起動戦艦ナデシコ
MARS ERBE
第1話
―地球連合軍極東地区第3支部―
「・・・・・・」
ある部屋で青年が机に向かい、読書に耽っていた。
肘をついて、頭を支えている。
どんな本を読んでいるかは窺い知れないが、分厚い本である。
部屋は完全な静寂につつまれていた。
外は快晴なのだろう。暖かな日が入り、青年を照らしている。そんな陽気の中で読書に耽っているのはいささか不健康だと思う。
その部屋には一切の音が無かった。
そこに別の音が混じる。ドアをノックする音だ。
「・・・・・・」
しかし青年が本から目を話すことはなかった。
さらにノックの音が響く。本から目を話すことはない。まさに一心不乱、まるでノックの音など全く聞こえていないかのようだ。
ドアが開く。
外から別の青年が入ってきた。読書に耽る青年に目を向け、ため息をつく。
おもむろに机に近づき、机に1冊置いてあった本を手に取る。
ここまで近づいても全く気づかないことにまたしてもため息をつき、手にとった本を振り上げた。
そして・・・本の角を読書に耽る青年の頭上におとした。
「ぐっ!!!」
目をカッと見開き頭を押さえてうずくまる。
「目は覚めたか?」
「くっ、くっ・・・・・・・・・・マ、マコトか。ああ、それはもうはっきりと。しかし毎度のことだができればもっと普通にだな・・・」
「これが一番てっとりばやいからな」
青年―タニガワ・マコト―は目に涙をためながらの青年の抗議にまったく気にすることもなく言った。
「おまえは読書するふりして寝ているからな。いくら見栄をはりたいからって・・・」
そう、先ほどまで読書に耽っていたと思われた青年は実はずっと眠っていたのだ。
「いやいや、ただ居眠りしているよりも本をひろげていた方が格好がつくだろ?」
「そもそも居眠りしてることが問題なんだよ」
「別にいいだろう?お仕事はちゃんとやってんだから」
こうしてマコトから無理やり読書、もとい睡眠を中断させられるのは一度や二度ではない。
その度に本で殴られてたたき起こされる。もっと手加減してほしいと男は思う。
「で、なんの用だ?」
青年は気をとりなおして言った。
「司令から呼び出しだ」
「・・・なんだろうな」
「とりあえず司令室に行け」
「ふむ、そうしますかね。そうそう、『サファイア』を連れてきといてくれ」
「分かった」
青年の名前はナカヤマ・トウヤ。
地球連合軍大尉であり、極東エリア第3支部で中隊指揮官を務めている。
彼の中隊はデルフィニウムの改造機、陸戦型デルフィニウムを使っている。宙間戦闘用であるデルフィニウムを陸上でも使えるようにしたものだ。完全な四肢を持たせ、より人間らしいフォルムにしている。
武装は元来のものととほぼ同じで右腰にレールガンを備えた程度である。
この陸戦型デルフィニウム、戦闘機よりはマシであった。2年前より侵攻してきた木星トカゲと地球軍の戦闘機では機動性が違う。あまりにボコスカ落とされるので話にならないのだ。
そこで耐久性のあるデルフィニウムが登場したわけである。しかし戦闘機に比べるとコストがかかるので連合軍全体で使われるには至っていない。この陸戦型デルフィニウムが使われだしたのもつい半年ほど前なのだ。
タニガワ・マコトとは入隊してからの付き合いである。同じく大尉であり、別口の中隊の指揮官をしている。無論、陸戦型デルフィニウムを使っている。
―司令室―
「ナカヤマ・トウヤ大尉、入ります」
トウヤが司令室に入る。中にはメガネをかけた40代くらいの男がいた。第3支部司令イワムラ・シンイチ大佐である。
「トウヤ、君に辞令がきている」
「辞令、ですか?」
「ああ。ネルガルの建造した戦艦への出向だ」
「戦艦?・・・いいんですか、一企業が?」
(ネルガル、か・・・・)
「そうだ。民間人だけで運用するらしい」
「軍は許可を出したんですか?戦艦なんでしょう?」
「すでに許可を出しているそうだ。それで軍人を何名か乗せるらしい。その内の1人が君だ」
「なんでまた俺が・・・・」
「わからん。なんでも総司令部のベイティ中将が強く推したらしい」
「あの人が・・・」
ウォーレン・ベイティ中将。トウヤとは1年ほど前に会っている。かなり豪快な人間だったトウヤは記憶している。イワムラ大佐とも面識がある。
「そういうことだ。おそらく君は艦載機のパイロットをやることになるだろう」
「・・・いいんですか?中隊の指揮官がぬけても」
「かまわん。最近は極東も比較的安定しているからな。それに極東本部から何人か補充されることになっている」
「そうですか」
極東地区は他の地区よりチューリップの落下数が少ないためか比較的安全である。それに比べ北米地区や欧州地区はかなりの激戦区となっている。トウヤも応援に駆りだされたことがあるが半端なものではなかった。
「出航は一週間後。佐世保だ」
「わかりました」
「それでだが・・・・・『あの子』はどうする?」
「どうしたものか・・・・・」
先ほどの部屋に戻るとマコトと小さな女の子がいた。
女の子はまだ小学生くらいだろう。だが一般的な子供とは違い、淡い青色の髪に金色の眼をしている。
「なんだった?」
「それがだな・・・・・」
トウヤは事の顛末を話した。
「ほぉ〜。ネルガルがねえ」
「ああ」
「いったい何がやりたいのか・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・トウヤ」
そこで金眼の少女がしゃべる。
「ん、どうしたサファイア?」
「トウヤ、行っちゃうの?」
「・・・・うん、ごめんな。俺は行かなきゃならないんだ」
「私、独りぼっちになっちゃうの?」
案の定、サファイアはトウヤと離れるのを嫌がり、目に涙をためながら言う。
「うっ・・・・・・・。いや、ほら、マコトがいるだろ?」
「嫌。トウヤがいい」
そう言って抱きついてくる。横ではマコトが存在を忘れられていたこととはっきり嫌といわれたことに少々落胆している。
「困ったな・・・・・。マコト、なんとかしてくれ」
「無理を言うな。父親と離れたくないという子供をどうしろというんだ」
我関せずとばかりに眼を瞑っている。
「父親じゃないって・・・・・・まあ似たようなもんだが」
抱きついて今にも泣き出しそうに眼を潤ませてサファイアを見て、トウヤは困惑している。
「まあ、とりあえず今日は帰ろう」
―トウヤ宅―
トウヤの家で夕食後、テーブルに座って話の続きをしていた。マコトはトウヤの向かいに座り、サファイアはトウヤの膝の上に座って絶対離すもんかとばかりにトウヤの服をギュッと掴んでいた。
「連れて行けばいいじゃないか」
マコトがサラッと言う。
「馬鹿いうな。行くのは戦艦だぞ」
「いいじゃないか。ネルガルの戦艦なんだろ。『なんの問題もない』じゃないか
「確かにそうだが・・・・・だがな〜」
「子供を守るのは父親の義務だぞ」
「だから「トウヤ」
まだなにか言おうとするトウヤを遮ってマコトが話す。
「この子は親がいない。どれだけ親にうえているか、お前に分からないわけがないだろう?ましてサファイアはやっと慣れてきたところなんだ」
「・・・・・・・・・・・」
トウヤには両親がいない。幼いころある事故で亡くしているのだ。ほとんど親の顔さえ覚えていない。
だから親を求める気持ちはよく分かる。
「さっきも言ったが仮にとはいえ子供を守るのは親の義務だ。それにこの子はマシンチャイルドだ。置いていって、どこに眼をつけられるか分かったもんじゃない。だが戦艦なら密室だし、どこぞに目をつけられる心配はない。ましてネルガルの戦艦だ」
トウヤは悩む。
確かに傍にいた方が俺としても安心できる。
だが行く先は戦艦なのだ。小さな子供がいるような場所じゃないし、教育的にいいとは思えない。
「トウヤ・・・・・」
サファイアに話しかけられ、思考を中断する。
「私、トウヤと一緒にいたい・・・」
「・・・・・」
「連れて行くしかないだろ、『お父さん』」
「・・・・・・ったく、しかたない、か」
こうしてサファイアはトウヤに同行することになった。
トウヤが優しげな顔をして寝室からでてくる。サファイアを寝かしつけていたのだ。
「寝たのか?」
「ああ。よっぽど不安だったんだろうな。すぐに寝ついたよ」
トウヤがテーブルにつく。
「どう思う?この話・・・・」
トウヤが真剣な顔になって聞いた。
「俺にはなにも分からん・・・・聞いてみればいいんじゃないか?『会長』殿に」
「・・・そうするか」
別の部屋に行き秘匿回線である人物に連絡する。
数秒としないうちにでた。出てきたのは長髪の男だった。
『やあ〜、トウヤ君。久しぶりだね』
ネルガル会長アカツキ・ナガレである。
「・・・・はやいな。お前仕事はいいのか?」
『なに、うちには優秀な秘書君がいるからねえ』
「そんなことだからその優秀な秘書殿の機嫌が悪くなるんだよ」
『いや〜、耳が痛い。イライラしてて困っちゃうよねえ』
カラカラと笑っている。困っているとは思えない。
『で、なんの用だい、トウヤ君?君がなんの用事も無く連絡してくるとは思えないんだけど?』
「今日辞令がきてな。お前のところの戦艦に乗ることになった」
『へぇ〜、すごい偶然だねえ』
驚いたような表情を見せているが、明らかに芝居だ。
「とぼけるな。お前なんかしただろ」
『いやいや、そんなことはしないよ。ただの偶然さ』
「・・・ナガレ」
一瞬真剣な顔になるがすぐにもとのへらへらとした顔に戻る。
『・・・・・分かった、降参。たしかに僕がすこし細工したよ。ベイティ中将にちょっとね』
「やはりな。なにかあるとは思ったが・・・・まあそれはいい。お前戦艦で何をするつもりだ?」
『君はタッチしていなかったからね、知らなくても無理ないか。・・・・・目的は火星、だよ』
「!・・・・・なるほど。そういうことか」
どうやら合点がいったようだ。
『これには君の参加が僕にとっては絶対不可欠だからね。少しばかり小細工をしたのさ。感謝してもらいたいよ』
「ああ。感謝する」
『そういえばサファイア君はどうしたんだい?いつも横にくっついているのに」
「もう寝かしつけたよ。お子様だからな」
『ほぉ〜〜。しっかりお父さんやってるみたいだね」
「まあな・・・・」
『だとしたら後はお母さんが必要だね。トウヤ君、だれかいい人いないのかい?』
「おい・・・・」
『冗談だよ。でも子供には二親が必要だと思うよ?』
「・・・・・・」
(冗談じゃすまなくなりそうなんだよ、ナガレ)
つい最近のサファイアの言葉を思い出し、冷や汗が背中をつたう。
『おっと、どうやら優秀な秘書君が帰ってきたようだ。じゃあね、トウヤ君』
回線を閉じる。
―ネルガル本社会長室―
「・・・こうすることが少しでも贖罪になるからね」
回線をとじた後アカツキはぼそっとしゃべった。
そこに女性が入ってくる。会長秘書エリナ・キンジョウ・ウォンだ。
「会長、ナデシコのクルーのことですが・・・・って全然書類が減ってないじゃない!」
「いや〜ごめんね、エリナ君。」
「ごめんねじゃない!どれだけ溜まってると思ってるの!!」
「まあいいじゃないの。それで、ナデシコのクルーがどうかした?」
エリナは激昂しているがアカツキは軽く受け流す。
「話をそらさないでください!!まずは書類を片付けるのが先です!!」
「エリナく〜ん、あまりイライラすると美容に悪いよ?」
「誰のせいだと思ってるんです!!」
―トウヤ宅―
「そうか・・・・・ついに、か」
「・・・・・・・・」
トウヤはマコトに先ほどのことを話した。
「いよいよ動き出すんだな」
「ナガレも気をきかせてくれるよ。あいつの責任ではないのに」
「それでも・・・そうしたいんじゃないのか?」
「トウヤ・・・・」
寝室からサファイアが出てきた。可愛らしいパジャマを着ている。
「あ〜、起こしちまったか。悪いな、眠いだろうに」
眠たそうに眼をこすっている。
「じゃあ俺は帰るぞ」
マコトが立ち上がる。
「トウヤ・・・早く、寝よう」
「ああ、寝よう寝よう」
「トウヤ・・・・今更だがロリコンはあまり・・・」
「アホか!!」
「トウヤ、ロリコンって何?」
「ロリコンとはな・・・」
「コラ〜!サファイアにいらんことふきこむな!」
「サファイアのような可愛い女の子を・・・」
「私みたいな?」
「ええ〜い!早く帰れ!」
つづく
あとがき
はじめまして、朧雲です。
このSSが処女作品ってことになります。
拙いところがいっぱいでご指摘は多数ありましょうが、そこらへんは徐々に改善していくってことで。
では皆様、よろしくお願いします。
【人物設定】
名前:ナカヤマ・トウヤ
年齢:22歳
特技:読書をしているかのように見せかけて眠ること
備考:幼いころ両親をとある事故で亡くしており、トウヤは親の顔はほとんど覚えていない。
ある人物に引き取られ、地球へと移る。
しばらくその人物に育てられたが、その後、軍に入った。
その戦闘能力は(本人は否定するが)軍内ではトップレベルである。
裏ではいろいろ動いているがが、それを知るものはすくない。
サファイアには滅法弱い。
名前:タニガワ・マコト
年齢:23歳
特技:料理、トウヤを本の角で殴ること
備考:トウヤの親友。軍に入ってからの付き合い。
読書をしているふりして眠っているトウヤをたたき起こすのは彼の役目である。
料理が好きであり、トウヤはよく彼に作ってもらっている。
トウヤの裏の仕事を知るものの1人。
トウヤには劣るものの戦闘能力は高い。
サファイアと仲睦まじく寝食を共にしているトウヤを見てロリコンではなかろうかと心配している(笑)
名前:サファイア
年齢:8歳
特技:特になし 強いて言うならトウヤに甘えることか?
備考:マシンチャイルド。ネルガルの秘匿研究所で生まれた。トウヤに救出され、以来彼と住んでいる。
感情が著しく乏しかったが、トウヤとの暮らしでかなり感情を見せるようになった。トウヤを父親同然に慕っている。サファイアの存在を知っているのはマコトをはじめ数人である。
マシンチャイルドとしての能力は定かではない。
最近どこでふきこまれたか(おそらくマコト)母親がほしいと言ってトウヤを困らせた事がある。
代理人の感想
とりあえず突っ込み。
文脈からして多分「大気圏内で運用できるデルフィニウム」という意味なのでしょうけれども、
「陸戦型」というと空を飛べない、例えば戦車のような機動兵器の事になってしまいます。
実際エステの陸戦型フレームは飛べませんし、戦闘機の代わりになるものでもありません。
対空砲だけじゃ防空はできないのです。
文章は修行しかありませんが、話に関しては・・・・うーむ、新味が無い(苦笑)。
「他人と違う話」を書かないと駄目ですよー。