機動戦艦ナデシコ

英雄無き世界にて…

 

犬河照一視点

 

 始めは、裏切られたと思った。

 次に来たのは怒り。

 そして、最後に来たのは…

『おい、若造! 何故戻ってきた!』

 通信機から、老人の声が響く。

「だぁまれ! だぁまれ! だぁまれぇぇ! 格好つけて、“虐殺者”が“英雄”の真似事しやがってぇぇ! そんなの神が許してもこの俺が許すわけねぇだろうがぁぁぁ!」

 もはや、年の差など御構い無しである。後日すげー反省。

 老人が、何か言おうとするのを、俺は許さなかった。

「年寄りは、黙って若造が汗水たらして作った道を歩いてくりゃあ、良いんだよ!!!」

『非常時とはいえ… 何気に酷いこと言って無いか? 空耳だと良いんじゃが…』

 この台詞も後日スゲェ反省。

 そして、俺は、風景を見る。

 蠢く黒い影が、地平線までを埋め尽くしていた…

 だが、それがどうした。

 俺は… ここにいる。

 俺は、自らを死地に投げ出した。

 だったら、そこから足掻いて生き延びるまでだ。

 敵の戦艦の艦首がほんのりと光る。

 数は、10… 100… 解るか…

 主砲を掃射するつもりだろう。

 当然、それに耐えるだけの装備は、俺の機体には無い。

 ――― 全部避けれるか ―――

 隙間もあるかどうか微妙だけどな…

「生きてやるぞ… ぜってぇ、生き延びさせてやるぞ…」

 それは、誰に向けて言った言葉か、俺にも分からない。

 俺は、「クロッカス」の前に機体を持っていく。

 何故そうしたかは、後で考えても解らない。

『何をする気だ! よせ!』

 そう言う叫び声も俺には、届かない。

 そして、完全に俺は、「クロッカス」の正面に機体を持っていった。

 敵の主砲の照準は、無論俺の居る所に集中して集められている。

 ――――死ぬか、死ぬか、死ぬか、死ぬか、死ぬか、死ぬか―――

 余りにも生き延びることのみに集中していたために、俺は、アサルトピットの脇に灯った3つのアルファベットに気づかなかった。

 そこには、こう表示されていた。

 “L・I・S”と…

 

 ブリッジにて、ルリ視点(いきなり普通に戻したんですね)

 

 「ナデシコ」は、反転してチューリップを出ました。

 正面モニターに写ったのは、今にも一斉掃射を受けそうな「クロッカス」とエステバリス。

「総員! 戦闘配置! もう、こうなったら敵陣中央をもう一回突破します! その前に、犬河機と「クロッカス」の救出! エステバリス隊発進して下さい!」

 ですが、艦長の命令は既に遅れていました。

「敵艦! エネルギー増大中! …発砲!」

 目の前が、真っ白になりました。

 余りの禍々しい眩しさに、目を閉ざしてしまいます。

 その瞬間、全ての時が静止したようでした。

 一瞬後、視界が戻ります。

「状況は!」

 艦長が、そう叫びます。

「―――レーダーでは、エステバリス、「クロッカス」とも健在です…」

 メグミさんが、そう言います。目視では、土ぼこりが舞っていて視認は不可能。

 ですが、あれだけの攻撃です。無事では無いでしょう。

「繰り返します! こうなったら一刻…」

 艦長の、次の言葉は吐き出される事は有りませんでした。

 ドドドドドドドドドドドドドォォォォォォォォォォォォォォオォォォォォォオォ

 響く爆音。炎を上げる敵の戦艦。

 何が起こったか解らぬまま。

 私たちは、ただそれを驚愕で見ていました。

 

 アサルトピット内、犬河照一視点

 

 ―――何だ?

 敵の主砲が発射された。

 そこまでは良い。

 見える。

 主砲によって作られた閃光の伸びる速度が嫌に遅い。

 1本、2本、3本――――――

 異様だった。死に直面したからだろうか…

 全てが、遅い。

 あの数では焼け石に水だろうが、しないよりはいいだろうと思い。俺は、エステバリスのディストーションフィールドを展開させる。

 !!

 その光景に、俺は自分の目を疑った。

 展開したディストーションフィールドは、余りにも広範囲に広がったからだ。

 馬鹿な…

 これ程まで広範囲にディストーションフィールドを広げるだけの出力が、エステバリスについているハズが無い。

 ディストーションフィールドは、俺のエステバリスと、「クロッカス」をスッポリ覆い尽くす程の大きさである。いや、まだまだ広がりそうだ。

 音はしなかったが、「クロッカス」と、俺のエステバリスに向かっていた閃光は、ディストーションフィールドにふれて、全て消え去った。

 ―――範囲だけでなく、しっかり防御しやがった。

 なんだこりゃぁ? ウリバタケさんが、また変な改造でもしたのか?

 驚愕に身を任せてばかりはいられず。俺は、エステバリスの右腕マニピュレーターを操作する。

肩を後ろへと持って行き、肘を曲げさせ、手首の角度を合わせて、指を閉じ、背中のバックパック内に入れていた物を引き抜く。

肩を前に持って行き、完全に肘を真っ直ぐに伸ばさせると、エステバリスの右手マニピュレーターの中にラビッドライフルが出現した。

 俺は、木星蜥蜴の群のど真ん中へと向けて引き金を引かせる。

 バン

 撃った数は一発だ。

 銃声は普通通りに聞こえる。

 弾丸は見えない。

 普通だ。

 ―――な!!

 再び驚愕が、俺の中を支配した。

 ラピッドライフルより発射された弾丸は、敵のディストーションフィールドに阻まれる事無く、否、阻まれはしたのだが、殆ど抵抗も無く貫通した。

 敵の戦艦のだ。

 これはおかしい。

 敵戦艦の装甲が、まるでボール紙を銃で撃ったように撃ち抜かれる。

 だが、撃ち抜かれた後の穴の光景は、尋常ではなかった。

 “消滅”したのだ。

 戦艦が…

 ただの一発で…

 弾丸に掠ったバッタやジョロ、他の戦艦すらも文字通り消滅。

 俺の機体が撃った弾丸に当たらなかった敵機も、衝撃波の様な物で次々と引き千切られていく。

 なんだよ、“これ”は。

 俺は、その光景に恐怖すら覚えた。

 自ら作り出したとは思えない光景に…

 激痛―――

 周りの動きが元に戻る。

 ゴガゴガゴガゴガゴガゴガゴガゴガゴガゴガゴガゴガゴガゴガゴガゴガゴガァ!

 金属が無理矢理引き千切られるような音。

 ドガォォォォォォォォォォォォォォォォン

 響く爆音。それらは、敵の撃墜により発せられた音だ。

 糸が切れたように落下する俺のエステバリス。

 千切れそうな傷みが俺の全身を襲う。

 ブキィ! バキィ!

「かはぁ!」

 俺の正面に赤い液体が付着した。

 それは、“血”である。

 モニターは壊れたのか、黒以外は何も映し出さないが、落下している感覚はあった。

 そんなに高度は取っていなかったから、すぐに地面につく事は予想できる。

 立て直そうと、痛みを堪えてレバーを動かす。

 反応が無い。

――――「右の端末。補助回線始動スイッチ。」

言葉が、アサルトピット内に響く。

朦朧とする意識の中、俺は右の端末に目を向ける。

 確かに、そう書いてあるスイッチを見つけた。

 俺は、そのスイッチを躊躇い無く押す。

 ドォォォォォオ ガギャァ

 スラスターが一瞬生き返り、墜落ギリギリで、一瞬中空に静止する。

 ガガガァン

 振動が、アサルトピット内を揺さぶる。

 痛みがさらに束となり俺に襲い掛かってきた。

「がががぁぁぁぁ!」

 鮮血が俺の中から噴出す。

 鈍い音がした。

 この時、俺のアバラ骨の5本くらいが逝っていた。無論、この程度の衝撃で折れる訳は無い。脆くなっていたのだろう。何故かは分からないが…

 手足も殆どまともに動かない。

「げは、げは、げばぁ…」

 血が次々と前のモニター等に付着する。

「あ… が…」

 俺の意識は、ブラックアウトした。

 機体のラピッドライフルとそれを握っていた右手のマニピュレーター、ディストーションフィールドの発生装置とスラスターが、砂のようになって崩れ落ちていった事に気付かぬまま。

 

 ブリッジにて 視点ホシノ・ルリ(ネタを考え付かなかったと…)

 

「馬鹿な…」

 始めに金縛りから抜け出したのは、ゴートさんでした。

 今まで見ていた現実感のまるでない光景から、皆さんは、ようやく脱出したようです。

「え、ええ、馬鹿な夢みたいですね。」

 艦長、夢にしては余りにリアル過ぎです。

「アニメの主人公って、ああいうもの… なん… ですかね…」

 動揺がもろに現れて言葉を紡ぎだすメグミさん。

「いえ、いや、そもそも“アレ”は“人間”が出来る芸当?」

 ハルカさんが、そう言います。

 どちらにせよ、皆さん驚いている事には相違ないみたいです。

 目の前の光景。

 木星蜥蜴の戦艦200隻、無人兵器5000機が、僅か一秒の間に“消滅”しました。

 その名残と言って良いのか、あちらこちらから煙が上がっています。

 僅かに煙が流れている所を見ると、風力は1くらいですか…

「少なくとも、“人間”に出来る“曲技”ではありません…」

 正直な感想を私が言います。

「!」

 ふと、ゴートさんが、ハッとした顔を浮かべます。

「あ、“アレ”は… “アレ”の起動以外に作り出せる光景では… 艦長!」

 名前を呼ばれた艦長が、夢見心地な表情で振り向きます。

「急いで、犬河機を回収しろ! 手遅れになるかも知れん!」

 

 格納庫 ウリバタケ・セイヤ視点

 

「ま、間違いねぇ! 起動しやがった!」

 「ナデシコ」の正面モニターの映像を見て、俺は震えた。

 ―――あいつは、あの馬鹿は生きてんのか!

 まず、最初に襲ってきたのは心配。

 そして、後悔。

 ―――くそ、鎖に繋いででも止めておけば良かった。

「は、班長… “アレ”は、一体…」

「おまえが、前に聞いたろ… “ブラックボックス”の正体だよ…」

 俺は、若い整備員にそう言った。

「“L・I・S”だ。」

『犬河機回収、着艦します。救護班と整備班は、カタパルト方面のデッキへ集まってください。』

 こうしちゃいられねぇ。急いでいかねぇと。

 俺は、走り出す。

「は、班長! なんですか!? “L・I・S”って!」

 そう言う質問が大声で聞こえたが、俺は、無視を選択した。

 ただ、生存を祈りつつ。俺は走った。

 

「生きてます!」

 息を切らせて、目的の場所に辿り着いた時、そう言う声が聞こえた。

「早くしろ! これは、どう見ても失血多量だ!」

 アサルトピットの中を遠目だが、見る。

 30m程離れている場所でも、内部に赤いものがある事が解った。

 人影らしきものが、担架の上に乗せられる。

「照一!」

 大声が聞こえた。

 犬河の事を名前で呼ぶのは、この艦には一人しか居ない。

 へ、恨めしいねぇ、ちゃんと心配してくれる。彼女が居るんだからな。

 ふと、俺の女房を思い出す。

 到底、心配などしてくれそうには無いな… 当たり前になっちまって…

 ゴスゥ

 奇妙な音…

「って、あんた患者に何すんだ!」

 衛生班が、そう言う声を発する。

「こうやるのが、コイツには一番いい治療(オペ)なの!」

「アバラ骨が、5本も折れているんですよ!」

 前言撤回! 犬河! お前を尊敬する。

 いや、その前に生還を喜ぶべきだったか。

 しかし、普段からお前は普通なら死んでいた。だから、俺を許してくれ。

 ―――しかし、アバラ骨が折れた。それだけか…

 俺は、ふと犬河のエステバリスを見る。

 右手のマニピュレーターが、跡も残さず“消滅”していた。

 カメラアイのレンズの部分が、熱で溶け落ちたようになっている。

 ―――確かに、“L・I・S”特有の損傷だ。

 だが、アイツは生きて帰ってきたのか。

 “初めての”生存者だ。

 担架と共に、走り去っていく衛生班を見て、俺はそう思っていた。

「まさか… アレを使って、生きて帰ってくるとは… な。」

 

 ブリッジで、ホシノ・ルリ視点

 

「そうか… 生還したか…」

 ゴートさんが、安心したような表情をします。

「一体なんだったんです! アレは!」

「通信も通じなかったし。」

「コミュニケまで、繋がらなかったじゃない!」

「まぁまぁ、皆さん。いろいろと積もることがあるでしょうが、まずは、いかにしてこの場から脱出するかの方が、今の重要規定では?」

 プロスさんの言うことは、尤もです。いくら、凄まじい力で敵の数を減らしたからと言っても、それは所詮“減らした”だけ。他にもチューリップからわんさかと敵の援軍が出てきているし、包囲網に開いた穴も、だんだんと塞がって来ています。

 単純に考えれば、開いた穴を目がけて中央突破か、道を引き返して再度チューリップ内に突入するかのどちらかになりますが…

「……… 敵包囲線に開いた穴を目がけて強行突破します。」

 艦長が、出した結論はこれでした。

 確かに、チューリップ内に突入すると、生存は100か0。まさに一か八かの賭けになります。

 それに対して突破では、少なくとも誰かが生き残ります。

 突破を選ぶのは、当然と言えば当然です。

 皆さんが、艦長の意見に納得しました。

『まぁて、待て待てぇ。』

 突然ウリバタケさんが、会話に割り込んできました。

「どうしましたか?」

 そう、艦長が言います。

『事は、そう簡単じゃないモンでなぁ。エンジン不調で、この「ナデシコ」が浮いていられるのは、後10分程なんだわ… これが…』

「10分…」

 傷ついて、満足に攻撃も出来ない中、10分で、中央突破など出来るはずがありません。

 仮に出来たとしても、10分しか動けないのでは、直ぐに追いつかれて御陀仏です。

かといって、今更引き返すのも無理です。

 チューリップまでは、50km、一方「ナデシコ」の速度は、分速4km程…

 つまり、時速で言うと240km/時、程しか出ないのです。

 もっと掛かるかもしれません。何しろさっきの計算は、エンジンが不調だけの計算です。

 爆発とかでもされたら、50km進むのに1時間かかるかも…

「どうする…」

 

 医務室 飯井川 楽花視点

 

「あの馬鹿!」

 アバラを骨折し、ベットで寝ている筈だったが、いつの間にか消えている男に対して私は言った。

「ギブスくっ付けて痛み止め飲んだ位で治った気で居るの… あいつ。」

 私は、「はぁ」と溜息をつき、白い天井を見上げ、ベットの上に倒れ込んだ。

 温もりは、僅かだが、シーツに残っていた。

 

 廊下 犬河照一視点

 

「はぁ、はぁ、ぐっ…」

 胸に激痛が走る。

 だが、俺は、走るのを止めない。

 何故走っているのかは、解らない。

 衝動

 まさにそれだろう。

 ハッキリとした理由は無いが、何かのために走っている。

「犬河さん! あんた!」

 ふと見た顔が、正面に写る。

 俺は、立ち止まる。

「ああ、なんだ… ジュン…」

 俺は、それだけ言うと、通り過ぎようとした。

「アバラが5本も逝ってるんでしょ! 休んでないとだめじゃないか!」

 逝ってるか…

「顔色も悪いですよ…」

 青くでもなってるのか… なってるんだろうな。

「だから… 俺に… 寝ていろ… と…」

「そうです。」

 俺は、意表を付いて肯定の言葉を言う。

「解った。」

 ジュンは、ホッとした顔を浮かべた。

「格納庫にパイロットスーツ姿で寝る。」

 俺は、そう言うとまた走り出した。

 ジュンも、怒鳴りながら俺を追撃してきた。

 

 格納庫 ウリバタケ・セイヤ視点

 

 ―――どうする。

 それが、俺が抱えている悩み事だった。

 エンジンが動く時間はあと10分。

 その間に、どうにかする方法を考えなければならない。

 いや、考える時間が10分あるのではない。

 考えて行動し、終了するのに許される時間が10分なのだ。

「何をしろと…」

 そう言う言葉が、まず頭の上にでる。

 方法か…

 ………………………… !

 今、一瞬閃いた方法を俺は、即座に否定する。

 馬鹿な! そんなことをすれば、あいつが犠牲になる。

 それに、あいつは重傷だ。動ける訳が無い。

 俺は、何とか歩けると言う状態の緑色のフルマニュアルエステバリスを見上げた。

 コレを動かせる奴は居ない。

 俺が、オート操作を全部取っ払ってしまったために、完全にマニュアルで全てを制御するしかない。

 無論、並みの奴が動かせるほど安い操作ではない。

 と、なると他には…

 その時、廊下へと通じる格納庫の扉が開いた。

 プシュー

「ウリバタケさん!」

 現れたのは、脇を抑えて、息を荒くして、足を震わせながら立っている少年であった。

「犬河!」

 馬鹿な! 奴は、相当の重傷だったはずだ。立って歩けるわけが無い。

 だが、あいつは、2本の足で立ってそこにいる。

 そんな俺の心を読んだのか、犬河はこう言った。

「立てなくなるまで立ちますよ… 寝ているよりは良い。」

「この英雄気取りの馬鹿野郎が!」

犬河は、苦笑いを浮かべて言った。

「“英雄気取りの馬鹿”、違いますよ、ここに居るのは“英雄(ヒーロー)”でも“虐殺者(ジェノサイダー)”でもない…」

 その後の言葉が、紡ぎだされるまでの時間が、俺には嫌に長く感じられた。

「ただの大馬鹿野郎です。」

 ……………… 決定だな。

「エステバリスに乗れ… 犬河…」

 

 エステバリス、アサルトピット内 犬河照一視点

 

「いいかぁ! 犬河! 絶対動くんじゃねぇぞ!」

 俺の、エステバリスには、なにやらコードの様な物が大量に繋げさせられている。

 モニターとかはぶっ壊れたままだ。

 基本的に俺は、ある操作をした後は、座っていれば良いらしい。

「よぉし! OKだ! 再度確認するが、絶対動くんじゃねぇぞ!」

 ウリバタケさんが、念を押す。

「は… ぐ。」

 返事をしようとした所で激痛が襲ってきた。

「おい! 大丈夫か!」

「あ、は… い。」

 あからさまに大丈夫じゃなさそうな声を俺が上げる。

『エステバリス隊! 全機発進して下さい!』

 そう言う、艦内放送が響く。

「総員、カタパルトから離れろ!」

 ガシャガシャガシャガシャガシャァ

 射出されていく5機のエステバリス。

 俺は、二度目のお留守番をさせられたのであった。

 

 ブリッジにて、ホシノ・ルリ視点

 

「本当に、エンジンが通常の出力を取り戻すんですか?」

 艦長が、作戦立案者のウリバタケさんに、問います。

 当たり前ですね、さっきとは言っていることが、ぜんぜん違うんですから…

『ああ、7分間だけだが取り戻す。通常の出力と言ったが、それ以上かも知れん。』

「じゃぁ、そんな良い方法をなんで今まで言わないで居たんです?」

 具体的にどんな方法かは、解りませんが、それなら速く使った方がいい筈です。

『大人の事情って奴さ、ルリちゃん。』

 ウリバタケさんは、そう言いました。

 そうですか、大人の事情ですか。

『よし… 取り戻すぞ!』

 その時、エンジンの出力メーターが、限界レベルまで跳ね上がりました。

「わぁぁ! 何! この出力は!?」

 余りの出力に、ハルカさんが、大声を上げます。

 到底、今までぜぇぜぇ言ってたエンジンとは思えません。

「これなら、楽に7分間で大気圏に出られます。」

 メグミさんが、即刻計算をして、答えを出しました。

「よし! ディストーションフィールド! 前部集中展開!」

 ん、艦長? その意図は?

「エンジン出力全開! 「ナデシコ」これより、敵包囲網を突破し、地球へと帰還します! お土産は「クロッカス」で…」

『わしは、土産か…』

 「クロッカス」の座席に座っているフクベ提督が、紙コップに口を付けながら、そう言います。

「「ナデシコ」発進!」

 ゴォォォォォォォォ

「うっひゃぁ! 凄い上昇力!」

 今まで、故障しているのを堪えながら、騙し騙し浮かばせていたので、通常の上昇力に戻ると、快感です。

 その証拠に、ハルカさんが、恥ずかしげも無く前の台詞を言いました。

「「クロッカス」付いて来てる?」

 艦長が、私にそう言います。

「はい、確かについて来ています。」

「敵の群れまで、あと20秒!」

「ミサイル! 全管開いて!」

 艦長が、攻撃の用意を固めます。

「エステバリス隊は!」

「犬河さんを除いて、全員発進しました。」

「全機! 防御(ディフェンス)に徹するよう指示。決して攻撃(オフェンス)は、考えないこと!」

『『『『『了解!』』』』』

 通信機の向こうから、ハッキリした声が聞こえました。

 

 エステバリス アサルトピット内 アオイ・ジュン視点

 

「ひゅ〜、これは…」

 何時ぞや、囮になった時よりも多い敵機が正面に蠢いていた。

『なんだ? ジュン。お前は慣れてるだろ?』

 ガイが、何の根拠も無いことを言う。

「数が、違うよ数が…」

『何言ってんだ。あの時はお前一人だったが、今回は5人だぜ!』

 ああ、それもそうか。

 まぁ、アレを5で割っても、あの時よりも多い気がするけどね。

『そうだ! 犬河とか言う馬鹿にもう5200機も取られてんだ! 俺が、負けてられるか!』

『リョーコぉ! ライバル意識は、程々にしといた方がいいよぉ。』

『それに、アレは人間に真似出来る範囲を超えているとおもうわよ。』

『まぁ、確かに今回の奢りは、この中って事になるな。』

「負けませんよ。僕は。」

 さてと、皆との会話もそろそろ終了だ。

 敵の射程範囲に入る。

交戦(インゲージ)!」

 

 ブリッジ、ホシノ・ルリ視点

 

「敵陣突入!」

「ミサイル全管発射! グラビティブラストは!」

「残念ですけど艦長。整備員さんがさっきから言ってるんですが、無理矢理出力を取り戻すためにグラビティブラストのエネルギーを全部エンジンに回しちゃっているから使用不可能だそうです。」

 私が、手を上げて発言しました。

「そんなことだろうと思ってたから大丈夫! 敵艦正面ね!」

 艦長が、何故か笑顔を浮かべます。まさか…

「ハルカさん! 「ナデシコ」突撃!」

「はい〜〜〜い!」

 マヌケな声をハルカさんが上げます。珍しいですね。

「な、なにを考えてんです艦長!」

 プロスさんが、そう言います。

「大丈夫です。だからディストーションフィールドを前部に集中展開したんですから。」

 そのためですか…

「そんな訳で、改めて… 「ナデシコ」突撃ぃぃぃ!」

「あ〜い、もう、解ったわかったぁ!」

「若いな… だからこんな無茶が出来る。」

 まぁ、ゴートさんの言葉は、尤もとして…

 見る間に敵艦が、大きくなっていきます。

 そして、今にも触れそうな大きさに(そのために接近しているのですが)なったとき…

 ガガガガガァァァガジャァガギィガァンゴギャギィィィン

 激しい衝撃が、艦内を揺さぶります。

「って、艦長! 総員に対ショック体勢とらせましたか!」

 は、っと気付いたメグミさんが、そう言います。

「あ…」

 完全に忘れていたようです… 馬鹿。

 結果としては、「ナデシコ」の突撃は、敵戦艦の半分ほどを抉り取り、撃墜しました。

『おいこら! 突っ込ますなら先に連絡よこせ!』

『ああこら、調味料が滅茶苦茶になっちまったじゃないか!』

『機材もだ!』

『「ナデシコ」のグラビティブレードも半分持ってかれてるよ!』

「すいませ〜ん!」

 艦長が、必死に言い訳します。

『ついでに言うと、「クロッカス」の進路上にいきなり障害物が落ちてきたから危なかったぞ。』

 それが一番、迷惑ですね、フクベ提督。

「とにかく、もうすぐ大気圏へでます。」

「あ、総員着席してください!」

『なにぃ! 俺はまだ100機しか落としてねぇぞ!』

『はいはい、リョーコ、戻るよ』

 ゴォォォォォォォォォォ

 無事大気圏を突破。

 「ナデシコ」と「クロッカス」は、地球帰還の線路に乗りました。

 

 

去り逝く筈の人々は去らず。

別れるはずの人は、別れず。

出会うはずの人とは出会わず。

ここは、完全なる歴史の分岐点。

 

機動戦艦ナデシコ

英雄無き世界にて…

第七話

END

第八話へ続く…

 

 

 

 

代理人の感想

・・・・ちょっと突っ込みどころが多すぎますねぇ。

TVと同じ状況でいつの間にチューリップから50kmも離れていたんだとか、ナデシコにどうやったら浮かぶのが精一杯っぽいクロッカスがついていけるんだとか、「ある操作をした後は座ってればいい」のに犬河じゃないとそれが出来ないとか・・・・・気になって話に集中できませんでした。

逆に言えばその矛盾を無視できるような作風でもそれが可能なほどパワフルでもなかったということですが。

 

本日の誤字

マニュピレーター→マニピュレーターですね。