「ハハハハ! どうした?! 前の勢いが無くなっているぞ?!」

「死ねん理由が出来たからな……色々と」

「怖気付いたのか?」

「いいや、色々ある理由を一つだけ教えよう……お前なんぞ刺し違える価値もないと気が付いたからだ!!」

「ぬかせ!」


“ブンッ!”


 私達が駆けつけたその時には……残念ながら戦いは始まっていました。
 しかし相手が違う。……枝織ちゃんではなく北斗君、テンカワ=アキトではなくカイトなのです。
 月で出会った時より更に実力が向上している様で。
 飲み込みが早いのかそれとも、“覚悟”を得たのか。


“パシッ”
 


 今の彼には北斗君の拳をも受け止められる闘志がある。
 昔から何の為に命を燃やすか良く理解していましたからね。
 ただ一人の家族の為から、大切な人とその居場所へと守る目的を変えながらも……。
 彼はその本質を殆ど変えていません。それでいて得た物学んだ事を、しっかりと身につけているようですが。


「しかしまあ、こういう斬り合いも中々おつなものだな……一撃で指が飛び、骨は砕け、内臓は沸騰し血も粉となる……緊張感を味わうにはもってこいの獲物だな、心刀は……」


 そろそろ、ですね。
 北斗君が言う緊張とやらが現実の物となりそうですから。



『所詮獣には我等が正義など解せぬ!!』

「「何!?」」


 月臣君の一喝により、一瞬ながら二人の動きが止まる。
 確かに身体的な実力差はあるでしょうが、月臣君は決して北斗君に負けてはいない。
 全てが計画済の一方的な虐殺を主とした北斗君とは違い、年も、男女も、力も知恵も全てが思い通りにならず無力となり、消えていく戦いを潜っているのですから。


「愚かなり! 真紅の羅刹!!」

「つ、月臣少佐!!」


 月臣君の声を聞き、ぱあっとウツキの顔が晴れていきます。
 豪州でも二人して多くの苦難を乗り越えて行ったのでしょう、互いに親愛の笑みを浮かべています。


「確かに破壊と混沌の果てにこそ新たなる秩序は生まれる……しかし、はなから再生の意思無き貴様には秩序を担う資格などない!!」

「月臣元一朗か……随分と長い間見なかったな」

「ああ。今は友と離れ、木星と離れ、そして今は舞歌様の影」

“ヴォン!”



 遂に心刀を起動させる月臣君。
 ……しかし身体機能の面では、残念ながら北斗君には及ばない。
 正々堂々なのは結構ですけど、それでは……ね。


 
「テンカワ=アキトに拘り過ぎたのが仇となったな! ここは本来乱無き穏やかな場所……おとなしく投降せよ」

「しない場合は?」

「地獄へ行ってもらうしかありませんねえ」


 そこで私の出番。
 卑劣漢は一人で十分なのです。





「超! 何故お前がここにいる!!」

「お仕事です」


 月臣君よりも一歩前に出て、彼の殺気を一身に受け止める羽目に。
 実を言うと怖いです。
 叩っ斬られるのもあれですが、うっかり北斗君を殺してしまったらどう舞歌さんに顔見せすればいいやら。
 普通に戦えばまず返り討ちでしょうが、どんな方法でも使っていいならば北斗君も漆黒の戦神もさほどの脅威ではありません。
 本当に怖いのは技術力の暴走……核とか、チューリップ落としとか、無人兵器とか。
 直接手を汚さない攻撃手段がどれだけ残酷か、それは歴史が物語っています。
 最悪なのはそういった犠牲を、忌むべき事と見られなくなり数字でしか見なくなる事でしょうね……。


「北斗君、幾らなんでも長居し過ぎました……そろそろ守備隊も体制を建て直し何らかの対策を講じるでしょう」

「そんな雑魚俺の敵では……!」

「君はそうでしょうが零夜さん達はまず生き残れない」


 のれんに腕押しですが、少なくとも馬耳東風ではない。
 彼はそこまでお馬鹿では無い筈……そして仲間を見捨てるほど冷酷でも。


「邪魔するな! 後5分、いや数分で片を……!!」

「未だテンカワ=アキトに指一本触れていない状況で?」

「ならこいつらを下げろ! 鬱陶しい!!」

「私にそんな権限があると? それに舞歌さんに君とテンカワ=アキトの戦闘を阻止するよう依頼されていますし」
 


 いかん、興奮のせいで判断力が失われつつあります。
 そりゃ目の前に格好の獲物がいるのにおあずけを喰らっては、落ち着かないのも無理は無い。
 


「とにかく帰るのです。機会は生きている内には幾らでも訪れます!」

「二の太刀は考えない主義なんでな……!!」


 ……どうあってもここでしたいのですね、やれやれ。
 木連での生活はよっぽど飢えていたのでしょうが、その暴走、捨て置くわけにも行きません。




 


「聞き分けの無い人は困りますね……イツキ」

「はっ!!」

“バチッ!!”

「?!」   


 弾より速いぐらいの速度で、イツキが踏み込んでいきます。
 彼女は身体能力のみならば北斗君を上回っている部分がある。
 それに心刀のリーチから考えても、余程の事が無い限り一撃で終わる事は無い。


「今のうちにこれを」

「博士、これは……!」

「麻酔弾が装填してあります。山崎ラボで使用されているものと違い、安全性は実証済みです」


 そう言って月臣君に黒光りするリボルバーを手渡すと、その視線をイツキと北斗君に向きなおします。


「ええいっ! どけっ!!」

“バッ!”



 イツキがきわどい所で北斗君の斬撃をかわします。
 はためいている藍色のスカートや、なびく真紅の長髪に優雅さすら感じますが、本人達は必死です。
 のんびり見ていては失礼極まりない。女子供を戦わせて高みの見物など!


「博士っ!!」

“ヒュ!”

「はい。任せて下さいな」

“パシッ”


 ですので今度は私の番です。
 男は戦って、未来を守り……女性は生きて、未来を創る。
 逆は無理なのです。だからこそ男は戦わなければならない。
 ……こんな直接的な脅威に晒される人間は稀でしょうが。
 兵士だって戦う相手は“敵”でしかありませんし。



「行きますよ」
  


 空中のイツキから投げ渡された心刀と共に、私自身の心刀も手にします。
 


“ヴン” 
 


 思念が柄に伝わることで、その形状が初めて安定する心刀。
 ……本来この技術を有していた文明では如何なる使用法があったのでしょう?
 単なる日曜工具レベルだったらお笑いです。こちらでは戦争の主力である無人艦も台車程度だったり、地球ではようやく本格投入が始まったディストーションフィールドも雨合羽代わり……。
 矢張り文明というのは技術だけでなく、文明で生きる意識もそれなりに成熟していないとならないでしょう。
 さもなくば、私達の世界の様に悲劇を生み続けるだけです。
 そう、悲劇を……。
 


「お前自らがそれを使うのか……やめておけ。怪我だけじゃ済まないぞ」

「いやそうも言ってられないのでね、こういう場合」


“ヴン”

「な……!!」




 先に発現したイツキの心刀に続き、私自身の心刀も抜き払います。
 使い方のコツさえつかめば“道具”に過ぎないこれらは幾らだって使いようがあります。
 だからこんな器用な真似だって。
 ここまでやるには文明の格差を埋める必要がありますけどね、かなり“時間”を費やして。





「私は一人じゃないんですよ。私の肩には、イツキを初めとした多くの人の願いが篭っている……それが、ほんの少し力を与えてくれているだけです」

「見せ付けてくれるなっ、超!!」

 


 ここまでの騒ぎに広がってしまった以上、早急に彼女に帰ってもらわないとまずい。
 たった一発の銃弾が世界を変えてしまった例など幾らでもあるのです。
 ですが……その銃弾が何時何処で誰が撃ったのか判らなければ、真実は闇の中に沈む。
 いつまでも、という訳はないですが少なくとも今この時は誤魔化せる!
 


“バチッッ!”


 北斗君が使用している小型心刀は、出力は小さいものの粒子が収束している分、熱量が凝縮されています。
 単に力押しで押さえ込むには、彼の技量も考えると一本では苦しい所です。だからこそイツキに心刀を借りた。


「君もやろうと思えば出来る筈なのに……仲間を拒み、恩師を拒み、そして挙句に自分自身をも拒んでいては……」

「貴様っ……!! 本当に殺されたいか!!」


 その前に君は“君自身”に殺されているでしょう。
 そんな虚しい結末、私は望みませんよ……。


「私は君の恩師などではありませんからね。気に入らないなら遠慮なく倒せばいいじゃ無いですか……力づくでね」

“ヒュン!”


 前置きも全く無しにイツキの心刀を放ります。
 受ける刀身が狭くなった事で、私の緊張は増します。
 粒子は、出力次第では粒子同士による干渉を破り突き抜ける事ができる。
 つまり……気を抜けば刀身ごと一刀両断です。


「はああっ!!」



 それは嫌ですからイツキに助けを求めたのです。
 相手の数だけ気が散れば、二人とも助かる可能性が高まりますし。


「無謀な! そんな出で立ちで何が出来る!」

「本気ならば……何時何処で、どんな格好でも戦えるわ!!」  


 頼もしい言葉でしたが、それは北斗君の闘志を煽る結果となってしまいました。 


“バッ!”



 私を強引に押さえ込み、バネの様に後ろに下がり先にイツキへと向かって行く!
 


「させん!」


  
 しかもカイト君が一緒です。
 この二人相手ではいかに北斗君といえど、無傷では……!!


「女の為に死ぬか!!」

「家族の為に死力を尽くして何が悪いか!!」

 
 あの速力ではいかに月臣君と言えど捕らえ切れない……!!
 麻酔は念の為に数発装填されていますが、即効性を持たせるには数発同時に撃ち込む必要があります。
 それにはもう少し動きが止まってくれない事には……その時は、誰かが殺られている可能性大です。


「電光石火!」

“ゴオッ!”


「……!」

“ドムッ!!”


 思わぬ方向からの援護が来ました。
 ウツキが粒子刀の光波を飛ばし、北斗君の進路を阻んだのです!
 ……容量(キャパシティ)に余裕があるとは解っていましたが、ここまで使いこなせるようになっているとは。
 人間闘争の中では、恐ろしく発展するものですね。


「そんな技もあるのか。まだまだこいつも奥深いな……だかそれがどうした? 当たらなければどうというものではない!」

「お前を倒す事が目的じゃない! 時間を作る事だ!」

「なにっ!!」


 その通り。
 王手です、北斗君。






“バムッ! バムッ!!”


「がっ……!」


 このスキを逃す月臣君ではありません。
 がら空きだった背中に向けて的確に麻酔を撃ち込んでいきます。
 
 程無くして北斗君は脱力し、ドサリと地面に倒れ伏せます。


「ご苦労……月臣君」


「そ、そんな……北ちゃん!!」

『北斗様っ!!』


 今回付き合わされた優華部隊の皆さんは、本当お気の毒です。
 余りに飛びぬけた力を持っていますからね、彼と彼女は。
 普通の人間はそれを“異常”なものとして避けがちですが、彼女達は必死になってそれと向き合っている。
 ……その想いを解してくれのは、果たして何時になるのやら。


「効くかどうか不安でしたけど何とかなったみたいですね……麻酔が。それにしてもよくぞ一撃で当ててくれました」

「天道が奴の気を引いてくれたお陰です」


 緊張が解けたとはいえまだ予断を許しません。
 北斗君が倒れた以上、戦力バランスは一気に彼ら側に傾いたのですから。


「さあ、ぐずぐずしてはいられませんよ? 高杉君、急いでこの国から脱出なさい。後の事は私が何とかしてみます」

「う……ですが……!」

「ありがとうございます!さあ高杉殿ぐずぐずせずに……!!」

「ちょ、ちょっと待ってくれ、ってクソッ!」


 躊躇いつつも優華部隊の後に続く高杉君。
 何も出来ないのが歯痒いのでしょうかね? それが“普通”なんですから気にする必要は無いでしょう。
 ……むしろそれを普通と感じ無い連中が“変”なだけで。



「さて月臣君、君はこれからどうします?」
 



 そう言いつつ私は、高杉君達の背後に立ちます。
 こっから先に行って貰われては話がこじれますからね。


「アクア嬢が負傷した以上警戒レベルを引き上げねばなりません。私は暫く此処に滞在します」

「そうですか。では頑張って下さい。お疲れ様でした」

「撤収!」


 そして月臣君とウツキも退却していき、この場にはカイト君と、テンカワ=アキトとその取り巻きのみが残りました。





「まず剣を収めましょう、イツキ」

「……」


 渋々心刀を収めるイツキでしたが、その目は警戒を続けていました。
 対するテンカワ=アキトとその愉快(不をつけてもいいかもしれません)な仲間達も、不承不承ながら銃を降ろします。
 ……そんな両者の中でオロオロと迷っているカイト君だけが、中立と言っていいかもしれませんね。


「貴方が、超新星か?」

「私の噂を聞き及んでいるとはね、プリンスオブダークネス……いや今は漆黒の戦神でしたっけ?」


“ギリッ……”


 
 忘れ難いその仇名を聞いて、彼は歯を剥き出しにして此方を睨み付けてきました。 
 その迫力にはイツキでさえも息を飲んでいます。


「全て見ていました。貴方の和平への試みとやらを……少女と親しげに踊り、少女を追い掛け回し、少女が痛めつけられる様を只見てた。それだけです」

「い、いえそれは誤解です博士! テンカワさんは……」

「自力で動いてなきゃ何の意味も無いんですよ。殆どが他人任せだ」


 カイト君が庇い立てする理由は、あるにはあるのでしょが……それは私達木連の立場からは無意味なものです。
 舞歌さんは甘過ぎて、その境界が曖昧なんですよ……。


「……俺の領分じゃ無かった。だから彼女達に任せ」

「自分には関係無い、向いていない、資格が無い、自信が無い、力が無い……そうやって逃げて、貴方はずっと最強の兵士として君臨するつもりですか? 周囲を巻き込んで」


 以前は“最狂のテロリスト”として名をはせ、周囲の人間を次々と奈落へ叩き込んだこの男。
 本質が変わっていない以上、過ちを繰り返す可能性が大ですね。


「意志無き者には、何もやり抜く事など出来はしませんよ……貴方には本当に和平をする意志があるのでしょうか?」

「何だと……?」


 ……そのテンカワ=アキトの表情を見て、私は諦めて踵を返しました。
 この男は、駄目です。
 私如きの戯言に一々怒りを覚えるようでは、草壁中将相手はとてもとても。
 自分と周囲を全ての基準にしているような人物に、はなから期待したのが間違いだった。
 “あのお方”との約束……意外と早く果たせそうですね。


「次会う時は何処でしょうかね? 我々への降伏協定を結ぶ場か、それとも……」



 しかしテンカワ=アキトには力がある事は確か。
 その力のベクトルを全て一つの目標に費やした時の彼ならば、あるいは……。




「ああそう、やっぱ駄目ですか」


 とんだ舞踏会の幕切れとなりましたが、出席者は丁度良い余興とでも考えていたのでしょうか。
 会場以外のホールやテラスでは話に華が咲いています。
 私もまた北岡先生を探し出し、テンカワ=アキトについて話し合っていたのですが。


「あれは覚悟が足りないね。自分の為に他人を犠牲にする覚悟が……仲良き事は美しきかな、とは聞こえがいいが、この世界じゃ死んだ倫理だ」

「あの男は多くを失い過ぎましたからね。両親はネルガルに殺され、故郷は全滅。犠牲を恐れる気持ちは解らないでもない、が……」

「そんなの皆一緒だって。自分が世界一不幸だなんて思い上がらないで欲しいねぇ」


「思い上がりといえばバール少将も厄介ですね。まるで自分がアフリカを牛耳ってるかのようなあの不遜な態度……私の嫌いなタイプです。しかもシャロン=ウィードリンの意向を、あたかもアフリカ全体の意志として表明しようとしている……」

「グラシス卿が100だとすりゃありゃ1だね。下手に頭が回る分毒になりかねない」

「ごもっとも」


 ……と、熱く政治について語っている様ですが、その実他人の悪口でしかない。
 政治と言うのは他者の欠点を上げ諂い、相手の足を引っ張り合う事で成り立つとは言え……まともな人間ばかりが失われているせいでこのような状態に。
 どうせなら社会の毒だけが消えていけば楽なのでしょうが、そんな事は出来やしま……。


「先生っ!!」
 
「どしたの? ゴローちゃん」  
 


 今までに無い切羽詰った表情で吾郎君が駆け寄って来たのです。
 そしてこの時点で、私は初めてイツキが居ない事に気がつきました。
 また、拗ねちゃったのでしょうか?


「……来賓用の客室から出火です。念の為に避難を」

「えぇ?」


 ボソボソと吾郎君が北岡先生に耳打ちします。
 ここで大声出したらパニック必須ですからね……頭が回りますね、彼。



「おかしいね、ピースランドのセキュリティはほぼ完璧だったのに?」

「完璧なセキュリティなら暗殺者なんて来ませんし、勝手に花火も持ち込めませんよ」
 


 そうして私達は落ち着いてこの場を後にしましたが、その道中イツキを見つける事が出来ました。
 只……。



「ど、どうしました?!」

「ごめんなさい……火の粉が降ってきて」

「いえいえいえ、イツキが無事ならば良いのです!」


「……ん?」



 ああ……折角似合っていたのにドレスが無茶苦茶です。
 あちこち焦げたり穴が空いたり……それほどまでに火の勢いが強かったのでしょう。
 庭園が見えるテラスまで行くと、その凄まじさが見て取れます。
 ……爆薬でも使ったのでしょうかね? 猛烈な勢いで燃え盛っています。
 自動消火システムでは延焼を防ぐのが精一杯で、位置的に消防車両が入り込める場所ではない。
 燃え落ちるのを待つしか無いのか……?


「おや? あれって……」


 闇夜に紛れて解り辛かったのですが、空には炎に照らされた謎の飛行物体がいました。
 漆黒の戦闘機の下に懸架されている人型……ってあれはアルストロメリア?


「オペラグラスか何かありますか?!」
  
「どぞ」


 吾郎君から結構高めなデジタルスコープを借りて覗くと、カイト君がアルストロメリアに搭乗した後、客間が存在する箇所をクローで貫抜いている所を目撃しました。
 そして程無くして腕が抜き払われ……その手の平には煤だらけのウツキと、血まみれのシャロン=ウィードリンが!



「あそこバール少将が宿泊していた部屋に近いっすね」

「じゃテロかな? あれって人の恨みバカ買いしてたからねえ」



 注目すべきはその後でした。
 重傷のシャロンと付き添いのウツキが行った後、アルストロメリアの足元でルリ=オブ=ピースランドとカイトが揉めに揉めています。
 終いにはテンカワ=アキトが仲裁に入った様ですが……これは興味深い。
 あの上で旋回している戦闘機は確か、ブローディアのオプションの一つ。
 テンカワ=アキトが承知するよりも先に、カイトはあれを勝手に使い、外交問題ももろともせずにアルストロメリアを持ち込んだ。
 彼のナデシコでの位置は、意外と高いのかもしれません。


「矢張り不測の事態に、持てる力を全てつぎ込んで立ち向かう人の姿は、見ていて応援したくなりますね……ご覧なさいイツキ、貴女の弟は立派な男に……」
  



 ……しかしこの時、イツキは私の賛辞を殆ど聞いてはくれていないようでした。


 

 

代理人の感想

やっぱ「神の視点」というのは、なんつーか見てて気持ちのいいものじゃありませんね。

人を見下す視点、他人を小馬鹿にする態度、何もかも知っているといわんばかりの傲慢さ。

全知は全能より性質が悪いです。