『皆、これから話す事は全てが真実なんだ。何故この俺が、この真実を知っているか……それはまたの機会に話すとしよう。そして、この話を聞いた後、皆がどうするかは皆で考えてくれ。じゃあ、まずは全員が疑問に思っている、木星蜥蜴の正体だが。結論から言おう、木星蜥蜴は100年前に追放された……』
始まったか……。
途中でシュン提督が呼び出されて何事かと思ったが……まさか全クルーに真相を暴露するとは。
これは連合では超極秘事項の筈。悪のエイリアンである木星蜥蜴が、実は連合の過去の愚策により追放された地球人でした……何て市民にバレたら暴動モノだ。
連合の威信など紙切れの如く吹き飛んでしまうだろう。
……だが、例えそれを全ての人が知ったとしても、戦争は終わらない。
むしろ悪化する可能性だってあるのだ。
故郷を同じとする木星の人間が、何万何億もの人間を殺してきたのだ。
その怒り、その恨み……そう簡単に晴れはしない。
「今まで俺が話してきた事は、テンカワさんの話の補足に過ぎない……アリサさん。貴女が聞きたいのはそんな事じゃないんでしょう?」
その言葉にばつが悪そうに頷くアリサさん。
……言及するには少々躊躇いがある事だからな。
「……まさか、まだカイトの奴を疑ってるんじゃないだろな!」
「違うんです、リョーコさん……その……」
「そういう事じゃねーと思うんだが」
松葉杖をつきながら近づいてくるガイ……グッドタイミング。
リョーコさん今にもアリサさんに掴みかかりそうだったからな……怪我に響くから安静にして欲しいのに。
「いや、な。俺がこんな事言うのも何だけどさ……カイト、お前本当に人間か?」
『お前が言うな!!』
と、大方の予想通り猛烈な突っ込みの嵐を受けるガイ。
だが、イネス先生とアリサさんの冷静な目に、皆声が小さくなっていった。
「ああ、違う」
「へ?」
更に俺の一言が決定的となり、その場の空気が一瞬凍りついた。
「わ、笑えねえ冗談言うなよ……お前らしくも無い……はは」
「こいつ……冗談とか嘘、言わないぜ」
ガイの容赦の無い言及に、顔が引き攣るリョーコさん。
そして……少し俺から離れた。
「……木連の人材不足は深刻なものだった。いかに技術が進んでいようとも、一定以上の人間がいなければ文明を維持する事などできない。だが戦争をやっている以上、人材の枯渇は免れない……そこで、軍上層部は軍事利用に限定して生体端末の量産化に踏み切った……合成蛋白質により構成された生体兵器……人造人間。その初期段階に開発されたのが、俺だ」
「……!!」
「成る程……通りで頑丈だと思ったわ」
イネス先生が納得したように頷く。
「身体の自己修復機能が異常に高いのよね、彼。常人離れした反射神経や飲み込みの速さ……才能だけでは済まない部分も多かったし」
「戦場での的確な状況判断もそれで……」
「戦闘技能の高さは生まれつきだったのか」
「う、嘘だ……」
副長やゴートさんの言葉もあってか、完全に顔色を悪くしてしまったなリョーコさん……。
「べ、別にそんなの、珍しくも何ともねーじゃんか!
テンカワだって、それぐらい……」
「テンカワさんと一緒にされても困るんですが……」
「それにお前! 姉貴がいるって言ってたじゃないか!」
「同じラボで生まれ、同じ里親に世話になってましたから……」
何でこんなにムキになるかな、リョーコさん。
俺が人間ではない事は紛れも無い事実なのに……。
「そんな……そんな事って……」
「なあ、スバル……何そんなに怖がってるんだ?」
心底不思議そうな表情でガイが言う。
正直俺も同じ意見だ。
「カイトが何者であろうと、カイトはカイトじゃねーか。今まで一緒になって戦って来た、俺達の仲間だろ?
今更人かそうじゃないかで悩むこたあねえと思うぜ」
人か、そうじゃないか……?
……そうか。
リョーコさんは、俺が人間でない事にショックを受けていたのか!
同じ様にふるまい、同じ様に笑って、同じ様に泣いていた奴が、実はバッタと同じでした……などと知ったら、確かに驚くな……。
クッ……俺は、人じゃないから人の事を考えてモノを言えないのか?
「今、物凄くいい事言ったねヤマダ君……」
「意外ね。明日はミサイルが降るかも」
「だーっ! 俺の名前はダイゴウジガイだって……」
“ドゴォォォォォ……”
「……本当に降ってきたんでしょうか?」
「違う! 敵襲だ!!」
アリサさんのボケをさらっと流して、ゴートさんと副長は医務室を飛び出した。
まだ怪我が治ってないのに……自分の責任を重く感じているんだな。
ならば、俺も!
「出撃します! 先生、リョーコさんをお願いします!」
「解ったわ。気をつけてね」
「おーし! やってやるぜー!!」
「ガイ……お前怪我は?」
「博士の素敵なお薬のお陰で全快さ! ヒカル!
イズミ! 俺に続けー!!」
「無理だよ〜!」
っておい。
強化体質の俺ですら僅かに過剰反応があったぐらいの代物を……。
先生もお手上げと言った風に首をかしげている。確かに、丈夫さなら俺に匹敵する人って結構いるな……。
「ちょ、ちょっと待った!」
「リョーコさん?」
ガイに続いて退出しようとした俺をリョーコさんが呼び止める。
まさか出撃したいだなんて言うんじゃ……。
「が、頑張れよ。俺、今こんなだけど……応援してるからな」
「……! はい!」
ええ頑張りますとも!
俺は、俺の居場所を、俺を認めてくれた人の為に戦う!
特に……貴女だけは必ず……守ってみせる!!
「?!?!?」
「あらあら、熱いわね……」
「ひゅーひゅー」
走り去る間際にちらっと見えたが、リョーコさんの顔が真っ赤だ。
……安静だって言ってたのに無理に喋らせたのが悪かったのだろうな……。
“ゴォォォォォォ……!”
まるで巨大な烏の如き姿をした、ブースター付きブラックサレナが先行していった。
……先程の攻撃は超高速の質量弾か。無限砲搭載型のゆめみづきだな?
「カーッ! 合体メカ付きとはテンカワの奴!
羨ましいぜ!!」
「合体といえばナデシコもパワーアップしてるな」
後でひたすら無限砲の砲撃に耐えているナデシコ……ブレード部分にYユニットと呼ばれる強化パーツが増加されており、幾分無骨に見える。相転移エンジンも増設されており、今までとは倍以上の出力のフィールドを張っているので生半可な攻撃ではびくともしない。
「……まぁたクルスクの時みたいに立ちんぼか?
俺達……折角お前も新型に乗っているのによ」
あの後アルストロメリアは、班長が俺様にチューンしてくれていた。
色が黒と赤に変わっていたので驚いたが、何でもステルス塗料の試作品を使ってるらしい。
テンカワさんともろに被ってるのがちょっとあれだと思うが……今は、多少なりとも性能が上がるならばそれでいい。
何故なら……。
“シャリィィィン”
「何だ? この音……グハッ!!」
“ドスッ! ガスッ!”
ガイのエステバリスの、ピットを除いたあちこちに突き刺さる錫杖……!
矢張り奴らが来たか!
『今宵の月は数多き出会いを呼び込むな……』
「北辰……」
今度は後に六人衆もいる……機動性を極限まで追及した人型戦闘機、六連。
単純な運動性能ならこいつらのほうが上か……しかも数が多い。
『撫子は強化されたようだが、懐に入り込んでしまえば同じよ……』
「相変わらず俺は放置かよ!」
『いいや……我が相手をしてくれる。案ずるな』
“ゴッ!”
夜天光はこちらに、六連は上方に散った!!
今はナデシコのフィールドを頼りにするしかないか……俺はこいつを、足止めするので精一杯だ!
“シャン!”
前回喰らった錫杖を、俺はそのまま使っている。
班長に俺があるデータを渡し、秘密兵器の建造を依頼しているが……そいつが完成するのはまだ先の話だ。
ナイフじゃ短い、ランサーじゃ折られる、DFSはアルストロメリアと規格が違うと来た。
使えるものは何でも使っていくしかない!
“ガシャン!”
触れ合う錫杖、震える両腕。アルストロメリアも夜天光も、月の大地に脚を沈め、渾身の力で押し合っている。
単純なスペックデータでならアルストロメリアの方がトルクは上の筈だ!!
それで押されているのは、単純な技量の差……力点や重心の取り方が、向こうのほうが遥かに上手い!
『フフフフ……鎧に調整を施したか。先程とは段違いに良い動きをする』
「動きがいいだけじゃな……お前を止められなければ意味が無い!」
『真理だな』
より一層力を込める両者。お互いの錫杖が金属特有の悲鳴を上げる。
……悲鳴を上げているのは何もこっちだけじゃない。
さっきからナデシコより刻々と状況がやばくなっている事が伝えられている。
現行の木連兵器の中では最高クラスの機動力を持つ六連相手に、ナデシコの弾幕では対処できないようなのだ。
俺とガイ以外のパイロットが全員やられてしまったのは痛い。
せめて、もう一人……。
“ドォン!”
『うおおっ!』
一機の六連が何者かによって撃ち落された?!
ガイはさっきやられたし、割と軽症なアリサさんも出撃するには……。
いや、いた。
もう一人のパイロットが……!!
「はっはっはっは! 待たせたね!!」
「アカツキさん!!」
蒼い新型エステバリスが長大なレールガンを構え、こちらに向かってくる!
更に肩アーマーからミサイルが飛び出し、その横の連装カノン砲が六連のミサイルを迎撃していく!
いや正直凄い重装備だな……それでいて機動性が全く損なわれていないとは。
「おせーぞロンゲ!! しかもお前まで新型機とは……ズルイぞこのー!!」
「だからロンゲじゃないっての!」
余裕ですねアカツキさん……しかもパイロットスーツではなくビジネススーツ姿だし!
一体、何やっていたんだろう?
「それにちゃんとヤマダ君の新型も持ってきたって!」
「俺の名はダイゴウ……何それは本当か?!」
その言葉を証明するかのように、月都市に近い搬入ハッチから、新たなフレームが姿を現した。
でも……これフレームだけな気が?
「まあ、今の状況じゃあ流石に乗り換えは無理だから、次の機会に……」
「ガンガークロスオペレーション、セカン!!」
“バシュ!!”
「ば、馬鹿ー!!!!」
おーい!!
今戦闘中だって!! アカツキさんもアカツキさんでこうなる事は解ってたでしょうが!!
「オトリになると思って出したんだけど……いや〜まさか本当にやるとは……筋金入りの馬鹿だね、彼」
クッ!
一瞬だけでも奴ら全員をマークしなければ!!
北辰の夜天光は?! 六連は……ってあれ?
「レーッツ!」
『ゲキガ・イン!!』
おい。
“ガシュッッ!!”
何事も無くフレーム交換に成功するとは……。
それにしても……。
何もしなかった上、一緒になって掛声上げるとはどういう事だ北辰?!
『フッ、合体する時は誰もが黙って見守るものよ!!』
いやマジになって言われてもな……って言うか黙って無いし。
何か……さっきので幾ら北辰が凄みきかせても怖く無くなってしまった気が。
『さて、良い物を見せてもらった礼をせねばな……楽に逝かせてやろう』
前言撤回。やっぱりこいつは外道だ!
“ガッ!!”
再び錫杖が激突したのを合図に再開された大乱戦。
飛び入り参加のアカツキさんとガイのお陰で、六連の方は何とか押し返している。
だがこっちは相変わらずなのだ……一発でも構わないから当てないと後が苦しい……。
『クックック……恐ろしいものだな』
「何が!」
『気づかぬか? 今の今まで我がお前に一撃たりとも与えていない事を』
「?!」
『当てていないのではない。当たらぬのだよ……最早手を抜く理由は無さそうだな』
こいつ、矢張り今の今まで本気では無かった!!
本当に底などあるのか?! 北辰の実力に!!
“ザッ!”
間合いを取り直すべく距離を開けたが……何処に逃げようとも、奴の攻撃範囲にいるような気がしてならない!
なんてプレッシャーなんだ……。
『さて、そろそろ喰らうと……』
“ドゴァァァァァァァァァァッ!!!”
「な、何だ?!」
「何?! 月ドックが……」
激しい爆発が月都市の近辺で起こり、それによって巻き上がった土石がこちらにまで来ている?!
『隊長!! 目標が……』
『どうやら超が気を利かせてくれたようだな……一応の目標は達せられた。下がるぞ』
『……申し訳ありません。我らが不甲斐無いばかりに……』
『構わぬ。敵の新型とそのパイロットの力量を見極められただけでも良しとしよう』
満身創痍の状態で撤退していく六連……流石ガイとアカツキさんだ。たった二人であれだけの六連を撃退するとはな。
『おい』
「?!」
北辰は下がっていない?!
まだ、やるというのか……。
『貴様の名を聞いておこう』
「何?!」
『人形ではないのだろう? では貴様は何者だ……』
北辰……あんた……。
「……カイトだ」
『カイト、か。覚えておこう……が、その名をいつまでもたせる事ができるかな?』
そう言って高速で離脱していく夜天光。
いつまでもたせるか……か。
何、二度も三度も死んでたまるか。
俺は……カイトとして生き延びてやるんだ!
「……そっか。僕が出かけてからそんな事があったんだぁ。いや正直すまない事をした」
ナデシコにと共に移動しつつ、俺は北辰の事をアカツキさんに説明していた。
俺が撃墜されてから直用事で月にまで行っていたそうだが……本当ギリギリのタイミングだったな。
あれに巻き込まれていたらアカツキさんもリョーコさんと同じ目に……しかもアルストロメリアも届かず最悪全滅だってありえたのだ。
むしろ感謝せねばならないだろう。
「いいえ……それよりも、あの時は本当……」
「いいさいいさ。誰だってね、肉親を前にすれば……」
『アキト!!もうその人は戦う事は出来ないよ!!』
何だ?艦長の様子が変だ……。
今までアレほどまでに取り乱した事は無かったぞ?!
「様子が変だ、急ごう諸君!」
アカツキさんの後に続いて、俺とガイも大急ぎで前進した。
その先には……。
『ユリカ……少し前に、俺はお前に聞いたな。地球と木連、お前ならこの戦争をどうする、と。俺の故郷、火星のコロニーを壊滅させ。俺の人生と、幾多の人々の人生を狂わせた元凶……そいつらに対する、俺の答えはこうだ』
ゆめみづきの前に佇むブラックサレナ……そしてその足元には……。
スクラップ寸前まで破壊されたダイマジンだと?!
『木連の人間、全てを消す!!』
『!!!』
その言葉に、この通信を聞いていた全ての人間が凍りついた。
『そんな……そんな事は、いくらアキトでも無理だよ!!』
あの艦長が……どんな逆境にぶつかろうと立ち向かってきた艦長が震えている!!
俺もそうだ……俺も!
『無理……だと? クククククク、笑わしてくれる。俺が今まで本当に、全力で戦っていたと思うのか?』
そう言ってのけるテンカワさんは、さっきの北辰と同じだ!!
底が……見えない!
『考えて見ろ?俺が木連の軍隊を全て片付ければ、もう後腐れは無い……地球の平和は、それで守れるんだ』
“斬!!”
そう言いながら、最早動けないダイマジンの胸部を切り裂く!!
弄っているのか?!
『でも!!でも、そんなのアキトらしくないよ!!』
そうだ、テンカワさん!
貴方は、一国の軍隊以上の力を持ちながらも、人の温かさを忘れない、そんな人間だったじゃないか!!
『……お前は、俺の何を知っているんだユリカ?俺の表面だけを見て、それで理解したと思ってるだろう。これもまた……俺の一面だ』
な!!
“ドォォォォォンンンン!!”
突然もう一機ダイマジンが現れ、テンカワさんに攻撃を加えた!!
しかも当たっただと?! 普通なら、テンカワさんは余裕で避ける……その動きを更に読んでいたのか?!
誰だ?! このパイロット……?!
『そこまでよ漆黒の戦神!! 博士の理想の為……死になさい!!』
『誰だか知らないが威勢のいい事だな……お嬢さん』
『な……!!』
“刺!”
“ドゴォォォォォォォ”
み、見えなかった……何時の間に間を詰めた、テンカワさん!
文字通り瞬きする間に、五体不満足になったダイマジン。
身震いする! この実力……。
「おい! あの機体、どっかで見たこと無いか?!」
「ん……?! ヤマダ君の言う通りだ!! ボディは違うが、頭部は前回戦った機体と同一だぞ?!」
「な……じゃあ、あれに乗っているのは?!」
『……これで、二体。さて、どちらから消してやろうか?』
その声を聞いて、俺ははっきりと解った。
初めて俺が、自分の正体を明かした時のテンカワさんの言葉の意味を!!
『……だが俺は……多くの犠牲を出してでも、身近な人達の幸せを目指す。世界の命運、人の究極の未来……そんなものよりも、俺は愛する人達の幸福の為に戦う……』
そうか……そうだったのか。
テンカワさんは……身近な人の幸せが守れるなら、後はどうなってもいいと!!
他人がどうなろうと知った事ではない。世界が滅びようとどうだっていい……自分が大切と思うものが残っているならば!!
そんな風に考えていたのだな?!
『アキト!!』
『いい加減……煩いぞユリカ。黙って俺の仕事を見ていろ……何時もの様にな』
艦長……何も言い返せないでいる。
矢張り貴女もそう思っているのだろうか?
戦争を終わらす為には、木連の人間全てを皆殺しにする事が一番の方法だと……。
思えば、艦長はテンカワさんの言葉には一度たりとも逆らっていない。
それは……貴女がテンカワさんの考えに……。
『いいえ黙りません!! 私は……私は木連との和平を実現させます!そしてアキト!! 貴方を止めてみせる!!』
「!!」
艦長……!!
艦長は……木連との和平という選択を、捨てていなかったのか!!
『……俺抜きのナデシコで、か?』
そうだ。
ナデシコは……テンカワさんの力に大きく依存してきた!
口で言うのは簡単だが本当に……その覚悟はあるのか、艦長!!
『私は、私らしく、私の考えた道を行きます!!……たとえその道をアキトが邪魔をしても、私はアキトを越えて行く!!』
……。
……。
……。
そうか。
ならばもう、俺から言う事は何も無い。
俺はただ……貴女について行くだけだ!!
『……その言葉に、嘘はないんだな?俺の存在が不要だという事に?』
涙……。
テンカワさんの問いに、艦長の瞳からは涙が滴り落ちている……。
……許せん。
いかなる理由があろうとも、女性をここまで嘆かせるとは!!
『俺は艦長の意見に賛成だぜ、テンカワ。結局、お前のやってる事は、100年前の繰り返しじゃねーか!!』
『アキトさん……私も、そのアキトさんの意見には賛成できません。それって、結局木星の人達の事を、完全に無かった事にするって事でしょう?そんな事に賛成は……出来ません』
『アキト君、貴方の実力なら他の手段も選べるでしょう?火星の事を忘れろとは言わないわ。でも憎しみは憎しみを生むだけ、貴方はそれを知ってるのでしょう?』
リョーコさん、メグミさん、先生……。
俺だってそうですよ。何てったって俺の故郷は木星だ!
故郷を潰すと言われて、はいそうですかどうぞ勝手にやって下さい、などと言える訳が無いだろう!!
『テンカワ!!』
『アキト!!』
『テンカワ君!!』
『アキト君!!』
副長、シュン提督、イズミさん、ヒカルさん……。
「そうだ……正義は、何も一つだけじゃない!!
正義は……正義は盲信じゃねえんだぞ、アキトォ!!」
ガイの魂の叫びに俺も同調する!!
この世界に、絶対正義などありはしないのだ!!
星の数だけ人が居て……人の数だけ、正義はある!!
『アキト!!私は……私達は!!ナデシコは貴方にも負けない!!』
「そうだ!! 俺は負けないっっ!! 和平の意志を……平和への願いを……皆の正義を!!
守ってみせるっ!!!」
“ゴオッ!!”
「ちょっ! タンマ!! カイト君!!」
アルストロメリア……思えば、短い付き合いだった!
一世一代最後の大勝負……お前も付き合ってくれ!!
後北辰! 悪いが……俺の名は、もう数分も持ちそうに無い!!
“ブゥゥゥゥゥゥゥン”
『テンカワアキト!!俺ではお前に勝てないかもしれない!!だが……貴様の考えが我等木連の殲滅にあるならば!!
俺は命にかえても……お前を倒す!!』
新たにジャンプしてきた機影1!
今の声は……木連三羽烏が一人、白鳥少佐か!!
貴方にここで死んでもらう訳にはいかない!!
木連の未来を担う大事な人なのだから!
刺し違えてでも止めてやるぞ!! 漆黒の戦神!!
『白鳥、ナデシコの総意……確かに聞いたな?』
『あ、ああ、和平の意思は聞いた』
『それが俺の……俺達の』
動きが止まった! 今だ!!
「それがアンタの意思か!!! テンカワアキトォォォォォォォォォ!!!!」
“グワッシャアアァァァァァ!!!”
……大当たり!
ブラックサレナは俺の渾身の体当たりを喰らい、大きく吹き飛ばされた!!
だが先手を取ったぐらいでいい気になってる場合じゃない!!
“シャン”
錫杖を構え、俺は唖然となっているテンカワさんにこう告げた!!
「木連の人間全てを消すだと……? ふざけた事を言いやがって!!
俺は確かに、かつて信じた正義と戦う事を誓った!!
だが……それを全否定するなどとは一言も言っていない!!!
力ある者が一方的に正義を否定するなど、傲慢に他ならない!!!
アンタの正体はそんなものだったのか……失望したぞテンカワさん!!」
『何て事するんですか!!!』
「え?」
な……俺がおびえている?!
ルリちゃんの……殺気に?!
『止すんだルリちゃん。こうなって当然だ』
『でも!!!』
『いいから……カイト君。君を不安にさせるような事を言って悪かった。これは……俺が皆に自立させようと仕組んだ……演技なんだ』
「……へ?」
ショックの余り俺は錫杖を落としてしまったじゃないか!!
それは……真で?
「だからタンマって言ったじゃないか……人の話を聞かないんだから全くもう」
あ、アカツキさん……だからさっきあんな事を……見切ってたのね。
『俺ら欧州組は前にアキトの話は聞いていたからな。割とショックは……って待て、艦長、メグミちゃん!
俺に怒りをぶつけるんじゃなくてグワァァァァァ……』
ご冥福をお祈りします、シュン提督……。
『なんじゃあ……そりゃあ……』
『心労で疲れちゃったみたいね』
あらららリョーコさん寝込んじゃったよ……事情を知らない人間には、ちょっと刺激が強すぎたような……。
「後さ、一言言わせてもらうよテンカワ君……誰だって、どんな人間だろうと……身内を殺されれば逆上する!」
!!
そうだ!!
姉さんは……姉さんは無事か?!
『あ……う……ミカヅチ?』
「姉さん! 無事か?!」
最早鉄くず同然となったダイマジン……であったものを掻き分け、やっとの思いで俺はコクピットブロックを見つけた。
攻撃を受け流す事もせずに突っ込んだな……?
テンカワさんは手加減したんだろうが、姉さんの動きで当たり所を悪くしたようだ。
『何で……助けたの?』
「たった二人の姉弟じゃないか……」
何を言うかと思えば……。
姉さんは、昔から頑固な人だったから……。
「袂を分けたとはいえ、俺はまだ……姉さんの弟だよ。これからもずっとそうだ……」
『……! ミカヅチ……』
涙を瞳に溜めないで、姉さん。
鼻もすすらないで……。
俺だって……泣きそうなんだから。
無事で……無事で本当に良かった……本当に……。
『元気そうで何よりです。ミカヅチ君』
この声は……!!
そういえば、さっき北辰も言っていたな……。
この人も、戦場に立っていたとは。
「博士……お久しぶりです」
通信モニターに映し出された人影に、俺は思わず敬礼した。
『まだ私を、博士と呼びますか……嬉しいですねえ』
超新星博士……。
俺と姉さんの恩師であり、現在木連の兵器の殆どの改修・開発を手掛けた天才科学者。
そして……人造人間をこの世に生み出した人物でもある。
まさかこんな所で会えるとは……。
『カイト君! 月軌道の連合艦隊から救難信号が出ている!!
僕らも救援に向かうよ!』
「……すいません! アカツキさん!! もう少し……もう少しだけ話を!!」
『はあ、仕方が無いね……ちゃんと帰って来るんだよ?
ちゃんとね』
そう言って一足先に離脱していくアカツキさん。
少しとは言ったけど、きっと……博士は俺を連れ戻そうとするだろうな。
『見たでしょうあの男の本性を。あれが演技だとしても、心の奥底では我々に対する殲滅願望は消えてはいないのです。あれに付き従っても、最後には捨てられるだけだと思いますがね』
確かに……あれは、紛れも無くテンカワさんのもう一つの一面。
一度それが解放されれば、恐らく本当に……。
だが、それを抑える心の強さをテンカワさんは持っているし、抑えてくれる人達もいる!
俺は……そんなテンカワさんを、信じてみたい!
「心使い感謝します。ですが……テンカワさんはそれだけじゃありません。本当は優しい、他人想いの人なんです」
この答えに納得がいかないのだろう。渋い顔をする博士。
やっぱり……正直に……言うか?
「それに俺は、テンカワさんの為に戦っているのでは無いんです」
『へえ? では何の為? 地位ですか? 報酬ですか?
それとも愛と友情の為?』
「……最後のが……当たりです」
言うまでも無かった……お見通しだよこの人。
やっぱり年長者は一味違うなぁ。
『そ、そんな……地球の女にたぶらかされただなんて!
さ、寂しかったなら私が』
「『駄目に決まってるでしょうが!!』、姉さん!!」
『ううぅ』
何考えてるんだ姉さん!!
姉さんには博士が居るでしょうが!!
それに……俺は……た、たぶらかされただなんて……ただ、あの人を、リョーコさんらを守りたいだけで……。
「と、とにかく……そういう事です。俺はもう木連には戻りません」
『……意志は固いみたいですね』
心底残念そうに言う博士……ああ、心が痛む。
「すいません……今までのご恩は一生、忘れません」
『そう思うんだったら生き延びて下さい。私が望むのはそれだけです』
い、いいんですか?!
無理矢理連れて帰ろうと、何かするかと思ったのに!
ありがとうございます! 博士!!
あ……。
でも、姉さんが……。
『ミカヅチ……戦いが落ち着いたら、その想い人をちゃんと私に紹介しなさいよ!
絶対に!』
姉さん……。
納得……してくれたのかな? 一応……。
でも紹介だけなら戦後じゃなくても今すぐにでもやれる気がするけどな……?
『カイトォ!! 何してるんだよ!』
そう言う訳にも行かないか!!
俺には、待っている仲間がいるんだから!
『それじゃあ、ごきげんよう……おや、これからは何て呼べば良いんでしょうか?』
飛び去ろうとする俺に、博士が最後の質問をしてきた。
「カイト。それが俺の……俺の新たな名前です」
でも……姉さん。
前は死んだとかいったけど……俺は……何時までも貴女の弟だ。
『爽やかでいい名前じゃないですか……ではカイト、幸運を』
さて……とっくに重力波供給範囲は超えている。
普通に飛んでいったら途中で立ち往生だ……。
ここは……アルストロメリアの特殊能力を使うしかない。
なあに、やり方はジンと同じだ。問題無い。
「お元気で……姉さん……跳躍!!」
“ヴウン”
只一度だけ、姉さんの事を思ったが直に振り払った。
そして俺は、皆が待つであろう月軌道に向けて跳躍した……。
管理人の感想
ノバさんからの投稿です。
いやー、何か私まで北辰を見る目が変わってしまいましたよ(苦笑)
やっぱりガイを木連に連れて行くと、違和感なく溶け込むんだろうなぁ
それにしても、カイトはすかっかりイネス先生を信じているご様子で(笑)