俺達は幾つかのチームに分かれて探索を開始した。
俺はガイとアカツキさんと組んでいるが、ここは全三つのチームの中では一番索敵能力が充実している。
アルストロメリアは元々試作機であり、全身にデータ収集用のセンサーと実働試験中の特殊ソナーが装備されている。
開発者はどんな人間が乗るか知ってか知らずか、ロングレンジでの補足能力よりも中・近距離における目標追随性能を優先している。
お陰でどれだけ高速で動き回っても、確実に目標を捕らえ続ける事が出来る……小惑星帯での迅速な捜索活動にはうってつけなのだ。
またアカツキさんのスーパーエステは指揮官用として各種センサーの性能が向上している。ガイは……それに加え“勘”というものが非常に強力なのだ。曖昧かと思うだろうが、ともすれば攪乱されがちな電子機器よりかは、マシという事が多々あるのだ。
そしてそれは今回もそうだった。
ここで突っ込まない辺り、ガイも格段に成長している。
索敵装置に引っかかったのは三機……全部で七機いる様だが残りの四機はこちらの現在地からは大きく離れている。
まだこちらの存在には気がついて居ないようだが……残りの四機の進行方向上にはリョーコさんらのチームが。
あんまりちんたらやってリョーコさんらが不意でもつかれたら大変だ。
そうやってアカツキさんは冷やかすが、実は本心ではない。
ガイという地球の戦士が、木連に最も解りやすい形でメッセージをぶつけるのだ。
その効力は、下手なジャミングやハッキングの比ではない。これは立派な、ガイなりの戦い方なのだ。
その後二、三の打ち合わせを行った後、それぞれの襲撃ポイントに散る。
ちなみにこれ、単に外部スピーカーで流しているだけではない。
アカツキさんはこの音源をソースとし、多チャンネルで電波を発していたのだ。
ガイの歌を幾つかの音源スペクトルに分解し、それにコピー&ペーストを繰り返し再構成。更にそれに変調をかけて流しているのだ。
相手がまともな通信装置を持っているならば、急に通信量が増大した事により、自分達が一個中隊規模の部隊に囲まれたと誤認するだろう。
俺が捜していたのは敵の正確な位置である。
テンカワさん達ならば、“ああ、ガイか”の一言で済むだろうが、木連の人間にとって聖典ゲキガンガーが戦場で流れる……しかも敵側からという事実は衝撃的なのだ。
ああそうかの一言では、絶対に終わらない。案の定、通信量が急に増えたポイントがあった。敵はそこにいる。
断片的な会話の切れ端から判断するに……女か。
男だったならばもっと困惑しただろうに……残念だ。
通信位置から算出したデータを基に、俺は敵がいるであろうポイント目掛けて跳躍した。
ジャンプは終了した。
ついでに言うとようやく木連が使用する周波数に、合わせる事も完了した。
かつての俺ならば、奇襲によって悲鳴も上げさせずに三機を殲滅していただろう。
だが……テンカワさんと誓った以上、なるべくは殺したくない。
威嚇の意味を込めて錫杖を振っただけで若干後ろに下がろうとするのだ……どうやら、向こうも積極的な殺意は無いらしい。
こちらに注意を引きすぎたな。背後から隕石に隠れつつ迫っていた二人に気が付かないとは。
アカツキさんとガイの出現に対し、即座に散開を指示する敵リーダー。
通常、戦力の分散はなるべく避けるべき事態だが、こう遮蔽物が多くては一対多数に持ち込むのは難しい。
こっちの奇襲も、単に相手に動揺を与えるだけの仕掛けに過ぎない。数の上で同等である以上それほどのリスクは伴わない筈だ。
このメンバーならば……。
アカツキさんの名誉の為に行っておくが、彼の腕はナデシコのエステ隊の中でもトップクラスだ。
無論テンカワさんは規格外だが。
それでも当たらないというのは、敵機「神皇」の性能に問題がある。
六連や夜天光と並行して開発されていただけあって、傀儡舞こそ不可能にせよかなり高い運動性能を誇っている。IFSが搭載されていない分全てはパイロットの反射神経にかかっており、操縦桿の遊びも殆ど無い。
アカツキさんが追っている隊長機の動きを見る限り、かなり神皇に対し順応した動きだ。
小惑星やデブリを上手く遮蔽物として利用している。だが……。
十倍増しの性能は伊達ではない。
それはエネルギーゲインにも言えることで、アカツキさんが使っているレールガンは豊富なエネルギーをふんだんに使用する事が出来、これほどまでの大火力を有する事になったのだ。
しかも我武者羅に射撃しているのではなく、ちゃんと遮蔽物をかわすコースも頭に入れているのだから流石だ。
相手も反撃を試みて火器を使用するが、それらは全部小惑星に阻まれてしまっている。
それは戦闘と言うより決闘に近いだろうか。
キャノンもミサイルも盛大に使い切って周囲の小惑星を一掃し、思う存分大暴れしているのだ、ガイは。
地形を利用する事も大事だが、自ら地形を変えてしまうのもまた妙案である……流石に市街地ではやらないだろうが。
そうして身軽になった所で勝負をかける……だが、リボルバーの銃底までぶつける事は無いのでは?
フィールドを纏った拳が唸りを上げ続けている。相手は防戦一方か。
あれだけの超近距離での戦闘は、慣れがなければ絶対にこなせないからな……。
さて、俺はと言えば残った一機の神皇を相手にしているが……他の二機に比べこの機体、気合が足りないのではないか?
いや、本当……己の力を生かしきれていないと言うか何と言うか……。
相手の装甲目掛け錫杖を突き刺し、両手が空いた所でクローを展開させる。
オプションなのだろう。折りたたみ式に薙刀を装備しこちらに向かってきた。
正に鬼気迫るとはこの事……だがそれでいい。そうでなければ、君は生き残れない!!
……頭部センサーすれすれの所を刃が横切ったが、こちらの方はクローが完全に神皇の頭部に突き刺さっていた。
このまま下へと力を込めていけば、コクピット部の装甲までは引き裂けるだろう。
クローを引き抜くと共に、神皇に突き刺さっていた錫杖も返してもらう。
……抜いた拍子に装甲が剥がれたな。
俺の後方でアカツキさんとガイが小惑星の上で様子を見ている。
むこうも決着をつけたらしい。結果は……言うまでも無いだろう。
確かに実力と性能では拮抗してはいたが、実戦での場数が物を言ったようだ。
今回生き残った事で彼女達はより強くなるか、二度と使い物にならなくなるか……恐らく前者だろうな、この宙域を任されている、博士が行動を認めたぐらいなのだから。
……その時俺は、嫌な重低音を耳にしてしまった。
それは、相転移エンジンがその真空を支えきれず、外部空間に重力波を撒き散らす瞬間の音だった……。
リョーコさんとアリサさんの悲痛な叫びが、ノイズ交じりに響いてきた。
何だ……一体何が……。
二人共先ほどの余裕が消えている……俺も気になる、一体どうなってしまったんだテンカワさん!!
躊躇う事無く跳んだ俺は……生まれて初めて、この直情的な性格を恨んだ。
実体化直後に装甲板にぶつかったのは……真っ黒い装甲の破片であった。
俺はこれが、只単に炭化したどこぞの残骸かと思いたかった。
だが俺に現実から目を背ける事は許されなかった……俺には、見た情報にフィルターにかけて、頭の中で“無かった事”にする能力は無いのだ。
これは……ブラックサレナの装甲だ。
だからこそ、俺は現実を鮮明に見つめようとした。
そして全ての情報を、単純に目の前の存在へと結びつけた。
DFSを持ち、キノコのエステバリスに近付いていた赤い悪魔に!
真紅の羅刹……。
貴様のその狂気、テンカワさんでさえも呑み切れなかったか……。
キノコ、お前何を……。
そう言いかけて、俺は思い出した。
戦場では命は等価値なのだ。誰だって死ぬ時は……死ぬ。
DFSが振り降ろされる寸前、俺はダリアの手に錫杖を打ちつけていた。
だが北斗が刃を返した方向には俺は居ない。あるのは真っ二つとなった錫杖のみ。
俺はその横の、アルストロメリアの片足が乗るのが精一杯程の小惑星に立っていたのだ。
DFSから撃ち出された重力波は、俺に当たる前に隕石に衝突しそのエネルギーを失った。
地上機動用のレッグアンカーを使い片足を小惑星に固定し、小惑星ごと脚を上げてそれで勢いを殺したのだ。
小惑星は脆い。だがその構造は一定ではない為、衝撃の拡散は容易である。
現実的には絶望的だが、俺は嘘をつけないし嘘も許さない。
……キノコがテンカワさんを倒したと言った時、俺はそれが嘘だと感じた。
嘘は言った本人のみならず、周囲の空気にも影響されるのだ……あの場にテンカワさんの死の光景はあったが、死の“臭い”が無かった。
だから……あの人は生きている筈!
ようやく通信が回復したようで、リョーコさんの驚愕の声が飛び込んできた。
いや、正面からの戦闘の場合神皇とエステの戦力は拮抗してしまう。
しかもリョーコさんらは今、戦意が通常に比べ遥かに低い。同数対同数であっても押し切られる危険性がある。
俺は通信システムを全て簡易モードに設定しなおした。
これで、よっぽどの事が無い限り北斗の声しか聞こえない。
それぞれクローとDFSという獲物があるが、どっちが有利かは一目瞭然だろう。
しかも向こうは重力波を飛ばすなどという荒業すらやってのける。あれは小型のグラビティブラストに等しい破壊力を持つ……当たれば即死だ。
それとも肉迫されて紅蓮の刃にアルストロメリアが貫かれるか……どっちにしても、俺はかまわん!
一人で死ぬ気は無いからな!!
解らんか?
俺がキノコやリョーコさんらから出来うる限り距離を離している事を。
俺が、アクティブバイオチップ製の頭脳で必死になってその動きを読み取っている事を。
そして、俺が……!!
北斗の後方、そして俺の眼前の向こう側に、ナデシコがいる。
そこから俺が新たな牙を得んとしている事を!!
この叫び、届く筈だ……! 班長!!
そりゃあ、多弾頭ミサイルでも目標遥か手前でバラバラになったりはしない。
そしてそこから巨大な刀が飛び出して来る事も!
飛来してきた刀を受け取ったアルストロメリアは、一端それを腰のハードポイントに接続する。
そして鞘と柄に手をかけ、ずらした途端に眩い光が迸った。
アルストロメリアの各部関節も異常に電荷が掛かり始めスパークを起こし出した。
機体へのダメージはもう……班長の鉄拳必須な程になるだろう。
無事に帰艦できればの話だが。
DFSと違い、明るい真紅に彩られた刀身は……明らかに鞘よりも長く、蛇の様にしなり始める。
一振りしただけで、北斗の背後にあったデブリが全て爆発四散していった。
本人は……チッ、無傷だ。
この時点で二機、か。
先ほどの手応えから考えてもう殲滅できたかと思ったが……駄目か。
ならば、当初の予定通りやるまでだ。
相転移エンジンを積んでいない筈のアルストロメリアが不気味な咆哮を上げた。
余剰エネルギーを処理し切れないでいるのか……それとも強敵を前にして猛っているのか。
ハンドガンを連射し、しかもそれを一ミリの誤差無く同一ポイントに撃ち込むダリア。
言うまでも無くその場所はコクピット。だが……いささか遅い。
ハンドガンの弾丸は、全て粒子の熱量の前に蒸発していった。
普通の刀ならば弾き返すか折れたかしただろう。それ以前に超高速で放たれる弾丸を刀で切り払うなど無理な話だ。
心刀の桁外れの出力と、IFSならではの、機体操作におけるタイムラグの少なさのお陰である。
そして……俺自身の反射神経の高さと。
めんどくさそうにDFSを構えるダリア。
こいつ……まだ俺の実力を測れて居ないのか。
アルストロメリアが駆け抜ける時が来た。
自らのボディと変わらぬ、漆黒のステージをひたすら突き進む。
あくまでも真っ直ぐに……寸分足りとも曲がりはしない。
どう形容していいものだろうか。
そう……例えるならば二十世紀後半辺りで世を騒がせた、未確認飛行物体の奇怪な飛び方か。
減速など一切せず軌道修正に全推進力をつぎ込んだ為にこういった動きになったのだろう。
……だが、バーストモードでフィールドが強化されているアルストロメリアはともかく、中の人間はとてつもないGに襲われる。
顔がむくんだり顔が歪む、などのレベルではない。眼球ぐらい顔に押し込まれてしまうだろう。
俺は……何とも無い。何せ……。
踏み込みが浅かったのか、檄我刀はダリアの左肩装甲を吹き飛ばしただけであった。
DFSの突きを激我刀で払い、腹部に突き出されようとしていたハンドカノンを左腕クローで引き裂く。
但し、こちらもハンドカノンの炸薬の暴発に巻き込まれ左腕を失った。
まあ、その事に気がついた時にはもう、両者共三回は切り合っていたが。
俺のアルストロメリアを強引に弾き飛ばした後、一瞬だがその動きが止まった。
何かを、出すようだ。
刹那、ダリアの周囲から爆発的な速度でフィールドが広がっていく。
相転移エンジンの安全装置を解除したのだ……こちらでの、バーストモードを超える最終形態、“フルバースト”に該当するシステムを、ダリアも持っているようだ。
しかしこのシステム……完全稼動に関しては最低条件を満たす必要がある。
フィールドの範囲が最高域に達した所で、ダリアのエンジン部から小規模の爆発が起こった。
それによりダリアが大爆発……は無い。こんな時の為に、余剰エネルギーを放出する光翼があるのだ。
但し、これでダリアはフルバーストの本来の性能を引き出せない。その分のエネルギーは光翼に流れてしまっているのだ。
未だに形状が安定しない檄我刀を差して俺が言う。
バーストモードは高出力を求めた結果、機関部のシステム調整が非常にシビアになっている。
故に少しでも異物が混入すれば……ドカン、だ。粒子混入という特殊状況のみならず、ガス雲内部などでも同様の事態が起こる危険性がある。
そう、全力は出せないものの確実にダリアは強化されているのだ。
この状態でも、俺を倒してエステ隊を皆殺しにし、ナデシコを沈めてもまだおつりが来る。
……ここで俺が倒れるか、否かが全ての分かれ道だ。
俺の奮闘に……リョーコさんや二百名以上のクルーの命運が委ねられたのだ。
この音はアルストロメリアから聞こえるものではない。
その音源は……手元の激我刀だ。
あれだけ不定形だった刀身は収束を開始しやがて……見事な反りを持つ刀へと姿を変えた。
黒い重力波が放たれたのを、俺は不思議と静かに見つめそして……。
その太刀筋を読む!
重力波はアルストロメリアの左肩をごっそり持っていった。
もっともこちらも同様に、ダリアの左腕を頂いていた。至近距離で。
残った右腕で躊躇う事無くDFSを振り下ろすダリア。
俺もそれに答えるべく刃を切り返して上に凪いだ!
DFSの刀身は易々とアルストロメリアの胴体を切り裂いていた。
だがそれは左重力波ユニットを損壊させたに過ぎない。ピットのロック機能にまでは損害を与えなかった。
そして俺の檄我刀は……ダリアの胸部と顔面に、大きな傷跡を残していた。
右腕から檄我刀を手放し、変わりにダリアの腕を掴み、更に脚まで使って組み付いた。
その時俺は初めて、本気で北斗が息を飲んだように聞こえた。
アサルトピットから飛び出し、パイロットスーツ一丁で虚空へと飛び出してきた俺に対し。
腰に特殊テープで固定してあった心刀を引き剥がすと、そのまま刃と同じ色の装甲へ突き立てる。
刃が触れた途端に装甲はオレンジ色に変色し、徐々に白くなっていった。
中にいる筈の北斗は……どうなっただろうなぁ。
普通に……生きていた。
内部ではスパークが起こっているがそれでもまだ足りない。
このまま少しずつ力を加え、ハッチを切り裂いていく。
こんな状況でも落ち着いている……踏んだ場数が違うらしい!
解除されたのは身体的なリミッターだけではなかったようだ。
人造人間としての闘争本能とも言うべき基本条項、“人の敵から人を守れ”が今、作用してくれているのだ。
初めて山崎博士に感謝という感情を抱く事が出来そうだ。
俺を兵器として生み出してくれたお陰で……俺は、大切な人を守れるのだから!
ハッチが開く……!
北斗も白兵戦で俺と決着をつけようと言うのだ。
ヘルメット越しとはいえ、その顔をここまで間近で見たのは……自慢ではないが人造人間では初だ。
目も、髪も、身体も……真赤に燃えている。
殺気が、止め処なく溢れている殺気がそう見えさせているのだ。
その手には小型の心刀。奴も本気だ。
自力で俺の周波数を発見したのか、リョーコさん……!
ありがとう!
貴方の声を聞いたお陰で……。
俺はこいつと死ぬ覚悟が出来た。
後少しで俺の刃が北斗を貫き、そのまま勢いに乗って俺も北斗に突き刺される所だった。
俺達を阻んだのは、漆黒に彩られた羽の様なもの。
しかも一枚ではない。抱き合ったような格好のダリアとアルストロメリアの周囲をぐるぐると……まるで、羽の吹雪の真っ只中にいるようだ。
羽の持ち主であろう、漆黒の機体からその声を確認した途端、俺はニヤリとほくそ笑んだ。
矢張りキノコは大嘘つきだったのだ。そして俺の勘も……的中した。
漆黒の戦神は、まだまだここに健在だ!
不意をつこうと思ったが矢張り駄目か!
テンカワさんが生きていると解った以上もう遠慮は要らん!
後の事は全てあの人が……。
赤く発光を続ける羽が俺の前を遮った。何故邪魔をするんだ!!
ここで仕留めて置かないといつまでも尾を引いてくるぞ!
コミュニケからいきなり見慣れない少女が顔を出して来た。
子供……か?
いやいやいやそこまでテンカワさんも甲斐性ナシでは……。
……そんな事は、この少女が知らせてくれた惨状で気にならなくなってしまった。
喜びと不安が混沌として彼女の表情に存在していた。
歓喜したいのか、悲壮に暮れたいのか……だが少なく共、悲しみの方が今が遥かに勝っているようだ。
見るも無残な、姿だった。
その直接の原因が俺なのだ……俺が死ぬ事で、彼女はどうなってしまうのだ?
……想像したくもない。
何故そこで笑う……北斗。
親子揃って不遜な態度ばかり取る……。
まあ、いい。もう戦いは終わったのだ。
人より数倍神経系統が丈夫な筈なのに、全身に震えが走った。
今の言葉、決して冗談の類では無かった……。
先ほど俺が中破させた神皇も、ダリアと共に帰路についていた。
その動きはどう見たって北斗を気遣っているようだった……奴にも仲間はいるのだ。
只それに気付こうとしないだけで……余計なものを背負う事を、弱くなる事だと思っているのだろう。
だがそれは大きな間違いだ。
半壊したアルストロメリアに戻った俺は、腕を組んでその光景を見守っていた。
守るべき人を、死ぬまで守るにはどうしたらいいか……帰ったら高杉副長に指南を請おうか。
今の俺のやり方では……うっかり死んでしまうかもしれないから。
……所でこの少女は一体誰なんだ?
そしてこの、新型は……。
独立したユニットとなっているアーマーが、細身のボディを包み込んでいる。
背部の翼のお陰で何処か神話めいたイメージすらある。色が相変わらず漆黒なので天使と思うよりも悪魔のイメージが……。
もっとも俺は“人”になりたいとは思わないがな。
今のままで……何ら問題は無い。今のままだからこそ……誰かを守れる力があるのだから。
リョーコさんやアリサさん達はダメージが多く帰艦していたが、神皇相手に完勝できたアカツキさんとガイは未だキノコの探索を続行中だった。
アカツキさんから送られた映像には、半壊しながらも未だレールガンを構え続けるキノコのエステ……
で、繋いでもらって浴びせ掛けた第一声は、これまた酷いものだった。
とは言うが……こいつ、逃げる気なんて全く無いな?
この答えには、キノコもテンカワさんも同時に聞き返していた。
痛いところをつかれたのかテンカワさんはうめく。
だがこの通りなのだ。あの親子にナデシコは全滅寸前まで追い詰められていたのだから。
これも全てはテンカワさんの実力故……。
憎いからといって殺してしまっては……誰がこいつを罰するのだ?
裁きを下すのと罪と罰を背負わせるとでは、その重みが違う。
死んだらそこで終わってしまうではないか。
その後キノコは……素直にナデシコに収容された。
呼吸器系統にかなりのダメージを負っていたが、イネス先生の手腕により事なきを得た。
体調が安定してからルリちゃんなどが裁きを下そうと言い出したが、ユリカ艦長とテンカワさんが全力で却下した。
ナデシコは裁判所ではないし、処刑場でもない。奴を裁くのは……法しかないのだ。
大体、年端も行かぬ少女に人を裁かせるなど正気の沙汰ではないし。
キノコは病室にいる間に浴びせられた白い目にも黙って耐え、数日後に連合軍により連行されていった。
その時の最後の言葉はこうだった。
キノコが軍刑務所から出てくるのは、少なく見積もっても三年後だと言う。
果たしてその頃には、戦争は終わっているのだろうか……いや終わらせないといけない。
新たな戦神を迎え入れた……俺達で。
代理人の感想
アキトも大概ですが、読者から見ると超のほうがよほど傍若無人というか悪目立ちというか。
どう考えても一人で木連勝たせる気でいるでしょう、あのひと?
>ルリの癇癪
話から置いてけぼりにされたら、そりゃ癇癪の一つも起こしますよ(笑)。
・・・でも、ルリの計画は思い通りに進まないのに超博士の計画は思い通りに進むのがなんともはや。