第6話 サツキミドリ 前編

 サツキミドリ手前の宙域でムネタケ中佐が退艦した時、艦政本部経由で命令がきた。驚いた事に俺は少佐に昇進、ムネタケ中佐の後任で軍事顧問として任官する事になった。

任期はナデシコが地球に戻るまで・・・。戻れる可能性が低いからか階級の大安売りをしてくれたらしい。

 それと俺に副官がついた。どうも今年士官学校を出たばかりの奴らしい。上もむごい事をする・・・。



  モリの日記より




 タチバナミサは自分の軍務生活初めての上官に激しい不信感を抱いていた。19という若さで、それも士官学校もでていない少佐。なのに噂すら聞いたことがない。

この数日観察してみたが、とりたてて優秀な訳でもない。唯一の可能性としては実戦で多大な戦果を挙げたからという事も考えられるが、そもそも技術士官なのだから実戦を経験していない。

 大方上層部の息子で親の七光りだろう、余計なことをしないといいけど・・・。

          

ミサはモリに気がつかれない程度にため息をついた。 

「まもなくサツキミドリとの交信距離に入ります」

 モニターにはごつごつした石の塊が映っていた。ミサが事前に聞いた説明によると、どうやらここで最後の補給を行うらしい。

「サツキミドリ、サツキミドリ、聞こえますか?こちら機動戦艦ナデシコです。聞こえましたら応答願います」

 メグミが微妙に周波数を調整しつつサツキミドリに通信を送る。

『こちらサツキミドリ。感度良好です』

 ややあってかすかな雑音とともにサツキミドリから返信があった。この距離にしては電波状況は悪くなかった。

「これより補給と整備のために入港許可を願います」

『了解。4番ポートへの入港を許可します。それにしても可愛い声だね〜。あとでお茶で――――』

 まず、通信が途絶えた。その半瞬後サツキミドリのからいくつもの爆発が沸き起こった。

「緊急回避!フィールド出力最大!」

 ユリカの命令を聞きながら、ミサは体中にどこからか熱い何かが流れ始めたのを感じた。

「フィールド出力上昇中。サツキミドリの破片が接近してきています」

 ルリの報告にユリカは一瞬回避に全力を尽くすべきかもれないと思ったが、いまだ見えぬ敵影を警戒してフィールドの強化を優先することにした。

ユリカが処理した情報を言葉としてクルーに伝えようとしたとき突然船体を激しい衝撃が襲った。

「・・・・・・右舷ブレードに被害発生」

 いつにもまして表情のないルリが言った。

「ウリバタケさん、修理をお願いします。総員警戒態勢、休憩中のものは直ちに配置に戻ってください」

「ユリカ、僕もいってくるよ」

 ブリッジ内があわただしくなる中、ミサは不謹慎と思いつつも充実感を覚えていた。実戦、訓練の成果を発揮するときは今。

「タチバナ少尉、士官たるもの常にスマートであるべしとは士官学校で習わなかったのか?」

 モリがミサにどこかあきれたように言った。とたんミサの顔面が怒りと羞恥で赤くなる。

「・・・申し訳ありませんでした、少佐」

 ミサが押し殺した声で言う。モリを見るミサの目には殺意すらこもっていた。

常人では身のすくむような視線を完全に無視して、モリはウリバタケの作業を映したモニターに集中した。

『おい、艦長。ナデシコにぶつかったやつだけどな、どうも何か乗ってたらしいぞ』

 ウリバタケの声とともにナデシコと飛来物体―――おそらく脱出ポット―――の接合部がズームアップされる。

           

ズームアップされたその部分は何者かが溶接でもしたのか見事にナデシコと一体化していた。

「ウリバタケさん、修理にどれくらいかかりますか?」

『そうだな。思った以上に被害は酷くない。切り離して穴をふさぐだけなら20分もあれば終わるぞ』

 おねがいしますといって通信をきるとユリカはやや青ざめた顔で言った。

「侵入者がいます。クルーに武器の配布を。」

 保存ロッカーから拳銃がクルーに配られる。ミサは2人分の拳銃を受け取るとモリのそばに歩み寄る。

「少佐殿。どうぞ」

 おおかた使えないだろうから持たせるだけ危険と思いながらも副官の義務としてモリに拳銃を差し出す。

「いらん」

 ミサの差し出した拳銃を一瞥するとモリは言った。

「しかしいざという時には少佐殿を守りきれるとは限りません」

「その必要はない。・・・もう持ってる」

 モリは足元からミサの差し出した拳銃より1まわりほど大きい拳銃を取り出すと鮮やかな手つきで弾倉を取り出し

弾丸のつまり具合を確認して再び拳銃の中に戻した。さらに予備の弾倉を取り出すと先ほどと同じ動作を繰り返し足元から取り出したホルスターにしまう。

「それと少尉」

 モリは初めてミサを正面から見据えた。

「そんな玩具じゃトカゲどもの装甲は打ち抜けないぞ。事が終わったら最低でも徹甲弾の入った弾倉を携帯しておけ」

 モリは初弾を装填する。モリの言動と行動、なによりもその手に持ついかにも効きそうな拳銃によってクルーの視線が集中した。 

「前方より飛行物体。どうやらエステバリスのようです」

 ルリの報告とともにモニターには1機のエステバリスに牽引された2機のエステバリスが映し出された。

「生き残った味方・・・でしょうか?」

モニターを見ていたミサは誰にともなく正直な感想を口にした。

「敵かも知れんぞ」

「しかし少佐殿、どう見ても友軍のエステバリスですが?」

「コクピットを開けたら実は木星トカゲかもしれんぞ?ああ見えて連中意外にメカの扱いうまいから・・・」

「・・・・やけにお詳しいですね」

 ミサは眉根を寄せてモリを見た。モリはそんなミサに肩をすくめて見せると

「それで艦長、どうしますか?」

と言った。そのどうとでも取れる問いにユリカは何の迷いもなく言った。

「とりあえず収容しましょう」

「しかし艦長、敵味方の識別信号もあがっていない。危険すぎる」

 ゴートが当然のように反対する。その常識的判断にモリとミサも同意の意を表した。

「大丈夫ですよ」

「その根拠は?」

「だって、ほら」

 モリの問いにユリカはモニターのエステバリス同士を結ぶワイヤーを指差した。

「牽引ロープに白い布―――だがそれは車での話だ」

 ゴートはこめかみをおさえて言った。

「トカゲさんもあれくらいお茶目だといいんだけど」

 ミナトは苦笑混じりに言った。





あとがき


 とりあえず・・・一言。

ごめんなさい!しばらくネットと繋がってない世界にいました(泣

ではここから本題。今回いきなり現れた『タチバナ ミサ』氏は皆様の貴重なご助言の結果生まれたこの物語の(作者の)救世主です。

某茸氏やモリ少佐(昇進)と違う形の軍人です。私的面では変わった人物かもしれませんが軍人としては王道を歩いてもらうつもりです。

 ありえそうなモリ少佐とのカップリングなどは不明。というか多分書けないでしょう作者では(爆)

それでは、サツキミドリ後編をお楽しみください。いよいよアクションです。アクション万歳!

                                             

 敬句 


 

代理人の個人的な感想

軍人としての王道・・・・・どうもナデシコSSで軍人と言うと

「少数派の良識人」か「無能」か、さもなくば「顔のないモブ」になる嫌いがあるので(爆)、

どういう感じにしてくれるかが楽しみですね。

 

・・・・・・しかし、戦時特例とは言え19歳で少佐・・・・・・・

まぁ、某所では20歳の少佐もいますけどあっちは一応士官学校出てるしねぇ(笑)。