Generation of Jovian〜木連独立戦争記〜
●ACT3〔戦神現る、そして……〕
超新星編「発進、未完の最強戦艦」


 その物体は、晴れた空から唐突に現れた……。

『アンノウンは上空九千メートル地点に出現、なおも降下中……なっ、また出てきやがった!』
『ミサイル攻撃は有効のようだが、この数ではカバーし切れない!』
『第一〜第三防衛ラインは何をやっていた! これだけの質量の物体、察知出来ない訳が……』
『駄目だ……落ちる!』

 開戦より早半年。
 未だかつて本格的な“木星蜥蜴”の侵攻を受け付けていなかった豪州に、謎の物体が舞い降りようとしています。
 周囲に溶け込むような蒼の鉄板が、己が重量に任せ只空を突き進む。
 下からはミサイルが尾を引きぶつかりますが、大抵は欠ける程度で砕くには至りません。
 結局……奮闘虚しく紅い大地に突き刺さっていく鉄板。
 その光景はその地に住む全ての人々と、陸海空に潜んでいた紅い瞳の虫達の目に焼きついていた事でしょう……。

「これが、豪州攻略作戦の第一段階です」
 虫型からの映像を受けて、薄暗い劇場にはざわめきが巻き起こります。
 先日石蒜の実戦艤装が完了し、火星軌道に強化型無人戦艦の配備も終了しつつあります。
 何故強化型が火星に配置されているのかと言うと、石蒜の航行速度が余りにも高速なので同じ位置から出発したのでは間違いなく追い抜いてしまう為です。

 ま、一隻でもやれない事は無いですがそれは作戦とは言いませんし……。

 軍上層部には既に作戦概要は完璧に伝達されており、即作戦決行が可能な状態でしたが……私はそれは避けました。
 何せこの作戦、下手をすればまた優人部隊の貴重な人員を失う事になりかねない危険な勝負です。
 幾ら士官らが絶対的な忠誠を誓っているとしても、今から行う作戦について何も知らないと言うのは酷でしょう。
 ですから、戦意高揚の意味もかねて、この“モノリス”落着の瞬間を皆に公開したのです。
「今の映像で落下した物体は“鉄板”と呼ばれるもので、従来の次元跳躍門の殆どの機能を削った廉価版です。打ち込んだが最後、後は自力では動けませんし防衛用の触手もありません」
 静止画像でモノリスを表示した私は、席に向かって解説を続けます。

 今回は白衣ではなくなぜか法被姿。
 イツキは似合っていると言ってくれましたが……ワンポイント解説にしてはちょっと、という所です。

「それでは地球側に撤去される恐れがあるのでは?」
 座布団の上であぐらをかいたまま南雲君に、スポットライトが当てられます。
 劇場と言っても座席があるのではなく、床の上に座布団を敷いて各自それに座っているという状態。
 狭いですけどこれの方が声は届きやすいですね。
「そうさせないために大量に打ち込んだのです。できればこれが新型跳躍門である事はギリギリまで悟られたくないので、作戦開始直前までこの鉄板を門として使用する事は禁じます。代わりに今まで休眠状態にあった次元跳躍門を多少の無理は覚悟で全機再起動。その半数を各地で陽動に使うと共に、残りの半数を海底ルートを使い豪州近海に移動させます」
 別のウインドウを表示してその概要を詳しく説明していくと、会場のあちこちでふんふんと頷く黒山が。
「作戦の大まかな流れはこうです。まず石蒜を旗艦とした快速反応艦隊を通常航行で月軌道まで進行させ、そこで月機動艦隊と再戦します。あの損害からはそれほど時間は経っておらず、抵抗もそれ程では無いでしょう。ですが、これはあくまで陽動です。敵の注意が月に向いた所で潜伏させていた次元跳躍門を浮上させ、そこから陽動の為に無人兵器を排出します。当然オセアニア方面軍はこれを迎撃しに出撃するでしょう。そして戦力が分散された所を狙って鉄板を使い、鉄板から出撃した部隊により背後から挟撃。そのまま返し刀でオセアニア方面軍司令部が存在する“トリントン”を攻略します……何か意見は?」

「話の骨折るようで悪いんだけど……さっきの鉄板、どうやって地球に送り込んだの?」

 ザッと視線とライトが後の方にいる舞歌さんに集中します。
 “一番つまらん質問を……”というオーラがムンムン湧いてきているのですが……そんなものに怯む舞歌さんではありません。 流石です。

「ふむ、良い質問です。それにはまず粒子跳躍理論について……」

「超博士が“凄い科学”で実現したに決まっている! 一々疑問を持つ事でもあるまい」

 うわ、極論が出た。
 南雲君ストレート過ぎます……まあ難解なのでこの場にいる人等に説明しても三分の一が眠りこけてしまうでしょうし、これでよかったのかも。

「ま、まあどうしてもと言うのなら後で個人的にお話します。それでよろしいですか?」
「いいわ。どうせ専門的な事でしょうから、言っても判らない人が多いでしょうし」
 あ、言われてしまった。
「それは我々に対する侮辱ですかな?!」
「やめないかシンジョウ!!」

 うーん、ここ最近舞歌さん風当たりキツイなぁ。
 火星会戦に続く二度目の大規模攻撃ですからね、こちらも、相手側も被害が大きくなると踏んでの事でしょう。
 その判断は極めて正常です。ですが……草壁中将閣下を始めとした多くの将兵は目先の戦に興奮しています。
 もう目が眩むどころじゃ無いでしょうね。

 ……おや、そういえばシンジョウ君を止めているのは南雲君ですか?
 前まで熱血一色だったのに……何があったのでしょう?  


「あのような事を経験すれば誰だって人が変わります」 
 上映会が終了した後、南雲君に訊ねるとこんな返答が帰ってきました。
「山崎ラボでの一件ですね……」
「はい」
 あそこで山崎が行っていた所業は正に悪夢と言っていいものでした。 
 時間が経過するにつれてその全容が明らかになるにつれて、私はあの時始末しておかなかったのを本気で後悔し始めているぐらいです。
 そこまで強烈な殺意は抱いていないものの、南雲君も激しい憤りを覚えているようで。
「実験室に飛び込んだ時……自分の目に映ったのは年端もいかない幼児らでした。培養槽の中からこちらを眺め、必死に何かを訴えようとして……その身体が崩れていったのです」
「それは恐らく人造人間の試作品……細胞構成が完璧じゃなく、不安定だったんでしょね」
「……手を伸ばす暇もありませんでした。自分は、あんなおぞましい行為を、知らず知らずのうちに認めていただなんて……」
「科学の暗部とはそういうものです。国分寺博士のように、常に正しく正確に技術を使えるならどれだけ素晴らしいか。でもそういう訳にもいかないんですよね……」

「自分が情けない……何の意味も無く死んでいった彼らの事を思うと、本当に我々のやっている行為は正しい事なのかと……」

 あららかなりの重傷ですね。
 物事には必ず裏がある事を、今の世代は余り理解していません。
 ここでの教えでは世の中には二つの物しか存在しない……それ即ち“正義と悪”だと。
 之ほど単純な理屈はありません。
 そしてこれほど恐ろしい考えも……。

「ならば、貴方にできる事は只一つ。その生き様をしっかりと胸に刻み込んでおきなさい」
「生き様? 彼らは培養槽から出る事無く一生を終えたのですよ?! それの何処が生き様なので……」
「彼らは貴方を見つめ、何かを伝えようとした……それがそうです。あの瞬間、彼らは実験体としてではなく、一個の独立した意志を持つ存在として必死に自己存在をアピールした。貴方には一瞬でも、それは彼らにとっては全てだったのです……貴方は彼らを“実験体”としてではなく“人”として知る唯一の人間なのです。その事を理解し、彼らの犠牲を無にせぬ様、頑張りなさい」

 犠牲と言えば、優人部隊の若者はどうも現実というものを良く見ていないような気がします。
 何かと言えば精神論を振りかざす上層部にも問題がありますが、それを全て真に受けてしまうってのも、ねえ?
 思想統制とは恐ろしい……。
 そんな彼らの寝ぼけ眼を覚醒させる為、私は色々と“生の現実”というものを突きつけて来ました。
 戦争というものは熱血だけで勝利出来るほど甘ったるいものではありませんからね。
 そして今回もまた、生の現実を彼らに示しました。

「博士、これが地球から送られてきた跳躍実験機ですか……」 
「地球人め、いよいよ次元跳躍の実用段階に入ったか……」

 私は白鳥君と月臣君、それに高杉君を呼び出し、つい今しがた回収した地球の跳躍実験機を公開しました。
 ちなみに秋山君は火星軌道上で快速反応艦隊の編成を手伝っているので留守です。
 出現した場所がよりにもよって木星重力の影響下だったので、実体化した途端圧壊してましたが、どうにかコクピットだけは無事でした。

「邪悪な地球人がどんな面構えか見ておくのもまた一興だな」
「うむ、きっとどうしょうもない程歪んだ醜い姿に違いない」
「あ、あの、ちょっと……」

 高杉君が止める間も無く、二人ははしごを伝ってスクラップ状態の実験機に飛び移ります。
 私はそれに答えるべく遠隔操作でハッチを開放し……。

『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!』
「くっ……」

 獣のような叫び声を上げる二人、そして思わず目を背ける高杉君。
 まあ、常人なら当然の反応でしょう。
 でも私と“高杉君”は知っていました。

 “生体ボソン・ジャンプに失敗した者がどうなるか”を。


「はあ……はあ……」
「大丈夫ですか?」
 真っ青になって奥歯をガチガチ言わせている二人に、イツキが水を持ってきてくれました。
 白鳥君はそれを一気に飲み干し息を荒げ、月臣君は頭から水を被っています。

「い、一体今のは……」
「優人部隊のように遺伝子改良を加えていない生体が跳躍するとああなるんですよ。地球側ではそれがまだ判っていないようで……」
「何故そんな物を我々に見せたのです!! 正直寿命が縮みました……」
「何故? ほお貴方達はこの事実を知る事が無意味だったと?」

 その言葉に二人共ハッと目を見合わせます。

「正直に吐露しますが、木連でも貴方達優人部隊が完成するまで“こういう事”が起こっていたんですよ。全ては、木連の未来の為必要な犠牲として……」
「そ、そんなバカな……正義である我々がこんな……こんな事を」
「認められないのは判りますがこれは事実です。そして貴方達にはそれを受け入れて欲しい……何の為に態々こんな事をしたと思ってるんです? それは貴方達次世代の人間に現実を受け入れ、今後は過ちを犯さないようにして欲しいからです」
「過ちを……犯す、ですか」
「そう、例えどんなに崇高な使命や正義があったにしても、その為に何でもやって良い訳がありません……豪州攻略作戦では、貴方達が始めて木連軍人として地球に降り立つのです。人として恥じぬ行動を取る事を、私は願っています」
「……はっ、心得ておきます」

 イツキに付き添われ、おぼつかない足取りで去っていく二人の姿はとても弱々しく見えました。
 これが噂に名高い三羽烏とは誰も思わないでしょう。
 でもね、幾ら外面が立派でも内面が成っていなければ人の上に立つ仕事は任せられません。
 人造人間の第二ロットは殆ど彼らに託すのですから、より心を鍛えてもらわないと。
 それはそうと……。

「貴方には心当たりがあるみたいですねぇ、“生体ボソンジャンプ”に……」
「……!」

 二人っきりになった所で彼にちょっとだけ突っかかって見る事にしました。
 いや……実は彼、スパイ容疑が掛かっているんですよ。
 ここ最近の変貌振りはまるで“別人”のようですからね……発言もどうも戦争に非積極的な姿勢を見せつつありますし。

 実際別人ですけどね。

「アンタは……一体何者なんです?」
「何者? 私は私以外の何者でもありません……貴方だってそうでしょう? それとも違うとでも?」 

 普段の軽そうな態度からは想像できない程の鋭い視線を返してくる高杉君。
 随分と長い間視線が合っていましたが、やがて高杉君は口惜しげに踵を返しました。

 ……ま、今は問題無いでしょう。
 彼一人で何か出来ると言う訳ではありませんし。
 真に警戒すべきは……“彼ら”です。

「では、いくとしますか」
 木連最高戦争会議の結果、いよいよ本作戦「豪州攻略作戦」が決行される事になりました。
 陽動部隊である私の石蒜とその僚艦は、それぞれ木星と火星で発進準備を整えています。
 エグゾゼドライブは一端作動させると減速にかなりの手間と制動距離を必要としますから、動けばもう後戻りはできません。
 強化型相転移炉もまた同じ。高位の真空をより効率的に取り込むためには常に最大船速を出さなければならず……お陰で強化型無人艦に付いた仇名は“鮪(マグロ)”です。
 ……とにかくこの作戦、一度始めれば勝つ負けるか二つに一つ……撤退はありえません。
 その事を知っているだけに、イツキの表情も最近ではめっきり暗くなってしまいました。

 たった一人の肉親を無くし、数少ない親友をも無くし……そんな彼女を置き去りにして戦地に赴く私……勝手なものです。
 ですがこの戦争に勝たなければイツキどころか木連全国民が死に絶えてしまいます。
 私がやらなければ誰がやれるのか……これほどのジレンマに陥るのも久しぶりです。
 だから戦争って嫌なんですよ。参加する兵士のみならず、その周囲の人間も総じて不幸にしてしまう……。
 得するのは後方でのうのうと享楽に耽る政治家や老人のみ。
 こんな馬鹿騒ぎ、とっとと終わらすに限りますね。

「T-260G、状況を説明しなさい」
『火星軌道の強化無人艦とのリンク完了。エグゾゼドライブ始動と同時に無人艦も相転移炉を作動させます』
「地球圏到達までの時間は?」
『約691200秒』

 一週間と一日ですか……まあこんな所でしょう。
 跳躍門を使えばものの数秒ですが、仮にこの石蒜が跳躍門を通過できたとしても、これほどの艦と追随艦隊が門から出てきたら幾ら何でも地球側はその意図に気が付きます。
 それに、跳躍門の入り口は一つ……のこのこ順番に出てきていたら、その間に敵艦隊に囲まれてしまいます。
 面倒でも通常空間を進むしかありません。
 奇襲である以上、敵の意表をつければそれだけで有利に立てますしね。

「後方のかぐらづきに電文を。“木連魂に掛け、必ず勝つ”と」
『電文送信……貴方に熱血は全然似合いませんね』
「ほっといて下さい」

 付き合いが長いだけあって遠慮がありませんね。
 まともなボディを手に入れた途端口数が……。

『返信が返りました。“幸運を祈る。正義は我にあり”だそうです……他にもゆめまちづきなどが同様の文面を……』
「パス。無事に帰ってきてから改めて祝辞をもらう事にしましょう……発進準備」
『エグゾゼドライブ作動シークエンス開始します。自動診断プログラム最終チェック開始。グラビティ・リング回転数上昇、慣性機動開始』

 真っ赤な細長い船体の後方ではグラビティリングが旋回を続け、ゆっくりとその巨体が前へ前へと進んでいきます。
 艦の巨大さの割には実に優雅な形状をした、宇宙に咲く紅い華……それが石蒜です。
 見た目は鈍足ですが、一度動き出せば地球目掛けて矢の如く突き進むでしょう。
 二十秒……十秒とカウントが刻まれ、いよいよ加速が開始され……。

『警告。診断プログラムが格納庫にて異常を発見。密航者です』
「何?!」
『照会完了……どうもウチの研究員のようですが?』

 T-260Gもそれが誰か判明して判断に困っているようです。
 でも私はもっと困惑しています。
「……取り合えず、ブリッジに連れてきてあげてください」
 暫くしてブリッジに現れたのは、私の予想通りの人物でした。


「イツキ……どうしてこんな無茶を」
「……」

 黙ったままイツキは俯いています。
 そうしている間にも木連コロニーはどんどん遠ざかっていく……。
 あれだけ大見得切った以上、途中トラブルで止まるなど兵の士気に関わります。
 本気で後戻りは……不可能です。

「貴方も……私を置いて行ってしまうと思うと……つい……」
「必ず生きて帰るって、昨日一晩かけて話したでしょう? なのに……」
「帰るって……いつです?! 明日ですか?! 一年後ですか?!」
「う……」

 涙は女の武器とはよく言ったものですね……大粒の涙を浮かべつつ上目で見られたら、大抵の男は屈服してしまいます。
 かく言う私もこれには降参です。
 本気で一年計画で戦争終結を狙っていただけあって、この指摘はキツイ……。

「駄目なんです……一年どころか、一日でも貴方と離れる事に……耐えられない」
「……」
「身勝手ですよ……カッコ付けばっかり考えて、残る私の事も……少しは考えて……」

「……ごめんなさい」

 確かに……“私を信じろ”と言って相手を納得させるのって、ある意味卑怯です。
 それは互いに信頼し合っているからこそ言えるセリフであって……納得してくれないという事は信頼されていないか、やろうとしている事が余りに無謀か、どちらかです。 
 今回は両方当てはままりますね。
 ……いやこんなに自分が情けない奴だったとは。
 彼女が私を信じる事ができないなら、信じてもらうしかないでしょう。
 彼女が納得する方法で……好きなようにやらせるしか。

「……一緒に、戦ってくれますか?」
「言うのが……遅いです……」

 そう恨みがましく言った後、イツキは私の腰に手を回して離そうとしません。

『尻にひかれるタイプですね』

 やかましい。


 ……いきなり一名の増員が出ましたが、言うほど簡単な事ではありません。
 この石蒜、私一人が乗る事を考慮して全てを私の能力を基準として改装しています。
 よってブリッジにもシートは一つです。
 搭載していた虫型に予備シートを即席で作らせましたが……これが当面の問題としては一番厄介です。

「さて、気を取り直して運転再開。作動シークエンスを継続」
『作動シークエンス続行……相転移炉出力臨界点へ。各乗員はショックに備えて下さい』
「え、ショックって……」
「設計ミスで発進の数秒間、重力制御がおろそかになってしまうんですよ……シートが無いと生身の人間はまず持ちませんね」

 イツキが慌ててシートに身体を固定しますが、やっぱりこれも私の寸法に合わせてあるので少し苦しそうです。

「む、胸が……」
「少しの辛抱ですから」
『残念ながら現時点でのシークエンスキャンセルは不可能です……お二人共お覚悟を。3……2……1……エグゾゼドライブ起動』  

 途端内蔵がギュっと絞られるような感覚が私達を襲います。
 この時代重力制御システムが発達し、快適楽々の筈なんですが……ここまで馬鹿みたいな速度だとそれもあまり意味が無いみたいです。

「う……グァ……! ハッ……」
「イツキ、貴方耐G訓練はどれほど?」
「は……8Gまでは……クッ……」
「そうですか……以後それに合わせる事にします」
『警告。現時点で重力制御を行うと速度調整に支障をきたします』
「それでもやりなさい。仕方ないでしょうこういう場合」

 やがて重力緩和が働きようやく動けるようになりましたが、時既に遅くイツキは意識を手放していました。
 だからこの船に私以外を乗せる事は避けたんですよ……彼女が人造人間だからよかったものの、只の人間だったらあの世へ船出していた所です。

「あーあ、急いでメディカル・システムを起動。最優先です」

 彼女を両手で抱きかかえると、私はブリッジを後にします。
 虫型にやらせれば楽でしょうが、そんな無粋な王子なんていませんよ。
 どうせ減速までかなり時間はありますし……。


『後学の為に聞いておきたい事があります』
 メディカル・ルームまでの通路で、T-260Gが訊ねてきます。

『何故……クリムゾン一族を見殺しにしたのですか?』

 無人兵器からの情報によれば、モノリス落下前後の混乱の最中、クリムゾン本社においてテロが発生。
 それにより、ロバート=クリムゾン以下クリムゾン家の人間は軒並み全滅……残されたのはロバート氏の孫娘と、妾腹の子だけ。
 これは本国でも知らない極秘情報です。クリムゾンと歩調を合わせられないとなると反対意見が復活しそうですからね。
 今回のクリムゾンとの密約は直接的な支援要請ではなく、勝利後の豪州治安維持に対してです。
 地球の人間はこちらが同じ人間だとは殆ど知らないはず……突然現れた木連軍人の言う事をはいそうですかと聞く訳がありません。
 占領行為で最も気を配らなければならないのは一般人です。
 彼らの力を過小評価したばかりに、ゲリラ行為に悩まされたりして敗退した国家は数知れませんし。
 その為彼らの助力を仰ごうとしたのに、一体誰が……。

 って犯人は既に判っている上、やろうと思えば阻止も可能でしたが。

「そりゃあ……ヤリ手の脂ぎったジジイより、頼りない薄幸の美少女の方が色々やりやすいでしょう」
『そんな事の為にクリムゾングループを分裂の危機に?』    

 理論的に考えれば“そんな事”でしょうが、それで割り切れない事が多すぎる……。
 それが世界ってもんです。

「ええ、まあ。それに未来を創るのは老人ではありません。新たな世代……強いて言えば木連世代が、これから主役になるのですから……」
 

 

 

 

代理人の感想

クリムゾン一族壊滅・・・・やったのはおそらく例の連中なんでしょうが、裏に誰がいるんでしょうか?

第三勢力がいるらしいのは感じますがやはりそうなんでしょうか?

例えば「大和」とか。

 

 

それはさておくとしても。

超博士万能過ぎ!

その万能なる事、例えて言うならアル○ラーンに出て来るナ○サス、

はたまたスーパー■ボット大戦αのシュウ・シ○カワの如し。

銀○伝のように同格の知恵者が二人以上いるならともかく、

智略で対抗できる人間が敵にいないってのは話の盛り上がりにおいて、あるいは致命的かもしれません。

「本当の敵」(いれば)が出て来るまではお預けかな、そう言う展開は。