機動戦艦ナデシコ

英雄無き世界にて…

 

 アオイ・ジュン

「うわ! そりゃまた突然に!」

 新しく、大尉の階級章をぶら下げた制服を着て、僕はフクベ提督の突然な台詞に反応した。

「ど、どうしてです! どうしてです! 提督!」

 ユリカが、大慌てで、理由を聞く。

「ん? まあ、理由と言うものは、とくには無いな… 強いて言うなら、そろそろ、老体は引き下がる時期だという感じか…」

「そ、そんな! 私には、まだ教えて欲しいことが沢山あるんです! それに…」

 ユリカが、何か言おうとしたのを、フクベ提督は、手で征す。

「火星の時から感じていたが、私は、君の視点では先生と言う感じで見られていたのかな?」

「…………」

 ユリカは、無言である。図星と言うことだろう。

「はぁ、そうか… まあ、それならそれで良い。しかし、先生と言うものは、生徒の希望ばかり聞いている訳にはいかんのだよ… テストも出せば、夏休みも出す。卒業すれば笑顔で次の学校や社会へと送り出す… 君は、一番最後の卒業の時期だ… もう、これ以上は私は教えることなど出来はしない。これより未来。私が、ここに居てもアドバイス以上の事は、仕様が無いし、それにばかり頼って、君の今後の能力が著しく低下する可能性だってある… 今、ここにミスマル・ユリカと言う生徒が卒業したことによって。もう、老骨は、自らの役目を終えた… せいぜいゆっくりと過去の罪と共に休ませてくれ…」

 誰も何も言えなかった… 言える筈が無かった…

「しかし、私は、幸せ者の年寄りだよ… 若者に後を継がす事が出来るのだからな… 快楽に酔ってばかりの苦労知らずの若者で、継がす事も出来ずに死んでいく年寄り達にとってみれば、心配なく後を継がす事が出来る私は、幸運と言う他に無い。降りたら降りたで、退職金で小さな家でも買って住む事にするさ… だから、頼む。最後の年寄りの我儘を聞いてくれ…」

 そう言って、正座し、額を地面に擦り付けるフクベ提督…

「……… わかりました… 本日付で、フクベ・ジンどのの提督の職を解きます…」

 基本的に民間企業の為に、辞意を表明すれば、任意に辞められる事が幸運であっただろう。軍隊や何かでは、とても提督ほどの人物を手放すはずが無かった。

「では、これにて全員解散。」

 何処となく空気の暗くなったブリッジを全員が、後にした。

 

 そして、一日後…

 全員の敬礼に見送られて、フクベ提督いや、今となっては、フクベ・ジンさんと言った方が言いか… を乗せた定期便は、月を去っていった…

 

 此処には裏話がある。

 それは、定期便に乗る前に、犬河照一とフクベ・ジンが会っていた事だ。

「しかし、中尉。なぜ君は火星で私を助けたのかね?」

 犬河照一は暫し悩んだ。

「死に場所を選んだのなら、そのまま死なせてあげた方が良かったかも知れませんけど… やっぱし、老将と言うものは生き抜く物ですよ、まあ最初は見捨てようと思いましたけど。」

「お節介だな…」

「死に場所を選べるのは70歳までです。それ以上は、定年で許しません。もう、5年早く死んでるべきでしたね。」

「それが自論か?」

「そうですよ。エゴですよ。どうせそこまで生きたなら、無理に戦場で散る必要はありません。精精長生きしてください。若者にとっと苦汁飲ませて…」

 呆れた顔をしたフクベ・ジンは、そのままタラップを上って行った。

 

 一方「ナデシコ」は、未だ修理過程である。

 3ヶ月半は、修理のために月を出られないのは、聞かされていたが、流石に3ヶ月半ともなると、暇を持て余す。

「おい! ジュン! 暇か〜 ならチョット付き合え!」

 ふと、背後で聞きなれた声が…

「あ、なんだ? ガイか… どうした?」

「どうしたじゃねぇ! 犬河の馬鹿野郎がな… なんと! ゴートの旦那と柔道で手合わせしてるんだ!」

「な、なんだってぇー!」

 犬河… 大丈夫なのか… あの人とマトモに柔道して…

「そこでだ… ジュン! このまま置いてけぼりを食う訳にはいかん! よって! 俺と一緒に格納庫へ行こうではないか!」

「ああ、もうその通りだ! これ以上奢らされる羽目に陥る訳にはいかないんだ! しかし、なんで格納庫なんだ?」

「おーい、ジュンくーん。書類の整理手伝ってぇ〜」

 ふと、後ろから聞き慣れた声が…

「ユリカ! 僕は、これから訓練をしなきゃいけないからダメ! 今回は、一人でやってくれ。」

 突き放した言い方をした。ユリカは、最初はキョトンとしていたが…

 目に涙を滲ませると…

「うえ〜ん! ルリちゃん! ジュンくんが苛める〜!」

「年下に泣き付いて恥ずかしく無いのか! ユリカぁ!」

 やっぱり、一人称の時は、何時もツッコミ役だ。

「はい、とにかく… ダメ! ダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメ! 提督は、もう居ないんだから! 何時までも他人に頼ってちゃ進歩しないよ! ユリカ! ちょっとは、前に進んで!」

「ふえーん! なんでこういう時に、私の王子様は来てくれないの〜」

「そんな都合の良い物が、簡単に来るわけ無いだろ!」

「おい、行くぞジュン…」

「うん。そうしようガイ…」

 

「うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」

「艦長…」

「ホエ? 何? ルリちゃん。」

「書類涙で破けてます。」

「ああ! う〜、えーいもう! これも全部ジュンくんのせいだー!」

「全然違うと思いますけど…」

 

 犬河照一

「ぜい… ぜい…」

「おいおい、わざわざ格納庫に、畳敷いてやるか…」

「気分が出るそうだ…」

 整備員の皆さん方のそう言う声が聞こえるが、脳を素通りする。

「うおりゃぁ!」

 俺は、右足をゴートさんの股を潜らせ、右足に引っ掛ける。

「小内狩りか… タイミングは中々だが… まだ甘い!」

「うお!」

 背を向けられたかと思った次の瞬間… 俺の体は、宙を舞っていた…

 ドタァン!

 俺は、受身を取る。

「あ、たたた。」

「ふう… 流石に実戦慣れしているだけあって、動きは速かったな… だが、まだ技術が甘い。といっても、これの技術が戦闘で役に立つ事など殆ど無いがな… しかし、いきなり稽古をつけてくれとは、どういう心境だ? どこにしまったか、スッカリ忘れていた柔道着を引っ張りだすのに苦労する羽目になったぞ。」

 俺は、寝た姿勢のまま頭を人差し指で掻く。

「まあ、もうちょっと強くなりたかったからですかね… しかし、やっぱり俺って非力なんですね… 完璧に引きつけられて殆ど手も足も出なかったし、ようやく出て決まったと思った小内狩りはすかされるし…」

 俺は、自分の体を見る。白帯が腰の上で揺れていた…

 思わず溜息が出る。

「まあ、勘は良いだろ… 努力次第では、強くなる。努力次第だがな…」

「今日出来ないことが、明日出来るはずが無い… か、それとも今日出来なくても、明日は出来るか… どっちでしょうね…」

「両方だ。人間など一長一短の考えばかりで、それを合わせようと等はしないからな… せいぜいお前は、合わせておけ。」

「はい、そうさせていただきます。」

 と、言って起き上がろうとすると…

「ふははぁ! 犬河照一ぃ! 貴様だけ抜け駆けして利益を得よう等とは片腹痛いわぁ!」

「どこから、わい出てきたんだガイ…」

 正面に柔道着姿で、仁王立ちしている男に向かって俺はそう言う。

「ふははぁ! 一人だけとぉ! ぅおもったかぁ! ここにもぉ! いいいるぞぉ!」

「ジュン… そんな時代劇風に言わなくても良いってば…」

 整備途中のエステバリスの肩の上で、柔道着姿でポーズを決めている男に向かって俺は、そう言う。

「ふう… 馬鹿三人組が揃ったか… ふ… よし! お前ら! 順番に稽古をつけてやる! まずは、ヤマダからだ! さっさとかかって来い!」

 ゴートさん… マジですか…

「うおっしゃぁ! 行くぜぇ! どりゃぁぁぁぁぁぁ! のわぁぁぁぁぁぁぁ!」

 一瞬にして宙を舞うガイの体…

 ドンガラガッシャァァン! クワンクワン…

「次!」

「はい! だぁ!」

 ガシ!

 お、組み付いた… けど…

「はわぁぁぁぁぁ!」

 ドテェ!

「次!」

「再度! 犬河照一! 行きます!」

 俺は、二の鉄を踏まないように気をつけて組む。

「甘いぞ… 始めから相手に良い所を持たせるな!」

「うわぁ!」

 裏襟を掴まれ強烈な内股を受ける。

 ドダダァ!

「はぁ、はぁ… もう終わりか! まだまだだぞ!」

「なんのぉ! このダイゴウジ・ガイが、そう簡単に諦めるとぉ!」

 ガシィ!

「む!」

 ゴートさんが、唸った。いい所つかんだか?

「学習能力はあるらしいな… しかし、まだまだだ。」

「うおおお!」

 ズダァァァァァァァァン

 大外で吹き飛ぶガイ。

「まぁだ! まだぁ!」

 以下、昼飯まで続く…

 

ゴート・ホーリ

「ぐ、た、立てん…」

「おお、こりゃまた。ゴート・ホーリとも有ろう人が、過労で立てなくなっているとは…」

 プロス… からかいに来たのか…

「あいつ等… だんだん強くなってくる… 戦うごとにレベルが1ずつ上がっていく様だ… その内、手がつけられなくなるぞ…」

「買ってますね〜、まあ、私もですけど…」

「なんでだ?」

「こんどは、私の所に習いに来たんですよ。まあ、犬河さんだけでしたけどね…」

「ほう、それで成果は?」

 プロスは、右の袖を捲る。

 青白くなった腕があった。

「相手のほうは、鼻血を出して医務室へ行きましたけどね… かなり良かったですよ… あの人は… それでつい、手加減無用で…」

「よく病院送りにならなかったもんだ…」

 プロスは、肩を竦める。

「まあ、どうなるかは、なってみないと解りませんよ。」

 

 犬河照一

 ガァン!

「真ん中… か…」

 ガァン! ガァン! ガァン! ガァン!

 引き金を引くごとに、どデカイ穴が、紙に写したターゲットに穿たれる。

「ふぅ… 昔並だな…」

 指にジ〜ンと来る感触を確かめながら、俺はS&W モデル500をホルスターに戻す。

「さて、掃除だ… ノルマ分は、して置かないとな…」

 俺は、そう一人事を言うと、射撃場を去ろうとするが…

 パチパチパチパチ…

 ふと、現れた人影に邪魔をされた…

「なんだぁ? アカツキ? なんか用か?」

 そこに居たのは、ロンゲの男だ。つまりアカツキ・ナガレ。

「いやいや… 用は無いんだが、あんまりにもお見事なもんでね…」

 俺は、肩を竦める。

「ああ、用と思えばこれがあった。ちょっと手合わせしてくれないか?」

「手合わせって… お前骨折中じゃないか…」

 俺は、ギブスで固められたアカツキの足を指差して言う。

「なあに、シュミュレーターでの模擬戦さ、それに君とは違ってIFSを使うから足に関しては、全く問題が無い。それよりも君の実力という物を、少しでも知って置きたいからね。」

 俺は、溜息を大きくつくと、条件を言った。

「掃除手伝えよ… 窓拭きで良いから…」

「解った解った。」

 そんな感じで、アカツキと俺は、シュミュレーションルームへと向かった。

 

 ガスガスガスガスガスガス!

 次々とシュミュレーターの地面が、弾丸によって抉られていく…

「いよっと。」

 見切れない速度ではない… 俺は、易々と回避する。

『ふぅむ… 流石実戦慣れしているだけあってやるね。』

「褒めてるのか?」

『敬意といって欲しいな… そんなじゃじゃ馬(フルマニュアルエステ)なんかをそこまで動かせるなんて、まさに凄まじい才能の塊だよ。』

「へぇ、そうなのか?」

 俺は、事も無げにそう言う。

『君… 自分のやっている事の凄さ解っているかい?』

「別に、俺は普通に動かしてるだけだけど…」

『……… だんだん君に嫉妬に近い感情を覚えてきたよ…』

 そう言われたとたん、俺はスラスターを全開にする。

 その直後… 画面の向こうで、ラビッド・ライフルを放つアカツキの駆るエステバリスが写った。

 ダガダガダガダガダガダガダガダガダガダガダガダガダガダガダガ!

 ダスダスダスダスダスダスダスダスダスダスダスダスダスダスダス!

 次々と地面に弾痕が穿たれる。しかし、本能的に一瞬早く回避していなかったら、間違いなくこの中に巻き込まれていた… やるな…

 しかし、無理な姿勢での機動だった為に、軽くバランスを崩した。

「とっと、いきなり撃ってくるなんて…」

 俺は、瞬時に機体を立て直すが、それを好機と見たアカツキのエステバリスが、俺の機体に向かって突進して来た。

『悪いけど、戦闘に卑怯などとは無いよ。』

 そう言って、全開機動で、俺の機体に拳を突き立てんと、大地を疾走する紫色のエステバリス。

 ズルゥ!

『へ?』

 紫色のエステバリスが足を取られ、転倒する姿が映った。

 俺は、紫色のエステバリスの上を取り、そのままジェネレーターをエステバリスの拳で貫いた。まあ、オイルを策略に使ったために動きは硬かったが…

「ワザと駆動系を大きく噴かして、そこいら中にタップリとオイルを撒いといたからな… しかし、これほどまで上手く決まるとは…」

 画面上にYOU WIN! の文字が点灯している。

 俺は、シュミュレーターのハッチを開けて、外へと出る。

「ひ、卑怯だぞ! オイルを撒くなんて!」

「おーい、お前自分が言ったことをもう忘れたのか〜」

 俺は、半分笑いながらそう言う。

 ムンズ…

 裏襟を誰かに掴まれた…

 冷や汗が全身から滲み出る。

「ふお〜い、照一〜、こんな所で何をサボっているのかな〜」

 予想通り…

「ら、楽花… これは、訓練だ! そう! だから俺には何の非も無い! だから…」

「問答… 無用みたいだけど… 心配するな犬河君… 骨は拾ってやる…」

 アカツキの確実に味方してくれなさそうな台詞に、俺は思いっきり焦る。

「ふ〜む、それにしては、残りの量が多いわね〜 後、確か通風口にお手洗いに厨房に廊下半分が残っているみたいだけど…」

 ダラダラダラダラ…

 汗の垂れる音が効果音で表現できる…

「言い訳は?」

「クエースチョ〜ン! クエースチ〜ョン! ぼ・く、オバ… ぐぇええええええええ!」

 逃げ出そうと、少々誤魔化しながら背中を向けたが、失敗… 芸術的なチョークスリパーを決められる。

「ああ、大丈夫大丈夫♪ しっかり頚動脈は外してあるから♪」

「ひょぎぇいひゃばいぷおわぁぁぁぁぁ!(余計ヤバイわぁぁぁぁぁ!)」

 俺は、渾身の力を込めて声をだす。

「ほう? そんなに空を自由に飛びたい?」

「ふいっげぬるぇ!(言ってねぇ!)」

「はい! タケ○プタァァァァァァァァァ!!」

 ギュルルルルルルルゥゥゥゥゥ……(回転音)    ドガァ!

 俺の顔面が天井にめり込む…

「こ、これは… タケコ○ターじゃなくて… 山嵐だ… そうか… お前、○道館に居たのか…」

 ドサ…

 天井から、崩れ落ちた…

「まだ、喋る気力があるの? なら、何処かの石段で鍛えたこの……」

 あ、猛烈にイヤな予感……

「地獄車でぇ……! 文字通りぃ、地獄に落としてくれるわぁぁ!!」

「もうそれ、乙女の技じゃねぇだろうがぁぁぁぁぁ!! ブロアァァァァァ!!…………ぐふ。(吐血)

 ちなみに漫画版だった。(死ぬっての。)

 

「…………… 良く生きてたなコイツ…」

「はははぁ… 練習の成果が落ち込む心配はしなくて楽ですね。」

「全く… 普通なら脳挫傷はかたかったのに…」

「だから、大丈夫だったのか… 8メートル程のクレーターが出来た爆風の中で…」

「まさに不死身の男…」

「フェニックスの如く復活してくるからね…」

「フェニックス…… 科学忍法?」

 …………それは火の鳥。しかし、苦笑が巻き起こっている。今回は、それなりに受けたか?

「お? 気が付いたか?」

「頭が、やたらと痛いですけどね…」

 俺は、軽い(何ぃ!)頭痛を覚えつつも、体の腹筋で上半身を持ち上げる。

「うぉ! 皆さんどうしたんですか! 皆揃いも揃って、医務室で横になっているなんて!」

 俺は、目の前の光景を見て唖然とした…

 気を失っているガイ… まあ、コイツは置いといて…

 足だけでなく右腕までギブス固めになっているアカツキ…

 何故か、胸部をギブス固めにされた状態になっているジュン…

 頭に包帯を巻いたリョーコさん…

 何故か眼鏡にヒビが入って倒れているヒカルさん… って、これはどうだろうか?

 目が異様なほどに充血しているイズミさん…

「いやぁ、僕は少々君の彼女の地獄車のとばっちりを受けてね…」

 アカツキが、そう答える。右腕が折れた理由は解った。

「僕の場合は、少々張り切り過ぎちゃって… ね…」

「しかし、アオイ君… 幾らなんでもベンチプレス100kgは無理だろうよ…」

 アカツキのそう言う言葉にギクッとなるジュン… そう言うことか… それを落としたんだな… 自分の胸部に…

「俺の場合だが… うん… 幾らCPUでシュミュレーターとは言え、ぶっ続けで連戦は無理があったな… 50位までは数えてたんだが… その内に…」

 リョーコさん… そんなに続けられますか… あ、俺が異常なのか。

 しかし、何故それで頭から…

「シュミュレーターの方が爆発しちまった…」

「んなにやる人居ますか!」

 しかし、何故爆発するんだ? 不思議世界だ…

「私は… その現場に通りかかっただけの被害者で〜す。」

 ヒカルさん… お気の毒。

「少々忍術の修行を… 昨日から…」

 どんな修行だ… いや、イズミさんなら恐らく滝から川へ飛び込む位は…

「で、それは?」

 俺は、視線でガイを示す。

「いや… 何でも直○切りを習得するためにウリバタケさんが作ったトレーニングルームにこもっていたそうで…」

「すると、アレか… いきなり上から槍が飛び出してきたりと…」

「壁が狭まったりと…」

「落とし穴とか…」

「コイツも良く生きていられたモンだ…」

「「「「「「はぁ…」」」」」」

 全員揃っての負傷に、思わず揃って溜息が出たのだった…(ガイを除く…)

 

 まあ、そんなコンナの3ヶ月である…

 その間に、地球連合軍との共同作戦などにも参加した…

 もっとも、「ナデシコ」は、動けないために機動兵器パイロットだけの戦闘であった…

 そして、俺は3戦目に部隊の運用を任された…

『はあ、所で犬河中尉… ホントにこんなんでいいのか…』

 リョーコさんの退屈そうな声が聞こえる…

「そう、いいんだ。」

 俺は、即答する。

『しかしさ… 私達さ… な〜んもしてないよ…』

 ヒカルさんもそんな声を上げる。

『戦闘宙域から… 敵の敗走ルートを割り出し、そこで待機… しかる後に殲滅… まあ、これも立派な役目じゃない。』

 おおお! イズミさんと言う意外な人が俺の意見を肯定した!

『しかし、君も悪だね… 部隊の運用を任された途端にこれだ…』

 骨折の完治したアカツキがそう言う。

「自ら進んで危ないことに首を突っ込んでいく奴が居るかよ… 全く…」

『君が言うな… 一番危ない奴だ…』

 ジュンにそう言われた… チョット悲しい…

『おう! 犬河中尉! 仕掛けは仕掛けといたぜ!』

 そう言って、ガイのエステバリスが、コードを引っ張って近づいてきた…

『おまけに罠まで仕掛けるか… 卑怯じゃねぇの…』

「文句言うな、スバル少尉… 俺の辞書に卑怯等と言う文字は無い。徹底徹底…」

『さて… そろそろ敵さんが来ますかな…』

 そう言うアカツキの声に、皆溜まっていた忍耐を放出する時だと言う顔をした…

 小さかった光点が段々と大きくなってくる…

『連合軍のお漏らしは、戦艦2隻にバッタ200機… ジョロが100機ってとこか…』

『内こちらに向かっているのは、戦艦1隻にバッタ120機… ジョロが45機… 大当たりジャン…』

「皆… 気をつけろよ… ゲリラ的戦い方だから、何時もより重力波ビームのエネルギー供給ラインが短いんだ… 急ごしらえの戦闘艇に発射機くっ付けただけだからな… しかも数もあんまし無い。」

『『『『『『了解!!!』』』』』』

 威勢の良い返事が返ってきた… 全員が持ち場につき、宇宙用迷彩の施されたシートを機体にかける…

 全員が、エステの機能を全て停止させ、レーダーから姿をくらました時… 敵の無人兵器群が、トラップの宙域に差し掛かった…

「やれ… ヤマダ少尉。」

『りょうかーい…』

 光が広がった… 迷彩の施された機雷の爆発のエネルギーが放出されたのだろう…

 網膜を焼く爆発光が、俺の意識を覚醒させる…

『敵さん2割がた撃破…』

「ちょいと早かったか… 3割は巻き込みたかったんだが…」

『だぁぁぁぁ! んなこた良いからさっさと攻撃命令だせぇ!』

「焦るな焦るなスバル少尉… ほれ、敵は警戒してるぞ… そんな中に突っ込む馬鹿は居ないって… 待て待て… 大体こういう時に暫く待っていると、機雷だけだと油断してしまうもんだ…」

 俺は、そう言う。確かに警戒しているらしく、相手の動きが慎重だ…

『無人兵器に油断があるのか…』

『まだ、機体立ち上げちゃダメ?』

「ダメ。」

 俺は、断固それだけは譲らない覚悟だ。

 そして、暫くが経った…

 敵は、これ以上は異変は無いと見て、移動を開始した…

 機雷の撤去は、ジョロが行っていた様だ…

 待ちに待った瞬間がもう直ぐ訪れる事を全員は予想した…

 そして、ヤツラは背後(ケツ)を見せた…

 3… 2… 1… 今だ!

「全機! 機体立ち上げ! 攻撃開始!」

『待ってたぜ!』

『うっしゃぁ!』

『すやすや… っは! え… 開始?』

『寝てちゃだめだぞ、ヒカル君。』

『落とさせて貰います…』

『出来るだけ怪我はしないようにいこーと。』

 全員のエステバリスが、宇宙用迷彩の施されたシートを剥がす。

『敵は、見事にソッポを向いているぞ!』

『いくぜぇ! 先制攻撃だ! 対応の間もなく大半を殲滅してやるぜぇ!』

『供給範囲切れたわ… バッテリーちゃんと確認しながら戦うことね…』

『行け逝けモードで行こー!』

『微妙に字が間違っているような…』

「油断するなよー。」

『君が一番ね…』

 敵は、大々的な反撃のいと間もなく壊滅…

 組織的戦果は、敵戦艦1隻 無人兵器165、完全殲滅と、中々の値を記録した…

 ちなみに、今回の最多撃墜者は、35機撃墜のジュンだった。

 何気に張りきってんなよ… オイ。

 

 そして、この戦いの直ぐ後に…

 俺は、「ナデシコ」の修理の完了と… 新しい提督と副操舵士の着任を知る。

 

機動戦艦ナデシコ

英雄無き世界にて…

第十四話

END

第十五話へ続く…

 

あとがき

「で、俺に何を書けと、弟者?」

「好きに使え。」

 

 

 

 

 “例えば”の話をしよう。

 “例えば”、世界には本当に、“吸血鬼”と呼ばれる存在がいるのだとしたら……

 “例えば”、人類はそれに対抗する手段を既に持っているのだとしたら……

 “例えば”、安価に吸血鬼になれる“道具”が存在するのだとしたら……

 “例えば”、それによって生まれた“吸血鬼”が、従来の“吸血鬼”よりも強大な存在だとしたら……

 これはそういったお話。

 

 20XX年、某月某日。ヴァチカン市国。

 一人のカソックを着た眼鏡の少女が、壮麗な廊下を歩いてゆく。彼女の名は、シエル。華奢な肢体をしているが、こう見えて歴戦の吸血鬼ハンターである。

 彼女が、重そうなマボガニーの扉を押し開く。

 そこに居たのは、彼女直属の上司、マクスウェル神父と、十八歳くらいであろうか、見知らぬ金髪の少年が居た。

 金髪の少年は、シエルに一礼をしてから、言った。シエルにとって初対面に頭を下げられるなど、日本にいたとき以来のことであった。

「僕の名前は、ジョセファン・ジョバァーナ。実は、祖父のことで相談に来たのです…」

 彼の話の内容は、シエルにとって驚くべきものであった。

 彼の祖父が吸血鬼であったこと。

 しかし、彼には吸血鬼の因子が存在しないこと。

 吸血鬼を“量産”することの出来る“石仮面”が存在するということ。

 そして、彼の祖父、ディオ・ブランドーのクローンが、アメリカ合衆国で製造されているらしいということ。

 全てが驚くべき内容であったが、彼が祖父や父から受け継いだらしい、「スタンド」と呼ばれる能力は、さらに彼女の度肝を抜いた。

 彼女は予感した。この戦いが、いつかの戦い以上に、彼女の人生を決定付ける戦いになるのだということを。

 シエルは、ジョセファンと名乗る青年の背中に、黄金の輝きを見た気がした。それがジョースター家の、誇り高き血の産物であることを、彼女は知る由も無い。

 

 

− red −

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジョジョの世界に、他の作品をギャグ以外で出演させるのは不可能と判断し、お蔵入りとなりましたとさ。(ちゃんちゃん)

 

 

 

 

 

 本当のあとがき

「……今回はあんまり面白くないな。」

「自分で書いておいてそれか、兄者。」

 

 

 

 

代理人の感想

・・・・・何やってるんだか。

時に柔道の技術自体はかなり有効だと思うのですが違いますか?