちを書けぇぇぇぇ!!!

  ドグゴガギッ

 作:ぐはぁっ

 マ:作者はほっといてそういえば今回のお題のベヘモス強すぎると思わない?

   かなめ、原作ではどうだったの?あたしは何がなんだか分からないままだったし。

 か:そうですよね。原作では頭部の機関銃と背中に付いている大剣だけだったはずですよ。

   あんなグレネード・ランチャーなんて付いてませんでしたよ。

   それにあんな技なんてなかったし。

 作:ふっふっふ。それはだな。

 か:うあ、復活早いし。

 作:実は原作のベヘモスは未完成でありタクマは怪我をしていたのですよ。

   ウチのタクマは怪我しないで乗ったから技の使用可能って感じで。

 マ:だけど原作と時間軸同じなんでしょ?ベヘモスは不完全なんじゃないの?

 作:いや、何気に十日ぐらいずれてるんですよ。たしかどっかにちょこっと書いてあるはず。

 か:へぇ。

 作:そんなわけでこっちは完全版ベヘモスということで(汗)

   とりあえず、本物との違いは火器の充実です。

   まず、右腕にグレネード・ランチャーが内蔵。右肩にバズーカーを装備。左手のひらにガトリング砲を内蔵。

   胸部装甲の下にミサイル・ランチャーを内蔵ぐらいです。

 か:なんか全身武器って感じね。

 マ:それよりもぐらいってなんなのよ?ぐらいって!?

 作:いやぁ、後で付け加えても良いかな?ってことで。

 マ:相変わらず行き当たりばったりね。

 か:いい加減に設定をしっかりと組んだほうが良いと思うんだけど。

 作:うむ、なんか当初とストーリーがかなり変わってしまったしね。

 マ:………本当にいい加減な設定みたいね。

 作:すいません、ちゃんとした設定を作ります。

 か:読んでくれてる読者の方々が混乱するから本当にちゃんと作りなさいよ!

 作:うい。それでは今回はこの辺で。

 か:感想を下さったすあまさん、ノバさん、T.Kさん、谷城さん、水葉さん、DEさん、ナイツさん、v&wさん

   どうもありがとうございます!!

 マ:それではまた会いましょう。

 作:では〜〜〜。

 

管理人の感想

nelioさんからの投稿です。

うーん、今回は小説と殆ど同じお話でしたね。

ヤンさんも目立ってないし(苦笑)・・・このままフェードアウトか、ジュンみたく(ぼそっ)

それにしても、宗介なんて通信から一言だけしか出番無いし。

さて、アキトはアーバレストを乗りこなせるんですかねぇ?