機動戦艦ナデシコ

英雄無き世界にて…

 

 ムネタケ・サダアキ

ドドドドドドドボォォォォォン!

「え〜、それで今回の任務は…」

ダガァァァァァン!

「……… に置ける。」

チュドドォォォォォォン!

「……… の調査であって…」

「おらぁ! そこぉ! サボるなぁ!」

「って、何で誰も聞いてないのよ!」

「え〜、それに関しては、私が言いましょう。」

「ん? 何、艦長。」

「氷山に正面衝突した後、物資が貰えなかった艦の有り方はこうでしょ。」

「まあ、そうだけどね…」

 そう言って溜息を付く。

 確かに「ナデシコ」は、戦艦として機能する惨状ではなかった。

 所彼処から、オイルが漏れ漏電は紫電を散らしグラビティブレードの左側は後ろ半分しかなくなっているし、装甲は無事なところを見つけるほうが難しい。黒煙が目の前を覆っている事から解るが…

「でも、やっぱりこの方が「ナデシコ」っぽいですよ。」

「貴方達… どんな状況を潜り抜けて来たの…」

 私は、ブリッジクルーに質問を投げた。

「そりゃあ、もう徹夜に断食に電気・水の制限に過重労働が束になって降り注ぎましたね!!!(怒)」×ブリッジクルー全員

「ああ、だんだんあそこで追放されていた方が良かったと思うようになってきたわ…」

 いや、冗談ではなく本気でそう思う。

 修理に補修に大忙しなブリッジ… もう、午前2時なのに…

 ちなみに、私もドライバーを持たされている。

「うんうん、やっぱし機械部が丸出しの方が気分がでるわね〜♪」

 いや、紫電… 紫電が散ってるけど…

「ちょっと、こっち溶接してくれません?」

「アイアイサー。」

「細かいところの作業は、整備班に任せるとして… フレームの張替えくらいはしないとね。」

「提督、ここのビス外してください。」

「は〜い。」

 

 ウリバタケ・セイヤ

「うううううううううううう… ようやく修理地獄から開放されたと思ったら、またか…」

 しかし、それでも手を抜くわけにはいかない。

「ウベベッ! ここの水道管に穴が開いていやがるぜ…」

「あ、ちょっと班長! そっちは工業用水の方のパイプ…」

「あ、くそ! 付け間違えたか…」

 半分イラつきながら、パイプを取り替える。

「くそぉ… なんで艦内補修作業に明け暮れなければならないんだ… やって置きたい事も有るって言うのに…」

「班長、火星から帰ってくるまで休んでなかったでしょ、じゃあ少し休んでいても良いですよ。ここは俺達がやって置きますんで。」

「良いのか?」

「良いですよ。」

 そう部下にいわれて、俺は床下から這い出した。

「1時間ほど経ったら戻るぞ。」

「2時間でも良いですよ。」

「何もでねぇぞ…」

「いりませんよ。」

 俺は、頭を掻きながら部屋へと戻った。

 部屋への扉を開け、電気を付ける。

「………… やっぱし、関節部がな〜 コレを使うとなると強度的に問題が…」

 俺は、まだ未完成の設計図を見ながら言った。

「出力の方は、X(開発ナンバー)エンジンの使用で何とかなる… 汎用性も高くなるな… 一気にアレを10秒間まで持っていくことも可能だ… しかし、やはりこの機構をつけると、操作系が増えるな… 幾らアイツでもどこまで行けるか… それに、こっちの方は…」

「ん? 何書いてんです?」

 背後から声が聞こえた。

「ああ、こりゃ、お前達用のクリスマスプレゼ……… ってナニィ!?」

 何時の間にか背後に立っていた犬河照一に俺は、動揺する。

「え? 何ですって?」

「聞いたな貴様… 聞いてしまったな…」

「いや、何が…」

「聞かれてしまったからには唯ではおかんぞ!」

 ドス!

「ギャ!」

「当て身だ… 気にするな。」

 しかし、どうするか…

 俺は、暫く気を失った犬河を見て、思考する。

「おお、そうだ。アレの実験台になってもらうとするか…」

 俺は、不敵な笑みを浮かべ準備を始めた。

 そう、この俺ウリバタケ・セイヤは、ある目的を持って動くとトンでもない程のエゴイストになってしまうのだ。それは、新しい玩具を与えられた子供に似ていた…

 

 犬河照一

 む! なんだ? 何が起こったんだ。

 確か、俺は通風口の漏れ点検をしていたんだが… 蓋が外れて真ッ逆さま。それで気を失った… そして、気が付くとウリバタケさんの部屋の中だった。

 出ようにもロックが掛かっていて出られず、困っていたら、持ち主が帰ってきてなにやら良くわからない独り言を話して… それで…

「は!」

 俺は、目を開けた。

 体中にロープがグルグル巻きに巻かれて拘束されている。

 しかも、なにか未来の映画で出てきそうな椅子に座らされていた。

 ああ、何かスゴイ嫌な予感…

「ふふふ、犬河照一よ〜 貴様は聞いてはいけない物を聞いてしまったんだ…」

 何処からとも無く声が聞こえる。

「お、俺をどうする気だ! 俺を自由にしろ!」

 マズイ、このシチュエーションは… いろんな意味で人体改造される可能性がある。

 ウィィィィィィィィン

 怪しげな光に照らし出され、何かが俺の頭上にセッティングされた…

 それは、ヘルメットのように見えた。

 なにやら怪しげな突起やコードや試験管がついている…

 ああ、なんか良く原理は解らないが、取り合えずアレを被らされたらヤバイ、恐らく記憶を消すとかそう言う感じの物だろう。

「心配するな。痛みなどスゴイが、一瞬だ。」

「す、スゴイ… スゴイって何ですか!」

「まあ、心配するな。副作用の方は、表に出るほどは無い。」

「有るじゃないですか!」

 俺は、もう、やけくそになって叫ぶ。

「ふふふ、拒否しても無駄だ… 理由は簡単。貴様に人権など無いからだ…」

「なにぃ!」

「そう、今君は、一匹のモルモットなのだよ… さぁ…」

 うわ、凄く後を聞きたくない溜めが入った…

「偉大なる科学の進歩のために、細胞の一片をも我が前に差し出すのだ!」

「色んな意味で、嫌だぁぁぁぁ!(泣)」

 カシーン…

 ゴシュ ゴシュ ゴシュ ゴシュ ゴシュ ゴシュ ゴシュ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は! 俺は今まで何を…」

 気づいたら、部屋に居た…

 

 そして、目的地に到達…

 

「海だぁ!」×全員

 

「パラソル部隊出動!」

「女子に負けるなぁ!」

「こっちも負けていられるかぁ!」

 皆さんのってますね… しかし、全員がグロッグ29の入った防水ホルスターを持っているな… しかも相当手入れされている…

「さてと… 釣りでもしますか…」

 俺は、竿を担いで、一人だけ甲板に上がった。

「あれ? 照一、泳がないの?」

「……… いや、楽花。俺はまだ怪我が治って無いんだぞ… 水になんて入れる訳無いだろ。」

 俺は、包帯でがんじがらめの胴体を指差す。

「じゃあ風呂も入ってないの?」

「………ああ。」

「不潔!」

「仕方ないだろ!」

 俺は、甲板上ですれ違った楽花にそう言うと、針にエサをつけ始めた。

「って、誰も居ないじゃない! もう、こうなったら私も遊ぶからね!」

 誰かの声が聞こえる。

 俺は、竿を振って、エサを飛ばした。

「うわはは! 海と言えば、粉っぽいカレーにまずいラーメンにとけかけたかき氷ぃぃぃぃぃぃ! 俺は、この伝統を今につがせる男だぁ!」

「マズイ。」

「ちょっと、あんた達何やってんのよ!」

 この声は、追放提督か?

外壁(・・)修理(・・)はどうしたの! 外壁(・・)修理(・・)はぁ! 着水したら建機出すって言ったでしょ!」

「だって、まだ足場出来てねぇもん。水の上でやれってか? 無理無理。」

「あ、そっか。って、その足場も誰も作って無いじゃない!」

 いろいろと、叫び声が聞える…

 と、その時。

 うきが沈んだ…

「うぉぉぉぉぉ! 大物だぁ! す、凄い引きだぞ…」

「そ、そんな大物が簡単につれるもんなの。」

 あ、海には行かなかったのか、楽花。

「さ、竿が折れそうだ…」

「ひけー! ひけー!」

「だったら手伝え!」

「NO。」

「くそ! この… 揚がれぇ!」

 ザパァン

 揚がった…

「「………………」」

「む、エサが浮いていたと思ったら、なんだ。犬河か…」

「釣れたぞ…」

「釣れたは良いけど…」

「「ガイ(ヤマダさん)、てめぇ何してやがる。」」

「ん、そりゃあ、勿論すいえ… うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ。」

 

 数秒後。

「ふう、期待させといてよ…」

 手に、メリケンサックをはめた状態で俺は言う。

 無論何か赤いものがこびり付いている。

「全く、お刺身の作り方考えちゃった。」

 楽花が、グロック17の銃身を持った状態で言う。

 無論グリップに何か赤いものがこびり付いている。

「こいつ、刺して見るか?」

「誰が食うの?」

「俺。」

 笑顔で言うその言葉は、決して冗談には聞えなかったそうな…

 

「あ、ちょっと冷凍するから液体酸素持ってきて。」

「窒素で良いんじゃないか?」

「ドライアイスでも良いよ。でも死に肉は美味しくないから…」

「だ、誰かぁ!」

 

「ん? 飛行機か?」

 手に、液体酸素のボンベを持ってきた俺だが、上に飛行機雲を認めた。

 アレ? あの高度からなんか落としたぞ。爆弾? まさかな…

 しかし、何か落とした物がこっちに向かってくるような…

 

 ひゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ

 

どしぃ

 

 その、何かは、このテニシアン島の「ナデシコ」の居る反対側に落ちた。

 しかし、故意に落としたとしたら上手い爆撃手が居るもんだ。

 俺が、あの高度からやったとしたらこの島に落とすことも出来ないだろう。間違いなく海中に落ちる。世界は広いな〜

「ちょっと、照一。今絞めるから…」

「おうおう。」

「むがー! むがー!」

 …………

「ウガァァァァァァ!」

「騒がしいな…」

「ホントに…」

「じょ… 冗談だろ… 冗談なんだろ…」

「「いや、マジ。」」

 しかし、漫才しながらも、俺は航空機の投下した物体の事が、心に引っ掛かっていた。

 

 ダガァン―…

 微かな銃声が、俺の引っ掛かりを確信へと変えたのは、数分後の事である。

「さてと… 用意しますか…」

 俺は、装備品をあさりに行くために歩き出した…

 

「よっと。」

 数分後、俺は迷彩服と特製防弾ベストを着込み、手榴弾とC4をタンマリ入れたバックパックとM60機関銃(ベルト給弾式だが、そんなに持っていくわけにもいかないので、適当な長さを持った)を担いでサイドホルスターにS&Wモデル500を突っ込み、胸ポケにサバイバルナイフを突っ込んだ格好を作っていた。

 スピードローダーは持てるだけ持っている。

 と言っても人一人では限りがあるが…

 数えては居ないが、予備の弾薬は50発も有ればいい所だろう。初弾も入れておいた。

 もっと武器類を持って行きたいが、他の人にばれない様にするためと、幾ら何でも私有地で余り派手なことをする訳にはいかないと言う感覚があったからだ。

 もしもどう言う所なのかマトモに説明を聞いていたら、俺は容赦なくパンツァファウストやら色々とヤバイ物を平気で持って行っただろう。いや、そもそもコソコソする気も無くなるだろう… 機動兵器で一気にプッチンと行っていただろう。

 いや、マジで…

 だが、俺は仕事や訓練に忙しく、その辺りの説明は全く耳を素通りしていた。

「さて… 行きますか…」

 靴紐を結びなおすと、俺は他の人に見付からない様に傍の森へと走っていった。

 

「ふぅい… ここまで来れば…」

 俺は、一息つこうと腰を下ろす。

 無理意地張って、見付からないように慎重かつ素早く来た為に体力を使った。

 木の幹に座り込み、水筒を空けて、中の水を飲む。

 暑い…

 汗が大量に滲み出てくる…

 そりゃあ、こんな格好で灼熱の太陽の下に居るんだから当たり前だが…

「いや、暑いね。」

「ああ、そうですね… って! なにぃ!」

 俺は、突如呼びかけられた声に驚く。

 そこには、同じような服装のジュンが居た。

 持っているのは、M1919 A6だ。んなもんを何処から…

 いや、それ以前に…

「お前、なんでこんな所に居る? 皆と遊んでたんじゃないのか? それにその腰にさしている拳銃はどう見たって、タウルスモデルの480SS5M 6連発リボルバー“レイジング・ブル”じゃねぇか…」

「いや、ばれたか?」

「解らんと思ったか。」

 確りと、刻印も本物だ。見間違うはずが無い。

「で、最初の方のですが、僕も銃声聞いたんですよ。皆は気づかなかったみたいだけど。」

「ああ、お前もか。」

 まあ、そこまでは納得できる。

「で、君が飛び出してくると思って、ここで張っていたんですよ。」

「そこまでするか?」

「しかも、みんな気が付けば来ていたでしょうね。」

「は?」

 俺は、ジュンの指差した先を見る。

 思わず頭を抱えた。

「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい。」

 そこには、山のように積まれた銃器・弾薬、爆発物、バックパックの山があった。(まあ、よくカモフラージュされていたが…)

 しかも、俺が危険なために、持っていくのを断念した物まである。

あいつら、この林全部焦土に変える気か?

 いや、冗談ではなく機動兵器の2機くらい壊せそうな量だ。

 こんな量をぶちまけたらさぞ快感だろうなと別なことを考える。

 無意味に税金を無駄遣いして建てたビルや、年金を御大層に無意味な物につぎこむ奴等を思いっきりこの武器弾薬で吹き飛ばしてやりたくなってきた。

 だが、それは、瞬時に呆れに変化した…

「お前だけでよかったよ…」

 他の連中が群となって押し寄せてきたらと、思うと沈没するこの島の姿が瞼の中に浮かべられた。嫌な現実味を持って…

「まあ、僕も相当な物を持ってきていますけどね…」

「いやいや、対物用(アンチマテリアル)ライフルやら携帯用の対戦車ミサイルやら、まあ、此処まではまだマシも… どう考えてもヤバイ携帯用原子力推進式ロケットを持ってくるヨカましだ…」

「あ、最後のは、僕が…」

「お前一回死んで来い!」

 しかし、コレだけ叫んで良く他の人に感づかれないと思う。

 まあ、距離は200や300は取ってあったが…

 いや、mmでも、cmでもなくて…

「うぅ、ちょっと洒落で持ってきただけなのにさぁ。」

「洒落になってねぇ!」

 いや、何処をどうすればこれを洒落と取れるんだ。

「しかし、誰がこんな物を作ったんだ…」

「さぁて、誰でしょう。」

 自作かよ…

 そう言えば、練習の最中に解説書と格闘しながら何か作ってたが、コレをか?

「即刻カイタイ(・・・・)な。」

「買いたいんですか?」

「解体だ。」

 ボケにツッコミを返すと、俺は銃声の方向へ向かって歩き出した。

「あ、と待てって。」

 直ぐにジュンが追いかけてきた。

 

 

 

 アオイ・ジュン

 

 ガガガガガガガガガガガガガガガ

 

「随分と多くの恨みを買っている様ですね。」

「馬鹿たれ、幾ら俺でも此処まで買った覚えは無い。」

 土柱が、僕等の居る方向へ向かってくる。

 茂みに身を隠しているために、何とかやり過ごす事は出来た。

「なんで、こんな事になるんだ? それ以前に何で民間がM-16やら20mm機関砲やらを持ってるんだ?」

 ギュゴン!

 発射音。

「伏せろ!」

 ガァァァン!

「ベトナムって昔こうだったのか?」

「いやあ、もっと五月蝿いと思うけどぉ!」

 僕は、M1919 A6をフルオートで撃つ。

 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ

 小刻みに振動が伝わり弾薬のベルトがどんどん短くなって行く。

「だぁぁ! もう! 何発撃ったんだぁ!」

 軽く3ケタ程は撃っただろう。

 無論狙いなどマトモにつけては居ない。

 よく「弾を大切に使え」とか「フルオートは弾幕を張る以上の事は出来ない」とかそう言う感じのが色々と教科書に書かれていたが、この状況で弾を大切に使って弾幕を張る以上の事が出来る人間が居るならば、僕はその人相手に一生様をつけて、尽くしてやっても良いと思った。

 何発かは当たったかもしれないが、そんな事確認している暇など有りはしない。

 撃って来た方へとりあえず撃ち返す。

 姿も何も見えないのだ。

 犬河は、何度か目撃したと言っていたが…

(ああ、良かった複数の人間だ。)

 と言ったからそうだと思う…

 チィン

 M1919 A6が沈黙した。

「ああ、もう何で目標と戦う前に無くなっちまうんだよ。」

 自分で自分に愚痴を言うと僕は用済みになったM1919 A6を投げ捨てた。

「こちらとも流石に厳しいね。」

 犬河のM60の弾帯も大分短くなっている。

 拳銃の弾丸は、確実に“アイツら”に効果を挙げる物を選んで来た為に出来るなら使いたくは無い。

 しかし、コレだけ喧しくしてるんだから、「ナデシコ」から助けの一人や二人は来ても良さそうな物だけどな…

「でも、なんで襲ってきたんだ!」

「大方、アレらが暴れて死者でも出て、それが俺達だと勘違いしているって所だろう。」

「有り得そうな話ですね。」

 まあ、事実そうだったのだが…

「しかし、なんでそれが僕らに回ってこなきゃなんないんです。」

「知るかんなこと、相手だって正体分かってる訳じゃないんだろ。じゃあ、味方以外はとりあえず撃つってのは当然の反応だ。」

「当然?」

「当然。」

 犬河に即答される。

 ふと、右側からの銃声が途絶えた。

「右が沈黙したな。」

「罠かも知れないけど?」

「行くしか無いだろ!」

「タイミングは?」

 僕は、そう聞いた。この場合はタイミングが一番重要だ。

「ONE TWO THREE で行くぞ。」

「待ってくれ。」

 犬河が、神妙な表情を浮かべる。

「THREEって言った途端か? それともTHREEって言った後か?」

「今日の俺は、メル・ギブソンらしいな… その答えは簡単だ。自分で考えろ。」

 僕は、苦笑いの表情を作ったのだと思う。

「じゃあ、行くぞONE…」

 足腰に力を込める。

「TWO…」

 腰を宙に浮かせる。

「THREE!」

 身を沈めた姿勢で僕等は駆け出した。

 足元を銃弾が掠めるが、その程度の度胸ぐらい既に身についていた。

 僕は、胸元につけていた手榴弾を二個ほど鷲掴みにすると、口で安全ピンを抜き見当も付けずに投げる。

 バァン!

 鋼の破片が、黒煙と共に散らばった。

「中々派手になってきたじゃないか。」

「でも、今回の映画は、アクションじゃなくて二等兵ものだな。」

 土ぼこりを払いのけて走りながら、僕等は、そんな会話をしていた。

「で、これからの見当は?」

 僕はそう尋ねる。

 犬河は、お手上げのジェスチャーで答えた。

 そして、僕は一緒に来たことを甚だ後悔した。

 

機動戦艦ナデシコ

英雄無き世界にて…

第十六話 上

END

第十六話 中へ続く…