俺達は幾つかのチームに分かれて探索を開始した。
 俺はガイとアカツキさんと組んでいるが、ここは全三つのチームの中では一番索敵能力が充実している。
 アルストロメリアは元々試作機であり、全身にデータ収集用のセンサーと実働試験中の特殊ソナーが装備されている。
 開発者はどんな人間が乗るか知ってか知らずか、ロングレンジでの補足能力よりも中・近距離における目標追随性能を優先している。
 お陰でどれだけ高速で動き回っても、確実に目標を捕らえ続ける事が出来る……小惑星帯での迅速な捜索活動にはうってつけなのだ。
 またアカツキさんのスーパーエステは指揮官用として各種センサーの性能が向上している。ガイは……それに加え“勘”というものが非常に強力なのだ。曖昧かと思うだろうが、ともすれば攪乱されがちな電子機器よりかは、マシという事が多々あるのだ。
 そしてそれは今回もそうだった。

「待った。センサーに反応……データに無いタイプだ、本当に新型を持ち出してくるとは」
「こちらのパワーアップを見越してあちらもか! くぅ〜燃える! で、どうする?」

 ここで突っ込まない辺り、ガイも格段に成長している。
 索敵装置に引っかかったのは三機……全部で七機いる様だが残りの四機はこちらの現在地からは大きく離れている。
 まだこちらの存在には気がついて居ないようだが……残りの四機の進行方向上にはリョーコさんらのチームが。
 あんまりちんたらやってリョーコさんらが不意でもつかれたら大変だ。

「こうなったら速攻あるのみだね。誰か一人が敵の意表をついて奇襲、一機に注意を引かせた所で残りの二機が参戦する……三人同時でやるよりかはいいと思うが、どうだい?」 
「ならば俺が行きますアカツキさん。ボソン・ジャンプでの奇襲は木連の十八番……自らの戦法を味あわせてあげますよ」
「おーし! ならば俺は歌でも歌って士気を上げるか! ゲキガンガーのOP歌ったら驚くだろうなぁ」
「おいおい……っていいねそれ。作戦を一部変更しよう。ヤマダ君、君は大いに歌ってくれたまえ」      
「ダイゴウジ=ガイだってんだろロンゲ……まあいい、木連の連中を俺の歌で聞き惚れさせて……」
「いや混乱させるのさ」

 そうやってアカツキさんは冷やかすが、実は本心ではない。
 ガイという地球の戦士が、木連に最も解りやすい形でメッセージをぶつけるのだ。
 その効力は、下手なジャミングやハッキングの比ではない。これは立派な、ガイなりの戦い方なのだ。 
 その後二、三の打ち合わせを行った後、それぞれの襲撃ポイントに散る。

「さていよいよだ諸君……準備はいいかい?」
「イメージの構成は概ね完了。後は……」
「あーテステス。こっちもオッケーさ! さあ! 俺の魂の歌声を聞けぇ!!」

『夢が明日を呼んでいる 魂の叫びさレッツ・ゴー・パッション!いつの日か平和を 取り戻せこの手に!レッツゴー・ゲキガンガー3!!』

 ちなみにこれ、単に外部スピーカーで流しているだけではない。
 アカツキさんはこの音源をソースとし、多チャンネルで電波を発していたのだ。
 ガイの歌を幾つかの音源スペクトルに分解し、それにコピー&ペーストを繰り返し再構成。更にそれに変調をかけて流しているのだ。
 相手がまともな通信装置を持っているならば、急に通信量が増大した事により、自分達が一個中隊規模の部隊に囲まれたと誤認するだろう。

「真相がたった一人の熱血バカだと解ったら、敵さん頭に来るだろうね……」
「全くです……ですが、気付くのはもう少し先のようで」

 俺が捜していたのは敵の正確な位置である。
 テンカワさん達ならば、“ああ、ガイか”の一言で済むだろうが、木連の人間にとって聖典ゲキガンガーが戦場で流れる……しかも敵側からという事実は衝撃的なのだ。
 ああそうかの一言では、絶対に終わらない。案の定、通信量が急に増えたポイントがあった。敵はそこにいる。
 断片的な会話の切れ端から判断するに……女か。
 男だったならばもっと困惑しただろうに……残念だ。

「座標特定完了。では行って来ます」

 通信位置から算出したデータを基に、俺は敵がいるであろうポイント目掛けて跳躍した。



『知ってるかい?地球の宝は君たちさ 守りたい この自由と輝きを……』

「な、何でこれが今……!」
「しかもこれ、肉声じゃないか?! 一体だれがこんな事を」
「敵のトラップにかかった?! しかもこんな卑劣なやり方……」

「漢の魂の声を、そんな風にしか取れないとはな。残念だ」

『!!』
“シャン”


 ジャンプは終了した。
 ついでに言うとようやく木連が使用する周波数に、合わせる事も完了した。
 かつての俺ならば、奇襲によって悲鳴も上げさせずに三機を殲滅していただろう。
 だが……テンカワさんと誓った以上、なるべくは殺したくない。
 威嚇の意味を込めて錫杖を振っただけで若干後ろに下がろうとするのだ……どうやら、向こうも積極的な殺意は無いらしい。

「し、漆黒の戦神?!」
「確かに機体は黒いが違う……俺の名は、カイト。お前達をナデシコに行かす訳にはいかない」
「戦場で名前を名乗るなんて……一体何を考えて」
「知ってる奴と殺し合いはしたくない、と? 生憎俺は今、戦争だけをやってる訳じゃ無いんでね」
「え?」

“ゴッ!”
「?! 伏兵!!」

 こちらに注意を引きすぎたな。背後から隕石に隠れつつ迫っていた二人に気が付かないとは。

「サンキューカイト君! 素敵な子を紹介してもらってさ! 後は僕に任せたまえ!! 落としてみせるさ!」
「お前らぁ! 俺の歌を聴いてくれ〜!!」
「囲まれた?! クッ、先行した百華達を呼び戻す時間は……万葉、零夜! ここで食い止めるわ!」

 アカツキさんとガイの出現に対し、即座に散開を指示する敵リーダー。
 通常、戦力の分散はなるべく避けるべき事態だが、こう遮蔽物が多くては一対多数に持ち込むのは難しい。
 こっちの奇襲も、単に相手に動揺を与えるだけの仕掛けに過ぎない。数の上で同等である以上それほどのリスクは伴わない筈だ。
 このメンバーならば……。

「下手な鉄砲数撃ちゃ当たるってね!」


 アカツキさんの名誉の為に行っておくが、彼の腕はナデシコのエステ隊の中でもトップクラスだ。
 無論テンカワさんは規格外だが。
 それでも当たらないというのは、敵機「神皇」の性能に問題がある。
 六連や夜天光と並行して開発されていただけあって、傀儡舞こそ不可能にせよかなり高い運動性能を誇っている。IFSが搭載されていない分全てはパイロットの反射神経にかかっており、操縦桿の遊びも殆ど無い。
 アカツキさんが追っている隊長機の動きを見る限り、かなり神皇に対し順応した動きだ。
 小惑星やデブリを上手く遮蔽物として利用している。だが……。

“ドン! ドン! ドン! ドン!”
「……!! 小惑星を貫通して来る!!」


 十倍増しの性能は伊達ではない。
 それはエネルギーゲインにも言えることで、アカツキさんが使っているレールガンは豊富なエネルギーをふんだんに使用する事が出来、これほどまでの大火力を有する事になったのだ。
 しかも我武者羅に射撃しているのではなく、ちゃんと遮蔽物をかわすコースも頭に入れているのだから流石だ。
 相手も反撃を試みて火器を使用するが、それらは全部小惑星に阻まれてしまっている。

「やっぱり男なら格闘戦さ!」

 それは戦闘と言うより決闘に近いだろうか。
 キャノンもミサイルも盛大に使い切って周囲の小惑星を一掃し、思う存分大暴れしているのだ、ガイは。
 地形を利用する事も大事だが、自ら地形を変えてしまうのもまた妙案である……流石に市街地ではやらないだろうが。
 そうして身軽になった所で勝負をかける……だが、リボルバーの銃底までぶつける事は無いのでは?

「私は女だ!! クッ!」  

 フィールドを纏った拳が唸りを上げ続けている。相手は防戦一方か。
 あれだけの超近距離での戦闘は、慣れがなければ絶対にこなせないからな……。

“ガッ!!”
「う、うわっ……! シミュレーターとは大違いだよ……強すぎる!」

「強すぎる? 違う、お前の太刀筋が軟弱なだけだ!!」

 さて、俺はと言えば残った一機の神皇を相手にしているが……他の二機に比べこの機体、気合が足りないのではないか?
 いや、本当……己の力を生かしきれていないと言うか何と言うか……。

「そ、それはあなた達を止める為に……」

「止める?! 馬鹿だな、今やってるのは間違いなく戦争なんだぞ?! そんな弱気な態度でどうする! 殺す気で、来い!!」
“ガスッ!”

 相手の装甲目掛け錫杖を突き刺し、両手が空いた所でクローを展開させる。

「さもなくばお前が死ぬだけだ!」
「ぁ……わあぁああああ!!」

 オプションなのだろう。折りたたみ式に薙刀を装備しこちらに向かってきた。
 正に鬼気迫るとはこの事……だがそれでいい。そうでなければ、君は生き残れない!!

“ドゴッ!!”

 ……頭部センサーすれすれの所を刃が横切ったが、こちらの方はクローが完全に神皇の頭部に突き刺さっていた。
 このまま下へと力を込めていけば、コクピット部の装甲までは引き裂けるだろう。

「はぁーっ……はぁーっ……」

「最初からその気迫があれば結果が違ってただろう。戦場では大胆不敵でいるんだな……弱音を見せたら黄泉路に引き込まれるぞ」

 クローを引き抜くと共に、神皇に突き刺さっていた錫杖も返してもらう。

“バキャッ!!”

 ……抜いた拍子に装甲が剥がれたな。

「ヒッ……」
「戦闘能力は奪った。動かないなら何もしない」

 俺の後方でアカツキさんとガイが小惑星の上で様子を見ている。
 むこうも決着をつけたらしい。結果は……言うまでも無いだろう。
 確かに実力と性能では拮抗してはいたが、実戦での場数が物を言ったようだ。
 今回生き残った事で彼女達はより強くなるか、二度と使い物にならなくなるか……恐らく前者だろうな、この宙域を任されている、博士が行動を認めたぐらいなのだから。




“ドゴォォォォォォンンンン……”


 ……その時俺は、嫌な重低音を耳にしてしまった。
 それは、相転移エンジンがその真空を支えきれず、外部空間に重力波を撒き散らす瞬間の音だった……。

『テ、テンカワー!!!』
『アキトさん!!』


 リョーコさんとアリサさんの悲痛な叫びが、ノイズ交じりに響いてきた。
 何だ……一体何が……。

「おいロンゲ!! まだ通信繋がらないのか?!」
「今やってる途中だ! クソッ、調子に乗って電波妨害をやりすぎたか!!」

 二人共先ほどの余裕が消えている……俺も気になる、一体どうなってしまったんだテンカワさん!!

「アカツキさん! 先ほどの爆心地のデータを! 俺が跳んで確かめます!!」
「そうか! よし、頼む!!」

 躊躇う事無く跳んだ俺は……生まれて初めて、この直情的な性格を恨んだ。

“ガン”

「嘘だろ……テンカワさん!!」


 実体化直後に装甲板にぶつかったのは……真っ黒い装甲の破片であった。
 俺はこれが、只単に炭化したどこぞの残骸かと思いたかった。
 だが俺に現実から目を背ける事は許されなかった……俺には、見た情報にフィルターにかけて、頭の中で“無かった事”にする能力は無いのだ。
 これは……ブラックサレナの装甲だ。

「貴様……!!」


 だからこそ、俺は現実を鮮明に見つめようとした。
 そして全ての情報を、単純に目の前の存在へと結びつけた。
 DFSを持ち、キノコのエステバリスに近付いていた赤い悪魔に!

「よくもテンカワさんを殺ってくれたな……!!」

「それは……こっちのセリフだ」

 真紅の羅刹……。
 貴様のその狂気、テンカワさんでさえも呑み切れなかったか……。

「英雄にも死は必然だ。だが、アイツはここで死ぬ必要は無かった。アイツは……テンカワは、俺が止めを刺すべき男だった」

『そう! 私は勝った!! 勝ったのよ!!』

 キノコ、お前何を……。

『私が……私がテンカワ=アキトを倒したのよ!!』

「馬鹿を言え! キノコ如きに倒される人では……」

 そう言いかけて、俺は思い出した。
 戦場では命は等価値なのだ。誰だって死ぬ時は……死ぬ。

「俺から獲物を横取りしたんだ……こいつはな。その代価は払ってもらう!」

「……いらん!!」

“ガシャン!”

 DFSが振り降ろされる寸前、俺はダリアの手に錫杖を打ちつけていた。

「俺に……横槍を入れるかぁ!!」
“ブゥン”

 だが北斗が刃を返した方向には俺は居ない。あるのは真っ二つとなった錫杖のみ。
 俺はその横の、アルストロメリアの片足が乗るのが精一杯程の小惑星に立っていたのだ。

「キノコに何の代価を払わせるつもりだ、北斗!」
「あのタイミングでは望みは無いな。仮に生体跳躍をしたとしても……何処に跳ぶんだ?跳躍はイメージが出来てこそ、初めて可能になる。あの一瞬では、とてもじゃないが跳躍は不可能だな。」
「……」
「一人で言ってるがいいさ。下らん希望という絶望を抱いたまま、お前は俺が殺し……」

「フッ、馬鹿め」

「?!」
「馬鹿めと言っている!! 貴様はテンカワさんの何も解っちゃ居ない。何も理解しようとしていない……まあ自分の事すら知ろうとしないんだ。無理ないか」
「……死ね!」
“ゴッ!!”

「……む!」

 DFSから撃ち出された重力波は、俺に当たる前に隕石に衝突しそのエネルギーを失った。
 地上機動用のレッグアンカーを使い片足を小惑星に固定し、小惑星ごと脚を上げてそれで勢いを殺したのだ。
 小惑星は脆い。だがその構造は一定ではない為、衝撃の拡散は容易である。

「その狂気、呑んでやる……テンカワさんが戻るまでの間だがな」




 現実的には絶望的だが、俺は嘘をつけないし嘘も許さない。
 ……キノコがテンカワさんを倒したと言った時、俺はそれが嘘だと感じた。
 嘘は言った本人のみならず、周囲の空気にも影響されるのだ……あの場にテンカワさんの死の光景はあったが、死の“臭い”が無かった。
 だから……あの人は生きている筈!

「ふん。威勢は良い様だが……お前では蛙の様に破裂するのが関の山だ」   
「蛙は蛙でもガマかもしれないぞ?」

『カイト! 無茶だ!!』

 ようやく通信が回復したようで、リョーコさんの驚愕の声が飛び込んできた。

『その通りだ! カイト君! 僕らが今すぐそっちに行くから君はジャンプして……』
「いや、アカツキさんはリョーコさんらの援護を!」
『お、俺らの心配何か後だろう……ック!!』

 いや、正面からの戦闘の場合神皇とエステの戦力は拮抗してしまう。
 しかもリョーコさんらは今、戦意が通常に比べ遥かに低い。同数対同数であっても押し切られる危険性がある。

「残りの神皇を数で押し切って下さい! それから全員でかかればこっちの生存率も上がります……それまで精々逃げ回りますよ」
『……了解した。気を付けてくれ』

『オイ、コラ待て勝手に決めるなカイ……!!』
“プツン”
「待たせた」
「人を待たせるものじゃないぞ?……まあ許容範囲内だが」

 俺は通信システムを全て簡易モードに設定しなおした。
 これで、よっぽどの事が無い限り北斗の声しか聞こえない。

「逃げる気は無い様だな……いい度胸だ」
「ああ……逃げる気なんか無いさ。俺が……」

“ガシュ!”

「お前を抹消するからな!!」
「吼えたな、虫ケラ!!」
“ゴウッ!”  

 それぞれクローとDFSという獲物があるが、どっちが有利かは一目瞭然だろう。
 しかも向こうは重力波を飛ばすなどという荒業すらやってのける。あれは小型のグラビティブラストに等しい破壊力を持つ……当たれば即死だ。
 それとも肉迫されて紅蓮の刃にアルストロメリアが貫かれるか……どっちにしても、俺はかまわん!
 一人で死ぬ気は無いからな!!

「どうした? 矢張り逃げるのか……腰抜けめ!」

 解らんか?
 俺がキノコやリョーコさんらから出来うる限り距離を離している事を。

「機動ルーチン算出、敵機の慣性機動パターン読み取り開始、スラスターベーンの可変率の演算を……っ! ハンドカノンの照準誤差も並列計算っ! 」

 俺が、アクティブバイオチップ製の頭脳で必死になってその動きを読み取っている事を。

「……? 小惑星群を抜けるか……何を考えているんだ?」

 そして、俺が……!!

「!! 撫子だと?!」

 北斗の後方、そして俺の眼前の向こう側に、ナデシコがいる。
 そこから俺が新たな牙を得んとしている事を!!

「こちらカイトだ! 激我刀を射出してくれ!!」

 この叫び、届く筈だ……! 班長!!

“ゴオッ!!”

「ミサイル?! 違う……」

 そりゃあ、多弾頭ミサイルでも目標遥か手前でバラバラになったりはしない。
 そしてそこから巨大な刀が飛び出して来る事も!

“ガシッ!”

 飛来してきた刀を受け取ったアルストロメリアは、一端それを腰のハードポイントに接続する。

「帯刀完了!! 抜・刀!!!」 

 そして鞘と柄に手をかけ、ずらした途端に眩い光が迸った。




「ほお……お前もバーストモードを」
「元々こいつも、サレナシリーズの流れを組んだ機体だ。外部ユニットが無ければ起動できないが、こういう隠し形態も存在する!」

 アルストロメリアの各部関節も異常に電荷が掛かり始めスパークを起こし出した。
 機体へのダメージはもう……班長の鉄拳必須な程になるだろう。
 無事に帰艦できればの話だが。

「ふん。だが只の刀ではな」
「これを見ても本当にそう思えるか?」

“ヴゥゥゥゥン!”
「激しき我を封じ込め、己が悪を断つ刃……名付けて! 激我刀!!」

 DFSと違い、明るい真紅に彩られた刀身は……明らかに鞘よりも長く、蛇の様にしなり始める。

「心刀……地球人が粒子兵器を!!」

「地球人か。果たしてそれはどうかな?」
「ん……? だが、俺ですら動かすのが精一杯のその兵器……貴様が扱え切れるのか?」

「……さあ、な。貴様をここで消去できればそれでよし、だ!!」      

“ゴオッ!!”

 一振りしただけで、北斗の背後にあったデブリが全て爆発四散していった。
 本人は……チッ、無傷だ。

“ピッ!”
『カイト?! 何やってるの?! 駄目……! 駄目だよそれは!!』

「……艦長。リョーコさん達はどうなってます?」

『え? も、もう二機は落としてます! だから大丈夫、無理しなくても……』

「ナデシコを全速で後退させて下さい! 時間切れです……巻き込まれたら只じゃ済みませんよ!!」

 この時点で二機、か。
 先ほどの手応えから考えてもう殲滅できたかと思ったが……駄目か。
 ならば、当初の予定通りやるまでだ。

“グオォォォォォォ……”

 相転移エンジンを積んでいない筈のアルストロメリアが不気味な咆哮を上げた。
 余剰エネルギーを処理し切れないでいるのか……それとも強敵を前にして猛っているのか。

「どうした?! 吼えるだけか?」

 ハンドガンを連射し、しかもそれを一ミリの誤差無く同一ポイントに撃ち込むダリア。
 言うまでも無くその場所はコクピット。だが……いささか遅い。

“ボオッ!”
「止まって見えるぞ!!」

 ハンドガンの弾丸は、全て粒子の熱量の前に蒸発していった。
 普通の刀ならば弾き返すか折れたかしただろう。それ以前に超高速で放たれる弾丸を刀で切り払うなど無理な話だ。
 心刀の桁外れの出力と、IFSならではの、機体操作におけるタイムラグの少なさのお陰である。
 そして……俺自身の反射神経の高さと。

「飛び道具など使っている余裕があるのか?」
「ふん……只の遊びだ」

 めんどくさそうにDFSを構えるダリア。
 こいつ……まだ俺の実力を測れて居ないのか。

「お前……木連の人間でよかったな」
「……何?」
「姉さんや博士を相手にしていたら……とうの昔に死んでいた!!」

“ギュン!!”

 アルストロメリアが駆け抜ける時が来た。
 自らのボディと変わらぬ、漆黒のステージをひたすら突き進む。
 あくまでも真っ直ぐに……寸分足りとも曲がりはしない。 

「この速度で直角機動……死ぬ気か?!」

 どう形容していいものだろうか。
 そう……例えるならば二十世紀後半辺りで世を騒がせた、未確認飛行物体の奇怪な飛び方か。
 減速など一切せず軌道修正に全推進力をつぎ込んだ為にこういった動きになったのだろう。
 ……だが、バーストモードでフィールドが強化されているアルストロメリアはともかく、中の人間はとてつもないGに襲われる。
 顔がむくんだり顔が歪む、などのレベルではない。眼球ぐらい顔に押し込まれてしまうだろう。
 俺は……何とも無い。何せ……。

「耐えてるだと……!! 貴様、人造人間か?」
「やっと解ったか! 俺はな、人の血涙を一滴でも多く代わりに流す……形代(かたしろ)さ!!」
“斬!!

 踏み込みが浅かったのか、檄我刀はダリアの左肩装甲を吹き飛ばしただけであった。
   


「ここまでやってくれるとはな……!」
「何……まだまだ!!」
“ヴォン!!”

 DFSの突きを激我刀で払い、腹部に突き出されようとしていたハンドカノンを左腕クローで引き裂く。

“ドォン!!”

 但し、こちらもハンドカノンの炸薬の暴発に巻き込まれ左腕を失った。
 まあ、その事に気がついた時にはもう、両者共三回は切り合っていたが。

「いらつくな……お前が目の前に“有る”事にとてつもない苛立ちを感じるぞ……!!」
「貴様の苛立ちは、貴様自身に向けられている!」
「黙れ木偶人形! お前如きが親父や……超の様にデカイ顔をするのかぁ! そんな鈍らを振れるだけで!!」

 俺のアルストロメリアを強引に弾き飛ばした後、一瞬だがその動きが止まった。
 何かを、出すようだ。

「羅刹……招来!」
“ゴオォォォォッ!!”

 刹那、ダリアの周囲から爆発的な速度でフィールドが広がっていく。
 相転移エンジンの安全装置を解除したのだ……こちらでの、バーストモードを超える最終形態、“フルバースト”に該当するシステムを、ダリアも持っているようだ。
 しかしこのシステム……完全稼動に関しては最低条件を満たす必要がある。

“ボムッ!!”
「グウッ?!」

 フィールドの範囲が最高域に達した所で、ダリアのエンジン部から小規模の爆発が起こった。
 それによりダリアが大爆発……は無い。こんな時の為に、余剰エネルギーを放出する光翼があるのだ。
 但し、これでダリアはフルバーストの本来の性能を引き出せない。その分のエネルギーは光翼に流れてしまっているのだ。

「どうしたダリア……何をやっている!!」
「俺が考えもなしにこれを振っていたと思うのか?」

 未だに形状が安定しない檄我刀を差して俺が言う。

「粒子(フォトン)はな、相転移エンジンで取り込まれる真空に作用するんだよ……通常使う分には何ら問題は無いが、バーストモードの様に急激な出力変化には耐える事が出来ない!」
「何……!!」

 バーストモードは高出力を求めた結果、機関部のシステム調整が非常にシビアになっている。
 故に少しでも異物が混入すれば……ドカン、だ。粒子混入という特殊状況のみならず、ガス雲内部などでも同様の事態が起こる危険性がある。

「木連に携帯武器としてはともかく、対艦兵器としての粒子兵器が存在しないのはその為さ! 味方の機体に作用する恐れがあったからな……だが地球なら、重力波によるエネルギー供給システムが殆どだからな。問題は、無い」
「……クククク。小細工を、だがまだ終わっていないぞ」

 そう、全力は出せないものの確実にダリアは強化されているのだ。
 この状態でも、俺を倒してエステ隊を皆殺しにし、ナデシコを沈めてもまだおつりが来る。
 ……ここで俺が倒れるか、否かが全ての分かれ道だ。
 俺の奮闘に……リョーコさんや二百名以上のクルーの命運が委ねられたのだ。

「……リミット・ブレイク」
“ゴオオオッ!!”

 この音はアルストロメリアから聞こえるものではない。
 その音源は……手元の激我刀だ。
 あれだけ不定形だった刀身は収束を開始しやがて……見事な反りを持つ刀へと姿を変えた。

「ふうん。見てくれは良くなったようだが……それがお前の全力か?」
“ブゥン!”

 黒い重力波が放たれたのを、俺は不思議と静かに見つめそして……。
 その太刀筋を読む!

“スパァン”  
「な……!!」

 重力波はアルストロメリアの左肩をごっそり持っていった。
 もっともこちらも同様に、ダリアの左腕を頂いていた。至近距離で。
       
 


「リミッターを外すのは何も機体だけじゃない……今の俺には、お前の動きを目で追う事が出来る!」
「追うだけじゃあな!」

 残った右腕で躊躇う事無くDFSを振り下ろすダリア。
 俺もそれに答えるべく刃を切り返して上に凪いだ!

“ガシュッ!!”
「ウッ! き、貴様……」

「惜しかったな。ちょい右だ」

 DFSの刀身は易々とアルストロメリアの胴体を切り裂いていた。
 だがそれは左重力波ユニットを損壊させたに過ぎない。ピットのロック機能にまでは損害を与えなかった。
 そして俺の檄我刀は……ダリアの胸部と顔面に、大きな傷跡を残していた。

“ガシッ!”

 右腕から檄我刀を手放し、変わりにダリアの腕を掴み、更に脚まで使って組み付いた。

「取り付かれたか……! だがそれで勝ったつもりか?!」

“バシュ!”
「……!」

 その時俺は初めて、本気で北斗が息を飲んだように聞こえた。   
 アサルトピットから飛び出し、パイロットスーツ一丁で虚空へと飛び出してきた俺に対し。

「大きさは違えど……威力は大して変わらないぞ!」

 腰に特殊テープで固定してあった心刀を引き剥がすと、そのまま刃と同じ色の装甲へ突き立てる。

“ジュッ!”

 刃が触れた途端に装甲はオレンジ色に変色し、徐々に白くなっていった。
 中にいる筈の北斗は……どうなっただろうなぁ。

「チッ! 何て奴だ……畏れしない、怯みもしない、竦む事も無ければ脅えもしないとは!!」

 普通に……生きていた。

「生まれつきの性分でな……仕方が無い」 
「どう結果が転ぼうと、このままではお前は死ぬぞ?!」
「だからそれがどうしたと言っている!!」

 内部ではスパークが起こっているがそれでもまだ足りない。
 このまま少しずつ力を加え、ハッチを切り裂いていく。

「何故木連に弓引くようになった? 壊れたか?」

 こんな状況でも落ち着いている……踏んだ場数が違うらしい!

「勝てるかどうかも解らない戦争に、全てを賭ける事なんてするか! 戦争での勝利を目的として、俺らは建造されたのではない!!」
「何だと!」
「次の時代を作っていく……新たな世代を守護する為に俺達はいる!! その脅威を排除する為に、俺らは命を捨てる事を躊躇わない!!」
「死ぬのが、怖くないと?」
「兵器だからな! 俺らが恐怖を感じるのは、守るべきものを守れずに只朽ちていく時だけだ! 俺ははその点運がいい……真紅の羅刹という太陽系最大のエラーを、消去する機会に恵まれたのだから!」

 解除されたのは身体的なリミッターだけではなかったようだ。
 人造人間としての闘争本能とも言うべき基本条項、“人の敵から人を守れ”が今、作用してくれているのだ。
 初めて山崎博士に感謝という感情を抱く事が出来そうだ。
 俺を兵器として生み出してくれたお陰で……俺は、大切な人を守れるのだから!

「ハハハハハハハ!! 面白い! 面白いぞ人形!! テンカワがいなくなってガッカリしたが……案外神とやらも気の効いた事をしてくれる」
“プシュウ!”

 ハッチが開く……!
 北斗も白兵戦で俺と決着をつけようと言うのだ。
 ヘルメット越しとはいえ、その顔をここまで間近で見たのは……自慢ではないが人造人間では初だ。
 目も、髪も、身体も……真赤に燃えている。
 殺気が、止め処なく溢れている殺気がそう見えさせているのだ。
 その手には小型の心刀。奴も本気だ。

「さあ決めるぞ?! 来いよ!!」

「北斗、俺と一緒に……逝けぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
『止めろォォォォォっ! カイトォォォォォォォ!!!』

 自力で俺の周波数を発見したのか、リョーコさん……!
 ありがとう!
 貴方の声を聞いたお陰で……。




 俺はこいつと死ぬ覚悟が出来た。


“ヒュン!!”
「ん?!」
「何だ!!」

 後少しで俺の刃が北斗を貫き、そのまま勢いに乗って俺も北斗に突き刺される所だった。

『もう終わりだ。北斗……カイト君』

 俺達を阻んだのは、漆黒に彩られた羽の様なもの。
 しかも一枚ではない。抱き合ったような格好のダリアとアルストロメリアの周囲をぐるぐると……まるで、羽の吹雪の真っ只中にいるようだ。

「くくくく……本当に生きていたとは、な」
『生憎と、しぶとい性格なんでね』

 羽の持ち主であろう、漆黒の機体からその声を確認した途端、俺はニヤリとほくそ笑んだ。
 矢張りキノコは大嘘つきだったのだ。そして俺の勘も……的中した。
 漆黒の戦神は、まだまだここに健在だ!

『さて……もう帰れ北斗。その状態ではまともに戦えまい』
「……いや、まだだ。俺はまだ」

“ブォン!!”
「っ! 俺はまだ殺れる!!」

 不意をつこうと思ったが矢張り駄目か!
 テンカワさんが生きていると解った以上もう遠慮は要らん! 後の事は全てあの人が……。

“シュン!”
「?! テンカワさんどいて!! こいつを殺せない!!」

 赤く発光を続ける羽が俺の前を遮った。何故邪魔をするんだ!!
 ここで仕留めて置かないといつまでも尾を引いてくるぞ! 

「俺の命がこいつの命と引き換えならば……安い! 刺し違える価値は十分だ!!」

『次にそんな事を言って見ろ!! 俺はお前を……絶対に許さない!!』
「?!」
『見なよ、ほら! カイト兄ちゃんが何をしようとしているか!!』

 コミュニケからいきなり見慣れない少女が顔を出して来た。
 子供……か? いやいやいやそこまでテンカワさんも甲斐性ナシでは……。

“ピッ!”

 ……そんな事は、この少女が知らせてくれた惨状で気にならなくなってしまった。

『やめろ……やめてくれ……カイト……』

「リョーコ……さん……」

 喜びと不安が混沌として彼女の表情に存在していた。
 歓喜したいのか、悲壮に暮れたいのか……だが少なく共、悲しみの方が今が遥かに勝っているようだ。
 見るも無残な、姿だった。
 その直接の原因が俺なのだ……俺が死ぬ事で、彼女はどうなってしまうのだ?
 ……想像したくもない。

『本当に守るべき者がいるならば……軽々しく命を捨てようとするな!! 最後まで生き残る努力をしろ!!』

「ふっ、お前も無茶を言う……」

 何故そこで笑う……北斗。

「こいつは俺をここまで追い詰めた……死に物狂いとはまさにこの事だ。賞賛してやろう」
『北斗……』
「人形とは言え、プログラムを動かすのも結局はお前自身の判断だ……中々、頑張ったな。名前を聞いてやる、言ってみろ」

 親子揃って不遜な態度ばかり取る……。
 まあ、いい。もう戦いは終わったのだ。

「カイトだ」
「次逢う時を心待ちにしているぞ……テンカワアキト、そしてカイト。次は殺してくれよ?」

“ゾワッ”

 人より数倍神経系統が丈夫な筈なのに、全身に震えが走った。
 今の言葉、決して冗談の類では無かった……。



 先ほど俺が中破させた神皇も、ダリアと共に帰路についていた。
 その動きはどう見たって北斗を気遣っているようだった……奴にも仲間はいるのだ。
 只それに気付こうとしないだけで……余計なものを背負う事を、弱くなる事だと思っているのだろう。
 だがそれは大きな間違いだ。

「北斗を逃した代償……テンカワさんと俺だけに帰るとは思えませんね」

 半壊したアルストロメリアに戻った俺は、腕を組んでその光景を見守っていた。

「ここで北斗を殺す事は、どうしても俺には出来なかった……北斗は戦いに飢えた男だ。しかし、そこには純粋な戦いの意思しかなく……あの北辰や草壁の様な、邪な感じは受けなかった」
「だから逃した?! 何て事を……闘争本能以外の意志も持たずに戦う奴は只の獣ですよ? 大義と理想の為に悪となる北辰よりも危険だ」
「君はそれで……北斗を人の敵と」

「ええ。あれは木連にも害を与えかねない……テンカワさんが奴との決着を付けたい気持ちは解ります。ですがチャンスがあれば……俺が殺します」
「……君がリョーコちゃんを置いて死なないと約束するならば」
「貴方もね……俺と違って、テンカワさんは待ってる人が多すぎる」

 守るべき人を、死ぬまで守るにはどうしたらいいか……帰ったら高杉副長に指南を請おうか。
 今の俺のやり方では……うっかり死んでしまうかもしれないから。

「あ〜彼にそれを聞くのはどうかと……」
『まーまーいいじゃないアキト兄。面白そうだし』

 ……所でこの少女は一体誰なんだ?
 そしてこの、新型は……。

「ブローディア。『守護』の花言葉を持つ、花の名前だ」
「……俺には一瞬悪魔に見えましたがね」 

 独立したユニットとなっているアーマーが、細身のボディを包み込んでいる。
 背部の翼のお陰で何処か神話めいたイメージすらある。色が相変わらず漆黒なので天使と思うよりも悪魔のイメージが……。

『ひっどーい! こんな可愛い女の子捕まえて悪魔みたいだなんて!!』
『いやディアだしね』
“ドゲシッ”
『どーいう意味それ?!』

「……まさかこれ、人工知能? どつき漫才をする人工知能なんて始めて見た」
「あ、ああ……女の子の名前が『ディア』……ラピスとルリちゃんで作り上げた子だよ。男の子の名前が『ブロス』……メインフレームはハーリー君が作った」
「へぇー。地球の人工知能も侮れない。先輩として驚きを隠せませんよ」
『え? 先輩って……』

「聞くなディア! そんな事……」

「いいんですよテンカワさん。人工知能に間違われるとは……それだけ俺が、“人”に近付いたという事なんでしょう」

 もっとも俺は“人”になりたいとは思わないがな。
 今のままで……何ら問題は無い。今のままだからこそ……誰かを守れる力があるのだから。




「……ところでガイ、キノコは見つかったか?」

 リョーコさんやアリサさん達はダメージが多く帰艦していたが、神皇相手に完勝できたアカツキさんとガイは未だキノコの探索を続行中だった。

『おう! 大丈夫だぜ!! たった今お前が置いていてくれたビーコンを頼りに何とか辿り着いたぜ! でもよ……』
『どうしちゃおっか、これ?』

 アカツキさんから送られた映像には、半壊しながらも未だレールガンを構え続けるキノコのエステ……

『あんな艦に帰るつもりはないわ。それに、連合軍にもね』
「あいつ……まだそんな事を」
「……アカツキさん。キノコに通信を繋いでください」
『どうするんだい?』

「恨みの限りを込めて罵ります」

 で、繋いでもらって浴びせ掛けた第一声は、これまた酷いものだった。

「いい様だなキノコ! これがお前の正義か」
『あ、アンタ……あの化物相手に生き残ったの?!』
「ナデシコの人間はみんなしぶといんだ……お前もな。さあ戻るぞ。裁きが待っている」
『あんな艦に帰るつもりはないわ。それに、連合軍にもね』
「いいや引きずってでも連れて帰ってやる。逃す訳には行かない」

 とは言うが……こいつ、逃げる気なんて全く無いな?

『解ってるわよ、そんな事。ただね、私は否定したかったのよ……一人の人間によって、戦争が操られる事を』
「……」
『テンカワの存在は危険よ……まるで、全てを予見してるかの様に、先手先手を打つ……その新型も、随分前から開発してたんでしょ?……本当に、用意のいい事ね』
「俺もそう思う」

「「……え?」」

 この答えには、キノコもテンカワさんも同時に聞き返していた。

「連合軍にテンカワさんがいるように、木連には超博士が、クリムゾンには天道艦長がいる……贔屓目かもしれないが、この人達は俺達と同じく、歴史を動かす力がある……だがあの人達にそんな自覚は全く無い。あの人達は皆周囲の期待や、切迫する脅威に全力で立ち向かっているだけに過ぎない……その点、テンカワさんは少しやりすぎだと思う。一介のパイロットとしての範疇を超えた、余りに目立ちすぎる行動が多い……これでは、余計な注目と警戒を呼ぶ。現に北辰と北斗はテンカワさんに惹かれてやって来た」
「……っ」

 痛いところをつかれたのかテンカワさんはうめく。
 だがこの通りなのだ。あの親子にナデシコは全滅寸前まで追い詰められていたのだから。
 これも全てはテンカワさんの実力故……。

「だがこれが、テンカワさんの道だ! 俺を含め多くの人間が、これを信じて戦っている! それを……それをお前如きのエゴで潰されては堪らないんだよ!! 気に入らないなら他に別のやり方を捜せばいいだろうに!」

『……結局アンタ、私に何をさせたいの? 憎いなら……殺しなさいよ』
「嫌だね。生きて罪を償うんだな……死ぬ事は俺が許さない」

 憎いからといって殺してしまっては……誰がこいつを罰するのだ?
 裁きを下すのと罪と罰を背負わせるとでは、その重みが違う。
 死んだらそこで終わってしまうではないか。 

『そういえばアンタは……私を罵ったりしたけども、無視だけはしなかったわね……何で?』
「……やる気が無いとは思えなかったからな。そのやる気をあんな形で発露させるとは思いもしなかったが……罪を償ったら、別の所にそのエネルギーを使え」
『私を哀れに思って……情けをかけるつもり?!』
「違うな。俺が情けをかけるならこの場でリタイアさせている……これは俺なりの、お前への罰だ!」




 その後キノコは……素直にナデシコに収容された。
 呼吸器系統にかなりのダメージを負っていたが、イネス先生の手腕により事なきを得た。
 体調が安定してからルリちゃんなどが裁きを下そうと言い出したが、ユリカ艦長とテンカワさんが全力で却下した。
 ナデシコは裁判所ではないし、処刑場でもない。奴を裁くのは……法しかないのだ。
 大体、年端も行かぬ少女に人を裁かせるなど正気の沙汰ではないし。
 キノコは病室にいる間に浴びせられた白い目にも黙って耐え、数日後に連合軍により連行されていった。
 その時の最後の言葉はこうだった。

「忘れないわよ……ナデシコも、アンタの事も……」

 キノコが軍刑務所から出てくるのは、少なく見積もっても三年後だと言う。
 果たしてその頃には、戦争は終わっているのだろうか……いや終わらせないといけない。
 新たな戦神を迎え入れた……俺達で。
 

 
 

 

 

代理人の感想

アキトも大概ですが、読者から見ると超のほうがよほど傍若無人というか悪目立ちというか。

どう考えても一人で木連勝たせる気でいるでしょう、あのひと?

 

>ルリの癇癪

話から置いてけぼりにされたら、そりゃ癇癪の一つも起こしますよ(笑)。

・・・でも、ルリの計画は思い通りに進まないのに超博士の計画は思い通りに進むのがなんともはや。