第28話 混戦の果てに・・・

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 戦い、戦い・・・。今までの戦いは何だったのだろ?ルリは瞬間瞬間に情報を処理しながらふと思った。

「ナナフシ本艦に砲身を指向!!感づかれたぞ!モリ!」

「転進、進路3-5-0。アプトリム7、奴の上に出るぞ!」

「進路3-5-0!アップトリム7」

 怖い・・・。

 モリ達が発散するギリギリの環境でしか起こりえない緊迫感と高揚感にルリは圧倒された。

いままでは遠くで感じていた戦いの雰囲気を唐突に叩きつけられて、ルリは混乱していた。

「!?・・・にゃろ!フィールド5%ちょい!!つぎ食らったら貫通するぞ!!」

 相転移エンジンはすでに限界・・・。私達は・・・死ぬ?死ぬのかな?

 ルリにはナオの声が遠くに聞こえた。

「目的地までの時間は!?」

「あと20秒!」

「もらった!!」

 ナオの回答に、モリが歓喜の叫びを上げる。

 私は死ぬのが怖いのに・・・、何故周りの人はこんなに生き生きとしているのだろう?

「総員ショック対応姿勢!手近な物につかまってください!」

 ルリは艦内放送を聞き流しながらシートベルトが程よく緩んでいることを確認する。

 これから・・・どうなるんだろう?

 ルリが漠然と考え込んでいると、ナデシコに中程度の衝撃と激しい衝撃が襲った。


 手足をあちこち叩きつけられた痛みに顔をしかめながらナオは艦内状況を確認した。

「・・・左舷ブレード8番から14番区画まで圧壊!・・・左舷核パルス制御室付近に被弾!やばいぞモリ!」

 返事が無いのを不審に思ったナオが顔を上げると、モリが床に倒れたまま動かなくなっていた。

「モリ!」

 駆け寄って抱き起こす。

「・・・生きてるよ。状況は?」

 モリは唇の端を吊り上げて見せて言った。

 こいつ・・・何故ここまでできる?ナオは思った。

「・・・・・・目的地に到着。左舷ブレードは圧壊。機関区に被弾した」

 モリの瞳にある種の決意を見て取ったナオは、あえて戦いのことだけを口にした。

「破損箇所付近の隔壁以外はすべて開放。後部格納庫に誘導しろ」

「左舷制御室の連中はどうする?」

「破損箇所付近の隔壁は閉鎖したまま・・・ナオ、ここから隔壁を任意にコントロールできるか?」

 何の迷いも見せずにモリはそういった。

「いいのか?」 

「戦争ですよ、今?」

 そう言ってモリはまた笑った。

「・・・・・・・やってみる。ゴートの旦那代わってくれ」

 ナオは近くの座席の背もたれを倒してモリを座らせる。

「・・・・・・テンカワ機、スバル機が直援の為帰還中。航空隊は上昇、攻撃方法を変えるようだ」

 素早い身のこなしで操舵席から上段によじ登ると、額から流れる血を無視してゴートは戦況報告を引き継ぐ。

 ナナフシは倒さないといけない。刺し違えてもな。モリはブリッジから肉眼で見えるナナフシを睨みつけた。

「プロスさん・・・航空隊へ打電、攻撃まだか? 以上だ」

 プロスが通信している姿を眺めつつモリは言った。

「後部格納庫に集結したクルーは、定員を満たし次第連絡艇で随時退艦」

 自己満足と気休めでしかないな、モリは自嘲した。

「この時間だと機関室、格納庫のクルーは間に合わないぞ?」

 攻撃予想時刻をはじき出したカウンターを見てナオが呟いた。

「・・・一人でも多く生き残らせたい。ホシノ君・・・君も退艦してくれ」

「・・・オモイカネを置いていけません」

「危険だ。・・・君はこれ以上付き合う必要は無い」

ギリギリまで巻き込んでおいていまさらよく言うよな。思わず出そうになった皮肉げな笑みを押さえ込む。

「だめです。・・・プロスさん?・・・プロスさん、離して下さい。離して!」

 ルリの頑なな態度に業を煮やしたプロスがルリを担いでブリッジを出て行く。

「これで・・・後は死んでもいいのばっかりですね」

モリはすっきりした顔で人気の無いブリッジを見回した。

「左舷ブレードから火災発生。左舷VSL緊急発射。あのな・・・俺は死にたくないぞ」

 ナオはジト目でモリに言った。


 ナデシコから黒煙が上がるのを見てジュンの額に冷や汗が浮かぶ。

あと、10両!早く、早く何とかしないと!ジュンは動かないイツキの機体と迫り来るタイガー戦車を交互に見る。

「無事で居てくれよ!」

 パターン化した敵の攻撃をやり過ごすと、ラピットライフルを撃つ。しかし思ったように当たらない。

「焦ったら当たらないじゃないか!」

 すでに自分が何を喚いているのかも分からなくなりながら、それでもジュンは引き金を引き続けた。


「ナデシコが燃えてる!ユリカ!!」

 アキトはスロットルをさらに開く。しかし序盤でバッテリーを浪費したエステバリスはか細い推力を出すだけだった。

「バッテリー切れ?・・・なんで!」

『テンカワどうした!』

「リョーコちゃん!バッテリーが無い!」

 リョーコの表情が引きつる。自分のエステバリスの残量はまだ余裕あるのからアキトも同じだと考えていたのだ。

『バッテリーは大切に使えって言っただろうが!』

「そんな事言われても!!畜生!重力波ビームは出ないのかよ!」

 アキトはやけくそになって叫んだ。


「テンカワ機とスバル機が到着。・・・テンカワ機はバッテリー切れを起こしかけてる」

 ゴートの報告にモリは顔をゆがませて叫んだ。

「あのドアホウ!素人!役立たず!!・・・・・・・テンカワは戦力から除外!スバル機だけでナデシコを守るぞ!」

 エキサイトしたモリにゴートが言った。

「しかし中佐、まだ十分戦える機体だぞ?」

 冷静なゴートの言葉にモリも冷静になる。考え込む様な表情でナオに言った。

「・・・そうですね。ナオ、重力波ビームをだせるか?」

「ダメだ。俺とオモイカネは現状維持で精一杯だっつーの!」

 ナオが投げやりに叫ぶ。鬼気迫る表情で端末に噛り付いていた。

「テンカワ機はそこら辺におろして対空砲台替わりに使う。・・・ゴートさん指示を出しておいてください」

 どうにか怒りを堪えるとモリは航空隊のグリップを睨んだ。

あともう少し!もってくれ!


 航空部隊のウイスキーリーダーは部下を1機失うことで突入ポイントに到達した。

くそっ!制空権は確保してるんじゃなかったのかよ!黒煙を上げるナデシコを一瞬見やると罵った。

「ウイスキーリーダーより各機。単従突入でいく!攻撃!」

サイドスティックを前に倒す。前方の視界にナナフシとナデシコが写る。同時にカーソルを合わせて安全カバーを跳ね上げる。

「ロック!ウイスキー1ファイヤー!!」

 軽い衝撃と共に機体が浮き上がる。同時に後方から強い衝撃が走った。

『リーダー!ウイスキー2がやられました!!』

 衝撃でバランスを崩した愛機を立て直しながらリーダーは、ナデシコに知ってる罵詈雑言を全て叩き付けた。

それと同時に彼のパイロットとしての部分が言った。多分ナナフシは生きてるだろう、と。


 爆煙が晴れてモリが見たものは無情にも稼動を続けるナナフシだった。

「ナナフシエネルギー反応有り。本艦上空の制空権確保。・・・投弾量不足だ」

 ゴートが淡々と言った。

「さっき落とされた機体が至近に落ちたおかげで各部に破口が発生。左舷制御室、生命反応消失」

ナオも無表情で端末を操作し続ける。終わった、誰も口にしなかったが、誰もがそう思った。

「まだだ・・・!まだ終わっていない!・・・誰でもいい、奴にありったけの弾を撃ち込め!!」

 モリは萎えそうのなる自分を奮い立たせて叫んだ。


『誰でもいい、奴にありったけの弾を撃ち込め!!』

 いまだ健在のナナフシに呆然としていたジュンは、モリの叫びに即座に反応した。

倒れ付したイツキの機体から120mm砲を掴むと匍匐姿勢をとってナナフシに砲身を向ける。

意識を砲身とナナフシに集中する。

「僕で当てられるのか?」

 真っ白になる頭を叱咤して狙いを定める。ナデシコのサポートが無い以上、当てるも外すもジュンの腕次第だった。

当てないとナデシコが沈む、当てないとみんな死ぬ。当てないと僕も死ぬ。心臓が外に飛び出るかのように激しく鼓動する。

手も腕も感覚が薄れていく。萎縮していく自分にジュンは大声で叱咤した。

「当ててやる!当てて俺がヒーローだ!!」

 ロックオン、発砲!『弾切れ』の表示が出てもジュンは引きがねを引き続けていた。

爆炎が晴れた瞬間、すべての人間の視線が集った。


「ナナフシ活動停止。・・・・・・目標破壊! 繰り返す目標破壊!」

 珍しくはっきりと感情をあらわにした声でゴートは叫んでいた。

「おっしゃ〜!!」

 拳を突き上げるナオをみやりながらモリはきっちり閉めていたネクタイを緩めるとニヤリと笑った。

「作戦目標完遂。残敵掃討戦に移る。・・・油断するな!戦いは終わってない」

 それだけ言って席に倒れこんだ。目を瞑るとテンションの上がった思考回路から意味無意味な単語が浮かんでは消えていた。

 生き延びた。そして敵も取れた。・・・・・・・・そしてまた戦い、か。

ふと、らしくない事を考えた自分に不快感を覚えた。自分で選んだ道なのに嫌がり始めている。

生真面目で潔癖な面を持つモリにはそれがひどく情けなく軟弱な考えに思えた。

 俺は、後何人殺して死ぬんだろうな?

地獄絵図の戦場を見ながらモリは思った。


あとがき


 大損害です。(名前とか設定とか無いけど)ナデシコクルーにも死者がでました。

流石に突っ込んで大破しておいて死者なしというのは虫が良すぎるので。

(ブリッジとか真っ先にやられそうですがやられたらストーリ終わっちゃいそうなので諦めました)

 混乱のおかげで自分本位の罵詈雑言も飛び交いましたが、まぁそんなものではないでしょうか?

(あの状況で冷静に他人を思いやる発言が出来る奴はちょっとおかしいと思います)

 さて、これからは少しだけ重くなります。民間人、軍人、ナデシコクルー関係なく

戦争という異常事態に晒されていくでしょう。極力明るく書くつもりですが自信はありません。(汗

 とりあえず、ダークにはならないようにしたいです(激しく後ろ向き

 次回予定は外伝です。

                                             

 敬句 

 

 

代理人の感想

中々イイ感じに戦争になってますねー。

割と最初からここらへんを目指してるんだろうなとは思ってましたが。

もっとも「戦争を極力明るく」というフレーズで真っ先に思いついたのが

勝新の「兵隊やくざ」だった私も結構イイ線逝ってるとは思います(爆)