英雄無き世界にて…

(過去編)

〜〜血に飢えし狂犬〜〜

 

夕闇も濃くなり、薄暗い車内で…

 俺は、懐かしい人と隣り合わせに座っている…

 ほんの数時間前は、夢にも思わなかった。

 それが、現実になっている…

「さ〜てと、説明してもらいましょうか…」

「う…」

 嬉しいような切ないような…

「はい、順を追って聞きましょう。“ラスト”って何?」

「俺のあだ名みたいなものさ。」

 俺は、当たらずとも遠からずな返答をする。

「次、アイツは何?」

「“シックス”っていう奴だ。ただの被験者だった奴だよ。」

 そんな感じな返答。

「次、なんであんな姿になるの?」

「新型のナノマシンの副作用だ。詳しいことは分からん。」

 これは、事実を言った。

「なんで、あんた銃なんて物騒な物をこしらえているのかしら…」

「コネだコネ。」

 流石に密輸と言うのはマズイだろう。まあ、これも相当マズイだろうけど…

「なんで、あんたを狙ってるの…」

「いろいろ込み入った事情でね。目の敵にされちまったらしい。」

「ふ〜む〜」

 あらかた質問し尽したのか、楽花は黙り込む。

「おい… こんな突飛で嘯いた話信じんのか?」

「百聞は一見にしかず。」

 確かにな…

「お前… 家に帰らなくていいのか?」

「一人暮らしだから別に帰んなくてもいいよ。」

「そうか…」

 俺は、そう言うと、予備マガジンをブローニングに叩き込む。

 と言っても、後1個しか無いが…

「大切に使わんとな…」

 俺は、マジでそう思った。

「どこ行くの…」

「どこかだ…」

 そうとしか言いようが無い。当ても無いのだから…

「腹減ったか…」

「少し…」

 =相当腹が減っているってことだろ…

「コンビニ見つけたら夕飯にしよう。」

「そうだね…」

 言い終わると、楽花が俺の肩に頭を乗せた。いや、待て。

「お、おい! ん?」

 俺の肩を枕にして、静かに寝息をたてていた。

 俺はステアリングと共にため息をつくと。

「おいおい… 寝るなよ…」

 そう独り言を言った。

 俺は、道なりに車を進ませる。

「俺、転校初日で、ここの地理に疎いんだからな…」

 楽花の体温を感じつつ俺は、正面のフレームが拉げた車を転がす。

「しかし… ほんとどうしよ…」

 炸裂細胞弾で受けた傷は軽いが、どこへ行ったら良いのか当てもない。

 どこ行きゃ良いんだよ…

 

 シックス 路上。

 

 ラスト…

 潰れた顔はだんだんと再生してきている… だが、はがれた皮膚はそのままだ。

 ナゼダ…

 人より数倍高い治癒能力を持っているというのに、なぜ許容量を越えて、侵食された箇所は癒せん…

 完全に死んでしまっているからさ…

 そう、そうなんだろう…

 戻る方法も直す方法も無い…

 頭では分かっている…

 だが、アイツを殺せば…

 生きている適性を持つ可能性のある者の細胞が手に入る…

 それを使えば…

 なんの根拠も無いことを俺は、考える。

 仮にそうだとしても、俺には、それをどうやって使えば良いのかも分からない。

 余りにも幼稚な考えだ…

 要するに逃げた奴を殺す理由を正当化しようとしているだけだ…

 だが… 脳細胞にまでそれは浸透してきている…

 ただ大きな衝動の元に俺は動くしかない…

 意思は肉体を支配する権利をもはや持っては居ないのだ…

 ラスト ラ・す・と… 

「ラァァァァァストォォォォォォォォォ!!」

 俺は、叫ぶ…

 喉は今は、潰れているためにまともな声は出せない。

 それが、俺に残された意思の最後の力…

 もう、意思で肉体を動かすことは出来ない。

 だが… それは、全てを通り越してアイツに聞こえるような気がした…

 なぜ叫んだのかは分からない。叫んだ理由も…

 「逃げろ」か… 「殺せ」か… 「死ね」か… 「生きろ」か… 

 何も… 俺に語る術は無い…

 ただ… 犬の遠吠えが聞こえた気がした…

 いや… “犬”では無かったのかもしれない…

 それは… もしや…

 

 犬河照一 車内

 

「ん?」

 俺は、振り返る。

 何かに呼ばれた気がしたのだ…

 だが、犬の遠吠えの様な物が聞こえただけで、他の音は何一つ聞こえて来ない。

「く!」

 再度前を向こうとしたときに激痛が走った。

 炸裂細胞弾によって受けた傷だ。思ったよりも重いらしい。

 俺は、路上の端に車を止める。

 そして、制服の裏ポケから消毒液と包帯を取り出す。

 いやぁ、持ってて良かった。

 俺は、消毒液を傷口にかける。

 しみぃぃぃぃるぅぅうぅぅぅぅ

 俺は、餓鬼みたいに涙目になっていた。

 そして直に包帯を巻いた。

 うむ、これでよし。

 ふと俺は、傍の楽花に目線を向ける。

 相変わらず寝息をたてていた。

「ん?」

 ふと赤い色が見えた。

「コイツも手の甲に…」

 傷があった。軽く深い。

 俺は、ガーゼを取り出し、消毒液を染み込ませると、傷口につけた。

 ビクッ

 楽花の体が跳ねる。

 まだ慣れてねえのか…

 そして、新しいガーゼをとりだして傷口を押さえその上から包帯を巻いた。

「うむ、応急処置にしては上出来だ。」

 と、言っても応急処置以外にやれる事は無いんだが…

 俺は、車をスタートさせようとステアリングを握る。

 バックミラーにトラックが写った。

 フロントガラスの向こうに人影が見える。

 …………… しばしの硬直…

 それに乗っている人影に今追われているんだよ…

「さぁてと! 命懸けの鬼ごっこの始まりだ!」

 俺はギアを入れ、アクセルペダルを踏み込んだ。

 チュオゥゥゥゥゥゥゥゥ

 電気エンジンが高鳴る。

 ショボイ音だけどな…

「ニュートラルの意味あんのかな〜」

 俺は、ギア切り替えレバーの「N」と書いてある場所を見て言った。

「まさか“NOS”の略とか… まさかな…」

 電気にそれは、もっと意味無いだろ。

「マッドマックスもビックリだぜ!」

 俺は、車をスタートさせる。

 タイヤがアスファルトを咬み、車を前に進ませる。

「わわわ! なになになに! っいた!」

 いきなりスタートさせた衝撃で、目が覚めた楽花が驚いて叫ぶ。そのせいで舌を噛んだみたいだが…

 俺は、ステアリングを右へ回す。

 ブレーキも踏まずにその操作をしたために思いっきりスリップする。

 キュォォォォォォォォォ

 タイヤから白煙が引かれる。

 がぎぎゃりぎゃり。

 完全に曲がりきれずガードレールを擦る。

「生物兵器が相手か! リーサルウェポンってかぁ!」

「どっちかというとターミネーターでしょ。」

「2か?」

「3Dが一番好きだったけど…」

「アトラクションじゃねぇかよ… ってか大阪行ったのか?」

「小学校の修学旅行で…」

「いいねぇ、それ…」

 俺は、そう言いながらステアリングをきらせる。

 キィィィュィィィァィゥィィィィ!

タイヤが軋んで悲鳴を上げる。

 何度か対向車線とを区別する芝の上にタイヤを乗り上げたりして、前を走る車を追越す。

 まさに暴走だ。後のアスファルト上にタイヤの跡状の焦げ跡が作られていく。

「この映画の監督は、ジョン・ウーか?」

「ロバート・ロドリゲスじゃない? リュック・ベンソンの可能性も否定できないけど…」

「速度メーター振り切ってるしな…」

 俺は、取り合えず何処へ向かおうかと模索する。

 チンチンチンチンチンチン…

 こりゃまた丁度いい所で踏切が…

 ゆっくりとその踏切は、遮断機のバーを下ろしていく…

 俺は、アクセルペダルを限界まで踏み込む。

「ついてきな! ニワトリ野郎ぉ!!」

 俺は、窓を開けて、後ろのトラックに乗ってる人影に怒鳴る。

 シックスはニヤリと笑ったように見えた…

 俺もその時は笑いそうだった。

 バキィ!

 遮断機のバーを車の体当たりでへし折る。

 俺達の乗った車が踏切を抜けた直ぐ後に電車が来た。

 シックスの乗るトラックは間に合わない。

 電車の陰に消えていく… だが…

 ドガシャァ!

「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい!」

 思わず俺は、そう言う声を出す。

 電車の連結部から電車がくの字に曲がった。

 連結部がはずれ、電車は真っ二つになった。繋がっていた電源コードが紫電を散らす。

 そして、そのままシックスの乗ったトラックが、踏切を越える。

 フロントガラスが割れており、正面のフレームもボロボロだ。ナンバープレートも外れており完全な道交法違反である。

「それ以前に電車に突っ込んでるか…」

 俺は、そう言った。

「派手だねぇ… このシーン取るのにどれくらいのお金がかかったのかなぁ…」

「億単位だろ。」

 俺は、ステアリングを切りタイヤをスリップさせ、180度車を回転させる。

 シックスの乗ったトラックの運転席が真正面に来た。

 俺は、片手に握っていたブローニングを撃ちまくる。

 ガンガンガンガン

 慣れない反動と銃声。

「良くあるアクションだ。」

「それでもびびるって…」

 まあ、狙ったのは運転席ではない。銃弾程度で死なない奴だと言うことは分かっている。

 狙ったのはタイヤだ。つまりタイヤの破裂狙いと言うわけだ。しかし…

「頑丈なんだな… タイヤって…」

 21世紀初頭程なら、ブローニングでもタイヤは貫けただろう。

 だが、時代が違った。

 近年のタイヤは超特殊強化ゴムで出来ている。加工には、多重のレーザー光線を使うしかない程の頑丈な代物だ。

「こういう時には邪魔だよな…」

 俺は、心底そう思う。

 だが、それに怯んだのか、シックスの乗ったトラックは、ガードレールへと突っ込んでいく…

 俺は、再度車を走らせる。

 復活するまでに出来るだけ距離をとっておきたい。

 しばらく車は、何事も無く進んだ…

 ファンファンファンファンファンファン

 突如、高鳴るサイレン音が響く。

「警察…?」

「そうだわな…」

 目の前から迫る赤い回転灯を見て俺は言う。

「何かした…」

「思いっきりしてるだろ… 速度違反、交通ルール無視、信号無視、車の盗難、銃刀法違反… etc etc…」

「で、まあどうするの?」

 正面からパトカーが接近してくる。

 俺は、現状理解の為に車内ラジオのスイッチを入れて周波数を合わせる。

『ざ… ざざ… え〜、ただいま入りました最新の情報によりますと、トラックに銃を乱射した暴走車を警察は包囲したようです。』

 たかだか、暴走車一台のためにここまでする…

 俺は、霞の様に広がる回転灯の赤い光を見て思った。

『逮捕されるのは時間の問題かと…』

 後ろからも一杯だ… ん? 待て… 後ろ…

 ドガァン!

 宙を舞うパトカー

 それをやったのは、トラックだ。

 無論乗っているのは…

「良く抜け出せたもんだ… あの狭い道で…」

 多分、ガードレール無理矢理引き千切って来たんだろうけどな…」

『暴走車に告ぐ…』

 警官の一人が拡声器を手に俺に話しかける。

「んなもん告がれてる暇はねぇ!」

 俺は、アクセルペダルを踏み込む。

「まて! どうする… 気ぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

 楽花の疑問詞が聞こえる。

 この道路は、反対車線が、ガードレールの向こう側についている形状だ。

「飛び越える!」

 俺は、それだけ言った。

 車は、限界速度で白黒のパトカーの中へ飛び込んでいく。

『と! とまれぇ!』

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「まてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! 照一ぃぃぃぃぃぃぃ!」

 俺は、パトカーとの接触の瞬間にステアリングを右へ切った。楽花の止める声が聞こえたが、無視。

 どがぁ!

 車は、パトカーを乗り上げて、右前方へと側転して飛ぶ。

 車は中空を舞い、ガードレールの上を側転して飛び越えた。

 360度回転して、車は反対車線に着地する。

 が、がががん

 凄まじい衝撃。しっかし、チャンと車は、上を向いて立っている。

 正面から迫る車の嵐。

「逆走運行かよ!」

 俺は、右へ左へステアリングを切って、正面より迫る車をかわす。

 ばがぁぁぁぁ!

 一方トラックの方は、ガードレールをぶち破いての参戦。

「よ、酔うよ〜」

「車で吐くのか?」

 ばきぃ

 ふと、気を抜いた時に赤い車と擦れ違う。サイドミラーを持っていかれていた…

 俺は、気を引き締める。

 速度計は今出せる最高の130を刻んでいる。

 うぉん うぉん うぉん

 風切り音。右へ左へと避けていく。

 バキガキドガゲギ

 … 後ろはまるで除雪機みたいだ。

「車がぶつかって来るのを屁とも思ってないよアレ…」

 楽花が、外へとゲロ袋を捨てる時にその光景を見たらしい。

「しかし、これで警察にも追われる羽目になっちまったな。 っとと!」

 危うく対向車に接触しそうになった。

 わぉぉぉぉぉぉぉぉぉん

「ん? なんの鳴き声だ?」

 俺は、突如聞こえた鳴き声に興味をそそられる。

「犬じゃない?」

 楽花はそう答えた。

「犬… か?」

 

 電波上。

『暴走車は海へと向かっています。』

『発砲は!』

『最初以降はしていません。』

『何が目的なんだ…』

『最近の賊のやることなんて分かりませんよ。』

『確かにな…』

 

 車内、犬河照一。

 

「うお!海だぜ海!」

 夜の為に黒い小波がたっていることくらいだけがようやく分かるだけだが、目の前に開けたのが海だと言うことは分かった。

「何処まで来ちゃったの〜」

「そりゃあ、海までだろうよ。おい、これ後ろのに撃てや。」

「へ?」

 俺は、ステアリングを片手で持って、楽花にブローニングを渡す。

「チーと無茶すっからな。」

「む、無茶って…」

 俺は、ニヤリと笑うとアクセルペダルを踏み鳴らした。

「ちっか道だぁ!」

「やっぱしぃ!」

 俺は、ガードレール、樹木、標識、公道など無視して車を進ませる。まあ、元から逆走してるが…

 断続的な衝撃が車内に木霊する。

 フレームのあちらこちらに傷がつき、フロントガラスやライトが割れ、ナンバープレートが拉げた。

「はいはい! 撃て撃て!」

「そ、そんなこと言われても…」

 楽花は、手渡されたブローニングを見て言った。

「はいはい、セーフティは外してあるから、アレに向けて引き金引けば良いだけだから。って! こっち向けるな! あぶねぇ!」

 俺は人間だぞ〜

「う〜」

 あんまり窓から身を乗り出したく無いみたいだな。

「え〜い、かまわねぇ! 後ろのガラスごと撃っちまえ!」

 ガン

 バリィン

 一発で後部の窓ガラスは、割れた。しかし、ちょっとは躊躇えよ。

「国産の車のガラスやフレームは脆いね… タイヤよりこっちを狙うべきだったかな?」

 そう思うが、後の祭りである。

 ガン

 チェン

 二発目は、道路標識に着弾。

「おいおい、その中に入ってんの後5発だぞ。」

「え、ホントに… なんで〜 もっと持ってないの〜」

 んなもん相当非常時用の護身用だぜ… 予備マガジン2個も持ってるだけ良いだろ。

 俺は、懐に入れてあるもう一個のマガジンの感触を確かめる。

 そこに確かにあった。

「よっと! 天然物の絶叫マシンだぁ!」

「へ… のわわわぁ!」

 ガギバキガキガキ

 傾斜約60度の斜面を車は時速150kmで走る… って言うか殆ど落ちてる。

「いよ! は! ほ!」

 そこら中に生えている木の幹をかわしながら海へと向かって直進する。

 視界が開けた…

「とはぁ!」

 正面に見えたのは、船舶中らしい大型船、電灯の明かり、そして地面。

 ん? 地面…

 車は中空に躍り出ていた…

 無論飛行する機能など付いている訳が無い。

 物理的法則に従って落下する。

「「のわぁぁぁぁぁぁぁ!」」

 約4mの距離を落下した。

 ガァン

 着地の衝撃。

「う、むむむ… エアバックが付いてて良かったな。」

 流石に無傷とはいかないが…

「自動車メーカーさん。私は、今ほどエアバックに感謝した事はありません。」

 楽花が、ちょっと酸欠気味な台詞を言う。

 俺は、アクセルペダルを踏むが、反応が無い。

「おい、だめだこりゃ… 降りろ。」

 こんな無茶をしまくって良くここまで持ってくれた…

「どっこいしょ〜」

 楽花の方のドアは変形していた為に運転席側から二人ともでる。

「しかし… 怪我の功名って奴か… これでシックスもそう簡単に追ってこれはしないだろ。」

 俺は、そう言う。だが、甘かった。

 バォン

 突如上空に出現するシルエット。

 だが、それは空を飛ぶために作られた物の影ではない。

 無論、そんな物が中空にあると言う事は、落ちると言う絶対的な法則に従わざるを得ない。

 その法則に従い、その影は落下を開始する。

 見る間に影が大きくなってくる。

 ガゴォン!

 その影が陸に降り立った。

 所々から紫電が散り、フレームが拉げ、元の姿も留めずに、それは落ちてきた…

 降り立った場所は、俺たちの乗ってきた車があった場所。

 可燃物は殆ど使われては居ないために爆発はしない。

 だが、乗っていた車は潰れ、拉げ、歪曲し、折れ、?げ、破裂している…

あの場所に何時までも居たらと思うと悪寒がする。

「おい! 走れ!」

 俺は、中空に居た時に見た明かりを頼りに楽花の手を掴み… 走った。

 後ろで、ムクリと人影が立ち上がる気配がした。

 俺は、楽花の手からブローニングを取ると、振り向き、その影に向かって引き金を引く。

 ガンガンガンガンガン

 マガジン内の5発全ての弾丸がか細い銃口から吐き出され、シックスの足に吸い込まれた。

 それらの弾丸は、肉を引き千切り骨を砕き神経をズタズタにし血を引き摺って飛翔する。

 その余りの正確さに、シックスが膝を付くのが気配で分かった。

 時間稼ぎにはなるだろう。

「ねえ、照一… ここって港?」

 楽花の声が聞こえる。俺は、声がした方へ顔を向ける。

 そこには、看板を指差している楽花の姿があった。

「みたい… だな。」

 俺は、看板を見てそう言う。

 何がなんやら良く分からん名前だが、港だと言うことには違いは無いようだ。

「結構な設備があるな…」

 貨物船らしき船影が見える。そこへ、クレーンで吊り下げられた。コンテナが積まれていく。

 これだけの設備がある港だと地図にも載ってそうな物だが、俺には記憶に無い。

「他に行くあてもないんだ。ここへ行くとするか…」

 俺は、そう言ってゲートを潜る。

「大丈夫?」

「今が大丈夫な状況か…」

「それもそっか…」

 楽花も続いてゲートを潜る。

 しかし警備員も入口に置いてないとは無用心な…

「貴様等! 何者だ!」

 あ、居ましたか…

「未成年です!」

 ん? オイ、楽花?

 その言葉に警戒を解いたのか、警備員らしき人が接近してくる。

「なんでまた学生がこんな時間でこんな所…」

 ごすぅ!

 楽花の肘鉄が、警備員らしき人のコメカミに決まった。

 ぐったりと倒れる。

 気を失った様だ…

「よいしょっと。」

 そう言って、楽花は、傍の草むらに警備員らしき人を投げ捨てる。

「完了。」

「………」

 俺は、何も言わない。流石に妙な雰囲気を感じたのか、楽花がヘンテコな表情をして言う。

「と、とにかく! これは置いておいて! 今やることをする!」

「へーい。」

 いろいろと逆の気もするが無視… にしておけ! 俺!

 されど、此処は何処なのだろうか…

 見知らぬ港が戦場に選ばれたのは、何も理由は無い。

 ただ、そこにそれが在ったから… それだけのことだ。

 だが、人は何か因縁めいた事を感じざるを得ない。

 全ては決まっていた事ではないかと…

 

英雄無き世界にて…

第11話 中

END

第11話 下へ続く…