Scene5   わりとフツウ?な艦内生活




「ありがとう。オモイカネ」


ルリの声で格納庫を映していたモニターが消える。モニターに映っていた女の子の表情は笑っていたが、
ルリの表情はどこか暗い。
ルリにとって知らない人物が増えるという状況は、好ましい事ではないのだ。
元々マシンチャイルドとして隔絶されたところで育てられてきたルリである。このように人が多い場が
得意なはずはないのだ。
しばらくしてブリッジのドアが開く。


「やれやれ、とんだハプニングでしたな」

「でも良かったんじゃないですか?敵に侵入されるよりは、よほどいいと思いますよ」


プロスペクター達がブリッジに戻ってきた。
しかし出て行った時より何人か人数が少ない。ルリが他の人の事を質問すると、


「ああ、艦長はその場で見つけたテンカワさんとどこか行ってしまいました。メグミさんは自室へ戻りまし
 たし、他の人は彼らを色々案内しています」


プロスペクターの言葉にルリはあきれる。


(艦長またあのテンカワさんって人を追いかけてるんだ。いい加減あきないのかな?)


ルリは月までの航海でユリカがアキトを追い掛け回すのを何度も見ていた。
はためから見ていてもアキトはユリカの事をいやがっているようにしか見えず、それを自覚していないのは
追い掛け回している本人だけだ。
最初、これが恋をするっていう事なのかな?と思ってミナトに聞いてみたが苦笑いをしていた。


(まぁいいか。まだ私、少女ですから)

4人の案内は意外な事に、アカツキとエリナがしていた。
しかし、案内といっても各部署が書かれているパネルの前で簡単に説明しているだけだ。実際にその場に行く
事はしなかった。


「それじゃあ何か質問はあるかな?」


各部署の説明を終えて、アカツキが言う。質問を口にする者はなく、あたりは静かなままだ。


「オッケー、じゃあ今日のところは自由にしてくれ。これからの事はまた明日ブリッジで相談するから」


その言葉で各自解散となる。アムロとシャアは当然のように別方向に歩き、あやめと末利は一緒に歩いていく。
その姿が見えなくなるまで、アカツキとエリナは黙っていた。
そしてしばらくたった後、アカツキが口を開く。


「どう思ったんだい、キミは?」

「信じられるわけないでしょう。別の世界なんて頭おかしいんじゃない?」

「そうかい?僕は信じてもいいかなって思ったりしてるんだけど」

「本気?あの話を信用できるあなたの頭が信じられないわ」

「エリナ君、型にはまった考え方はよくないよ。もっと柔軟に物事は考えないと」

「あなたは柔軟すぎるのよ。物事はもっと普通に考えなさい!」

「でもまぁ、判断するには早すぎるか。どうせまだまだ時間はあるわけだし」


アカツキの言葉で二人のこれからの行動は決まった。要するに火星までの航海でそれとなく3人を見張る、
という事だ。


「それじゃあ僕はパイロットの集まりがあるんでね」


そういうとアカツキはシュミレータールームへと向かった。

(アレだけの無茶をやってよく機体が持ったものだ)

アムロは再び格納庫に来ていた。先程は少ししか見れなかったが、改めて見るとひどい物だ。装甲板は大気圏
の熱で溶解し、元の白い部分のほうが少ないくらいだった。内部構造をむき出しにした機体を見ていると、
なぜか一年戦争の頃の事が思い出された。


(ガンダムに比べればまだマシか。あの時はコア・ファイターしかなかったからな)


そう思いながらνガンダムの主電源を入れると、鈍いながらもモニターがつき始めた。
360度スクリーンのモニターのはずだが、モニターのいたるところは黒い壁のままだった。
機体の各部に設置したカメラが、補助カメラも含めてつぶれてしまっている箇所があるようだ。
しかしまだ一部動いているところを見ると、全てが死んでいるわけではないらしい。コクピットからは確認
できないが、今頃ガンダム独特のツインアイが光っているだろう。


「おい!誰が乗ってんだ!」


コクピットを覗き込む人物が目に留まる。コクピットハッチは開いたままだったので、たれかが様子を見に
来たのだろうとアムロは思った。


「すまない。迷惑だったか?」

「いや、迷惑じゃないがここは一応俺が仕切ってるんでな。責任者の俺が事故でもおきないように隅々まで
 目を光らせてんのさ」

「すまなかった。今出る」


アムロは主電源を落とすと、コクピットから出た。コクピットの横には先程の男が立っていた。


「すまなかった。機体の様子を見ておきたかったんだ」

「かまわねぇよ。だがあんた誰なんだ?」

「ああ、この機体のパイロットだよ。運良くあなたたちに宇宙で拾われて…」


だが男は首を横に振る。


「そうじゃねぇよ。あんたがこの機体のパイロットだって事は知ってる。実際にコクピットから出したのは
 俺達だからな。それにあんた達の話も聞いてる。ウソかホントか時代を跳びまわってるんだって?俺が聞き
 たいのはあんたの名前だよ。噂話は伝わってるんだが、肝心の名前がついてきてねーんだ」


噂話だけあって既に話に尾ヒレがついているようだ。別のところではひょっとして背ビレまでついたウワサ
が出まわっているかもしれない。


「アムロ・レイだ。よろしく」

「整備班班長のウリバタケ・セイヤだ」


お互いに軽く握手をする。


「なぁ、ところであの機体の事知ってるんだろ?教えてくれよ!」


ウリバタケはアムロに詰め寄るように質問した。その瞳はエサを前にしておあずけされている犬のようだった。
前にもこんな瞳を見たことがある。そうアムロは思った。
あれは確か……

(親父に似ているんだ……)

アムロの父親、テム・レイが家に帰ってきたときの顔。
ある日いやに興奮して帰ってきたと思ったら、すぐに部屋に入り持ち帰った資料をただひたすら読んでいた。
後からわかったのだが、その資料は当時連邦が始めて捕獲したMS(モビルスーツ)ザクの物だった。
今の目の前のウリバタケは、そのときのテム・レイと同じに見えた。

アムロ自身機械には強いほうだ。
同じ機械に興味を持つ物同士、アムロは軍規に触れない程度に自分の世界の技術のことを話した。


「これだから人間という物は!」

はき捨てるようにシャアが言葉を吐く。誰も利用していない端末室でシャアはただ一人この部屋にいた。
シャアはこの部屋でこの世界の歴史を見ていた。この世界の歴史といっても失われた西暦が続いている事を
除けばたいして変わりがない。
人が長期間住むような宇宙コロニーはこの世界になく、木星にも人類は居住地を得ていなかったが、たいして
変わりなく生活をしている。
そして人間同士による戦争、戦争、戦争。
今は木星トカゲとの戦争となっていたが、それまでは人間同士による戦争がここでも繰り返されていたのだ。
しかも木星トカゲとの戦争で下火にはなっているが、紛争の火種は決してなくなっていない。
目隠しして綱渡りをしているような物だ。


「これだから……これだから……………」


知らず知らずのうちにシャアのこぶしに力がこもる…………


「あの〜、先程はどうもすみませんでした」

末利があやめに向かってお辞儀をする。


「いいのよ、そんなこと。何も特別なことをしたわけじゃないんだから」

「いえ!大変ご迷惑をおかけしました。私ごときなにが出来るというわけではありませんが、何かお困りの
 事がございましたらなんなりと言ってください。何でもいたしますから!」

「ふふ、今のところは大丈夫。それよりもそんなに硬くならないで。」

「は、はい、大丈夫ですっ。緊張なんかしてません。」

「そう?だったらいいのだけれど」


二人は今艦内を歩き回っていた。先程簡単に説明だけは受けたが、あやめは実際にその場に行って確認して
いたのだ。
そして今度は通称ナデシコ食堂についた。


「おや?あんたたちかい。今度新しく乗る事になったって言うのは」

「はい、藤枝あやめと申します。しばらくの間よろしくお願いします。」

「た、高屋敷末利です。お、お、お願いします!」


末利は直角に近いほどのおじぎをした。誰が見ても緊張しているとわかる。
ホウメイとあやめはその末利の様子を見て苦笑する。



「せっかく食堂に来たんだ、どうだい何か食べていくかい?」

「い、いえ!そんなお気遣いなく。私、先程テンカワさんという人からラーメンいただきましたので」

「テンカワから?おやおや、あいつも手が早いねぇ」


ホウメイの口調はあきらかに冗談のそれだ。顔も笑っている。
しかし背後からは黄色い声が飛んでいた。


「キャ−!テンカワさんってそういう趣味あったの?」

「サユリ、考え直したほうがいいんじゃない?」

「だ、大丈夫よ!テンカワさんは誰にでも優しいだけなんだから……たぶん」


その声を聞くとホウメイも苦笑せざるをえない。ホウメイは苦笑しながら末利に言う。



「それじゃあ今度ここにきたときは私にいいな。何かおいしい物特別に作ってやるから」

「あ、ありがとうごさいます!このご恩は決して忘れませんので!」


末利はまたも直角に近いおじぎをした。













「すまない。居住ブロックはどっちですか?」

長い時間ウリバタケと話し合った後、アムロは自室に戻ろうとした。
先程説明を受けてはいたのだが、どうも違うブロックへ入り込んでしまったようだ。
目の前を通りがかった、この艦にしてはめずらしい白人の女性に声を掛けた。


「あら?あなたが別の世界から来たという人?」

「今日だけで何回もそういう風に聞かれたよ。そんなにこいつは目立つかな?」


そういってアムロは自分の青い服をつまむ。それは青を基調とした地球連邦軍の軍服なのだが、それほど
目立つとも思えない。確かにナデシコの艦内は日系人が主流を占めているが、目の前の女性のように白人も
いないわけではない。目立つという点ではシャアの赤い軍服のほうがよほど噂に立ちやすいはずなのだが……。


「そうじゃないわ。この船の人の服って大体同じデザインで色違いなの。だからあなたみたいな服の人は
 めずらしいのよ」

「そうなのか。まぁ明日からそっちの制服を借りることになってるから、目立たなくなるだろうな」


そういってアムロは再び目の前の女性を見た。
ブルネットのストレートヘアに整った顔立ち。年は20代半ばだろうか。

じっと見つめられていた女性だが、とたんに納得した顔になった。


「ごめんなさい、居住ブロックだったわね。私が案内するわ。」


そう言うと、その女性は歩き出していく。アムロもその女性の後に続く。
最初この艦を説明された時、艦内全てに重力を発生させているのはすごいと思ったが、こうして歩くと
艦内全てに重力があるのも考え物だなと思ってしまう。

そんな事を考えているうちに、あっという間に居住ブロックについた。


「ずいぶん近くを迷ってたんだな」


アムロが自分にあきれながら言う。


「フフ、そうね。でも私に会わなくてもきっと他の誰かが丁寧に教えてくれたわよ。この船にはお人好しが
 多いみたいだから。私の日本人の知り合いも優しかったしね。国民性かしら?」

「そうかい?僕の知り合いはずいぶん真面目な奴だったけどな。それよりも案内ありがとう……あ〜〜、」

「クロウディアよ。クロウディア・マッキェネン」


クロウディアと名乗った女性はアムロに笑いながら自分の名前を言った。


「ありがとう、クロウディア」

翌日のブリッジではちょっとした問題が起こった。その場で緊急に名前決め会場となったのだ。
そもそものはじまりは末利の一言で始まった。


「あの、私何かお手伝いしたいんですけど」


例の3人に関してはこの世界に関して慣れてもらうため、自由行動ということになったのだが、
ここで末利が、何か手伝いたいと言い出したのだ。


「だって私、タダでこの船に乗っけてもらってるのに何もしてないじゃないですか。だからせめて何か
 お手伝いしたいと思いまして」


そうは言っても、ルリとは違い普通の少女である末利にできる仕事などなかった。
しかしそれでは本人が負い目に感じるだろうということで、アキトが自分が仕事をしている間、面倒を見て
いる病人の世話をして欲しいと言ったのだが……


『名前が決まってない〜〜!?』


今までテンカワアキトは黒いサングラスの青年の名前を決めておらず、その場は緊急に名前決め会場と化した。


「やっぱりポチだって〜♪」

「顔が似てるんだからアキトさん2号でしょ」

「メグちゃん2号の意味って違うんじゃない?」

「名無しの権兵衛というのはどうだ」

「記憶喪失さん!」

「……ホモサピエンス」

「タマの方がいいと思う」

「天空ケン!」


他人の名前だと思って全員が好き勝手に言っている。アムロやシャア、あやめなどはクルーたちのこのノリに
ついていけず困惑している。結局色々な案が出たものの、有力な名前は出てこなかった。


「どうするのユリカ?」

「だからポチがいいって♪」

「それだけはやめとこうよ……」

「え〜〜〜?」


今回に限って言えば、めずらしくジュンがユリカの意見に強く反対していた。誰だって自分の名前を犬の名前
と一緒にされたくはない。ジュンにしてみればせめて人間らしい名前が出てくるまで、ユリカの案を反対して
いたのだが、このままでは永久に出てきそうになかった。


「じゃあ、アキトが決めて♪」

「え?オ、オレ?」


とたんに全員の視線がアキトに集中する。アキトは周りの人に助けを求めるが、それぞれ視線をはずしたり、
苦笑いをするだけで助けてはくれない。
残ったのは艦長だけだが、ユリカと視線を合わせるとサングラスの名前は「ポチ」に決定してしまう。


「名無し、じゃダメ?」

『ダメ!』


全員に言われては仕方なく名前を考え、結局「アキト」をアナグラムで「トキア」としてサングラスの男に
名前をつけた。
問題も全て解決。ナデシコの火星までの長い航海がはじまった。


「それじゃあ火星に向けてがんばろ〜〜〜〜!」

がんばれなかった。
月を出て一週間。木星トカゲに会うこともなく、ただ、ただ漫然と時間は過ぎていった。
もちろん各自自分の仕事はした。しかしそれは完璧なルーチンワーク。何の変化もない生活で、すでに艦内の
士気は最低にまで落ち込んでいた。
アムロとシャアは最初の二日間ほどこそ、端末を使ってこの世界の事を調べたが、大して違いがなかった。
多少の技術的な違いや歴史の違いはあるものの、ほとんどは「慣れ」の問題であった。

苦労があったとすればむしろ藤枝あやめのほうだった。
異世界に飛ばされ、時代も大きく変わっている。彼女はいわゆるカルチャーショックを受け、必死にこの
世界の事を学んだ。
元々の彼女の能力が高かったのか、一週間で彼女はこの世界になじんだ。今では何の問題もない。

末利もアキトが仕事に出ている間、彼の部屋でトキアの面倒を見ていた。
面倒を見るというより、勉強を見たり遊び相手になったりしていた彼女だが、いまだにトキアは
一言も話せない。

そして更に一週間が過ぎた。ナデシコの士気は相変わらず低い。
しかしそれ以上に困ったのがシャアやアムロたちである。
3人は仕事が全くない。そのため思い思いのところに行って時間をつぶすこととなった。

あやめはホウメイと仲良くなり、末利と3人でいる事が多くなった。
アムロもウリバタケと仲良くなって格納庫に出入りしている。そしていくらかの部品を貰ってきて自室で
何かを作り始めた。
シャアは自室で詩集を読んでいた。






そして火星までちょうど半分というとき、艦内に緊急アラームがなった。








あとがき

まずちょっとだけお知らせを。こだわりをもって読みたい方は、次回から読む時この文字にご注意ください。

「宇宙」

ナデシコのクルーのときは「うちゅう」と読んでいいのですが、アムロとシャアが言葉にする時は「そら」
とお読みください。
ガンダムを知ってる方はそのほうがシックリくると思います。



さて今回の話ですがついにアイツを完成させられませんでした。アムロよ早く作れ!
そして新登場人物のあの人。書くのにまごついているあいだにPS2で発売されてしまいましたが、私は最初からPCでプレイしている根っからのニト○ユーザーです。
機会があればまだまだ出してあげたいなぁなどと思ったりしてます。(リァ○ーンもだしてみたいなぁ……)


それでは次回の話ですがいよいよ戦闘です。
ここまで戦闘もなくすごしてきてだらけきったナデシコクルーの運命やいかに!

乞うご期待!



 

 

代理人の感想

・・・・・・いや、クロウディアはともかくリァノーンは・・・・問題があるんじゃありませんか?

 その、イロイロと。

 

しかし「トキア」ですか(苦笑)。

「カイト」に手垢がついてるから避けたいのは理解できるんですが・・・・なんというか、ねぇ(爆)。

 

>アムロよ作れ

・・・・・・・・・・・・・・・「アキト、ノウハレベル、オチテル」?