第12話
敵を軌道上より一掃したナデシコは火星の大地へと舞い降りた。
正直なところ相転移エンジンの落ちる大気圏内での行動は控えて欲しかったが衛星軌道上からでは生存者の発見は難しいだろう。
生存者が居ればの話だが・・・・・・。
モリの日記より
「エステバリスを貸してくれ?」
ゴートは常によっている眉間の皺をさらに深くした。
「俺、もう一度見てみたいんです。故郷を、ユートピアコロニーを」
ゴートの眼光に多少ひるみながらもアキトは言った。
「すでにここは敵の勢力圏内だ、迂闊な行動でナデシコを危険にさらすわけにはいかない」
ゴートは内心同情しつつ言った。
「それでも・・・、それでも行きたいんです!」
「ゴートさんの言うとおりだ。・・・気持ちは分からんでもないが、諦めてくれないか?」
モリはなおも食い下がるアキトに同情の念ををこめて言った。。
「気持ちが分からんでもない?関係ないやつがいちいち口を挟むな!」
アキトの罵声にモリの過去を知っているブリッジクルーの間で無言の戦慄が走る。
「木星トカゲの有効索敵範囲はおおよそ200m、見つかれば命は無い。しかもこれは人間が見つかる距離だ。
図体のでかいエステバリスではさらに遠くから発見される。」
幾分冷静になったのだろう。アキトはモリの言葉に肩を落とす。
「・・・かまわん。行ってきたまえ」
唐突にフクベはそう言った。
「提督!何をおっしゃるんですか」
「ゴート君、飾りとは言え、私には指揮権がある。・・・故郷を見たいという思いは誰にでもあるはずだ」
フクベの言葉にアキトの表情が輝く。
「提督!ありがとうございます」
アキトはフクベに大きく一礼をすると駆け出していった。
「艦長!・・・どちらにいかれるおつもりで?」
アキトとエステバリスに乗り込むつもりだったのだろう、モリが振り返るとユリカは出入り口でブロスにつかまっていた。
「だって〜、私もアキトと一緒に故郷を見たい!見たい!見たい〜!」
「駄目です!あなたは艦長なんですよ」
駄々をこねるユリカを青筋を浮かべたブロスが叱り付ける。その光景を尻目にモリはフクベのそばに歩み寄った。
「――――――贖罪のつもりですか?フクベ中将」
「少佐・・・・・・」
ユリカ達から視線をはずすことなくモリは言った。
「彼があなたの犯した罪を知ったら彼はどう思うでしょうね?」
口元に笑みを浮かべながらモリはフクベに語りかける。
「・・・許しを請うつもりは無い」
顔を伏せてフクベは自嘲気味に言った。
「請われても許しませんよ、決してね」
モリの声音に殺意が陽炎のようににじみ出ていた。
「!?・・・・・・少佐」
フクベが顔を上げたときモリはすでにそこに居なかった。
「生存者?」
いつの間についって行ったのか、メグミから届いた通信を理解するのにモリはけっこうな時間を要した。
『はい、ユートピアコロニー付近の地下施設にたくさんの人たちが居ます』
「ほんとに居たんだ」
ミナトが驚き半分あきれ半分といった表情で言った。
「救出しましょう。進路ユートピアコロニー跡へ。総員警戒態勢」
ユリカの言葉にブリッジがあわただしくなる。
「メグミさん。今行っている通信は何処からしている?」
やけに緊迫したモリの声にミサは振り返った。
『エステバリスからですけど・・・』
「場所は!」
かみつかんばかりの勢いでモリは言う。不審に思ったのかブリッジの何名かがモリを見る。
『コロニー跡地のすぐそばです』
それがどうしたという表情でメグミが言った。
「馬鹿!すぐ通信をきれ!それと出来れば場所を移動しろ!それ以後は緊急時以外通信を送るな、いいな!!」
言い終えると同時にモリは通信を切った。一挙動で振り返ると張りのある声で言った。
「艦長、艦を止めてください。通信を傍受された可能性があります―――このままでは危険です」
「オモイカネ暗号はそんなに弱くありません」
ルリの不機嫌な声とともに『そうだ!』というモニターがモリの周りを埋め尽くす。
「別に内容が傍受されたとは言っていない。・・・だが発信源はばれた。このままだとコロニー付近で敵とはちあうことになる」
ユリカもモリの言いたいことを理解していた、だがすばやく導き出された答えはこのまま実行だった。
「少佐の仰りたい事は分かります。しかし短時間でナデシコに脅威を与えるほどの戦力の集中はありえません」
現在位置からユートピアコロニーまでの移動時間で集結編成を行えるほどの航行性能を持った艦船は存在しない。
仮にくるとしても少数による散発的な攻撃である。ならばすばやく収容して撤退するのが妥当。それがユリカの導き出した結論である。
「しかし!」
「この艦の指揮官は私です。・・・責任は持ちます!」
なおも食い下がろうとするモリにユリカは啖呵を切った。
「少佐・・・ご心配なのは分かりますが、それほど気に病むことではないのでは?」
「そうよ〜。少佐は心配性すぎ。人生前向きに構えましょうよ」
席に座り込んだモリにミサとミナトが声をかける。
そうだ、普通の航行ではわずかな時間でナデシコを沈めるほどの戦力集中は出来ない。モリは虚空を見据えた。
だが、チューリップを使えば話は別だ・・・。あのことが軍機でなければこんなことにならないのに!
モリは唇をかみ締めて思った。
畜生!このままじゃえらいことになるぞ。
その予想は程なく現実のものとなった。
「はるばる地球から来てもらって悪いけど、私達はこの艦には乗れないわ。せっかくいきのっこったのに死にたくないもの」
生き残った人間達の代表をとしてネルガルの研究員でかつナデシコ設計者の1人であるイネス・フレサンジュは開口一番辛辣な言葉を口にした。
「失礼だがレディ。現にこれまで我々は勝ってきた。」
「あら、冗談は顔だけにしてくださらない?」
イネスの毒舌にゴートは轟沈した。
「?・・・近辺のチューリップより木星戦艦以下多数が出現。艦長?」
モニターに映る木星トカゲの大群にブリッジがざわめく。
「・・・迎撃します。グラビティブラスト用意!・・・撃て!」
ユリカの声とともに一条の黒い閃光が火星の大地をはしる。
「無駄ね」
着弾の土煙が晴れるのを待つことなくイネスは言った。
「相転移エンジン、ディストーションフィールド、グラビティブラスト、すべては木星トカゲの装備から発見された技術」
土煙から一条の黒い閃光が放たれる。大きく揺れるナデシコ。
「右舷相転移エンジンに異常発生、出力低下」
ルリの報告にクルーの表情が変わる。緊張から明らかな恐怖へ。
「ユリカ、フィールドだ!」
「・・・此処でフィールドを張れば下の人たちは死ぬわ」
ジュンの叫びにイネスの落ち着いた声がかぶさる。
どうすればいい?ユリカは思考のループに陥っていた。
「艦長!フィールドを!」
でもタチバナさん、下にはたくさんの人々が・・・。
「艦長、どうするの!?」
ミナトさん、わかんないよ。
「敵増大中・・・戦艦16隻以上」
まだ増える・・・?なぜ、どうして突然?私はどうすればいいの?私分からない、分からないよ、アキト・・・。
「ユリカ、フィールドだ」
アキトの言葉にユリカは幼子のように従った。
「フィールド展開。・・・展開後ミサイルで牽制しつつ離脱します」
言ってしまった。たくさんの人が死ぬ・・・。私のせい?私のせいだ・・・。
「ユリカ!」
あれ?ジュン君なんで斜めに立ってるの?
そこでユリカの意識は途絶えた。
あとがき
・・・・・・おろ?(汗
ユリカ艦長倒れてしまいました(汗) 原因は高いストレスのようです。
いやまぁ・・・書いてたらユリカ艦長倒れてしまいました。困ったなぁ〜−−;
次回は前回予告を見事に裏切って『指揮官』をお送りいたします。
これからも書き上げ時期未定!(笑
敬句
代理人の個人的な感想
おろろろろろ!?
アキトの指示でフィールド張ってる!
こりゃあ・・・・かなりデカいですねぇ。
話がどう変化する事やら。