第31話 政治家と軍人
真実は小説より奇なり。あのホシノ君がピースランドのお姫様だったらしい。
で、国王夫婦はぜひ娘に会いたいらしく、呆れた事に訓練航海中の13戦隊が里帰りの為に丸ごとピースランド付近まで移動する事になった。
しかも護衛は当人の希望でテンカワ1名。おかげで艦長は拗ねるは整備班は暴走するはで大変だ。
折角ムネタケ中佐に軍務押し付けられたのにまた仕事が沸いてきた。・・・ちった〜自堕落にいきたいよ。
モリの日記より
「13戦隊は何時からハイヤー業に転職したんだか・・・」
モリは護衛――ルリ曰くお姫様にはナイトがいるらしい――のアキトのエステバリスを見送ると言った。
「政府も、ネルガルもピースランドには逆らえないのよ。仕方がないですわ、司令」
新任のムネタケ サダアキ主席参謀は苦笑混じりに言った。
「その重要人物を護衛なしのエステバリス一機に同乗させて送り出してなんかあったら洒落になりませんね」
「幸い道中の安全は当戦隊が総力挙げて守りますから、大丈夫ですよ」
モリの愚痴にコーヒーを渡しながらミサが言った。
「そう言えば、ホシノ君の支援体制ってどうなってるですか?」
第13混成戦隊編成後、モリは基本的な作戦立案等をすべてムネタケに一任した。
モリの信任に着任時は非協力的であったムネタケも態度を変え、現在はその手腕を十分に発揮している。
「司令も心配性ですわね。・・・現在テンカワ機の50km外周にヤハギを指示艦にイワキ、モチヅキ、アキヅキ、ハント、リバモアが
警戒序列で警備行動中ですわ」
モリのモニターにピースランド近辺の概略図とテンカワ機、それに警備行動中の艦艇が表示された。
「指示艦が戦艦のイワキではなく巡洋艦のヤハギなのは?」
「練度の問題ですわ。ヤハギとアキヅキが引率艦で残りの艦は訓練をかねて警備行動に使用しました」
モニターの左側に各艦の就役年度が表示される。
「なるほど・・・・・・」
こりゃ楽だわ。ミスマル司令にモリ大佐が拝み倒して有能な参謀を引っ張り込んだだけある。
ミサは呆気に取られるモリを見ながら思った。
「北極方向より敵艦隊確認!」
ハーリーの緊迫した声にブリッジ上段で簡単な会議をしていたモリ達は顔を見合わせる。
「第一級警戒態勢。状況把握を急いで!」
「エステバリス隊発進準備!皆さん急いでください」
「あら?案外優秀ね」
ユリカとメグミの間髪いれない行動にムネタケは言った。
「戦隊を集結させて迎撃に移る。ハリ、敵の進路は?概略でいい」
「敵は・・・ピースランド方向に移動中。!?・・・偵察衛星、付近の艦艇から敵の情報が入りました」
ブリッジの中央に敵の概略図が浮かび上がる。
「戦艦1、駆逐艦6、機動兵器30程度、ですか・・・」
思いのほか弱体な敵戦力に安堵するミサ。
「敵のピースランド領空進入は?」
緊張した声でムネタケは言った。
「およそ2時間です」
「・・・・・・間に合わないか」
モリは渋い顔で呻いた。
「モリ司令。ナデシコ戦闘準備完了。これより敵迎撃の為ピースランドに向かいます」
「中尉。ピースランド領空外で敵迎撃にうつれる艦艇は?」
モリはユリカに頷きながら振り返らずに行った。
「モチヅキとハントが現在位置から1時間40分程で射程に収められます。それから15分後にヤハギとアキヅキが、それ以外はいかなる方法でも迎撃不能です」
「主席参謀。どう思う?」
「無理にでても駆逐艦2杯では各個撃破されるだけですわ。・・・ピースランドの許可が下りるのを待ちましょう」
ムネタケの言葉にモリは頷くと言った。
「警備行動中の艦艇はヤハギを基準に集結。ナデシコは性能限界速力で移動。アカシオ、オオシオの二隻には後でついて来るように打電」
「・・・迎撃は行わないのですか?」
モリの言葉にユリカは不審げに聞いた。
「あの国は、連合政府の相互攻守条約に加盟していない。・・・戦闘はおろか軍艦が領空に入るのだけでも許可が必要だ」
ルリが出発する前に読んだ資料を頭の中で反芻する。
「政府に許可を求める。メグミさん、ピースランドに通信を。主席参謀、欧州司令部と統合幕僚本部の根回しをお願いします」
あわただしくなるブリッジの喧騒をよそに、ミサはモリの表情に憎悪が浮かんでいるのに気がついた。
「大佐?・・・どうしたんですか?」
「いや・・・ちょっとね」
戦いの邪魔しやがって。とは口が裂けてもいえないモリであった。
あとがき
ムネタケさん優秀です。
というかあの年齢で佐官クラス(推定)というのは基本的に優秀なんです。
(劇場版ではアオイさん中佐だけどあれはトカゲ戦争当時の実績が物を言ってるでしょう)
ようは使いこなす上官の腕次第なんです。という誠にご都合的な論法で彼は活躍しています。
何か悪の軍人というイメージのある人ですが、頑張ってもらいたいです。
敬句
代理人の感想
は、次の話で。