第20話 北極圏のデットリミット 前編

 なんてこった、救出対象が4倍になりやがった。

ついさっき入った連絡だと、北極圏の生命達に平和をもたらす会とかいう民間人と

専属カメラマンの3名が大使近辺で遭難。挙句に敵の勢力化というのにナデシコに救援を求めてきやがった。

 おかげで位置はばれるし助けを求めた連中も敵に気がつかれる・・・正直そのままほっときたいぞ!

でもそうも行かないのがこの商売・・・しんどいな



  モリの日記より




 作戦開始3時間前、索敵範囲ぎりぎりのところでナデシコは船足をとめ急遽作戦会議を開くことになった。

「単刀直入に言おう。まず本来の任務の放棄はありえないと思ってくれ。ここで皆に決めてもらいたいのは救助要請を出した3名をどうするかだ」

 集れるだけのメインクルーがあつまったブリッジでモリは張りのある声を響かせる。

「遭難者を先に助けるか、大使を助けるか。ナデシコで乗り付けるか、ナデシコを囮に揚陸艇を使うか。

必要な条件を満たしていれば手段は問わない。・・・皆の意見はどうだ?」

 モリがそう締めくくると最初にミナトが挙手して言った。

「とりあえず救出できるほうだけ救出して、ほとぼりが冷めたらもう片方を救出するのは無理なの?」

「・・・残念ながら大使は3日以内に見つかってしまうだろう。遭難者にいたっては1日で見つかるだろうし、そもそも食料とかが乏しい」

「と、なると・・・ナデシコを囮に二チームでこっそり救出してはどうですか?」

「それだと戦力分散に繋がりますよ。基本的に敵のほうが多いんだから各個撃破されますよ」

 イツキの意見にミサがきつめに答える。モリの見たところミサがイツキに対抗心を燃やしているように思えた。

「いっそ遭難者はあきらめたらどうかな?」

「アカツキ!おまえ自分が何に言ってるのか分かってるのか!?」

「アキトさんの言うとおりです!人の命をそんなに軽々しく言わないでください!」

「子供じゃあるまいし、彼らもそうなることを覚悟した上で来たんじゃないの?自分の行動には自分で責任を持つ。大人として当然だね」

 アカツキの過激な意見にアキトとメグミが猛反対をする。

「でもよぉ〜。こんな状況下で両方とも救うなんて難しいぜ?」

「エステのパイロットは6人いるけど2つに分けたら3人だし〜」

「・・・ナデシコの直援を考えたら正直1チーム2機、自殺行為ね」

 リョーコ、ヒカル、イズミの3人がそれぞれパイロットとしての意見を述べる。

「かといって諦める訳には行かないんじゃない?私達軍隊は市民を守る義務があるのよ?」

 エリナの私達という表現にアキトの表情が険しくなる。

「だからといって希望的観測を下に作戦を行うべきではありません」

「そのとおりだ。希望的観測で行動すれば裏切られたときに手遅れになってる可能性が高い」

「経済的に見ても、リスクは少ないほうがいいですな」

 ジュン、ゴート、プロスペクター。それぞれが意見を述べていく中でユリカはじっと考え込む。

「・・・・・・ホシノ君はどう思う?・・・漠然とした考えでいいから」

「・・・やっぱり見捨てるのはよくないとおもいますから、助けれるんだったら助けたほうがいいと思います」

 モリに答えるルリの言葉を聴いてようやくユリカの中で考えが纏まった。

「・・・・・・救出しましょう。どうせ戦うなら何かを救える戦いをしたいですから」

 かといって失敗すればすべてが終わりだぞ?向こうにいるアカツキも同じ意見だったらしくモリとアカツキはかすかに顔をゆがめる。

「―――方向性は決まったな。・・・だがどうする?実際二手に分けるのは自殺行為だぞ?」

「だから戦力は1つにまとめます。具体的に言うと・・・・・・・・・・」

ユリカの説明が続くにつれてモリの表情が険しくなっていきついには半眼になってユリカをにらんでいた。

「・・・すいぶんとハードだな」

 モリは覇気のない声で呟いた。


 うなだれた様子で自室に戻るとモリは着ていた服をそこら辺に脱ぎ散らかして熱いシャワーを頭から被った。

こんな所を中尉に見つかったら相当起こられるだろうな。そう思いながら冷水に切り替えて体を引き締める。

 それと一緒に熱いシャワーで浮き出ていた数々の傷跡も目立たなくなっていく。ちょっと冷たい目まで体を冷やすしてタオルで荒々しく体をこする。

 下着を着けてその上からパイロットスーツを付ける。そして普段はベットの下にしまっているケースから防弾アーマーを取り付けその上に

野戦服を付ける。此処で一度アーマーの取り付け具合を確認し、さらに特殊部隊用の隠蔽マントを被る。最後に幾ばくか悩んだ後右腕に一枚のワッペンと留めた。

 明らかに手製と分かるワッペンには油性マジックか何かでこう書いてあった。『火星軍113学生大隊<2105-11〜』

一瞬の間ワッペンを眺めると、机の下から各種装備を取り出してパイロット控え室へと向かった。


「・・・・・・・また凄い格好ですね」

 シンプルなパイロットスーツと正反対に無骨な装備で全身を固めたモリにイツキはそう感想を述べた。

「生身でトカゲとやりあうんだ。これくらいないとな」

 あっけにとられるパイロット達を尻目に、モリは床に座る込むと各種装備の点検を黙々と始めた。

小銃に始まり弾倉、数種の手榴弾。どこからか手に入れた最新型のHMD内臓のヘルメット、バッテリー。謎の黒い警棒。医薬品、照明弾。細かいところでは銃口に詰まった雪をかき出す鍵棒。靴の裏に取り付けたスパイク。それら装備を黙々と丁寧に確認していく。やがて沈黙を嫌ったのかアカツキが言った。

「それにしても司令なのに随分と無理するね、少佐は」

「単身でトカゲをけん制しつつ遭難者を誘導。・・・しんどいけどやるしかない」

「大丈夫ですよ。少佐ならできます。私信じてますから」

 重くなりかけた雰囲気を察してイツキが信頼しきった声音で言う。その言葉にアカツキとヒカルとイズミの3人が小さく笑った。

「・・・信じられてもな。・・・テンカワ君」

 気恥ずかしげに頭をかくとモリは一人無言なアキトに声をかける。アキトはめんどくさそうにモリのほうを見る。

「リョーコ君たちをしっかり守ってくれ、男見せろよ。・・・じゃ、いくか?アカツキ?」

 アキトに片方の唇だけ上げて笑うとモリは援護係のアカツキを伴って待機室から出ようとする。

「少佐!」

 出し抜けに立ち上がったイツキに首だけ回す形で振り向く。

「・・・ご無事で・・・!」

 半瞬と惑った顔をした後モリは大きくうなずいて笑った。


「まもなく司令の班が分離します。最終フェイズに突入。」

 手元の情報を処理しつつミサはモリに通信を送ろうか悩んでいた。

「あれ?ミサちゃんモリ少佐を何も言わないで送り出しちゃうの?」

「え・・・。作戦開始前ですし、集中を乱すのは・・・」

 ミナトの質問にどもり答える。するとミナトは顔を引き締めていった。

「だめよ、好きならちゃんと送り出してあげないと。帰りを待つ人がいるって言うのがあるだけで生還率も違うらしいわよ?」

「そうですよ。とりあえず通信つなぎますね?ルリちゃんまだ電波管制前だよね?」

「はい、まだ大丈夫です。でもメグミさんあんまり時間はありませんよ」

「それなら艦長権限で作戦開始を少しずらします。そういうわけだから、艦長命令です。司令にエールを送っちゃいなさい」

 ミサが戸惑っているうちに話はとんとん拍子に進んで気がついたらコミュケの画面にモリが映っていた。

『どうした、中尉?何か問題でもおきたか?』

 普段のモリとは違うシャープな視線にどぎまぎしつつミサは口を開く。

「いえ、問題はまったくありません。・・・・・・・・あの」

 思い切って。勇気を出して・・・。

「無事に帰ってきてくださいね?」

 頬が厚く火照るのを感じながらミサはモリを見る。モリはきょとんとした後満面の笑みを浮かべて言った。

『了解。ちゃんと帰ってくるから、仕事済ませとくように。あと、ホットココア準備しててね。外寒そうだから。もう時間だね、以上交信終ワリ』

 モリの姿が消えるとブリッジに黄色い悲鳴が響き渡る。その様子をブリッジ上段から見ていたプロスペクタがジュンに呟いた。

「わかいですなぁ〜。・・・おや?アオイさんどうしました?」

「・・・なんでもないです」

 目の前でラブラブ話を見せ付けられてジュンは少し悲しくなった。




あとがき


 まもなく陸戦です。しかも北極で・・・。

自分で書いて手なんですが、司令官を北極の大地に放り込む艦長って恐ろしいですね(汗

そしてそれに反対しないモリも・・・。

 あとは思った以上に、ミサ&イツキがモリに熱を上げてくれましたね。是は予想外でした。

もっとドライな感じでモリは出発すると思ったので。

さて、次回はアキト君の活躍&モリ司令の地獄めぐりです(笑

                                             

 敬句 


 

 

管理人の感想

大森都路楼さんからの投稿です。

軍人さんは大変な職業だ(苦笑)

それにしても、まさかモリさん自ら単独陸戦って(汗)

次回はアキトも活躍するらしいので、楽しみにしています。