第21話 北極圏のデットリミット 中編




「モリより各機、これより作戦を開始。後で一杯やれることを期待する。以上だ」

 IFSを通してエステバリスを起動。後ろに立つアカツキ機に合図を出すとモリのエステバリスは北極の空へ滑り出した。

モリは目立つようにスラスターを無意味にふかして少しずつ高度を落とす。

          

「以外に視界が悪いな。・・・アカツキ、少し離れてろ」

『本気かい?ただでさえ離れているのに?』

「・・・1機のほうが食いつきがいい」

『・・・了解。あんまり無理すると悲しむ人が一杯出ると思うけど?』

「そんな感傷は火星で捨てたよ。・・・食いついてきた!」

 索敵レーダー、誘導レーダーを探知。自動防衛システムが働く中シートベルトの具合を確かめる。

『思ったより早く見つかったようだね。・・・それでも救助対象まで1キロくらいだ。近いな』

 アカツキが渋い顔をする。このままだと巻き込みかねない、面倒な。そんな顔だった。

「心配するな、アカツキが全部引き受けてくれるさ」

『んな無茶な!』 

「プロだろ?期待してる。・・・そういうことでさ!!」

 ミサイル発射警報。スタスター出力最大、チャフ、フレア放出。凄まじいGにモリ目の前が赤く染まる。

ミサイルは・・・アレか!歯を食いしばって視界の端に映るミサイルマークを睨む。モリのエステバリスは強引に機体を捻るとラピットライフルを連射。

一弾倉丸ごと撃ちつくすことでなんとかミサイルを打ち落とすと、スラスターを微妙にいじって被弾したように見せかけて地面に降り立つ。

 予めセットされた爆薬を点火してハッチを吹き飛ばすと小銃を片手にモリは北極の氷の大地に飛び出しそのまま付近の遮蔽物まで全力疾走。

数秒後エステバリスは手はずどおり派手に爆発する。その上空をアカツキのエステバリスが通過してそのままどこかに立ち去った。

「さて・・・助けに行くか」

 モリは腰をかがめたまま氷の大地を駆け出した。



「ラスト!くそ!なんて数だ!」

 アキトは受け持った最後の一体をラピットライフルで打ち落とすと悪態をついた。

『そのおかげで少佐のほうはうまいとこ撃墜されたみたいよ』

『イズミちゃんその言い方なんかおかしい』

『へ、自分から撃墜される奴なんて普通はいないからな』

 三々五々、自分達の受け持ちを落としたエステバリスが集る。

『こちらカザマ機、大使を確認。周辺に敵機の反応はありません』

 先行したイツキからの通信に、誰もが安堵のため息をついた瞬間、それは起こった。

『ナデシコより各機、大至急戻ってください!現在バッタの群れに攻撃を受けてます!!アカツキさん1人じゃ危険です!』

           

 メグミの叫びにアキトははじかれたようにナデシコのほうを見る。吹雪を通してナデシコの方で閃光がまたいている。

助けないと、ナデシコが危ない!だけど!・・・だけど?何だ?何かが引っかかる?シュミレーションで同じような事態を訓練した気がする。

『どうやらトカゲのわなに嵌ったらしいわね』

 罠、トカゲは罠を張った?何故罠を張る?その目的は?

『うわ〜、正面から団体さんだ』

 敵は何故今にこれ以上進むことを拒むような・・・。

『くそ!さっさとぶちのめしてナデシコを助けるぞ!』

 ナデシコを助ける、ナデシコに戻る・・・。アキトは思考の表層を漂い、突然思い出した。

「・・・みんな聞いてくれ。これはワナだ!」

『何言ってるんだテンカワ!このままじゃナデシコが撃沈されるぞ!』

「違うんだ!連中の目的はナデシコじゃない!イツキちゃんと大使だ!急がないと!!」

『どういうこと?―――右から敵機!』

 横合いからの攻撃を強引な横運動で回避。瞬間的にかかるGに顔をゆがむ。

「小細工が・・・効き過ぎてる。・・・バッタは常に・・・正攻法を行動の基準にする・・・少佐はそう言ってた。ということは!?」

 イズミの疑問にアキトは途切れ途切れに答える。

『ということは本命は別か!?』

『でもナデシコもやばいよ!』

 定まらない方針からの焦りにリョーコとヒカリは悪態をつく。

「・・・俺がナデシコに戻る!皆はイツキちゃんを!!」

『おい!テンカワ!!』

「時間がないんだ!早くしないとすべてが手遅れになる!リョーコちゃん、後は頼む!!」

 スラスター出力最大。海面ぎりぎりの超低空を一気に駆け抜ける。

『わかった!ヒカル!イズミ!テンカワが離脱するまで敵をかき回したらイツキと合流するぞ!』

『『了解!』』

 間に合え!間に合ってくれ!!アキトの意思に答えるようにエステバリスはさらに加速した。


「テンカワ機本艦へ帰還を開始。スバル機以下2機はイツキさんと合流する模様。―――本艦フィールド64%へ減少」

「速力最大!アキトと合流します!」

 ユリカは作戦方針をあっさり切り替えた。

「ユリカ!それじゃあ司令が!」

「少佐を見捨てるつもりですか!艦長!!」

「このままではイツキちゃんやアキト達、それに大使が危険です。ミナトさん速力最大」

 ジュンとミサの言葉にユリカはにべもなく言うと再びミナトに指示を出す。

「でも艦長、このままだと少佐の回収が難しいわよ?」

 ミナトは進路設定をしながら念を押すようにユリカを見る。

「どのみち今の私達には司令の支援は出来ません。それに・・・現状打開には司令よりパイロットのほうが重要です」

 そう大使を救出できなければ作戦は失敗、ナデシコが沈められても失敗。唯一軽視できるのは少佐と遭難者達だけ。

『本気かい艦長?・・・大使を拾って帰ってきたら4人仲良く死んでる可能性のほうが高いよ?』

 アカツキの姿がユリカの目の前に現れる。そして最悪の可能性をあえて指摘する。

「・・・・・・司令なら、何とかしてくれると信じます。今はそれしかいえません」

「・・・・・・・最初から、そのつもりだったんですね?」

 うめき声と共にでたユリカの言葉にミサは冷たく言い放った。。


 救助者確保の通信を送ろうとした矢先、光学センサー越しにナデシコが敵を伴って遠くに移動していくのをモリは見た。

「ちょっと!どうなってるの!?・・・私達を見捨てる気なの?」

 ナデシコの突然の行動に不安を覚えた北極圏の生命達に平和をもたらす会の中年女性はヒステリックに叫ぶ。

「・・・一時的な戦術運動でしょう。少し地面を掘り下げてこの場で静かに待ちましょう。見つからないのが最大の防御策です」

「しかし!もし敵が来たらどうする!?まさか軍は私達市民を見捨てて逃げるつもりじゃないだろうな!?」

 もう1人のメンバーの中年男性が不安を虚勢で覆い隠してモリにいけ高々に言い放つ。

煩いな、俺だって予想外なんだよ。何でこんなのの為に命がけで戦わないといけないんだよ!

「・・・だとしたら我々は此処で死ぬわけですな」

 カメラマンの男はどこか他人事のように言った。

「・・・少なくとも貴方達は死なせませんよ」

 赤外線センサーモードに切り替えたモリの視覚に多数の熱源反応が迫っていることが飛び込んできた。


「間に合った!」

 通常モードのモニターにもナデシコの姿が見えるようになった時、アキトは我知らず叫んでいた。

『アキトさん!』

「メグミちゃん、遅くなった!俺も戦う!・・・ゲキガンフレアー!!」

 アキトのエステバリスは一番統制の取れていた、つまり一番密度の濃いバッタの群れを一撃で葬り去った。

「・・・数が少ないときは相手をかき回す」

 連続したフルスロットル状態で異常加速した機体を上昇させて速度を落とす。そのまま精密射撃モードで一弾倉分ばら撒いて急旋回。

「射撃したら・・・移動」

 今までと違う高揚感を感じながらアキトはかつてモリの言った言葉を口にする。

『テンカワ君!右舷後方からバッタの集団!僕からじゃ届かない!頼む!』

 アカツキからの通信にアキトは視線を巡らせると統制の取れたバッタが低空からナデシコに接近していた。

警報に反応して一度回避起動を取った後アキトは高度を落とすことによって生み出される膨大な運動エネルギーに任せて突っ込んだ。


『ゲキガンフレアー!』

「テンカワ機右舷方向の敵機を撃墜。本艦近辺の制圧率82%」

 ルリの報告にユリカは安堵のため息をつくと言った。

「速力3分の2へ、進路このまま。・・・ひなぎく離艦準備」

「ユリカ、ナデシコで助けに行かないのか?」

 ジュンの疑問とミサの刺すような視線がユリカの精神を締め上げる。乾いた唇をなめて言った。

「・・・先ほども言ったように本艦の装備では対人支援は出来ません。よって最も効果を期待できる行動をとります」

 言いながら普段のモリが冷たい言葉の裏で味わっている苦悩を嫌というほど味わう。

だけど、指揮官である限りこの苦悩から逃れることはできない。この苦悩を味わいながら決断をするのが私の仕事。

ユリカは我知らず拳を握り締める。

「司令より緊急通信!つなぎます!」

 メグミの叫び声にユリカは我に返った。

『モリよりナデシコ!現在ジョロ5体以上の攻撃を受けている!エステバリスの支援を要請。クソ!・・・救助者は後方500mに避難。

うまいとこ救出してくれ!以上交信ワリ!・・・・・・今回は駄目かも』

「・・・通信途絶えました」

 メグミの言葉にミサは呆然と立ちすくむ。

「艦長!俺が行ってくる」

「ユリカ!僕も行ってくる!」

 ゴートとジュンが駆け出す。

「お願いします。・・・但し救助者を最優先に」

「そんなに少佐が憎いの?!艦長!そんなに少佐を殺したいの!!」

 ユリカの言葉にミサは激昂した。ブリッジに戦慄を伴った沈黙が降りる。

「プロスさん、タチバナ中尉を医務室に。・・・進路このまま直援のどちらかはひなぎくの援護を」

「艦長!」

「中尉落ち着いて。大丈夫です。司令は無事に戻ってきますよ」

 プロスペクターの優しい言葉をかけた後ミサを気絶させて医務室に運んで行った。

「・・・・・・司令が憎い。そうかもしれない」

 ユリカはふと呟いた。





あとがき


あっはっは・・・。

 今回のコンセプト、立場が逆。

普段つきのないアキト君が活躍し、異様なまでに目立つモリ少佐はまったくつきがない。

 ついでにおかれている立場は殆ど3話の環境ですね。但し立場逆だけど(笑

 普段アレだけ冷酷に任務を果たしている軍人コンビに今回は冷酷さを味わってもらいましょう(邪笑

                                             

 敬句 


 

 

管理人の感想

大森都路楼さんからの投稿です。

なんだかミサさんが暴走してますねぇ

そして、仮にも軍人の彼女を簡単に気絶させるプロス。

・・・あんた、何モンだい?(苦笑)

それにしても、アキト大活躍でしたね。

何時までこの状態が続くが分かりませんが(笑)