第19話 進路北極へ
テンカワと艦長、それにメグミさん。救出したのはいいけどそのあとが大変だった。
まさかあんなに関係書類を準備しないといけなかったとは・・・。
俺はまだしもタチバナ中尉はそうとうテンパってた。
今度酒でも奢って機嫌をとらないと・・・。
モリの日記より
モリは自分宛に届いた命令書を斜め読みすると、何ともいえないため息をついた。
その溜息の真意を汲み取れなかったミサに命令書を渡すとミサも同じように何ともいえないため息をついた。
「モリ司令、タチバナ中尉。一体どうしたんですか?」
何ともいえない疲労感を漂わせた軍人2人にジュンが声をかける。
「・・・・・・見てみ。・・・多分同じ気分になるから・・・」
モリは薄気味悪い笑みを浮かべるとジュンに手渡した命令書には以下のように書いてあった。
命令
発 宇宙軍統合作戦本部
宛 宇宙軍第3艦隊第13独立戦隊
北極圏にて重要な観測データーを持った白熊『北極大使』が敵中に孤立せり。
第13独立戦隊は総力を挙げて直ちに是を救出、重要データの保護を行うべし。
1.敵勢力圏につき行動は奇襲を旨とすること。
2.上記の理由により支援艦艇の派遣は行わない。
3.なお、支援砲撃、空爆、軌道上からの艦砲射撃は行われない。
貴戦隊の航海の無事を祈る
ジュンは疲れた目でモリに命令書を返した。
「・・・救出対象はアレだが、任務だ。2時間後に作戦会議を行う。中尉、地形データ等を準備して・・・いや一緒に準備しよう」
モリの言葉の途中でミサがものすごい形相をしたので、しぶしぶ手伝うことにした。
4時間後、モリは不味いと評判の自販機からコーヒーが出てるくるのを眺めながら、先ほどまで続いた会議を思い返した。
『全員いるな?・・・よろしい。では作戦会議を始める』
作戦の内容を知らないクルー達が緊張した顔でうなずく。
『まず作戦の内容から。今回の作戦は北極圏に孤立した観測データーを抱えた白熊の救出だ』
その言葉に幾人かは思考を停止し、幾人かは口をあけたまま凍りつき、幾人かは自分の耳を疑った。
『なお、作戦は本艦一隻で行う。・・・空爆も、支援砲撃も、軌道上からの艦砲射撃も無い。文字通り本艦独力で行う』
『『『なんで?!』』』
『・・・そういう命令だから・・・かな?』
全員に詰め寄られながらモリはそれだけを何とか口にした。
「・・・俺に文句言われても困るんだけどな」
適当なテーブルに腰掛けるとコーヒーを片手にぼやく。
「―――仕方ありませんよ、司令」
どことなく楽しそうな声に、目線をあげると黒髪の美しい女性が立っていた。華奢ではあるが不健康さは感じられない。
むしろ細かい仕草に一つ一つに活力が感じられる。春の陽光のように輝く黒真珠の瞳が印象的だった。
「カザマ准尉。・・・仮にも君も軍人だ。今の発言は聞かなかったことにするよ」
「了解です、司令」
軽く笑うとモリに正対する形で座る。
「それにしても大胆な事を考えますね」
「ん?まあね。鉄砲かついでドンパチならそれなりに出来るつもりだから」
会議中に提案した第2案、大使と接触前に敵と交戦した場合の行動計画を思い出す。
「北極圏に小銃かついで大使を拾いに行く司令なんて、わたし始めて聞きましたよ」
「だとすればギネスものだな。・・・今度登録してくるか?」
思った以上に湯気を立てているコーヒーに息を吹きかけると一口飲む。予想通りコーヒーは不味かった。
「よくそのコーヒー飲めますね?」
「・・・火星出身でね。美味しい物は嫌いじゃないがたまに魔がさした様にこういう物をもとめちまう」
モリの言葉にイツキは納得した表情でモリの顔を眺め続ける。
「・・・まぁ変な話は是くらいにして、准尉は正直なところどう思う?この作戦?」
女性にただ眺め続けられるという予想外の状況に耐えられなくなったモリはそれとなく話題を変えてみる。
「厳しい作戦だとおもいます。ワンミスで轟沈しそうですね」
「それにパイロット、救出チームにかかる負担が大きい。正直なところちょっとシビヤすぎる。特に第2案なんか俺がしくじればそれまでだぞ?」
モリは自分のおかれた立場と、そのような作戦しか立てられなかった自分を嘆くと不満げに言った。
「きっとうまくいきますよ。それに私、信じてますから、少佐のことは」
イツキの言葉にその瞳に、モリはふと言い知れぬ不快感を覚えた。
「ご存じないと思いますが、私の家族は火星にいたんです。そして少佐の部隊に助けられた。・・・だから私は信じます、何があっても。貴方は私達の命の恩人だから」
やめろ。やめてくれ!俺をそんな目で見ないでくれ。俺は君が思ってるような人間じゃないんだ。俺は、俺はただの人殺しなんだ!そんな目で俺を見ないでくれ!
モリの中を後悔と自己嫌悪の炎がたけり狂う。それを無理やり押さえ込みにかかった。
「あの・・・モリ少佐?」
唐突に何の反応も示さなくなったモリを不審に思ったイツキが身を乗り出す。
「あ、大丈夫だ。・・・別にどこ悪いわけじゃない。ほら、ちょっとボーっとしただけなんだ。あはは、気をつけないとね」
「本当に大丈夫ですか?なんか心あらずって感じですど・・・。医務室に行きましょうか、一緒に」
心配そうなイツキを振りほどくようにしてモリは立ち上がるといった。
「本当に大丈夫だ。・・・それに医務室にはいきたくないな。一歩間違えれば2度と出られなくなりそうだ」
モリは冗談交じりに言うと足早に食堂を後にした。
「・・・・・・2度と出れなくなる?」
イツキは言葉の意味が理解できず小首をかしげた。
「・・・まいったな、まさか火星の生き残りとこんなところで会うなんて」
首筋をねっとりと脂汗が覆う。ハンカチで軽くぬぐうとハンカチはそれだけで重く湿った。
正直毎日あんな目で見られるのはしんどいな。モリはイツキの瞳を思い出してため息をついた。
俺は英雄でもない、命の恩人でもない。ただの人殺しなのによ。
かみ締めた奥歯が軋みをあげる。
もし運命というものがあるなら俺は運命を恨むね・・・。
モリは意味も無く天井を見あげるとため息を一つついた。
あとがき
早速モリ少佐には試練が訪れました。
自分で書いててアレですけど、モリ少佐を苛めるのは楽しいです(爆
もちろん、あらかじめシナリオを決めてるのですが、それでも面白いです。
これからも彼にあがいて貰いましょう。果たして彼に幸福はあるのか?
はたしてイツキ&ミサ&モリの3角関係は生まれるのか?(いや、そもそもモリとミサのカップリング自体微妙なんだけどね)
さて、次回は白熊の回収です。でもそれだけだとつまらないから一つ小道具を準備します。(悪魔の笑み)
敬句
管理人の感想
大森都路楼さんからの投稿です。
おやおや、いきなり熊さんだと分かってしまうんですか?
・・・そういえば、ムネタケは大使の正体知ってたもんな。
でも命がけで救出に行く方からすれば、ふざけるなって感じでしょうね〜