機動戦艦ナデシコ 格納庫にて
「ふう、第一段階は何とか乗り切ったな。さて、エル、フィン、行くぞ、準備しろ。」
『は〜い。』
『OK。・・・・と言いたいんだけど、僕らの体の反応がないんだ。』
アキトの乗るブルーエルフィンのAIであるエルとフィンは、ラピスたちに頼んで自由に動ける体を用意してもらったのだ。
その方法は、ブルーエルフィンに本体があり、その本体からラジコンのように遠隔操作しているのである。
「なにっ!? まさか、分解屋か?」
『ううん、違う。ブリッジにあるみたい。・・・・と言うわけで、僕ら先に行ってるね。マスター。』
「分かった。あんまり、騒ぎを起こすなよ。俺が行くまで言語モードは禁止だ。いいな?」
『ういっす。早くきて下さいよ、マスター。』
俺が外に出ようとした時、下でブルーエルフィンに頬擦りしていたウリバタケが俺に気付く。
「あ、まて、すぐに梯子を用意する。」
「必要ないぞ。」
俺は、コックピットのハッチ脇にある乗降用ロープに足を引っ掛け下へ降りる。
「すげ〜な。これがヴァルハラの最新型か!? くぅ〜、いいぞ〜、いいぞ〜。」
ウリバタケの目がヤバイ光をはなっている。
「ブルーエルフィン。これは、可変型ウイングタイプだ。他にも4タイプある。」
「何っ!? そいつらは?」
ヤバイ光を目に光らせたまま俺に詰め寄るウリバタケから逃げるように言う。
「残念だが、まだロールアウトしてないんだ。」
「そうか〜。」
目に見えて落ち込むウリバタケにため息をつき、
「あ〜、申し訳ないんだが、自己紹介していいかな?」
「おっと、すまん、すまん。俺は、整備班班長ウリバタケセイヤだ。セイヤでいいぞ。よろしくな。」
「ヴァルハラからの出向社員で、テンカワアキトだ。俺もアキトでいい。こっちこそ、よろしく頼む。俺の荷物は?」
「ああ、ブリッジに運んじまったよ。しかし、可変型か〜。どんな構造をしてんだろうな〜。」
再び、目にヤバイ光をともしブルーエルフィンを見上げるウリバタケ。
俺は、若干の恐怖を感じ、
「すまないが分解だけは、サツキミドリで補充パイロットがくるまで止めといてくれ、頼む。かわりに、整備書を渡す。」
と、言ったんだが、彼の目の力は消えず。
「ああ、分かってるよ〜♪」
(絶対、分かってないな。エルとフィンに注意しておくか。)
「あと、すまないが、OSに関しては俺がやるから手をつけないでくれ。」
「俺らが信用できないってのか?」
憮然とした表情で、俺を見るウリバタケ含む整備班の面々に対し、
「いや、残念だが今現在OSは、俺以外のアクセスを受け付けないんだ。俺専用にAIをつんでるからな。」
「むぅ。仕方がねえ。OSに関してはお前に任せる。他の所はかまわんのだろう?」
「ああ、頼むよ。じゃ、俺はブリッジへ行くから。」
「おう。・・・・・ああっと、テンカワ助かったぜ、お前は俺達の命の恩人だ。」
俺は、片手を上げて整備班に合図し格納庫を後にした。
機動戦艦ナデシコ ブリッジにて
「まったく、ハーフマスターキーを見つけるためとはいえ、アキトの荷物グチャグチャね。」
副艦長席に備え付けてある折り畳み式の机にアキトの荷物を置く。なんとなく気になって、私はたたみ始めた。
「あれ〜、副艦長、それってパイロットのアキト君のでしょう? たたんであげてるの〜?」
ミナトが、《面白いものみ〜つけた》とばかりにジュンを見る。
「え、ええ、そう・・・ですけど・・・・。」
ムネタケが、苦笑しつつジュンを見る。
「副艦長、ここはブリッジよ。女の子するのもいいけど公私の区別はつけなさい。」
「・・・・・あっ!? す、すみません。つい。」
あわてて、たたんだものとたたんでないものを混ぜてバッグに押し込んだ。
『ムギュウ〜。』
『みゃぁ〜。』
「「「「「「「え!?」」」」」」」
全員の視線が、アキトのバックに集まる。ジュンが、押し込んだ服を外に出していくとさっきまでは気付かなかった二つのぬいぐるみがあった。
二つを副艦長席の机におく。
「白のウサギと黒のウサギ?」
「かわいいけど、ウサギじゃないですよね〜。」
「猫にも似てる気がするけど?」
「生きてます? ひょっとして・・・・。」
上から、ジュン、メグミ、ミナト、ルリの順である。4人は、2匹をつついてみたり抱いてみたりしていたが、
「それはともかくとして、アレなのかしら。テンカワさん、いい年の男なのにぬいぐるみが大好き・・・・とか?」
と、何気なくメグミが言ったことにより、
「「「「「「「・・・・・・・」」」」」」」
ブリッジメンバーの脳裏にイヤ〜な想像がめぐる。
『テンカワアキト、ブリッジイン』
オモイカネが、アキトがブリッジに入ったことを告げる。
「ヴァルハラ出向社員 機動兵器部門シヴァ所属テンカワアキトです。着艦の報告に・・・・・・、ど、どうしました?」
自分を見る冷たい視線に、ちょっと、イヤかなりたじろぐアキトであった。
未来を、君に・・・
PRINCSS OF DARKNESS
新たなる時代
第2話 前編 闇の公子 親子に笑う
誤解の内容がわかるとすぐに、エルとフィンをおこし言語モードで二言三言話させる。
その上で、彼らがブルーエルフィン専属のAIであり、自分が断じてぬいぐるみ大好き人間ではないことを告げる。
「な〜んだ、そうだったの。アキト君の趣味じゃなくて、この子達本人が選んでこの体になったのね?」
黒い体のエルは、メグミに抱かれ、白い体のフィンは、ミナトに抱かれていた。
「ええ、俺としてはもっと機械的な体が良かったんですけど、こいつらがどうしてもって言うから。」
『だって、マスター、こっちの方がかわいいでしょう?』
『僕は別に・・・・、まあ、この体も嫌いじゃないし、警戒をむやみに取られることもないしね。』
「さて、エル、フィン、改めてご挨拶しよう。」
『ういっす』
『OK。』
2匹はメグミ、ミナトの腕から飛び降りると器用にアキトの肩に昇りブリッジメンバーを見る。
「ヴァルハラ出向社員 機動兵器部門シヴァ所属テンカワアキトです。よろしくお願いします。」
『さて、黒い毛の僕がエル、ブルーエルフィンの機体制御などをしています。自立成長思考型AIの男性型です。』
『白い毛の私はフィン、同じくブルーエルフィンの武器制御などをしているよ。自立成長思考型AIの女性型です。』
「ナデシコ副艦長、アオイジュンです。これからよろしくお願いしますね。テンカワさん。」
アキトは、ジュンから発せられる気に冷や汗をかいた。
「操舵士のハルカミナトよ。よろしくね。」
「通信士のメグミ=レイナードです。さっきはありがとうございました。」
「オペレーターのホシノルリです。ルリでいいです。囮、ご苦労様でした。」
「ナデシコ副提督のムネタケサダアキよ。」
「提督をやらせてもらっておるフクベジンだ。」
「私とゴート君の紹介はいいですな。顔見知りですし。」
「うむ。」
自己紹介が終わると器用にエルとフィンは一礼し、アキトの肩から飛び降りルリの膝に飛び乗る。
『『あなたが、ルリですね? 僕達はオモイカネ兄さんと同じコンセプトを元に作られました。』』
『『よろしくお願いします。』』
「よろしく。」
そういって、ルリは2匹の頭をなでた。
ルリに2匹が自己紹介するのを見てアキトはプロスとムネタケ、フクベに近づく。
「お久しぶりです。フクベ提督、ムネタケ少佐、プロスさん。ゴートさん」
「うむ。」
「久しぶりね。テンカワ、あんたが来るとはね。頼りにしてるわよ。」
「テンカワさん。囮、ごくろうさまでした。部屋に案内しましょうか?」
「では、ミスター、俺が・・・・。」
「はい、ありがとうございます。エルとフィンの挨拶も終わったので一度部屋に行こうかと思うんですが・・・・・。」
アキトは、ルリに抱かれるエルとフィンを見た。行けそうになかった。
「やっぱり、かわいいわね。」
「・・・・ですね。」
羨ましそうにルリを見ていたミナトとメグミだったが、耐えきれなくなったのか、ルリのもとへ、抱かせてもらう為に近づいていった。
ブリッジメンバーの目が、2匹に向いている間にジュンがアキトに近づく。
「テンカワさん、後で、お話がありますのでお時間いいですよね?」
にこやかに、青筋を立てながら言うジュンに対し俺は即座にうなずいた。
後ろでは、二人の関係を知るプロスと始めてうろたえる表情を見たのかムネタケが笑っていた。
忘れてならないのは、ミナトの目が光ったことであろう。
ピーーーーーーッ、ピーーーーーーッ
「どうしました?」
プロスがルリにたずねる。
「宇宙軍の輸送機が、一機近づいてきます。」
「その輸送機から通信来ました。」
「開いて下さい。」
即座にジュンが命じる。
「こちら連合宇宙軍 極東支部所属の輸送機だ。ミスマルユリカ嬢をお連れした。格納庫のハッチを開け。」
あまりの高圧的な態度に、まず、同じ軍人のムネタケが切れた。
「副艦長、遅れてくるような艦長などいらないわ。送り帰しなさい。」
ムネタケが、輸送機に聞こえるよう、わざと大きな声で言った。
「ヴァルハラ社も同様に思う。艦を私情で危険にさらす者など必要ない。」
「ム、ムネタケ少佐それが何を意味するかわかっているのですか?」
「分かっているわ。でも、親の七光りの使えそうもない人材などただのクズよ。いえ、権力慣れしている場合はもっとまずいわね。昔の私のように、ね。」
「・・・・ネルガルも同じなんですが、彼女がマスターキーを持っていますので一度受け入れるべきではないでしょうか?」
「マスターキーだけ受け取ればいい。もし、向こうが断るならネルガル社か、ヴァルハラ社にあるマスターキーを持ってくればいい。」
「スケジュールに遅れがでてしまいますよ。」
「俺が、ブルーエルフィンで行けば一時間ちょっとで行ける。問題ない。」
「その間の守りはどうするのです?」
「むっ。」
「ふぅ、マスターキー回収と艦長に説教をするため受け入れます。テンカワさん、ゴートさん、格納庫に行って下さい。輸送機から、いらない密航者が乗るかもしれません。ルリちゃん、テンカワさん達が格納庫についてから開いて下さい。そちらも、それでいいですね?」
「なんだと!? 貴様、軍に向かって、「わかった。しばしこのまま待たせていただく。」少佐!?」
「よいのですか?ヒロサキ少佐。」
「作戦は失敗だよ。さっきの会話聞いただろう? テンカワとは、黒衣の天王のことだろう。我々では、勝てんよ。」
「ヴァルハラの鬼札!? なぜ、そんな奴が・・・・・・。」
「作戦は失敗、そうトビウメに報告しろ。」
「少佐、このナデシコがあればどれだけの民間人が救えると思っているのです? それをあきらめるなんて・・・・・・。」
「民間人で救えるのは、極少数さ。それも、政府の高官や軍の上層部の親族が取り残されている場所中心の救助活動だろうな。果たしてどれだけの意味があるのか疑問だね。」
「そう・・・ですね。」
彼らは、ナデシコよりも軍の上層部に腹を立てた。
「メグミさん、輸送機に聞こえないようにして全艦に通信をつないで下さい。」
「はい、・・・どうぞ。」
「副艦長のアオイです。今、艦長がきました。私の経験上、彼女は、遅刻をうやむやにしようとするでしょう。私が許可するまで徹底的に彼女を無視して下さい。それが一番効果的です。」
(ええ〜ん。なんで、みんな無視するの〜?)
ユリカは泣きそうだった。と、ブリッジの扉の前につく。
(よし、今度こそ!!)
『ミスマルユリカ、ブリッジイン』
「みなさ〜ん。私が艦長のミスマルユリカです。ブイッ。」
シーーーーーーーーーン
無反応だった。
ジュンは、副艦長席で航行路のスケジュール確認をしていた。
フクベとムネタケは、お茶を飲みながら将棋していた。
メグミとミナトは、ルリと一緒にファッション情報誌を見ていた。
AIであるエルとフィンは、オモイカネと話していた。
ちなみに、アキトとゴートは格納庫で輸送機が出て行くのをじっと見ていたし、プロスは、本社への報告のため自室に下がっていた。
作戦は成功していた。
「あの〜、ユリカ来たんですけど〜。」
「ミスマル艦長、マスターキーを交換していただけますか?」
私は、にこやかに微笑みながら艦長に言う。
「は、はいっ、ただいま。」
ユリカが、ハーフマスターキーを抜き、マスターキーに交換する。
「キーロックシステムの作動を確認しました。」
ルリが言う。
「さて、ミスマルユリカ艦長。本日のスケジュールを申し上げます。
今現在 〜12:00 アオイ、プロス、ムネタケによる説教会
12:00〜13:00 食事&ホウメイ含む食堂メンバーによる説教会その1
13:00〜16:00 ウリバタケ含む整備班による説教会
16:00〜18:00 ゴート含む警備班及び生活班による説教会
18:00〜19:00 食事&ホウメイ含む食堂メンバーによる説教会その2
19:00〜22:00 フクベ提督のありがたいお話『艦長とは何か』
となっております。覚悟はいいだろうな?」
ちょ〜っとジュンが最後の言葉を強めて話したりした。
「あは、あははははははは。」
かわいた笑いをユリカが奏でるが、そんなもので許されるわけもなく、プロスがブリッジに戻りしだい説教会が始まった。
アオイ、プロス、ムネタケによる説教会が終わったころ、ゴートがプロスに声をかけた。
「ミスター、そろそろ時間だ。」
「え、もうそんな時間ですか、ゴート君、アキト君と一緒にごみ掃除してきてください。」
アキト、ゴートは頷くとドアから出ていった。
「さて、メグミさん、全艦に通信をつないで下さい。」
「はい。」
「さて、ネルガルとヴァルハラは、伊達や酔狂で戦艦を作ったわけではありません。我々の目的地は。」
「火星だ。」
「そう、火星です。火星大戦のおり火星に取り残された人はどうなったのでしょう。」
「死んでるんじゃないの?」
「わかりません。ですが、確かめる価値はあります。火星に残った人々と資源を回収するのが我々の目的です。」
「困るんですよ。そんな所に行かれるとね。」
ブリッジに武装した男が5人入ってくる。
「あんた達、何の真似かしら。」
「ムネタケ少佐、これは宇宙軍の決定です。ナデシコには宇宙軍の一員として戦ってもらう。すでに、格納庫、食堂、機関室は、我々が抑えています。」
「ふ〜、無駄ね。」
ムネタケはため息をつき、五人を見る。
「あんた達もバカね。ホシノさん、見せてあげて。」
「はい。」
「こちら格納庫だ。こっちの心配はいらねえよ。」
床には、気絶して動かない軍人に整備班がロープを巻いていた。
「ウリバタケさん、捕まえた軍人はあいてるコンテナに突っ込んでおいてくださいますか。」
「了解。」
「「「「こちら食堂で〜す。」」」」
同じく、床に軍人が積み重なっていた。ピクリともしない。
「仕込みしたいんで早く終わらせてくれないかね。」
「すぐに引き取り手が行くので待ってて下さい。」
「「「「「なっ!?」」」」」
「あんた達、輸送機にいたであろう兵士がなんで何もしなかったと思うの? この艦には、黒衣の天王が乗ってからよ。」
ムネタケの言葉に、ブリッジにいた軍人が真っ青になる。
「こ、黒衣の天王。」
「ヴァルハラの鬼札。」
「しかし、こっちにはブリッジメンバーと言う人質が・・・・・・。」
シュッ
ブリッジのドアが開き黒い風が巻き起こる。
飛び出したのはバイザーをつけたアキトだった。
「さて、寝ていろ。」
流れるような動きで、軍人を一人一人沈めていく
「綺麗、まるで舞みたい。」
「すご〜い。」
メグミとミナトが、そうつぶやいた時には、すでに4人があっという間に沈み、残り一人となっていた。
「なっ。」
「後は、お前一人だ。気絶していろ。」
アキトは、音もなく兵士の後ろに回りこみ首を後ろから軽く叩く。
兵士は、なすすべなく崩れ落ちた。
「ごくろうさまでした、アキト君。」
バイザーをはずしながら、
「いえ、これも仕事のうちですから。」
アキトが答える。
ピーーーーーーッ、ピーーーーーーッ
「海中より戦艦3浮上してきます。照合、連合軍極東支部所属トビウメ、パンジー、クロッカスです。」
「トビウメより通信です。」
「開いちゃって「開かないで下さい!!」」
ユリカが言い終えるより先にジュンが止める。
「どうしたんですか? 副艦長。」
アキトを除くブリッジメンバーがジュンを見る。
「トビウメということは、ミスマル提督が乗っているはずです。私が許可するまで、全員耳をふさいで下さい。すぐです。」
そう言って、率先してふさぐ。メンバー達も、首をかしげながらも耳をふさぐ。周囲の状況を見て、
「オモイカネ、開いて下さい。」
『りょ〜かい。』
ピッ
「ユゥゥゥゥゥゥリィィィィィィカァァァァァァァァァァァァ。」
「ああっ、お父様ぁぁぁぁぁぁ。」
ブリッジメンバーが耳をふさいだにもかかわらず脳を揺らす程の衝撃をもたらすビックボイス。
何とか乗りきったジュンは、ブリッジメンバーに手をはずすよう指示し、軽く頭を振りモニターにうつるミスマルコウイチロウを見た。
「ミ、ミスマル提督、ど、どのような御用でしょうか。」
ユリカと親子の会話をしていたミスマルコウイチロウにジュンが言うと、急に提督の顔になって
「うむ。ナデシコには連合宇宙軍の一員として働いてもらう。これは連合軍の総意だ。」
「困りますな〜。すでに軍とは話し合いが終わっているではないですか。」
「事情が変わったのだよ。我々が欲しいのは今、木星蜥蜴と戦える戦力だ。それをみすみす民間には置いておけんということだ。」
「では、交渉ですな。」
「よかろう、しかし、作動キーと艦長はこちらが預かる。」
「艦長抜いちゃダメだ。」
突如、医務室からコミュニケでウインドゥが開き、キチ・・・・ガイが叫ぶ。
「えっとぉ。抜いちゃい・・・・・・、ぬ、抜けない。」
ユリカが力を入れて抜こうとするのをジュンが止める。
「やめなさい。」
ジュンが止めるのを見て、アキトが言う。
「マスターキーは、艦長、副艦長の同意がなければ抜けないようになっている。最初の説明事項の中にあったはずだが?」
アキトの言葉に、プロスもユリカを見て呆れながらも言う。
「ええ、私も説明しましたし、書類にも明記してありましたよ。」
「あははは、ジュ、ジュンちゃ〜ん。」
ユリカがジュンを見る。ジュンは、ため息をつき、ミスマル提督を見る。
「私、ナデシコ副艦長アオイジュンは、ナデシコマスターキーの受け渡しを拒否します。」
「えっ!?」
「ふっ。」
驚いた顔をするユリカと対照的に少し笑ったアキト。
「・・・・アオイ君。いいのかね。君の行動はお父上にも影響するんだよ。」
「かまいません。私は、公私混同する貴方の娘とは育ち方が違うんですよ。ミスマル提督。」
そう言って、ミスマル提督に微笑むジュン。
「ぐっ、アオイ君。」
声を荒げるミスマル提督に対し、ジュンは真面目な顔をして、
「素晴らしい娘さんですわね。戦艦の発進時に遅刻し、艦と乗員を危険にさらすその資質、類稀なものがあると思いませんか? しかも、本人は遅刻したことに対し罪悪感がこれっぽっちもなく、佐世保でナデシコが定時に出航していれば死ななかったであろう地上軍の同朋が何人いたのか、報告を見たときの私の気持ちが、娘に会って世間話をしているだけの貴方にわかりますか、ミスマル提督。答えて下さいませんか、ミスマルコウイチロウ殿?」
「「「副艦長。」」」
ルリ、ミナトとメグミは、心配そうにジュンを見ていた。
「ジュンさん。」
プロスは、人事担当者として、すまなそうにジュンを見る。
「(ジュン、すまない。俺がもっと早くきていれば・・・・。クソッ)」
アキトは、胸の中でジュンに対し詫びた。
「・・・・・・。」
目を閉じ沈黙するミスマル提督。
「・・・確かに、遺憾であると思う。娘のことも私が代わりにわびよう。しかし、我々は、ナデシコという戦力を火星に行かせるわけにはいかんのだよ。」
「では、話を戻しますが、我々にはマスターキーを渡す気はない。そちらには、プロスペクターと艦長で行ってもらう。かまいませんね、ミスマル提督。」
「うむ、わかった、ムネタケ少佐。」
その言葉を、最後にトビウメからの映像と通信は切れた。
「ジュンちゃん、ジュンちゃんも行かない? おいしいケーキとかもあるよ。」
能天気なユリカの声を聞いて、私は怒鳴りたくなったが、抑える。
「ユリカ、いいかげん学生気分を止めなさい。艦長と副艦長が同時に艦を空けてどうするの。」
「お父様がいるし大丈夫だよ、ジュンちゃんも行こう?」
私の自制心もここまでだった。
「ふざけてないで、一人でさっさと行ってきなさい。」
「うぅ〜、ジュンちゃんの怒りんぼう〜。」
ユリカは、涙目で走って出ていった。
ジュンは、ため息をつき、ルリに広域の探査を頼んだ。
「チューリップが海中にありますが、機能は停止しています。」
「そう、一応、クロッカスとパンジーに4隻の戦艦が集まっていることを理由に注意するよう私の名で通達して。」
「はい。」
「クロッカスとパンジーから、「貴殿の配慮に感謝する」と送られてきました。」
「わかりました。交渉は少し時間がかかるでしょうから、私は少し下がります。その間の指揮権を提督に移します。お願いできますか?提督。」
「うむ。」
「・・・・・・、メグミさん、テンカワさんにブリーフィングルームに来るよう伝えて下さい。」
「はい。」
「実況は、私、メグミ=レイナードがお送りします。どんな話するんですかね〜。解説のミナトさん?」
「さっきの感じだと二人とも顔見知りみたいだし気になるわね〜。」
「私、少女ですから分かりません。」
「面白そうね、私も混ぜてもらえるかしら?」
「ふっふっふっ、いいの〜? 副提督なのに〜。」
「艦のメンバーの動向を見つつアドバイスするのが私の仕事よ。・・・今、仕事内容決めたけど。」
「趣味は意見があいそうね。」
「そうね。」
「パイロット、テンカワ来ました。」
「どうぞ、入って下さい。」
「今まで何してたの?」
ジュンが俺を睨んでいた。
「まあ、俺にもいろいろあって「パァン」
言い終える前にジュンの右手が俺の顔をうっていた。
「いろいろ・・・あった、ですって・・・一言ぐらい、一言ぐらい言っていきなさいよ。行ってくるって手紙だけで、私が、私がどれほど心配したのか分かっているの?」
目に涙をため俺を見ていた。
俺は、その涙がジュンの頬を流れるのを見、・・・気付けば俺はジュンを抱きしめていた。
「・・・・放して、・・・放しなさい。」
「・・・・悪かった。誰にも話すわけには行かなかったんだよ。」
「放して。」
「ヤダ。放したら逃げるから。」
「貴方は、いつも勝手よ。」
「理解してるくせに。」
俺は、しばらくジュンを抱きしめていた。
ジュンの耳に口を近づけ、
「・・・盗み見されてなければ、ここでジュンの唇奪ったのにな・・・。」
ジュンは、耳まで真っ赤にして俺を突き飛ばすように放しコミニュケに言う。
「コホン、皆さん、覗き見ですか?」
「あら〜、バレちゃった〜。ごめんね〜。」
「すみませ〜ん。」
「ごめんなさい。」
「テンカワ、なかなかいいもの見せてもらったわ。今度、あいつらに報告してあげる。テンカワは、無事大人になりましたって。」
「ムネタケ副提督、やだなぁ、俺はずいぶん前から大人ですよ。3年ぐらい前の夏に「スパーン。」
「いわんでいい。」
どこから出したのか、ハリセンでアキトの後頭部を凪ぐジュンがいた。
「副提督もからかわないで下さい。」
「ふふふ、じゃ、これぐらいで。」
ウインドゥが消える。俺に背を向けてジュンがつぶやくように言った。
「今度、勝手にいなくなったら許さないから・・・。」
「大丈夫だ。お前とナデシコは俺が守るよ。」
俺は部屋を出て行こうとして足を止める。
「そうだ。ジュン。」
「えっ!? 何!?」
突然呼ばれたことで驚くジュン。
「プレゼント。」
そう言って俺は、小さな箱を出しジュンに渡す。
「これは、・・・イヤリングね。」
俺は、胸元からペンダントを出しつつ言った。
「俺のペンダントとの連作だよ。イヤ?」
ジュンは、俺に箱を返してきた。
(失敗かぁ。)
と、一人へこんでいると、ジュンは久しく見なかった笑顔で、
「着けて。」
「え!? ・・・・・・はい。」
耳にイヤリングをつけたジュンは、俺をじっと見て、
「似合う?」
と、聞いてきた。
「当然。今すぐ抱きしめて押し倒したいくらい。」
ジュンは、顔を真っ赤にして何か言おうとして、
「副艦長!!」
突然、ルリのウインドゥがジュンの前に開く。
「は、はい、どうしました。ホシノさん。」
「海中にあったチューリップが活動を再開し、クロッカス、パンジーが飲み込まれかけています。」
「指揮権は提督にあるはずですが?」
映像が、ルリからムネタケに変わる。
「提督が、ブリッジにいなくても的確な判断が出来るか見たいそうよ。貴方が指揮しなさい。」
ジュンは、軽い深呼吸をして言った。
「わかりました。クロッカス、パンジーに向かって時限式のミサイル発射。両艦には当らず、チューリップに向かうはずです、当る寸前に爆破して下さい。その間に両艦の乗員に脱出をさせるよう通信をして下さい。テンカワさん、こちらの迎撃が整うまで時間を稼いで下さい。」
「「了解。」」
言葉と同時にブリーフィングルームを出て行くアキト、逆の方向ではあるがブリッジに行くためかけだしたジュンがいた。
「これから、ブリッジに行きます。テンカワさんが、囮として発進したらトビウメにあたらずチューリップの口が狙える位置につけて下さい。お願いします、ホシノさん、ミナトさん。」
「はい。」「りょ〜かい。」
<おまけ>
「ジュンちゃんも来れば良かったのに。どう思う、アツヒロ君」
「アオイジュンは、現在、ナデシコ副艦長です。貴方が艦を離れているのに来れるわけないでしょう。」
「お父様が守ってくれるから大丈夫って言ったのに。」
「ま、それはそれとして、ユリカ、た〜んとお食べお腹すいてるんだろう?」
「はい、お父様。あ、これおいしい。」
「ユリカ〜、少しやつれたんじゃないか?」
「ユリカさんと別れてから、まだ4時間もたっていませんよ、ミスマル提督。」
「そうだったかね、アツヒロ君。」
「そうです。(くっ、娘のことになるとほんと見ていられなくなるな。なんで、こんな人の下につけなんてムネタケ少将はおっしゃったんだろう。)」
「ジュンちゃんも怒りっぽいし。」
(当たり前だろう、あんたみたいな良く言えば天真爛漫、悪く言えば我侭の塊が艦長してるんだ。神経質にもなるさ。)
「ミスマル提督、私を呼び出した理由を聞いていないのですが?」
「うむ、ぜひともナデシコ副艦長を説得して欲しいのだよ。」
「お断りします。」
「・・・・・・理由を聞こう。」
「仮に、ナデシコが軍属になったとしても、効果的な救援活動が出来るとは私には思えないこと、ネルガルはともかくヴァルハラを敵に回すのは止めるべきだということ、そして、何よりナデシコにはアオイジュンを第1に思う黒天が乗っていること。以上からアオイジュンを説得するのは、私でも父でも不可能と思います。」
「むう。」
「黒天ってなんですか〜?」
「黒天とはね、火星大戦時第十三連合艦隊でヴァルハラの協力者として、参加していた凄腕の傭兵のパイロットなんだよ。名前は、たしか・・・・・・。」
「(艦の人間の把握さえ出来ていないのかこの女、こんなのが俺達の代の主席とはな。自分の非才が恨めしいぞ。)テンカワアキトです。」
「テン・・・カワ・・・、どこかで聞き覚えが・・・。」
「ま、いいじゃないか。さ、お食べユリカ。」
「あ、は〜い。」
(姉さん、今度胃薬送らせていただきます。僕だったら必要になるでしょうから。)
<あとがき>
肉弾戦でも、機動兵器戦でも戦闘とかって書くの難しいなぁ、と思うPAMUです。
どうでしょうか。今回、さらにミスマル提督にあわせて艦長の思考レベルを落しました。
おまけで、憤るアツヒロがついてます。なお、彼は、別な形で歴史に関わっていきます。
では、続けて第2話 後編をどうぞ。