Generation of Jovian〜木連独立戦争記〜

●ACT2〔再出発〕

 超新星編「紅い絆」

「月艦隊が……」

 それは予想だにしない敗北でした。
 次元跳躍門を超えて突如出現した連合の船“撫子”。
 四度目の月攻略の為、跳躍門の全面に展開していた我が軍は撫子の重力波砲を受け戦力の二割を喪失。
 特に、敵艦隊を人型戦闘機で掃討していた若い艦長らが、その犠牲となりました。
 不幸中の幸いにも、残された新米乗員――彼らの殆どが人造人間でした――は素早く体勢を立て直し、後退した事で被害は最小限に抑えられました。
 例の手紙の件もあり、慕っていた上官が殺られた場合人造人間がパニックもしくは自棄を起こさないか不安でしたが、どうやらその心配は無かったようです。

 と言うよりも、乗員をほったらかしにした挙句、功を焦って艦から遠く離れてもなお戦い続けるような迂闊者には、言うほど人望は無かった様で……若すぎるというのは少し問題だったようです。

 現在、撤退してきた艦隊は火星軌道に集結しており、戦力の建て直しが進められています。
 撃破された機動兵器は殆どが無人。
 ですが……矢張り多少の犠牲は出てしまいました。
 ……状況確認の為に私は火星まで飛びましたが、そこで待っていたのは、涙ながらに面会に来る士官らの列でした。

 そう、彼らは他でもない、私に手紙をよこして来た士官達です。
 土下座したり寺に入ると言い出したり……中には短銃自殺を図ろうとして慌てて止められた人も居るぐらい。 
 ですがね、私達はこの何倍もの悲劇を生み出しているんです。
 自分らだけが悲劇の主人公であると勘違いしてもらっては……困ります。
 私だって悲しいです。
 ですが、このまま悲観するばかりでは更に悲しみが増えるばかりなのですから。


「博士、また、面会の方が……」
「いい加減仕事したいんですがねぇ……ですが、無下に扱う事はできません。残された彼らが一番辛いでしょうし」
 そう言ってイツキに入ってもらうよう指示しました。
 これで本日の来訪者は二桁行きましたね……。
 執務室に入ってきたのは大柄な男。しかも私の良く知る人物でした。

「秋山君!」

 秋山源八郎。他でもない、イツキの弟であるミカヅチを預けた人物です。ゲキガンで言えば大地アキラに似ています。
 但し見た目だけです。
 冷静沈着かつ剛毅な人物で、血気盛んな優人部隊において数少ない、安心して物事を任せられる好人物でした。
 それが今や、右腕を白布で吊り、顔からは遺恨の念が痛々しいまでに伝わって来ます。 
 後でイツキが息を飲んでいます。

 まさかとは思いますが……私も、覚悟を決めておきましょう。

「我が艦は跳躍門からの奇襲を受け、乗員の多くを負傷させてしまいました……そんな状態で、自分が一瞬目を放した隙に……」
「ミカヅチが飛び出した……と言う訳ですね」

 イツキが悟った様な表情で呟きます。
 秋山君の戦艦かんなづきは人造人間の配置が間に合わず、月攻略戦においては一人も配置されていませんでした。
 只一人、名義上では人造人間と登録されていない、ミカヅチ=カザマを除いて。

「……その後戦場のど真ん中で救助活動を行ない、撫子からの迎撃部隊を抑えるべく特攻。行方不明となりました……全ての責任は自分の未熟故!! 申し訳ありません!!」

 何度も見た平謝りの光景。
 ですが、身近な人が死んだというのは……矢張りこう来るものがあります。
 更に追い討ちをかけたのは秋山君の次の言葉。

「……後、イツキ君に伝えておきたい事がある。ミカヅチと共に特攻したテツジンがあったが……そいつは、駆逐艦すばるのものだった」
「!!」
「すばるそのものは火星軌道上に帰還しているが……艦長は……」

 それを聞いた途端、イツキは糸が切れた様にその場に倒れ伏してしまいました。

「イツキ!!」

 私と秋山君が大急ぎでイツキを抱き起こします。
 矢張り、弟と親友を同時に無くしたのは……辛かったんでしょう。

 そうかぁ、ウツキは殺られてしまいましたか……残念です。



「この責任どう取るつもり……貴重な人材が多数失われたのよ!!」

 木星に戻った私を待っていたのは、舞歌さんを始めとした穏健派の非難の嵐。
 半ば予想していた事でしたが頭が痛いですね……犠牲無しでは勝利は得られないと言うのに。
 かといって戦争そのものを起こしていなければ緩やかな滅びが待っていたでしょう。
 どのみち生きていくには私達の存在を地球人類に示し、出来る限りこちらの有利な条件で停戦に持ち込むしかありません。
 そして今の段階では……叶わぬ夢でしょうねぇ。

「だが勝負に負けたが試合には勝ったのだ。今回の作戦によりほぼ完全に月の制宙権を得ることに成功し、月機動艦隊へ与えた損害は多大なものだ……あれでは再建には半年以上かかるだろうな」

 草壁閣下が私を擁護するように言葉を発しますが、今の舞歌さんの怒りを静めるには……。

「……この貴重な半年、生かさぬ訳には行きますまい」

 そこに、今まで黙っていた南雲君が静かに意見しました。

「閣下。早急に部隊の再編成を急ぎ、何らかの行動を起こすべきです! 連合の優位が崩れつつある今が絶好の機会!!」
「これ以上傷を広げるつもりなの貴方は!!」
「ならば月で散った同胞達の死は無駄だったとでも言うのか?!」

 どちらの言い分も正しいといえば正しい。
 ですが私は南雲君を支持したいですね。
 戦争が不可避なら均衡を破り、一瞬の隙をつき決着をつけねばなりません。
 その答えが木連優人艦隊であり……撫子と漆黒の機体なのです。
 そして我々にはもう一つ……。

「では……こういうのはどうでしょう?」

 思わぬ追い風が吹いたこのチャンスを生かさぬ訳にはいきません……こうなった以上、私も私の戦いへと赴かなければならないようです。
 多くの人造人間の犠牲を。
 若き優人部隊の命を。
 そしてミカヅチの英断を無駄にしない為にも……私も、闘いましょう。

「“快速反応艦隊”の再編制を提案します」


「快速反応艦隊だと……“石蒜”を動かすというのか?!」
「はい。現状で撫子とぶつかって勝利する可能性があるのはあの船だけです」

 複雑な目線をこちらに向ける草壁中将閣下。
 他の人も軒並み同じでした。  
 快速反応艦隊……。
 それは、木連創立初期に計画された軍事プランの一つ。
 次元跳躍門を介さずに、外宇宙航行能力を有した艦隊で地球を強襲。
 混乱の隙をつき次元跳躍門を降下させ、電撃的な攻勢を行う為の中核となる艦隊でしたが……無人兵器そのものの運用法が確立されていない上に、国内の情勢がまだ不安定だった為に却下されました。
 石蒜級はその旗艦となる船の名前です。
 石蒜級は数隻が完成した所で快速反応艦隊構想そのものが消滅し、今では殆どがコロニーの材料となっています。
 ですが最後の一隻……石蒜級第一番艦「石蒜」のみは未だ健在なのです。

「噂だけだと思っていたけど……実在していたのね」
「うむ。我ら木連の正義の象徴とも言える船だ……だが問題も多い。一つ、艦の規模故跳躍門は使用出来ない。二つ、一千メートルもの巨体を制御するにはかなりの人員が必要だ。それ以外の点では火力・防御力共に優れているが動かなければな……」

 口惜しそうに溜息をつく草壁中将閣下。
 閣下も石蒜を本土決戦用の移動要塞として意識していたようです。

「しかし博士の事だ……こんな事もあろうかと、と対策を練っているのであろう?」
「ははは……大分私のやり方に慣れたみたいで。では一から解決していきましょうか。まず跳躍門を使用出来ないデメリットについてですが……こんな事もあろうかと、“エグゾゼドライブ”を使用可能にしました」

「何?!」

 閣下が驚くのも無理はありません。
 エグゾゼドライブは、遺跡に僅かに残っていたオリジナル相転移エンジンのみ使用できる外宇宙用ドライブシステムです。
 その出力は従来型の相転移炉や核パルスエンジンの比ではなく、本来何ヶ月もかかるような航路を3日で進んでしまうほどです。
 我々木連は殆ど相転移エンジンの事を理解しているつもりなのですが……どう言う訳かエグゾゼドライブだけはオリジナルしか使用できません。
 草壁中将閣下に期待させて悪いのですが……この点だけはクリアできませんでした。

「いえ……石蒜のような余裕のある設計がしてある大型艦だからこそ搭載できた訳で……残念ながら現行の相転移炉でエグゾゼドライブが使用できるようになる訳では……」
「そ、そうか。だがこれで跳躍門の件はクリアできた訳だ」
「はい。エグゾゼドライブをもってすれば地球圏まで一週間もあれば……追随させる無人艦隊には強化型の相転移炉を搭載させます。人が乗らないので安全性を度外視した加速が可能になりますよ……さて」

 私は一旦話を切ると、懐を探り始めました。

「……超博士?」
「閣下……私の我侭をお許しください」
 そう言って差し出したのは……辞表です

「……あの船を制御するには多くの人材を利用するか完全自動化するかの二つしかありません。ですが、これ以上人員を割く事は難しいでしょう……取るべき道は後者しかありません。私の研究所のスーパーコンピュータ“T-260G”を石蒜に移植させましょう。こうすれば極少数……極端に言えばたった一人で運用が可能です。そしてT-260Gを自在に操れるのは……私しかいないと言う事です」

「博士!!」

 バン! と机を叩いて南雲君が立ち上がります。
「貴方は自身の立場の重要さを解っているのですか?! 今の木連の技術発展は貴方あってこそ! 戦艦一隻動かす人員を惜しんで貴方を失う事は木連全体の損失です!!」
 さらりととんでもない事いいますね南雲君……。
 それじゃ私を行かすぐらいなら、戦艦に乗るであろう多くの人員が死んだ方がマシという事では?
 ほら、舞歌さんが眉を吊り上げてますよもう……。
「南雲君。科学者が非論理的な行動を起こすと思いますか? 心配しなくても死ぬ気はありませんよ……例の計画は私抜きでも進みますし」
「そういう問題では無いでしょう!」

 興奮気味の南雲君はひとまず置いといて、私は草壁中将閣下に決断を迫ります。

「私は文字通り全てを賭けて挑みたいと思います……木連全ての人民の為、閣下の正義の実現する為に」

 背筋を伸ばし、私は草壁中将閣下に真摯な目線を送ります。
 只の科学者ですが、私にも戦争を止めさせる力がある筈なのです。
 だから……一刻も早く、慙愧と憎悪が渦巻くこの時間を終わらせたい。

「……よかろう。科学者の理屈で敵が退く事を証明してみせろ。しばらくこれは預かっておく」

 草壁中将閣下は私の辞表を、制服の中に仕舞い込みました。



 草壁中将閣下の決断により、正式に快速反応艦隊は復活する事となりました。
 作戦失敗の責を私に向けようとしていた連中も、これには黙るしかありませんでした。
 はたから見れば死んで来いと言っているようなものですからね。
 ……さて現在私は研究所のT-260Gの移植作業に没頭しております。
 T-260Gは全体の制御を目的としたメインフレームを中心に、一つの目的に特化したサブフレームを多数結合して構成されています。
 計算ならば演算フレーム「タケオ」、同一目標の行動記録なら監視フレーム「タシロ」といった風に分担させる事で、全体の作業効率を高めているのです。
 その中で艦隊戦や機動戦闘で役立ちそうなサブフレームをメインフレームごと積み込むつもりです。
 超科学研究所では遺跡の兵器の性能テストも行っていましたから、そういう類のプログラムも構築していたんです。

「いやー君も大変だね、態々戦場に送り出されるなんて」

 作業を急いでいると、何処と無く嬉しそうに山崎が語りかけています。     
 どうやら傷は癒えたようですね……。

「誰かさんのように遊んでばかりはいられませんからね。何の用でしょうか」

 あれだけ痛めつけただけあって、山崎は滅多な事じゃ私を訪ねません。元々交流も少なかったですけど。
 しかしこの明らかに自信ありげな表情。何かを企んでいますね……。
「いやいや、君に触発されて色んな人が本気を出し始めたからさ……僕も負けちゃいられないって事だよ」
 とっても嫌な予感はしましたが、折角なのでその“本気”とやらを見せてもらう事になりました。


 私が案内されたのはどこぞの倉庫。
 ですが内部は何と戦艦の外壁で覆われ、四方のうち一方だけ鉄格子で覆われています。
 便所や炊事用の設備もありますが……これは座敷牢?!
 そしてその真ん中で一心不乱に腕立て……いや指立てですねこれは……をする人影が。
 運動には邪魔なのに何故か長い赤毛をしていて、そこから見え隠れする目は……何かこう獣の様な鋭さがあります。
 スレンダーながらもその肉は恐ろしい柔軟性を誇り、力を込めればたちまち鋼鉄のようになるでしょう。
 傍目は美少年といった感じですが……良く見れば胸元がふくよかです。女の子だったんですか……。

「……何です? これは」
「んとね、僕の最高傑作」
 あっさり言う山崎に私は拳を握り締めます。
「僕が力の限りを尽くして造り上げた最高の殺人マシーン“枝織”ちゃんさ。ちょっとした事情で彼女人格が崩壊してね、廃人になりたけた所を処置して一命を取り留めたんだ」
「なりかけたではなくて“なるのを待っていた”のでは?」
「あら鋭い。ひょっとして心が読めるのかな?」
「……貴方の考えなど簡単に予測可能ですよ」

 自覚が“ある”というのは物凄く性質が悪い……マッドドクターの異名は伊達じゃありませんね。

「ちなみに彼女を作ったのは僕と舞歌さんだよ」
「舞歌さんが?!」

 あの舞歌さんがこんな外道と組む事などありえないと思っていたのですが……どういう事でしょう?

「元々彼女“男”としての人格を持っていたんだけど身体は女の子でね、時間が経つにつれてそのギャップに耐えられなくなって……そこでもう一つの人格“枝織”を作ったんだ。。純朴で、父親に言われた事は素直に聞く可愛い女の子としての人格をね」
「成る程……放って置いたら彼女が死ぬ事を見越して、舞歌さんに協力を仰いだ訳ですか」
「うん。ただ一つの人格に統合しようとしたんだけど二重人格みたいな状況になっててね、このままじゃ先は永く無いかなとハハハ……ねえ、何で腕をボキボキ鳴らしているかな君は?」
「おだまりなさい。今度は駅の名前しか言えない様にしてあげますよ」

 私にこんな物を見せるとはこいつもいい度胸です。
 ボコられる事を解って挑発しているのでしょうか?


 私達には目もくれず鍛錬を続ける彼女を放って、山崎を引きずって外に出たまではよかったです。
 ですが……。

「その辺にしておけ」

 ……何でよりにもよってコイツがいるんですか。

「ややや、助かったよ北辰さん」
「貴様も貴様だ。挑発するな」

 ……北辰。
 キングオブ外道の名に相応しい、木連最強の暗殺者です。
 木連式柔の達人でもあり、格闘戦において右に出るものはいないでしょう。
 暫く見ないと思ったら……。

「こやつにはまだ用があるのでな、これ以上入院させられては困る……こちらの用が済んだら煮るなり焼くなりすればいいが」
「ええ?!」

 山崎がなにやら抗議の声を上げていますが、私達は無視です。
 と言うより、馬鹿の戯言を聞いている余裕がある雰囲気じゃなかったですから。

「アレを見たな」
「……枝織ちゃんの事ですか? 貴方にそういう趣味があったとは意外でしたね」
「何を勘違いしている……あれは我が愚息だ」

「冗談は顔だけにして下さい」

 一瞬耳を疑いましたが、この男が笑えないジョークを飛ばす筈がありません。
 こんな鬼畜が親だなんて、人格歪んでも仕方が無いですね。
 というよりよく生きてましたね……。

「久方ぶりの親子の再会という訳ですか……座敷牢に閉じ込めて鍛錬を続けさせるなんて全く……」

「……あれは我の手に負えん」
「何ですって?」

 笠に隠れて表情は見えませんが、何時もの様に笑みを浮かべてはいない事は確かです。
 この男が……警戒している?

「我を遥かに超える素質をあ奴は、“北斗”は持っておる……」

 そういって北辰は顔を上げる。
 ……左目が義眼? まさかそれを北斗君がやったとでも?!
 だから逆らわないように枝織ちゃんを作り上げる必要があったのですか……。

「……木連にも私の知らない領域がまだまだあるという訳ですね。しかし……まさか貴方とここまで長い間会話をする羽目になるとは」

 正直会った途端死を覚悟したぐらいですからねぇ。
 これほど口数が多いとは……。

「何、我もゲキガンガーは好きだからな」
「……は?!」

 一瞬完全にフリーズしてしまった脳細胞を、私は必死の思いで解凍しました。
 そして思い当たる事と言えば……。

「プレアデス計画ですか……?」
「然り」
 つまり山崎を連れ戻すのはついでで、私と接触するのが本命だったと。
「……はいはい、先行試作機は貴方達に供給しますよ」
「うむ」
 全く、何か変だと思ったら例の計画目当てですか。
 南雲君といい北辰といい、本当頭の中がゲキガンガー一色ですね……。



「お前に言っておきたい事がある」

 こう言われて私は草壁中将閣下に呼び出しを喰らいました。
 T−260Gの調整がまだ終わっていないというのに……。
 確かに宇宙での戦果は上々でしたが、今度は地上の方がヤバイ事になっています。
 月軌道で交戦した撫子は現在は地球に降下。
 北極海に向かった所で戦力を差し向けたはよかったんですが……全機撃破されました。
 しかも大半はあの漆黒の機体の戦果です。        
 戦艦八隻……無人兵器は六百も落されてしまいました。
 今度はクルスク工業地帯に現れた所を大型砲台ナナフシと、現地の生産機能を乗っ取って建造した戦車二万台で挑みました。
 ナナフシのマイクロブラックホール砲は見事撫子を直撃。動かなくなった所で戦車で全方位から攻撃し、次弾発射までの時間を稼ぐ算段でしたが……やっぱり漆黒の機体がやってくれました。
 包囲網を新型の重力波兵器で突破し、慌てて自爆覚悟でブラックホール弾を緊急精製しましたが遅すぎました。
 結果、クルスクの制空権を確保していたナナフシは撃破。戦車も一機残らず破壊されてしまいました……。
 これは敵の技術レベルどうこうとかいう問題ではなくなって来ましたね……撫子が、特にあの漆黒の機体だけ桁外れの力を持っているという事です。

「神か悪魔かはたまた鬼か。どちらにしても苦しい戦いになりそうですね……」

 そんな事を考えながら、私は草壁中将閣下の執務室に辿り着きました。 
「よく来たな」
 質素な部屋の中央の机で、閣下は待っていました。
 相変わらず飾り気の無いお方です。
「はあ、一体何事でしょうか?」
「うむ、お前を死地に送らずに済むかもしれないのでな」
 ……それは一体どういう事でしょうか?
 まさか、閣下も山崎と同じ様に“切り札”を?
 閣下の自身満々の表情からすると……図星のようです。


「火星極冠において新たな“都市”が見つかった。今までのものとは比べ物に成らない程の規模の……」
「ほう」
「しかもこの都市は只の廃墟ではない。次元跳躍門を使用した瞬間や次元跳躍を行った時に、活発化していた」

「……まさか、次元跳躍の演算システム?!」

 これは驚きです。
 もしこの遺跡を解明する事ができれば我々は無制限に跳躍を行う事が可能になるかもしれません。
 好きな時に好きな場所に。やろうと思えば敵中枢部に瞬時に殴りこむ事だって出来ます。
 そして遺跡から得られる技術は木連の技術力をより高める事ができるでしょう。そうなれば……技術面の不利は一気に打開できます。

「これさえ解析できればこちらのものだ……もう各戦線で無人兵器による攪乱も行わずに済むし、クリムゾンなどと手を組む必要も無くなる……我々の正義を、我々だけの手で証明する事が」
「ちょ、ちょっと待って下さい閣下……もし私にその遺跡の解析をやれというのであれば……どのみち死ななければなりません」
「何?」
「これはあくまで推測なんですが……地球側はとうに極冠遺跡の事を知っているのではないでしょうか?」

「!!」

 私の指摘に閣下は固まってしまいました。

「どうも変だと思っていたんです。あの撫子は一体何の為に火星に送り込まれてきたのか……火星の生き残りなら自分達が見捨てた以上残っていないのは明らか。だとすれば……火星に残された研究成果を回収しにいったと見るのが妥当ではないでしょうか」
「何だと……では今行っている攪乱作戦は全て無意味だというのか?!」
「いえ、恐らく大半の勢力が火星の重要性には気付いていません……ですが、思い出してください。あの撫子、元々どういった経歴で火星に来たかを」

 そう、あの撫子は今でこそ軍の元に下っていますが、厳密に言えばあれは軍艦ではありません。
 一民間企業が建造した、一つの事業のようなもの……。

「ネルガル……」
「その通りです。ネルガル重工はかなり以前から火星の開発に執心でした。それもこれも古代遺跡の技術を独占する為でしょう。来るべき大航海時代で利益を上げる為のね」
「それで撫子のような艦が地球人にも作れたのか……」
「現在では連合全ての艦に遺跡関係の兵器が搭載されています。その内撫子を超える性能を持つ船が登場するのも時間の問題です……今から普通の手法で研究を開始しても、役に立つ結果を出す前に戦争は終わってしまいます。山崎辺りに頼んで不眠不休で働ける薬でも使えば話は別ですが……二十四時間闘えますか、って」
「無理に決まっているだろうそんな事……」
「今すぐ戦況を引っくり返せるかどうかは……微妙でしょう。某第三帝国のように折角の研究が横取りされたりしたらそれこそ笑えませんし」

 思いっきり落胆した表情を見せる閣下。
 可哀想ではあるのですが、このまま変な方向に突っ走るよりかはマシでしょう。



「それはともかく、気になる事を言っておられましたね……」 
「何だ」
「“クリムゾン”ですよ。クリムゾンとはあのクリムゾングループの事ですか?」
「うむ。密約ではあるがな……我々は同盟を結んでいる」

 クリムゾンは豪州を拠点とする巨大コンツェルンで、特にバリア兵器のメーカーとしては最大手です。
 特に地球軌道上を覆っている“ビックバリア”は強力無比で、あれが張られてからと言うもの次元跳躍門の大気圏突破率がガタ落ちしてしまいました。
 運良く突破したとしても損傷が激しくとても使える状態ではありませんでした。
 アレが起動して以降降下した次元跳躍門は、全て活動休止中です。
 そうか……クリムゾンと我々木連はいつの間にか手を組んでいましたか。

 これは初耳でした。ですが、使えますね。

「閣下、クリムゾンとのパイプはどの程度のものなのですか?」
「……また何か企んでいるなお前?」
「ええ企んでますよ。ちょっとお耳を拝借」

 ざっと概要だけを閣下に伝えると、閣下はしきりに首を振っていました。
 勿論、縦に。

「面白い案だな……」
「でしょう? 死の商人と名乗るぐらいです。グループの利益の為なら豪州ぐらい売り渡してくれるんじゃありませんか?」
「……連中とコンタクトを取ってみよう。その間にお前は地球の現状をよく把握しておけ」

 互いに不敵な笑みを浮かべ、私は執務室を後にしました。
 さあてこれからが大変ですよ。
 快速反応艦隊の編成。そして、“豪州占領計画”草案を作成しないと……。 

 

 

 

代理人の感想

本気でゲキガン頭か北辰っ!?(爆)

 

「我もゲキガンガーは好きだ」というあの台詞、知ってる人は知ってるが知らない人は知らないだろう、

「スパロボR」に出てくる北辰の台詞ですが・・・・・・・この作品のそれは本気で言ってますね、どう見ても(汗)。

ゲキガン好きな北辰・・・・・う〜む(汗)。

 

それとチョイと気になったんですが、超博士って生粋の木連出身でしょうか?

「コンピューター」「エンジン」等々、なんとはなしに横文字の使用が多かったり、

考え方が他の木連人とは一線を画していたり、どーも怪しいなと(笑)。

 

それにしても「ビッグバリア」って、結構役に立ってたのね(爆)。