第10話 モリの過去
「俺はもともと軍人だったわけじゃない、火星の工科学校で宇宙造船学を専攻していた」
モリはそこに昔が映っているとでもいうのかのように虚空を見やって淡々と言葉をつむぐ。
「そしてあの戦争。俺たち工科学校生徒は全員臨時召集扱いで軍の整備部隊に徴兵された。当時の火星軍は正面装備はともかく整備関係の人員が圧倒的に不足していてさ、俺たち3年とかはいきなり自走砲とかの整備やらされたんだ」
遠い昔を懐かしむかのようにモリは口元に穏やかな笑みをたたえる。
「けど、そのうち仕事は整備だけじゃなくなった。前線で正規兵がどんどん死んでさ、俺たちも小銃かついで戦場へ行くことになった」
モリの脳裏にそのときの情景が映った。セピア色の一人一人の表情までわかるようなリアルな情景。
「それからは毎日が地獄さ、迫り来る敵、いつ撃たれるかという恐怖。運悪く撃たれ血まみれになって助けを求める同級生。そして一発の乾いた銃声。・・・何人もの同級生が狂って死んでいった」
何人かがその情景を想像したのか震えだす。
「そして火星軍はひとつの決断を下した。臨時召集学生のみによる特別大隊の編成、纏まった数を持った俺達はどんどん激戦区に放り込まれていった。
そのときだったかな、クラスの委員長やってたという理由で小隊長として少尉に野戦任官したのは」
モリは勤めて明るく言葉をつむぐ、まるで何かに耐えるかのように。
「普通は良い事なんだろうけど俺には悪夢でしかなかった。信じられるか?昨日まで同級生だった奴に死ねって命令しないといけないんだぜ?
・・・それでも最初の頃はよかった。何人か正規の軍人が居たからな。でもしばらくしないうちにどんどん死んで気がついたら正規の軍人は1人の大尉だけになっていた」
オオイソ大尉、俺らにとっては唯一の頼るべき存在だった人。
「そして・・・激戦を経て大隊規模だった俺達は中隊規模にまで減った。そして再編成が行われ唯一最初から生き残っていた小隊長だったおれが中尉に昇進して副隊長になったんだ」
モリの脳裏にはオオイソ大尉から中尉の階級章を付けられる情景が映った。赤い大地で、泥のまみれた野戦服に真新しい階級章が煌いていた。
「それからは戦いだけだった。その頃には生き残っていた連中は一端の兵になっていたから最初の頃に比べて被害は少なかった。でも誰かが必ず死んだ」
モリはそこまで言うと急に黙り込んだ。そこから先を話すべきか話さないべきか・・・。ミサにはそう思えた。
「敗走につぐ敗走で結局火星を脱出できたのは俺を含めて5、6人さ。あとはみんなも知ってるように艦政本部に転属されてナデシコに配属」
これで話はおしまいとでもいうかのようにモリは立ち上がった。
「すまない・・・ちょっと暗すぎたね。タチバナ少尉」
「はい」
「しばらく自室で気分転換してくる、何かあったらまず連絡してくれ、あとをよろしく」
モリは来た時と同じく物音を立てずにブリッジから出てる。
話すべきだったかもしれないな・・・俺の原罪。モリは廊下を歩きながら思った。
それにしても、喋りすぎたな・・・。モリは唇をゆがめるとため息をひとつついた。
ブリッジは重苦しい空気から抜け出せずに居た。
「・・・正直、私たち、モリ少佐に何もいえませんね」
メグミは青い顔でつぶやいた。
「彼の過去についてはいくらか知っていたが、まさかあそこまでとは・・・」
ゴートの言葉にプロスがうなずく。
「・・・・・・とにかく、今は今のことを考えましょう」
ユリカは搾り出すように言った。
「そうね。・・・私たちがモリ少佐にどうこうできるわけでもないし、今は出来ることをしましょう」
ミナトが勤めて明るく言ったのが功を奏したのかブリッジにほっとした空気が流れる。
「そうです!人生前向き!火星に向けて全速前進!!」
「艦長、すでにナデシコは最大巡航速力で航行中です」
「あ〜!ルリちゃん酷いよ〜」
ユリカとルリの漫才にブリッジの誰もが笑い出す。
笑いながらミサはふと思った。意外にユリカさんって艦長向きなのかも、と。
あとがき
・・・いいのかな?アキトの出番少ないけど。
モリ少佐の過去です。セピア風(謎)に書いてみました。うまくかけてるといいのですが・・・。
次回はエステバリスを交えたアクションです。つまりやっとパイロット3人娘登場です!(パフパフ♪
・・・いやなんか登場させづらくて。モリ少佐ってば職場ブリッジだしーー;(爆
・・・次回は投稿時期未定です。これから忙しいんだもん仕事が・・・(おぃ
敬句
代理人の個人的感想
ちなみにこの投稿を頂いた十八時間後、次の作品が届きました。
・・・・・うそつき(笑)。