第23話 モリのいない日常
唐突に少佐・・・じゃない、モリ中佐が次の寄港地であるオオミナトで臨時休暇をとる。
何故か知らないけどオオミナトと聞いた瞬間から休みを取ると言い出した。
周りの人がいくら説得しても駄々を捏ねる子供のように譲らなかった。まったくいい大人が。
あ・・・でも、まだ未成年か?・・・私より年下なんだ。
ミサの日記より
「班長〜。なんでっすか〜!なんでモリ司令だけ休みなんっすか〜」
モリが破壊したエステバリスの代機を組み立てながら整備クルーがウリバタケにぼやく。
「いいんじゃねぇか?モリの奴ここん所働きづめだったし、この間は死に掛けたし。たまにははめ外しても罰はあたらねぇよ」
意外とミスが出やすい基本的な部分を1つ1つ確かめながらウリバタケは答えた。
「それに・・・モリの奴がいないって事は」
ウリバタケはこれから出来る違法改造に思いをはせた。
好機到来、あのモリ司令がいない。という事はアキトの所にいける。
「・・・艦長、はなしてください」
「アキトは・・・やった!部屋にいる」
「なんかイヤ。・・・誰か助けて」
まさしく天佑!艦長権限でアキトの部屋に入ってアキトと2人っきりに・・・。
「アキト・・・ユリカすぐ行くからね・・・」
「ばかばっか・・・」
ユリカは何かの拍子に捕まえたルリを引きずって夢遊病者のようにブリッジを出て行った。
モリ中佐がいない。アキトのところにいける。
「・・・アキトさんは部屋ね」
艦長より先にアキトさんの部屋に入ればアキトさんは私のもの・・・。
メグミはユリカへの遅滞作戦を模索しながら静かに素早くブリッジから姿を消した。
チャンスだ!北極から様々な理由を付けてついて来たカメラマン、ヤガミ・ナオは拳を握り締めた。
美女美少女が高い密度で存在するナデシコ。彼女らを撮らずしてカメラマンと名乗れるだろうか!
否!語れまい!しかも今回はあの男が、モリ・シゲオがいない。このチャンスを逃してなるものか!
そして・・・ナデシコを調べられるのもおそらく最初で最後だろう・・・。
ナオは肉食獣を想像させる笑みを浮かべた。
「・・・・・・司令って本当に偉大だな」
ジュンはブリッジ上段でモリの偉大さをかみ締めた。モリが艦を離れて30分後にはすでに軍艦としての機能は麻痺していた。
格納庫ではウリバタケを筆頭に怪しい密談を交わしているようだし、ユリカとメグミはアキトを目指し出撃。ルリは巻き添えを食らってブリッジには居ない。
北極で拾って居つかれたカメラマンは写真を撮っているうちにエンジンルームに迷い込んでゴートに捕まり、パイロットは待機所を脱走。
ブリッジクルーもミサとイツキをつまみにミナトとエリナと久方ぶりに医務室から出て来たイネスが談笑している。
「それで〜、中尉と中佐はどこまでいったの〜?」
「ちょ!ミナトさん!どこまでって!どこまでですか!?」
ミサはすでに外堀、内堀を崩され本丸まで追い込まれていた。
「あら・・・ごまかすのね」
仕事をしているふりをしながらエリナが突っ込む。
「・・・医者としては自己欺瞞は進められないわね。そう思わない?カザマさん?」
「そ、そうですね・・・・あはは・・・」
ミサと同じように本丸まで追い込まれたイツキは乾いた笑いを浮かべた。
「でもぉ・・・。少佐って意外と奥手だから積極的に行かないと厳しいわよ?」
「「中佐です!ミナトさん!」」
異口同音に2人は言った。上段から冷静に見ていたジュンとプロスペクターは2人とも嵌められたな、と思った。
「はいはい、ご馳走様」
ミナトは言葉通りに手を合わせる。
「いずれにせよ中佐をゲットしたいなら此方から行かないと。中佐って奥手というよりはうぶよね。」
「中佐の場合思春期に歪な環境にいたせいで精神的に歪な成長をしてるわね」
エリナとイネスがそれぞれモリに対する考察を口にする。
「・・・精神的に歪ですか?」
公正で冷静、真面目で勇気にも決断力にも不足のないモリを思い浮かべながらジュンは思わず口を挟んだ。
「そう。中佐の場合精神的に大きな成長をする思春期の最終段階で戦争という歪な環境にいたわ。それも前線で顔見知りが
次々と死んでいくような地獄のような環境に・・・」
説明好きのイネスに普段は腰の引けてるクルーも、正体不明生物ともいえるモリの考察に思わず耳を傾ける。
「おそらく自己防衛本能の関係で中佐は精神的成長を飛躍的に遂げたわ。それこそ10年単位でね・・・」
「なら問題ないんじゃない?成長した環境はともかく精神的に成熟できたんだし」
一度口を閉じたイネスにエリナが言った。
「その環境が問題なのよ。いい?中佐の場合生き残るために生物が持っている自己保存の本能で無理やり精神的に成長したの。
つまり生き残るのに必要な能力だけ急激に、他の能力が成長しても埋め合わせが出来ないほど成長してしまったのよ?
判断力、自制心、自己分析などは爆発的に成長したのに、感情表現、人との接し方等は10代の少年のまま。どう見ても歪よ」
「なるほど・・・確かに歪だね。でも歪な、変な言い方だけど精神的に異常な人間が戦場で活躍できるものなのかい?」
いつの間に入って来たのかアカツキとカメラを取り上げられたナオ、そしてカメラを小脇に抱えたゴートが立っていた。
「アカツキさん。失礼ですよ!」
「そんなに怒らないでくれたまえ。言葉のあやって奴だよ、中尉」
「けど北極で助けてもらった時は別に精神的異常があるようにはみえなかったぞ」
一瞬の隙をみてカメラを取り戻したナオはフィルムが抜き取られていることに気がついてゴートを睨む。
「・・・・・・中佐は特別だ」
「どういう意味ですか?ゴートさん」
「言葉どおりですよ、カザマさん。中佐は数千人に1人の存在なんですよ」
プロスペクターは目を閉じていった。
「火星で中佐の居た部隊が学生で構成された部隊である事はしってるでしょ?言い方を変えると同じ年代の子供が同じ環境下の中で
淘汰されていくわけね。戦場では状況に順応できない者、判断力の低い者、自己コントロールが出来ない者、運がない者は死んでいくわ。
恐らく淘汰の過程で殆ど全員が死ぬわ。そして生き残るのは・・・環境に適応できた者達だけ」
イネスは重苦しいため息をついた。
「中佐は中隊レベルの指揮官としては間違いなく地球で五指に入る。兵士としても並みの特殊部隊隊員より技量は上だろう」
「しかも中佐は地球連合軍の中でもっとも戦闘経験をつんでいる・・・か」
ゴートの言葉をジュンは引き継いでやりきれない風に眉根を寄せた。
「本来は人の精神構造を批評するのは良くないけどいい機会だから聞いてちょうだい。モリ中佐は恐ろしく危ういバランスの上で人格を形成してるわ。
しかも人との接し方、感情表現は傷つきやすい10代の少年のまま」
「それじゃあどうしろって言うのよ〜」
ミナトはお手上げと言わんばかりに突っ伏した。
「別に難しいことじゃないわ。プライベートでは普通の人として接すればいいのよ。年下のちょっとませた男の子としてね・・・」
イネスは悪戯っぽく笑った。
ウリバタケ以下整備班一同の暴走を辛うじて許容できる損害にとどめたミサは食堂の隅でぼおっとしているモリを見つけた。
「・・・中佐?」
近づいても気がつかないモリを不審に思いながら声をかける。
「!?・・・あ、中尉。用事が思ったより早く終わってね。気がついたらナデシコに帰っていたよ」
目元が赤い・・・。まさか泣いてたのかな、中佐が?ミサは頭を振って思った。中佐も普通の人なんだ。
「?・・・どうかしたのか?」
ミサの突然の奇行にモリが眉根を寄せる。
「いえなんでもないです。それより中佐、少しお茶でもしていきませんか?」
ちょっとお姉さんぶってモリに微笑んでみる。
「え・・・あ、いや、そうしたいのは山々だがまだ報告書があるからな」
「いいじゃないですか。折角の休暇ですし?」
適当な言い訳をして逃げ出そうとしたモリの正面にイツキが立っていた。
「もしかして私達と一緒にはお茶は飲めないんですか?」
首をかしげながら悪戯っぽくイツキが言った。
「え・・・いや。そういうわけでは・・・」
一体何がどうなってるんだろう?モリはパニックを起こした思考の片隅で思った。
あとがき
・・・当初の予定していたのとは違うんですが(汗
本来はモリという押さえを失ったナデシコクルーが暴走するお話のはずなんですが
気がついたら『モリ・シゲオの考察』がメインになってしましました。
一応イネスさんが言っていたのが作者の立てたモリの人物像です。
ちなみにミサの人物像は立ててません。気がついたらキャラが立ってました(笑
最後になりましたが、管理人様ヤガミ・ナオ氏の登場を許可して頂きまことにありがとうございました。
敬句
代理人の感想
う〜む、話が動いてないっちゅーか(苦笑)。
こういう内容なら先の外伝の話に含めてしまったほうがよかったかなあ、と思わないでもありません。
あくまで本筋とは(一応)関係ないモリさんの過去話な訳ですし。