第13話 指揮官

 現在ナデシコは火星地表を這いずり回っている。・・・損傷がひどすぎ宇宙には上がれない。

昨晩、プロスさんから相談があった。ミスマル艦長の処遇についてどうするべきか・・・と。

途中から参加したゴートさんを交えて朝方まで相談したが結局纏まらず最終的には俺に一任となった。・・・俺なんかが決めていいのだろうか?



  モリの日記より




 ミサはここ数日何か特別なことでもあっただろうかと思いをめぐらせた。

「少尉?どうかしたのか?」

 悩みのつぼにはまったミサにモリが怪訝そうな顔をした。普段の感情を表に出さない声とは違い、どこか覇気と優しさが感じられた。

          

「いえ・・・。少佐、よろしいでしょうか?」 

「なんだ?」

 モリはミサと視線を合わせる。

「なぜ2種軍装を纏っていらっしゃるのですか?」

 ネクタイにスーツスタイルの第3種略装と違い、詰襟に板状の階級章。左胸には今までの武勲を誇るかのように略式勲章が輝いていた。

「別段理由は無い。・・・変か?」

「いえ・・・よくお似合いです」

 普段のくたびれたサラリーマンのイメージとは違い、まさしく軍人のイメージそのものだった。かっこいいかも、不覚にもミサは思ってしまった。

「さてと・・・・少尉、昼食に行こうと思うが一緒にどうだ?」

 そういってモリは微笑んだ。


 ナデシコ食堂は普段とちがった。客入りは普段と同じく多かったが普段と違いどこか沈んでいた。ユリカはその沈んだ雰囲気の部屋の一番隅で落ち込んでいた。

戦闘中に指揮官の自分が倒れた、それも精神的に耐えられなくて・・・。自分は指揮官として失格だ。そんなことばかりを考えてユリカはここ数日をすごしていた。

おそらく自分は艦長職を解かれるだろう、現に今の指揮はジュン君がしている。私はもう艦長ではない・・・私は指揮官失格なのだから。ユリカはため息をついた。

「ミスマル艦長、御一緒させて頂いてもよろしいですか?」

 ふと顔を上げると、普段と違う服装のモリと気まずそうな表情を浮かべたミサが立っていた。

「・・・どうぞ」

 ここ数日どんなに忙しいときでも誰もユリカと席を一緒にしようとはしなかった。誰もがユリカに気まずさを感じていたからだ。

「失礼する。・・・いだたきます」

 気まずそうに縮こまって食べるミサと対照的にモリはいつもの量をなんら雰囲気を変わることなく口に運んでいく。

 凄い人だな。ユリカはモリを見てそう思った。この状況下でなんら自分のスタイルをを見失うことないなんて・・・。それから程なくしてモリは箸をトレイに置いた。

「ごちそうさまでした・・・。あぁ、少尉。別に急がなくていいぞ。」

 モリの早食いに驚愕のまなざしを送り慌ててかきこもうとするミサをモリは笑って制した。

「ところで艦長、今後の事ですが」

 モリはよく通る声でユリカに言った。食堂のざわめきがとたんに減る。

「ナデシコは極冠のネルガル研究所に向かうことになりました。後ほど資料をお送りいたしますので目を通しておいてください」

 その言葉にユリカは凍りついた。私がナデシコを指揮・・・?指揮官失格の私が?

「・・・貴方はこの艦の指揮官です。休憩もこれくらいにしてブリッジに戻っていただいてもよろしいでしょうか?」

           

 モリの瞳は優しさをたたえており、その言葉は常に穏やかだった。モリの隣でミサは臍を曲げた子供を諭すようなイメージを感じた。

「・・・しかし私は」

 指揮官としてあるまじき事をしてしまった。ユリカはそういおうとした。

「貴方はあの局面でちゃんと指揮官としての義務を果たしました。100%とはいえませんがね」

 ユリカの言葉をさえぎってモリは言った。

「あの局面で必要な判断を貴方はちゃんと行った。そして指示を出した。あとはブレーンでも出来ることです」

 あくまでも優しく、しかし自信に満ちた声音でモリは言う。

「指揮官は重大な局面でクルーに進路を示すのが職務です。その判断の為に戦術戦略の技能が必要なだけである。私はそう思います」 

 モリは一息入れるためにお茶を口にする。

「艦長、我々はプロです。私はミスをしない、皆もミスをしない。それですべて旨くいきます」

 それでは失礼、とモリは立ち上がった。となりでぽかんとしていたミサも慌てて後を追いかける。

「それでは艦長、ブリッジで」

 出口でそういってモリは食堂を出て行った。

 やってみよう。ユリカは思った。もう一度やってみよう。ユリカは立ち上がると早足で自室へと向かった。


 その日の晩、夜食を買いにミサは廊下を歩いていた。

「太るってわかってるんだけど・・・おなかすいてるし、いいよね」

 自分に言い訳をしながら食堂の前を通る。つと、違和感を感じた。

「?・・・少佐」 

 食堂の中ほどに見慣れた後姿が突っ伏していた。肩がわずかに動く以外身じろぎひとつしない。

「・・・少佐?大丈夫ですか」

 さすがに気になってモリのそばに歩み寄る。

「―――そのままにしてあげときな」

 突然声をかけられミサの肩が大きく跳ねる。振り向くと料理長のホウメイが手拭と何かが入った器をトレイに載せた立っていた。

「ここんとこ満足に寝てないんだこれぐらい寝かせてあげないと」

「ここんとこ?・・・別段疲れてる様子はありませんでしたが?」

 ミサは怪訝な表情をする。

「外見上はね。旨く化粧をしてるからなかなか分からないさ。それにしてもたいした精神力だよ」

 ホウメイはあきれを含んだ笑みを浮かべる。

「でもなんで?あれほど普段から体調管理に気を使っている少佐が?」

「指揮官だからさ」

 ミサの疑問にホウメイ答えた。

「指揮官ってのはねどんなに辛くても、どんなに疲れていても決してそれを表に出してはいけないんだよ。虚勢でもいいから

常に自信を持った態度を演じなければならない、ってこれは従軍していたときにアタシの上官だった人が言った言葉だけどね」

 ホウメイは苦笑いを浮かべる。

「・・・演技ですか」

 ミサはモリの顔を覗き込む。その顔は普段からは創造できないほど幼かった。

「さてと、あたしは寝るよ。じゃ、あと少佐のことよろしくね。その器は食べ終わったら流しにおいておくれ、それじゃおやすみ」

 ホウメイは出口まで歩くとふと振り返って冗談めかして言った。

「少尉、おそっちゃだめだよ」

「襲いませんよ!」

 ホウメイが立ち去ると思わず赤くなる顔を宥めつ再びモリを見る。間近で大声を上げられてもモリの表情に変化は無かった。よほど疲れているのだろう。

今度からもっとしっかり管理しないと。そう思ってモリを起こすべくミサはモリの頬に手を伸ばした。





あとがき


 BGMの選曲はやはり注意すべきです。

なんだか内容がカオスになってます。ジャンルはシリアス&ラブ?な感じです。

いよいよ火星編も佳境に入っています。

次回こそフクベ提督の自決です。この話でモリの過去がさらに明らかに!(の予定)

 次回ももちろん時期不明!

                                             

 敬句 


代理人の個人的な感想

SS書く時も読む時も、BGMってかけませんねぇ、私は。

集中できないような気がするんですよ。

 

それはさておき。

 

結局アキトのあれはなんだったんでしょう(爆)。