第18話 コスモス 後編
「やぁ、はじめましてナデシコの皆さん。俺はアカツキ・ナガレコスモスから来た男さ・・・」
ナデシコと接舷したコスモスから3名の男女、その先頭に立っているアカツキは髪をかき上げていった。
変わった男だな。モリは思った。男しか居ないこの場でこんなことして何か意味があるのだろうか?
「エリナ・キンジョウ・ウォンです。本日よりブリッジクルーとして勤務します」
後ろから整備班の雄たけびが聞こえる。やはり男として美人がくることは当然うれしい。
「イツキ・カザマ准尉待遇です。本日よりナデシコパイロットとして着任しました。モリ司令の下で戦えることを光栄に思います」
そいってモリに最敬礼を送る。モリは背中に突き刺さる無数の視線に顔が引きつった。
「3名の着任を歓迎する。本来なら艦長以下全員で出迎えるところだか状況が切迫している。わるいが私物をまとめて15分後に会議室に来てくれ
アカツキさんは私が部屋に案内しよう。女性2名は副官のタチバナ中尉が案内する。中尉頼む」
「分かりました。それでは参りましょう」
視線が合った一瞬何故かミサに睨まれた。
「では行こうか」
小首をかしげながらモリはアカツキに声をかけた。
「細かいことはおいおい分かってくると思いますが、とりあえず何か質問ありますか?」
先ほどから何も喋ろうとしない2人にミサは声をかける。
「それじゃお言葉に甘えて。さっき司令が言ってたけど状況が切迫してるって言ってたけど何かあったの?」
エリナが締まりのある声で言った。
「えぇ実は・・・」
アキトが戦闘中行方不明になったこと、それが原因で艦長と通信士が取り乱していること。現在アキトの救出作戦が立てられていること。
ミサは掻い摘んでエリナに話した。エリナは最初こそ驚いていたがやがて納得したように大きくうなずいた。
「つまり2人ともアキト君にぞっこんで、そのアキト君が行方不明ということで慌ててるって事ね?」
「まぁ、極論すればそうですね」
あまりに核心を突いたエリナの言葉にミサは苦笑いを浮かべる。
「ふぅん。ナデシコってそんな事でもOKなんだ」
「まぁ、程ほどにね・・・。艦長とかのは明らかに行き過ぎだけど」
イツキの言葉にミサは手を軽く振りながら言った。
「その言い回しだと、カザマさんこの艦にいい人でも見つけたのかしら?」
エリナが冗談っぽく言とイツキは頬を赤らめて言った。
「見つけたというよりやっと会えた、かな?」
「誰?ね、誰?アカツキさん?それとも整備班の誰か?」
逃げ出そうとするイツキの進路をふさいでミサは言った。
「・・・・・・・モリ司令」
「え!?」
「へぇ〜。でもなんで?」
凍りついたミサを横目に一瞥してエリナは言った。
「カッコいいから・・・かな?それに命の恩人なんですよ。火星時代モリ司令の率いる中隊のおかげで私の家族は生き延びられたんです」
そのときの情景でも思い出したのか、イツキは懐かしそうに笑みを浮かべた。
「そうなんだ・・・」
ミサはなんとなく自分とモリに無い絆を見せ付けられたような気がして不機嫌になった。
女性陣が和気藹々と話している同時刻、男2人はきな臭い会話をしていた。
「それで・・・。僕をこんなところに連れてきてどうするんだい?」
整備班しか入らないようなファンルームに連れ込まれたという現状にアカツキは動じた風も無くモリに言った。
「単刀直入に聞く。・・・ナデシコに何の用だ?ネルガルの会長、アカツキ・ナガレ」
モリの鋭い視線にアカツキの表情が変わる。軽いノリはそのままだが瞳は鋭利な刃物の輝きをたたえる。
「悪いけど教えられない・・・。けど、君に害を及ぼすつもりは無いよ」
「・・・そうか。あんたの部屋はファンルームを出て右、18番目の部屋だ」
それだけ言うとモリは出口に手をかけた。
「僕が嘘をついていたらどうするつもりだい?」
好奇心半分でアカツキはモリ言う。
「その時は排除する、それだけだ。・・・俺達の邪魔をするつもりなら容赦はしない」
モリの姿が見えなくなるまで凍り付いていたアカツキは冷や汗混じりに言った。
「・・・あれはやばいね、どうにも」
「では現在の状況を再確認視するところから始めよう。中尉、頼む」
ミサが現状を説明していく。現在位置は不明。生命維持装置の残時間は4時間。悲観的な数値が上るためにあちこちでうめき声が上がる。
「唯一の救いは周辺艦艇のおかげである一定レベルまで捜索範囲が絞れているという事だ。ではみんなの意見を聞かせていただきたい」
ミサの後を引き継いだモリが最後に締めくくると、ユリカが挙手して言った。
「救出すべきです、何がっあても。アキトは大切な仲間です」
その仲間が体調不良なのに止めなかったのは誰だよ。モリは心の中で毒づく。
「助けるにしても現在ナデシコは補給作業中で動けない。仮に中断したとしても下手をすれば敵を集めかねん」
ゴートが救出の困難さを指摘する。
「戦闘状況で動けないテンカワ君を救出するのはむずかしいわね。・・・敵に気づかれずに救出しないといけない?」
エリナが腕を組んでいった。
「そんな!アキトさんを見捨てるんですか!」
「まぁまぁ、メグミさん。おちついて。感情論を此処で振り回しても事態は改善しませんよ」
激昂したメグミをプロスメクターがなだめに入る。
「敵に気がつかれずにすばやく救出・・・。司令、軍の特殊部隊なら出来ませんか?」
ジュンが考え考え言った。
「出来るだろうな・・・。そういう訓練もしているからな」
目を輝かせるユリカとメグミを一瞥してモリは思考の深みに潜る。
幸い、合同演習するはずだった揚陸艦に特殊部隊は乗っている。問題なのはそれを使う価値があるかだな。
モリはなんとなく正面に見えるイツキに視線を向ける。ミサは不機嫌そうににモリに声をかける
「あの・・・。少佐?」
特殊部隊を投入するほどの価値はテンカワには無い、リスクも大きい。仮に万事うまくいっても特殊部隊を使ってまで助けるほどの意味が無い。助けても反抗的な1.5流のパイロットが手に入るだけ。要請しても上は動くまい。モリはそう結論付けた。
「残念だが、特殊部隊は投入できないだろうな」
「何故ですか!司令!!」
「・・・私にはその権限が無い。申請は出来るが仮に許可が下りるにしても丸2日はかかる」
ユリカが食って掛かるのをモリは無難な理由で切り抜ける。
「許可がなんですか!許可より人命のほうが大切なんじゃないんですか!!少佐は命令のほうがアキトさんより大切なんですか?」
我々は軍人なんだよ、メグミさん。命令を無視すれば軍隊としての意味を成さなくなる。
「・・・分かりました」
モリが何も言わないのに業を煮やしたのかユリカは立ち上がって言った。
「あたしがアキトを迎えに行きます。戦闘艇なら見つかる可能性は低いでしょうから」
「あたしも行きます!」
メグミはモリに軽蔑の眼差しを向けていった。
「・・・・・・・・・だめだといっても、無理だろうな」
モリはため息と共に言った。
後部格納庫から戦闘艇が2機飛び出していく姿をモリはブリッジから見送った。
「いいんですか、少佐?」
なんとなく声のかけづらいモリの後姿にミサがおずおずと声をかける。
「よくないさ・・・。だがどうしようもない」
ミサは後ろでに組んだ拳がぶるぶると震えているのに気がついてミサはそれ以上声をかけるのを控えた。
「アオイ副長」
「は、はいっ!」
底冷えするようなモリの声にジュンの上ずった声がこたえる。
「出港準備をしたまえ」
「はい?」
思わず聞き返したジュンを無視して制帽を被り直す。
「―――艦長たちの後を追う。ただし静かに慎重に、だ」
「モリ司令」
おもわず笑みを浮かべるジュンから顔を背けるとモリは自棄気味に言った。
「命令、ナデシコはこれよりテンカワアキト以下3名の救出行動を行う。ただし敵の抵抗が大と判断されたばあい是を直ちに中止する」
「「了解」」
「ではナデシコ緊急発進、総員戦闘態勢。エステバリスはスクランブル準備。なお本行動はこのモリ・シゲオが全責任を負うもとのする」
それだけ言うとモリは座席に座り込む。そしてため息を一つつくとぼやいた。
「・・・・・・まったく、世話の焼ける」
ミサはそのぼやきに小さく笑った。
あとがき
イツキさん登場。登場理由はモリを「追い詰める」為。
特に恋愛以外で(謎 今回のイツキさんの立場は「英雄に憧れる軍人&女の子」です。
つまり火星で殉職したフクベ提督のような悲哀をモリに味わってもらうわけです。
ついでにアカツキさんの正体も最初から知ってることにします。モリぐらいの要職で知らないほうがおかしいので。
あと、アキトくん。相変わらず恵まれないですね(汗
次回は・・・どこ行くんだろう?原作見直さないと(核爆
敬句
管理人の感想
大森都路楼さんからの投稿です。
何と言うか、あくまで軍人としての態度を崩さないモリに、クルーが反発しまくりですねぇ
いや、まあナデシコがそれだけ出鱈目な戦艦なんですけどねぇ(苦笑)
しかし、ボロクソに評価されてんなアキト。
・・・でも1.5流って事は一流より腕は立つのか?(汗)