第11話 

 まもなく火星だ・・・。正直こんなに早くこの星と対面するとは思っていなかった。

それにしても・・・最近タチバナ少尉がやけに煩い。そりゃ多少だらしない生活送ってはいるが

俺の生活をあそこまで管理されると正直悲しいものがある。・・・一応上官なんだが・・・。



  モリの日記より




「総員警戒態勢、繰り返す総員警戒態勢。休憩中のものは直ちに配置につけ」

 ゴートの張りのある声と警報がナデシコ艦内を駆け抜ける。

「遅れました・・・ルリちゃん状況は?」

          

息せき切ってユリカとジュンが現れる。

「火星軌道上に敵艦隊。大型戦艦2、護衛艦12、トカゲと思われる機動兵器多数」

 空間を埋め尽くすようにモニターがさまざまな情報を映し出す。

「・・・エステバリス隊の準備を、ミナトさん進路0−4−0。ディストーションフィールド出力最大、最優先」

「アキトさん、急いでください!」

 さまざま情報が言葉になってブリッジを駆け抜ける。

「遅れた!すまない!!少尉、状況報告!」

「エステバリス隊が出撃します。急いでください!・・・それとネクタイはちゃんと締めてください」

 第3種軍装のネクタイすら締めていない姿で現れたモリにミサが注意を促す。

「時間かかるから後で・・・」

「そんな時間かからないでしょう!」

『んなことはど〜でもいい!さっさと出撃させろ!!』

『『ラブラブ〜♪』』

 どうでもいいことで錯乱する軍人2人にリョウコ、ヒカル、イズミのコミュニケが現れれる。

「う!?・・・各機出撃、細かいことは言わない。とにかく敵を近づけなければ後はナデシコが何とかするはずだ、幸運を」

 もっと具体的な指示が出来れば良いのに! モリは自分の能力の無さを罵った。

「エステバリス隊戦闘空域に突入しました。・・・テンカワ機5分の遅れ」

 ルリの報告とともにエステバリスの情報がモリの前に現れる。

「・・・俺にどうしろって・・・」

 明らかに自分では扱いかねる情報にモリの顔が引きつった。

「少佐、エステバリスで機動兵器を誘引。グラビティブラストで殲滅する予定です」

 見かねたのかジュンがモリに助け舟を出す。

「ありがとう・・・!各機、何とか敵を集めてくれ」

「・・・エステバリス隊、敵機動兵器の60%撃破。テンカワ機発進します」

「アキトさんご無事で!」

 集める前に殲滅してるじゃないか! モリはレシーバーを床にたたきつけたい衝動に駆られた。

「少佐、ここはパイロットの人達に任せましょう」

「そうだな・・・」

 短時間だというのにモリの額には脂汗が浮いていた。

           

「・・・・・・陸戦以外じゃこのざまか」

 モリは眉根をきつく寄せると呻いた。畜生、やっぱり俺には無理なんだ。

「エステバリス隊敵機動兵器を撃破、敵艦隊に―――」

「グラビティブラストチャージ!・・・進路3−5−0―――」

 モリはブリッジ内の喧騒をどこか遠くの出来事のように感じた。

「・・・よろしかったら今度教えましょうか?簡単な宇宙機動戦?」

「ありがとう・・・」

 どこか現実味のない世界でミサのささやき声がひどく鮮やかに聞こえた。

「艦長、砲撃ポイント、ドンピシャよ!」

そんなモリを置いていくように戦闘はどんどん苛烈さを増していく。

「グラビティブラストいっちゃいま〜す!」

 ナデシコのグラビティブラストが敵艦隊を貫く。

「・・・護衛艦多数撃沈。戦艦に損傷はみられません。・・・エステバリス隊突入します」

 モニターには閃光を引きながらエステバリスが敵艦隊の懐に突入する姿が映る。

「進路敵艦隊正面。ルリちゃん、フィールドの状況を随時報告」

 敵の砲撃に艦は震動する。その震動でモリは我に返った。

「フィールド10%消耗・・・。スバル機、アマノ機、イズミ機、跳ね返されました。・・・テンカワ機突撃」

「アキトさん!無茶です!」

 加速距離の関係からかアキトは他の3人よりフィールドを湾曲させることが出来たが最終的には跳ね返された。

『馬鹿ヤロウ!死ぬ気か!』

『特攻、特攻』

「フィールドの薄い所がわかれば今くらいの攻撃で何とかなるかも知れん。ホシノ君、敵艦のフィールドで薄いところは?」

「―――残念ながら敵艦のフィールドは完全に均一です。本艦フィールド20%消耗。残り50%」

 フクベの提案にルリは無情な回答を返した。つまるところ打つ手無し、モリは天を仰ぎたくなった。

『少佐、提督今なんていった!?』

「・・・フィールドの薄いところがあれば何とかなるかもしれないといったんだが」

 リョーコの興奮した声に多少引きながらモリは言った。

『『『それだ!』』』

 イズミを除く3人が叫んだ。

『ナイフだ。ナイフ!お〜し!ヒカル援護を頼む。テンカワ!ちょっと離れて突っ込む準備しろ!イズミ、テンカワの進路確保!』

「何をするつもりだ?」

「何をするんでしょうね?」

 ブリッジの数名が首をかしげた。

「フィールド出力30%、艦長?」

「アキト達を信じます。進路このまま!」

 ユリカが食い入るように見るモニターではリョ−コのエステバリスがナイフを立てて徐々に敵戦艦に降下していく姿が映っていた。やがてナイフが一本装甲に突き刺さる。

『おっしゃ!・・・テンカワ!ナイフめがけて突っ込め!』

 反動で弾き飛ばされながらリョウコが叫ぶ。その言葉にこたえるべくアキトは先ほどより遠距離から突撃をかける。

『ゲキガンシュートッ!!』

 アキトは寸分たがわずナイフに拳を叩きつける。ナイフを中心に敵艦装甲に皺がよっていく。

『テンカワ離れろ!』

 アキトが離れるのと時を同じくして装甲から火花が出る。数秒後、敵戦艦は周りの艦艇を巻き添えに轟沈した。

「敵艦撃沈、火星降下進路確保」

 ルリの報告を聞きながらモリは頭の片隅で自分はエステバリス隊の指揮官をやめるべきかも知れないと思った。





あとがき


 唐突にバトルです。

いよいよ火星編です。ここから物語りはひとつの転機を迎えます。

詳しくはこれから先のお話で(おぃ

次回はイネスさん登場とユリカの決断。そしてその次は作者の思い入れが強い「フクベ提督の自決」です。

 書き上げ時期未定!(笑

                                             

 敬句 


代理人の個人的感想

つまり、モリは陸戦以外の指揮能力は皆無と(苦笑)。

そーいや地球を脱出する時も指揮自体はユリカとジュンに任せて

モリ自身は交渉以外してなかったような(笑)。