起動戦艦ナデシコ
MARS ERBE
第2話
―佐世保ドッグ―
ネルガル最新鋭の戦艦ナデシコを眺めているトウヤとサファイア。
「なんというか・・・・斬新なフォルムだな」
「変な形」
それぞれの感想をもらし、サファイアは淡々と辛辣な感想を述べる。トウヤもサファイアと同じことを思っているのだろうが・・・・・まあ、それは大人としての本音と建前というやつである。
そこに1人の男が来た。
「お久しぶりですな、トウヤさん」
「ああ、久しぶり」
ネルガルのSSの長を務めるプロスペクターだ。温和そうな外見をしているがその実力は高い。
尤もネルガルのお気楽会長の補佐をする能力も高い。本人は情けないことだ思っているが。
「おや、サファイアさんも連れてきたんですか」
「この子を置いていくわけにはいかんだろ」
屈んでサファイアに目線を合わせる。
「お久しぶりですね、サファイアさん。お元気でしたか?」
「うん」
プロスはニコリと笑い、サファイアの頭をなで、立ち上がる。
「しかしあなたも乗ることになるとは・・・・会長も気を利かせますな。私はつい先日あなたが乗ることを知ったのですが」
「まったくだよ。俺にとっても寝耳に水だ。あいつのやることはどうも突拍子がないというか」
「ええ。誰にも知らせず、ベイティ中将に根回ししたそうですからな。・・・・贖罪、でしょうな」
「・・・・・・・・・」
場の空気がすこし重くなる。
サファイアが居心地悪げにしているのを見て、プロスがそういえばと話題を変える。
「随分とお早く来られましたね。出航にはまだまだ時間がありますが?」
「俺はどうせパイロットなんだろ?」
「それはもう。なにせパイロットの数は不足しておりますから」
当然です、といわんばかりに言う。
「だから艦載機がどんなものか早めに確認しておきたくてな」
共に戦うわけだからなとさらに続けた。
「左様でしょうな。ですが心配はいりません。わが社の最新鋭の機動兵器を搭載しておりますからな」
それは楽しみだとトウヤは言って、3人はナデシコに入っていった。
―ナデシコ 格納庫―
2体の巨人が並べられている。傍では整備員だろう、せわしなく動いている。
「あれがわが社の開発した機動兵器エステバリスです」
ピンク色と青色の機体がある。デルフィニウムに比べるとより人間らしいフォルムをしている。
「どうですか?デルフィニウムに比べたら遥かに高いポテンシャルを秘めておりますよ」
プロスは自慢げに言うが、トウヤとサファイアは反応はいまいちだった。
「なんというか・・・・あれだな」
「フツー」
「は?」
プロスは呆気にとられている。こういう反応がかえってくるとは思いもしなかったのだ。
「期待させるからもっとドーンとくるインパクトのあるやつかと思ったのに・・・・」
「期待はずれ」
プロスは2人の感想にがっくりしている。
「まあ、冗談はこれくらいにしてだ。俺はどっちに乗るんだ?」
実際は冗談ではなく、本気である。
「はっ、はあ。どちらでもかまいませんよ。色と少し形が違う程度ですから」
「そうか。じゃあどっちにするかな」
トウヤは両機を見比べる。そこをサファイアがトウヤの服をくいくいと引っ張った。
「トウヤ、私空色がいい」
「空色がいいって・・・・またか。サファイアが乗るわけじゃないし、青も似たようなもんだろ?」
「違う。空の色がいい」
トウヤを見上げて断固として主張する。こういうときのトウヤがすることは・・・・
「よし、分かった。空色にしよう。プロス、どっちか空色に塗り替えてくれ」
即刻従順することである。だいたいトウヤとサファイアの関係はこんなものだ。
「相変わらずサファイアさんに甘いですな〜。そうやってデルフィニウムも空色に塗り替えたんでしょう」
プロスが相変わらずの親子関係に苦笑する。この場合甘いと言うより忠実なのだろうがそこは言わぬが花だろう。
「ちょっと待ってください。え〜と・・・・」
プロスは周りを見渡し、エステの足元にいる男を呼んだ。小脇に拡声器を抱え歩いてきた。
「なんだ?」
「すいませんな、お忙しいところに。実はお願いがありまして。どちらかのエステを空色に塗り替えてもらいたいのです」
「はあ?なんでだ?」
「こちらの方の希望でして・・・・」
「ああ〜ん、なんだそいつら?」
トウヤとサファイアに訝しげに目を向ける。
「パイロットのナカヤマ・トウヤ。軍からの出向になる」
「ほぉ〜、軍人さんかい。俺は整備班長のウリバタケ・セイヤだ。よろしく頼むぜ」
「・・・・・・・・」
サファイアはトウヤの足の影に隠れている。
「そっちのちっこい嬢ちゃんは?」
サファイアに目をむける。
「この子はサファイア。少し人見知りをする子でな。すまない」
「ふ〜ん。お前さんの子供かい?」
それにしては随分と若いが、とウリバタケは続ける。
「あ〜〜、まあ、今は俺の子供ということにしといてくれ」
「・・・まあ、いいか。よろしくなお嬢ちゃん」
サファイアに向かって言うが、サファイアはますます隠れてしまう。
ウリバタケは頭をかいて、困ったような表情をした。
「で、なんで空色なんだ?青じゃ駄目なのか?」
「駄目だ。空色」
きっぱりと言う。
「わぁーったよ、ったくこの忙しいときに。・・・・まあ色を塗り替えるくらいすぐだから今からやってやんよ」
「すまない、面倒をかけて」
いいってことよと言ってウリバタケはエステの傍に戻った。
「これでいいか?サファイア」
いまだに足の影に隠れているサファイアに言う。
「うん」
サファイアは嬉しそうな顔をしている。
「それではブリッジの方に参りましょうか。まだ全員揃っていませんが・・・・・いる人とだけでも顔合わせしておくといいでしょう」
―ナデシコ 通路―
「しかし・・・・・俺にとってはプロスも乗っていることも驚きだったな」
トウヤは歩きながらプロスに話していた。
「そうですか?」
「ああ。『仕事』はいいのか?」
「・・・なかなか所在がつかめませんので。しばらくはこちらに専念です。そうそうゴート君も乗っていますよ」
サファイアがビクッと震える。
「・・・・ゴート・ホーリか?」
「そうですが、なにか?」
トウヤが手をつないでいるサファイアを見る。プロスもつられてサファイアを見て、瞬時に分かったような顔になった。
「そうでしたな〜。サファイアさんは彼を怖がっていたんでしたな」
「奴の強面は子供にはなかなか迫力があるからな」
「彼もニコニコしていればいいんですが・・・・・」
恐ろしいことを言うプロス。
(あのゴートがニコニコ?・・・・・・・そっちのほうがサファイアが怖がるかもしれん)
心の中でゴートの顔を思い出しながら失礼なことを考えているトウヤ。そこである人物を思い出した。
「・・・・まさか『アキト』も乗っているのか?」
ネルガルのSSでプロスと同等の実力を持つ青年。トウヤは『裏』にいるとは思えない好青年だと印象にある。
「いえ、彼は乗っていません。本社で待機してもらっています」
「まあ、そうだろうな。さすがにあいつまで動かすわけにはいかんか」
「ええ。それに彼を本社から離そうものなら会長秘書がなんと言うか・・・」
プロスが苦笑する。トウヤはなるほどという顔をして、足を進めた。
―ナデシコ ブリッジ―
トウヤはブリッジ全体を見回した。
「ほぉ〜、ここがブリッジか。あっさりしてるな」
「ええ。このナデシコはスーパーAI、オモイカネによって一元的に管理されていますからな。従来の戦艦のようなゴテゴテとした設備はほとんど必要ないんです」
「へぇ〜」
「あら、その人たちは?」
ブリッジ中段の女性たちがトウヤたちを見て、プロスに尋ねた。
「こちらは軍人でパイロットのナカヤマ・トウヤさん。そしてサファイアさんです」
「ナカヤマ・トウヤだ。よろしく」
「・・・・・・・・」
サファイアはなにもしゃべろうとはしない。
「操舵士のハルカ・ミナトよ。よろしくね」
「私は通信士のメグミ・レイナードです。よろしくお願いします」
「・・・・・・・・」
最後の1人、真ん中に座っている女の子だけはサファイアを凝視していた。
ミナトが不思議がって声をかける。
「どうかした?ルリちゃん」
横から声をかけられ、はっとわれに返る。
「あっ・・・・・・・ホシノ・ルリ、オペレーターです」
「みんなよろしく」
「・・・・・・」
サファイアはなにも言わず、ただホシノという女の子を見ていた。
「私たちには挨拶はないわけ?」
左後ろからかけられた聞き覚えある声にトウヤはすこし驚いた。
「フクベ中将にムネタケ中佐・・・・・お久しぶりですね」
「久しいな、トウヤ君。『月会戦』以来か」
老けたなとトウヤは思った。外見的なものではなく雰囲気が、である。
「お2人もこの艦に?」
「うむ。『月会戦』の後また隠居生活に戻ったんだが・・・・駆りだされてしまったわい」
せっかくゆっくりしておったのにのぉとフクベは続ける。
『月会戦』とは木星トカゲが月にまで侵攻したとき、地球連合軍が総力をあげて迎え撃った戦いである。
無論、トウヤやマコトを含め多くの軍人が参加した。その中に戦意高揚のために『火星大戦の英雄』であるフクベ中将や『連合軍最高の智将』ムネタケ・ヨシサダの息子であるムネタケ中佐も参加していたのだ。第3支部司令であるイワムラ大佐や総司令部のベイティ中将なども参加していた。
激戦の末、なんとか月は防衛したのだが、連合軍はかなりの損害を受けた。この戦いでの連合軍の損害が地球上でのチューリップの蹂躙を許す結果になったといってもいいだろう。
「私も似たようなものよ。極東の第5支部、あそこで楽々としてたの」
サファイアに目を移し、ムネタケは話を続ける。
「・・・・で、あんたその子はなに?まさか実の子供だなんていわないでしょうねえ。いくらなんでもあんたの年齢じゃ無理があるわよ」
またサファイアが、とトウヤは思ったがそうでもなかった。さほど怯えている様子はない。ムネタケのマッシュルームカットを興味深く見つめている。
「いや、ハハ、その話はまたの機会にでも」
トウヤは適当に誤魔化した。
それを察したのか、ムネタケはそれ以上聞かなかった。
「それと私は中佐じゃなくて副提督よ」
「わしは提督だ、よろしく頼むぞ」
「はい、お2人ともよろしく」
と、そこに後ろのドアが開いた。入ってきたのは大柄な男。
「ミスター、生活部の・・・・・・・・ナカヤマ?」
トウヤを見て、すこし目を見開く。サファイアはトウヤの後ろに瞬時に隠れた。
「久しぶり、ゴート」
「あ、ああ、久しぶりだな」
ゴートはどこか動揺している。
「どうかしましたか、ゴート君?」
「ああ、すこし用事があるんだが・・・・・すまない、ミスターの部屋で話そう。先に行っている」
そそくさとブリッジを出て行った。
「なんだ、あいつ?」
「・・・気にしているんでしょう、サファイアさんを」
「あいつがか?」
「以前サファイアさんが自分の顔を見て泣き出した時のことでショックを受けているようで。なにせ『二度目』でしたからな」
「ははあ」
トウヤはそのときのことを思い出した。
半年前
初めてサファイアを会長室に連れて行ったときそこにはナガレ、エリナ、アキトがいた。
ナガレは「いや〜、可愛い子だねえ」と、ニコニコしながらどこか怪しい笑い方をし、
エリナは「きゃ〜!可愛いぃ!!」と、サファイアに抱きついて普段のキツイ秘書像をものの見事にぶち壊すような言動をとり、
アキトは「ハハハ。・・・・・ついにトウヤさん『も』ですか」と、乾いた笑いと同情の視線をよこす。
その後もしばらくナガレの怪しげな笑い声とエリナの暴走でしばし会長室はよく分からん状態になった。サファイアはいきなりエリナに抱きしめられ、困惑していたがすぐになれたようだった。
その場のいっそビミョ〜な雰囲気でサファイアはナガレ、エリナ、アキトにはすっかり慣れてしまっている。
が、会長室の喧騒が収まったその数分後が問題だった。
プロスとゴートが会長室に入ってきた。
そこまでは良かった。だがゴートがサファイアの近くまで来てサファイアを見下ろすように見たのが拙かった。どうもその厳つい顔が怖かったらしい。急に泣き出してしまった。
会長室はしばし混乱していたが、ゴート以外はすぐに察した。
だがゴートは『二度目』だというのにカンが悪いことになにが起きたのかさっぱり分からないようで、
ナガレは「いけないなあゴート君。子供を泣かせてしまうなんて」と、実に紳士的な、だがなにか狙いがあるような言い方をし、、
エリナは「ちょっとアンタ!!サフィーちゃんを泣かせるなんてどういうつもり!!」と、いつの間にやらサファイアをサフィーと呼んでゴートに詰め寄り、、
アキトは「やっぱりな・・・・。『ラピス』のときもこんな感じだったなあ」と、昔のことのように、実際はつい最近のことだったのだが、しみじみと思い出に浸り、
プロスは「ゴート君、笑顔が大切だと以前にも言ったはずですが・・・・・」と、そうなったら極めて恐ろしいことを平気で口にした。
その状態の中、俺は必死でサファイアをなだめていた。幸いすぐに泣き止んでくれたが。
ゴートはどうしてサファイアが泣き出したのかやっと分かったようでしばし呆然としていた。
「あの・・・・ナカヤマさん?」
ルリが思い出に浸っているトウヤに話しかける。
「あっ、ごめんごめん。すこし考え事してて。なんだいホシノさん?」
「サファイアさんって・・・・・マシンチャイルドなんですよね?」
「ああ、そうだよ」
「でも・・・・・マシンチャイルドは私以外にはほとんどいないはずでは・・・」
「まあ、世の中にはいろいろあるってことだよ」
「・・・・・はあ」
ルリは納得していないが、この場ではそれ以上聞こうとしなかった
「ほら、サファイア。ホシノさんと話してくるといい」
「・・・・・うん」
サファイアはとことことホシノさんのところに歩いていく。
トウヤはこれで友達が増えてくれればと思った。ただでさえサファイアには1人しか友達がいないのだから。
「あんたもしっかりお父さんやってるのね」
ムネタケ副提督が感心したようにトウヤに話しかけた。
「それは、まあ」
「・・・・・で、なんなの?あの子。マシンチャイルドなんて・・・・」
サファイアを横目にとらえ、あらためて聞いてくる。
「そこらへんはのちのち話します。今は俺の子供ということにしておいてください」
「・・・・・・そう、分かったわ」
「じゃあ、母親が必要ね」
「なんでそうなる!?」
(ナガレに続いてまたしてもか!)
「なに言ってるの。俺の子供です、母親はいません、じゃあかわいそうでしょ?」
「いや、それはそうだけど・・・・」
「あんた恋人とかいないの?あんたいい男に入る方なんだから少しはモテるでしょ?」
トウヤ自身は少しも気にしていないが彼は美形にぎりぎり入る部類である。その上、エースパイロットなのだ。女性がほっとかないこともないのだが、彼自身そういうことにはほとほと無頓着であった。別に鈍感というわけではないのだが。
ただでさえそれなのに最近ではサファイアにつきっきりである。女性に見向きもしないのだ(ここがマコトがトウヤがロリコンではないかと心配する所以だろう)。それでも彼に好意をよせる女性はいるのだが。
「なかなか結婚できなくてあせっていたあんたに言われたくはないぞ!」
「なっ、なんですって!お、大きなお世話よ!」
大きな声で話を続ける。あまり聞かれたくない会話であろうが、2人にとって幸いなのは中段の女性陣が姦しく話をしていることだろう。すっかりサファイアもとけこんでいる。トウヤたちの話は聞いていない。
「・・・・トウヤくん!」
フクベが突然会話に割り込む。
「な、なんですか、提督?」
「うちの孫なんてどうかね?」
「あんたもか〜〜〜!!」
トウヤはそういえばアキトもしばらくこれで悩まされていたよなあと同じ父親仲間の苦労を知るのであった。
―ナデシコ 格納庫―
トウヤはなんとかあの場に収拾をつけ(逃げ出したとも言う)エステを見に来ていた。サファイアは友達が出来て嬉しいのか楽しそうに話していたので、ブリッジに残してきている。
格納庫には最初来たときとは違い、空色のエステとピンク色のエステがあった。
トウヤは空色のエステの足元に行き、静かにしゃべり始めた。
「・・・・これからお前に命をあずけることになる。長い付き合いになるか短い付き合いになるか、まだ分からないが・・・・仲良くやろうな」
返事がかえってくるわけでもないのに、トウヤはエステに語りかけた。
これははじめてデルフィニウムに、いや戦闘機に乗る時にも彼がやったことだ。いってみれば一種の儀式みたいなものである。
「いつもそうやってんのか?」
「ウリバタケさん・・・」
後ろからウリバタケが歩み寄ってきた。肩を拡声器でぽんぽんとたたいている。
「まあね。機体に向かってなにやら言ってるんでなにをしてんのかと思ったら・・・・」
「これから一緒に戦っていくわけだからな」
「そうか・・・。まあ俺としちゃあ大事に扱ってくれさえすりゃあそれでいい。無論、おめえの命もな」
「・・・・・・」
ウリバタケのメガネの奥には真剣なまなざしがあった。
分かっている。俺は絶対に死ぬわけにはいかない。サファイアのためにも、『あの人』のためにも。
「ところで・・・・・おめえ、ナカヤマ・トウヤっていったよな」
「ああ。そうだけど・・・・」
「じゃあおめえが『蒼穹』なのか?」
「・・・・・まあ、そうなる」
トウヤは『蒼穹』の二つ名で呼ばれている。トウヤはあまりこの呼び名を気に入ってはいないが、サファイアは気に入っている。
「ほぉ〜、お前だったのか。二つ名があるくらいだからもっと屈強な年くった男を想像していたんだがな」
意外そうに言う。
「若いか?」
「ああ。おまえは年はいくつだ?」
「22歳」
「22?若いな。するってぇとやっぱりサファイアってお嬢ちゃんと親子っつうのはますます無理があるな」
「・・・・・」
「ま、詳しくは聞かねえがな。だとするとだ、母「しつこいわ!!」
先手をうってトウヤは叫んだ。なにを言うか、だいたい予想がついたからだ。
「ど、どうかしたか?俺はただ「レッツゴー!ゲキガンガー!!」
「なっ、なんだあ?」
ピンクのエステが急に動き出す。
「誰か乗ってるのか!」
「班長〜、なんか変な男が自分はパイロットだって勝手にエステに乗りこんでいって・・・」
妙な動きを続けるエステ。
「誰だお前は〜!!なに勝手に動かしてやがる!!」
「俺はダイゴウジ・ガイ!ゲキガンガーをこよなく愛する漢だ!」
「なにをわけのわからんことを言ってやがる!はやく降りろ〜!!そいつはまだ調整が・・!」
「諸君たちは運がいい!このダイゴウジ・ガイのスーパー必殺技を目にすることが出来るのだからな!!」
「話を聞け〜〜!!」
「見るがいい!ダイゴウジ・ガイ必殺のぉぉ!!
ガァァァイ、スゥゥパァァァァ、ナッパァァァァ!!!!!」
「だからそれは調整がちゃんと出来てないんだって!!」
エステはウリバタケの忠告を無視して、アッパーの体勢をとった。まあ、しっかりと調整されていないエステであんな真似をすればどうなるか。答えは1つ、こけることだ。
エステは豪快にこけた。
「やりやがった。だから言ったんだよ」
ウリバタケは目をおさえて言った。
トウヤは呆然と眺めていた。場の展開についていけなかったのだ。
エステには見るからに暑苦しげな男が乗っていた。
「いや〜、すっげえよなあ!思ったとおりに動くんだぜぇ!」
「最新のIFSだからな。これさえありゃ子供でも動かせるぜ」
ウリバタケが男の手の甲のタトゥーをさして言う。
「俺はガイ。ダイゴウジ・ガイだ」
「でも、お宅ヤマダ・ジロウってなってるぞ?」
「ヤマダ・ジロウは仮の名前。ダイゴウジ・ガイは魂の名前なのだ!!」
「ああ〜、分かった分かった。分かったから降りろ。この機体はまだ調整がすんでないんだよ」
「なに〜!なぜそれをはやく言わんのだ!」
「お前が人が止めるのを聞かずに動かしたんだろうが!いいから降りろ!」
ヤマダが立ち上がる。だがヤマダの顔色はどんどん青くなっていった。
「ん、どうかしたか?」
「いっ、いやね。足が痛かったりするんだよなあ〜」
「おたく・・・・・・これ折れてるよ」
「なんだとぉぉ!!?」
トウヤはすこし離れてその光景を見ていた。
「なんだ、あいつは?キチガイか?」
かなりひどいことを言っている。サファイアがいないからだろう。サファイアにいらんことを覚えさせないためにこういう言葉を使うのは普段控えているのだ。まあ、その努力も最近ではむなしくなっていたのだが(主にマコトのせい)。
「・・・・・あいつもパイロットなのか?」
先行き不安、だった。この時トウヤはあいつがサファイアに接触しないようにしなければ、と心の中で決意した。
そこに警報が鳴り響く。
―ナデシコ ブリッジ―
「木星トカゲです。現在連合軍が交戦中ですが、徐々に押されています」
ルリが状況を述べる。
「無理もないわね。佐世保の軍支部は戦闘機しかないもの」
「まずいですな〜」
プロス、ゴートもブリッジに戻っている。
サファイアはフクベの横に座って暢気にお菓子を食べている。どうやらブリッジの人間とは仲良くなったようだ。
「艦は発進できないの?」
ムネタケがルリに聞く。
「無理です。マスターキーがありません。ちなみにマスターキーは艦長が所持しています」
「じゃあその艦長は?」
「遅刻です。もう予定時刻なのですが到着していません」
「困りましたな〜」
いまいち困っているとは思えないようにプロスが言う。
「囮を出して、ドッグ周辺に近づけないようにするしかあるまい」
ゴートが当面の指示をだす。
「そこで「囮ならもう出てるわ」
「「「「えっ?」」」」
ルリに台詞を遮られたのは誰であるのかはあえて語るまい。
『そういうことだ』
―エステバリス トウヤ機―
「そういうことだ」
『トウヤさん?』
俺は警報の後すぐにエステに乗り込み、ドッグを通って地上に向かっていた。
「俺が外のトカゲどもを蹴散らして時間を稼ぐ。ホシノさん、敵の数は?」
『バッタなど約60機です』
「・・・・・多いな」
妙だ。ただでさえ戦闘の少ない極東地区なのにそれだけの数が来るとは。・・・このナデシコを狙ってきたとでも言うのだろうか?
『トウヤ、頑張って』
サファイアが応援してくれた。フクベ提督の横に座っているところを見るとすこしはとけこんだみたいだな。
「サファイア。ホシノさんと友達になれたか?」
『うん。ルリお姉ちゃん』
「そうか。ありがとな、ホシノさん。友達になってあげてくれて」
ホシノさんに目を向けて礼を言う。
『いえ・・・・・』
顔にわずかにもみじをちらしている。
『あっ、地上に出ますよ』
「えっ。おわっ!!」
周りを見ると木星トカゲだらけだ。急いでエステをとびだたせ、その場を離れる。
一斉に追いかけてきたが、着地した瞬間にそちらに突進する。
「行くぞ、新しい相棒!」
突出していた1機を思いっきり蹴り飛ばす。蹴り飛ばされた1機は他の数機を巻き込んで爆発した。
「なかなか悪くない機体だ。プロスが自慢することはあるな」
すぐに反転し、敵を引き連れその場から離れる。
『いや、恐れ入ります』
プロスが横にちっちゃく現れる。
「ホシノさん、艦長はきたか?」
『まだです』
こんどはプロスを隠すようにホシノさんがちっちゃく現れる。
「おいおい・・・・・。このまま相手するのか?」
『頑張ってください。60機全部がナカヤマさんのところに集まっているわけではありません』
実際20機も集まってきていない。連合軍が奮戦してくれているようだ。
だが1機で相手をするには少々キツイ。内蔵バッテリーはそんなにもつわけじゃない。
などと考えているうちに敵が接近してくる。
なにか武器はないのかと考えているうちにウリバタケさんがホシノさんとは反対側に現れた。
『トウヤ、ワイヤードフィストを使え!』
「ワイヤードフィスト?どうやって使うんだ?」
『ロケットパンチみたいなもんだ!腕を思いっきり敵の方に伸ばして・・・・叫べ!!』
「なにぃ!!?なぜ叫ばなきゃいけないんだ!!?」
『早くしろ!敵が来るぞ!』
質問には答えず、せかしてくる。
「ええ〜い!やってみるか!!」
もうやけくそである。
「ワイヤードフィストォー!!」
するとエステの右腕半分が飛んで行き、敵にぶち当たる。そのまま殴られた敵機は吹き飛ばされ、その後ろにいた敵を巻き込んで爆発した。ワイヤーで腕が戻ってくる。
「なかなか便利だな・・・・・・ってなんで叫ばなきゃいけないんだ!これはIFSだろうが!!」
音声入力じゃあるまいしIFSなのだから考えるだけでできるはずだ。
『いや、IFSとはいえ初めてやることだからな。叫んだ方がイメージしやすいと思ったんだよ』
もっともらしいことを言っているが微妙に目が笑っている。
「ウソつけ!たんにやらせたかっただけだろ!」
『ちっ、気づきやがったか』
「おいぃぃ!!」
言ってる間にまた敵が寄ってくる。
ここは逃げだな。まだ慣れない機体だ、あまり無理はできない。
「くそっ、艦長はまだなのか!?」
『まだです』
『ちょっとどうなってんのよ!?なんで艦長が大遅刻やらかすのよ!』
『ミスター、これは拙いぞ』
『いったい誰なんですか?その艦長って』
『ミスマル・ユリカ。士官学校の戦略シミュレーションを主席で卒業した女性です』
『ミスマル・ユリカァ〜!?よりにもよってあの世間知らずの親の七光り娘なの!?』
「ああ〜、うるさい!!こっちは必死こいてるのにギャーギャー喚くな!」
遠慮なく撃ってくるマイクロミサイルを避けるので精一杯だ。俺のデルフィニウムだったらなんとかなるだろうが・・・・。なにせ初めて使う機体だし、これには飛び道具がワイヤードフィストぐらいしかない。
『トウヤ、大丈夫なの?』
サファイアが心配そうに話してくる。
「ああ、サファイア。俺は大丈夫なんだが・・・・・内蔵バッテリーがな」
残りあと3分でバッテリーが切れる。そうなればこのエステは敵の格好の的だ。
「どうしたものか・・・・・おっと」
マイクロミサイルの雨が降ってきたが両手のワイヤードフィストで手近の敵機を掴んで投げ飛ばし、防御する。
残り2分。
『ちょっとやばいんじゃない?このままじゃトウヤ君やられちゃうわよ?』
『トウヤ・・・・』
『!新たな反応多数!この反応は・・・・・連合軍機、デルフィニウムです!』
「なにっ!?」
デルフィニウム十数機が一気に接近してくるのが見える。
次々と地表付近に降下し、木星トカゲとの戦闘に入る。最大の武器であるレールガンで木星トカゲを蹴散らしていく。
しかし・・・・どこの部隊だ?このへんにデルフィニウムを配備している部隊はないはずだが。
『無事か、トウヤ!』
「なっ、マコト!?」
現れたのはタニガワ・マコトだった。
『良かった、無事だったか』
「お前、どうしてここに?ご都合主義か!?」
『なにをわけのわからないことを言っているんだ。木星トカゲが佐世保を襲撃していると聞いたからな。イワムラ大佐が一個中隊を見送りついでに出撃させてくれたんだ。久々に輸送機を使ってな』
「そういうのをご都合主義って言うんじゃないのか・・・・?」
話しているうちに戦局は決していた。木星トカゲは殲滅されている。
「まあいいか。なんにせよ助かった」
殲滅後すぐにデルフィニウム隊は撤収していく。
「感謝するぞ、マコト」
『ああ。無事を祈るぞ、トウヤ』
―ナデシコ ブリッジ―
「ふぅ〜〜、これで大丈夫ですな」
「ああ、全くなんてタイミングのいい」
「イワムラ大佐、ね。あの人もおいしいところを持っていくわね」
ブリッジ内に安堵の空気が満ちる。
「味方中隊から通信です。貴艦の航海の無事を祈る、だそうです」
「感謝の言葉をかえしてておいてください」
「はい。了解です」
「よかったのう、サファイア君」
「うん、フクベお爺ちゃん」
サファイアは普通にフクベと会話している。ずいぶんと懐いたものである。これはけっしてフクベに茶菓子をもらって餌付けされたからではない。
「あ、ここだここだ。みなさ〜〜ん、私が艦長のミスマル・ユリカで〜〜〜す!ブイッ!!」
ブリッジに女性が入ってきた。
「「「「「「「「・・・・・・・・・」」」」」」」」
返されたのは・・・・沈黙、そして非難の目。
「あっ、あれ?ここはみんなで「ブイ〜〜っ?」て言うはずじゃ・・・・・?」
「「「「「「「「・・・・・・・・・」」」」」」」」
なにやらよくわからないことを言うがやはり返ってくる視線は同じである。
そこに後ろから1人の青年が入ってくる。
「だからやめろって言ったんだよ、ユリカ・・・・」
「えっ、ええ〜〜。だってだってジュンくん」
「艦長」
プロスがユリカに話しかける。顔は一応笑っているが、目は笑っていない。
「あっ、はい。なんですか」
「ゆっくりと・・・・・・・お話をお聞かせ願いましょうか?」
「はっ、はい」
その言葉は丁寧だが、従わざるを得ないなにかが含まれていた・・・・。
「な、なんだこの状況は・・・?」
ブリッジに戻ると異様な空間がひろがっていた。ブリッジ中段のほのぼのした空間とブリッジ上段の剣呑とした空間に二分されている。前者は主に女性陣そして男性が1人、後者は主に男性陣そして女性が1名である。どうやら説教を受けているようだ。
「あっ、トウヤ〜」
とりあえず先にサファイアのいる中段に行く。そこには見たことのない顔もいた。
「お疲れ様、トウヤ君」
「お疲れ様でした」
「ああ、ありがとう・・・・・で、彼は?」
知らない青年に顔を向ける。
「はじめまして、ナカヤマ・トウヤさん。僕はアオイ・ジュン。副艦長です」
丁寧にお辞儀をする。
「君が副艦長か・・・・・」
「申し訳ありません。僕がはやくユリカを連れてくればそんな苦労することもなかったのに」
「はあ・・・・、ユリカってのはそこの女性かい?」
上段でしゅんとして説教を受けている女性に顔を向ける。
「そうです。ミスマル・ユリカ、艦長です」
「なんで遅刻したんだい?」
「はあ、それが語るのもアホらしいことなんですが・・・ユリカがナデシコ艦内で迷子になってしまいまして」
「はあ?迷子?」
「はい・・・・。戦闘開始直後には佐世保ドッグにに着いていたんです。ユリカは張り切ってナデシコ艦内に入っていったんですがどうも途中で道を間違えたみたいで。一生懸命探したらブリッジとは見当違いの方向の展望台で呆然としているユリカを発見したんです。それでブリッジに行ったらもう戦闘は終了してて・・・・・・」
「それはまた・・・・・」
たまげた方向音痴だな。
「すいません、ユリカは典型的な箱入り娘でして。ほとんど外に出たことがないんです。あるとしたら士官学校ぐらいで。だからいまいち方向感覚というものが欠如しちゃってるんです」
副艦長は俺が思ったことが分かったかのように説明した。
「本当にすみません。僕がはやくユリカを見つけていれば・・・・」
「かまわないよ。結果的には大事には至らなかったわけだし」
「それでもです。本当に申し訳ありません」
深く頭を下げる。律儀な青年である。
「だからいいって、副艦長。本人がいいって言ってるんだから。な」
「はあ・・・・」
「いいんじゃないの、副艦長。これから一緒にやっていく仲間なんだから」
「そう、そのとおりだよ」
「・・・・・はい。では僕はこれで」
そう言って副艦長はブリッジ上段に行って、剣呑な空間に入っていった。
「トウヤ・・・」
「ん、どうしたサファイア?」
「眠い・・・」
眠たそうに目をこすっている。
そういえば夜通し起きていたんだな。戦闘後には朝日が昇っていたし。
「プロス」
剣呑とした雰囲気をパッと打ち消してこちら側を向いた。
「なんですか、トウヤさん」
温和な雰囲気に戻っている。切り替えのはやいことである。
「すまないが俺たちの部屋はどこだ。サファイアが眠たがってるし、俺も疲れた」
「おお、そうですな。トウヤさんの部屋は居住区Aブロックの06室になります」
「分かった」
そして俺とサファイアはブリッジを出て、部屋に向かった。
―ナデシコ トウヤの部屋―
「これはまた・・・・」
広い部屋だった。俺がナデシコにくる前に住んでいた部屋とは大違いである。
とりあえずベッドに座る。このベッドも結構大きい。俺とサファイアが一緒に寝ても十分の広さがあるだろう。
「こんな広い部屋じゃなくてもいいのに・・・」
「どうして?広くていいと思うけど?」
サファイアがベッドに座って不思議そうに聞いてくる。
「う〜〜ん。あのな、サファイア。立って半畳、寝て一畳って言ってな」
サファイアはうんうんと聞いている。
「まあゴートは二畳いるかもしれんが・・・生きていく上で最低限のスペースさえあれば十分なんだ。贅沢になれてしまうと・・・・・って寝てるし」
いつの間にやら寝転がってすやすやと寝息をたてている。
「っとに・・・・・まあいいか。俺も寝るとしよう・・・・」
サファイアに布団をかけ、自身もその横で目を閉じた。
長い長い夜だった。木星トカゲに追い回されたり、武器の名前を叫んだり。
いろいろ起こりそうな航海ではあるが、今は英気を養うために眠るとしよう。
航海は始まったばかりなのだ・・・。
つづく
あとがき
う〜〜ん、なんか滅茶苦茶やっちゃったなあ。
いやはや難しい・・・・。
ユリカについては・・・・・出番を忘れてました(笑)
出しどころがどうも・・・・。
あとがきってなにを書けばいいんだろうと悩む情けない朧雲ですが
次回、第3話も呼んでくだされば感謝感激雨嵐です。
ではでは
代理人の感想
貴様等、そんなに幼女が好きか(爆)。
それともプリンセスメーカー願望でもあるのか!?(爆死)
>出番を忘れてました
本当にぃ〜(笑)?