機動戦艦ナデシコ

英雄無き世界にて…

 

 犬河照一

 俺は、こいつ等を救う気なんて無かった…

 かといって殺す気も無かった。

 向かって来て俺を殺そうとするならば、殺すまでだ。

 どうでも良く何処かで人生を歩むとしたら、放っておくまでだ。

 俺は、向かってきたら殺す気だった。

 彼女は向かってきた。

 救う気なんて… ホントに無かった。

 俺は、一人を救うだけで手が一杯だから…

 欲を出せば、何かが零れ落ちると思ったから。

 でも、恐らくこの気持ちは、“彼女”だからだろう。

 彼女だから、俺は救いたいと思うのだろう。

 だが、俺は…

 

「ラスト…」

 俺は、見覚えの無い女の人に名前を呼ばれる。でも、この名前を知っているのは、あいつ等だけだ。つまり、あいつらの中の誰かということになる。

「えっと、どちら様でしたっけ? 自分はアナタと逢った事は無いように思えますが?」

 俺は、取り敢えずはそう言った。

 彼女は、俺に金属のプレートを差し出す。

 10 “テン”と彫られていた。

「10… “テン”か。いや、久しぶり〜、暫く見ない間に色っぽくなったじゃないか。」

 変わりまくってたから気づかなかったよ。と言う言葉を俺は飲み込む。

「って、10年振りなんだから当たり前でしょ…」

「いやあ、ファイブに頼んだ伝言でも聞いたか? まさか、偶然なんて出来過ぎてるぞ。」

「聞いてない! でも偶然でもない!」

「いやいや、久しぶりにマトモに言葉を返せる奴に会って嬉しくてな〜。」

 ふと、俺はそれに対する矛盾を感じた…

 オカシイ… 23型を投与されたのならば、凶暴化や理性の制御不能によって彼女はマトモに俺と話すことなど出来ないはずだ。

「ん? ちょっとまて? オカシイな… アレは、心を蝕む物だと聞いてたんだが… まさか… お前…」

「いや… 私は、完全適性者じゃないけど…」

「じゃあ、なんで…」

 俺は、そう問い返した。

「ああ、それは簡単。」

 俺は、聞いた後に後悔する事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「脳だけは、完全に適応しているからだよ。」

「な!」

 俺は、絶句した。

「そう、部分適性で脳の部分だけは完全適応。でも…」

 そう言って、テンは、白い手袋を外した。

 光沢を放つ鋼の手がそこに有った。

「他の部分はダメ… 手、足、腰、皮膚、爪、脳以外の筋肉、内臓、ぜ〜んぶ適応しきれずになくなっちゃった。つい最近までは、脳と眼球だけで試験管の中に居たんだよ。目こそ見えたけど、何も聞えなかったし何も感じられなかった… 生きているのに死んでいるって感じでさ、怖かった… でも、適性部分の貴重なサンプルだったからなんだろうね… 殺しはしなかったみたい。アナタがみつかって、それを死体でも良いから連れてくるために、私は体を貰った。自分達の体を動かすのが面倒だし、人を雇うにも色々と手順を踏まなきゃならないから、私にくれたみたいなんだけど… まあ、細胞じゃなくて金属の塊の物だったけどさ… それにケチって作ってあるから、コレ左程長持ちしないんだ…」

 淡々と話し続ける“テン”。

「しかし、俺を死体で連れてっても、なんか意味あるのか?」

 俺は、微妙な疑問を口にする。

「死体の中の細胞の一片でも生きていれば良いの。被験体の23細胞の投与する用の細胞が少し有れば、そこから再生できるから… まあ、尤も完全適性できたらだけど…」

「で、俺である意味は?」

「一番“可能性”が高いから。」

「何パーセント?」

(検索結果…)完全適性の可能性0,0000000000000000000005% 部分完全適性の可能性0、7% 全体不完全適性の可能性25% 部分不完全適性の可能性、残りのおよそ75%」

 何だか知らないが、悲しくなってきた。

「「「あの〜、話についていけないんだけど〜」」」

 置いてけぼりの、周りに居るジュンを含めた三人を見る。

「ついて来なくて良いよ。」

 俺は、キッパリとそう言いきった。

「しかし… それで、何で態々俺を狙うんだ? 折角逃がして貰えたんだから、ドコゾの好きな所へでも行けば良いじゃないか? まあ、残り少ない身体も大切に使えば…」

「だって、私、ラストが好きなんだもん。」

 彼女の言葉の意味が、一瞬理解できなかった。理解ができた次の瞬間には、思考が凍結した。

「「「………」」」

 周囲の三人も、呆気に取られた表情でこちらを見ている。

 俺の凍結した脳味噌は、普段の何十分の一かの明瞭さで、目の前で少し辛そうな微笑を浮かべる少女の像を写した。

「昔っから好きだったよ、ラスト。ラストが居なくなったときには、私、すっごく泣いたもん。こんな身体になっちゃったから無理だけど、“初めて”はラストにって決めてたんだから。」

「まて、まぁぁぁぁぁて! まてまてまてまてまてまてまてまて!」

 俺は、暫し思考する。

「逆に、俺とサードの果し合いを喜んで見ていた感があるのだが気のせいか?」

「ああ、それは別問題。」

 するな…

 俺は、極限までそう思う。

 でも、この状況… どうしろと言うんだ?

「犬河…」

 重そうな口を開くジュン。

「イヌガワ? なにそれ?」

「本名だ。」

 俺は、そう“テン”に返す。

「ちょっと、耳貸せ…」

「ああ、なんだ? ジュン。」

 

「どうするんだよ。」

「俺に言うな。」

「今世紀君にとっての最大のピンチだぞ、返答はいかにする気だ?」

「う〜。」

「YESならば、楽花さんはどうなる… かといってこの雰囲気でNOと言うのは自殺行為だ…」

「な、ならばどうすれば…」

 

「………はーい、ラスト君にコソコソ話をしている君ぃ?」

「ん? 何です?」

「ラクカ… って誰?」

 ジュンは地雷を踏んでしまった事に気づいた様だった。しかし聞えたのか?

 俺は、知らんぞ…

「詳しくは本人に…」

 逃げやがった。

「…………………」

「返答は?」

「ハリソン・フォード。」

「逃亡者。」

 ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!

「ふ… 逃げたか… ラスト。」

 

 

 

「だぁぁぁぁ! ジュン! お前が変なこと言うからじゃねぇか!」

「んなこと言ったってぇ!」

「お前が責任取れよ!」

「取れるモンなら取っても良いけどさ…」

 命までは確かに無駄にしたくは無いな…

 いや、嫉妬に狂った女性を敵に回すのだけは避けたかった。

「何処へ行くの?」

「「は!」」

 気が付くと“テン”が正面に立っていた。浮かべている微笑が更に怖さを強調させている。

「後ろだ!」

「応!」

 俺とジュンは踵を返す。

 また、正面に居た。微笑みもそのままに…

「ひょっとしてコレって…」

「この家から出られないって奴か?」

「誰だ、女子供は動きが鈍いと言った奴は…」

 顔が青くなるのを俺は感じた。

 どうすんだよ…

 これぞお手上げ。

 なまじ相手の意識がある分怪力馬鹿や、頑丈アホよりももっと性質が悪いな…

「ここは…」

「撃つしかないか…」

 俺は、S&Wモデル500を引き抜く。

 ジュンは、タウルスモデル480SS5M“レイジング・ブル”を引き抜く。

「あー、どういうべきかな… こんな時に下手なことを言うと相手を刺激させるだけだろ。」

 俺は、頭を掻きながらそう言う。

「そうだよな… こういう場合は…」

 何故か期待の込められた視線を俺は受けているのを感じた。だが…

「問答無用で撃つ。」

「うん、僕はそれが正解だと思う。」

 ガァン! ガァン!

 ガッ! ガッ!

 二つの銃口から放たれた二つの弾丸は、壁へと吸い込まれた。

「ノロイよ…」

「呪?」

「鈍いだろ。」

 お前が速いんだよと言いたいが、それも刺激させるだけだろう。

「…………逃げられないな…」

 俺は、ジュンにそう聞く。

「うん。」

「逃げられないと思うか?」

 俺は、再度聞く。

「ああ。」

「だとしたら、まだまだだよお前。」

「え?」

 俺は、ジュンの手を引っ張って、窓へと向かう…

 ガラスごとぶち破って、飛び降りた。ここは2階だ。人間でも飛び降りられない高さではない。

「へぇ…」

 可能性で言うなら良い逃げ方だね。とでも言うのだろう。

 頭の中に脳だけでなく計算用コンピューターでも入っているのだろうから…

 

「でも、まだ遅い。」

 

「いや、良かった良かった… 確りと、この辺りのことを調べておいて…」

「ああ、そうだな…」

「行く先は…」

「“あそこ”だな。」

 

 テン

「ヘェ… 結構な訓練が積まれている歩き方だね…」

 グリーンの視界に写る映像では、見事なほどに訓練された動きである事を証明していた。

 どこへ、向う気だろう。

 頭の中に、この辺りの地形が模索される。。

 何気に便利だと思っている物その一だ。

 向う方向には、地形的に有利な箇所は無い。細かな所までは解らないが、特に危険は無いと私は踏んだ。

 そのまま歩き出す。

 歩くと言っても、人間で言うなら走っている様な速度である。

 何気に心がそう命じているのだろう。

 壁の角を曲がって屋敷の裏に出た。

 お!

 居た。

 正確に言うなら、中に居ると言ったほうがいい。いま、完全に姿がそこへ入っていった。

 まあ、見えなくはなったが、でも居る場所は解った。

 裏にある物置のような建物。

 離れの物置である。

 慎重に近づき、ノブに手をかける。

 少しずつ物置の扉を開ける。

 内部に一歩足を踏み出した。

 ぐにゅ

「ん?」

 何かグニャグニャした物を踏みつけた。

「動きが速いのなら…」

「鈍らせるまで…」

「え?」

 ドバァァァァァx!

 上から何かが降って来る。

 視界が瞬く間に真っ白になった。

「これぞ、必殺! トリモチ作戦!!」

 いや、そんな自信満々に言われても…… でも、そんなところが好きよ、ラスト。

 しかし、トリモチ程度で動きが止められると……

「え! ウソ!! 本当に動かない!!」

「それもそのはず。そのトリモチ、超速乾性がウリらしいし。」

「なにやらここで開発されてたみたいだな。……何に使う予定だったんだ、一体?」

「ヘルメットの応急処置用とか?」

「な〜る。まあ、一応は。」

「で、どうする気だ?」

「動かせないしな…」

「え?」

「やっぱし、コレで良くか。」

 そう言って、斧を掲げる男の人。

「そうだな…」

 ラストは、チェーンソーを持ち上げる。

「動くなよ… って、動けんか。」

 ギュィィィィィィィィィィィィィィィィン!

 チェーンソーが回転を始める。

 ガン!

 バツ!

 目の前に一瞬砂嵐が走る。

「鉄にしては、柔だな…」

「ああ、そうだな。」

 ガリガリガリガリガリガリガリガリガリ

 連続して砂嵐が、巻き起こる。

 DANGERの文字が目の前で点灯する。

 キュィィィィィィィィィィン

「おお、切れた切れた。」

「早く終ったな。」

「え?」

 なるほど、両手と両足が切断されている。コレでは抵抗できない。

「で、私を犯すの?」

「婦女子がそのような淫猥な単語を使うな!」

 ラストが顔を真っ赤にして叫んだ。

「所で脊髄除去できるか?」

「はい?」

「そっちの方が、持ち運び安いからだ。」

 は? どう言う…

 私の意志とは裏腹に、正面にYESの文字が浮かぶ。

「で〜き〜る〜の〜か〜」

「出来るけど…… 殺さないの?」

「あんな告白された相手を殺せるか、ヴォケが。」

「へ?」

「それに、心に決めてはいるが、まだアイツとも完全じゃないしな。まあ俺を横取りしたかったら勝手にしろ。はい、除去除去。」

 ガコン

 除去完了。の文字が出た。

「これ、持って帰るの?」

「良いじゃん、班長さんが喜びそうだぜ。」

「まあ、そうだけどさ…」

「それに、殺すのは必ずじゃない。殺さなくて良いなら殺す必要は無い。殺さなくちゃいけないなら、殺すしか無いけどな。」

「割り切れないよ。」

「割り切れろ。」

「で、どうやって帰る?」

「歩くっきゃ無いだろ。」

「もしも、また撃たれたら?」

「そんときゃ、そん時だ。」

 大雑把に、髪を引っ掴まれて肩にかけられる。

 人間ならば、かなりの痛みをともなう持ち方だ。

 まあ、私はラストの背中に後頭部が当たって(まあ、感覚は無いけど)ちょっと嬉しいが…

「ああ、それと後一つ。」

「はい?」

「俺は、犬河照一だ。」

「は…」

「そう呼べ。」


「いや、しかし此方とら完全に忘れられている気がするのは気の所為か?」
(シークレット・サービスの男


「まあ、それは、それで良いんじゃ無いですか?」 (アクア・クリムゾン)

「どうでも良くないんだが… これからどうすりゃ良いんだよ。」

「頑張ってください。」

「いや、アンタも!」

 





 犬河照一

【何処行ってやがったんだ貴様らぁ!!】

「まて! 冷静に話し合おう! まず、そのスティンガーミサイルやらアンチマテリアルライフルやらを置いて…」

「大変だったんだぞ… 馬鹿でかいジョロが出てくるわで…」

「それだけだったような気がしますけど…」

「まあ、それはともかく…」

【お前ら二人組は何していた!】

 慎重に言葉を選びながら俺は言う。

「え〜、ま〜、色々と。」

 まず銃撃戦にやら、なんやらを…

「まあ、まあ、許してくださいよ。色々と良い女も連れてきた事ですし。」

 ジュンがテンの髪の毛を引っ掴み、前に掲げる。

「あ、ど〜もよろしく。」

 沈滞…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ぎゃぁぁぁぁぁぁ! 生首ぃぃぃっぃぃぃ! しかも喋ってるしぃぃぃぃぃ!!】

「いや、コレが普通だっつぅの。」

「ゴメン。僕が軽率すぎた。」

「“テン”泣くな。」

「泣けないけどね…」

 

 取り敢えず事情説明。(作者… 一行で済ませやがったな)

 

「ああ、なるほど…」

 皆が皆直で見てるから、もはや今更驚くほどの事ではなかった。

「で? 照一?」

「は!」

 何時の間にか楽花にバックを取られていた。

「して、“コレ”をどうする気?」

「……飼ってもいい?」

 ネコか何かのように言われたテンが、少し泣きそうな表情をした。いや、そんな表情されたら困るから。

「多数決で決めよう。挙手してください。」

 バツン!

何故かイキナリ目の前が真っ黒になる。と、思った次の瞬間。

【は〜〜〜〜〜い。】男性陣

「して、アナタ方の肯定の理由は?」

【可愛いからOK!】男性陣

 ……ダメダメだ。

「まあ、ウリバタケさん。身体の方よろしくお願いします。」

「……犬河。キレイなオネエサンとロリ〜な妹、どっちが好きだ?」

 シンキングターイム。

「……身長は俺と頭一つの差、足がキレイ(重要)でウエストは細く、胸は手の平サイズで髪の毛の色は黒、顔はどっちかと言うとクールビューティー系で、そして……」

「……同志!」×(この場に居ないゴート&プロスを除く脇役を入れた全員の男性)

 俺は、ウリバタケさんと深く分かり合えた気がした。これが真の友情と呼べる物なのだろう。ああ、ママン、人はこんなに分かり合えるんだ……(涙)

「逝け。」

「は!」

 背中にそれだけで死にそうな殺気が注がれる。

「いや、今のは冗だ…」

 メキィィィィィィィィィ!!!

「いや、俺までか!」(ウリバタケ・セイヤ)

 グシャァァァァァァ!

「「な、なんで僕らまで!」」(アカツキ×ジュン)

 ギギャァァァァァ!!

「「し、死ぬて〜!」」(ガイ×犬河)

「お主ら全員揃って一片死んで来い!!!」

「俺らもすかー!」(整備員一同)

 キラリィン………(星になった音)

 後には、何も残らなかった… 否。

 

「ゴメンナサイ。スイマセンデシタ。ユルシテクダサイ。ドウシテモホットケナカッタンデス。」(復活してきた犬河)

「で、結局どっちにするわけ?」

「………回答保留。」

 ドコォォォォォォォン!!!

「列車砲で撃つなんて酷いだろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 キラリィン…

 

 さて、これからどうなる事やら…

 

「いっその事今此処でスクラップにした方が…」(ミスマル・ユリカ)

「いや、見てて面白いから良いでしょ。」(ハルカ・ミナト)

「ちょっと! スパナとってスパナ!」(ムネタケ・サダアキ)

「提督さん。真面目にやってたんですね。」(メグミ・レイナード)

「こっちも! ドライバー!」(エリナ・キンジョウ・ウォン)

「副操舵士さんも…」(メグミ・レイナード)

「やれやれだわ…… なんちゃって。」(ホシノ・ルリ)

 

 

機動戦艦ナデシコ

英雄無き世界にて…

第十六話 下

END

第十七話へ続く…

 

あとがき

「……回答は、しっかりしておいた方がいいと思うのだが。」

「兄者の趣味に従って書いたんだ。彼女の安否は、読者の皆さんの反応を見てからでもいいだろう? 殺せと言われたら、完全に書き直してやるがな(怒)」

「外道が。」

「貴様に言えたことか。」

「何のことだ?」

「しらばっくれるのなら、俺が兄者の秘密をバラすぞ。」

「何!?」

「例えば、アキヒトが本当はガンカタを使って戦う予定だったとか、アキヒト×北斗の予定だったけど、北ちゃんはありきたりだったから止めたとか、アキヒトの師匠が本当は北辰だったとか、ホシノさんは完全な思いつきの産物だったとか、ハーリーは最初のプロットでは影も形も無かったとか、ホシノさんはずっと死んでいる予定だったとか、実は何も考えていなかったとか、次回の投稿も遅れそうだとか、結構色々と胸に突き刺さるような“お言葉”が最近多くてヘコんでいるとか、テストがヤバイとか、テストがヤバイとか、READと物理Uがヤバイとか何とか……」

「………俺だって、北斗が好きなんだ。男らしい北斗が。」

「じゃあ、書けよ。」

「何?」

「書いてみせろよ、兄者が理想とする北斗をさ。」

「……」

「書けばいいだろ。そして認めさせればいいじゃないか。それがSS書きって人種じゃないのか、兄者!」

「……弟者。」

「CROSS〜の続きが遅れようが、アイビスヒロイン計画が遅れようが、通知表が真っ赤だろうが、浪人してロクデナシの一生を送ろうが、兄者の信じる道を行けよ!!」

「後半はいただけないが、俺は今、猛烈に感動しているぞ、弟者ぁ!!」

「解ってもらえたか、兄者。」

「SS書くためにせっかくのデートの誘いを断ったり、翌日会ってちょっぴり気まずい思いをしたり、テストを思いっきり無視したり、そういうことをして書いたものが駄作だったときに、とても切ない思いをする。……そういった感じの感動が、俺を包み込んでいるぅ!!」

「……意味が解らん。」

「じゃあ、高速でCROSS〜をあげて、余った時間で北斗計画を発動、これで決まりだな。」

「出来るのか、兄者。」

「二日じゃ無理。」

「……」

「ちなみに、中身を期待してはいけません。」

「………」

「北斗の方も、原作の北斗像から乖離する確率が大。」

「…………」

「そして、お前に相談がある。」

「……何?」

「CROSS〜から、ナデシコの看板を外した方がいいと思うか?」

 俺は、兄者の問いに答えられなかった。

 西日が俺たち二人を、まるで慰めるかのように包んでいた。

 

 

代理人の感想

テンはいい味出してたかなー。

相変わらず破天荒ですが、これ以上に突き抜けるならそれはそれで。