起動戦艦ナデシコ

MARS ERBE



プロローグ










―???―


「結局・・・現れませんでしたな」


「・・・・」


薄暗い建物の中にに初老の男とメガネをかけた青年が立っていた。
その2人の前には巨人―人型機動兵器―が鎮座している。



「・・・これが我々の終末なんでしょうか」


「ああ。『ヴィスクール』が起動しない以上、我々に勝ち目は無い」


遠くから何かが爆発する音が聞こえる。


「どうするのです?」


一方の男が巨人に視線をうつす。


「『跳ばす』」


「やはり・・・それですか」


「他の『ゾルディア』シリーズはもう跳ばした。後はこの『ヴィスクール』だけだ」


「望みを託す・・・。しかしそれは希望となりうるのでしょうか。あるいはいたずらに・・・」


「分からん。だがこれは操縦者を選ぶ。そうである以上は・・・・・」


そこにさらに大きな爆発音が響く。


「時間がありませんな」


「急ぐぞ。座標指定はこの際どうでもいい。奴らにこれを渡すわけはいかない」


数分後 巨人の姿は消えていた。























―西暦2180年 火星―



少年が立ち尽くしていた。呆然としており、魂が抜けてしまったかのようだ。


周りは炎に囲まれていた。ただ燃え盛り、衰えをみせることはない。


少年はすこしも熱気を感じていないかのようにその場に立ち尽くす。


目の前には肉塊と化した両親が転がっている。


少年はそれを凝視している。涙を流してはいない。なにも感じていない、いや感じられないようだった。


その瞳はただ虚無のみを映していた。



そのどこか不思議な空間に侵入者が現れた。


「くそっ!!間に合わなかったか!!」


すこし年をとった男だった。炎の中を突っ切ってきたようだ。服のあちこちが煤けている。


だが男はそんなことは気にせずに、腹立たしげに、そして悔しげに歯噛みしている。


少年に眼を向ける。


「君が・・・・・くんだね?」


少年はそこで始めて体を動かした。うなずいたのだ。


「私はプロスペクター。君を保護するために来たんだ」


「・・・・・」


少年は何も言わなかった。両親の死骸から眼を離そうとしない。


「私と一緒に行こう。このままでは君も死んでしまう」


それでも少年はなんの反応も示さなかった。


炎がさらに巻き上がる。


男は少年を担ぎ上げた。


「すまない。だが君を死なせるわけにはいかないんだ」


担ぎ上げてもなんの反応も示さない少年とともに男は脱出すべく炎の中に突っ込んでいった。








つづく