Scene3
旅のはじめはオツキサマ
「オッケー、オッケー。ヤマダ君の方はこっちから連合軍に頼んでおくよ」
「ですがアサルトピットのサルベージ料金はふっかけられそうですな〜。ビッグバリアの識別コードといい
今回の事といい、こう出費が続くと私は不安になってしまいますよ。」
「なに、ちょっとした先行投資だよ。彼らはいずれ僕たちの所から武器を買うようになるんだ。
そのうち大きくふくらんでこっちに戻ってくるさ」
「しかし私としては少々……いえ、まったく納得行きませんな。なぜもらってもいない
補給物資の代金をネルガルが払わねばならないのですか?」
「まあしょうがないさ。佐世保の倉庫に保管してあったナデシコ用の物資は、トカゲさんの襲撃で
炭になっちゃったんだから誰かが払わなければならないさ。それにうちが素直に弁償した事がテレビで
話題になってうちの関連企業はそれなりの成果を収めてる。それでいいじゃないか」
「会長!お金というものはあたら無駄に出来ないのですよ?!だいたい会長は細かい出費などどうでもいい
とおっしゃられますが、その金額にしてもたまりにたまれば……」
「はいはいはい。そういう事はエリナ君に一任してるから二人で話し合ってくれ。
それより新しいタイプの機体だって?うちのエステと比べてどんなものなの?」
「まあウリバタケさんの意見では『萌える』との事でしたが……」
「燃える?彼の技術屋魂に火をつけるほどすごい機体なのかい?」
「部分的には理解できる技術もあるそうですが、まだよくわからないそうです。
何しろ回収してから時間がたっておりません。乗っていたパイロットもまだ医務室ですので、どちらにしろ
今わかるのは『正体不明の機体』ということだけですな。まぁパイロットも乗っていましたし、『遺跡』の
技術も使われていないようですので、連合軍の新型機と言ったところでしょう。」
「オーケー、その件は時間がたてばわかっていくだろ。ナデシコはこのまま月へ行って補給してくれたまえ。
補充のパイロットもそっちに移動させておいたから」
「はっ?月ですか?サツキミドリで補給するのでは?」
「正体不明機の事を調べるにはしっかりした設備があったほうがいいだろ?それに月のドックなら
情報漏洩の心配もない。何しろあそこは2番艦を建造するために、元から警戒が厳重だからね」
「そういう事でしたらまずは月に向かうことにいたします。その後は当初の計画どうりでよろしいですな?」
「ああ。当初の予定よりは遅れる事になるが、まぁいいだろう。じゃ適当にがんばって」
プロスペクターからの定時連絡が終わると部屋に静けさが戻る。しかしこの静けさは長くは続かない。
何しろ隣に彼女がいるのだから。好奇心旺盛な彼女のことを考えれば先ほどの通信中に
いくらでも発言をしそうだったが、よくもったものだ。
さて、これからは彼女とのおしゃべりか。色気が全くない話ってところがつまらないけど…………
「どういうこと?!連合軍の新型機って!私は何も聞いてないわよ!!」
「僕だって聞いちゃいないよ。」
「だって20メートル級の機体なんてそうそう秘密裏に開発できないわよ!従来の機体の倍のサイズ
なんだから、開発するにしてもそれなりの大型設備が必要になるはずよ!」
「そうなんだよねぇ、そんな情報こっちには全然来てないし……。
ひょっとして『木連』の新型機なんじゃないかな。プロス君は木連の事知らないから無理ないけど、
パイロットが乗ってたからって木星トカゲじゃないって決められないしね」
「でもちょっと見た限りじゃ『遺跡』の技術は使われてないって……」
「別に彼らの持ってる技術が全て過去の物に頼った物、というわけではないだろ。
アレから100年以上たってるんだ。独自の技術が進歩してもおかしくないさ。だから徹底的に調べるために
ナデシコを月に向かわせたのさ」
「……本当にそれだけ?」
「本当も何も他に何があるって言うんだい?さて、僕はそろそろ昼食を食べに出かけるよ。いくら君でも
昼食くらいはとらせてくれるだろう?帰ってきたら『あの山』はちゃんと片付けるからさ」
そうネルガルの会長が指差す先には書類がまさに山となっていた。
「アンタ気づいてる?アンタが何かよからぬことを考えてる時って、必ず昼食を食べに出かけるのよ?
普段は『忙しいから』ってこの部屋で食べてるくせに」
「いや、気のせいでしょ?僕はただ純粋に昼食を食べたくなっただけだよ。そろそろここの部屋での食事も
味気なくなってきたからね」
そう言ってさわやかに笑い部屋を出ようとした時、さらに追い討ちをかける言葉が彼に投げられる。
「その後とってつけたように必ず笑うのも覚えておきなさい」
心理的にショックな言葉を言われてもそこはさすがにネルガルの会長。
自分の考えがばれていることを相手に悟らせないよう普段どうりの態度で部屋を出た。
だが普段と同じ態度なだけに、振り返った時のその笑みはエリナにとって解りやすいものだった。
本人はさわやかに笑ったつもりだったのだろうが、その笑顔は明らかにひきつっていた…………
「というわけでお月様へレッツゴーです!」
主要なクルーをブリッジに集めた後、ユリカは全員に対して言った。
ちなみにヤマダジロウが抜けてしまったため、今のところナデシコ唯一のパイロットと
なってしまったテンカワアキトもこのブリッジに召集されていた。
「はぁ〜、燃え尽きちゃった物資のために月に寄り道かぁ。ま、それもいいかもね。私、月って行った事
なかったし。」
ミナトがそうぼやいた。
程度の差こそあれ、集まったものたちも『まぁしょうがないか』くらいの気持ちで聞いていた。
しかしアキトにとってそんな事はどうでもよくなっていた。
ナデシコの目的地は火星。その言葉がアキトの考えを支配していた。
(もう一度火星にいけるんだ。)
「エヘン。ここで私たちのちょっとした英雄を紹介しちゃいます♪今まで紹介してる時間がなかったんだけど、
佐世保で私達の囮になってくれた、囮になってくれた………お名前なんていうんですか?」
(火星にいける。でも火星に行ったからって俺は何をすれば……)
「おーい、もしもーし。聞こえてますか〜?」
「…………ん?うわっ!」
アキトが気づいた時にはユリカの顔がすぐ目の前にまで迫っていた。
「あの〜、お名前はなんていうんですか?」
「テ、テンカワアキト。コック兼パイロットっす」
しかしアキトが名前を言っても艦長の顔は離れなかった。ユリカはアキトの顔をさっきからずっと見ている。
一方のアキトは、艦長といっても美人の女性に見つめられてドキドキしていた。
「あ−−−!!アキトだぁ!!そっかアキトだっんだ!!ユリカに会いに来てくれたの?
もぉユリカ感激ぃ!!」
突然ユリカが叫ぶとアキトに抱きついた。
それまでの退屈な自己紹介から一変。ブリッジは大騒ぎとなった。
「ユ、ユリカ!そ、そいつ誰なのさ。何で、だ、だ、だ、抱きついてるの?知り合い?」
「うん♪アキトはねぇ私の王子様なの。私が火星にいる時に『コクハク』されちゃったの♪」
「え〜?!艦長ってその人と付き合ってたんですかぁ?」
女性陣は思わぬ展開に驚きながら、更に詳しい情報を聞き出そうとユリカの周りに集まっていった。
ユリカの周りに集まるということは、当然抱きつかれているアキトも囲まれるというわけで、
二人の周りにはあっという間に人の壁が出来た。
(抱きつかれた?女の子?コクハク?誰が?……ユリカ?誰だ?チューリップ?……ちゅーりっぷ。
……ちゅーりっぷ……ちゅーりっぷ組のユリカ!?)
そこまでアキトが思い至ったとき、あわてて自分の体を「そいつ」から引き剥がした。
冷静に10年ぶりに見た「そいつ」は明らかに大人になっていたが、それでも過去の面影は残っていた。
なにより子供の頃に感じた「危険なプレッシャー」が、目の前の艦長と名乗る女からプンプンしているのだ。
(間違いない、あの女だ!あの頃しつこく付きまとってきたあの女だ!!)
「もぉ〜、アキトったら照れ屋さんなんだからぁ♪どうして逃げるの?ユリカと一緒にお話しようよ?」
そういって再びアキトの腕を自分の腕に絡めようとする。
「な、なんでお前がこんなところにいるんだよ!それに艦長ってどういうことだよ!」
アキトはユリカから離れ、まるで犬にでもする様に「シッ!シッ!」と手を振っている。
そして自分の質問に答えてくれそうであり、かつ今のところ唯一の顔見知りであるプロスペクターの方へ
顔を向ける。
「彼女はこの船、ナデシコの艦長でありまして。ですからここにいらっしゃるのも
何の不思議もないわけですな、はい」
頼みの綱のプロスペクターから死刑宣告同様の答えを聞き、アキトは天を呪った。
この間わずか一秒。その一秒の間に、ユリカに腕をつかまれ再び輪の中に連れ戻された。
「ねぇねぇ、艦長とはどんな関係なの?」
「もういくとこまでいっちゃってるとか?」
「どっちがコクハクしたの?」
彼女たちにとってのテンカワアキトは「佐世保での囮をしたパイロット」というより、
「艦長との怪しい関係」という事のほうが、重要であるらしかった。
「ちくしょー、離れろユリカ!」
「アキトどうして恥ずかしがるの?大丈夫だって。全然恥ずかしくなんかないよぉ♪」
「ユリカぁ〜、そいつとどういう関係なのさぁ〜」
「ねぇねぇ、どこで知り合ったの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「バカばっか……」
人間とは欲望の動物である。
人類が発生した地球だけでは飽き足らず、他の星をも自分たちのすみかにしている。
ここ、月もその星のうちのひとつ。
かつてはウサギが住む星と言われていたが、今の時代に信じるものは一人もいない。
空気はあるし緑もある。温度は適度に保たれ、暇にならないよう雨まで降る。
人間の知恵、科学力は様々な事を可能にした。
しかし、時代が変わっても変わらないものもある…………
(はぁ〜〜〜、また作り直さなくっちゃ……)
月の都市の中のある公園。雨上がりの午後の公園に一人の少女がたたずんでいた。
年は12〜3才の、その少女の目の前には雨のために無残にもつぶれてしまった家があった。
(ちゃんとビニールかけていったんだけどなぁ……)
自分が掛けたはずのビニールは風のせいか、近所の子供のせいか、ダンボールハウスからは離れた場所に
引っかかっていた。
この時代になってもホームレスという人種はなくならない。社会的弱者というものは人が存在する限り、
永遠に存在するのだ。
月の世界でホームレスが珍しいというわけではない。しかし彼女の年齢でホームレスというのは
めったにいないという事もまた事実だ。
せっかく苦心して作り上げた自分の家。
その家がただの雨であっさりとつぶれてしまった。
「生活に変化をつけるために」という理由で作られた雨が、自分の家を壊していってしまったのだ。
(はぁ〜〜〜、どこか新しいところを探さなくちゃ……)
雨によってぬれてしまったダンボールはもう使えない。しかしダンボールは調達すればいい。
問題はダンボールハウスを作る場所だ。この場所にはもういられない。地面からじわじわと雨水が染み込んで
くるからだ。せっかくのいい場所だったのに……
このままだと夜も眠れなくなってしまう。どこか適当な場所を探さなくてはいけない。
さすがに野宿はイヤだ。
つい先日、変な痴漢に寝ているところを襲われかけたばかりだ。
第一、夜のご飯だって……………
……………………………!
「ああ−−−!!パンの耳がびしょびしょ!!せっかくの非常食がぁ……クスン……」
「と言うわけでこちらが補充クルーの方々です」
プロスペクターがナデシコのクルーに補充クルーの紹介をしている。
元々乗船予定になっていた4名のパイロットは知っている。
何しろ自分が直接スカウトを行ったのだ。スバル、アマノ、イズミ、イツキ。彼女たちの実力は
折り紙つきだし、ここで合流することにもなっていた。
しかし……………………なぜあなた方がいるのですか!
「僕はアカツキ・ナガレ。補充パイロットの一人だ。よろしく♪」
「副操舵士として乗船するエリナ・キンジョウ・ウォンです。」
「ねぇ艦長、このまますぐ出航しちゃうわけぇ?できれば外に出ていろいろお買い物したいんだけどなぁ。
ナデシコ内の自販機だけじゃ私の欲しいブランドの物ってないの」
「あ、それって私も思ってました。なんか変にメーカーが片寄ってるんですよね」
ハルカの質問にメグミも乗っかってきた。
「それはあたりまえですね。なにしろナデシコ内に入っている自販機は、全てネルガル傘下の企業の
ものですから。デザインの片寄りや商品の種類が少ないことは当然のことですね」
「自分の会社で余った商品をナデシコ内で販売して利益アップかぁ。ネルガルもせこいわねぇ」
「あなた方!私の苦労がわかっていますか!?たとえネルガルと言えど売れる商品もあれば売れない商品も
ある。そこをいかにして利益をアップさせるために私どもが働いているか!
こういう小さな積み重ねこそが……」
「……大人ってずるい」
「まぁ、それはいいとして月への上陸許可ですが、かまいませんよ。どちらにしろ補給物資の積み込みは
明日までかかりますから。」
プロスペクターの言葉を聞くと我先に、とクルーが外へ出て行く。ほとんどのクルーは月が初めてなのだ。
はしゃぐのも無理はない。結局ブリッジに残ったのはプロスペクターとエリナ、そしてアカツキの3人だけ
になってしまった。
「まさかあなた方が乗り込んでくるとは思いませんでしたなぁ。先日の定期報告では何もおっしゃって
おられなかった」
「まぁ、私はこのバカについてきただけだから」
「バカはないでしょ、エリナ君。僕だって君を連れてくるつもりはなかったんだから……。それから
プロス君。……恨むからね」
「はっ?」
時間は少しさかのぼる。プロスペクターの定時連絡直後……
「その後とってつけたように必ず笑うのも覚えておきなさい」
会長室の扉が閉められるとエリナは電話を取った。
「私です。例のものの準備を。私も書類を持ってすぐいくから……」
会長室を出たアカツキは一直線にある場所に向かう。目指すは専用シャトル!今からならギリギリ月で
ナデシコに間に合う。
(エリナ君に感づかれはしたけど、まさか地球から飛び出すとは思ってないだろ。
さて、じゃあ行ってみましょうか!)
ネルガルの本社を出てタクシーに乗り込む。当然ネルガルの車を使うなんてバカな真似はしない。
(きっとエリナ君は今頃、僕の足取りを追っているだろう。僕が行方をくらませられるのはせいぜい一時間。
でも一時間あれば僕はもう大空へ旅立ってるさ。さらば書類の山!ようこそナデシコへ!ってね。
書類もさすがにうんざりしてきたからな。
プロス君の定時連絡も面白そうなこと言ってたし、これはこれで面白そうだ)
アカツキはタクシーの中から、専用シャトルの発進準備をさせるための連絡をした。
そしてタクシーは渋滞につかまることもなく、専用シャトルのある空港にたどり着いた。
「お待ちしておりました。シャトルはこちらです」
「ありがとう。それにしても早かったね。まだ連絡してからそれほどたってないが」
「はい。ここのスタッフは優秀ですので」
「あ、そうそう。もしエリナ君が着たら『後の事はまかせた』って言っておいて」
「かしこまりました」
専用シャトルのデッキに入るとすでにある人物がいた。専用シャトルのはずなのに?
「あら、思ったより早かったわね。道路がすいていたのかしら。めずらしいわね」
「エ、エリナ君!?どうしてここに?」
「アンタのしそうな事なんかわかってるわよ。それよりほら、さっさとこれを片付ける」
見ると会長室にあった書類よりも、さらに大量の書類がシャトル内に持ち込まれている。
さながら当社費3倍増!といったところであろうか。
「ちなみにどうやって僕よりも早くきたんだい?道路はすいていたから僕はほとんど時間をロスしてない
はずだけど?」
「別に車にこだわらなくてもいいじゃない。何のために屋上にヘリポートなんてあるのよ」
「……ああ、そうだったね。ヘリがあったね」
(次からは空も考慮しなくちゃいけないな。それにしてもシャトルの準備が早かったのは
こういう事だったのか。それにしてもさっきの奴『かしこまりました』だって?とんだ食わせ者だ!)
「ほら、さっさと書類を片付ける!まだまだあるんですからね」
「ま、まだまだあるのかい?しかしエリナ君、まじめにやってもこれじゃ終わんないよ。いつもの3倍早く
動くくらいしないとこれは無理だって」
「赤いスーツ持ってきたけど着てみる?」
「は?なんか意味あるの?」
「わからなければいいのよ……」
(しかしプロス君、君があんなタイミングよく報告してこなければこんなことには……恨むよ)
月に上陸したい者は上陸許可が出る、と先ほど艦内放送でメグミちゃんが言ってた。
俺はどうしようかな?
アキトの現在の役職は臨時パイロット兼コック。パイロットの仕事がないときは当然ここ
ナデシコ食堂で仕事をしていた。女の子5人たちは早々に月へとくりだして行ったし、ホウメイさんも
補給物資の調味料が入ってくるため、ここにずっといるらしい。
アキトは、どうしようかな、俺もアイツと一緒に月へ行くかな。などと考えていた。
アキトが拾ってきた青年は、ここ最近急激に知能の発達が見られた。
まるでスポンジが水を吸い込むみたいに知識を吸収し、今では小学生低学年並の知識になっていたため
それほど手がかからなくなってきていた。
(結局あいつの名前考えてないんだよな〜。今は何とかなってるからいいけど、どうしよう)
「ア〜〜〜キ〜〜〜ト♪」
「うわぁ!な、なんやだよユリカ!いつきたんだ!?」
「いまきたばっかりだよ。ねぇ、行こ♪」
「へっ?どこに?」
「外だよ。アキトも月は来た事ないでしょ?一緒に行こうよ♪さっきはねぇ外に雨まで降ってたんだよ?」
(こいつ、あれだけ俺が避けてるのにどうしてこうノウテンキなんだ?)
アキトはブリッジでの自己紹介以来、いつもユリカに付きまとわれている。
その付きまとい方は徹底的で、本職のストーカーも裸足で逃げ出すほどだ。
アキトもなんとか離れようとしているのだが、最近はユリカの勢いに飲まれることが多くなってきている。
「ダメだよユリカ。俺はこれからホウメイさんの手伝いをしなくちゃ」
「ああ、私のほうはいいからテンカワ行っておいで」
ホウメイは2人に気を使ったようだが、アキトにとっては救いの手をもぎ取られたに等しい。
「じゃあこれからはパイロットの待機任務に就くから……」
「大丈夫で〜す。さっき補充のパイロットさんが着たからアキトも外に出られるよ♪」
「いや、でも、ほら、あいつと一緒にいてやらなきゃいけないし」
「だったら3人で行こうよ♪」
結局アキトの悪あがき的な抵抗が通用するはずもなく、3人で街に行くことになった。
その様子を見ていたホウメイは
「若いねぇ」
そこは高屋敷末莉(たかやしき まつり)にとって、とても快適な環境だった。
地面から離れているために雨水がしみてくる心配もなく、屋根があるから雨の心配もない。
このコンテナの中というのは盲点だった。
末莉は雨で使えなくなった公園を出た後、様々な公園を探し回った。しかしどこにも安住の地はなかった。
大抵の公園は雨でだめになっていたし、乾いた地面の公園があっても既にそこは他の人達が住んでいた。
他にも一箇所だけ場所はあったが、あっちのほうには行きたくない。
それはかつて痴漢に襲われかけた場所に近いためだ。
仕方なく人気のない倉庫街に来た。そして大量のコンテナと共にいくつかの空いたコンテナを見つけたのだ。
(ごめんなさいこのコンテナを持ってる人。今日だけはここで寝かせてください。明日になったらちゃんと
出て行きますから)
そういうとコンテナの奥まったほうへ行き、自分の荷物を置いた。
荷物といっても、ほとんどないに等しく、学校で使ってる教材とほんのいくつかの日用品だけであった。
そして、今夜の寝床を確保した安心感から末莉は深い眠りに落ちていった。
「おい。このコンテナ全部あの戦艦に搬入するんだよなぁ?」
「ああ、そうだ。あの白い『ナデシコ』って奴だ」
「アキトぉ、楽しかったね♪」
(楽しんだのはお前たちだけだよ!)
結局アキトは振り回された。買い物だけだったはずがいつのまにか観光になり、月の名所といわれる所を
ほとんど一日で制覇して、『月の石』などの怪しいみやげ物も購入していた。
誤算だったのはアイツがユリカと一緒にはしゃいでいたことだ。
結局アキトにとって苦労が増えてしまい、アキトが弱音をはいたためようやく休憩となったのだ。
この時のアキトはまだ周りを見る余裕がなかった。
もし余裕があれば気づいていたであろう。
自分の顔とそっくりなあいつが見て喜んでいたのは景色なんかじゃなく、
いつも先頭を走っていたユリカだったということに…………
「キャ−−−−−−−−」
外から悲鳴。
喫茶店の中からでも十分に聞こえる声量だった。
どうしたんだろう?とも思ったが、体が鉛のように思い。
とても席から立つ気力はなく、周りを見回すだけだったがどんどん騒ぎが大きくなっているのがわかった。
「どうしたんだろ?ユリカちょっと見てくるね」
そういうとユリカは喫茶店から外に出て行った。
一緒に外を出歩いたのにユリカはまだ元気が有り余っているようだった。
(なんであいつはあんなに元気なんだ?)
「大変だよアキト!人が倒れてる!!血が出てるよ!」
「えっ!?」
アキトも疲れなど吹き飛び、あわてて外に出た。
そこは徐々に人が集まりつつあったが、たしかに女の人が倒れていた。
しかも胸から出血している。
騒ぎを聞きつけてきたのだろう。ハルカミナトとホシノルリ、メグミレイナードの3人も来ていた。
「艦長どうしたの?」
たくさんの荷物を持っているハルカがユリカに聞く。
「けが人です。ミナトさん、そこの車で大急ぎでナデシコに行きましょう!」
「でも、救急車を待っていたほうがいいんじゃない?」
「ここからならナデシコのほうが近いです。だから急ぎましょう!」
そういうとキーがさしてあった近くの無断駐車の車を拝借して、女の人を乗せ始めた。
ミナトも自分の荷物を放り出して、メグミやルリと共に車に乗った。
ミナトの運転する車が急発進をしてナデシコのいるドックに向かうと、あたりには取り残されたアキトと
あっけにとられている野次馬、そしてミナトの放り出した荷物だけが残っている。
一緒にいたあいつもどうやらいつの間にか車に乗ったようだ。
アキトが自分だけ取り残されたのに気づいたのは、救急車のサイレンが聞こえたときだった。
アキトが周りを見ると、自分と同じくあっけにとられていた野次馬たちもようやく正気に戻りはじめていた。
ミナトの放り出した荷物を届けなければいけないと思い、散らばった荷物を
回収しようと思ったアキトだったが、その手が凍りつく。
散らばったものは主に女性物の下着だったのだ。
アキトが色々考えた末に恥ずかしがりながらも下着を回収しているとき、
またミナトが大急ぎで車をナデシコに向かわせているとき、
ナデシコの医務室である男たちが目を覚ました。
「う…ここは…どこだ?」
窓際に立っている金髪の男が答えた。
「月だよ。我々が知っている街とは少々違うがな……」
「!!」
「シャア!!」
アムロは身を横たえていたベッドから体を跳ね起こした。
あとがき
どうも。パコパコです。
いや〜、感想メール来ました。うれしいです。
だから執筆速度もアップしちゃいました。しかもメールが来ればまだまだあがる可能性もあります(笑)
メールをくれた方々。この場を借りて感謝させていただきます、どうもありがとうございました。
さて、今回のキャラ。高屋敷末莉ですがほとんどの方は知らないでしょう。
もし知っている方がいらっしゃったら、私と熱く語り合いましょう!(笑)
出血されている女の方。これも別世界のかたです。
こちらは結構知られてます。
ヒントは
銀座
赤い月
「撃ちなさい」
そして「しっかりしなさい○○君!」のかたです。(ほとんど答えだな……)
存在理由 第四話
「ゆがむ世界(未定)」
太正桜に浪漫の嵐!(大ウソ!)
代理人の個人的な感想
う〜む、本筋は面白そうなのですが・・・・・
シャアやアムロやその他のキャラが出てくる意味って何かあります?